中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(104)
アンゲロス・シケリアノスの詩が一篇だけ訳されている。詩集の最後に置かれている。「パーン」。浜の石にも錆色の山羊の熱気にも静寂が落ち、「静寂が落ちる」。この「落ちる」は強烈だ。真昼の光のように、空を超える高みから、まっすぐに、垂直に落ちてくる感じがする。この「落ちる」と、その後の「昇る」を経て「立ち上がる」という動詞の動きがつづくのだが、「落ちる」が強烈だけに「立つ」も鮮明になる。その「立つ」は最後の行にも登場するが、それは書かれていない「立つ」を浮かび上がらせる構造になっている。一行だけの引用なので、まるで謎解きのような書き方だが、それが実際にはどういう行、どういうことばの動きなのかは、ぜひ、詩集で確かめてください。「静寂」ということばがくれば、私はついつい「つつむ」という動詞を思い浮かべてしまう。ギリシ...中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(104)
2024/04/29 21:55