「マーメイド クロニクルズ〜第三部配信中!」「第一部 神々がダイスを振る刻」幻冬舎より出版中!
一九九一年一月、皮肉にも「弱虫」のあだ名の持つジョージ・ブッシュ大統領の開戦演説によって湾岸戦争の幕が切って落とされた。西洋には「正義の戦争ドクトリン(justwardoctrine)」と呼ばれる宗教上の教義に近い理論があり、大統領の開戦演説などにはこうしたレトリックが用いられてきた。ブッシュの開戦演説も例外ではなかった。軍事評論家ウィリアム・オブライアンによれば、「正義の戦争」は四つの条件を満たすことを求められる。第一に、「大義」が存在すること。開戦理由は権力者の私怨や私欲によるものであってはならず、皆が納得する理由が提示されていなければならない。第二に、「戦争が最後の手段」でなければならない。いきなり武力に訴えるのではなく外交など平和的な手段を尽くした上で、戦争以外の選択枝がなくなって初めて武力行使が正当化...第一部第7章−8ブッシュ大統領の開戦演説
一九九〇年十二月。ナオミは、もう何ヶ月も気が気ではなかった。八月のイラク大統領サダム・フセインによるクェート侵攻に端を発した国際情勢は、きなくささを増しつつあった。国連安保理事会の大量殺戮兵器の査察団の受け入れを拒否したイラクに対する多国籍軍による軍事介入は、時間の問題と見られていた。いったん戦闘が始まれば、ケネスが従軍する可能性があった。すでにシールズ教官として世界を飛び回っていたケネスをつかまえるのは不可能だったし、戦闘が始まってしまえば機密事項に関する「途中経過」を聞くことも出来なかった。いらいらしながら待っていたナオミの学生寮の電話が、ある夜鳴った。受話器を取る前から、ケネスからの電話だと確信があった。「ケネス!?」「ナオミ、元気か?」「元気かじゃないでしょ。なぜずっと電話もくれなかったの」「そう怒るな...第一部第7章−7湾岸戦争
六年前に魔道がニューヨーク州オルバニーの邸宅で、ヌーヴェルヴァーグ・シニアに面談すてから儂の人生が始まった。彼は魔道に生命のすべての謎を解き明かす神導書アポロノミカンを見せようと言った。ヌーヴェルヴァーグが神導書を開いた瞬間、頭の中のプロテクターが吹っ飛んで脳髄が百パーセントの割合で機能しだした。しかし、それは一人の人間が受けとめられる限度をはるかに超えていた。その瞬間、誰かが叫んでいた。だが、その叫びは魔道自身のものじゃった。知ってしまった知識の重みに耐えかねて魔道は倫理や道徳心といったくだらない感傷を越えた存在、第二の人格であるこの儂ドクトール・マッドを生みだした。儂は魔道が寝静まっては起き出して脳死状態の死体を使っては、さまざまな実験を続けた。儂は一度活動停止した脳を再起動させて、ねらった命令を細胞に与え...第一部第7章−6転機
人間の身体は六十兆個の細胞からなっているが、細胞の種類はたったの二百種類しかない。それが連絡を取り合って秩序の取れた状態を生みだしている。不要になったり身体に害を与えるため「死ね」という指令を受けた細胞は、あらかじめ増殖や分化と同じようにすでに遺伝子に書き込まれている「自殺」のプログラムを起動させる。身体自体がひとつの組織で組織のトップにいて指令を出すのが脳だとしたら、まだ我々の知らない指令系統が存在するのではないか。なぜなら人間の脳で使われているのは十から三十パーセントにすぎないと言われているからじゃ。もし残りのプログラムを活用できるようにかかっているプロテクターを外せれば・・・・・・人間を従来の科学では想像も出来ない存在に作り替えられるのではないか。まさに神の業の領域だ。若かった儂はこのアイディアに夢中にな...第一部第7章−5ゾンビー・ソルジャー計画
儂が目指していたのは死人を別の存在として生き返らせることだったのじゃ。雷の晩につなぎ合わせた死体に電流を流すといった非科学的方法ではない。儂が目をつけたのは、アポトーシスと呼ばれるいらなくなった細胞が消えて新しい細胞に取って変わられる過程じゃった。たとえば、オタマジャクシのしっぽが無くなってカエルの足が生えたり醜い芋虫が美しい毒蛾に変態するのがそうじゃ。人間も例外ではない。胎児も子宮の中で数千万年の人類の進化の歴史を繰り返す。受精した卵は、まず海洋生物に近い姿から、魚、両生類、爬虫類の姿を経て、だんだんとカバのような哺乳類の姿を経て、やっと人間らしい形になっていく。生物の細胞はアポトーシスと呼ばれる死を繰り返している。ネクローシスという病気によって細胞群の集団内で起こる受動的な崩壊過程と違って、アポトーシスは細...第一部第7章−4フランケンシュタイン計画
