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2011/01/21

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  • 孤火の森 を書き終えて

    孤火の森をお読みいただき、有難う御座いました。今回、孤火の森で一番最初に浮かんだシーンは、同じ姿をし、髪の毛を結ぶどころだけが違うポポとブブが逃げるように走っている姿でした。ストーリーの最初のシーンです。以前、『辰刻の雫~蒼い月~を書き終えて』で書いていましたが『次回からは先に書き出していたものが完全にストップしてしまい、次に書き出したものをアップしていきたいと思います。(今頑張って書いていますが、なかなかストップした先が浮かんでこない状態です)』そのストップしてしまったというところが””アーギャン””という言葉を打った途端でした。”アーギャン”と打ってからは全く何も浮かばなくなってしまい、完全にストップをしてしまいました。多分、年単位でストップをしていたと思います。それがある日、絞り絞りですが書けるよう...孤火の森を書き終えて

  • 孤火の森 第84最終回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第80回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第84回キリアスがすぐにサイネムを見たが、後ろに居るザリアンと話しているようである。「遅い。それに八人が限界か。まだまだだ」これでは森の制圧にでも入って来られれば、すぐに押され負けてしまう。「すみません」サイネムがすっとジャジャムの真後ろに入り込むと指を組み形を変える。呪を唱えるのはザリアンに比べてほんの短いものであった。残っていた十一人全てが無表情になり歩を出した。「あ・・・」キリアスの目の前で残っていた従者たちが引いて行く。残ったのはワゴンに載せられた料理だけであった。ジャジャムがキリアスの前までやって来ると、無造作に扉に手をかけ押し開いていく。キ...孤火の森第84最終回

  • 孤火の森 第83回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第80回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第83回小屋に行ってみると何かが居た、そう感じたと言う。そして船の上でサイネムが怒った時、あの時はあまりのことに気付かなかったが、こうして再会してみるとあの時のサイネムから発せられたものが、小屋に居た何かと似ているような気がしたということであった。それにあの時はドリバスが気になることを言っていた。父の話をドリバスから聞けるかもしれないと思った方が先に立ってしまっていた。「そうですか。あの時は本当に申し訳なかった。でも残念ながらわたしではありません」「残念ではなくて良かったと思っています。すみません突然に。それじゃあ、戻ります」もしサイネムが居たと言った...孤火の森第83回

  • 孤火の森 第82回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第80回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第82回部屋の中から声がする。一つはサイネムの声だということは分かるが、もう一つは少女の声。ということはさっき熱を出していた少女しかいないが、元気そうな声である。何故だろうかと、ドリバスが首を傾げている。サイネムは呪でゼライアの熱を下げたはず。だが普通に考えると熱さましも飲まず、ましてやこんなに短い間に熱が下がるはずなどない。いま戸を開けゼライアの元気な姿を見せると怪しまれるだけだと考えたザリアン。「さっきはあそこで何をしていたん・・・ですか?」「ああ、わたしもリンゼンも呪師でね、あそこで・・・ああー!」急に大声を出したドリバスがリンゼンを見る。リンゼ...孤火の森第82回

  • 孤火の森 第81回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第80回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第81回朝の食事を終えるとザリアンがサイネムの家を訪ねて来た。これから特訓であるが、その前にサイネムが別の事で口を開く。「話したか」「はい。ナーナリアに女州王とキリアスのことを訊いたそうです。あ、あくまでも名前を出さずに」そして思うところがありピアンサに話を聞いてもらいに行ったが、話す中で頭の整理が少し出来たということであった。「それで?」「ブリテルは女州王に落ち度はあったけど、キリアスに笑んでいてほしいと考えたこと自体は罪ではないのではないかって。人を傷つけたくて傷つけたのではないって」「それで?」「え?それしか言ってなかっ・・・言っていませんでした...孤火の森第81回

  • 孤火の森 第80回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第70回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第80回いつの間にかキリアスが寝息を立てていた。千歳は柿人国王との話の様子を、のちに笙から聞かされていた。『紫式様が途中で入って来られてお話が一部頓挫してしまったのは残念で御座りましたが、ほんに、異国の民でありながら他国の民の心配もして下さり、有り難き限りで御座りましたぁ』そして時折見ていたキリアスの様子は、清々しいものであったと言う。『清々しいとは?』『気付いた者は居ないと思いまする。人の為に恥というものをご自分にお塗りになられておられました』毎日昼間に紫式と話しているだけではなく時折兵とも話していた。兵には上下関係がある。それは当たり前ではあるが、...孤火の森第80回

  • 孤火の森 第79回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第70回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第79回「今日は客人があったとか?」「ええ、ちょっとした知り合いです」今日もジャジャムと夕食を食べている。どうしてジャジャムは夕食を誘いに来るのだろうか。「ああ、簡単なことです。ずっと一人で食していましたが、寄る年波にはかないませんで寂しくなってきたんです。キリアスであればお相手をして下さると思いまして。お嫌ですか?」「いいえ、そんなことはありません。ただ、どうしてかと思っただけです」するとジャジャムがおかしなことを言いだした。オリシオンはずっとキリアスを疑っていたようだが、ジャジャムはそうではなかったと。だがセイナカルに言われ、キリアスの周りを探って...孤火の森第79回

  • 孤火の森 第78回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第70回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第78回「切り替えると言えば」キリアスは相手の立場になりすぎていた。もっと頭を切り替えて考えなくては、まともに旅が出来なかっただろうに。そう考えていた。そしてキリアスはあの時に聞いた話とは全く違う別人のようだったと思っていたのだった。聞いた話のあとにキリアスに何かがあったのか、それとも聞いた話が誇張されたものだったのかと考えていた。「それとなく訊いてみるのもいいか」聞いた話というのはキリアスの旅の途中での話であった。間違いなくジャッカ州のキリアスと言っていたというし、父が総兵隊長で剣を鍛えられたとも言っていたと聞いた。人違いではないはず。キリアスからは...孤火の森第78回

  • 孤火の森 第77回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第70回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第77回またもやじわじわと青い海と空の色がくすんでゆき、全体が薄灰色になったかと思うと、今度もじわじわと違う場面が現れてきた。その場面に色が付いていく『これは・・・』先ほど見た夢と同じ。カーシャンがセイナカルにキリアスを紹介し、場面が変わったかと思うと、呪を使わなかった理由を小さな声でジャジャムに告げているセイナカルがいる。『呪を使わないのは、キリアスが居ない事に肩を落としているカーシャンを見て、誰もが熱い視線ではなく、憐憫な視線を送っているの。だから』どういうことかとゼライアが首を傾げ、この二つの場面がある意味での起点かとサイネムが憶測している。また...孤火の森第77回

  • 孤火の森 第76回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第70回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第76回「長い道のりをご苦労でした」相手の格好を見て何をしに来たかは想像がつく。名を名乗り穏やかな顔でサイネムが言った。「サイネム・ローダルにお会いすることが出来るなんて、夢にも思っていませんでした」「単なる孤火の森の民です」「そのようなことは」気配を探ろうとした時、その相手が森の民と気付きサイネムとゼライアのところにすぐに知らせに行った。どこかの森の民が来ていると。そしてその背には大きな袋が背負われていた。「すぐに女王もこちらにいらっしゃいます」少しすると前を歩くザリアンとその後ろを歩くゼライアが現れた。孤火の森の民以外と会う時、話すという時には必ず...孤火の森第76回

  • 孤火の森 第75回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第70回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第75回夢の誘導をすると、誘導された先が良い記憶のあった事柄ならば要らぬ心配であるが、後悔などをしている場合にはそれに関する色々な記憶が次々と蘇ってくる。すると夢を見ている本人がいろんな記憶に混乱を起こし歯止めが利かなくなり、その場に居る者がそのどこかの記憶に引きずり込まれるということが起きる。そして夢を見ている本人は混乱を起こし夢から覚めることが多いが、稀に混乱する夢の中で彷徨い、起きることが出来なくなってしまうこともある。(ここは・・・)昨夜のように、暗い灰色の背景の中にしなった茨の形をした徴が広がっているわけではなかった。徴の夢は見ないということ...孤火の森第75回

  • 孤火の森 第74回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第70回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第74回急に暗転をしたと思ったら、次には少女ではなく女性の姿のセイナカルが映った。そのセイナカルが呪を使いだした。ゼライアが呪の先を見る。そこには一人の美しい女性が井戸の端に立っていた。その女性が一瞬意識を飛ばした時、身体がよろめき大きな音をたて井戸の中に落ちた。すぐに人が集まってくるのが見え、女性は助け出されたが顔から身体から血を流している。だがこれが真実とは限らない。あくまでもセイナカルの夢である。呪をかけているセイナカルはこの場に居なく、この場を見ることは出来なかったはず。この場面は後に聞いた話をセイナカルが想像し作っている場面ということになる。...孤火の森第74回

  • 孤火の森 第73回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第70回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第73回『困ったことが無くても、いつでもまた来てくれ』とサイネムや森の民たちに見送られキリアスが森を後にした。やはり噂に聞く残忍な森の民ではなかった。「サイネム」ゼライアに呼ばれキリアスを見送っていたサイネムが振り返る。「アーギャンのことも気になりますが今のキリアスの話も」「ああ、順を追って話そう」三人でゼライアの家に入ると、まずはアーギャンのことから話した。とは言ってもアーギャンを移動させた時にはゼライアと視覚の共有をしていた。そこのところは話す必要はない。移動させた後、一週間アーギャンの様子を見ていたが、元の場所に戻るという様子は見られなかった。だ...孤火の森第73回

