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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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岐阜市
出身
伊万里市
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2014/10/10

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  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百三十九)

    突然、佐伯本家の当主が小夜子の前に座り込んだ。先日の茂作の罵声に対する意趣返しかと色めきたった。「小夜子さん。あんたには、色々とすまんかった。正三のことで、色々とあったけれども。どうか、許してくれや。正三はの、逓信省の官吏さまになったんじゃ。行く行くは局長になって、次官さまとやらまで行かなきゃならんのじゃ。でな、甥の源之助に任せたんじゃ。それでまあ、あんたに連絡をさせなんだみたいで。勘弁じゃ、この通りじゃ」他人に頭を下げることなど、まず有りえない佐伯本家の当主があやまった。村一番の実力者が、小娘である小夜子に土下座をしたのだ。ざわついていた座が、一瞬の内に静まり返った。「ご、ご当主さま。おやめください。小夜子は、なんとも思っていませんから。そうじゃろう、小夜子。いけませんて、それは。どうぞ、頭を上げてください」...水たまりの中の青空~第二部~(二百三十九)

  • 恨みます(十一)

    思いも寄らぬ一樹の出現は、どう解釈すべきかと、小百合を混乱の極地におとしいれた。“どういうことなの、なんで一樹さんが居たわけ?”“あたしのこと、見張ってたの?うそ、うそ。そんなこと、あるわけないわ”タクシーに乗り込んだ小百合は、激しい動悸にさいなまれた。一樹の腕の中に、しっかりと抱かれているのだ。シトラスの香が、小百合の鼻腔を刺激した。エレベーター内での煙草と体臭の入り交じった臭いではなく、柑橘類の爽やかな涼風が、小百合を包んだ。もう一度会いたいとは、思った。お礼をする為に会わなくちゃ、と考えた。しかしまさか、それが今日だとは。信じがたいことだった。「かかりつけの医者は、います?」一樹の吐息が耳を攻める。しかし小百合には記号のように感じられて、意味不明だった。体がふわふわと宙に浮き、鼓動がさらに激しくなっていく...恨みます(十一)

  • 恨みます(十)

    「あの日かしら、吉永さん」「よっぽど、重いのね」これ見よがしに囁きあう声を背に、「課長、申し訳ありません。」と、頭を下げた。「ああ、いいよ、いいよ。吉永さんも女性だったんだね。再確認しちゃった」泣き出したくなる思いをグッとこらえながら、部屋を出た。ときおり吐き気が襲ってくることが、最大の苦痛だった。「詐欺だぜ、まったく!」。チカン男の言葉が、頭の中で何度もこだました。“好きでブスに、生まれたわけじゃないわ!”廊下ですれ違う社員たちは、うつむき加減で歩く――足を引きずっていく小百合に、目をひそめた。“堀井さんに、お礼しなくちゃ”突然、小百合の中に一樹の心配げな顔が浮かんだ。キュン!と、胸が締め付けられもした。“もう一度、会えるわ”「お大事に、ね」。受付嬢から、声がかかった。課の方から連絡が入っていたこともあり、無...恨みます(十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百三十八)

    そんな陰口など、どこ吹く風とばかりに「そらそら、お着きじゃ、お着きじゃて。準備は出来とろうな?村の衆には座ってもらおとるか?」と、声を張り上げる。「もう皆さんには、お座りいただいております。ただ、村長さんがまだお見えじゃ……。」「村長は来ぬ、出張だと。陳情に行って来るとかで、昨日出かけた。むりやり作ったんじゃろう。のお、これから張り合うものじゃから。ま、いい。おらぬ方が、いろいろとの」頭を畳にこすり付けての初江の報告に、大婆は素っ気ない。繁蔵の目が、初江にあやまっている。“もうちーと、待ってくれ。なあに、婆さまもとしじゃ。長くはないんじゃ”「さあさあ、皆の衆。お待たせしましたの、ご到着じゃご到着じゃ。さあさあ、祝うてくだされ」大婆の先導で、武蔵と小夜子が屏風の前に座った。「ほおー!」。一斉に感嘆の声が洩れた。「...水たまりの中の青空~第二部~(二百三十八)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百三十七)

    式前夜のこと。「お父さん。今まで、ほんとにありがとう。わたしの我がままを通させてくれて。これからは、いっぱい親孝行するから」目にいっぱいの涙を溜めて、小夜子が言う。「い、いや、そんなことは……。それより小夜子、ほんとにこれで良いのか?正三じゃなくて、良いのか?まだ間に合うぞ。どうなんじゃ?」「いいのよ」。小夜子がきっぱりと言い放った。「縁がなかったのよ、正三さんとは。お別れはすんでるし」「そうか、そうか。この……わしなんかの為に。すまんのう」「なに言ってるの!わたしは望まれて行くのよ。三国一の花婿さんに望まれて行くのよ」“そうよ、そうよ。わたしは幸せ者なの。財産すべてを、わたしの為につかい果たすんだから。これからもわたしの好きなようにしていいって、言ってくれたのよ”“みんな褒めてくれてるじゃない、あの婆さまだっ...水たまりの中の青空~第二部~(二百三十七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百三十六)

