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りんのショートストーリー https://rin-ohanasi.blog.ss-blog.jp/

気軽に読めて笑えるショートストーリーです。名作パロディーやファンタジーなどが中心です。

お話を作るのが大好きで、こっそり書き溜めていたのですが、夫と子供に見せたところ、面白いからブログに載せたら、と言われて、思い切って作っちゃいました。 重い話はありません。 楽しいショートストーリーが中心です。 お茶でも飲みながら読んで欲しいです。

りんさん
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2009/11/29

  • 春の陽気に誘われて

    ずっと部屋に籠っていたけれど、いい陽気になってきたから家を出た。 食料もなくなってきたし、ずっと引き籠ってもいられない。 まだ少し肌寒かったので、パーカーのフードを目深に被った。 マスクもまだ外せない。 住宅街を歩いていると、庭先のツツジがきれいな家を見つけた。 濃いピンクが一面に広がって、なんて美しい。 思わず見とれていたら、垣根のあいだから家主が現れた。 「何か御用ですか?」 「あっ、いや、ツツジがきれいだったもので」 家主が睨むので、俺はそそくさとその場を後にした。 世知辛い世の中だ。うっかり他人の家も覗けない。 公園に行った。公園の花なら、いくら見ても文句は言われない。 チューリップが見事だ。 近くの幼稚園児が集団で遊びに来ている。 「お花、きれいだね」 近くにいた子に話しかけると、すかさず先生が飛んできた。 「さあ、園に帰りますよ」と、さら..

  • イメージが

    「先輩、先輩って、そういう顔だったんですね」 「何よ、急に」 「だってほら、私が入社したのが3年前だから、ずっとマスク生活だったじゃないですか。マスクとった顔、初めて見たから」 「そうね。で、どう思ったの?」 「うーん、ちょっとイメージと違うなあ、って」 「どこがよ」 「うーん。くち元が、もうちょっと、うーん」 「そういうあなただって、イメージとずいぶん違うわよ」 「どこがですか?」 「うーん、鼻が、もっと、ねえ、うーん」 「あっ、先輩、10時に○○商事の藤岡さんがみえますよ」 「まあ、あのイケメンっぽい藤岡さん?」 「そうです。たぶんイケメンの藤岡さんです」 「笑顔がさわやかっぽい藤岡さんね」 「おそらく笑顔がステキな藤岡さんです」 「声もステキなのよね」 「はい。今日は邪魔なアクリル板もマスクもないから、きっといい声が聞けますよ」 「楽しみね」..

  • 人間大歓迎

    森の奥にある、くまのレストラン。 シェフはお父さん。フロア係はお母さん。 そしてドアボーイは、かわいいこぐまです。 レストランは大盛況。 シカの親子やキツネの夫婦。たまにウサギが女子会をします。 それは、ランチの客がみんな帰った午後2時のことでした。 お客さんはもう来ないだろうと、ドアボーイのこぐまは、ウトウト昼寝を始めました。春の日差しがぽかぽかで、とても気持ちがよかったのです。 「ぼうや、くまのぼうや。起きておくれ」 肩をゆすられてこぐまが目を開けると、見たことのない動物がいました。 「おなかがペコペコなんだ。席はあるかな?」 「ふああ、お客さんか。いらっしゃいましぇ。くまのレストランへようこしょ」 こぐまは寝ぼけまなこでドアを開けました。カランカランとベルが鳴りました。 「一名様、ご案内でーす」 「はいよ」とふりむいたお母さんが、きゃっと叫んで、コップを..