  • 孤火の森 第72回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第70回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第72回馬を駆けさせ森にやって来た。目の前には草原が広がっている。ゆっくりと馬を歩かせる。左の方向に小屋が見える。兵たちが色々言っていた小屋がこれなのだろう。その小屋に向かって進行方向を斜め左に変える。小屋の前にはいくつかの手綱掛けがある。馬から降りそこに手綱をかけると森を見た。一面に広がる緑の葉を付けた木々が見える。この森には一度も来たことは無かった。この森が死んでいたという想像ができない。鞍に付けていた木箱から花の束を出し手に持った。そして一歩ずつ森に向かって歩いて行く。あと一歩で森に入るというところで足が止まった。やはり迷わされたら、と考えてしま...孤火の森第72回

  • 孤火の森 第71回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第70回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第71回旅から戻って来て全く違っていたキリアスだったのに、カーシャンに対してだけは昔と変わらなかった。少々口うるさいところはあったが、カーシャンに向けられる目は昔と同じだった。「きみは人が好過ぎる。まぁ、そうさせていたのは僕だけどね」だがさせられていたとしても、潰そうとしている相手にあんなに優しい目を向けるなんて。「ああ、それが・・・君か」上げていた顔を下げ、数歩歩くとベッドに腰掛ける。「でもね、わたしはきみを見ていると、あの時のことを思い出して嫌だったんだ」キリアスが他州、他国へ行ってしまい数日が経った頃、イジメに遭うことになった。理由は相手から告げ...孤火の森第71回

  • 孤火の森 第70回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第60回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第70回たとえ相手が釧路と言えど、城に入り不思議な声を聞いたとか、鍵が降ってきたとか、道案内をされたなどという話は出来ない。無難な方に話を振る。「仔犬だったイヌが十年も白玉の臭いを覚えていたとか、医者先生とカブキが俺を助けてくれた時って隠れ家が兵に見つかったんだ。それで逃げてたのを助けてもらったんだけど、どう考えても兵に隠れ家が見つかるはずはなかったんだ。祇園に助けてもらってからは、ずっと外には出ないで籠ってたのに」「うーん・・・犬の医者ではありませんから、イヌのことは何とも言えませんが、兵はねぇ・・・侮らない方がいいですよ。ましてやあの時の兵は必死の...孤火の森第70回

  • 孤火の森 第69回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第60回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第69回どこにいったのかと白玉が辺りを見るがどこにも見当たらない。だがここで一緒に探すとも言えず戸を開けると、そこに落ちているではないか。「あの、この紙で御座ろうか」紙を拾い上げピラピラと振ってみせ、それを読み上げるようにする。「えっと、葡萄酒畑―――」そこまで読むと今津以外の全員がドドドと押し寄せてきた。白玉を囲むようにその紙を見てくる。白玉が目の前にいる周南に紙を渡し、周南がそれを読み上げる。「葡萄酒畑以下全て取り止め」「え?」全員がその口のままで止まっている。周南が表裏を変え全員に見せる。周南の言うようにその文字が書かれ、その下には場所も書かれて...孤火の森第69回

  • 孤火の森 第68回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第60回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第68回一陣の風が吹きサイネムの白銀の髪が舞った。(歩いて三、四日ほどの距離)自分の身体を一度上から見ると目線を変え、右手方向を見る。飛んでいる状態で徒歩の感覚がつかめるだろうかとは思うが、千歳は高い崖があると言っていた。それが一つの目安になる。右手の方向に飛んでいく。海沿いを暫く飛んでいると、砂浜が姿を消し岩浜が多くなっている所に来たが、そこには人家が見える。ここにアーギャンを連れてくるわけにはいかない。それに千歳の言っていた高い崖がどこにも見えない。(まだまだ先と言うことか)「なんだと!」総兵隊長が大声を上げた。まさか皇子が勝手に銃を受け取っていた...孤火の森第68回

  • 孤火の森 第67回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第60回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第67回長い船の旅を終え船を降りると、馬車を乗り継ぎ七日ほどでやっと着いた。「ここがアンチの」船の中でサイネムが『若頭』と言った時『若頭はやめてくれ。もう群れの人間でもなければ、ジャッカ州の人間でもない。安智で頼む』と言われていた。荒波の中に凸凹とした岩がいくつも見える。「ああ、オレの・・・オレ達の郷」船に乗っているときに見た波とは全然違う。白波を立たせ岩にぶつかる。白波が浜を打ち付ける。「荒い波ですなぁ」ドリバスとリンゼンはジャッカ州を出て転々としたが、その時に海は見ていた。だがこれほどに荒い海を見たことは無かった。「アーギャンはどこに」見渡した限り...孤火の森第67回

  • 孤火の森 第66回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第60回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第66回『二人とも呪師でリンゼンとドリバス』一人づつを指して言ったが、名前だけで男か女かは分かる。それに安智はリンゼンという名を波路から聞いていた。そのリンゼンがどういう環境にいた者かも。リンゼンとドリバスは、波路であるリョーシャンと別れてからもずっと一緒に居た。そしていつまでも州兵に怯えて暮らすのは心臓に悪いということで、ジャッカ州を出ようということになり、隣の州では心許なく幾つもの州を越えたということであった。『前に話していたリンゼン。あの時、女王の森に居た呪師だよ』波路、その時はリョ―シャンという名で兄である安智を探していた。たった一通しか届かな...孤火の森第66回

  • 孤火の森 第65回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第60回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第65回三人が椅子に掛けるとオリシオンが口を開いた。カーシャンが武器庫から剣を少しずつ取らせ、それをまとめると国交、州交に出た折、銃に換えさせていた。どうしてキリアスがそれに気づかなかったか。「最後尾二台の馬車が、どんな動きをしているかまでは見ておられなかったでしょう?」二台の馬車が道筋を変えていた。そして少し行ったところで待っていた銃の売り屋と合流し、その場で銃と剣を交換すると何食わぬ顔で馬車の列に戻って来ていた。「それを段取っていたのがニッポニャンの皇子セミマルです」「え?皇子が?」オリシオンが頷くのを見てキリアスが続ける。「では皇子は何もかもご存...孤火の森第65回

  • 孤火の森 第64回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第60回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第64回あくまでもシラを切るようである。側仕えに目顔を送ると、扉の方に歩いて行き、その二枚扉を大きく開けた。すると小隊長であるケリスによって台が押されてきた。その台には国交によって手にしてきた、おびただしいほどの数の銃が載せられていた。ケリスはオリシオンに言われ、ずっと銃の監視をしていた。振り向いてその様子を見ていたカーシャン。そのカーシャンがゆっくりとセイナカルを見る。その顔が微笑んでいる。「我が州の剣をその銃に換えられて、どうしようと思っていらっしゃるのかしら」このジャッカ州では銃はまだ認めていない。カーシャンが両の眉を上げ、ようやく手をテーブルと...孤火の森第64回

  • 孤火の森 第63回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第60回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第63回祇園がしてくれていた配膳、そして何度も拒否をしとおした下(しも)のことを、この白玉が祇園に代わってしてくれていた。「なんということは御座らん。息災でお暮し下されんこ―――」「白玉!」“れんこん”と、最後まで言おうとした前に祇園の声が飛んできた。この祇園の声は何度も聞いていたし、祇園からもどうして白玉が里帰りをしてきたのかも聞いていた。「お・・・お暮し下され」思わず岩国が吹き出し、釧路が大きなため息を吐く。「うん、ありがとな」今津の顔は腫れも引き傷も治ったものの、縫い合わせた後が少々残っている。釧路なりにかなり丁寧に縫ったのだが、全ての傷がスパン...孤火の森第63回

  • 孤火の森 第62回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第60回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第62回「最初に、どうして最初の最初にアーギャンは海の民の前に現れたんだ?」そこのところをサイネムは話していないし、ゼライアも時の女王からの教えに無い。きっとサイネムも時のローダルからの教えは無かったのだろう。「きっとその事は時の女王も考えたと思う」「でも分らなかった?」ゼライアが首を振る。「え?分かってた?」そうであるのならば、そこを解決すればいい話ではないか。「女王の教えの中には生態に関することもあるの。でもその殆どは森に住む生き物の事。森の民は海には住まない。だから海の生き物の生態のことは詳しくは分からないの」分かっているのは寒い地方に住む陸海両...孤火の森第62回

  • 孤火の森 第61回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第60回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第61回若頭がチラッと見ると、目は閉じられたままではあったが、サイネムの表情からはザリアンからの質問の受け答えは許されるようである。「そこに書かれてあったのが、アーギャンのことだった。俺が実際に読んだわけではないが、書かれてあることを伝え聞いた。アーギャンを鎮められるのは・・・森の女王だと」え?と言って静かに聞いていたゼライアが思わず若頭を見た。それを代弁するかのようにザリアンが口を開く。「いや、待ってよ、沈めるって、どういうことだ?海に沈ませて息をさせないってことか?そんな風に書かれてたっていうのかよ」それではさっきサイネムが言っていたこととは違って...孤火の森第61回

  • 孤火の森 第60回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第50回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第60回「向こうでそれなりにある程度の知識は入れてきたつもりだったんだがな、残念ながら森の民の情報は殆どなくて。ましてや街の民のことは多少の知識としてはあったが、この国に入った時にはこれ程に色んな髪の色や瞳の色があるとは思ってもいなかったしな」初めて街に入った時には、あまりの色とりどりの髪の色や瞳の色に驚いた。それも黒以外を初めて見たのだ、百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ、と感心どころか驚きのまま固まってしまったほどであった。「へぇー、こっちで当たり前のことも知られてないってことか?」たしかにこっちでも森の民のことはあまり知られてはいないが、それ...孤火の森第60回