    ひとみと言う女、年のころは二十代前半か?痩せぎすの体型が若く見せるきらいがあると考えると、後半かもしれない。顔立ちは、不美人ではないけれど、美人でもない。正三の知る女性ー小夜子を除けば、年上ばかりだ。源之助の息がかかった女性で、正三の教育係りのようなものだ。痒いところに手が届かんばかりの対応をしてくれる。正三の目線の動きで察知し、口に出すまでもなくことが済む。選民だと意識させられている正三にとっては、実に居心地の良い場所だ。「いいか、正三。我々は選ばれし者なのだ。日本国民を正しい道に導くために選ばれたのだ。ユダヤ民族が選民であるように、我々官吏はお上に選ばれし選民なのだ。その自覚を常に持って行動をしなさい」そんな正三を認めない女性ーそれが、小夜子だった。そしてそれが苦痛にならない正三だった。あの再会の日までは。...水たまりの中の青空~第二部~(二百三十六)

  • 恨みます(九)

    「課長。申し訳ありませんが、きょうは早退させてください」「うん?どうした、吉永くん。早退したいだなんて、君らしくもない。淋しくなるじゃないか、君が居ないと。まさか、デート、かな?いや、それはないか。太陽が西から昇ることがあっても、君がデートというのは有り得ん・・。どうした?気分が悪いのか?分かった、分かった。すぐ、帰りなさい」真っ青な顔色の小百合に気付いた課長の木下が、慌てて課内を見わたした。「えぇっと、誰か、居ないか、と。おぉっ、山本さん。すまんが、吉永君をたのむよ」クスクスと失笑がこぼれていた課内に、サッと緊張が走った。「今日の課長、いびり過ぎだぜ」「ちょっと、今日のはきつかったな」「来たときから、何だか辛そうだったよね」「うん。顔色、悪かったね」いつもは課長のいびりを愉しんでいる女子社員たちも、今日ばかり...恨みます(九)

  • 恨みます(八)

    「もしもーし。あ、奥さんですかあ?ぼくです、堀井です。奥さんを一番愛してる、一樹でーす」「一樹くん?何やってんのよ、あんたって子は!今日は当番でしょうに、まったくもう。で、今どこなのお?」甘ったるい声が、一樹の耳に入ってきた。「実はですねえ、ぼくの奥さーん。カモをですねえ、引っかけられそうなんです。ホントですよお。寝坊した言い訳じゃないですよお。証拠を聞かせますね」水を運んできたウェイトレスに、携帯電話に出るよう手渡した。怪訝そうな顔をしつつも、手を合わせて哀願する一樹に苦笑いしつつ「もしもし」と、呼びかけた。「あなた、誰?誰なの!」「あ、あたしは、喫茶・ボヌールの者ですけど」「いいわ、代わって!」。キツイ言葉が飛んだ。「なんなの、この人」。一樹に頼まれて電話を替わっただけだというのに、と一樹をにらみつけた。「...恨みます(八)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百三十五)

    「ちょっとやり過ぎか?」「出入り禁止なんてことにならんだろうな?」「新聞沙汰になりでもしたら、とんでもないぞ」「いやそこまでには、ならんだろうさ」「いやいや、客の一人が面白おかしく喋ったら……」ひそひそと話し合うが、今夜の正三を制御することは難しいことだった。「佐伯君、局長の立場を考えなくちゃね」杉田の耳打ちに、やっとひとみの手を離した。正三の急所を突かれた。どんなに酩酊していても、源之助を忘れることはない。じっとひとみを見つめる虚ろな正三。力なく、離れ行くひとみに手を振りつづけた。「何を言ったんです?課長。」「なに、大したことじゃ。佐伯君の急所を突付いただけさ。彼を黙らせる唯一をね」「何です、それは。後学のために教えてくださいな」「いやいや、こればかりはね。さあさあ、飲み直そう」「そうおっしゃらずに。我々だっ...水たまりの中の青空~第二部~(二百三十五)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百三十四)

    大きな箱の中に入れられたひとみが、ほんの数秒後には箱から忽然と消え失せていた。拍手喝采をマジシャンが受けた後、ステージの裾からひとみが現れ出るに至って、割れんばかりの拍手が沸いた。そしてメインの胴体のこぎり切断ショーでは、またしてもひとみの独壇上となった。「それではこれから美女が、棺桶に入ります。無事この世に生還できましたら、是非とも拍手大喝采でお迎えを~!」「なに、この床は。お布団かなんか欲しいわあ。お尻が痛いやん。ちょっと、待ってえな。心積もりもありますさかいに」「ああ、あ、あ、のこぎりの刃が、うちの白玉のような肌に当たってるう」「あっ、あっ、痛い!あっ、あっ、閻魔はんがお迎えに。ちゃう、ちゃう、天使はんがお迎えに……」そして大のこぎりで棺桶なる箱が二つに切り離された。そしてその離された箱が再び戻されると、...水たまりの中の青空~第二部~(二百三十四)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百三十三)

