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2018/02/15

1件〜100件

  • ご無沙汰しております。

    皆様、お久しぶりです。何の音沙汰もなく、申し訳ありませんでした。また、コメントを送ってくださいました皆様にも、返信すらせずに、本当にすみませんでした。先程、全て返信させていただきましたので、お目通しいただければ幸いです。前回、と申しましてもかなり前ですが、ブログで叔母がコロナに感染したお話をさせてもらったと思います。その後、退院の日程が決まるまでに回復。しかし容態は急変し、願いも虚しく永眠いたしま...

  • 遅ればせながらご挨拶を。

    約1ヶ月ぶりです。本来なら新年のご挨拶をすべきはずが、気づけはもう2月。ご挨拶もせず更新もせず、すっかりご無沙汰してしまい、申し訳ありませんでした。あまり暗い話はしたくないので事情をサラッと説明しますと、年末に続き先月も不幸がありまして⋯⋯。更には同時期、施設に入所している叔母がコロナに感染。救急搬送を要請しても受け入れ先が見つからず、入院できるまでに8時間も時間を要するという、気ばかりが焦る状況下に...

  • ご挨拶

    こんにちは!先ずは、『愛のカタチ』にお付き合いくださいました皆様、どうもありがとうございました。後半に行くにつれ長くなってしまったお話を見届けてもらえて、大変有り難く思っております。25日に無事に完結した後には、『手を伸ばせば』の方を一本、年内に更新する予定でいたのですが、最終話を上げました、その日。想像もしていなかった知人の訃報に接しまして、お話に向き合う気持ちの余裕がありませんでした。申し訳ござ...

  • 愛のカタチ 7.(最終話)

    降り立った神戸の街。教えてもらってやって来たのは、繁華街からほど近い場所にある、五階建てのマンションだった。見上げたマンションの前、居ない相手に向かって、心中で嘆きに喚く。あきらのヤツ、部屋番書いてねぇじゃねぇかよ!どうすんだよ。連絡先だって分かんねぇのによ。舌打ちしてから、「仕方ねぇ」不審者扱いされようが構わず、エントランスに足を踏み入れた。こうなったら、ポスト一つ一つを確かめ歩き、名前を見つけ...

  • 愛のカタチ 6.

    男だけになったところで、あきらが俺を呼ぶ。「司、いつまでそこに座ってんだよ。こっち来いって」ベッドで上半身を起こした格好の身体は鉛のように重く、身動き一つ取れずにいた。記憶さえ戻れば、不安も焦りも何もかもが消え失せ晴れ晴れすると思ってたのに。晴れるどころか苦しくて、以前より酷く胸が締め付けられている。俺を苦しめるのは失くした記憶だけ。そう思ってきた独りよがりだった自分は、一体どれだけの奴らを巻き込...

  • 愛のカタチ 5.

    「全部、思い出したんだよね?」確かめるように俺を見入る滋に、これ以上は隠し通せねぇと降参し、俺は黙って頷いた。「やっぱりね。司、分かりやすいんだもん。私、さっきもわざと『司』って呼んだんだよ? 道明寺って呼び続けてた私がね。なのに、特別驚くでもないし、私が大河原滋だって思い出したのなら、呼び捨てにされても違和感ないはずでしょ?だから、あぁ、記憶取り戻したんだなぁ、って直ぐに気付いたよ。それだけじゃ...

  • 愛のカタチ 4.

    「道明寺? 気が付いた?」現実と夢の狭間を揺蕩った果て────。重い瞼をゆっくりと開けると、黒髪が頬に触れるくらいの距離から、俺を覗き込む心配そうな目とぶつかる。続けて辺りを見回せば、見慣れた男たちの姿もあって、寝てるこの場所が自分の部屋だと分かった。「司、分かるか? おまえ、俺のオフィスで倒れたんだよ。覚えてるか?」足元に近寄って来たあきらに頷けば、今度は類と並んでソファーに座っている総二郎が口を開...

  • 愛のカタチ 3.

    「彼女を傷付けてるのは、道明寺さん⋯⋯、あなたでしょ?」松崎の指摘に胸の奥にチクッと痛みが走る。この痛みの原因が何なのかは分かってる。それは記憶を失くしちまった、あいつへの負い目。けど、「分かったようなこと言うな!」そんなことは、おまえに言われるまでもなく俺が一番分かってる。十年間ずっと記憶を失くし、今も尚、あいつを思い出せずに苦しめてるってことは。だからこそ、あいつに言われるがまま診察だって受けた...

  • 愛のカタチ 2.

    「最悪な女だな。あんなんで秘書が務まんのかよ」翌日、俺はあきらのオフィスに来ていた。「おいおい、アポなしで突然現れたと思ったら、いきなりうちの社員の悪口かよ。勘弁してくれよ、俺だってそう暇じゃねーんだぞ?」あきらは、書類の上を走らせていたペンを置くと、ソファーで踏ん反り返る俺を見て肩をすくめた。俺が来た以上、仕事の継続は無理だと諦めたのか、内線でコーヒーを二つ頼むと、俺と向い合せのソファーに腰を落...

  • 愛のカタチ 1.

    ──── 一体何が足りねぇんだよ。心にぽっかり穴が空いたような虚無感。どこまで歩いても果てのない闇夜に迷い込んだみたいに、光が差し込まない世界に閉じ込められた感覚から齎されるのは、絶望的な孤独。時折、焦燥も合わさって、何かが足りないと、どうしようもない苦しみに藻掻きたくなる。長い間俺は、この得たいの知れない感覚に苛まれ続けている。記憶障害だと告げられた、十年前のあの日から、ずっと。だから、戻ってきた。...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 5.

    司と牧野に何の進展もなく、寧ろ後退したとも言える中、やっと夕飯となり牧野の手料理をご馳走になる。精神的疲労が蓄積された俺は普段より食欲はなかったものの、素朴な家庭料理の味わいは、心をほんのりと温かくさせ、ささくれ立った気分も少しだけ緩和されるようだった。そんな束の間の休息も、総二郎が話を蒸し返したのをきっかけに、敢えなく終了する。せっかく、お気に入りの肉じゃがをつついていたのに⋯⋯。 手を伸ばせば⋯⋯...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 4.

    早まるなよ、牧野!話せば分かる、きっと分かるはずだ!届いた試しがないテレパシーを幾ら送ってみても、やはり牧野からは何ら反応もない。焦りだけが加速し、硬直する身体に鞭打って『どうすんだよ、これ』と、助けを求めて画策した張本人に目を向けた。それを受けた総二郎も、流石に不味いと思ったのか、「⋯⋯牧野」重い口を開いた。あとは任せたぞ、総二郎!!何とか切り抜けろよ!  手を伸ばせば⋯⋯ The Final 4.「牧野⋯⋯、た、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 3.