  • 孤火の森 第59回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第50回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第59回お頭の話を聞き、我が甥ながら情けなくなってくる、と思った時に気付いた。若頭はさっき、お頭が若頭のことを山の民ではない事に気付いていたと言っていた。それに月の満ち欠けから満潮という言葉も発していた。月の満ち欠けや潮のことを知っているのは一つの民しかいない。それにアーギャンのことにしてもそうだ。「若頭はそのニッポニャンの海の民なのか?」いや、と言った若頭の口がニヤリと笑っている。何度か見た笑い方である。決して嗤笑(ししょう)しているのではない事は分かっている。これがこの若頭の笑い方なのだと。「ニッポニャンには海の民とか、山の民、森の民、どこかの民な...孤火の森第59回

  • 孤火の森 第58回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第50回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第58回海の民がやって来るのは、決まって海での困りごとを何とかしてほしいというものであった。話の内容で薬草を渡す時もあったりはしたが、それだけでは治まらないこともあった。そしてこの時、海の民から話を聞いた時の女王は、話しの中のあまりの惨状に『なんということ・・・』と言い、森を出ることに時のローダルから反対をされながらも、海まで出向きアーギャンに対峙したということであった。「アーギャンとて、海ならば海だけであったのならば、時の女王もアーギャンを抑えることをしなかったでしょう。海の民が海に入ればアーギャンだけではなく、他にも命を脅かされるものは居るのですか...孤火の森第58回

  • 孤火の森 第57回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第50回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第57回「街の民か。まぁ、無難か」笙が送ってきてくれた本を波路も端から端まで読んできたようである。ならば何も心得を言って聞かせなければならなくはないだろう。笙の送ってきてくれた本は事細かに書かれていたのだから。そう思えば波路とてもう二十三の歳になる。いつまでも子供ではないのだった。「髪、伸ばしてんだ」三つ編みにされた髪が長く背中に垂れている。「ああ、切ると郷との繋がりが切れるような気がするし、何よりも見つけられるまではってな、願掛けのようなものだな」「そっか、安心して。誰も兄貴のことを忘れてないから」安智が一つ微笑むと今度は安智から問いかける。「みんな...孤火の森第57回

  • 孤火の森 第56回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第50回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第56回セイナカルとジャジャムが話している時に声をかけてくるなどと何があったのだろうか。こちらを向いたセイナカルに小さく頭を下げると「どうしました」と側仕えに向き合った。もし側仕えが言いにくそうにするのならばこの場を離れるが、そうでなければこのまま聞く方がセイナカルも納得するだろう。「オリシオン様がセイナカル様に急ぎ御目通りをと」オリシオンはセイナカルが州王に付けた側近である。だが州王はオリシオンのことを良くは思っていないのだろう、州内に居る時はまだしも、州交の為に州を出るにあたってはオリシオンとの一切のパイプ役をキリアスに任せている。だがそのキリアス...孤火の森第56回

  • 孤火の森 第55回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第50回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第55回ニッポニャン皇子である蝉丸夫妻と別れた後、国交の為、別の国に向かい馬車を走らせている。馬車の中では互いに斜向かいに座り、左右の窓には物見の窓がある。「皇子とはお話が弾んだようで」「なに?嫌味っぽい」肘をつき物見窓から外を見ていたカーシャンがキリアスに顔を向ける。キリアスと目が合う。その目が相も変わらない真面目な目でカーシャンを見ていた。軽く肩を上げキリアスの目に応える。「そうだね、楽しかったよ。キリアスも宴に同席すればよかったのに。物見遊山の時には離れているし」「ですから物見遊山は国交では―――」「それも一つの国交だよ」もういい、と言った具合に...孤火の森第55回

  • 孤火の森 第54回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第50回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第54回総兵隊長の元に兵隊長が集まり、総兵隊長から怒りのうっ憤を聞かされたあと、一人の兵隊長が遅れてやって来た。総兵隊長がこの兵隊長にも怒りをぶつけようとしかけた時、その兵隊長が思いもしないことを口にした。「銃は納めただと?」いつまで待っても銃鍛冶が銃を治めに来ない。そこでこの兵隊長を呼びつけ銃鍛冶まで走らせていた。総兵隊長が兵隊長を睨む。「どういうことだ」「はっ、もう既に納めたということであります。急かされ急ぎ納めたと。それしか言えないということであります」銃の管理は国の元にある。協議の場を通してどれだけ作るかを決め、そして銃鍛冶に作らせるのだが、そ...孤火の森第54回

  • 孤火の森 第53回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第50回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第53回文を読み終えた柿人が長い溜息を吐いた。「どうしました?」柿人の様子を横目で見ていた母親である紫式が刺繍の手を止めて訊ねる。「いえ・・・」「いえって、その溜息でなにもなくは無いでしょうに」祖父と曾祖母から少し離れたところに座り、笙とおはじきで遊んでいた清納が二人を振り仰ぐ。まずい、という顔を笙が眉と髭の中で作った。何があったのかは分からないが、下手に何かを聞かせると清納が何をしでかすか分からない。今白玉は居ないのだから穏便にすますことは難しい。「おお、姫様、そろそろ手習いの時で御座りまする」「え?まだよ?」祖父と曾祖母の二人を見ていた目を笙に向け...孤火の森第53回

  • 孤火の森 第52回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第50回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第52回「波路(はじ)がジャッカ州に入ったようです」「波路が?」思わず大きな白い眉が動く。どうしてだ、単独で行動を起こしたということなのか。それとも単に兄に会いにか、弟の日置(ひおき)を残して。「日置としては波路の思うままにと思ったのでしょう、村長(むらおさ)に波路が出たことを内密にしていたようで、波路からの文でようやく村長に話したようです。最近に文が届いたとは言え、出したのはかなり前になるかと」大陸であるジャッカ州からの文である、かなりの日数がかかっているだろう。「安智(あんち)からはまだ何も?」「十年から十五年ほど待ってくれと、あれ以降は何も」「十...孤火の森第52回

  • お知らせ

    いつも読んで下さり、有難う御座います。突然で申し訳ないのですが、家を引っ越すにあたり、プロバイダーに連絡をしたところ、開通できるまで1~2か月かかるということでした。『孤火の森』はまだ途中ですが、当分アップが出来なくなりました。読んで下さっている方々には私事で御迷惑をおかけ致しますが、お待ち願えればと思っております。開通次第、アップをしていきますので、宜しくお願い致します。というお知らせを、昨年12月18日にアップしていたつもりだったのですが、アップが出来ていなかったことが今日発覚しました。突然、理由もなく『孤火の森』がストップをした形となってしまっており、大変御迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした。プロダイバーの開通工事も終わり、やっとパソコンをネットに繋ぐことが出来るようになりましたので、この後...お知らせ

  • 孤火の森 第51回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第50回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第51回岩国が言うには、自分は何人かの兵に面が割れているということだったが、今津を置いて長州藩には戻れないということであった。それに藤生のことも分からぬままでは到底戻れないと。「あとは藤生か。どこに行ったんだよ」酷吏に顔の割れていない周南、萩、岩国、宇部、他に長州藩の数名が、空っぽになった宮都の者たちが用意をしていた隠れ家に留まることになった。だがここも長くは居られない。隠れ家は点々としなくてはならない。今の兵たちの状態で捕まりでもすれば、城に囚われるまでに命が残っているかどうか分かったものではなく、辛くも城に入れられたとしても拷問が待っているだけだろ...孤火の森第51回

  • 孤火の森 第50回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第40回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第50回「はぁ?迷惑?なんですかそれはっ!」「いや、ですから・・・俺たちはその、兵に追われている身です。兵に追われている者を匿ってるなんて知られたら。その、医者先生にはよくしてもらいました、だから迷惑をかけたくなくて・・・」「医者が患者を診るのは当たり前のことです!それを分かっていないんですか!?」「いや、でも・・・兵に追われているんです。普通じゃない」釧路が大きく息を吐く。「あのね、医者にとって患者は患者です。誰であろうがどんな立場であろうが、それ以外にない」「ですけど!医者先生が俺らを匿ってるって知られたらただじゃすまない。それこそ医者先生だけじゃ...孤火の森第50回

  • 孤火の森 第49回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第40回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第49回城の位置からするとそれは有り得ない話だ。いや、有り得ないと言ってしまえば嘘になるだろうか。簡単には有り得ないということである。「かなりその地下道を歩いたってことか?」「みたいだな。まぁ、真っ暗で時間の感覚もなくなってたみたいだけどな」それに怪我人もいる。それこそまともに動けなかった今津のような者も。移動するに素早く動けなかったこともあるが、牢からは月明かりの中を出た、そしてその後いくらもしないうちに月明かりはなくなった。「ずっと音で誘導していた奴が最後に言ったのが、そのまま真っ直ぐに歩いて行けということだったらしい」山の中である、月明かりが届か...孤火の森第49回

  • 孤火の森 第48回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第40回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第48回歯をむき出しにして威嚇する白玉が、人間に育てられていなかったのは一目瞭然だった。きっと山中で親に捨てられたのだろう。それを育てていたのが獣だったのだろう。白玉は笙に見つかった時、咄嗟に胸に抱いていた仔犬を後ろに庇っていた。それにあの時の白玉の唸り方からすると、白玉を育てていたのは野犬ではなかったかと思える。だから白玉は人間の言葉を知らなかった。きっと胸に抱いていたのは群れの中の仔犬、もしくは白玉を育てていた野犬の仔供だったのではなかろうか。あの時迷った。このまま白玉を連れ帰れば、白玉を失くした獣が悲しむかもしれない。白玉は見た目に五つほどの身体...孤火の森第48回