「儂の力を試してみるかね?」「不思議な波動ね。やさしさや憐れみを持たないくせに悪意や傲慢さもない。そのくせ、とてつもない凶暴さを秘めている。上陸寸前の台風、爆発寸前の活火山、あるいはメルトダウンが始まりかけた原子力発電所とでも言えばよいかしら」「マクミラよ、気をつけて口を利くがよい。今の儂は脳髄のパワーが全開になっておる。かつて冥界の神官だったかどうか知らぬが最高の英知を獲得した儂に対して気安い物言いではないか」「気をつけるのはどちらの方?人間の英知などたかが知れているのではないかしら」そう言いながら、マクミラが背中から真っ赤な二条の鞭を取り出した。彼女とマッドは一触即発だった。ジュニベロスの三首の口からもゆっくりと、だが着実に瘴気(しょうき)がはきだされて周りに漂い始める。「ドクトール無礼ではないか、初対面の...第一部第7章−3ネクローシスとアポトーシス
うっかりすると殺し屋と間違われかねないアウトフィットだったが、知的な顔立ちを見れば大学教授のように見えないこともなかった。「こちらこそ辺鄙な山奥にまでご足労願って恐縮です。日本語がお上手ですね。一度、早い時期に貴方に会っておきたかったもので」魔道を一目見た3匹が唸り始めた。「ヌーヴェルヴァーグ嬢はどこにいらっしゃるに三匹の盲導犬(英語でseeingeyedog)をお連れと聞いていましたが、どうやらどう猛犬(seeminglyexciteddog)の間違いでしたか」「盲導犬は常に『親愛なる犬』ですわ。どうぞマクミラとお呼びください」「わかりました。マクミラ、ここからは英語でお話ください。以前ボルチモアで5年研究生活を送ったのでわたしもいちおうのコミュニケーションには困りません」「いちおうのコミュニケーションですか...第一部第7章−2魔道とマッド
一九九〇年十月。真紅のドレスをまとったマクミラの姿は、いつビックアップルの社交界にデビューしてもおかしくないほどだった。最高級サングラスの奥の閉ざされた両眼さえ彼女の美しさを引き立てはしても減じてはいなかった。現実には、勝手気ままな生活と引き替えにマクミラは社交界の注目を集めるどころか、親しい友人の一人さえいなかった。誰にも心を開かない理由は、周りの波動にシンクロしてしまう特異体質だったからだ。澄んだ波動の相手と一緒なら心の澱がなくなりエネルギーが満ちてくる。逆に、いやな波動を発する相手と一緒だと心に大きな穴が空いて体調が悪くなる。そのせいでマクミラは人付き合いをひどく限定してしまった。特にやっかいだったのは女性の受けが悪かったことだ。男性に対して彼女は魅力的過ぎた。たまに外出しても、病弱そうに見えると殿方に親...第一部第7章−1マッド・イン・ゾンビーランド
財部剣人です!新年明けましておめでとうございます!第三部の完結に向けてがんばっていきますので、どうか乞うご期待。「マーメイドクロニクルズ」第一部神々がダイスを振る刻篇あらすじ深い海の底。海主ネプチュヌスの城では、地球を汚し滅亡させかねない人類絶滅を主張する天主ユピテルと、不干渉を主張する冥主プルートゥの議論が続いていた。今にも議論を打ち切って、神界大戦を始めかねない二人を調停するために、ネプチュヌスは「神々のゲーム」を提案する。マーメイドの娘ナオミがよき人間たちを助けて、地球の運命を救えればよし。悪しき人間たちが勝つようなら、人類は絶滅させられ、すべてはカオスに戻る。しかし、プルートゥの追加提案によって、悪しき人間たちの側にはドラキュラの娘で冥界の神官マクミラがつき、ナオミの助太刀には天使たちがつくことになる。...第一部序章〜第6章のバックナンバー
なぜ、攻撃してこないのかしら?ナオミは思った。もしかして女だと思ってバカにしてる?その時、トーミの声が聞こえてきた。ナオミ、違うぞえ。この龍、どうしてよいか迷っておる。心を読んでごらん。神界から来たもの同士、今のお前さんならできるはずだよ。おばあ様・・・・・・ナオミのマーメイドの能力が、瞬間的に解放されて龍の心の中が見えた。真っ赤に目を充血させた龍が暴れていた。だが、暴れながらも龍は自分自身に戒めを課すかのように身をよじっていた。ライフ・エナジーを打ち込むんじゃ。再び、トーミの声が聞こえてきた。わかったわ。ナオミは弓を引き絞るポーズを取ると、龍をつかまえて離さない憤怒をはじき飛ばすための生体のエナジーをため込んだ。次に、身体を一回転半させて得意の後ろ回し蹴りでミドルキックを打ち込む。その刹那、孔明に不思議な表情...第一部第6章−10おかしな組み手
「ブログリーダー」を活用して、財部剣人さんをフォローしませんか?
指定した記事をブログ村の中で非表示にしたり、削除したりできます。非表示の場合は、再度表示に戻せます。
画像が取得されていないときは、ブログ側にOGP(メタタグ)の設置が必要になる場合があります。