    静かに停車した車から降ろされ、両脇をがっちりホールドされ連行された先は、二日前までは、間違いなく司と牧野にとっての愛の巣。そして、今の俺にとっては恐怖の館だった。 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 3.玄関前に着くなり内側から開いたドア。牧野が顔を覗かせると、俺を連行してきた男どもは、潮が引くようにササーッと消えていった。⋯⋯素早い。「美作さん、ご愁傷様」玄関の中に俺を招き入れたところでの、牧野の第一声が、こ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 2.

    いつもは慌ただしいであろうこの部屋は、今は恐ろしいくらいに静まりかえっている。司が夫婦仲が拗れた原因としていたものを、あっさりと翻した牧野の発言は、俺たちから声を奪った。誰よりも声が大きく態度まででかい司は、今は鳴りを潜め、心当たりを必死に探しているのか、眉をぐっと寄せた難しい顔で口を閉じている。何を考えているのか読めないポーカーフェイスの妻も、喋りたくもないのか何も発しようとはしない。時間が経つ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 1.

    いつもお付き合い下さいまして、ありがとうございます。今日から『手を伸ばせば⋯⋯』の続々編『手を伸ばせば⋯⋯ The Final』を更新いたします。途中、注意事項を挟まなければならない回もありますので、ご理解いただきました上でお進みになられますよう、お気をつけ下さいませ。一話が無駄に長い回もありますが、三度見届けてもらえたなら嬉しいです。それでは、どうぞ。「お疲れさまです、美作副社長」綺麗な身のこなしで俺の前に...

  • お礼&あとがき

    こんばんは!まずは、先日完結しました『手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd』、最後まで読んで下さいました皆様に、改めてお礼申し上げます。ありがとうございました!今は、最終話を更新出来て、ホッと一息ついているところです。というのもあの最終話。実は更新する15分前に、やっと仕上がったものなんです。リメイクするからには、以前のものより少しでも良いものにしたいと、前半のあきらと桜子のシーンから意気込んでいたのですが、心理...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 11.【最終話】

    振り返った先を視界に映すなり、声を張り上げた。「さ、桜子!」あのバカップルめ!桜子がここに居るってことは、無理やり拉致ってきたのかよ!窓辺に置かれたロッキングチェアに座っている桜子は、昔の俺たちが司にしたように拘束こそされてはいないものの、今の現状があの当時を真似ているとなれば、無理やり連れてこられてここに閉じ込められた可能性が高い。「桜子、大丈夫か? 無理やり連れて来られたんだろ? 全く何を考え...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 10.

    「今日は、付き合わせて悪かったな」「いいえ。予定もありませんでしたし、先輩と美作さんのお役に立てるなら、これくらいお安いご用です」パーティーも無事に終わり桜子をワインバーへ誘った俺は、今夜、同伴してくれたお礼を込めて、ヴィンテージもののオーパス・ワンを開け、二人でグラスを合わせたところだ。例のご令嬢も問題ない。桜子が二言三言、彼女の耳元で何かを囁いただけであっさり退散。それはもう、肩すかしを食うほ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 9.

    「失礼します。わぁー、牧野さん! お久しぶりですぅ! 秘書課に移られてから全然会えなくて、まだまだ教えてもらいたいことが沢山あったのに、本当に────」「松野くん? まさかくだらない話をするためにここにきたわけじゃないわよね? 要件を早く言いなさい」副社長室にやって来たのは、以前、牧野と一緒に仕事をしていた松野だ。牧野を見るなり喜びを全身で表すとは、相変わらず学習能力が低い松野らしい。早々に牧野から、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 8.

    悪夢のパーティーから二週間が経った。司にとってあの一夜は、生きながらにして味わった地獄であったろう。地獄に招待したのは、何を隠そう婚約者。自らが招いた種とはいえ、司は膚で、心で、嫌と言うほど婚約者の恐ろしさを知ったはずだ。だが、恐怖をいとも簡単に作り出す婚約者ではあっても、司の愛は微塵とも変わらないらしい。あの日、あの晩、俺たちが帰った後。シャワーを浴びた司が寝室で見たものは、目を赤く染めた牧野の...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 7.

    今夜のパーティーには、杉崎とはまた別の過去女がいたと話す牧野に、誰も口を挟もうとはしなかった。それは、今までの様子から一変した牧野のか細くなった口調だったり、瞳に悲しみが浮かんで見える表情だったり。無闇にからかって良い話の類いではないと察せられ、お調子者たちの口を噤ませた。「彼女のこと、全く覚えてないみたいね」牧野から探るような眼差しを向けられている司は、牧野の言葉通りなのだろう。心当たりがないよ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 6.

    牧野の謎発言により発生した沈黙から、いち早く抜け出したのは腹黒王子だ。歳が30にもなるというのに、首をコテっと倒す仕草が不思議と様になる類が牧野に訊く。「牧野、ファイルナンバーってどういうこと? 11番って?」「彼女は11番。司と関係あった女性に番号を付けてみたの」付けてみたって、どうしてそんな発想になった! と全力で牧野に問いたい。それが通じたのか、俺の心中に応えるように牧野が言う。「だって、その方が...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 5.

    「もう喉カラカラ!」たった今。女同士による苛烈な戦いに幕を閉じたばかりの牧野は、その余韻すら見せず、テーブルに並んだカクテルの一つを手に取り、喉を潤している。その横顔は、品が漂い美しく、愛憎が生み出した修羅場を演じた女だとは、目撃者でなければ誰も信じまい。まるで何事もなかったような牧野の態度。端から見ても分かるほど恐怖に凍りついている司は、言葉も見つからないのか、牧野を目で追うのみ。気持ちは、よー...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 4.

    「道明寺さんの趣味が変わった? 女性の好みについて言ってらっしゃるのかしら?」首を傾げた牧野は、笑みを保ったままで女に訊く。「えぇ、そうよ。事実、司さんはこの身体に溺れてましたもの」⋯⋯溺れてたのか。司を除いた仲間全員が、心に同じ呟きを落としたに違いない。顔を引き攣らせる司にダチ達が白い目を向ける中、自信ありげに女は続けた。「これでお分かりでしょ? 司さんの好みの女性というものが。だから私、心配して...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 3.

    色気を無闇矢鱈に振りまき司へと近づいてきた女。直ぐさま敵認定したと思われる滋と桜子は既に警戒態勢で、女を睨めつけ威嚇している。しかし、女は涼やかな一瞥をくれただけでさらりと流し、司の右腕にそっと手を添えた。「私、ずっと連絡をお待ちしておりましたのよ?」司を見上げて女が艶やかに笑う。目尻にある黒子が、余計に濃艶を醸し出している。そんな女を見下ろす司は、初めこそ「誰だ?」と理解していないようだったが、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 2.