  • 孤火の森 第47回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第40回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第47回「はぁ、息が切れる。もうここらでいいだろう」何人かが振り返るが藩兵の姿は見えない。追って来てはいないようである。「ああ、そうだな」一人が足を止めると全員の足が止まった。その場に尻をつく者もいれば息を荒げている者、膝に手をつき肩を上下させている者もいる。「上手くいったな」「ああ、あそこは一番の穴場だったな」他の畑と違い見回りの回っていない時が多かった。「藩兵から目を盗むのは楽で穴場は穴場だったかもしれんが、広すぎんだろ」「ああ、藩兵の目より潰すのにくたびれた」「確かにな、だが関戸達にいい報告が出来る」関戸という名を聞いて誰もが顔を上げる。息を荒げ...孤火の森第47回

  • 孤火の森 第46回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第40回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第46回耳に聞こえていた呪が少し変わったことに気付いた。一部の森の民の呪が違う呪になっていた。その声が大きくなってくると、球体の中のセイナカルに異変が起こった。叫んでいた口が閉じられ、あちこちに位置を変えていた手の動きが止まった。そして次には意識を失くしたように頽(くずお)れていった。『何、何が起こったんだよ』『今、二つの呪が唱えられているのが分かるか』『う、ん・・・』『一つは女州王を囲っている目に見えない力、囲いの呪という。もう一つは女州王の意識を取り上げる、静謐(せいひつ)の呪』『意識を取り上げる?』『ああ、とは言ってもずっと意識が戻って来ないわけ...孤火の森第46回

  • 孤火の森 第45回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第40回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第45回ガタンという大きな音をたて、岩国が椅子から立ち上がり深く頭を下げる。「へ?なに?どうしたの?」思わず釧路が仰け反る。「周南といい俺たちといい、ご迷惑ばかりお掛けして」兵に追われている身だ。ましてや今津は城から脱走してきている。こんなことが兵にバレでもすれば、この医者にも兵の手が伸びてくる。岩国の態度に祇園が腕を組む。「あのさー、そういうのやめない?」頭を下げた岩国が目をギュッと瞑り唇を噛む。「アタシは兵に追われてた周南を助けただけ、医者先生はそれに協力してくれただけ。それでアンタたちにはカブキが失礼をぶっこいたから、お詫びを医者先生にさせただけ...孤火の森第45回

  • 孤火の森 第44回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第40回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第44回<呪に囚われるな。あとはもういい、木の陰に身を隠しておけ>「え?なんで?」<無暗に声を出すな。さっさと動け>そう言うとサイネムが呪を唱え指を動かし始めた。まだザリアンが迷いの道に導けていない残りの州兵たちを森の外に出し始めたのだ。迷いの道から森の外に出された州兵たちは、簡単に森に戻ってはこられない。客観的に森を外から見る事が出来なくなってしまっているでからである。ずっと森の中を彷徨い歩く感覚で森の外に歩いて行く。それこそ彷徨い疲れて倒れるまで。サイネムの様子を見ながらも渋々と木の陰に歩いて行く。訊き返せばまた何かを言われるだけ。それにブブの様子...孤火の森第44回

  • 孤火の森 第43回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第40回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第43回飲み干した湯呑をことりと置く。「そう、それじゃあ助けてもらわなかったら、危なかったということね」「逃げられなくはなかっただろうけど、そうだな、確証はない」「でもどうしてあの場所が兵に漏れたのかしら」「もしかして、ずっと前からアタリを付けられていたのかもしれない」「それで昨日ってこと?それならもう少し早く足を踏み入れるわよ」「うん、どうせなら撹乱の前に押さえたかっただろうけど、兵は撹乱のことを知らない。だからもう少し仲間が集まってから押さえようとしてたとか。で、撹乱が起きた。その後、俺たち以外に集まる様子がなかったから、逃げられる前に昨日踏み込ん...孤火の森第43回

  • 孤火の森 第42回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第40回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第42回森の呪を全て解き終えたサイネム。解くにさほどの力がいるわけではないが、これまでの積み重ねがある。かなりの体力を消耗したような疲れを身の内に感じ、州兵が来るまでは少しでも休んでいようと木の幹にもたれかかり瞳を閉じている。幹からは鼓動のように、血管を流れる血液と同じように、根から水が上がっていくのを感じる。少し前までのこの森とは比べ物にならない程の生を感じる。この森は大きい。すぐ此処に州兵が来ることも無かろう。ましてや何が起こったのかと、抜き足で歩いていることだろう。疲れた・・・そう思った時、人の気配がした。だがその気配は。サイネムの瞼がゆっくりと...孤火の森第42回

  • 孤火の森 第41回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第40回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第41回「我が母、アリシア・シーリン・ピアンサのかけし言の葉。よく聞いてくれました。森の皆よ、長き眠りから覚める時」ゆっくりと腕を下ろしたゼライアが胸の前で手の指を組み、その形を何度も替え、口には呪を唱えている。ポポやお頭たちから見えるのはゼライアの背中であるが、ゼライアの呪を唱える声がかすかに聞こえ、後ろから見ていても指を動かしてあろうことが窺える。「ブ・・・ブ」今までのブブと全く違う。ポポの知っているブブではない。呪を唱えているゼライアの口から、形を変え色んな形に組み合わされた指から、光の粒が出ている。その光の粒がゼライアの周りに広がっていく。そし...孤火の森第41回

  • 孤火の森 第40回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第30回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第40回男が、それもいい年をした男が土間に仰向けになり、その上に白い犬が覆い被さっている。「何を・・・して、い、る?」「あー・・・きっと遊ばれているんだと思います」「遊、ばれて・・・?」「はい、久しぶりに散歩に出てあげたから嬉しかったようで」遊ぶという言葉を聞いた途端、カブキが喜んで釧路の顔を舐めまわす。「ぶはっ、ちょっと、およしなさいってば」「そ、そうか。その・・・この先で大きな獣が兵を襲ったのだが?黒い身体に朱色の足の獣を見なかったか?」黒い身体・・・それはきっとあの布が黒かったからだ。丸めた体で周南が考える。だが朱色の足とは・・・確かに自分も見た...孤火の森第40回

  • 孤火の森 第39回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第30回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第39回草を踏みしだくけっして重くはない音、その音の範囲も狭い。そしてその数は・・・。宇部が二本の指を立てた。二人ということ。「姫様ぁ、お待ちくださいませぇー」あの気の抜けた声が聞こえてきた。「これでもう丸三日」セイナカルは寝ただろう、小屋の戸に背中を預けて座り込んだ。ジャジャムの独り言を耳にしたケリス。セイナカルの痣を見てからはあまりセイナカルの顔を見ないようにはしていたが、それでも今はセイナカルに命ぜられた小兵隊長として、何をすることもなくジャジャムと行動を共にしていれば、セイナカルが気を抜いたこの小屋の中では時折その痣が目に入ってしまっていた。ジ...孤火の森第39回

  • 孤火の森 第38回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第30回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第38回リョーシャンに食べさせてもらったり宿を取ってもらったり、全てをリンゼンはまだ返せないでいる。決して金を返せと言うわけではなく、こんな状態のリンゼンだからリョーシャンも置いて逃げることが出来なかった。「今日はもう店じまい。飯食って、寝て、明日が来る。言っただろ?」その明日の朝には今度こそリンゼンの前から姿を消す。「・・・申し訳ありません」リョーシャンのその台詞は毎回聞かされていた。「占いって?」二人の会話の間にドリバスが入ってきた。やはり呪師ということで気になるのだろう。「あ、失せ物を」「ああ、失せ物探しか。わたしは得意ではないからよくは分からん...孤火の森第38回

  • 孤火の森 第37回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第30回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第37回「だって、お頭、あの中で何がどうなってんだか知らないけど、食わなきゃ力も出ないだろう?」「まぁ、そうだがな、ポポとブブはちげーよ」「なんだよそれ」「ブブはポポほど食い意地が張ってねーってこった」「ちぇっ、今は食い意地の話なんてしてないだろ」「まぁ、ポポも腹が減ってるだろうが、旦那が言ってた三日間、この間は黙って見守ってやろうじゃねーか。それにあんなに綺麗なのにブブが包まれてんだ、儀式とやらが終わった時に話してやろうじゃねーか」「うん・・・。明日の陽が沈む頃だよな」「ああ」「その時に何があんだろ」「さぁなー。この綺麗なのさえ想像もつかなかったんで...孤火の森第37回

  • 孤火の森 第36回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第30回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第36回翌日夕刻を過ぎ、日中街中を回っていた兵たちが城に戻って来ると、待ち構えていた大隊長から叱責を受けた。あれほど兵を街中に送ったというのに、捕まえたのはほんの一握りだったからである。それは周南たちから言わせれば東山達の仲間である。周南達の仲間と違い東山達の仲間は多い。それだけに捕らえられる人数も多くなってくる。「馬鹿もんが!昨日に続いてお前たちはネズミ一匹捕らえられんのか!」東山たちの仲間を捕らえてきた小隊から目を外してはいるが、それでも根こそぎとはいっていない。捕らえてきた小隊にも一瞬目を移すがその目をすぐに逸らせ、手ぶらで戻って来た兵たちを睨み...孤火の森第36回

