「無垢の帰り道」

失っていたことにも気遣かずに零れて落ちた哭き声耳にも届きはせず幾度と小石は投げ掛けられたろうがその痛みも今となっては遠い過去骨を呻かせて尚それでも背負う私の知…

素直とありて

先の曲がり角を思いついた儘左に曲がれば急な下り坂を止め処もなく下りまた思いついた儘にぴたりと止まってはまた進む飽きもせずそんな事を繰り返して笑い合い怒り合い泣…

「おばけの気持ち」

気づけばそこに居（お）るのだよ見えないけれど目一杯にふくらんで居るのだよ充ち充ちたまなこはしずかな波浪溢れるつばきははげしい貪欲こんなに近くでとまったはずの心…

「癒えない疵痕（きずあと）」

大きく流されて鉛の海鼠の色に塗（まみ）れて気付けば胸の左に沈子（ちんし）淡い色から中濃の色濃い色から真っ暗闇深くに突き刺さった左の胸の沈思痛いほどに沈んで沈ん…

「無道の亡骸」

案山子（かかし）が一本立っているなに守るでなく立っている田圃らしからぬ畑らしからぬ沼のようにドロドロと自若持たざる足元に案山子が一本立っている烏も糞をおとさぬ…

「至当の悦び」

風に流れて髪を撫でた何処（いずこ）の花弁頬を掠（かす）めて足下（そっか）に落つ我が儘に屈めし腰と拾い上げたる五指の何気なさ仄かに色残る息吹きの跡を眼（まなこ）…

「祈り給へ」

わたしという個体で充満したこころにあなたというだれかの痛みが小さく生まれるこころの片隅でわたしでは無いだれかの為にいのるわたしという個体で在る前にいのりという…

「怠惰の足枷」

覚束無い足元の在処を探ろうとても濃霧の最中（さなか）にあり動きも儘にならないとて腿を抓（つね）りて所在を確かめても心許無い故にこの霧が晴れねば足元の在処は疎（…

「郷愁に帰りて」

背中に遺した後（おく）れ毛手繰（たぐ）り寄せど手繰り寄せど昨日に靡（なび）いて軸足は今日に止（とど）まりて居るのだけれど愁眉（しゅうび）に掛かる前髪は明日を向…

「詩想の原」

幾千幾万と連なる列車に乗って無窮の彩（いろ）交々（こもごも）な一閃揺蕩（たゆた）う海（わた）の原をひとつ欠片を拾いて荷台に乗せてはひとつ欠片を拾いて荷台に乗せ…