気軽に読めて笑えるショートストーリーです。名作パロディーやファンタジー、ミステリーなどいろいろ書いています。
2分くらいで読めるショートストーリーです。 ブログでは、なるべくハッピーな話を書くようにしています。 伊東葎花のペンネームで、いろいろな文学賞に挑戦中です。
A子さんは、しあわせ上手。だからいつも楽しそう。 「信号が全部赤だったおかげで、いつもと違う景色に気づけたわ」とか、 「今朝の目玉焼き、失敗しちゃった。でもね、きれいな流し目になったのよ」とか。 こんなふうに、何でも幸せにしちゃう素敵な人。 嵐のような大雨の朝、A子さんは相変わらず笑顔だった。 「ワイパーが一生懸命働いてくれて、私も元気をもらったわ」 「さすがA子さん、こんな雨の日もポジティブ…
普通の家庭に育ち、普通が一番だと教えられてきました。 特に抜きに出るものはなく、右に同じ、左に同じ。 普通の成績で学校を卒業し、普通の会社に入って普通の人と結婚しました。 普通の人と普通の家庭を築きました。 私の人生は、普通にしあわせで、普通に穏やかでした。 そして普通に人生の幕を閉じました。普通に、長生きでした。 普通に極楽浄土に行けると思っていましたが、黄泉の国への入り口で、受付嬢に止めら…
仕事から帰ると、すぐに部屋着に着替えて化粧を落とすの。 そしてビールとおつまみを用意して、ソファーに座ってテレビを見るの。 そこからが私の自由時間。ゆったりゆっくり自分時間を楽しみたいのに……。 どういうわけか気がついたら寝てるの。 ハッとして起きたらもう朝なの。 ビールは半分以上残っていて、テレビはつけっ放し。 疲れは取れず体も痛い。自己嫌悪に陥りながらシャワーを浴びて仕事に行くの。 ほぼ毎日…
つるの恩返し 「こんばんは。私は先日、あなた様に助けて頂いたつるでございます」 「えー、人違いじゃない? おれ、つるなんか助けたかな?」 「間違いございません。防犯カメラにしっかり映っておりました。その映像から、顔認証システムを駆使して調査いたしまして、あなた様にたどり着いたのでございます。ほら、これは確かにあなた様ですね」 「あっ、本当だ。おれ、つるを助けてたのか。すっかり…
カフェでコーヒーを飲もうと思ったら、カップに口紅が付いていた。 私はすぐに店員を呼んだ。 「カップに口紅が付いてるわ。取り替えてちょうだい」 若い店員は、間が抜けたような顔で言った。 「それ、お客さんの口紅っすよね」 「はあ? まだ一口も飲んでないわよ。ちゃんと洗いなさいよ」 「いや、でも。あー、まあ、わかりました」 若い店員は、首をかしげながらコーヒーを下げた。 何なの、あれ。あんな失礼な店員…
5月になると、おばあちゃんの家に黄色いバラが咲く。 世界中の光を集めたような明るい花が、フェンスに広がる。 おばあちゃんは白いテーブルと椅子を並べて、可愛いカップに紅茶を注ぐ。 まるで英国のアフタヌーンティみたいに優雅な時間。 降りそそぐ日差しと、あざやかなバラ。大好きなおばあちゃん。 「さあ春香ちゃん、紅茶はいかが」 「いただきます。おばあちゃま」 「昔ね、黄色いバラを両手いっぱい抱えて、プ…
5月の連休って、ほんとヒマ。 友達はみんな旅行に行ったけど、うちのパパとママは絶対外出しない同盟を組んでいるみたいに家でゴロゴロ。 「沙良、見てみろ、この渋滞。どこに行っても人だらけ。金もかかるし家が一番」 そう言って、テレビのニュースを指さすパパ。 つまらないから、家の前の公園に来たけれど、誰もいない。 ああ。うちがすごいお金持ちだったらな。お城みたいな家に住んで、メイドさんがいて、毎日プリ…
「ああ、大変だ。ごめん、マリア、パパは出かけてくる」 「えー、明日の授業参観は?」 「すまない。次は必ず行くから」 「あなた、どちらへ?」 「銀河の森だ。奴が暴れている」 「気を付けてね」 パパは、でかけた。 「あーあ、パパ、約束したのにまた出かけちゃった」 「仕方ないでしょう。パパはこの世界のために闘っているのよ」 「もう、どうしてうちのパパは勇者なの? 普通のパパが良かったよ」 「あら、…