  • 孤火の森 第35回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第30回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第35回儀式が始まるのを見守ることなくその場をあとにした。儀式は無事に迎えられただろうが、それでもピアンサが剃った、産まれたばかりのゼライアの髪の毛の量は少なかった。葉がどれだけ機能してくれているのかが分からない。ピアンサが自ら切った髪の毛と、ゼライアの髪の毛を葉は認めただろうか。葉が認めなくてはゼライアは女王になれない。通常なら女王になるべき御子は、毛先を整えるくらいでずっと髪の毛を伸ばす。そして徴の兆しが見られた時、初めて切る長い髪の毛を茎にある胞(ほう)に近づける。すると胞が開き髪の毛を包み込む。そして儀式に向けて葉が御子の髪の毛を認めていくのだ...孤火の森第35回

  • 孤火の森 第34回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第30回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第34回緩めていた頬を引き締め「いえ、キリアスとは合わないようですから」心の中で思っていたことを誤魔化すように言った。「ふっ、ジャジャムも気付いておったか」ジャジャムが頬を緩ませていたのは、オリシオンとキリアスとの仲を笑っていたのだろうと、セイナカルは思ったようである。ジャジャムがセイナカルの誤解に胸をなでおろす。キリアスはオリシオンのことを相手にもしていないようだが、オリシオンの方はキリアスに対し構えているところがあるのをセイナカルは知っている。それをジャジャムも知っていたようである。「それとも?」セイナカルが片眉を上げて改めてジャジャムを見た。それ...孤火の森第34回

  • 孤火の森 第33回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第30回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第33回セイナカルが小屋の周りを見渡す。呪を感じることは無い。何らかの呪を、ここまでは広げていないようである。顔を下げると瞼を閉じ大きく息を吐いた。(疲れた、か)馬を駆ってここまでやって来た。途中、ケリスの進言によって休憩は入れたものの、馬を駆らせるに相当な遠回りをしてきた。騎乗だけでも疲れるところ、その後にすぐ呪を使った。ましてやいつもならこの時間は既に寝ている。ゆっくりと瞼を上げ火傷のあとの腕を見る。ただれこそしていないもののまだ赤い痕がある。痛くないと言えば嘘になる。(森の民であるのならば、このような痕も呪で治すのだろうか・・・)そうであるのなら...孤火の森第33回

  • 孤火の森 第32回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第30回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第32回サイネムが幾つか組み換えていた指を離し、右手をセイナカルの方向に出すと、まるで何かを握って回すようにした。十七度目、セイナカルが呪を打った途端、その呪がセイナカルに弾き戻りセイナカルの胸を打った。うっ、と数歩下がり胸を押さえて屈みこむ。「セイナカル様!」ジャジャムが走ってセイナカルの肩に触れるが、その手を弾く。「おのれ・・・」「お前の力はその程度のもの」胸を打つだけで身体を打ち破るほどのものでは無いということ。“その程度のもの”で森の女王に手を出そうなどとは、厚顔無恥を思い知らせねば。セイナカルが立ち上がり、右手で左腕に付けている腕輪の形をした...孤火の森第32回

  • 孤火の森 第31回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第30回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第31回あの者はこの十三年、十四年の間、御子を隠し続けている。それは容易なことではない。そこから考えるに、単に呪を使える森の民では無いのかもしれない。だが何を考えようが、相手が誰であろうが、今更手の施しようがない。今の段階でこちらには呪師がいないのだから。ジャジャムが呪を使えると言っても、それは主に追う為の呪であり相手の呪に対するものでは無い。「この森を見ていた兵は」「小屋の中に」ジャジャムが小屋に足を運ぶと、山の民の格好を真似た兵が寝転がっていた。「話がある」腕を枕にしていた一人が首を回すと、その目にジャジャムが映った。飛び起きて姿勢を正す。その様子...孤火の森第31回

  • 孤火の森 第30回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第20回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第30回ジャジャムは兵が集まった報告を聞いたと言っていた。ではなにか予測できないことでも起きたのか。例えば兵のまとまりが悪かった。それとも言い出したのは昨日だ、それも五日間夜だけに燃やせと言った。準備が間に合わなかったか。ふっ、と息を吐く。いくらなんでもそれはないだろう。(兵のまとまりは大隊長か兵隊長が仕切っているはず)では準備が間に合わなかったか・・・。夜のみ焼くということは、延焼にならないよう周りの木を伐採しなければならない。(指揮か・・・)指揮のまずさか。「大隊長は」側仕えの女が一瞬にして顔色を変えた。ジャジャムは出て行ったところである。こんなこ...孤火の森第30回

  • 孤火の森 第29回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第20回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第29回このまま森の中を走ってサイネムを探すわけにはいかない。兵がどこにいるのかポポには分からないのだから。「なんだい?」「兵が、兵が森を焼くって!今晩から森を焼くって、サイネムに知らせなきゃ」ずっとブブを見ていた若頭がブブから目を外しお頭を見た。ヤマネコもお頭を見ている。その二人ともが頷いてみせている。二人もそうだが、お頭もやっとサイネムが何をしようとしているのかが分かった。若頭がブブの方に目を戻し、ヤマネコもポポのことはお頭に頼んだと言わんばかりにブブの方に目を向けた。「そういうことか・・・」「お頭、そういうことって!?」お頭が両方の口の端を上げた...孤火の森第29回

  • 孤火の森 第28回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第20回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第28回サイネムは儀式の行われる場所にだけ、ある種の結界を張った。その上で森全体に人が入って来られない、または入っている者が居ればその人間を森の外に押し出す呪を使い、最後にはより呪師に対して強い結界を張ったのだが、儀式の行われるところだけはある種の結界を張った。その結界は二度目に行った結界の影響を受けないように張ったものだった。でなければブブはもとよりお頭たちも森の外に押し出されることになるからである。(ゼライアの儀式が終わるまで持てばいいのだが・・・)いやそうではない、意識がなくなっても倒れても持たさなくてはならない。城ではバルコニーにセイナカルと州...孤火の森第28回

  • 孤火の森 第27回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第20回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第27回サイネムがゆっくりと目を開け、美しい白銀の髪の毛となっていくブブの姿を揺れた眼差しで見ている。「目を開けてもいい」そっと瞼を開けた若頭と振り返ったお頭とヤマネコ。「・・・っ!」若頭だけではなくお頭もヤマネコも目を見張った。ブブの髪の毛が根元から美しい白銀に変わってきている。そして短い髪の毛がすっかり白銀の髪の毛となったのを見届けてから一言、サイネムがブブの名を呼んだ。「ゼライア・シーリン・ブリテル」ブブの額から髪の毛をそっと撫でてやる。それはブブにその名を聞かせようとしてなのか、サイネムが呼びたかっただけなのか。「これで女州王の元にあるピアンサ...孤火の森第27回

  • 孤火の森 第26回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第20回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第26回穴の奥に行ってみると、男達が何人も膝と手を着いた四つん這いの状態で、上へ上へと重なっていた。男達の身体を台にして穴を掘り上げていたのだろう。男達の頭も身体も土だらけになっている。男たちのあけた縦穴は楕円形に広げられ、四つん這いをした男の横を人が一人通ることの出来るほどの幅だった。横穴ほどに広くはないが、それでも十分である。男が竹筒を縄で縛った縄梯子を持ってきた。それはサビネコとチャトラが男達から竹筒を受け取り、縄で縛って内職をしていたものである。「それをどうする?」「今の台は疲れているから交代だ。新しいのが台になって上に上った奴が穴から出てこれ...孤火の森第26回

  • 孤火の森 第25回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第20回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第25回何もしなければよいのだ。今までのように人を殺めさえしなければ、この痛みは二度と感じないはず。徴が止まったと同時に強い痛みが引いていった。だが徴は・・・絵筆で書いたようなしなった茨の形をした徴が痣のように残っている。恐くなった。呪師を訪ねた。だが何人もの呪師を訪ねても呪師は首を横に振るだけだった。このような呪は見たこともないと言って。宝剣と首飾りを手にした事を仲間には言っていない。森の女王を宝剣で刺した時には、あの時の男には見えていなかったはず。いや“はず”ではない、見えてはいなかった。だから宝剣を差し出せとは言ってこなかった。『このままアイツラ...孤火の森第25回

  • 孤火の森 第24回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第20回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第24回数日前、仲間の足の怪我が治り、そろそろこの森を出ようと思っていた時、何気なく森の民たちの日常を頭に描いた。森の民は朝どこかへ出かけると籠の中に何かを入れて戻って来ていた。そしてあの小屋に入り、空になった籠を持って出てきていた。籠の中には木の実か茸か何かが入っていると思っていた。だから最初はあの小屋は食物小屋だと思っていた。だがよく思い返してみると、食を作る時にあの小屋には出入りをしていなかった。それに決まった数人が、朝から夕刻までずっと入りっぱなしの時もあった。だから明日森を出ようと思っていたこの日、何を考えることも無く訊いた。この森の民は“恩...孤火の森第24回

  • 孤火の森 第23回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第20回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第23回何をどう言っても傲慢に言ってきた。『お前たちがどう呼ばれているか知っているか?愚兵だ』『なにを!お前らにそんなことを言われる筋合いなどない!兵隊長からこっちが指揮を取れと指示が出たんだよ!』『愚兵の言うことなんか聞いて失敗に終わったらどうする気だ?』『この森を一番知ってるんだ、失敗になど終わるはずがないだろう!』『こんな枯れた森をグルグル回っているだけだろう。頭も何もかもこの森と一緒で枯れてるんじゃないのか?』『てめー!!』『ああ、それに愚兵に指揮をとらせようと考えるとはお前たちの兵隊長も・・・だな』殴りかかったが、向こうの方が圧倒的に人数が多...孤火の森第23回