  • きれいなママ

    卒業式の日、ママはきれいな着物を着ていた。 朝から着付けをして、髪を結って、まるで自分が主役みたいだ。 「アユちゃんのママ、きれいだね」って、友達が言ってくれた。 わたしは、髪が上手く結べなくて、結局お化けみたいに広がった髪で学校へ行き、先生から「結びなさい」とヘアゴムを渡された。 可愛くもない茶色のヘアゴムで、おばさんみたいにひとつにしばった。 ママだけが、キラキラしている。 卒業式の後、写真館に行って写真を撮った。 「おじょうちゃん、表情硬いよ。笑って」 写真館のおじさんに言われた。楽しくないのに笑えない。 ママは、うしろ姿も撮るように、おじさんに言った。 「この帯、ステキでしょう。ちょっとそこら辺にない柄なのよ」 「本当に素敵ですね。おじょうちゃん、きれいなお母さんでいいね」 「あらいやだ。やっぱりカメラマンは口が上手いのねえ」 ここでも主役はママだ..

  • ささやかな幸せ

    洗濯カゴに入っている夫のズボンのポケットから、小銭が出てきた。 私はその120円を、貯金箱に入れた。洗濯代としてもらっておく。 「あら、ちょうど千円貯まったわ。じゃあ今日は、ちょっといいおかずにしよう」 これが私のささやかな楽しみだ。 小銭を出して財布に入れようとしたら、どこからか声がする。 「本当にいいの? おかず一品増やしたくらいで、せいぜい刺身くらいだろ。だったらさ、もっといいことに使いなよ」 貯金箱がしゃべってる。 「いいことって何?」 「その千円を元手に馬券を買うのさ。千円が一万円に化けるかもしれないぞ」 「でも私、競馬なんかやったことないわ」 「平気平気、馬券はネットで買えるよ。手始めにやってみな。どうせあぶく銭なんだから」 それもそうかと思って、私はパソコンを開いた。 「あら、意外と簡単に買えるのね」 私は、千円を馬券に替えた。 なんと..

  • 表彰式に行ってきました

    2月18日、新美南吉童話賞の授賞式に行ってきました。 場所は、愛知県の半田市です。 表彰式は午後からですが、新幹線が止まったらどうしようとか、いろいろ考えて前日から名古屋に泊まることにしました。 娘と行くはずだったのですが、娘が急遽行けなくなり、夫と行くことになりました。 心配なのは義母のことです。 入院していて、いつ急変していてもおかしくない状態。 何とか、18日までは頑張ってほしい。本当にそればかり祈っていました。 そして祈りが通じ、万全の態勢で行くことができました。 表彰式は本当に素晴らしかった。 だけど私、普段は緊張しないのに、この日はドキドキしっぱなし。 スピーチも震えて、何を言ったか覚えてないくらいです。 立派な賞状を頂いて、私、本当に幸せでした^^ そのあと、審査員の先生と個別にお話しできる時間がありました。 すごくありがたいです。 私..

  • 苦くて泣いた

    今日はバレンタインデー。 甘いものが苦手なアキラさんのために、腕を振るってご馳走を作った。 「ただいま」 「おかえり。早かったね」 「うん。1本早い電車に乗れたんだ」 「よかった。じゃあご飯にしよう」 「うん。あれ、すごいご馳走だね。何かあったっけ?」 「バレンタインデーだから、一応」 「ああ、そうか。そういう行事、結婚すると忘れるもんだな」 アキラさんと向かい合って夕飯を食べる。 このひと時が、一番好き。 じっくり煮込んだビーフシチュー。赤ワインとチーズもある。 「ねえアキラさん、誰かからチョコもらった?」 「もらわないよ。バレンタインデーだってことも忘れてたんだから。それに、今どき職場で義理チョコもないだろ」 「結婚前はどうだった? たくさんもらった?」 「そんなにモテないよ、おれ」 「またまた。白状しなさいよ。人生でもらった本命チョコの数、..