    新たな性格が誕生した、という突飛な誤算はあったが、完全に病気を克服した牧野と彼女を支えた司は、間もなく婚約を発表した。とは言っても、ビジネスにおいては過ぎるほどの有能さを発揮する牧野ではあるが、普通の一般人だ。元から派手派手しい騒ぎを好まない牧野に配慮し、また、騒がれて嫌な思いをさせないためにも、司は一人で婚約会見を行い、無事に結婚式を迎えるまで、世間には牧野の名を伏せたままにしてある。司の考えと...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 1.

    こちらは、『手を伸ばせば⋯⋯』の続編になります。但し、本編とは趣が異なりますますので、それでも大丈夫な方様のみお進みになられますよう、宜しくお願い致します。少しでも楽しんで貰えたなら幸いです。それではどうぞ!司と牧野の間に横たわった12年にも及ぶ溝は、一体何だったんだ。これが、今の俺の頭に常時ある疑問である。マンションから牧野が姿を消したあの日。野生の勘を存分に発揮し牧野の居場所を突き止めた司は、見事...

  • お知らせ

    お久しぶりです。ご無沙汰してすみません。漸く、疲労回復のドリンクに頼ってばかりだった超多忙の状態から脱しつつあり、お話に向き合える時間も間もなく訪れそうです。完全な余裕ができましたら、更新すべく書き綴っていきたいと思っております。そして、次のお話ですが、迷いに迷いましたが『手を伸ばせば⋯⋯』の続編にしようと思います。前回、有り難いお言葉を沢山頂戴し、「よし、続編も加筆修正してアップしよう」と決めまし...

  • 御礼&あとがき

    こんばんは!数日、間が空いてしまいましたが、リメイク版『手を伸ばせば⋯⋯』を最後まで読んで下さいました皆様に、改めてお礼申し上げます。どうもありがとうございました!このお話は、私が二次として初めて書いたものでして、何かと思い入れの強いお話です。それを新たに書き改め、長い年月が経った今、またこうして多くの皆様に読んで頂き受け入れて貰えたことに、昔に書き上げた当時と同じく、嬉しさが込み上げてきました。有...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 52【最終話】

    「西田っ! 直ぐにでも日本に帰れるよう手配しろ!」「支社長、こちらに着いてまだ三時間です。直ぐにと言うのは流石に無理があります。こちらでの仕事も外せないものもありますし」「煩せぇーっ! 今、俺を自由にしなきゃ、この先の俺は使いもんになんなくなんぞっ! それでもいいのか! とにかく、一刻も早く帰れるように動けっ!」一人で結論を出した牧野に苛立ち、同時に気ばかりが焦る。あいつは一度決めたとなると、それ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 51

    「あの二人は、きっと大丈夫ですよ」「そう思うか?」「ええ、勿論です。美作さんもそう思いません?」「まぁな」今夜俺は、珍しく桜子からの誘いを受けて、二人きりでとあるホテルのバーで飲んでいる。桜子からの誘いなんて滅多にないが、司と牧野の関係は大丈夫としながらも、やはり二人が気がかりで誰かと喋りたい心境だったのかもしれない。事実、俺たちの話題は、さっきから二人のことばかりだ。あれから牧野は、今まで以上に...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 50

    なんて言った⋯⋯?何を言い出したんだ、牧野は。唐突に吐かれた突拍子もない台詞に一瞬頭が空白になり、咄嗟に出せる言葉がない。「私が言ったこと、そんなに可笑しい? 今までだって好きでもない男と寝たし、時間潰しみたいなもんだった。それは、道明寺だからって変わらない。それを確かめたかっただけよ。でも無理ならいいわ。沢山の美女たちを相手にしてきた道明寺だものね、私が相手じゃ無理かもしれないしね」「違ぇよ! そ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 49

    「どこに向かってるの?」「着けば分かるよ。もう少しで着くから」牧野はそれ以上は何も言わなかった。それから暫くして、目的地に車が止まる。俺は初めから、牧野と話すならこの場所しかないと決めていた。「牧野、着いたよ。降りて」「ここは⋯⋯」窓から望む景色でここがどこか分かったようだ。待っても降りようとしない牧野の細い手首を掴んで車から降ろし、降りてからも足に力を入れているのか、抵抗を感じる牧野を引っ張って歩...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 48

    道明寺の社員である女に司が刺された件は、世間に知られれば醜聞にしかならず、事は秘密裏に処理された。そこには、牧野への配慮も多分に含まれている。悪夢と同じ状況から、なるべく牧野を遠ざけたい思いがあったために。司法に委ねれば、刺された司だけでなく、本来狙われていた牧野も状況を確認され、証言も必要になってくる。病を患っている牧野には、精神的負担が大きすぎる。そう判断したからだ。その牧野は一日入院したが、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 47

    悲鳴混じりの叫びを響かせながら、類たちと共に司たちの元へ駆け寄れば、「牧野! どこも怪我ないか?」抱きしめている牧野の身を案じる司が、傷はないかと隈無く牧野に目を走らせている。どうやら牧野に怪我はないようだが、牧野の心配ばかりしている状況じゃない。牧野を庇った司が切り付けられ、司の大腿部からは少なくはない量の血が流れ出ている。「司、直ぐに病院だ!」俺が車の手配をさせていると、顔面蒼白になった牧野が...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 46

    相変わらず仕事漬けの毎日が続いている。でも、この仕事に私が携わるのもあと僅か。最初の予定通り年が明ければプロジェクトから離れることになる。やり残しがないよう最後の大詰めで忙しいのも当然だった。それに加えてこの時期は、やたらとパーティーや飲み会が入ってくるものだから、忙しさは加速度を増す。そして今。そんな忙しい最中にも拘わらず、滋さんの一声で決まったプロジェクトチーム全体の忘年会に強制参加させられて...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 45

    どうしてだろう。道明寺で過ごした三日間。私は何故、道明寺の傍であんなにも穏やかに過ごせていられたのだろうか。憎むべき男なのに⋯⋯。最後の晩のキスだって、逃げようと思えばできた。止めてと言えば、あの時の道明寺ならきっと止めてくれたはず。なのに、私はそうしなかった。道明寺の顔があまりに切なくて、儚くて。世間に見せている自信に満ちあふれた姿は影も形もなく、親に見捨てられた小さな子供のような錯覚を覚え、私は...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 44

