N響恒例のMUSIC TOMMOROW 2025。今年はドイツの作曲家・指揮者・クラリネット奏者のイェルク・ヴィトマンが指揮をした。ヴィトマンの個性により今年のMUSIC TOMMOROWは近年まれに見る活気あるコンサートになった。 1曲目は今年の尾高賞受賞作品、権代敦彦の「時と永遠を結ぶ絃―ヴァイオリンとオーケストラのための」。実質的には単一楽章のヴァイオリン協奏曲だ。演奏時間は28~29分なのでかなり長いが、演奏時間をまったく意識させない緊張感があった。名曲の誕生というにふさわしい。 権代敦彦の作品は今までにも聴く機会があった。わたしはその都度注目した。新しい音とか新しいアイデアとか、そう…
2000年生まれの若い指揮者タルモ・ペルトコスキ(フィンランド出身)がN響の定期演奏会Cプロを振った。プロフィールによると、ペルトコスキはドイツ・カンマーフィルの首席客演指揮者、ラトヴィア国立響の音楽監督兼芸術監督、ロッテルダム・フィルの首席客演指揮者、トゥールーズ・キャピトル管の音楽監督に就任または就任予定という。 1曲目はコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲。ソリストは2001年生まれの若いヴァイオリン奏者ダニエル・ロザコヴィッチ(スウェーデン出身)。若い二人がコルンゴルトのこの曲をどう演奏するかと期待した。だが意外にも艶消しの音で沈んだ気分の演奏だった。コルンゴルト特有の甘さはなかった。こう…
ヴァイグレ指揮読響の定期演奏会。1曲目はプロコフィエフの交響曲第1番「古典」。愛らしい小交響曲という演奏ではなく、がっしりした骨格をもつ勢いのある演奏だった。その演奏はヴァイグレの個性かもしれないが、江藤光紀氏のプロフラムノーツを見て、ふと気が付いた。この曲は作曲が1916‐17年、初演が1918年。ロシア革命の渦中で書かれた曲だ。作品にロシア革命の影はないが(そこがプロコフィエフらしいが)、緊迫した状況で書かれたことは間違いない。 2曲目は反田恭平をソリストに迎えたプロコフィエフのピアノ協奏曲第1番。作曲は1911‐12年だ。当時プロコフィエフはペテルブルク音楽院の学生だった。習作と言っても…
津村記久子の「うそコンシェルジュ」は11篇の短編集だ。どの作品にも津村記久子ワールドが展開する。 津村記久子ワールドとはなんだろう。周囲の人の身勝手さに振り回され、悩まされながらも、なんとか身をかわす物語といったらいいだろうか。どこにでもある(あるいは、だれにでも起こりえる)困ったことだ。 表題作の「うそコンシェルジュ」はそのヴァリエーションのひとつだ。主人公はいろいろな人から相談を持ちかけられる。たとえば主人公の姪は大学のサークルで代表者から何かにつけて一言いわれる。代表者は「すらりとした色白の美人で、かなりの高給取りの四つ年上の幼なじみと付き合って」いる自信満々の女学生だ。大学にかぎらず、…
東京オペラシティのB→Cシリーズに小倉美春が登場した。ドイツのフランクフルトを拠点にするピアニスト兼作曲家だ。 プログラム前半はドイツ在住の女性作曲家たちの作品。1曲目はサラ・ネムツォフ(1980‐)の「7つの思考――彼女のような」。開演時間になると、舞台が暗くなる。小倉美春がそっと登場する。拍手は起きない。小倉美春がキーボードの前に立つ。突然スポットライトが当たる。演奏が始まる。クラシック音楽では珍しいが、ロック・ミュージックではありそうな演出と音楽だ。エレクトロニクスは有馬純寿(以下、2、5、8曲目も同じ)。 2曲目はクララ・イアノッタ(1983‐)の「ここにいる人たちは怒っている。彼らは…
マリオッティが東響に二度目の登場を果たした。前回は2023年6月だった。そのときのシューベルトの「ザ・グレイト」がすばらしかったので、今回も期待した。 1曲目はモーツァルトの交響曲第25番。「小ト短調」と呼ばれる曲だ。冒頭の弦楽器の切迫したシンコペーションのテーマの後に、オーボエが同じ音を全音で(長い音価で)吹く。そのとき空気がガラッと変わった。比喩的にいえば、冷たい一陣の風が吹くかのようだった。なお弦楽器の編成は12型だったが、チェロが4本、コントラバスが3本と、通常よりも少なめだった。低音よりも高音の比重が高い音だ。だからといって、低音が弱いかというと、そうではなくて、きちんとリズムの刻み…
ガボール・タカーチ=ナジが日本フィルに初登場した。タカーチ=ナジってだれ?と思った。タカーチ弦楽四重奏団のリーダーだった人だと知って、ああそうかと思った。インタビュー記事によると、タカーチ=ナジは2008年にミクローシュ・ペレーニのチェロを交えてバルトークの弦楽四重奏曲全6曲をフンガトロン・レーベルに録音した。「私はこれでヴァイオリンのキャリアに終止符を打ちました」と。 1曲目はそのペレーニを独奏者に迎えてドヴォルジャークのチェロ協奏曲。ペレーニはいうまでもなく高名なチェロ奏者だが、かつてはタカーチ=ナジと弦楽四重奏を組んだ仲間というわけだ。ペレーニはさすがに高齢になった。音が小さく、覇気がな…
藤岡幸夫指揮東京シティ・フィルの定期演奏会。1曲目はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏はコンサートマスターの戸澤哲夫。今回の演奏は戸澤哲夫の東京シティ・フィル・コンサートマスター就任30周年記念だ。戸澤哲夫は藝大大学院に在学中の1995年にコンサートマスターに就任した。それ以来30年。ひとつの楽団のコンサートマスターを30年続けることはあまり類例がないのではないか。 今回の戸澤哲夫の演奏は、協奏曲の演奏スタイルとしては、ちょっと珍しいスタイルだった。極端にいうと、独奏ヴァイオリンがオーケストラにオブリガートをつけるような面があった。よくブラームスのピアノ協奏曲第2番がピアノの…
パナソニック汐留美術館でルドン展が開催中だ。昨年9月~12月に岐阜県美術館で開かれたルドン展の縮小版。岐阜県美術館では約330点あったそうだ。パナソニック汐留美術館では約110点。それでも相当な数だ。 周知のように、ルドン(1840~1916)はモネ(1840~1926)と同い年だ。だが二人は対照的だった。モネは光の画家だ。輝く陽光をキャンバスに捉えようとした。一方、ルドンは屈折した変遷をたどる。前半期は黒の画家だ。モノクロームの石版画や木炭画を制作した。ところが後半期は一転して色彩の画家になる。この世のものとは思えない幻想的な色彩が溢れる。その色彩はモネが捉えようとした自然光とは異なる。 ま…
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