  • 孤火の森 第22回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第20回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第22回交代要員の男達に言われ握り飯をほおばりながら、すごすごとブブのところに戻って来ると、ポポより先に男達の邪魔にならないようにサイネムがブブのところに戻って来ていた。ブブの頬に手をあてると温かい。ブブの確認をすると入口の方に足を進める。「ヤマネコ、ブブはどう?」サイネムに遅れて戻って来たポポ。ヤマネコに抱えられているブブの顔を覗き込む。「変わらないね、でもここはもう森の近くだ、落ち着いて来るんじゃないのかねぇ」「腹減ってないかなぁ・・・」いつもブブと一緒に食べていた。だが今はポポ一人で握り飯を食べている。「なぁ、ポポ、あの旦那は何をしてるんだ?」サ...孤火の森第22回

  • 孤火の森 第21回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第20回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第21回「暫くは安全なようだ」いつの間に居たのだろう、若頭がポポの横を歩いていた。思わずポポが若頭を見たが返事をしたのはサイネムである。「言い換えると、兵がこの辺りを出たということか」「まぁ、そうだな。新たに後ろから来るかもしれないがな」「いったい何を目的に・・・」「さぁ、それは分からんが、俺が見たのは行列じゃない。五、六人が歩いてた。それを幾つか見た」「行列ではない・・・」「街の方から来たわけでもない。考えられるのは、あちこちの森に散らばっていた兵が数人づつあの森に向かってる、ってとこか」「そんなっ、それじゃあ、ブブの儀式は?」「情けない声を出してん...孤火の森第21回

  • 孤火の森 第20回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第10回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第20回「あの森、兵がのさばってるあの森に森の女王がいた。兵が森に入った時に女王の御子であるポポとブブが生まれた。お頭はこの旦那に頼まれてポポとブブを育てていたってわけさ」「それじゃあ、ブブが・・・女王になるってのか?森の・・・」「そうだよ。信じられないだろうけどね」「でも・・・森の民の御子なら、森の民が育てればそれで良かったんじゃないのか?あ、いや、ポポとブブのことはおいといてだ」どんな器用な置き方だ。だが言いたいことは分かる。「ああ、それに森の民ってのは銀の髪だってきいてる。ポポもブブも俺らと同じ黒髪だ」それにアンタも、そういう目をしてサイネムを見...孤火の森第20回

  • 孤火の森 第19回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第10回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第19回「お頭」お頭が振り向くとクロギツネが立っていた。「なんでぃ」昨日若頭から聞いた頭が痛くなる事を言われるのだろう。「若頭から聞かなかったか?」やっぱりか。「・・・聞いたよ」『お頭、みんながブブのことに気付いてきてますぜ』『まぁ、ちーっと、目立つか』『ちーっと、くらいじゃありませんぜ。それに時宜(じぎ)を計ったようにあの旦那だ』『計ったって言うか、元々こういう運びだったからな』『その元々を誰も知らないんです、怪しんでも仕方ないですぜ?』『気付いてるんじゃなくて、怪しんでるのかよ』『話せって迫られました』『おー、女に迫られない分、男に迫られたか』『・...孤火の森第19回

  • 孤火の森 第18回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第10回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第18回双子の二人を初めて手の中に収めた時の感触を覚えている。そしてもう息をしていないヤマネコの子を抱いた時の感触も忘れることは無い。きっとヤマネコもそうなのだろう。ヤマネコの産んだ我が子と双子は別なのだろう。もう目にすることは無いヤマネコの子だが、ヤマネコの中でいつまでも我が子は生きているのかもしれない。ポポとブブが居なくなってもヤマネコは大丈夫だろう。再び子を失くしたとは考えないだろう。「それにしても長年よく黙ってきたもんだよ」「あいつらが森に行ったと聞いた時にゃあ、目ん玉が落ちるかと思ったけどな」「え?なんでだい?森の民に守られ・・・あ、いや、呪...孤火の森第18回

  • 孤火の森 第17回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第10回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第17回横で見ておけというのなら、そうしてやろうではないか。ポポもサイネムの横に胡坐をかく。「足どうしが付いてもいい、真横に座れ。わたしの手の上にお前の手を置くよう」え?と言いかけて再度言葉を飲んだ。置けと言われてもどうやって置けばいいのだろうか。サイネムが椀を持つように左右の足の上に手の甲を乗せた。「わたしの手の上にお前の手を置き、お前自身の中に入り込むよう」「入り込むって・・・」どうすればよいのだ。「お前自身を見つめればいい。わたしが連れて出る」全く以って意味が分からない。「何も考えず、自分の内だけを見つめるよう」出来るか出来ないかなど、どうでもよ...孤火の森第17回

  • 孤火の森 第16回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第10回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第16回「そうか、連れて行こうと思っていたが・・・そうだな、どうせ寝るだけか」ポポが握り飯を喉に詰まらせかけた。「何やってんだ」アナグマが急いで木椀に水を入れるとポポに飲ませる。水で握り飯を流すとゲホゲホ言いながらポポがサイネムを睨む。「寝るもんかい!行くからな!」「では起きておけ」では連れて行こう、ではない。「お前・・・」「名を呼べ」「サイネム!罠に嵌めたのか!」ポポ自ら行くと言わせ、ましてや寝ないと断言させた。素知らぬ顔で握り飯を口に入れる。(こりゃ・・・ポポの扱いを慣れてやがるぜ)だがポポとは顔を合わせてどれ程も経っていない。ということは、このサ...孤火の森第16回

  • 孤火の森 第15回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第10回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第15回夕刻、石の群れの領域に兵の姿があらわれた。その姿は見るも無残なものだった。「本当だったみたいだな・・・」離れた所から見ていたタンパクが言った。その後ろにこの石の群れの長であるセキエイが立っている。「あれじゃあ、岩穴を潰されたりはしないな」「朝からだって言ってたから・・・」あの姿でここまで歩いて来るには相当な時を費やしたはずだ。まずあの身体で街まで戻れるかどうかも分からないだろう。「即、潰されたんだろうな」セキエイが腕を組んで言うと、見ていた者たちが口々に色んなことを言い出した。「森の民って、おっかねー・・・」「近づきたくもないな」「いや、見るの...孤火の森第15回

  • 孤火の森 第14回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第10回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第14回「ポポ、テメェー」「だって、あれ塗ると鼻が痛くなってたから。今は慣れたけど」「痛くって・・・そんなこと言わなかっただろ!」もし言っていれば、蛇ふさぎなど塗らなかった。「だって・・・蔦で遊ぶのが楽しかったのがあって。でもやっぱり痛かったから」「ははは!アナグマもやられたってことかい」いつも誰かがおちょくられていたが、これは結構大きい。おちょくる範囲ではない。「お頭、笑いごとじゃねー。おちょくる程度ならいいが、嘘はつくなと言ってただろうが!」「だって、ブブなんて喉まで痛くなってきたって言ってたから・・・」「ゼライアが?」突如入って来たサイネムにアナ...孤火の森第14回

  • 孤火の森 第13回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第10回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第13回今度は先程より長かった。ブブのことを置いていったい何をしているのか、そう思い始めた時にサイネムの瞼が上がり向き直ってきた。「話を止めて悪かった」あちこちに触手を伸ばしてみた。だが岩に囲われているという事と離れ過ぎているのだろう、どこに触れることも出来なかった。同じことを繰り返させるわけにはいかない。事が起こる前に他の方法で知らせなければ。「・・・いったい、さっきもだが、何をしてんだ?」「ちょっとな」言えないということか。ということは森の民の何某なのだろう。そこに首を突っ込むわけにはいかない。「もしそうなら・・・いや、疑っているわけではない。森に...孤火の森第13回

  • 孤火の森 第12回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第10回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第12回兵が大砲に玉を詰めようとしている時だった。目の前から森が消えた。どこからともなく「森が・・・」と、さざ波のように聞こえてきた。玉を持ったままの兵が森を見ると、そこにあるはずの森が無くなっている。玉を持ったまま動きが止まる。「目!目くらましだ!さっさと玉を詰めろ!」兵隊長の叱咤がとぶ。目くらまし・・・それは森の民がした事なのか?それならばもう森の民は自分たちの存在を知っているということ。兵たちの間に動揺が広がる。若い兵たちは伝え聞いている。幻覚のことを、同士討ちのことを。あれだけ高揚していた気持ちが一瞬にして狼狽(ろうばい)へと変わる。カン、と若...孤火の森第12回

  • 孤火の森 第11回

    『孤火の森』目次『孤火の森』第1回から第10回までの目次は以下の『孤火の森』リンクページからお願いいたします。『孤火の森』リンクページ孤火の森(こびのもり)第11回お頭の部屋の中に入り腰を落ち着かせたところに、ポポが皿に乗せた魚の干し物と水の入った瓶を抱えて入ってきた。お頭が瓶を受け取ると隅に置いていた木椀二つに水を入れる。「ポポもここに居ろ」どういうことだと上目遣いにお頭を見たが、サイネムの前に木椀を置いたお頭が目顔で座れと言う。お頭の斜め前にサイネムが座っている。仕方なく、そのサイネムの正面から少し外れるところに腰を下ろした。お頭が木椀の中の水を飲み干し、魚の干し物に手を伸ばした。一つを取るとサイネムの前に皿を滑らせたがサイネムが首を振った。「水は頂くが、そちらはいい」「腹が空いてないのか?」「わたし...孤火の森第11回