    「え⋯⋯、なに?」開けたばかりの牧野の目が大きく見開く。起きたら隣には俺が横たわってんだから、驚くのも無理ねぇ。「おはよ。目ぇ覚めたか。⋯⋯なぁ、牧野。おまえいつもそうなのか?」「いきなり何の話よ」「おまえ、昨夜も魘されてた」「⋯⋯⋯⋯」言葉を詰まらせた牧野が目を伏せる。「悪りぃ。見てらんなくておまえを抱きしめて寝た」「⋯⋯⋯⋯」「で、どうなんだ? 牧野、黙るなよ」「⋯⋯⋯⋯魘されるなんて、そんなのいつもじゃない...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 43

    しまった!差し込む光に誘われ目を開ければ、自分が犯した失態に気づき慌てる。横向きに寝ていた腕の中、そっと見下ろす先にいるのは、俺の胸に顔を埋めて眠る牧野で────。どうやら俺は、あのまま寝ちまったらしい。昨夜あれから、腕の中で眠る牧野の頭をずっと撫で続けていた俺は、流石にいつまでもこうしているわけにはいかねぇと、眠る牧野をベッドに運んだ。だが、静かに牧野を下ろし離れようとした刹那。牧野が俺の服を掴み、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 42

    「あの⋯⋯、ここは?」止まった車の窓から外を見た牧野が、不審げな声を出す。牧野の住むマンションとは全く別の所へ連れて来られたのだから、当然の反応だ。「俺のマンション」俺は、牧野がうちの屋敷を訪れた翌日から、一人でこのマンションに移り住んでいた。「支社長の?⋯⋯こちらに住んでらっしゃるんですか?」「あぁ」短く答えて外に出る。直ぐに牧野の手を掴み車から下ろすと、引っ張るようにしてマンションの中へと入ってい...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 41

    何で今日くらい休まねぇんだ!夕方からプロジェクトチームに顔を出した俺は、居ないとばかり思っていた牧野を見つけて、途端に心が落ち着かなくなる。医者に安静にしろって言われたんじゃねぇのかよ! 顔色だって良くねぇのに、頭痛だってまだ治まってないんじゃねぇのか?もう直ぐでミーティングも始まるのに、そんなんで保つのかよ。無理を押し通す牧野に、憂慮と不安が俺を包みこむ。帰るよう命令してしまおうか。だが、それに...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 40

    こんな時に⋯⋯。会議の最中、目がチカチカしてきた。偏頭痛の前兆だ。段々と酷くなる視界は砂嵐のようになり、物が見えにくくなる。随分前から偏頭痛には悩まされているが、前兆が起きたタイミングで、常に持ち歩いている処方薬を飲めば大抵は落ちついてくる。けれど今は会議中。薬は、プロジェクトチームの部屋にあるロッカーの中。取りに行ける状況じゃない。暫くして目が見えづらい状況からは脱したが、今度は頭痛に襲われる。脈...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 39

    メープルに呼び出されたあの日から二週間が経つ。あれから滋さんとは会っていない。他の仕事が忙しいと訊いているけど、敢えて顔を合わせないようにしている、そんな気がした。それは私にしても有り難かった。あんな別れ方をしたのだ。会えば互いに気疲れするかもしれない。それでなくても私は、新たな仕事を与えられ、時間にも心にも余裕がなく無理をしている最中だ。今は与えられたことだけに集中しなければ、遣りこなせそうにな...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 38

    【最終章】司が体調を崩した辺りからだろうか。どうも何かがおかしい。司と牧野の二人の様子が、どこか違う。仕事上は何も変わらない。いや、以前にも増して、二人とも仕事にストイックになったか。「なぁ? 最近の司と牧野どう思う? 何か違うように見えるのは俺だけか?」珍しく一緒に食事を摂っている相手、滋に訊いてみる。さっきまで司を合わせた三人で打ち合わせをしていたが、食事へ行くって流れになったところで、別の仕...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 37

    全ての記憶を取り戻したあの日。牧野のマンションを出てきた俺は、車も呼ばずに土砂降りの雨の中を歩いた。どこをどう歩いて来たのかも分からず気づけば邸で。全身ずぶ濡れのまま部屋に入り、ソファーに頽れた。─────なんてことをしたんだ、俺は。仕出かした罪の大きさに震慄し、絶望が俺の全てを支配する。何よりも大切な愛する女を、俺がこの手で傷つけた⋯⋯。両手を開き、見る。雨のせいで濡れた手は、寒さは感じねぇのに、いつ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 36

    高い空はどこまでも青く、陽光が燦々と地上に降り注ぐ。まるで、昨日の激しい雨が嘘のように⋯⋯。週明けの今日からは、重要な会議等が目白押しで怒濤の忙しさが予想されている。一時も気が抜けない。今も道明寺HDの一室で、一時間後から始まる大事な打ち合わせに向け、美作さんと二人、意見の擦り合わせをしているところだった。「失礼致します」そこへ、慌てた様子の西田さんが現れた。「お忙しいところ申し訳ございません。本日で...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 35

    久々にゆっくり過ごす日曜日。雲一つなく晴れ渡る空を窓から眺め見る。これなら洗濯物もあっという間に乾きそうだ。今日は朝から洗濯をし、掃除をして。日頃、仕事に殆どの時間を費やしている私にとっては、家事をするのも休息となる。全ての家事を終わらせてから遅い昼食を一人で取り、後片付けをしているところにスマホが鳴った。画面を見れば、珍しい人からの電話だった。『もしもし、つくし?』「優紀⋯⋯久しぶり」優紀との電話...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 34

    類が帰国してから数日後の今日は、誰一人欠けることなく全員が集まり、類の帰国祝いをしているところだ。久々の全員集合は、酒が入るごとに騒がしくなり、特に司の周りは騒音レベル。何でも、類が帰国したその足で、司のところではなく牧野の元へ直行したとかで、司と類はずっと言い合いをしている。といっても、煩いのは司ただ一人で、類の声はいつも通りだ。だが、類も引かない。寧ろ、司をおちょっくているんじゃないかとさえ思...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 33

    歓迎会とやらが行われた店から強引に牧野を連れ出し、家まで送る車の中、「何か余計なことでも言った?」正面を見据えたまま牧野が静かな声で訊ねてくる。「言ってねぇよ、本当のことしか。余計だって言うんなら、佐々木の方だろうが」俺の答えで『何かがあった』と気付いただろうが、牧野は何も言わない。何も言わないでくれる方が今はいい。ほんの少しでも刺激を受ければ、今度こそ余計なことを言ってしまいそうだった。佐々木の...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 32

    滋さんと一緒にいる彼を見て瞬時に悟る。「久しぶりだな、牧野」「ええ、お久しぶり。⋯⋯滋さん、もしかして引き抜いたのって⋯⋯」「そうなの~! 彼だよ!」被せ気味に滋さんがはしゃいだ声で答える。思った通りだ。「優秀な人がいるって人伝に訊いて、どうしても欲しくなってさ。でもまさか、すんなりOKもらえると思わなかったから、本当ラッキーだったよ」私にしてみても『まさか』だ。またこうして会って仕事まで一緒にすること...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 31

