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2015/01/11

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  • せやさかい・376『四回目の大晦日』

    せやさかい・376『四回目の大晦日』さくら「みなさん、大晦日の夜をいかがお過ごしでしょうか?わたしは、日本最大の湖である琵琶湖の近くのお寺に学校の友だちと来ています。日本では、大晦日の夜から新年にかけて、お寺の鐘を108回鳴らす習慣があります。ヤマセンブルグでも年明けと同時に新年を祝って教会の鐘が鳴りますが、日本の108回の鐘は意味が違うんですよ。人間には煩悩という108の良くない心があると言われています。キリスト教でも『七つの大罪』というのがありますが、それに近いものでしょう、それを打ち払うために鳴らすのが元々の意味だと言われています。でも、じっさいに鐘を撞く人たちは――ゆく年を惜しみ、来たるべき新年良かれ――と願うんだそうです。わたしは、18年間、わたしを育ててくれた人たちと日本に感謝して愛しみながら...せやさかい・376『四回目の大晦日』

  • 宇宙戦艦三笠17[クレアの役割]

    宇宙戦艦三笠17[クレアの役割]宇宙戦艦三笠は4人で十分コントロールできるようになっている。艦長:東郷修一副長兼航海長:秋野樟葉砲術長:山本天音機関長:秋山昭利これで十分だった。そこにボイジャーから変態したクレアが加わった。アナライズの補助ということになっているが、三笠にはAIの立派なアナライザーが付いていて、クレアにはやることがない。クレアは、一見どうでもいいことをやりだした。艦内のあちこちに、小ぶりな一輪挿しを付けて、コスモスのような小さな花を活けたりした。「あら、コスモス」樟葉が二日目に気づいて、それっきりで、なんの効果もないようだったが「あれクレアが活けてくれたの?」「はい……」それだけで、三笠の何かが温まった。でも、三笠のどこにコスモスが咲いていたんだろう?ちょっとだけ不思議になった。樟葉が航路...宇宙戦艦三笠17[クレアの役割]

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・70『誕生日』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語70『誕生日』それからの潤香先輩は回復の兆し。病室は胡蝶蘭の造花と貴崎イエローの洗い観音さまを洗ったハンカチでいっぱいになった。その日の夕方、忠クンからメールが来た。――誕生日おめでとう。誕生日のお祝いをしたいので、よかったら返事ください――で、わたしたちは定期で行けるTAKEYONAの一番奥の席に収まっている。テーブルの上には、とりあえず「海の幸ホワイトソ-スのパスタ」ジンジャエールで乾杯したところに、サラダとチーズのセットがやってきた。「やっと同い年だな」「うん。四捨五入したら二十歳だぞ!」自分で言ってドッキリした。二十歳って重たくて嬉しい年齢……実際にはもう少しかかるけど、あっという間なんだろうなあ……忠クンの顔が眩しく見えた。十六歳というのもなかなかの歳だ。ゲンチャの...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・70『誕生日』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 100『指南街 窯変』

    鳴かぬなら信長転生記100『指南街窯変』織部焼き物が窯の中の火の具合や灰の被り方で、思わぬ景色に変わることを窯変(ようへん)という。備前焼や信楽焼など、釉薬を用いない酸化焔焼成が有名だが、信長の用変天目茶碗のように釉薬を用いたものでも窯変を起こす。万に一つほどは、茶碗の中に宇宙を見る如き深さを感じさせるものがあって、信長のコレクションの中にも震えが出るほどの名品があった。数ある信長のコレクションのどれであったかは言わない。言ってしまえば、この織部の目にかなった器として名が出てしまう。名が出てしまえば、次に転生した時に人の手に渡るか、知ってしまった信長が手放さなくなるだろうからな。その窯変に似ている。劉度(リュドミラ)の胡旋舞がだ。元々は、故郷のウクライナで、流浪の楽団や村人に教わった見様見真似の自己流であ...鳴かぬなら信長転生記100『指南街窯変』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・69『胡蝶蘭と黄色いハンカチ』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語69『胡蝶蘭と黄色いハンカチ』「遅いなあ……もう三分も遅れてる」里沙がぼやいた。「仕方ないよ、お誕生日祝いかさばるんだもん……」夏鈴を弁護した。誕生日の良き日は日曜だったので、わたしたちは病院のロビーで待ち合わせしている。三年前に建て替えられた病院はピカピカで、吹き抜けのロビーの南側は一面のガラス張りになっていて、一月も半ば過ぎだとは思えない暖かさ。これでシートが劇場みたいでなければ、ちょっとしたリゾートホテルみたい……。「寝るな、まどか」「あ、ごめん、ついウトウトして(^_^;)」「まどかは病院慣れしてるんだ」「あ、その言い方は、ちょっと傷つくかも……」「あ、ごめんごめん」里沙は病院が嫌いなわけじゃない、物事が計画通りに進まないことに、ちょびっとだけイラついている。夏鈴はの...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・69『胡蝶蘭と黄色いハンカチ』

  • せやさかい・374『ショック!』

    せやさかい・375『ショック!』さくらちょっとショック!夜回りのコースの下見を終わって帰ってみると、山門入ったとこでテイ兄ちゃんに呼び止められた。「未成年の夜回りはやんぺになるかもや」「え、なんで!?」「夕べ、よその町内で夜回り中に事故があって二人亡くなってなあ、それでやと思う。今から町会長さんと市役所に事情聞きに行くとこやねんけどな」そこまで言うと、テイ兄ちゃんは町会長さんを車に乗せて市役所に走って行った。「さくらぁ」留美ちゃんがビッコ曳きながらこっちに来る。「あ、うちの方が行くよって!」留美ちゃんは本堂の大掃除で足をグネってしもてるんや。「やっぱり中止って言ってた?」「うん、いま、町会長さんと市役所行きやったとこ」「だったら、まだ決まったわけじゃないんだね?」留美ちゃんはええ子や。足グネて、自分は行か...せやさかい・374『ショック!』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・68『部活の帰り道 乃木坂にて』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語68『部活の帰り道乃木坂にて』話しは前後するんだけど、『風と共に去りぬ』を観た部活の帰り道。乃木坂に立ったわたしは夕陽を浴びてスカーレットオハラみたく背筋を伸ばして歩いていた。ヴィヴィアンリーがパン屋さんのウィンドウに映って……やっぱりジュディーガーランド(-_-;)。どうも、この鼻がね……と、凹みながら思い出した。もうい~くつ寝ると、お正月……は、とっくに過ぎちゃったけど、わたしの誕生日!そんでもって、わたしの記憶に間違いがなければ……。「ねえ、潤香先輩の誕生日って?」さっさと前を歩いている里沙に声をかけた。「今月の十七日」「やっぱし……」「そうよ、まどかの誕生日と重なってんの」そのとき、坂の下の方から夏鈴が、スマホを握って走ってきた。「ねえ、話しついたわよ!」「夏鈴て、普...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・68『部活の帰り道乃木坂にて』

  • せやさかい・373『さくらのアップグレード』

    せやさかい・374『さくらのアップグレード』さくらあっという間に冬休み。学校案内のプロモーションビデオで大いに盛り上がった。終業式も、けっこうおもしろかったんやけど、今日から歳末特別警戒の夜回りが始まります。今年は町の集会所が雨漏りやら傷みやら隙間風やらで使われへんので、急きょ、うちの本堂が本部。山門の前には『歳末特別警戒』の提灯が二つも出て、なんか堺奉行所か新選組の屯所かいうくらいの雰囲気。「やっぱり、提灯は、こういうとこに掛けるのんがええなあ!」曲がった腰を伸ばして喜んでるのは、お寺の婦人部長をやってる田中のお婆ちゃん。「ウンショっと……ほら、温いうちにおあがり」ゴロゴロ(年寄りがよう押してるカート)を本堂の階の前に据えてお婆ちゃん。開ける前に分かってる。中身は焼き芋。匂いしてたしね(^_^;)。米屋...せやさかい・373『さくらのアップグレード』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・67『』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語67『三学期最初のクラブ』「なんか、赤ちゃんのお手々みたいだね」三学期最初のクラブでの二番目の言葉。「おっす、アケオメ」これが一番目。で二番目は、わたしが手のひらに乗っけてたそれを見た里沙の感想。「ヒトデのミイラ」これは夏鈴の感想。例外的に里沙の方がデリカシーがある。で、その赤ちゃんのお手々のような、ヒトデのミイラみたいなものの正体は。マルチヘッドフォンタップと申します!何に使うかというと、テレビやオーディオに繋いで、最大五人まで同時にヘッドフォンが使えるという優れもの。で、なんで、新学期早々の部活でこれが必要だったかと言うと、以下の通りなんです。「じゃあ、テレビとデッキ運ぶよ」「「「おー!」」」と、元気はよかった……しかし現物を目にするとため息。別にイケメンを発見したわけで...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・67『』