  • 3年越しの結婚式

    コロナのせいで結婚式が延期になって、早2年。 終息したら絶対に式を挙げようと約束して、籍だけ入れた。 だけどコロナは一向に収まらない。 彼はすっかり諦めモードだ。 「もういいんじゃない」とか言い出した。 生活が始まってしまったら、式だの披露宴だの、どうでもいいみたい。 「そりゃあ、君の気持はわかるよ。式場見に行って、ドレス選んで、エステに通ってダイエットもしたんだろう。最高の笑顔で、たくさんの人に祝福されたいのは分かるけどさ」 「全然分かってない。あなた全然分かってないわよ」 私は手帳を取り出して、広げて見せた。 「なに、これ?」 「私が今までに出したご祝儀よ。友達、職場の同僚、先輩、後輩、いとこ、はとこ。隣の数字は出した金額。これだけご祝儀を包んできたのに、自分のときにもらえないなんて、悔しくて夜も眠れないじゃないの」 「えええ、君がどうしても式を挙げた..

  • 絵本のSOBA

    家の光「絵本のSOBA」2月号に、私のインタビューを載せて頂きました。 https://www.ienohikari-koubo.com/picture-books/ 絵本のSOBAは、児童文学作家の正岡慧子さんが運営するサイトです。 楽しい絵本を紹介しています。 私もお気に入り絵本を紹介させていただきました。 プロでもないのにインタビューなんて、すごく恥ずかしいのですが、よかったら覗いてみてください。

  • 邪な介護

    土曜日は、おばあちゃんの家に行く。 足が悪いおばあちゃんを車椅子に乗せて、お散歩に行く。 「エミちゃん、いつも悪いわね。叔母さん助かるわ」 「1時間くらい歩いてくるから、韓流ドラマでも見たら」 「あら、じゃあ、そうさせてもらおうかな」 叔母さんは、いそいそと家の中に入っていった。 「おばあちゃん、湖の方に行こうか」 「そうだねえ」 天気がいいから、湖面がキラキラ輝いている。 水辺には、たくさんの鳥が集まっていた。 おばあちゃんは、昔の話ばかりする。 「ボケてるから適当に話合わせてね」と叔母さんが言っていた。 ウンザリだけど、いいこともある。 「そうだ。エミちゃんに、今月のお小遣い、あげてなかったね」 おばあちゃんはそう言って、1万円をくれる。 「ありがとう。おばあちゃん」 実はもらっている。おばあちゃんは、月に一度のお小遣いを毎週くれる。 「適当に..

  • 運命の初夢

    初夢を見た。 夢の中に、見知らぬ女性が出て来た。 顔はぼんやりしているけれど、会ったことのない女性だ。 数日後、同僚の中村にその話をした。 「単なる夢だから普通は気にしないんだけどさ、初夢だから気になって」 「ふうん。初夢には意味があるって言うもんな。おまえさ、占いとか信じる?例えば血液型占いとか」 「信じないよ。おれ、B型だから、どうせ良いこと言われないし」 「あっ、おまえB型か。まあ、信じる信じないは別として、夢占いをしてみないか。知り合いに当たるって有名な占い師がいるんだ」 「えー、そういうのって高いだろ」 「店を構えてるわけじゃないんだ。だから知り合いしか見ない。連絡とってやるから、会ってみろよ」 中村に言われて、会うことにした。 何しろ中村は、会社でいちばん信用できる男だ。 仕事はできる、家庭を大事にする、先輩にも後輩にも好かれている。 週末..

  • 福の神に来てほしい(切実)

    「あれ、お母さん、正月早々何張り切ってんの?」 「タカシおはよう。あのね、福の神が来るのよ。精いっぱいおもてなししなきゃ」 「ここ、3DKのマンションだよ。神様って、由緒正しいお屋敷に来るんじゃないの?」 「私もビックリよ。でもね、今朝電話があったのよ。今日伺いますって」 「福の神が来たらどうなるの?」 「そりゃあ、福が舞い込むのよ。宝くじが当たるのよ」 「マジで?」 「お母さん、電話受けてすぐ、ネットでブランドバッグ爆買いしちゃった」 「早! 俺さ、免許取ったら車欲しい」 「大きい車がいいね。コストコでいっぱい買い物できるし。お父さんの軽じゃ、いくらも積めないし」 「そういえばお父さんは?」 「駅に神様を迎えに行ってるわ」 「はっ? 神様、電車で来るの? 雲とかに乗って来るんだと思った」 「それは仙人でしょ。福の神は、どこかの由緒正しい神社から来るのよ」 「ふ..