公園でチューリップの写真を撮っていたら、モゾモゾと動く花びらを見つけた。 「いやだわ。虫かしら」 そう思っていたら、何とも可愛らしい女の子が顔を出した。 「あら、あなたはもしかして、おやゆび姫かしら?」 「うん。人間にはそう呼ばれてる」 「わあ、本当にいるのね」 「あのさ、あたしをあんたの家に連れて行ってくれないかな。ここはすごく危険なの。虫や鳥や猫や犬、最近じゃハクビシンも恐ろしい」 「わかっ…
新歓コンパのお花見。 隣に座ったU先輩が「一緒に抜けよう」と言ってきた。 話し相手もいなくて退屈だったし、割と好みのタイプだったからOKした。 ライトアップされた土手の桜並木を並んで歩いた。 幻想的で美しい。桜を見るなら夜の方がいい。 「ねえ、あそこの桜だけ暗いでしょ。どうしてだか分かる?」 U先輩が指さした桜だけ、ライトが消えている。 「霊がいるんだよ」 「へえ」 「でも大丈夫。僕が守ってあげる…
「おはようございます。瑠璃子さん」 「おはよう、春香さん。今日の空は、どんな色?」 「はい、白鳥が飛び立った後の、澄んだ湖のような青です」 「まあ素敵」 視力を失った瑠璃子さんのお世話をするようになって、もうすぐ1年。 初めて会ったとき、瑠璃子さんは私に言った。 「春香さん、私が最後に見た空は、どんな色だったと思う?」 「さあ、その日のお天気にもよりますので」 「絶望の色よ」 「じゃあ、黒………
卒業証書を抱えた高校生とすれ違った。 あの制服、私の母校だ。懐かしい。 放課後のおしゃべりとか、部活のあとのアイスとか、そんなことばかり思い出す。 私の隣にはいつも珠里がいた。よくもまあ飽きずに、毎日一緒にいたな。 二人でいるのが当たり前だったのに、珠里とは卒業してから一度も会っていない。 絶対また会おうって言ったのに、一度も会っていない。 夏休みに会う計画を立てたのに、結局会えなかった。 原…
2105年、人間は2種類に分けられる。 AIを使う人間と、AIに使われる人間。 世界の7割の人間は、AIに使われている。 AIロボットの指示で働き、失敗すると容赦なく切られる。 切られた人間はスラム街へと流れ、ひどく荒れた暮らしをしている。 私はもちろんAIを使う側の人間。 「おはよう、アンジー」 「おはようございます。スドウ様」 「先月の、西区の売り上げを出してちょうだい」 「承知しました」…
わーい、階段だ。赤いじゅうたんだ。おもちゃもたくさんある。わーい! 階段を一気に駆け上がったら、菜乃香ちゃんに叱られた。 「こら、茶太郎、ひな壇に登っちゃダメでしょう」 ボクはひょいと抱き上げられて、廊下に出された。 「終わるまでそこで待ってて。これはね、ひいおばあちゃんの代から続く、由緒あるおひな様なのよ。いたずらしたら、ばちが当たるよ」 おひなさまってなんだよ。知らないよ。ニャーニャー鳴い…
「A子さん、お隣、誰か引っ越してきたの? さっき人影が見えたけど」 「そうなのよ。ずっと空き家だったけど、先週から誰か住んでるのよ。だけどね、一度も会ったことがないの。どんな人が住んでるのか、さっぱり分からないわ」 「引っ越しの挨拶は?」 「今どきの人は、そんなのしないわよ」 「若い人かしら。イケメンかも。知りたくない? どんな人か。今から行ってみようか」 「用もないのに行けないわよ」 「じゃあ…
義理チョコだの、本命チョコだのと、そんなものは、昔の話。 今は、自分用にチョコを買う時代。いつも頑張ってる自分へのご褒美よ。 たった4個で4000円のトリュフ。1個1000円ってこと? 有名な職人が作ったものは1万円を軽く超える。温泉一泊出来ちゃうかも。 やっぱりいいや。贅沢すぎる。見るだけで目の保養。 デパ地下をウロウロしていたら、安いチョコを大量買いしている女がいた。 よく見たら、契約社員…