  • 銀河太平記・138『ドックの昼休』

    銀河太平記・138『ドックの昼休』お岩ドッグの水を抜き始めて三十分、漢明巡洋艦洛陽号のウォーターラインの下が露わになった。「……宇宙船にバルバスバウ(球状艦首)なんていらないと思うんですけどね」水が抜けていくのを黙って見ていた及川市長が、ポツリと言う。「あそこには、ソナーやパルスレーダーが入ってるんですよ」「科学的なことは分かりませんが、宇宙空間なら三次元サーチなんだから、船体の構造の対角線方向に備えた方がいいと思うんですがねえ」「今のパルステクノロジーなら、船のどこにつけても同じなんです。軍艦だから、予備を含めて八カ所設置されてます。主機はバルバスバウですけどね」思わず付けてしまったケチに、ラボのメグミが付き合っている。気持ちは分かるさ。今回の停戦は、漢明の劉宏大統領の大幅な譲歩で実現した。漢明艦隊と陸...銀河太平記・138『ドックの昼休』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・66『雪と苗字とお線香』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語66『雪と苗字とお線香』「お互いに、ここまで言うてしもうたんだ。もうワシから言うことはない。彦君とお二人には申し訳ないが、今日のところは諦めてください。大雪の中、済まんことでした」お祖父ちゃんが頭を下げた。「貴崎先生、この高山彦九郎、乃木高の門はいつでも開けておきますからな」「校門は八時半閉門と決まっておりますが……」バーコードのトンチンカンにみんなが笑った。「ありがとうございました……」わたしは、そう言って、その場で見送るのがやっとだった。雪が左から右に降っている。と……いうわけではなく。ただ単に、わたしが右を下にして寝っ転がっていただけ。ゆっくりと起きあがる……当たり前だけど、雪は上から下に降っている。ちょっと感覚をずらすと、自分が空に昇っていくようにも感じる。昼過ぎに潤...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・66『雪と苗字とお線香』

  • せやさかい・372『モデル! モデル!! モデル!!!』

    せやさかい・373『モデル!モデル!!モデル!!!』さくら登校風景は普通に撮った。普通と言うてもスケールアップ。なんせ、高校生声優で前生徒会長の百武真鈴!ヤマセンブルグ王女の頼子先輩!後輩やら取り巻きやらファンやら、その場に居てた者が三十人ほど、最初は観てるだけやったんやけど「登校風景だから、いっぱいいた方がいいよ!」と真鈴先輩の呼びかけで、五分後には百人ぐらいに増えた。「う~ん、百人じゃ途切れてしまうなあ」頼子さんが言うと真鈴先輩が手を叩く。「昇降口まで行ったら、通用門から出て正門に戻って、OK出るまで通ってくれる?カメラ目線にだけはならないようにね!」ということで、リアルの登校風景みたいな迫力になってきた。みんな、撮影とあって、日ごろ以上に丁寧で、急きょ職員室から出てきた先生らも登校指導いう感じで正門...せやさかい・372『モデル!モデル!!モデル!!!』

  • くノ一その一今のうち・32『王子を逃がす』

    くノ一その一今のうち32『王子を逃がす』街を出てからどうするんだろう?敵の大方を撒いて、あとは街を抜け出すばかり。社長は、ざっくりとした指示しかしない。敵の出方で、戦術を変えなければならないこともあるし、全てを配下に教えてしまうと、一人が捕まった場合、全てが敵に知られてしまう恐れもある。そのために、頭の忍者は、いくつもの手立てを組んでおく。経蔵脱出において、松ぼっくりが爆ぜて巧くいったが、社長は他にも手立てをしておいたはずだ。だから、一瞬頭に浮かんだ――どうするんだろう?――は胸の底に沈める。――間もなく、ラクダが走り出す。追跡の車が出る。その一台を奪う――「「「承知」」」わざわざ声に出したのは、王子に聞かせるためだ。素人の王子は先が読めないと不安に思って混乱する。混乱した人間を無事に逃がすのは難しい。だ...くノ一その一今のうち・32『王子を逃がす』

  • 宇宙戦艦三笠16[ボイジャーが仲間に]

    宇宙戦艦三笠16[ボイジャーが仲間に]ボイジャーは回収されると、すぐに医務室に運ばれた。不思議だった。光子レーダーで確認した時は、お猪口にアンテナを付けたような古いタイプの人工衛星だった。それがモニターで女の子の姿になっていることは確認していたが、こうやって生で見ると、とても不思議になる。頬はほのかなバラ色で、胸は呼吸に合わせてゆっくり上下している。そして、まるで夢を見ているように瞼の下で目が動いているし。「可愛い子だな……」「うん、初めて見るのに、なんだか懐かしい」顔かたちに敏感なのは、やはり女子だ。天音と樟葉が最初に反応した。男子は、こういう時は驚きが直ぐには顔に出ない。ただ、目を丸くして見つめるだけだ。「これ、ヘラクレアの娘さんの姿だよ……」みかさんが、しみじみと言った。「どうして、あのオッサンの娘...宇宙戦艦三笠16[ボイジャーが仲間に]

  • 宇宙戦艦三笠15[ボイジャーとの遭遇]

    宇宙戦艦三笠15[ボイジャーとの遭遇]フワァワァァ……………………プ三回目のアクビをしたら、いっしょにオナラが出てしまった。最初トシがクスっと笑い、ややあって天音、樟葉へと伝染するころには爆笑になってしまった。ただ船霊のみかさんはニコっとしただけだ。ヘラクレアを出てから一週間がたっていた。その間、三笠は、ただただ、星たちがきらめく宇宙を走っているだけだ。要するに退屈なんだ。三笠は21世紀の概念では、それほど大きな船ではないけど、たった四人、みかさんを入れて五人、ネコメイドも入れて九人の乗組員には広すぎた。各自自分のキャビンは持っているけど、ブリッジに集まることが多くなった。あ、ネコメイドたちのキャビンは分からない。艦内のどこかに居るんだろうけど、元々は横須賀の野良猫だとか、だったら簡単には見つからないだろ...宇宙戦艦三笠15[ボイジャーとの遭遇]

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・65『目付』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語65『目付』「……という訳で、ご両人がビデオを編集して理事会にかけ、貴崎先生のご決心が硬いと判断したわけなんです。理事の中に放送関係の方がおられましてな、編集の仕方が不自然だと申し出られ……むろん元のメモリーカードの情報は消去されておりましたが、パソコンにデータが残っておりました。このお二人がやったこととは言え、監督責任はわたしにあります。この通りです。この年寄りに免じて、許してやってもらえませんかな」理事長が頭を下げた。「お二人には罪はありません。最初から罠……お考えは分かっていましたから」「貴崎先生……」理事長は驚き、お祖父ちゃんは苦い顔。校長と教頭は鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。「こうでもしなきゃ、責任をとることもできませんでしたから……理事長先生が祖父の名前を口...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・65『目付』