  • 今年もお世話になりました

    2022年は、私にとって最高の年でした。 日本動物児童文学賞の奨励賞から始まり、 家の光童話賞 大賞、 新美南吉童話賞 最優秀賞 深大寺恋物語 調布市長賞 1年で、こんなにたくさんの賞をいただいたのは初めてです。 そして3月から始まった「ニュースつくば」の連載と、それに伴って絵を描き始めたこと。 これも私にとってはとても楽しいことでした。 あと、インスタも始めました。 内容は、ほぼネコです^^ そんなこともあって、ブログの更新が少なくなってしまったのは、ちょっと反省です。 来年はもう少しちゃんと更新します。 来年は、「5分ごとにひらく恐怖の扉百物語2期」の本が出ます。 そのときはまたお知らせしますね。 これからも良いお知らせがたくさんできるように頑張ります^^ 一年間ありがとうございました。 みなさま、よいお年をお迎えください。 ..

  • サンタさんのランク付け

    ユミちゃんの家には、天井に届きそうなほど大きなクリスマスツリーがある。 てっぺんの星は、パパに肩車してもらって飾るんだって。 すごいね。 うちにはクリスマスツリーもないし、パパもいない。 サンタさんは、いつも望み通りの物を持ってきてくれない。 去年は大きなクマのぬいぐるみをリクエストしたのに、運動靴が置いてあった。 「ごめんね。クマさん売り切れだった」っていうお手紙と一緒に。 その前は、プリンセスのお洋服をリクエストしたのに、ペンケースだった。 お洋服も売り切れだったんだ。 「ねえママ、ユミちゃん、サンタさんにピンクの自転車をお願いしたんだって」 「ふうん。ステキね」 「わたしは、何をお願いしたらいい?」 「カナコが欲しいものにすればいいでしょう。今年は何が欲しいの?あっ、お正月に着るコートは?小さくなっちゃったよね」 「それは欲しいものじゃなくて必要な物..

  • おとぎ話(笑)32

    <ウサギとカメ> 「お願いしますよ。今回だけ、ウサギが勝つことにしてもらえませんか」 「ダメですよ。ウサギは油断して昼寝をして負けるんです。油断は禁物っていう教訓のお話なんですよ」 「しかしですね、ウサギ役の子が、議員の孫なんですよ」 「議員って、あの、町の権力者の?」 「そうなんです。お遊戯会も見に来るんですよ」 「ウサギを勝たせましょう」 よい子のみなさん、これが、忖度です。 <かさ地蔵> 「ちょいとおまえさん、峠の地蔵に笠をかぶせただけで、大金持ちになったじいさんがいるんだと」 「ほう、笠をかぶせただけで大金持ちに」 「だからさ、おまえさんも行ってきな」 「どこに?」 「峠の地蔵に笠をかぶせに行くんだよ」 「しかしうちには笠などないぞ」 「じゃあ、笠屋に行って買ってきなよ。地蔵は七人だから七つ買うんだよ」 「よし、行ってくる」 ..

  • お知らせ(家の光童話賞・新美南吉童話賞)

    ワールドカップ、盛り上がっていますね。 私も朝から応援しました。 日本代表に力をもらいました。寝不足だけど^^ さて、いつもブログを読んでくださる皆さま、ありがとうございます。 このたび、家の光童話賞の大賞をいただきました。 そして、なんともうひとつ。 新美南吉童話賞の最優秀賞をいただきました。 こちらは、オマージュ部門の大賞とのダブル受賞です。 これから季節は寒い冬なのに、私、お花畑にいるみたい。 大きな童話賞を二つもいただけるなんて。 浮かれてます。 家の光童話賞は、雑誌「家の光」1月号で読むことが出来ます。 すごく可愛い挿絵が付いてます。 チェックしてみてください。 新美南吉童話賞は、ホームページで読むことが出来ます。 こちらもどうぞ。 http://www.nankichi.gr.jp/Dowasyo/kekka34...