    帰宅した部屋の明かりも点けずにソファーに身を沈める。⋯⋯疲れた。先ほどまで一緒にいた男のせいで。道明寺に渡したプレゼントは、高級ボールペン。今までも、取引先や仕事で関係ある人たちにプレゼントを贈ることはままあった。だから特別な意味などないと説明したのに、破顔するあの男は聞く耳持たず。送ってくれる間中も機嫌の良い男は何かと騒がしく、このマンションに着くまでそれは続いた。久々に見た少年のような笑顔。道明...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 30

    「着替え終わったか? じゃ、行くか」牧野が姿を現すなり何食わぬ顔して言えば、視線も口調もお揃いの低温度で返してくる。「美作副社長はどちらに?」「あきらなら帰った。代わりに俺が送ってくから心配すんな」「結構です。一人で帰れますからお気遣いなく」ま、予想通りだ。愛想なくそう言った牧野は、軽い足取りで立ち去ろうとし、俺は小さい手を掴んだ。「一人で帰せるわけねぇだろうが。今日は、あれだけ男連中が寄ってきた...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 29

    日頃、よっぽどのことがない限り、顔を合わせようとはしない司が私の部屋を訪れたのは、司が突然に倒れ、病院から退院した日のことだった。ひと目見て気付く、倒れる前とは違う司の眼差し。NYへ来てからというもの、こんな瞳を一度たりとも見たことがない。いつだって司の瞳は澱んで昏く、一人の少女と出会う前、荒れていた当時の延長線上にあるような、世の中への絶望を常に纏っている目だった。それが、記憶を取り戻したのではな...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 28

    エレベーターの扉が閉まりかけたところで、「てめぇら、ふざけんじゃねぇーっ!」強引に扉をこじ開け、何とか牧野たちが乗る箱に滑り込んだ。ったく、俺を置き去りにしやがって。「おまえら、先に行くことねぇじゃねぇかよ!」「司が考え事してたようだから、気を利かせてやったんだよ」あきらの奴め、しれっと言いやがって。その割には顔がニヤついてんだよ!だが、今はそんなことはどうだっていい。問題は牧野だ。昔から俺にとっ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 27

    美作商事で仕事をしている今日は、朝からずっと気が重い。その原因は、今夜の道明寺家主催のパーティーにある。人が多く賑やかな場所は未だ苦手だ。せめて今だけは静かに仕事に没頭したいと思うのに、「牧野さーん! 今日のパーティー、牧野さんも行かれるんですよねー!」私のデスクの前に立った松野くんの声に阻まれる。「えぇ」短く対応するも、正直言って今は鬱陶しい。「実は僕もご一緒させてもらうことになったんですよ! ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 26

    「つくしーーーーっ!」牧野の姿を認めるなり、いの一番に滋が駆け寄り抱きつく。いや、飛びかかった、って表現の方が正しいか。やはり前回の数分だけの逢瀬では、滋も消化不良だったんだろう。だが、飛びかかられた方は堪ったもんじゃない。実際、牧野の表情は変わらずだが、足元はふらつき、支えるのがやっとで体が不安定に揺れている。それを見咎めたのは桜子だ。「もう滋さん、先輩を解放して下さいよ。そんな力入れたら先輩が...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 25

    「牧野様、お疲れ様でございます。それと先日は、お気遣い頂きありがとうございました」道明寺HDに来ていた私に廊下で声を掛けてきたのは、西田さんだ。先日、打ち合わせに同行した後のランチの件を言っているのだろう。「いえ、こちらこそ」「先日はあまりお話し出来ませんでしたが、こうしてまた、牧野様にお会いでき嬉しく思っております。改めまして牧野様、今回のプロジェクトでは、司様のサポート宜しくお願い致します」「私...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 24

    【第3章】「⋯⋯ゃ⋯⋯ぃゃ⋯⋯⋯⋯いやーーっ!」自分の悲鳴で飛び起き、バサッと勢いよく布団を撥ね除け荒い息を吐く。呼吸が乱れて息が苦しい。右手を胸に押し当て、ゆっくりと深呼吸を心がける。いつものことだ。長いこと私を苦しめる夢。視線の先には太陽に照らされ凶悪に光る鋭利な刃物。段々とそれは近づき何かに突き刺さる。茫然と立ち尽くす私の視界には、アスファルトに広がる赤い血の海と、そこに頽(くずお)れるシルエット。...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 23

    薄い笑みを浮かべる牧野に戸惑いを覚えながら、もう一度言う。「本当に悪かった。おまえが許してくれるなら、俺は何だってする」俺をジッと見つめたまま、牧野は徐に口を開いた。「もう許してるわよ?」許してくれるのか!喜びと安堵感がせり上がり、気持ちが前のめりになる。が、それは直ぐに打ち消されることとなった。「あんなの大したことじゃない。忘れられたくらいで、大騒ぎするほどのもんでもないでしょ」笑みは崩さずとも...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 22

    仕事を終えた俺と、仕事を放棄してきたらしい司と共に、馴染みの店の個室へと足を踏み入れれば、「お疲れさん。あれ、滋は? 一緒じゃねぇの?」待ち受けていたのは総二郎で、滋の姿を探して俺たちの背後を窺いつつ、内線から適当な酒やつまみを注文している。今日が司と牧野が再会する日だと知っているこの男が、大人しくしてるはずもなく、『司と話すつもりなんだろ?』と、夕方に電話を寄越し場所を聞いてきた総二郎は、こうし...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 21

    年末年始といえども、まともな休みなんてなかった。日本支社を把握するため資料を読み漁り、支社長就任の引き継ぎ作業や挨拶周りもこなしてく。分刻みのスケジュールは隙間がなく、帰国してから目が回る忙しさを経て、共同プロジェクトがスタートする今日を迎えた。初日の今日は、ここ道明寺HDの会議室で、プロジェクトに携わる三社から選ばれたメンバーが顔を揃え、土台となる企画を更に完璧なものにするため、それぞれが提案する...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 20

    あきら達と別れて邸に戻った俺は、冷たい風が突き刺さるのも構わず、東の角部屋のバルコニーに立った。⋯⋯28になるんだな。色鮮やかに脳裏で再生されるのは、庭を這いつくばり、このバルコニーを登ってきた17歳の頃の牧野。今はこうして思い出せるのに、どうして俺は、長い時間を無駄に捨て忘れたままでいられたのか。牧野を思い出してからというもの、心が潰れそうなほどの後悔に苛まれている。長い夢でも見ていたように目を覚ませ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 19