  • せやさかい・372『モデル!!』

    せやさかい・372『モデル!!』さくら撮影の続き……日差しが合わない……と突っ込むのはソニー。登校風景を撮るんやけど、授業が終わってからの撮影なんで、お日様は、とっくに上がってます。「これでは下校時の太陽高度だ、いくらプロパガンダ映像としてもずさん過ぎないか?」「プ、プロパガンダ(;'∀')」「もとい、広報映像としても」「レフ版とか補助照明とかも使うから、ま、いいんじゃない(^_^;)?」留美ちゃんがフォロー。「普段通りでいいからね」ディレクターのおっちゃん。「校門入る時と、マリア様の前を通る時は、キチンとお辞儀!」長瀬先生は、うちが時々忘れてることを知ってる。「じゃ、一回テスト。カメラ目線にならないでね。ライトやレフ版も直接見たら、しかめっ面になっちゃうから」「「はい」」「了解」「Understood」...せやさかい・372『モデル!!』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・64『我が家』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語64『我が家』七年ぶりの「我が家」が見えてきた。遠くから見ると林のように見える。やや近づくと、木の間隠れに地味な三州瓦の屋根が見えて、人の住み家だと知れる。側に寄ると、幅二十センチ、高さ三メートルぐらいのコンクリートの板が二センチ程の間隔を開けて並べられ、それが塀になっている。コンクリートといっても、長年の年月に苔むし、二センチの間隔が開いているので威圧感はない。二センチの隙間から見える「我が家」は適度に植えられた木々によって、二階の一部を除いて見えないようになっている。わたしが生まれる、ずっと前に建てられた「我が家」は、なるべく小さく、なるべく目立たないことをコンセプトに、ひっそりと周りの景観に溶け込んでいる。妹のサキが生まれたころに、関西から著名な歴史小説家が、出版社の企...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・64『我が家』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・63『運転手の西田さん』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語63『運転手の西田さん』「せっかく雪だるまになりかけていたのに……!」「ハハハ……お嬢さまのああいうお姿は、実に二十何年かぶりでございますなあ。降り始めた雪に大喜びされて、お庭で、おパンツ丸出しでクルクル旋回なさって、スカートひらりひらめかせられておられました。ハナさんが――お嬢さま、せめて毛糸のおパンツをお召しなさいまし――モコモコするからやだ。マリはこれから雪の王女さまになるんだから!――この西田、昨日のことのように思い出しますでございますよ」「西田さん、運転中は運転に集中したほうがいいわよ。この大雪なんだし」「いえいえ、この西田、ハンドル握って五十五年、無事故無違反。もっとも無違反のほうは、お巡りに見つかっていないという意味でありますがね。本日は、気象庁が発表する二時間...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・63『運転手の西田さん』

  • せやさかい・371『モデル!』

    せやさかい・371『モデル!』さくら一昨日の続き……掃除が終わって報告に行くと、長瀬先生はIDぶら下げたニイチャンらと振り返った……その目がこわい(;゚゚)!こいつらや!という顔で睨んでくるやおまへんか!えと……なにやらかしたっけ(;'∀')?十六年の人生経験で、すぐに謝ることを考えてしまう。留美ちゃんは怖がって、あたしの袖を掴んで後ろに回るし、メグリンは自衛隊式の気を付けするし。「なにか不備がありますか?」陸軍伍長のソニーは、手を後ろに組んで、上官に――ことと次第では連隊長(校長)に申告――の姿勢。「あんたたち、今日これからと明日の放課後空いてるか?」なんや、いよいよ軍法会議か(;'∀')!?「空いてたら、頼みたいことあるんや」え?ちょっとズッコケる。「実は、来年の学校案内作ってるねんけど、モデルやって...せやさかい・371『モデル!』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 99『指南街 滅びのロケーション』

    鳴かぬなら信長転生記99『指南街滅びのロケーション』織部指南街は学問の町だ。周の文王が、この町に賢哲を見出して以来、この町の者が王や大臣の諮問に預かることが多く、いわば王たちの指南役たちの街ということで通称であった指南街が定着してしまった。くたびれてはいるが、街区や町の造りは風水に則って区画、配置され、家々も学者の家らしく南庭に面したところに書院が構えられているらしい。しかし、三国最大の魏は学問を権力の装飾程度にしか思っておらず、領地から離れた指南街には関心が無い。呉の孫策は大橋のパサージュに出させているように、商業には熱心だが、学問への関心は薄い。蜀は小国ながら、三国の中では最も好学の機運が高い国なのだが、酉盃や指南街に至るには函谷関を通らなければならず。また、諸葛茶孔明は、三国志の中では抜きんでた学才...鳴かぬなら信長転生記99『指南街滅びのロケーション』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・62『凧の行方』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語62『凧の行方』振り返ると、右のホッペにグニっと指がめり込む。ガキンチョがよくやるあれ。で、この幼児的ご挨拶は……薮先生。「もう、先生ったら子どもっぽいことを」「俺は、小児科の医者なんでな」「わたし、今月で十六です」「俺の所見じゃ、四捨五入して、まだ小児科の対象だ。ほら、あいつみたいにな……」先生の指の方角には、今まさに鳥居をくぐって境内を出て行く忠クンの背中が見えた。「忠クン来てたんだ」「たった今までいっしょだった。なんせ、この人混みだ。まどかに気づいたのもたった今」「メールしてくれたら、いっしょに来たのに」自分のことを棚に上げてぼやいた。「あいつ、ひどく思い詰めっちまってなぁ」「え、それって……」「あいつ、あの日から、家に通い詰めでよ。毎日親父の話さ」「え……」先生は、た...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・62『凧の行方』

  • 銀河太平記・137『氷室神社賑わいて四海波静か』

    銀河太平記・137『氷室神社賑わいて四海波静か』お岩シゲ爺の狙いは当たった。岬から戻ってきた者たちは、沖の漢明艦が居なくなったことに人智を超えた力を感じた。冷静に考えれば、何者かの国際政治学的な力が働き、その働きによって漢明政府が艦隊に退去を命じた。その命令によって、漢明艦隊各艦の艦長は機関を始動させ、航海長が舵輪を握って、物理的に粛々と退去しただけのこと。しかし、折よく太陽は南中して南の空に輝いて日輪という呼称が相応しく。あたかも、神の意思が働いて邪悪な漢明艦隊を蒸発させたように見える。ほら、大雨の後に虹が出たりすると『虹の彼方に』とかを口ずさんで、生きててよかったとか思うあれだよ。二百年前、令和天皇が御即位された時、前夜からの雨は止む気配もなく、御即位には欠かせない舞楽が中止になったが、その直後、御即...銀河太平記・137『氷室神社賑わいて四海波静か』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・61『一人で初詣』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語61『一人で初詣』考えこむのはヤバイ気がしてきて、年賀状の返事を書くことにした。半分以上は、あらかじめ出した人なんで、十人程への後出し年賀。後出しの分だけ、心をこめて書かなきゃ。はんぱなデジタル人間のわたしは、アナログな返事を書くのに昼前までかかってしまった。お昼は、はるかちゃんのマネをして関西風のお雑煮をこさえた……と言っても、お歳暮にもらった高級インスタントみそ汁の中に、チンしたお餅を入れただけ。「なに食ってるんだ……まるで昔の犬のえさみてえだな」「なに、それ?」「昔の犬は、残り物にみそ汁のブッカケって決まったもんだ」「ちがうよ、これは関西風のお雑煮。おいしいよ。おじいちゃんもこさえたげようか」「よせやい。いくら戌年の生まれだからって、犬マンマは願い下げだぜ」「おいしいの...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・61『一人で初詣』

  • せやさかい・370『玄関前の大掃除』

    せやさかい・370『玄関前の大掃除』さくら学校のやることに無駄はおまへん。昨日のクリスマスツリーで――せや、うちはミッションスクールやったんや!――と感激して、スマホで学校の行事予定を確認。ちなみに、去年まではプリントした年次予定表とかが配られてたんやけど、エコとか資源節約とかで、学校のウェブページで確認してくださいとのこと。まあ、余計なプリントが無くなるのはええことです。中学の頃は、貰ってそのままカバンに突っ込んで忘れてしまって、学年の終りにカバンの中身全部出して「あ、行事予定表!」と叫んで、全部済んでしもたモミクチャの予定表が出てきたりした。そこで分かったということもあった(留美ちゃんがちゃんとやってるんで、ズボラかましてるとこもあるんやけどね(^_^;))んやけど、まあ、どっちにしても、テレビの番組...せやさかい・370『玄関前の大掃除』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・60『元日のマドハル放送』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語60『元日のマドハル放送』「ねえ、テレビに出たって、なんで言ってくれなかったのよ!?」そこから話しは再開されて、互いの近況やら、小規模演劇部の稽古の仕方などについてハッピートーキングは炸裂した!年明け早々、第二回目のマドハル放送。二人だけのビデオチャットを『ハルマド放送』『マドハル放送』どっちにしようってジャンケンしたら勝ったんだ(^▽^)!兄貴は、その後タキさんのアドバイスを元に、香里さんに連絡をとってイソイソと出かけていった。新宿にある名画座(料金が安いが選りすぐりの名作が観られる)で『結婚適齢期』を観たあと、同区内のあまり肩の凝らないフランス料理屋へ。コースも三種類ほど書かれている。あとは……十八禁の内容なので省略させていただきます。なんでこんなに詳しく分かっちゃったか...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・60『元日のマドハル放送』