  • コタツ生活

    朝、いつものようにタカシ君を迎えに行った。 「タカシ君。学校行こう」 家の中から声がした。 「ごめん、ユウ君。コタツから出られないんだ」 「えっ、何言ってるの? 早くおいでよ」 タカシ君のお母さんが出てきて言った。 「ごめんね、ユウ君。コタツがタカシを放してくれないのよ。今日はお休みさせるから、ユウ君ひとりで行ってね。気を付けるのよ」 「はあい」 ???コタツがタカシ君を放さないってどういうこと? 寒くてコタツから出られないだけだろう。 学校が終わってから、ぼくはまたタカシ君の家に行った。 「タカシ君、プリント持ってきたよ」 「ユウ君、玄関開いてるから入って」 「おじゃましまーす」と上がって部屋に行くと、タカシ君はコタツに寝そべってマンガを読んでいた。 「なんだ。やっぱりさぼりじゃないか」 「違うよ。コタツがぼくを放さないんだ。コタツ布団をめくってごら..

  • ホチキッス

    中条さんは文房具マニアだ。デスクの上は遊園地みたいだ。 パラソルみたいな七色のマーカーや、マーブル模様のボールペン、ハサミはワニの形だし、定規はピアノの鍵盤になっている。 瀬尾君は、この部署に移動して半年になる。 へんてこな文房具を愛する中条さんが気になっている。 中条さんは、誰にでも惜しげなく文房具を貸す。 マカロンみたいな消しゴムも、パンダの付箋も、カタツムリのセロテープも笑顔で差し出す。 だけど、なぜかホチキスだけは、誰にも貸さなかった。 ある日瀬尾君は見てしまった。 中条さんの引き出しに、ひっそり収まるホチキスを。 それは古い紺色のホチキスだった。カラフルなハートのクリップの隣で、それはやけに地味だった。 瀬尾君は不思議に思った。なぜそれだけが正統派の事務用品なのだろう。 可愛いホチキスって売っていないのかな。 地味だから誰にも貸したくないのかな。 ..

  • 抜け殻あつめ

    「子どもの頃、セミの抜け殻を集めるのが好きだったの」 彼女は甘いカクテルを飲みながら、そんな話をした。 「机の引き出しが、ひとつ丸々抜け殻で埋まったの。それを見つけた母親が悲鳴を上げて全部捨てたわ」 「ひどいね。せっかく集めたのに」 「そうね。私には宝物でも、母にはただ気持ち悪いだけのゴミだったのね」 「俺も好きだったよ。セミの抜け殻。形を残したまま空っぽになるなんて、ある意味芸術だよ」 「あなたとは気が合うわ。ねえ、私、また抜け殻を集めているんだけど、よかったら見に来る?」 俺は、カウンターの下でガッツポーズをした。 彼女は、いわゆる「あげまん」だ。 彼女と付き合った男は必ず出世する。 営業部のTは彼女と付き合ってから成績が伸びて、同期で初めて課長になった。 うだつが上がらなかったYは、彼女と不倫してからとんとん拍子に出世して、今は総務部の部長だ。 ひょんなこ..