<王様の耳はロバの耳> 王様に呼ばれてお城に行った床屋。 城に着くなり、家来に言われた。 「おい、床屋。見ての通り、王様の耳はロバの耳だ。しかしそれを言いふらしたら、おまえの命はないと思え」 「へい、ご心配なく。誰にも言いません」 「本当だな」 「へい、最もあっしは、去年病気で視力を失いまして、全く目が見えません。だからご心配なく。何も見えません。さて、王様の髪を切りましょう…
「両親が年中無休のお店をやっていたので、晩ご飯はほぼ一人でした。 テーブルの上に500円が置いてあって、それで好きな物を買って食べました。 ほぼ毎日、カップ麺でした。お弁当より安いし、お湯入れるだけだから。 でもね、これじゃいけないと思ったのが高校生のときです。 偏った食事で、体重は増えるしニキビも多くて。 それで私、健康と美容を意識した食事作りに目覚めたんです。 現在、小学生の娘がいるのですが…
冷凍室に入っていた大きなタッパー。 開けてみたら、雪だるまが入っていた。 そうだった。去年大雪が降った日に、彼と一緒に作った小さな雪だるま。 彼との思い出を何でも取っておきたくて、冷凍室に入れたんだ。 まさか別れるなんて思ってなかったし。 2年いっしょに暮らしたこの部屋には、まだ彼の想い出がいっぱい。 早く忘れなきゃ。 私は雪だるまをベランダに出した。明日には、溶けてなくなるだろう。 そして彼…
ここは雪の国。北の果ての小さな国。 お城には、とても我儘なお嬢様がいました。 何しろこのお嬢さま、雪の国で唯一の女の子。 雪の国でも、若者離れと少子化が問題になっているのです。 「あー、かき氷飽きた。ジェラード食べたい」 「ペンギン飽きた。シロクマ飼いたい」 「スキー飽きた。スノボやりたい」 言いたい放題、やりたい放題。だけどお嬢さまは、子孫を残せる唯一の女の子。 みんなに大切に育てられました…
男は大晦日から酒を飲んで、正月になってもゴロゴロしている。 「おおい、酒がなくなった。持ってきてくれ」 男の妻が、呆れ顔で言った。 「あなた、お酒ばかり飲んでないで、初詣に行きましょうよ」 「別に今日行かなくてもいいだろう。神様は逃げないさ」 「あたしは行くわよ。毎年欠かさず元旦参りをしてるんだから」 「じゃあ、おれの分の頼む」 「はあ?」 「ほら、500円。これでおれの願掛けをしてきてくれ」…
今年最後の朝が来た。 今年最後のお洗濯、今年最後の朝ごはん。 今年最後の掃除、今年最後のネットショッピング。 今年最後の昼飲み。 今年最後のお昼寝。 あれ、紅白終わってる。えっ、11時50分? やだ、今年最後の晩酌してない。 今年最後のコンビニも行ってない。 せめて今年最後のインスタ、アップしよう。 ああ、今年最後の充電してない。 まあいっか。 今年できなかったことは、来年やろう。 あっ、…
もみの木が目覚めると、そこは暖かい部屋の中でした。 「あれ、ぼく、暗い森にいたはずなのに」 もみの木には、赤や緑のオーナメントが飾られて、ピカピカの電飾が点いていました。 「いつのまに?」 もみの木は、先週まで森にいました。 隣りに立つ兄ちゃんと寄り添いながら、冬の寒さに耐えていました。 それがどうしたことでしょう。 目が覚めたらひとりぼっちです。 にぎやかな歌が聞こえてきました。 ジングル…
寒いね。今夜は特に冷えるわ。 おじさん、とりあえず大根とはんぺんとがんもどき。 あとお酒ね。 それにしても空いてるね。 もっともクリスマスに、こんなしょぼい屋台のおでん屋に来る客なんかいないか。 あー、ごめんなさい。しょぼいは言い過ぎ。 でもおじさん。味は日本一よ。あたしが保証する。 えっ? 彼氏とデートしないのかって? いないよ、彼氏なんか。まあ、去年まではいたけどね。 うん。おしゃれなレ…