  • 孤火の森 目次

    『孤火の森』目次第1回・第2回・第3回・第4回・第5回・第6回・第7回・第8回・第9回・第10回孤火の森目次

  • 孤火の森 第10回

    孤火の森(こびのもり)第10回産屋の外から聞こえる剣戟(けんげき)の音がかなり近くなってきている。森の民の呪によって同士討ちをさせていたが、女王に呼ばれたサイネムが引いてからそうではなくなった。敵に強力な呪を持つ呪師が居た。それが大きく響いた。たとえ呪師といえど街の民の呪師などに破られる森の民の呪ではない。だが森の民達がどれだけ幻影を見せ迷いの道に入らせても同士討ちをさせても、疲れた森の民達の呪ではその呪師によって破られ始めていた。頼みの綱はサイネムの呪力だけだったが、そのサイネムが女王に呼ばれた。女王に呼ばれれば応えるのは当たり前だがこの戦いのさなかである、だが迷うことは無かった。サイネムにも分かっていた、あまりにも兵の数が多すぎる一人ではもう手が回らないと。湧いて出てくる虫のように次から次と兵が森の中...孤火の森第10回

  • 孤火の森 第9回

    孤火の森(こびのもり)第9回「さっき言ってただろ、お頭を置いてここを離れたって」「ああ」「天幕まで行ってたんだ。そこで兵たちの話を聞いた。明日森が襲われる」「・・・」タンパクは黙ってしまったがお頭が目を剥いた。それに気付かず若頭が話を進める。「前に長たちが集まってそのことを話した」「・・・聞いてる」「それじゃあ、なにを言いたいか分かるだろう」今でこそ遠回りをしている兵だが、森を制圧すれば一番の近道を通って森と街を行き来する。それは石の群れの領域を兵が歩くということ。今お頭の群れが兵たちが通るたびに姿を隠している生活と同じことを、終わりの分からない日々送らなければいけないということ。「夜が明けたら動くようだ。小さな森だそうだな、制圧に一日もかからないだろう」制圧が終われば沢山の兵がこの辺りを歩くということ。...孤火の森第9回

  • 孤火の森 第8回

    孤火の森(こびのもり)第8回若頭が目を眇めた。走っていた足を止め、岩の陰に隠れながら徐々に足を進めていく。「やっぱり・・・」天幕であった。篝火がある。歩哨(ほしょう)らしき姿が見えるがそれだけでは無い。何人もの兵の姿がある。「何をしている・・・」こんな夜ならば歩哨だけが外にいるはず。あとの者は眠りについている時間であるはず。若頭の経験から森を襲うのであれば朝のはず。経験と言ってもたったの一回だけだが、あの時には朝から騒ぎを耳にした。夜襲ではなかった。きっと森の民より夜目が利かない街の民、というのが大きかったのだろう。場所は森の中だ、森の民は朝であれ昼であれ夜であれ目を瞑ってでも戦えただろう。それを思うと街の民である兵に有利な朝を選んだのだろう。そこから考えるに夜襲をかけるはずはない。それなのにどうしてこん...孤火の森第8回

  • 孤火の森 第7回

    孤火の森(こびのもり)第7回男が両手に抱えていた赤子をお頭に差し出した。『我が森の御子だ』『森の御子?』『女王になるべき御子、そして女王を支えるべく為に生まれた御子』『森の御子って・・・どっちかが森の女王になる御子ってことか?』生まれたての子だ、顔だけではどちらが女なのかは分からない。『そうだ』『双子・・・ってことか』男がお頭の手の中に双子を置いた。『おい、いったいなんだっていうんだ』受け取る気など無かったが、手の中に収められればつい抱えてしまう。『女王に息がなくなった』『え・・・』『森は眠りに入った』『眠り・・・』『仮死状態のようなものだ』『そんな・・・いったい、どうして』『女王の御子を育ててくれ』あの時、この男は女王の口添えがあったと言っていた。だがその前にこの男は少年お頭をここで死なせるには戸惑いが...孤火の森第7回

  • 孤火の森 第6回

    孤火の森(こびのもり)第6回小さい時にブブが『ブブもあれ欲しい!』と、ポポの股を指さしては何度も言っていた。お頭は『今度山の中で見つけたら持って帰ってブブに付けてやる』と言っていたが、今はもうお頭の言っていたことが冗談だと分かっている。「女になったって・・・」どういうことだ、とは訊けなかった。ブブの小さな背中が震えている。(ブブ・・・)ブブの背中ってこんなに小さかったのか?こんなに頼りなかったのか?「籠を片付けてきな。ああ、アタシのも一緒にな」「・・・ブブ」どうしてもっと心の底から仲良く出来なかったのか、どうしてもっとブブのことを分かろうとしなかったのか。「ほら、さっさと行きな」サビネコに肩を持たれて方向を百八十度変えられた、ポンと尻を叩かれた。でも動くことが出来ない。「何やってんだよ!男だろが!しっかり...孤火の森第6回

  • 孤火の森 第5回

    孤火の森(こびのもり)第5回今までにたった一つ制圧された森がある。その森の一番近くに住んでいるのがお頭たちの群れである。自然と長たちの目が若頭に向く。森が制圧された時、若頭はまだ十五の歳だった。丁度その頃にお頭と知り合いそのままお頭に付いたのだが、その後お頭から目をかけられた。当時の若頭は単なる大人と子供の狭間にいる不安定な時期の存在ではなく、冷静に物事を見ることが出来ていたのをお頭が見抜いたのだった。若頭が長たちに頷くと、自分たちの過去の生活を説明する。『州兵が制圧を始めようとした時には、まだ俺はあの辺りのことをよく知らず細かい所の記憶が曖昧なんですけど、制圧には何年も要したようです』若頭の覚えている限りでは、制圧前、森に行くには遠回りになるというのに、毎回若頭たちの塒(ねぐら)である岩屋の近くを通り、...孤火の森第5回

  • 孤火の森 第4回

    孤火の森(こびのもり)第4回従者たちがいつ怒りを買うかと怯えながら、撒き散らされた葡萄酒を拭き金杯を片付けている。新しい葡萄酒を用意するのは側仕えに任せたいが、今この部屋に側仕えが居ない。置き方が悪いとでも言われ怒りを買うだろうかと思いながら、震える手で新しい金杯に葡萄酒を入れ恐る恐るセイナカルの前に置く。(森の民たちに新しく女王を擁立しようとする動きは見られない)どこの森にも簡単に中に入ることなど出来ない。それどころか簡単に近づく事さえ出来ない。遠目からではあるが、各森に配置している州兵からは他の森の民が入ったとも、森から出たとも報告はない。森の民がどうやって連絡を取り合っているのかは分からないが、女王の居たあの森を制圧したあの日、森の中をどれだけ探しても御子を探すことは出来なかった。他の森に逃げたのか...孤火の森第4回

  • 孤火の森 第3回

    孤火の森(こびのもり)第3回「ブブが堪(こら)えたんだ、短気を起こすんじゃない、応えてやりな」「・・・分かってるよ」不貞腐れた顔でポポが答える。この時のことはここで終わりにすればいいのだろうが、市に座ってまだ間がない。まだまだここに座って薬草を売らなければいけない。そうなると再び州兵に問われるかもしれない。「兵が森って言ってたけど?何か心当たりがあるかい?」「・・・無くは、ない」でもそれは一年も前の事。最初に顔を見られたかもしれない。それにブブが何度か振り返ってはいた。その時に顔を見られたのだろうか。でも、それでも一年以上前だ。未だにそのことを根に持っているというのだろうか。それにしても・・・ヤマネコがこうして訊いてくるということは、お頭も若頭もあの時のことを仲間たちに言っていなかったのか。ポポが一年前の...孤火の森第3回

  • 孤火の森 第2回

    孤火の森(こびのもり)第2回精緻な金細工が置かれた豪奢な部屋、高い天井には弧を描いた何枚もの絹の布が、まだ肌寒い季節だというのに全開にされた窓から入る風に揺れている。バルコニーに置かれたテーブルに金杯がコトリと置かれた。「それで?逃がしたと言うのか?」絹で出来た衣装に身を包み、左の瞼の目尻辺りでカーブを作って前髪を下ろし、そのまま高く括った金色の長い髪の毛には髪飾りが揺れ、露(あらわ)にされた耳には大きな金細工の耳環(じかん)が揺れている。「はっ、ですが、森に入る手前で見つけまして」すでに背中にも額にも大量の汗が流れている。「森に入らなければいいとでも言うのか?」「そ、それは・・・」「よい、下がれ」「はっ・・・」命が繋がった。子供二人如きにこの命を取られては、何のために今までやってきたか分かったものではな...孤火の森第2回

  • 孤火の森 第1回

    孤火の森第1回下生えの草がそよ吹く風に身体を預けゆらゆらと揺れている。深く息を吸えば少し冷たいが、その分ゆらゆらと揺れている爽やかな緑に満ちた空気が口腔一杯に広がることだろう。そこは山の中の広い草原、どこまで走ってもずっと緑が続いていくようにさえ感じる穏やかで豊かな草原である。草原から四方を見渡すと遠くに連山が見える。それだけ山に囲まれた草原。その中で昔は草原の奥に大きな森が泰然としていた。だが今その森は森とは言えない姿をしている。白い月が顔を出してきた。いくらかすると月夜の刻となる。広い草原の中、一ケ所を除くと全く同じ姿をした二つの小さな影が下生えの草を蹴って走っている。右前の衿合わせの裾は尻をすっぽりと隠し帯の代わりに縄を巻き、その下には膝下迄の筒の下衣を穿いている。足元はわらじが簡単に脱げないように...孤火の森第1回