  • 姉の存在

    姉は子どもの頃から、わがままで手に負えなかったという。 中学くらいから悪い仲間と付き合いだして、万引きで捕まって高校を退学。 18歳で家を出てから10年間、一度も帰ってこない。 子どもの頃から大人しかった私は、姉を反面教師にして高校・大学を問題なく卒業した。 今は、地元ではわりと大きな安定した会社で働いている。 姉と違って優等生。それが私の立ち位置だ。 父も母も、姉の話をしない。 部屋はそのまま残っているのに、最初からいないように話題を避ける。 ある日、家族でご飯を食べていたら、テレビで詐欺師が捕まったニュースをやっていた。 その詐欺師が、姉と同姓同名だったので、私たちは箸を止めてテレビを見た。 だけど捕まった女は50過ぎの太った女で、ちらりと映った顔は姉とはまるで別人だった。 姉の名前はありふれているから、こういうことは時々ある。 「あー、びっくりした..

  • 祭りのあとの街

    10月になると、ショーウィンドウはハロウィン一色です。 どこもかしこもオレンジ色のお化けカボチャが並んでいます。 街角のデパート。お化けカボチャたちのおしゃべりが聞こえてきます。 「あー、今日はいよいよハロウィンだな」 「この大通りを、仮装した人間たちがぞろぞろ歩くんだ」 「いいなあ。一度でいいからあのパレードに加わってみたい」 「じゃあさ、抜け出しちゃう?」 「そうだな。今夜なら、誰にもバレないぞ」 「仮装パレードに混ざって歩くんだ。最後の夜だ。楽しもうぜ」 「そうだな。明日には俺たち、倉庫行きだもんな」 夜になり、人出が増えて来ました。 お化けカボチャたちはショーウィンドウを抜け出して、パレードの中に紛れ込みました。 「うひゃー、楽しい。テンション上がるぜ」 「人間の仮装すげーな。俺たちぜんぜん目立たない」 魔女やゾンビや流行りのキャラクター。何でも..

  • ただの幼なじみ

    幼なじみの太一が嫁をもらった。 東京の大学で知り合って、卒業と同時に式を挙げたって。 お金がないから、地元に帰って親と同居するらしい。 同居ってことは隣に住むんだ。嫌でも顔を合わせるしかない。 太一とあたしは、小学校から高校まで、ずっと一緒に通った。 朝はどちらかが迎えに行き、帰りも一緒に帰った。 どちらかが部活で遅いときは、待ってて一緒に帰った。 まるで付き合っているみたいだった。将来結婚するかもって、ちょっと思っていた。 でもまあ、そう思っていたのはあたしだけ。 太一にとっては、隣に住んでいるだけの、ただの幼なじみ。 「あーあ、家出ようかな。でも就職したばっかりだしな」 つぶやきながら隣の窓を見た。もうすぐ、太一と嫁が帰ってくる。 「おはよう。麻衣子さん」 「おはよう。実花さん」 太一の嫁の実花さんと、毎朝挨拶を交わす。 「行ってらっしゃい」と、実..

  • 生まれ変わったら

    「生まれ変わったら、お金持ちの家の子になりたいです。そして町で困っている人を見かけたら、100万円ずつ配ってあげます」 私が発表すると、クラスのみんながどっと笑った。 「佐伯さんは優しいのね。だけどね、昨日の宿題は、将来の夢ですよ。生まれ変わったらの話じゃないのよ」 みんながさらに笑った。 先生、私には将来はないんです。だってもうすぐ死ぬんだもの。 昨日の夜、パパとママが話すのを聞いてしまったんです。 コロナでお店がダメになって、借金もたくさんあって(たぶん100万円より多いです)、もうみんなで首をくくるしかないって言ってました。 だからもう、学校へ来るのも最後かもしれません。 金曜日の午後、私は仲良しのクラスメートに「元気でね」と言って別れた。 不思議そうな顔をしていた。 だって、今日が最後かもしれない。そんな予感がする。 家に帰ると、お客さんが来て..

