中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(93)
ここからはヨルゴス・セフェリスの作品。最初は「愛の歌」。風のバラが無知なぼくらをさらったのだね。この一行の「意味」はわかったようで、わからない。風、バラ、無知、ぼくらということば交錯する。「さらう」という動詞が、その交錯をさらに攪拌する。万華鏡をのぞいたときのように、何か、とてもあざやかなものを見たという印象がある。しかし、それを論理的に説明することはできないこの一瞬の混乱、そしてその混乱を美しいと思うとき、そこに詩が存在する。中井のように論理的な人間が、この混乱を混乱のまま一行にしているところに、中井の訳詩のおもしろさがある。「論理的に説明してもらえますか?」と質問してはいけないのである。**********************************************************...中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(93)
2024/03/31 21:58