  • せやさかい・369『留美ちゃんが立ち止まるわけ』

    せやさかい・369『留美ちゃんが立ち止まるわけ』さくらあ駅前の横断歩道で、留美ちゃんが一瞬立ち止まる。品行方正な留美ちゃんが、横断途中に立ち止まるなんて、初めての事。でも、時間にしてコンマ5秒ほど。すぐに渡り終えて改札へ向かうエレベーターに飛び乗る。なんせ、朝の通学途中やさかいに、足は緩められません。せやさかい、事情を聞いたのは電車がホームにやって来るのを待ってる間ぁになる。「なんやったん?」「うん、あとでね」このご時世、人ごみの中では、むやみには喋られへんのを忘れてた。で、もっかい聞いたのは、学校最寄り駅に着いて改札を出たとこ。「で、なんやったん?」「え、なに?」「なにて、横断歩道の真ん中で立ち止まったやんか!」「あ、ああ……アハハハ」「ちょ、なにが可笑しいん?」「いや、さくらの好奇心て、大したものよね...せやさかい・369『留美ちゃんが立ち止まるわけ』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・59『ビデオチャットの開局式!』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語59『ビデオチャットの開局式!』ジャジャジャーン!て、感じで、はるかちゃんのドアップが、モニターに大写しになった!「ウフフ……」『アハハ……』て、感じで、なかなか言葉にならない。今日は、パソコンを使ったビデオチャットの開局式!ビデオチャットは、クリスマスイブの夜に、はるかちゃんと約束した。だけど、これって、カメラ買ってきて付けたらすぐにできるというものではなかった。わたしには、訳分かんないダウンロードとかいろいろあって、結局昨日でバイトが終わった兄貴に二時間あまりかけてやってもらった。で、ウフフとアハハになったわけ。「あー、あー、こちらJOMADOKA聞こえますかどうぞ」『こちら、JOHARUKA感度良好です。どうぞ』「なんだか、そっち賑やかそうじゃないのよ」はるかちゃんの周...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・59『ビデオチャットの開局式!』

  • 魔法少女マヂカ・301『戻った!』

    魔法少女マヂカ・301『戻った!』語り手:マヂカあ、戻った!?クマさんが感動の声を上げたのは、まだ完全にタイムリープが完了する数秒前だ。来栖司令が回収したM資金の残り全てをかけて整備してくれた時空転送機。高機動車北斗の移送システムを流用しているので無理がきかず、無事に戻れるのは昭和二年(1926年)が限界。昭和と言っても関東大震災からは三年足らずなので問題はないだろうと思ったのだが、クマさんは「せめて大正時代に戻してください、心配を掛けたくありません」と強く希望するので、無下にもできず、ちょっと無理をしている。大正十三年一月、震災から三か月、富士山頂の戦いでファントムに連れ去られて二か月あまりの原宿。スペック不足のグラボを付けたゲームパソコンのように、実風景が戻って来るのが遅い。まず蘇ってきたのが、足を載...魔法少女マヂカ・301『戻った!』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・58『大波乱の予兆』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語58『大波乱の予兆』――理由は、その両方だと思いますよ――「で、おまえ達は、どこまで進んでるんだ?」「え……」「その……」「適当に返事しときゃいいわよ。どうせこの先生の暇つぶしなんだから」「失礼なババアだな。わしゃ、若者の健全な育成のためにだな……」「はいはい。ババアはこれで退散いたしますよ。また機械の操作が分からなくなったら声かけてくださいな」奥さんは意外なくらい新しい鼻歌と共に行ってしまった。「おばちゃん、なかなかいけてますね」「少年よ、人も物ごとも正確に見なくちゃいけない。あれは、おばちゃんではない。礼節をもって呼ぶとしても、お婆さんが限界だ」「でも、あの鼻歌、オリコンで十週連続でトップですよ」「ただの、オチャッピーのなれの果てさ。ただ、女子挺身隊で電機工場に行っとたせ...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・58『大波乱の予兆』

  • くノ一その一今のうち・31『潜入・3・爆ぜる』

    くノ一その一今のうち31『潜入・3・爆ぜる』『申し訳ございません、竈(かまど)に松ぼっくりが入ってしまいました』『人騒がせな!』『気をつけよ!』食堂(じきどう)の役僧と警備の僧のやり取りが聞こえたのは、嫁持ちさんに続いて経堂の破風から忍び込もうとしている時だ。――社長も古い手を使う――たしかに、松ぼっくりを爆ぜさせて人の注意を引くのは超古い。お祖母ちゃんも「役小角(えんのおづね)の前からあった」と言っていた。しかし、爆ぜるタイミングを操るのが難しく、ご先祖の風魔小太郎も、めったにやらなかったという。凄い、さすがは百地流総帥。ムギュ――わたしに化けるのはいいですけど、そんなにお尻大きくないです――破風から潜り込む、一瞬、わたしに化けた嫁持ちさんのお尻がつかえた。それには応えずに、先を進む嫁持ちさん。ウ(⊙ꇴ...くノ一その一今のうち・31『潜入・3・爆ぜる』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・57『今朝のNOZOMIスタジオでした』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語57『今朝のNOZOMIスタジオでした』「はるか先輩、テレビに出てたんですか……!」忠クンが、やっと声をあげた。「ハーーもともと綺麗な子だったけど、こんなになっちゃったのね……」奥さんが、ため息ついた。「ほんとにキレイだ……」忠クンも正直にため息。チラっと顔を見てやる。「で、でも、スタジオで撮るとこんな感じになっちゃうんですよね」と、自分で自分をフォロー。いいのよ気をつかわなくっても。だれが見ても、このはるかちゃんはイケテルもん。「はるかのやつ、大阪に行っていろいろあったんだろうなあ……これは、スタジオの小細工なんかで出るもんじゃないよ」そこでサプライズ。スタジオにスモップのメンバーが現れた。――うそ……――はるかちゃんは口を押さえて、立ちすくんでいる。それから、二三分スモッ...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・57『今朝のNOZOMIスタジオでした』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 98『馬車に乗って酉盃へ』

    鳴かぬなら信長転生記98『馬車に乗って酉盃へ』織部殺気は無いが怪しいやつだ。アーケードの屋根から下りてきた劉度(リュドミラ)の目はまだ三角だ。「アハハ、カメラ構えると、つい夢中になってしまって。ぼく、コウちゃん……あ、大橋義姉さんの義弟の孫権です。さっきは、いい写真が撮れました、ありがとうございます(^▽^)」「写真を見せろ」「あ、いいですけど、消さないでくださいね」それには返事せずに、モニターの写真をスクロールさせる劉度ことリュドミラ。「どの写真も虚を突かれている……カメラをアサルトライフルに持ち替えたらいいスナイパーになるぞ」「ああ、ダメダメですよ。お祭りの射的でも満足に景品取れたことないのに(^_^;)」「そうか、惜しいな」警戒してるのか親近感を持ったのか分からん奴だ。「孫権、そろそろ目的を言いなさ...鳴かぬなら信長転生記98『馬車に乗って酉盃へ』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・56『……忠クンがいた』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語56『……忠クンがいた』「いつまで、つっ立ってんだ」先生にそう言われて、わたしは座卓の長い方の端っこに座った。つまり、床の間を背にした先生からは右、三時の方向。で、先生の正面、十二時の方向に座卓を挟んで……忠クンがいる。「……うっす」「ども……」たがいにぎこちない挨拶をする。「ハハ……青春とは照れくさいもんだな」そう言いながら、先生は右のお尻を上げた。カマされてはたまらないので、思わずのけ反った。「あのなあ、まどか。人を、屁こき大王みたいに見るんじゃねえよ。俺はリモコン取ろうと思っただけなんだから」忠クンが笑いをこらえている。「あのなあ、忠友。こういう状況で笑いをこらえるのは、かえって失礼だぞ」で、忠クンが笑い出し、先生もわたしもいっしょになって爆笑になった。「あ、これ、父か...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・56『……忠クンがいた』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・100『しっこくのブリュンヒルデ』

