「マーメイド クロニクルズ〜第三部配信中!」「第一部 神々がダイスを振る刻」幻冬舎より出版中!
真っ赤になった孔明の顔が次に怒りで黒くなると、三人は後ずさった。「ナオミ、逃げろ。まさかクリストフが孔明に触れられるとは思っていなかった」チャックが、絞り出すように言った。孔明が、構えをとる。さっきまでとは比べものにならない禍々しいくせに、同時にあやしいまでに美しい龍がいた。威圧感どころではない。右手が振られると光りの流れが生まれてすいこまれそうになる。龍が足を高くあげると虹の流れが空気を切り裂いた。虹は高く空まで続くかと思われた。龍が移動すると闘気が渦を巻いた。カンザス名物の竜巻かと錯覚するようなつむじ風が起きた。龍の潮の流れに乗るような動きにはわずかのムダもなかった。雨の少ないカンザスだったが突風が吹き雨雲が忽然とわき出てきた。怒気を感じてナオミはクリストフが孔明の逆鱗に触れたのがわかった。中国の伝説では、...第一部第6章−9逆鱗に触れる
ナオミは吹き出した。「ハワイから来たと思ってバカにしているの。ファントム・オブ・ザ・キャンパスってわけ。あなたたち本当は演劇部?」「冗談だと思うのも無理ない。だが、黒マントのあやしい人影が深夜にうろついているのは本当だ。大学のキャンパスなんて、変質者野郎にはたまらなく魅力のある場所らしい。さあ、送っていこう。泊まっているのは学生寮だね」「送ってくれるのはうれしいけどひとつ教えて。あなたの拳法、不思議な動きをしてる。シラットにも似ているし、カラリパヤットの動きも入ってる。でも、わたしが知ってるどの拳法ともちがう」「驚いたな。クンフーと間違われたことはあるが・・・・・・正解は、古代中国の龍神拳さ。今では使えるのは俺とじいちゃんだけになっちまったけど」「わたしもパパからマーシャルアーツを習ってたの」「お父さんから?」...第一部第6章−8ファントム
一匹の真紅の龍が三匹の神獣たちと演武をしていた。しなやかな肢体の銀狼。背後が見えないほど巨大な雷獣。そして、所狭しと飛び回る金色の鷲。はるか昔、ネプチュヌス宮殿でゆうゆうと移動する海龍を見た記憶があるが、これほど見事なたてがみ、背びれ、鱗を見たことがなかった。落ち着きを称えたブラウンの瞳と裏腹に数本の角と爪はするどくとがり、掌中には龍の王族だけが持つ御霊があった。振り返った龍の目がナオミのところで止まった。幻視からさめると龍の刺繍が入ったチャイナ服に身を包んだ男がいた。時折前世からの縁ある人と再会するとナオミには記憶がよみがえった。神々の血筋を引く人間も人間界に存在しているのだ。微笑んだ顔には屈託がなく、孤独を好む龍族の性質は人間界の生活でなくなったようだった。「どこかで、会ってないかな?」男がナオミに話しかけ...第一部第6章−7仲間たちとの出会い
聖ローレンス大学は、カンザスシティ空港から車で三十分ほど東に行ったカンザスシティの東のはずれに位置していた。空港からシャトルバスに乗ってミズーリからカンザスの州境に入ると、Adastraperaspera.WelcometothestateofKansas!(「星へ困難な道を。カンザス州にようこそ」)という州のモットーを使った看板が高速道路上に見えてきた。シャトルバスがわずか十五ドルで、彼女たちが住む予定の学生寮まで送ってくれることになっていた。学生総数が数千人というから米国では小規模の部類に入るが、地元では名門私立大学だった。小高い丘の頂上を占めるキャンパスは、やっかみをこめて「スノッブヒル」と呼ばれていた。広大なキャンパスを歩くと目の前を野生のリスが横切った。平原地帯特有の気候で五月から十月までTシャツで過...第一部第6章−6夏季ディベートセミナー
財部剣人です!原作を読んで楽しみにしていた『ドクター・スリープ』を見てきました。最初の三分の一は、ややディーン・クーンツ的な乗りでキングファンには?という感じかも、でも真ん中の三分の一で各キャラークターが急に立ち上がりだして面白くなり、最後の三分の一はスゴイ怖い出来になっていました。この間、楽しみにして見に行った『ターミネーター:ニュー・フェイト』はまさかの観客5人だったのですが、今回は私を入れて12人でした。ネタバレになるので書きませんが、『シャイニング』映画版だけを見た人には、伏線となっているいろいろなストーリーが読めないかも知れません。逆に、キングの原作版『シャイニング』や『ドクター・スリープ』を読んでいる人は満足できるよい出来映えだと思います。ランキング参加中です。はげみになりますので、以下のバナーのク...ドクター・スリープを見てきました!