    遂に司が帰って来た。宣言どおりの年の瀬に。『あきら、今から会えねぇか?』そう連絡があったのは、夜の9時近く。今から30分ほど前だ。今日一日、どこのTV局も司の帰国の模様を伝え、世間は大騒ぎになっている。支社長就任ってだけでも忙しいだろうに、マスコミにまで追いかけ回されてるのだから、身動き取るのも難しいだろう。だが、どんな状況下だろうが、自分がしたいことはする勝手が信条みたいな男だ。気まぐれにも俺たちに...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 18

    誰も居なくなった夜のオフィス。秒針だけが一定のリズムを刻み、微かな音を生み出している。時計に目を向ければ、時刻は11時を少し回っていた。今日はここまでにしておこう。あとの調べものは、休みの明日に自宅でも出来る。丁度キリの良いところまで作り終えた資料を見返してから、デスクの上を片付けて行く。持ち帰る資料を確認してバッグにしまい、さて帰ろうと体の向きを変えた時、突然オフィスのドアが開いた。「よぉ、牧野。...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 17

    「副社長、顔色が良くないようですが、体調が優れないのでは?」秘書の西田が部屋に入って来るなり言った。この男が、仕事以外のことを真っ先に口にするとは珍しい。「大丈夫だ」だが実際、疲れが極限に達したのか、鉛を纏ったように身体が重い。「いえ、無理は禁物です。この後18時から予定のレセプションパーティは欠席にして、本日は自宅でお休みになって下さい」普段、俺に無理させてる張本人の台詞とは思えねぇが、その男が休...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 16

    牧野を送り届けても真っ直ぐ帰る気にはならなかった俺は、行きつけの店に寄り道をしていた。総二郎まで呼び出して。「よぉ、あきら。待たせて悪りぃな」先に個室で飲んでいた俺の向かいに、総二郎が座る。男二人だけの寂しいシチュエーション。だが、今夜は二人で飲みたかった。「いや、大丈夫だ。こっちこそ、急に呼び出して悪かったな。デートの邪魔したか?」「流石に俺も、最近は夜毎遊んでねぇよ。今日は面倒な講演会で、その...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 15

    『勝手に予定を決めたのか』とでも言いたげな、牧野の威圧感満載の冷たい視線に挫けず、何とか行きつけの店まで連れてきた。NYでの日本料理に引き続き、今夜は寿司屋だ。「牧野、うちを選んでくれたこと、改めて礼を言う。ありがとな。これから宜しく頼む」「こちらこそ、宜しくお願いします」ビールで満たしたグラスで先ずは乾杯し、喉を潤す。お通しには、肝を添えたトコブシが出された。「今日の料理は、ここの大将に任せてある...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 14

    チャンスが巡ってきた。美作さんの誘いを受けた瞬間、そう思った。私はずっと、ここNYに拘ってきた。それは他でもない、道明寺司が居る地だから。昔、迂闊にもあの男に心を奪われた私は、忘れられ、弄ばれ、そして捨てられた。お粗末な結末だ。かつては天国と地獄を見せた男だと思ったこともあるけれど、果たしてあれは、天国と言えるほどの幸せだったのか。今思えば、恋に恋する年頃だった無邪気な子供が、夢見がちに錯覚しただけ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 13

    ホテルにいても落ち着かずにいた俺は、約束の時間よりかなり早く、待ち合わせ場所である店に来ていた。こっちで美味いと評判の日本料理店だ。日本酒もなかなかの名柄を揃えていて、昼間からではあるが、待ち人が来るまで一杯引っ掛けながら、その時を待つ。昨夜の内に牧野に連絡を入れ、店の場所も詳しく伝えたし、約束は守れと念を押しもした。流石に牧野のヤツも逃走はしないだろう。後は牧野と会って、俺の勘が正しいかどうかを...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 12

    初めは違う女かと思った。見間違いじゃないかと。車が渋滞に嵌り動かなくなったところで、何とはなしに窓の外を見ていると、一人の女が視界に入り、その後ろ姿に既視感を覚えた。どこかで見たことがあるような⋯⋯。ショップのウィンドウを覗いている小さな背中。その背中が向きを変え、横顔が見えた時、既視感なんかじゃない。実際に知っている女に似ているんだ。と、即座にある人物が頭に浮かんだ。────牧野。だが、目に映る女は、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 11

    【第2章】「しかし流石だな、つくし。これでお前の評価もまた一つ上がったわけだ」今日、大きなプロジェクトが成功し、無事に終了を迎えた。今日に至るまで、自分は着実に力をつけている、そう実感している。それもこれも、何事にも気持ちを惑わされず、仕事のみに邁進してきた結果だ。当然、プライベートを楽しむことはない。楽しみたいとも思わない。ただ、気持ちの昂りが収まらない時や、心が波立つ時。割りきった相手と今みた...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 10

    静まり返った図書室。最近、あたしが良く居る場所だ。学校に居る間の空いた時間は、ここでこうして、勉強に励むことにしている。勉強に適しているだけじゃなく、誰とも会話をせずに済むこの場所は、今のあたしにとって丁度良かった。誰かと話すのは煩わしい。苦痛でしかない。何より、誰かと話している時間が惜しかった。尤も、そんなに親しく話す知り合いは、今は居ない。同じ敷地内とはいえ、大学に進学した美作さん達とは、以前...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 9

    携帯は未納なのか繋がらない。教室にもいない。非常階段にも姿はなかった。下駄箱に靴があるのは確認済みだから校内にいるのは間違いないのに、何故か牧野が捕まらない!となると、『美作さん、牧野さんなら、最近よく図書室に行ってるみたいですよ』と言っていた、牧野のクラスメイトの情報が正しかったか。俺は、別棟にある図書室を目指し、『だいたいが司の奴、何で今日まで黙っていやがったっ!』内心で不満を爆発させながら、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 8

    ソファーに移り、強めの酒を呷る。アルコールで喉をチリチリと焼きつけさせながら、必死で気持ちを落ち着かせた。チラリと視線を向けたベッドでは、女がまだ沈んだまま。シーツに包まれた体は身動き一つしない。決まりの悪さに視線を外した俺は、もう一度酒を流し込んだ。許せなかった。どうしても牧野が。滅茶苦茶にしてやりてぇ。そんな凶暴な衝動が湧き上がり、しかし危険な感情に隠れた本音は、他の男に取られたくねぇ、俺だけ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 7

    全てが今日で終わる。大丈夫、きっと大丈夫。ちゃんと終わらせられる。そうやって震えそうになる気持ちを引き締めながら、バイトが終ったあたしは今、道明寺邸へと続く通い慣れた道を歩いている。ここを歩くのも、今日が最後になるかもしれない。思えば、そもそもが釣り合いの取れていない二人だった。片や、世界に名を馳せる大企業の御曹司で、片や、超がつくほどの貧乏庶民。知り合えだけでも幸運で、一時だけでも、道明寺に想わ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 6