    漆黒のブリュンヒルデQ100『しっこくのブリュンヒルデ』さっきまで玉ちゃんが居たところで高杉晋作が寛いでいる。「なんだ、あんたか」「あんたはないじゃろ」「『しっこく』と言ったか?」「ああ、しっこくじゃ」「漆黒なら、わたしの看板だ。何物にも左右されず、何色にも染まらない不退転の決意を示す色だ」「そのしっこくじゃない、桎梏の方じゃ」「難しい字だな」晋作が空中に書いた字は初めて見る。この異世界に来るについてインストールされた辞書の中には無い言葉だ。「桎は足枷、梏は手枷を現す。つまり、くだらんことでがんじがらめになっとるちゅう意味じゃ」「そうなのか?」「ああ、がんじがらめじゃ。救済するつもりで戦死者を選んじょったら、そりゃラグナロクちゅう最終戦争を戦う兵隊を選ぶことじゃった。救済のつもりが、さらなる苦行を与えるこ...漆黒のブリュンヒルデQ・100『しっこくのブリュンヒルデ』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・55『マクベスの首・2』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語55『マクベスの首・2』『ハムレット』もすごかった。どこがって……やたらに人が死んじゃうんだもんね。ただね、ホレーショっておじさんが都合良く生き延びちゃうのには、若干の抵抗。あれだけの波瀾万丈のドラマの中で、親友のハムレットがメチャクチャやって、一族死に絶えちゃって、なんだか自分一人だけ語り部みたく生き延びて……残りの人生虚しくないの?って、わたしがひねくれてんのかなあ。『ロミオとジュリエット』は、なんだか我が身と引き比べちゃったりして、興味津々。ストーリーや登場人物は、よく分かんないけど、発見が二つあった。忘れもしない、第二幕第一場「キャピュレット家の庭」チョ-有名な愛の語らいの場!なにがすごいって、一回読んでみるといいわよ。ロミオが庭、ジュリエットがバルコニー……すごいと...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・55『マクベスの首・2』

  • 銀河太平記・136『氷室神社の賽銭箱』

    銀河太平記・136『氷室神社の賽銭箱』お岩「こら、しっかり持たんかい!」「ちょ、二人じゃ無理だって!」「いい若いもんが情けねえぞ」「ああ……やっぱりダメだ!」ドサ!「この、バチアタリめ!」「なんで、他の奴らにも手伝わせねーんだ!」「『任しとけ』って、腕まくりしたのはおめえのほうだろが」「とにかく、ちょっと休憩させろ」「これで三回目だぞ」「さっきのはノーカンだ、ジジイだって、足止めて見てたじゃねえか」「じゃ、五分だけだ。ぐずぐずしてっと、みんな戻ってきちまう」「ああ、了解……」手伝ってやろうと思ったけど、面白いので黙って見ている。氷室神社の神主に収まったシゲ爺が、鉱山技師時代の助手のサブを使って新しい賽銭箱を運んでいるところだ。神社を作ったのは、シゲ爺としては、いいところに目を付けたと思った。日本人は、やっ...銀河太平記・136『氷室神社の賽銭箱』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・54『マクベスの首』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語54『マクベスの首』マクベスの首が、旗竿の先に括りつけられて現れたところだった。「薮さんのとこまで行ってきてくれないか?」頭の上から声が降ってきた……仰向けになって本を読んでいたわたしは、そのまま上目遣いに、十センチほど開けられた襖の隙間に目をやった。そこには、サンドイッチのパンみたく、端っこをちょん切った兄貴の顔が見えた。アンニュイも、端っこをちょん切って逆さになると、ひどく間が抜けて見えるもんだなあ……と思った。「入れば……」間抜けの逆さ顔にそう言った。逆さのまま、その顔が大きくなった。つまり兄貴が部屋に入ってきて、しゃがみ込んで、わたしの顔を逆さに覗き込んだのよね……恋人同士なら、このシュチュエーション、フラグの一つも立つんだろうけど、兄貴じゃね。「だからさ、薮さんのと...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・54『マクベスの首』

  • せやさかい・368『歳末特別警戒本部やぞ!』

    せやさかい・368『歳末特別警戒本部やぞ!』さくらおお…………!うちの山門を眺めて、四年ぶりに感動した。一回目は……感動ちごて、動揺かな。ほら、四年前の三月三十一日、お母さんに連れられて、この山門の前に立った。あの時は、この門のことを山門て呼ぶことも知らんかった。ジッカの門と呼んでた。ジッカとは実家で、実家て書くのは四年生まで知らんかった。お母さんがジッカ、ジッカて呼んでた。ジッカはお寺で、お寺の門を山門て呼ぶのを、それまでは知らんかった。それまで、夏休みとかに来るだけやったから――今日から、ここがさくらの家や――言われて、めっちゃ意識した。なんや、いかつうて、テレビで見た『忠臣蔵』の討ち入りいう感じ。大石内蔵助が、四十七士を引き連れて吉良上野介の屋敷の門の前に立った、あの感じ。いや、うちは扶養家族やさか...せやさかい・368『歳末特別警戒本部やぞ!』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・53『なり損ないの雪だるま』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語53『なり損ないの雪だるま』「演劇部の三人が来てくれたところなんですよ。ほら、このクリスマスロ-ズ。あの子たちが持ってきてくれたんです」お見舞いに持ってきたオルゴール(潤香とわたしが共に好きなポップスが入ってる)のネジを巻きながら姉の紀香さんが花瓶の花を紹介。大振りな花が陽気におしくらまんじゅうをしている。「あ……!」「え?」「わたし、ここにタクシーで来たんですけど。地下鉄の入り口のところでキャーキャー言ってる雪だるま三人組……を見かけた」「それですよ。まどかちゃん!里沙ちゃん!夏鈴ちゃん!」モグラ叩きを思わせるテンションで紀香さんが言った。無性に、あの三バカが愛おしくなってきた。気がついたら、紀香さんと二人オルゴールに合わせて唄っていた。「フフフ……」どちらともなく、笑いが...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・53『なり損ないの雪だるま』

  • 魔法少女マヂカ・300『クマさんの名前の秘密』

    魔法少女マヂカ・300『クマさんの名前の秘密』語り手:マヂカ御維新までは美濃の国っていったんですよね。いかにも実り豊かなお国という響きで素敵です。眼下の濃尾平野を愛でながら、クマさんは地理の先生のような感想を言う。「ああ、戦国の昔は、ここを扼すれば、天下が取れると言われたものだ」「斎藤道三が主家の土岐を追い、織田信長が奪い……信長は、周の文王が岐山に拠って天下を窺った故事にちなんで岐阜と改め、それをもって岐阜県とされましたが、美濃の方が似合います」「クマさん、なんだか学者のような感想だな」「祖父の代までは、奥多摩の村で神主をやりながら本草学の学者をやっていました」「そうなのか」「村の山には悪い神さまがいると言われて、それを祀って封じるのが家代々の役割でした」「過去形だな……ひょっとして、明治になって離散し...魔法少女マヂカ・300『クマさんの名前の秘密』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・52『繋ぎの仕事』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語52『繋ぎの仕事』折良く繋ぎの仕事が見つかった。二乃丸学園高校の先生が急病になり、二学期末の今になって常勤講師が必要になった。小田さんのプロダクションが、新聞社を相手にさらなる訂正記事と謝罪を要求。訴訟も辞さない意気を見せ。新聞社も一面で、謝罪記事を載せ、編集長も更迭。そこへわたしが(匿名ではあるけども)学校をいさぎよく辞めたことも世間の知ることとなり、二乃丸学園は即決でわたしを常勤講師に雇ってくれた。一応学年末までの契約であるけども、来年度から正規職員として勤めて欲しいと非公式な打診があった。しかし、やっぱ乃木坂の貴崎マリの名前はダテじゃない……と自惚れてもいた。着任したその日に、実質的な演劇部の顧問になった。二乃丸学園は、城南地区の所属であり、乃木坂とぶつからないのも気が...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・52『繋ぎの仕事』