  • ハラカルラ を書き終えて

    ハラカルラをお読みいただき、本当に有難う御座いました。八、九年ほど前に、いつかこの世と重なっている水の世界を書きたいと思い始めましたが、そう思っただけで想像は広がりませんでした。六年ほど前、夜車を運転している時、ふと、今度書く主人公の名前は”水無瀬”という名前にしよう、と頭に浮かびました。そしていつかは忘れましたが”クナイ”の登場する場面をいつかは書きたいとも思っていました。以上三つが重なり、ハラカルラが出来ました。いつも何かを書く時には、あるシーンが浮かび、そこから考えがスタートをするのですが、ハラカルラを書くにあたり、一番最初に浮かんだのは、目の端に何かが見えるというシーンでした。そこからストーリーがスタートしました。次回から書くお話しほど、あまり生みの苦しみはありませんでしたが、ハラカルラを荒らすの...ハラカルラを書き終えて

  • ハラカルラ 第72 最終回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第70回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第72最終回「では今日からよろしくです、黒門の皆さん。で、俺は黒門の守り人になったんだから、守り人として黒門の皆さんに言わせてもらいます」黒門の誰もが何のことだという顔をしている。「青門と仲良くしてください。コレが二つ目の話しです」高崎が驚いた顔をしている。「水無ちゃ・・・水無瀬もそうだし、青門の守り人もそうですけど、守り人は門同士の争いを良しとはしていません。いま白門に守り人は居ませんからこれは守り人の総意です」(戸田君・・・)「戸田は昔の話を聞かなかったのか」思わずプラスティック面が下を向く。「聞いてますよ、守り人になれば一番に聞かされるんだから。でも...ハラカルラ第72最終回

  • ハラカルラ 第71回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第70回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第71回守り人としてこれで終わりと言えばいいのだろうが、このことを切っ掛けに放ってはおけないことが発生してしまっていた。「確か一番最初にこちら側に来てくださった方ですよね」水無瀬は玻璃の声に気付いていないのだろうか、それとも気付いていて敢えて知らないふりをしているのだろうか。白々しく言う水無瀬に玻璃が応える。「ああ、一ノ瀬玻璃だ」「では一ノ瀬さん・・・ああっと、一緒に来た方の中にも一ノ瀬さんがいらっしゃいますので、下のお名前、玻璃さんとお呼びしてもいいですか?」この言い方・・・やはり玻璃が名乗る前から気が付いていたな、かなりの狸か、などと思う玻璃であるが、...ハラカルラ第71回

  • ハラカルラ 第70回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第60回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第70回「僕がハラカルラの水を動かしました、その水の力で押し戻されてきたんです。ここは白門の村でもありますがハラカルラでもあります。それくらいご存知でしょう」余裕綽々を見せて言うが心の中では、良かったー、良かったーと叫んでいる。白烏に教えてもらった二つ目の理由は、守り人の存在を、力を見せる、そして最後の理由は村とハラカルラの繋がりを切に感じさせるため。「あなたたちは高校生ではありません、ここに居てもらいます」長をはじめ誰もが息を呑んでいる。水無瀬の言う通り村とハラカルラは重なっているのだから、ここは村でもありハラカルラでもある。それは知っているが、ハラカル...ハラカルラ第70回

  • ハラカルラ 第69回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第60回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第69回水無瀬が先頭を切って村に入った。潤璃が考えるにこれから作業に入る時間になるはずだということだったが、まさにその通りで村の中を何人もが農具を担いで歩いている。その中の何人かが、集団の足音に気づいて振り返る。「み、水無瀬!」水無瀬の知らない顔である。一ノ瀬誠や後藤智一の時もそうだったが、水無瀬は顔を見たことがないのに相手は水無瀬の顔を知っている。どこで見ていたのだろうかと思う。数人の男が水無瀬の名を呼んだことで気付いていなかった者達も振り返りだした。そして口々に水無瀬の名を言い、その内に後ろに居る者達にも気付いてきたようである。「潤、璃・・・か?どうし...ハラカルラ第69回

  • ハラカルラ 第68回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第60回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第68回「彩音を?」昨日訪ねるつもりだったが、どこか胸糞悪く今日の朝、木更彩音の家を訪ねた。その時に聞いた話では噂の色恋ごとというのは全くの出鱈目で、どこからそんな噂が出たのかと母親が憤慨していた。木更彩音が村を出た理由は大学を出て大企業で働きたかったということで、今でも結婚もせず大企業で働いているということであった。『確かに農作業やないけど、それでも働くことが好きな子なんに色恋やなんて、誰がそんなことを言ったんか!』この時は憤慨が治まることなく、すごすごと木更の家を出たが、またやって来なければならない羽目になってしまった。その日の夕刻、長の家を訪ね木更彩...ハラカルラ第68回

  • ハラカルラ 第67回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第60回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第67回オートロックの杏里のマンションを出て暫く無言で歩いていたが、征太がポツリと言う。「虚しさ感じてるの俺だけ?」「・・・」「村から親から勉強勉強って言われて、次には水見がやってきたことを研究しろって言われ―――」「仕方ないだろ、それにそのお陰で大学も卒業出来て院生にもなれてんだから」「それはそうだし今さら変えられないけど、それって俺らの青春を村に売ったことにならないか?青春どころかこれから先も」「・・・」「杏里、生き生きしてたよな」杏里が言ったように村に居た頃は小学校中学年までしか遊んでいなかったが、それ以降杏里を見かけなかったわけではない。高校を卒業...ハラカルラ第67回

  • ハラカルラ 第66回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第60回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第66回玲人から電話がかかってきた。「なんだよ、こんな時間に」「悪い、でも長からの話だ」「長から?」玲人が杏里たちを見かけた複数の場所を言い、そこに村出身の者達がたむろしているようで何のために集まっているのかを探るように言われたという。「そんな暇あるわけないだろ」「俺もそうだよ、だけど長命令には逆らえないだろう。それとも征太(せいた)じきじきに長に協力しないと連絡を入れるか?」大きな溜息がスマホ越しに聞こえる。「他に誰が居る」「大学生は卒論に忙しいから外す。院生だけ」大学院生、白門で大学院に通っているのは他に三人が居る。白門ではこの五人に対して豊作と言った...ハラカルラ第66回

  • ハラカルラ 第65回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第60回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第65回「え?杏里?」丁度夕飯を終わらせた時間に玲人の父親が訪ねてきた。杏里の母親が後ろを振り返り杏里の父親を呼ぶ。「お父さん、啓二さんが杏里のことで何か訊きたいって」杏里の父親と玲人の父親である啓二は歳が同じである。従って玲人と杏里も歳が近く、小さな頃はよく一緒に遊んでいたが、大学に進んだ玲人と違って杏里は高校を卒業すると村を出ていた。玲人が街中で杏里を見かけた時には垢抜けていて驚いたが、それでも高校生の頃の面影を残していてすぐに杏里と分かった。だが声をかけることは無く、時々見かける程度であった。「おう、啓二、なんだ?」「明彦、お前、最近の杏里の様子を知...ハラカルラ第65回

  • ハラカルラ 第64回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第60回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第64回烏に文字を習いだして二十日が経った。「なんでじゃ?」「え?なにがですか?」「覚えるのが早すぎるだろうて」早ければそれでいいではないか。どうして疑問を持つのか。「いやぁー、文字数そんなに多くありませんでしたから」現段階で五十音より少なかったのではないだろうか。言い換えれば五十音より少ないのだから、もっと早く覚えてもよさそうなものだが、日本語のように単純に一文字が一発音ではなく、一文字で二つ三つの発音となっている文字もあり、単に文字を覚えるだけとはいかなかった。「そういえば、この文字って烏さんが考えたんですか?」「うーん、ほじくるとそうではないが、ま、...ハラカルラ第64回

  • ハラカルラ 第63回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第60回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第63回こんなタイミングで裏切りなどされては潤璃が言っていた村の中での繋がりが芋づる式に上がってきてしまう。そこに玻璃も含まれるかもしれない。後藤智一は水無瀬の返事を知りたくて今もスマホを凝視しているはずである。とにかく返事を送らねば。『今は特にないよ後藤君は静観しておいて絶対に動いちゃだめだからねちゃんとこちらで動いているから安心して』動いているのは水無瀬ではなく潤璃だが。「どうする・・・」潤璃に訊こうか。手に握るスマホを見ていた目を外した時、着信音が鳴った。画面には一ノ瀬玻璃とでている。時計を見ると例の時間である。連絡があるということは、少なくとも今現...ハラカルラ第63回

  • ハラカルラ 第62回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第60回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第62回何かが聞こえた何の音だろう顔を巡らせるキラキラと光るモノが見えるあの音は何処から聞こえてきたのだろうかキラキラからだろうかそれともずっと続く広いどこかからだろうか悲しい声が聞こえる『悲しい声』一歳の子供には言葉としての理解は出来ず、悲しい声としかわからなかった。それでも感情が伝わってきていた。―――悲しい―――痛いと。六日が経った。今日からは朱門が見張りに着く。穴にいる間、烏たちとは出来るだけハラカルラの言葉で話すようにしていた。烏が日本語で何かを言ってくればハラカルラの言葉で返し、言いたいことや質問があればハラカルラの言葉を使った。水無瀬のそんな...ハラカルラ第62回

  • ハラカルラ 第61回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第60回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第61回潤璃の話を静かに聞いた水無瀬。村という中に生まれたわけではなく、村での生活という事をよくは知らないが、それでも青門以外の三門で数日暮らした。それとなくではあるが、門を持つ村の存在の在り方は分かったつもりでいると言い、潤璃の行動を肯定する言葉を続ける。「村の在り方に意見をするということは、簡単ではないということは理解しているつもりです」潤璃が小さな声で「有難う」と言った。「いいえ、こちらこそお話を聞かせてもらえて感謝をしています。それでと言っては何ですが、一ノ瀬さんと同じお考えをお持ちの方をご存じありませんか?」「・・・そういう人間を集めるってことか...ハラカルラ第61回

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