    久々に道明寺に会ったあたしは、気持ちが押し潰されそうになっていた。道明寺の憮然とした態度。素っ気ない言葉。今までのように怒鳴られないだけマシ、と気持ちを切り替えられたら良かったのだけれど、生憎とそんな器用には出来なくて。あたしとの関係を受け入れたくないがために、あんなにも不機嫌なんだろうと思えてならなかった。だけど、よくよく考えてみれば、道明寺の気持ちも分からなくはない。突然、刃物で刺され、記憶ま...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 5

    あれから道明寺には会っていない。正直に言えば、怖くて会いに行けずにいる。道明寺に指摘されて初めて、自分がストーカーと変わらない行為をしていたと思い知らされて。だから、自分は道明寺とどういう関係にあるのか、きちんと打ち明けよう、そう思い至ったわけだけど。返って来たあの台詞のダメージは、相当に大きかった。『まさか俺が本気だったとか言う気か? あれだろ? 遊びだったんじゃねぇの?』言葉を受けて、血の気を...

  • 訂正です

    すみません。先に投稿した『手を伸ばせば⋯⋯4』ですが、何故だが改行が出来てないらしく、手直ししたのですが反映されません。こんなことは初めてなのですが、前のを一度削除して新たに投稿し直しますので、そちらをお読み頂けますよう宜しくお願いします。取り急ぎ、訂正のお知らせでした。...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 4

    ハイエナを排除してから暫くした後、ドアが叩かれた。今度こそあの女、牧野だろう。「入れ」いつものように制服姿で現れた牧野は、「調子はどう?」と訊ねておきながら、「あれ?」と、俺の返事も待たずにキョロキョロと大きな黒目を動かし、辺りを見回して首を傾げる。「今日は誰も来てないの?」いつもは居るはずのクソ女が見当たらないからだろう。クソ女の正体はハイエナだったから退治した。そう正直に打ち明けるべきか悩んで...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 3

    俺の記憶は、相も変わらず一向に戻る気配はなく、日に日に苛立ちが募る。変わらないのは何も記憶だけじゃねぇ。海は勿論のこと、生意気な女も俺の気持ちなんざ無視で、頻繁にこの部屋を訪れるのが日常化している。あの女には、これでもかってほど罵声を浴びせ続けてるのに、へこたれるどころか、『はいはい、これだから俺様は』と俺を適当にあしらったり、時には、『ふざけんじゃないわよ!』と、食ってかかってくることもしばしば...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 2

    「よく来たねぇ、つくし」門を潜り抜けアプローチを歩いている間に、あたしが来たと聞きつけたのか、開け放たれた玄関の先には、タマ先輩がいた。「こんにちは、先輩」「ああ。待ってたよ」出迎えてくれたタマ先輩は、いきなりあたしの手をギュッと包み込んだ。薄くてしわしわな手からは、じんわりと温もりが伝わってくる。けれどその顔は、いつもより眉が下がり、どこか気遣わしげに見えた。「いいかい、つくし。先客がいるけど気...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 1

    【第1章】道明寺の状態は危機を脱した。安堵したのも束の間。意識を取り戻した道明寺の世界から、あたしの存在だけが消えてなくなっていた。❃流石と言うべきか、道明寺の身体的回復は早く、先日、無事に退院し、今は自宅療養中だ。けれど、記憶の回復の兆しだけは、一向に訪れない。思い出して欲しくて、今までのあたしたちをなかったことにしたくなくて、入院中から何度もお見舞いに行っているけれど、向けられる視線はどこまでも...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ プロローグ

    どんな内容でも許容出来る方様のみ、お先に進まれますよう、宜しくお願い致します。【プロローグ】お互いの手を離すことはないと思った。もう二度と離れはしないと⋯⋯。喩え何かを失い、何かを犠牲にしたとしても、この手だけは離すまいと心に決めた二人の気持ちに、嘘はなかった。磁石のようにどうしたって引き寄せられてしまう互いの想い。そこに揺らぎはないと滋さんの島で確信したあたしは、身も心も道明寺に捧げ、一つに結ばれ...

  • 更新について

    こんにちは、お久しぶりです!GWに突入したとはいえ、変化し続けるウィルスが猛威を振るい、今年も我慢を強いられる連休となってしまいました。ストレスが溜まる一方ですが、上手く発散しつつ、心も体も健康にお過ごし下さいね。ウィルスの話は気が滅入りますので、早速サクッと本題へ!前回お話させて頂きました通り、リメイク版として上げるお話をコツコツと書いているところですが、幾らかストックが貯まりましたので、少しずつ...

  • 御礼と今後の予定について

    こんばんは!先ずは、先月末完結を迎えました『エレメント』、最後までお付き合い下さいました皆様に、改めてお礼申し上げます。本当にありがとうございました!司にもつくしにも、大変な思いをさせてしまう設定だったにも関わらず、それでも読んで下さる皆様がいて、どれだけ有り難かったことか。もう感謝しかありません!話の内容はこの際置くとして、私にとりましての『エレメント』は、二次においての久々の新作でしたので、何...

  • エレメント 15【最終話】

    「おい、出来たぞ!」西田に何も答えを返せぬまま、トレーを持った司が戻って来た。トレーの上には、コーヒーカップが3つと、気が利くことに、ケーキの取り皿やフォークまで載せてある。司と西田には、普通のコーヒーなのかエスプレッソなのか、判別つかないものを置き、つくしの前にはミルクたっぷりのラテが置かれた。そのラテを、西田が不思議そうにジッと見つめる。何も言わなくても分かる。『この絵はなんでしょうか?』と、...

  • エレメント 14

    突然の司からのプロポーズも、それをつくしが「分かっている」と思い込んでいるところも、つくしの理解の範疇から大幅にはみ出している。異星人的思考回路になんて、ついていけるはずがない。そもそもつくしは、たった数分前まで、自分の記憶は失くされたものと認識していたのだ。それなのに、この急転直下。誰が予測できるというのか。何も反応できずにいれば、司は再び口を開いた。「戸籍は汚れちまったし、遠回りもしたけど、そ...

  • エレメント 13

    時間に追われもしない、のんびりとした休日。少しだけ手の込んだブランチを口に運びながら、今度はどこにしようかなぁ、と頭を悩ます。新しい年が明け、早一週間。3月の年度末をもって、今の保育園を辞めるつもりでいる。悩んでいるのは、その後の行き先だ。今の保育園に道明寺が関わっていると分かった以上、いつまでも甘えるわけにはいかない。このマンションにしても同じだ。区切りの良いところで退職し、心機一転、新たな場所...