  • くノ一その一今のうち・30『潜入・3・鏡』

    くノ一その一今のうち30『潜入・3・鏡』一分近くたっただろう、屋根裏の闇に慣れてきて、柱や梁の木目まで分かるようになってきた。南北の破風に風通しの桟があって、そこからホンノリと外の光が入って来る。月夜でもなかったので、篝火や常夜灯の類の照り返しだろう。二つ三つの壁や屋根に反射したあとの、ごく弱い光だから、常人では暗視スコープでも無ければ見えないだろう。あ…………鏡だ。駆け出しの忍者なら、そこに人が居たと思うだろう。薄明かりの中に、自分と同じく蹲踞の姿勢で気配を消している人影が見えたのだ。駆け出しなら、狼狽えて呼吸を乱す。甚だしい場合は、物音をたててしまって気取られてしまうだろう。いちど崩れてしまうと、忍者も人の子、簡単に追い詰められて虫けらのように殺されてしまう。そういう忍者対策の簡単な道具が鏡なのだ。古...くノ一その一今のうち・30『潜入・3・鏡』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・51『 了 』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語51『了』案の定、明くる日には電話があった。バーコードではなく、校長直々の電話だった。『先生の責任感と硬い御決意には感服いたしました……』以下、延々十分にわたり言語明瞭意味不明の、とても言い訳とは思えない「喜び」のこもった『送る言葉』を聞かされた。送別会は丁重に断り、退職に関わる書類などの遣り取りも郵送で済ませてもらえるように、電話を代わった事務長と話しをつけた。峰岸クンに電話をした。クラブの後始末を頼み、ちょびっと、わたしの裏事情に関わることを聞いたが、とぼけられた。代わりに一呼吸おいて、バーコードとの会話を録音していたことを告げられた。『これを公表させてください。全てが解決します』「罠だってことは分かっていたの。こうでもしなきゃ、責任もとらせてもらえないもの」『先生の責任...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・51『了』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 97『今日の胡旋舞には角が無い』

    鳴かぬなら信長転生記97『今日の胡旋舞には角が無い』織部ルンルルルルンルルルルルルルルンルルルルンルルルルルルル……今日の胡旋舞には角が無い。皆虎の広場で踊っている時は、せわしく激しいステップで、リュドミラ自身がスティックになってドラムを叩くような感じになる。じっさい、演奏の太鼓は、そういう音をさせているので、タンタタタタンタタタタタタタと、いっそう激しい感じになる。それが、今日のリュドミラは、赤十字募金の赤い羽根が風に舞っているように軽やかで、優しい。「今日はお年寄りのお客様が多いせいかもしれませんねえ……」客足が一段落して、広場に出てきた大橋(だいきょう)が静かに感心する。「そうですね……不思議ですね、演奏はいつもの南楽坊なのに……いや、演奏も優しくなっている」「南楽坊は宮廷楽士の子弟の子たちです。宮...鳴かぬなら信長転生記97『今日の胡旋舞には角が無い』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・50『 罠 』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語50『罠』罠だとは分かっていた。理事長に会った明くる日、バーコードに呼び出された放課後の校長室。普通教室まる一つ分のスペースには、校長用の大きな机と、指導要録なんかの重要書類の入った金庫。それに、応接セットを置いても半分のスペースが残る。そこには大きなテーブルが十数個の肘掛け付き椅子を従えて鎮座している。運営委員会など、学校の重要な小会議が開けるようになっている。校長や教頭が保護者や教師に「折り入っての話し」をする時にも使われる。バーコードは、その折り入ってのカタチでわたしを呼び出した。「失礼します」ノックと同時に声をかける。ややマナー違反だが構わないだろう。「どうぞ」返事と同時にドアを開けた。バーコードは、わざとらしく観葉植物のゴムの木に水なんかやっていた。観葉植物の鉢の受...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・50『罠』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・099『屋上の微睡み』

    漆黒のブリュンヒルデQ099『屋上の微睡み』おーい、玉ちゃーーん!地上から声がかかった玉ちゃんは「おお!いっき行っど!」と薩摩弁丸出しで屋上の階段を降りて行った。屋上でお弁当を食べ、並んで昼寝でもしようかと思ったら、フェンスにもたれた背中で正体が知れたのか、下級生たちに――いっしょの遊ぼう!――と、声を掛けられたところだ。玉ちゃんは人徳があって、子どもがやるような遊びで人を和ませ、熱中させてしまう。鬼ごっこ、かくれんぼ、石けり、馬飛び、だるまさんがころんだ……今では幼稚園の子どもでもやらないような遊びで、下級生や同級生と無邪気に遊んでいる。ひところは、なんとか標準語を喋らなくてはと気を張っていた玉ちゃんだが、遊びの最中には、どうしても薩摩弁が出てしまう。今では、お仲間たちも薩摩弁に慣れてしまい、玉ちゃんは...漆黒のブリュンヒルデQ・099『屋上の微睡み』

  • 宇宙戦艦三笠14[ヘラクレアの信号旗]

    宇宙戦艦三笠14[ヘラクレアの信号旗]テキサスも三笠も修理が終わってもやいを解く。ボーーーーーーーボーーーーーーー出航を告げる汽笛が響く。空気の無い宇宙空間に汽笛が響くはずもないんだけど、テキサスも三笠も儀礼用の衝撃波を起こして汽笛の代わりにしている。衝撃波は近くにいる船や星にぶつかって汽笛にそっくりな音を響かせるというわけだ。二隻の宇宙戦艦はもやいのロープをたなびかせながら5ノットの微速でヘラクレアを離れていく。だいたい、宇宙船が微速で出港する必要なんてない。いきなりのワープをすることもできるんだけど、長い宇宙旅行、こういう演出も必要なんだ。ヘラクレアは、テキサスの廃材と、代わりにテキサスに使った材料を整理するために、星全体がガチャガチャと音を立てて形を変えている。小惑星とは言え、長径30キロ、短径10...宇宙戦艦三笠14[ヘラクレアの信号旗]

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・49『メリークリスマス……』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語49『メリークリスマス……』「わたし、八月に一度戻ってきたじゃない」「うん、あとで聞いて淋しかったよ。分かってたら、クラブ休んだのに」「あれは、わたしのタクラミだったの。だれにも内緒のね……旅費稼ぐのに、エッセーの懸賞募集まで応募したんだよ」「さすが、はるかちゃん!」「でも、わたしって、いつも二等賞以下の子だから」「乃木坂でも準ミスだったもんね。じゃ二等賞?」「フフ……三等賞の佳作。賞金二万円よ。これじゃ足んないから、お母さんがパートやってるお店のマスターにお金貸してもらってね。むろんお母さんには内緒でね」はるかちゃんは、二つ目のミカンを口にした。さっきより顔が酸っぱくなった。「帰ったお家に黄色いハンカチは掛かってなかった……」「じゃ……」わたしもミカンを頬ばった。申しわけな...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・49『メリークリスマス……』

  • 銀河太平記・135『大文字のPIと小文字のpi』

    銀河太平記・135『大文字のPIと小文字のpi』越萌マイ劉宏大統領は傀儡です。切り出したのは、北京から帰って、首相官邸に入ってからだ。北京では、どこに目や枝が張られているか分からず口に出来なかった。帰りの輸送機の中でも口にすることは憚られた。東京と北京の往復にはアメリカ政府の擬装輸送機を使った。同盟国のアメリカだが、機密情報の全てを知らせてやることもない。機内では、総理のお孫さんの誕生日プレゼントと、最近気にしている胃下垂の対策について話しただけだ。「ほんとうですか!?」執務室の施錠がグリーンになると同時に、岩田首相の顔は首相としては落第の赤信号に変わった。「フェイントをかまして、王春華に挨拶しようと戻ったら、気づいたんでしょう、春華も向こうからやってきました」「ああ、直接大統領にというわけではないんです...銀河太平記・135『大文字のPIと小文字のpi』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・48『大雪のクリスマス』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語48『大雪のクリスマス』松竹の富士山がド-ンと出て映画が始まった。やっぱ五十二型は迫力が違う。網走刑務所の朝から幕が開く。健さん演じる島勇作。彼の葛藤の旅路がここから始まるのだ。網走駅前で、ナンパしている欣也、されている朱美に出会って旅は三人連れになる。互いに、助け、助けられ。あきれ、あきれられ。泣いて、笑って。そうしているうちに三人の距離は縮まっていく。そして、勇作を待っている……待っているはずの(いつか、欣也と朱美という二人の若者の、観客の願望になる)妻との距離が……。そして、見えてきた……夕張の炭住にはためく何十枚もの黄色いハンカチが!それは約束のしるし、あなたを待ち続けているという妻の心にいっぱいはためく愛のしるし!エンドロールは、涙で滲んでよく見えない……。バスタオ...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・48『大雪のクリスマス』