    「それ、切れるの?ちょっとそこの木を、切ってみて。ええ、ほんとに切れるんだ。恐くなってきたわ、うち。大丈夫なのよね、死ぬことはないわよね。まだ男を知らないんだから、今夜は処女よ」マジックの内容を説明している助手の声を掻き消さんばかりに、喋りまくっている。しかしマジックの説明は当を得ている。助手の説明よりもわかりやすく、客の間からやんやの喝采を受けた。両手を大きく広げて、マジシャンがお手上げだとばかりのポーズを見せた。口に指を立てるマジシャンだが、ひとみの独演は止まらない。「この箱に入って、体を横たえるのね。それじゃ皆さん、さようなら。二階のしょう坊、今夜はありがとう。もしこのまま還らぬ人になったら、お線香の一本でもお願いね」ひとみに呼応するように、二階席の正三たちにスポットライトならぬ懐中電灯の灯りが当てられた...水たまりの中の青空~第二部~(二百三十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百二十九)

    「申し訳ございませんでした、杉田さま。当方の手違いで、このような場所にご案内いたしまして。ただいまお席のご用意ができましたので、どうぞお二階の方へ」薫の悪戦苦闘ぶりに気づいたマネージャーが、2階席に用意させた。杉田の来店には気づいたのだが、いつものひとり来店と決めつけてしまったことを悔やんだ。そして正三に対する他の者たちの気の遣いようから、相当の上客になると判断もした。「本日のご会計は、大サービスさせていただきますので」と、杉田に耳打ちする。それが隣に陣取っていた正三に聞こえた。「不愉快です、ぼくは。金をけちろうなどとは思わない。楽しませてもらった分だけは、きちんと正当に払います。信用できないと思われるなら、前金でもいいんだ!」“職員の前では、尊大にしろ。店の女どもになめられるようなことはするな。金払いもキチン...水たまりの中の青空~第二部~(二百二十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百二十八)

    「薫ちゃん、マネージャーを呼んでよ」。泣き顔をみせながら杉田が言う。素知らぬ顔で「どうして?」と女給がききかえす。「坊ちゃんの、初めてのキャバレーでこんな思いをさせられるなんて、実に情けない」「たしかに!あまりに失敬だ」。「我々だけのときでさえも、こんな場所には着かない」。小山と坂井がかみついた。杉田は怒り出した部下を、ただただオドオドと見るだけだ。正三自身も、この場所には納得がいかない。腹だたしくも思う。しかしここは、小夜子の働いてたキャバレーではないのか、そんな思いがわいている。すぐにも席を立ちたい、いや立たねば男がすたる、そう思う。しかしその裏では、小夜子の、ある意味神聖な場を汚してはならぬもそうも思えている。いつもは寡黙な津田が「いつもの料亭に行きましょう、坊ちゃん」と、席を立った。料亭と言う言葉に、薫...水たまりの中の青空~第二部~(二百二十八)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百三十九)

    突然、佐伯本家が小夜子の前に座り込んだ。先日の茂作の罵声に対する意趣返しかと色めきたった。「小夜子さん。あんたには、色々とすまんかった。正三のことで、色々とあったけれども。どうか、許してくれや。正三はの、逓信省の官吏さまになったんじゃ。行く行くは局長になって、次官さまとやらまで行かなきゃならんのじゃ。でな、甥の源之助に任せたんじゃ。それでまあ、あんたに連絡をさせなんだみたいで。勘弁じゃ、この通りじゃ」他人に頭を下げることなど、まず有りえない佐伯本家の当主があやまった。村一番の実力者が、小娘である小夜子に土下座をしたのだ。ざわついていた座が、一瞬の内に静まり返った。「ご、ご当主さん。おやめください。小夜子は、なんとも思っていませんから。そうじゃろう、小夜子。いけませんて、それは。どうぞ、頭を上げてください」慌てて...水たまりの中の青空~第二部~(二百三十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百二十七)

    店の中から女給たちの嬌声に送られて男たちが出てきた。皆が皆、高揚した観で、緩みっぱなしだ。中には女給に抱きついて「キスしてくれなきゃ帰らないぞ」と懇願したりする者もいた。「もう一度入る?」。「こらこら、もう帰るぞ」。そんな会話が聞こえる中、別の一団がボーイに促されて店内に入っていく。大きなドアが開いたとたんに、中からブラスバンドの音が漏れてきた。と、今の今まではしゃぎ回っていた正三が、突然黙りこくった。キャバレーと聞いた折に正三の頭に浮かんだのは、初めて東京の地を踏んだあの日のことだった。「生バンド演奏を聞きたいわ」。駅のホームに降り立ってすぐの、小夜子のことばを思い出した。あの日は、小夜子に振り回され続けた一日だった。腹立たしいはずの、屈辱的な一日だった。はずなのだ。しかしそれが正三の胸を甘酸っぱさで一杯にな...水たまりの中の青空~第二部~(二百二十七)

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