一九九〇年七月二十五日、ナオミは、アメリカの「心臓地帯」(ハートランド)と呼ばれる米国中西部にあるカンザスシティ国際空港に降り立った。カンザスシティとはまぎらわしい名だが、市の三十パーセントの行政区がカンザス州に属しているだけで、実は大部分がミズーリ州に属している。ユナイテッド航空機外に出ると夏草の匂いと熱気に圧倒された。それでも乾燥した空気のために汗はすぐ乾く。海に囲まれたハワイからどこまでも広がる草原地帯に来て、まるで自分がドロシーになった心境だった。トトはどこにもいなかったが親友のケイティが一緒だった。今日もスペイン製のサマーセーターがフリル付きのスカートに似合っている。大型客船の船長を父に持つ彼女は島一番大きな家に住むお嬢様だった。身長百七十センチでスタイル抜群、何事にも素直な性格の彼女がナオミにはうら...第一部第6章−5ナオミ、カンザスへ
五百四十五年前、トルコ軍の看守がマクミラの父ドラクールに同情を禁じ得なかったように、この一族には周囲の人間を惹きつける何かを持っていた。ヌーヴェルヴァーグ・シニアが残したヴェニスのカーニバルの貴婦人の仮面を前に、暗闇の中でジェフは飾りのついた年代物の椅子にかけて思った。あれほどの美貌、知性、才能を兼ね備えたマクミラが、よりによってすでに結果の見えたゲームに限られた人生をかけねばならないとは・・・・・・やりきれない。不老不死のヴァンパイアならよい。どうやらマクミラはどうしたわけか、ヴァンパイアにもかかわらず人間同様に成長して人間同様に寿命を迎えるらしい。それは自分も同様だが。神々とは、なんときまぐれで勝手な存在なのだろうと天に向かって、あるいはプルートゥのいる冥界に向かって唾を吐きたい気分だった。マクミラに使えた...第一部第6章−4マクミラと愛
「極右組織?」「現体制をひっくり返す気もないくせに既得権益が侵されることには苛立ち、見当違いの八つ当たりをする卑怯者のクズどものことです」「どうもあまりお友達にはなりたくない連中のようね」「その分、良心の仮借なしに利用できるのではないですか」ジェフはニヤリと笑った。良心の仮借?情け容赦なくの間違いじゃない、とマクミラは思った。「この国には、古くから白人優越主義の伝統があります。KKK団と呼ばれるクー・クラックス・クラン、国民同盟、見えざる帝国、ホワイト・アーリアン・レジスタンス等、数え切れないほどの極右団体が存在します。ただし、極左団体と極右団体は過激な思想を持つ団体という点では共通していますが、大きな違いがあります」「それは?」「極右団体には、エスタブリッシュメント、つまり上流階級に属する体制派も参加していま...第一部第6章−3極右団体
「はい、よろこんで。今のところテロ組織として認知される集団は世界で約二百九十に上ります。二十世紀のテロ組織はその目的により五つに分類出来ます。一番目は思想的背景を持つ革命指向型ですが、これは冷戦構造の崩壊に伴い衰退していくでしょう」「わたしは冥界にいた時から知っていたけれど、それがわかっていたとは人間にしてはたいしたものね」「二十世紀は戦争と革命の世紀です。しかし、ソビエト連邦下の共産圏の国々が民主革命によって打破されてからは世界は一つのイデオロギーによって統一されるでしょう」「資本主義、あるいは拝金主義という名のイデオロギーにね」「その通りです。冷戦構造という重しが取れれば、二十一世紀に向けてその他四タイプの力が増していくでしょう。二番目が政府の支配から逃れようとする独立戦争型、三番目が他民族の弾圧から逃れよ...第一部第6章−2ジェフが語る国際関係論
一九九〇年五月、マクミラは十八歳になっていた。「マクミラ様、またゲームのことをお考えですね?」ジェフが言った。「お前に隠しごとは出来ないわね。すでに勝ちが見えたゲームで果たすべき役割は何だろうと考えていたの。相手の動きが見えないうちは動きようがないとはなさけないわ」「ご主人様なら、これはと思う人物をしもべとすることで完璧を期せましょう。そうしておけばマーメイドごときが動いても努力を無効化出来るのでは」「話はそう簡単じゃないの。無制限にヴァンパイアを増やせば世界はヴァンパイアだらけになってしまうし、足跡を残せばハンターに狙われる危険も高まる。ヴァン・ヘルシングを気取る連中は今でも存在するわ」「なるほど」「それに一度くらい血を吸われても、全員がヴァンパイアになるわけではない。その資格を認められて、血の洗礼を受けなけ...第一部第6章−1動き出すゲーム
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