  • せやさかい・367『真鈴の誘いを断る』

    せやさかい・367『真鈴の誘いを断る』さくら十二月の頭という時期に「ごめん、試験が近いから(^_^;)」と断られたら、たいていの場合ウソ。泊りがけの旅行とかだったら、さすがにNGだろうけど、気の置けない仲間が集まって二三時間、長くても四五時間のパーティー。ノープロブレム、問題なし。だのに、その言い訳を、わたしはしてしまった。『そっか、来春は正式に王女就任だもんね……うん、じゃ、また今度ね(^▽^)』百武真鈴は、好意的な深読みをして察してくれた。日本がドイツのみならず、スペインまで破ったことを日本人の90%くらいは喜んでいると思う。残りの10%は――ロッカールームや観客席の掃除をやっていい気になって、ほんとは呆れられてる――掃除を職業にしている人たちの仕事を奪ってる――なんて、根性の曲がってる人。あるいは、...せやさかい・367『真鈴の誘いを断る』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・47『匂いの正体』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語47『匂いの正体』茶の間に入って、匂いの正体が分かった。真ん中の座卓の上で二鍋のすき焼きが頃合いに煮たっている。その横の小さいお膳の上でタコ焼きが焼かれている……そして、かいがいしくタコ焼きを焼いているその人は……。「はるかちゃん……!」「……まどかちゃん!」ハッシと抱き合う幼なじみ。わたしは危うくタコ焼きをデングリガエシする千枚通しみたいなので刺されるとこだった……これは、感激の瞬間を撮っていたお父さんのデジカメを再生して分かったこと。みんなの笑顔、拍手……千枚通しみたいなのが、わたしが半身になって寄っていく胸のとこをスレスレで通っていく。お父さんたら、そこをアップにしてスローで三回も再生した!半身になったのは、いっぱい人が集まって茶の間が狭いから。思わず我を忘れて抱き合っ...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・47『匂いの正体』

  • 魔法少女マヂカ・299『テディ―が飛行石を持ってきてくれる』

    魔法少女マヂカ・299『テディ―が飛行石を持ってきてくれる』語り手:マヂカさて、関東大震災からの百年余りをどう説明したものか……腕組みして空を仰ぐ。ん?クマさんの頭の上、舞鶴の空に小さなクマが探し物をするようにクルクル回っているのに気が付いた。「まあ、クマのぬいぐるみが空を飛んでる!」「あ、テディ―!?」あ、マジカさーーーん!テディ―の方でも気が付いて、不細工な弧を描きながら桟橋に下りてくる。「慣れないもんで、ちょっと迷いました(^_^;)」「オートマルタが無くても空を飛べるのか?」「バージョンアップしたんで、短距離なら。オートマルタはまだ山の向こうです」「クマのぬいぐるみが喋るんですか!?」「こいつは特別でね、運転手の松本さんのようなものなんだ」「ああ、お抱え運転手!」お屋敷の使用人に例えると分かりやす...魔法少女マヂカ・299『テディ―が飛行石を持ってきてくれる』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・46『』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語46『雪の三丁目』家についたらまた雪だるま。駅でビニール傘を買おうかと思ったんだけど、里沙も夏鈴も両手に荷物。女の子のお泊まりって大変なんだ。で、わたし一人傘ってのも気が引けるので、三人そろって「エイヤ!」ってノリで駅から駆け出した。大ざっぱに言って、駅から四つ角を曲がると我が家。再開発の進んだ南千住の中でこの一角だけが、昭和の下町の匂いを残している。キャーキャー言いながら四つ目の角を曲がった。すぐそこが家なんだけど、立ち止まってしまう。「わあ、三丁目の夕日だ!」里沙と夏鈴が感動して立ち止まる。で、わたしも二人の感動がむず痒くって立ち止まる。ちなみに、ここも三丁目なんだよ~。フンイキ~!「何やってんだ、そこの雪だるま。さっさと入れよ」兄貴が顔を出した。「はーい!」小学生みたく...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・46『』

  • くノ一その一今のうち・29『潜入・1・忍者の臆病虫』

    くノ一その一今のうち29『潜入・1・忍者の臆病虫』草原と言っても見渡すかぎりが草に覆われているわけではない。製作途中で投げ出されたジオラマのように、所どころに木が生え、場所によっては小さな林のようになっているところがある。平らな草原のように見えても微妙な高低差があって、短い雨期や雪融けなどの時に水が流れたり溜まったりして、恒常的な川や池を形成するほどでは無くとも、比較的水分に恵まれたところがあって、そこに木が生えているんだろう。そういう小さな林の木に登って街の様子を観察する。百歳の老人の歯茎のような土塁の崩れが街を取り囲んでいる。土塁の幅は山手線のホームの幅ほど……所どころに教室一つ分ほどに大きくなっているところがあって、おそらくは防塁が建っていたんだろう。相応の規模だから、その昔、シルクロード的なものが...くノ一その一今のうち・29『潜入・1・忍者の臆病虫』

  • 宇宙戦艦三笠13[小惑星ヘラクレア]

    宇宙戦艦三笠13[小惑星ヘラクレア]テキサスの修理は大変、いや不可能だった。なんせ艦体の1/4を失っている。修理というレベルではなくて、艦尾を新造して接合するという大工事になる。とても備蓄の修理用資材では足りない。困うじ果てていると、ヘラクレアという未確認の小惑星から連絡があった。――よかったら、うちで直せよ――という内容だった。ズゥイーーーン警戒してアナライズしようとしたら、なんとヘラクレア自身がワープして三笠の前に現れた。ガチャガチャキュイントントンコンコンガガガグガガガパチパチ長径30キロ短径10キロほど、様々な宇宙船のパーツがめり込むように一体化した変な星だ。なにか工事か建造しているような音をまき散らし、あちこちで溶接やリベット打ちの火花が散って、絶えず星のどこかが姿を変えている。「やあ、ようこそ...宇宙戦艦三笠13[小惑星ヘラクレア]

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・45『四本のミサンガ』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語45『四本のミサンガ』「あの、これ持ってきたんです!」やっと紙袋を差し出した。「これは?」「潤夏先輩が、コンクールで着るはずだった衣装です」「あ!?まどかちゃんが火事の中、命がけで取りに行ってくれてた……!」「エヘヘ、まあ。本番じゃわたしが着たんで、丈を少し詰めてありますけど」「丈だけ?」夏鈴が、また混ぜっ返す。「丈だけよ!」「ああ、寄せて上げたんだ。イトちゃんがそんなこと言ってた」里沙までも……。「あんた達ね……!」「アハハハ……」お姉さんは楽しそうに笑った。それはそれでいいんだけどね……。「こんなのも持ってきました……」里沙が写真を出した。「……まあ、これって『幸せの黄色いハンカチ』ね!」勘のいいお姉さんは、一発で分かってくれた。部室にぶら下がった三枚の黄色いハンカチ。そ...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・45『四本のミサンガ』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 96『豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)』

    鳴かぬなら信長転生記96『豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)』織部これはパサージュだ!大橋(だいきょう)に「情報量と物量では豊盃ね」と誘われて豊盃に来ている。三国志の三都と言えば、魏の洛陽、呉の建業(南京)、蜀の成都だが、豊盃の賑わいはその上をいく勢いだ。三国志北辺の主邑で、古くから西域や扶桑との交易で栄えていた商業都市だ。街の運営は商人たちの代表が担っており、封建諸侯が君臨することもないので、自由闊達な空気が漲っている。堺のように――大名であっても護衛以上の家来を連れてはいけない――という不文律があり、三国は、街の空気を尊重し、兵たちが狼藉を働くことを戒めている。信長が妹の市と共に偵察に入ったころ、魏の曹素が慣例を破って大部隊で入城してきたことがある。輜重という輸送部隊ではあったが、物々しく装備を見せびらか...鳴かぬなら信長転生記96『豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・44『お見舞い本番』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語44『お見舞い本番』「まあ……まどかちゃん!里沙ちゃん!夏鈴ちゃん!」予想に反して、お姉さんはモグラ叩きのテンションでわたし達を迎えて下さった。ちょっぴりカックン。「「「オジャマします」」」三人の声がそろった。礼儀作法のレベルが同程度の証拠。「アポ無しの、いきなりですみません」と、わたし。頭一つの差でおとなの感覚。「クリスマスに相応しいお花ってことで見たててもらいました」「お花のことなんて分からないもんで、お気にいっていただけるといいんですけど……」「わたし達の気持ちばかりのお見舞いのしるしです」三人で、やっとイッチョマエのご挨拶。だれが、どの言葉を言ったか当たったら出版社から特別賞……はありません(^_^;)。「まあ嬉しい、クリスマスロ-ズじゃない!」「わあ、そういう名前だ...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・44『お見舞い本番』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・098『三千世界のカラスを殺して』