『簡単な仕事 一日30万円』 ネットで見つけたバイト。絶対ヤバい。闇バイトだ。 だけど、俺はもう限界。 寝坊癖がたたって仕事をクビになり、冷蔵庫は空っぽ。三日もまともに食ってない。 スマホ代だけはなんとか払ったけど、これが止まったら仕事も探せない。 実家の親からはすでに10万借りていて、これ以上は無理と言われた。 だから応募した。だって仕方ないだろう。 すぐに連絡が来て、翌日待ち合わせ場所に…
サンタクロースの元に届いた「就業規制」 働き方改革による、労働時間の制限が書かれていた。 『サンタクロースの労働時間は、12月24日午後10時より、12月25日午前3時までとする。なお、トナカイには1時間おきに休憩を取らせ、ワンオペにならぬよう予備1頭を用意すること』 「なんじゃ、こりゃ。これでは世界中の子どもたちにプレゼントが配れん」 初老のサンタクロースは、協会にクレームの電話を入れた。…
「こんにちは」 「はい、どなたかしら?」 「私、木枯らし1号です」 「あら、木枯らし1号さん。さっきから窓ガラスがガタガタ揺れてるのは、あなたの仕業だったのね」 「面目ない。これでも極力抑えているんです」 「それで、何の御用かしら」 「あの、ほんの少しでいいので、休憩させてもらえませんか。ほら、今年は寒くなったと思ったらまた暑くなって、気温が安定しないじゃないですか」 「本当にそうね」 「ですか…
(実花) 「着いたよ」 家の前で車を止めて、正人が言う。 前はわざと遠回りして送ってくれたのに、今じゃサイドブレーキも引かないで「早く降りろ」って言わんばかり。 「じゃあね」 さっさと降りて家に入る。あーあ、もう潮時かな。 長く付き合いすぎて、ときめきもないわ。 (正人) 「じゃあね」 実花のやつ、さっさと家に入るもんな。 前は車が見えなくなるまで見送っていたのに。テールランプで「アイシテル」…
柊子が大きなスーツケースを持って家に来た。 「冬物を取りに来たわ。なんかさあ、急に寒くなったよね」 柊子はスーツケースからTシャツや、夏物のワンピースを出してクローゼットに仕舞い、代わりにセーターやコートを取り出した。 「いや、ちょっと待って。どうして夏物置いていくの?」 「えっ、だってさすがに着ないでしょう。もう11月だよ」 「そうじゃなくて、僕たち離婚したよね。ここはもう、君の家じゃないよ」…
リタは、魔女の娘。魔女の国でひっそり暮らしている。 魔女年齢で185歳。人間で言えば、16歳くらいかしら。 ある日、友達のライザが行方不明になった。どうやら、人間界に行ったみたい。 「お願いリタ。人間界に行って、ライザを連れ戻しておくれ」 ライザのママは心配で、夜も眠れないみたい。 「どうして人間界になんか行ったの?」 「怖いもの見たさだろう。好奇心旺盛な子だからね。最近の若い子は、人間の怖さ…
合コンで知り合った高野君から、デートに誘われた。 割とイケメンだし、センスも良かったからOKした。 「ユリちゃん、明日の待ち合わせ、9.5時ね」 「9.5時?」 「そう、9.5。よろしくね」 時間の言い方、独特だな~と思いながら、翌日、待ち合わせ場所に向かった。 「ユリちゃん、遅いよ。9.5って言ったじゃん」 「えっ? だから、9時50分に来たんだけど」 「違う、違う。9.5は、9時+0.5。…
小中学生向けの雑誌「青いスピン」に作品を応募して、佳作をいただきました。 佳作なので、雑誌の方には掲載されなかったのですが、今回、WEB版に掲載されました。 https://bluespin.tokyo-shoseki.co.jp/reading/koubo-vol2-k2.php タイトルは「たまごボーロの夏」です。 中二女子ふたりの、ちょっと切ない夏のお話です。 この雑誌は、小学校高学年から中学生向けなので、大人が読んでも面白いです。 プロの小説もあ…
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