  • エレメント 12

    危険極まりない視線に射竦められそうになりながらも、何とか答える。「う、うん、そう。牧野⋯⋯です」かつての恋人であり、入院する直前まで一緒に過ごしていた相手に何とも珍妙な返答ではあるが、司は記憶がないのだから仕方がない。ましてや、惜しげもなく物騒な面構えで見られては、『ですます調』だって付け足したくもなる。剃髪は一部分だけだったのか、クルクルの髪を覗かせた頭に包帯が巻かれている司は、ベッドの脇にある二...

  • エレメント 11

    『たった今、司様が手術室に入られました』西田からその電話があったのは、土日を除いた、7日間の有休最終日の午前中で、暦は師走に移り変わっていた。数日前には同じく西田から、司の腫瘍が予想より大きくなってはいなかった、との吉報も受けている。だから大丈夫だ。司は絶対に助かる。そう信じる一方で、助けを求めずにはいられない。道明寺を連れて行かないで!お願いよ、ママ。力を貸して!道明寺を助けて!道明寺をあたしが...

  • エレメント 10

    口を閉ざし、動きを止めた司に思う。あんたの決断は絶対に間違っている、と。楓や西田がどれだけ心配し、苦悩しているのか分からないのか。自分の人生だから命を削っても良いなんて理屈は、親しい者たちに優しくない理屈だ。自分の命を削る行為は、司を思う者たちの心も削る。命の全てを削り落とされたとき、その者たちは、悔やんでも悔やみきれない後悔を抱え、傷を負った再生の利かない心を引きずりながら生きていくことになる。...

  • エレメント 9

    「約束が違うじゃないですかっ!」西田に先導され、8年ぶりに足を踏み入れた道明寺HDの社長室。デスクに座る楓の前に立つなり礼節をすっ飛ばしたつくしは、噛み付くように怒声を響かせた。「どうしてよ! どうして今更道明寺が⋯⋯!」司が現れてからというもの、つくしは恐怖に包まれ生きた心地がしない日々を過ごしている。もしかするとこの人は、もう二度と手の届かないところへ行ってしまうかもしれない。そう思うと、真実を突...

  • エレメント 8

    8年ぶりに見上げたビルは、あの頃と何も変わらず、今も堂々とそこに聳(そび)え立っていた。また訪れることになろうとは⋯⋯。8年前。道明寺HDは苦境に立たされていた。司の父親が病に伏せた中で迎えた難局。それを乗り越える方法が司の政略結婚であり、少なくともあの頃は、それ以外の策を見つけだせなかったのだと思う。────8年前のあの日は、本格的な暑さを迎える前だった⋯⋯。道明寺HDは、M&Aの失敗により巨額の損失を計上。足元...

  • エレメント 7

    静寂(しじま)が二人を包んだかに思えた。けれど、「何を言うかと思えば、馬鹿かおまえは!」沈黙を簡単に司が払いのける。「俺が死ぬわけねぇだろうが。そんなくだらねぇこと言うくらいなら体調は大丈夫そうだな。ったく、心配して損したじゃねぇかよ。俺は風呂入ってくっから、おまえはとっとと寝ろ」はぁ、ったくよ! と、わざとらしい溜息をつくしに聞かせ、司はリビングを出て行った。司が現れた瞬間から、つくしの頭には司...

  • エレメント 6

    残業もなく約束の時間よりかなり早くホテル周辺に着いたつくしは、正面玄関には向かわず、ホテル内の庭園に繋がる門から入ることにした。このホテルは広い庭園が売りの一つだ。庭園をゆっくり散策しながらエントランスを目指せば、時間を潰せる。それに、都内とは思えない自然美が、気持ちを落ち着かせる効果を齎(もたら)してくれるかもしれない。小路を寄り道しながらのんびりと歩く。ぽつぽつと咲き始めた椿を見つけては立ち止...

  • エレメント 5

    予定より早く起きたつくしは、胸に抱えた錘のような重みを誤魔化したくて精力的に動いた。洗濯機を回し、その間に朝食と司用の昼食作りもやっつけてしまう。一日中晴れの予想である天気予報も確認済みで、シーツがあるために2回回した洗濯物も、天気を気にすることなくベランダに干した。流石に自分の下着だけは他と同じようにベランダに干すわけにはいかず、司の視界から守るように、風呂場の乾燥機機能頼りだ。過去に何度も見ら...

  • エレメント 4

    結局、司は余計なことは何一つ声に乗せなかった。チラチラと何度もこちらを窺う様子は見せたものの、互いに何も語らず黙々と食べ、『ご馳走さまでした』『おぅ』交わした会話は完食後のこれだけで、ただただ静かな夕餉(ゆうげ)となった。『美味しかった』などの社交辞令一つも言わない愛想なしの女に、司は気を悪くした風でもなく文句一つ付けてこない。どころか、食後に下げた食器を洗おうとすれば、「手伝う」と、仰天の気遣い...

  • エレメント 3

    居ても立っても居られず、キッチンへと引き返そうとすれば、「こっち来んじゃねぇぞ。大人しく座ってろ」威嚇じみた声が飛んで来る。流石は野生の勘を持つ男。こちらの気配に敏すぎる。仕方なくソファーに座ったものの心配しか生まれず、そわそわと落ち着かない。「鍋はどこだ。うん? これが鍋か?」訊こえてくる独り言がこれでは、不安の加速度は増すばかりだ。鍋の判別すら怪しいのに、大丈夫なのだろうか。「湯煎? 湯煎って...

  • エレメント 2

    玄関で自分に渇を入れてから、一直線に向かった先はキッチンで、水を入れた電気ケトルをセットする。沸くまでの間もじっとはしていられない。暖房を入れ、リビングに置いてあるお気に入りのアンティークポールハンガーに脱いだコートを掛けて、今度はバスルームに向かわなければと、無駄なく動線を進む。取りかかるべくは風呂掃除だ。隅から隅まで丁寧に磨き上げ、終わればお湯張りの自動スイッチを押し、つくしは腰を叩きながらま...

  • エレメント 1

    ───ドクン。心臓が体に悪い跳ね方をする。息も一瞬止まった。全身の血が一気に足元に落ちていくようだった。大脳皮質に収められていた過去の記憶が、目まぐるしい勢いで甦ってくる。身を翻し踊り場の壁に咄嗟に隠れたつくしは、支離滅裂に思考を積み上げた。こんな所に居るはずがない。何かの間違いだ、疲れているからだ、階段を一気に三階まで駆け上がって来たせいで、脳に酸素が行き渡らずに見せた幻覚だ。呪文のように事態を否...

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