    漆黒のブリュンヒルデQ098『三千世界のカラスを殺して』「……三千世界ちゅうたぁね、ありとあらゆっ世界全部ちゅう意味じゃ」お風呂を上がって部屋に上がると「電気はつけじ」と言って、ベッドに仰向けになりなったままの玉ちゃんが言う。「というのは、世界中のカラスという意味ね?三千世界のカラスを殺し……」カラスというのは北欧でも不吉の象徴だ。それを殺そうというんだから、なにか悪魔的なものをやっつけたいという、言ってみれば魔王退治を志して、フルコンプを目指す勇者のようなもの。晋作が言っていたのはそういうことか?「神社ん神さぁやっちょっとね、大勢んしが祈願に来っ。中には、神社ん朱印押した誓紙を持って帰っせぇ、人と誓約をきびっときに使う者もおっ」「きびっとき?」「ああ、えと……誓約を結ぶときじゃな」「ああ、神の御名に誓っ...漆黒のブリュンヒルデQ・098『三千世界のカラスを殺して』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・43『そのボール拾って!』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語43『そのボール拾って!』ここらへんまでが、竜頭蛇尾の竜の部分。考えてもみて、たった三人の演劇部(^_^;)。それもついこないだまでは、三十人に近い威容を誇っていた乃木坂学院高等学校演劇部だよ。発声練習やったって迫力が違う。グラウンドで声出してると、ついこないだまでの勢いがないもんだから、他のクラブが拍子抜けしたような目で見てる。最初はアカラサマに「あれー……」って感じだったけど、三日もたつと雀が鳴いているほどの関心も示さない。わたし達は、もとの倉庫が恋しくて、ついその更地で発声練習。ここって、野球部の練習場所の対角線方向、ネット越しの南側にはテニス部のコート。両方のこぼれ球が転がってくる。「おーい、ボール投げてくれよ!」と、野球部。「ねえ、ごめん、ボール投げて!」と、テニス...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・43『そのボール拾って!』

  • 銀河太平記・134『日漢秘密会談・2』

    銀河太平記・134『日漢秘密会談・2』越萌マイ「漢明は部隊を撤収します」劉宏大統領の第一声は意外なものだった。秘密会談にかける我が方の目標こそが――漢明側部隊の撤収――だったからだ。岩田総理の腹積もりは――日漢双方の部隊の撤収、戦闘状態の即時停止――だった。会談の入り口で、いきなりの満額回答。しかし、お互い国を代表する大統領と首相、良かった良かった(^▽^)では済まない。「いや、せっかちな性格なので先走って申し訳ありません(〃▽〃)」通訳兼秘書の王春華は可愛く頬を染めて付け加えた。「……………!」「さっそくの建設的なお申し出に感謝いたします(⌒₀⌒)」首相の言葉を柔らかく通訳する。23世紀の今日、古典的な通訳など必要はない(95%の人間は内耳か聴覚神経にコミニケーションデバイスを組み込んでいる)のだが、半...銀河太平記・134『日漢秘密会談・2』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・42『マッカーサーの机』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語42『マッカーサーの机』で、この『竜頭蛇尾』は言うまでもなくクラブのことなんだ……。あの、窓ガラスを打ち破り、逆巻く木枯らしの中、セミロングの髪振り乱した戦い。大久保流ジャンケン術を駆使し、たった三人だけど勝ち取った『演劇部存続』の勝利。時あたかも浅草酉の市、三の酉の残り福。福娘三人よろしく、期末テストを挟んで一カ月はもった。公演そのものは、来年の城中地区のハルサイ(春の城中演劇祭)まで無い。とりあえずは、部室の模様替え。コンクールで勝ち取った賞状が壁一杯に並んでいたけど、それをみんな片づけて、ロッカーにしまった。三人だけの心機一転巻き返し、あえて過去の栄光は封印したのだ。テーブルに掛けられていた貴崎カラーのテーブルクロスも仕舞おうと思ってパッとめくった。息を呑んだ。クロスを...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・42『マッカーサーの机』

  • せやさかい・366『』

    せやさかい・366『スペインに勝ったぁ!!』さくらスペインに勝ったぁ!!……今度は分かってます。キャプテンドレークがスペインの無敵艦隊を打ち破ったんと違って、FIFAで、日本がスペインに勝ったんです。「スペインに勝ったら、キャプテンドレークを超えられるねえ!」頼子さんが言うてました。さすがは、ヤマセンブルグの王女さまです。キャプテンドレークやらスペインの無敵艦隊とか、うちはよう知りませんでした。で、分からん顔してたら、アホのうちでも分かるように説明してくれたから、ドイツとの勝負に続いてスペインに勝てるんは、キャプテンドレークが無敵艦隊を打ち破ったのと同じ、それ以上に値打ちのあることを。これで、日本は決勝リーグに進出なんやから。せやけど、今度は乗り切れへん感じがして、リビングには下りません。前から言うてるけ...せやさかい・366『』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・41『竜頭蛇尾』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語41『竜頭蛇尾』竜頭蛇尾という言葉がある。小学六年の時に覚えた言葉。最初は、やる気十分なんだけど後の方で腰砕けになっちゃって、目的を果たせない時なんかに使う言葉。担任のシマッタンこと島田先生が、三学期の国語の時間に教科書全部やり終えちゃって、苦し紛れのプリント授業。その中の数ある四文字熟語の一つがこれだった。「意味分かんな~い」クラスで一番カワユイ(でもパープリン)のユッコが投げ出す。「……いいか、先生はな、野球選手になりたかった。それも阪神タイガースの選手になりたかった。そのためには、高校野球の名門校聖徳学園に入学しなければならなかった。ところが受験に失敗して、Y高校に行かざるを得なかった。ところがY高校の野球部は八人しかいない。入れば即レギュラー。でもなあ、Y高の野球部っ...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・41『竜頭蛇尾』

  • せやさかい・365『今日から十二月!』

    せやさかい・365『今日から十二月!』さくらちょっと早いんじゃないかい?朝ごはんを済ませた留美ちゃんが部屋に入ってくるなり批評する。「せやかて、今日から十二月やでえ」「ん……まあ、人それぞれだからね」留美ちゃんは、ようできた子ぉなんで、それ以上批評めいたことは言いません。昨日の天気予報で『明日の大阪は、最低気温8度、日が上がってからも、それほど気温は上がらず、最高気温は12度程度でしょう。これは大陸性高気圧が……』てなことを言うてた。せやさかい、夕べは、お風呂あがってからは留美ちゃんと二人で冬の制服をチェックした。指定のピーコートマフラータイツ厚手の靴下イヤーマフその他いろいろなんせ、堺東の『ハンゼイ』までは自転車。きっちり防寒対策しとかんと寒い。で、うちは、朝ごはんをチャッチャと済ませて、防寒対策してい...せやさかい・365『今日から十二月!』

  • RE・乃木坂学院高校演劇部物語・40『風雲急を告げる視聴覚教室!』

    RE.乃木坂学院高校演劇部物語40『風雲急を告げる視聴覚教室!』ガッシャーン!その時、木枯らしに吹き飛ばされた何かが窓ガラスに当たり、ガラスと共に粉々に砕け散った。視聴覚室の中にまで木枯らしが吹き込んでくる。タギっていたものが、一気に沸点に達した!「ジャンケンで決めましょう!」全員がズッコケた……。「青春を賭けて、三本勝負!わたしが勝ったら演劇部を存続させる!先輩が勝ったら演劇部は解散!」「ようし、受けて立とうじゃないか!」風雲急を告げる視聴覚教室。わたしと、山埼先輩は弧を描いて向き合う!それを取り巻く観衆……と呼ぶには、いささか淋しい七人の演劇部員と、副顧問!「いきますよぉ……!」「おうさ……いつでも、どこからでもかかって来いよ!」木枯らしにたなびくセミロングの髪……額にかかる前髪が煩わしい……機は熟し...RE・乃木坂学院高校演劇部物語・40『風雲急を告げる視聴覚教室!』

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