  • プロフィールをちゃんとしました

    このブログを始めて、もう13年も経つというのに、プロフィールがいい加減でした。 私の場合、カテゴリー分けもかなりいい加減で、ずぼらな性格が出てるなあ~とお恥ずかしい限りです。 この度、プロフィールを書き換えることにしました。 というのも、3月からウェブサイト「ニュースつくば」で連載を始めました。 月に1度(ほぼ月末)に、このブログから抜粋したショートストーリーを少しアレンジして掲載させていただいています。 伊東葎花という筆名で書かせていただいています。 たぶんこのブログよりも多くの人の目に触れていると思うので、本家のブログの方もちゃんとしなきゃと思った次第です。 「短いおはなし」というコラムです。よかった覗いてみてください。 https://newstsukuba.jp/ これまであまり載せなかった受賞歴も、主なものをプロフィールに載せてみました。 けっこう時間..

  • おとぎ話(笑)31

    <浦島太郎> 信じてください。殺意なんてなかったんです。 わたしはただ、助けてもらった恩返しがしたかったんです。 ええ、そうです。竜宮城にお連れしようと思っただけです。 まさか、人間が海の中で呼吸が出来ないなんて知りませんでした。 本当です。殺すつもりなど微塵もありませんでした。 私は無罪です。 「判決を言い渡す。亀、有罪。懲役千年」 「ええ~、有罪? でもまあ、千年ならいいか。寿命長いし」 <ヘンゼルとグレーテル> 「お兄さん、見て。お菓子の家よ」 「本当だ。屋根は瓦せんべいだ」 「壁は落雁よ」 「柱は千歳あめだ」 「庭のお花は和三盆よ」 「ドアは羊羹だ」 「窓は飴細工ね」 「ちょっと、私のお家を食べているのはだあれ?」 「あっ、おばあさん、ちょうどいいところに。渋いお茶をお願いします」 「あたしも」 <赤ずきん> ..

  • ルール

    55歳の姉が結婚するらしい。 シニアの婚活サイトで知り合った人で、姉より一つ上の56歳。 共に初婚だという。 「結婚する前に彼に会って欲しいのよ。経済的に問題はないし、穏やかでいい人なの。それにね、月の半分は日本にいないんですって。シンガポールに支店があって、そちらに行くらしいの。ねえ、好条件だと思わない?」 確かに、経済力があって束縛されない生活なんて、55年もひとりで生きて来た姉にとってはこれ以上の条件はない。 土曜日、ホテルのレストランを予約して、3人でランチをすることになった。 姉の婚約者の木村は少し遅れてやってきた。 背が高くてスマートな人だ。物腰も柔らかく、かなりの好印象だ。 「結婚しても束縛するつもりはありません。夫婦というより、人生のパートナーとして共に暮らしていきたいと思っているんです」 「素敵ですね。ところで、これまでご結婚を考えたことはな..

  • A子の横領事件

    A子が、会社のお金を横領したんだって。3億円だって。 そりゃあ、すごい大さわぎ。 小さな町にもテレビの取材が来て、私もインタビューされた。 「ああ、A子はね、高校生の時から派手だったよ。ヴィトンだかカルティエだかの財布を学校に持ってきて見せびらかしていたからね。金持ちの大学生とでも付き合ってたんじゃない?やっぱさ、まだガキなのに贅沢覚えちゃったからさ、こういうことになるんじゃない?ところでさ、顔出さないでよね。小さい町なんだから」 顔出しNGでモザイクがかかっていたけど、声はそのままだったし、髪型や服装で、私だってすぐにばれた。 「ひどくない?あんたA子と仲良かったじゃん」 「テレビ見たけど、あの頃大学生と遊んでいたのはあんたでしょ」 などなど。あー、小さい町はこれだからいやだ。 ワイドショーを盛り上げてあげようと思っただけなのに。 実際すごく盛り上がった。私の話..

  • かぐや姫とオオカミ男

    ここだけの話だけど、わたし、かぐや姫なの。 生まれたときから、月が恋しくて仕方ない。 こんな満月の夜は、月からの使者が迎えに来るはず。 だからこっそり家を抜け出すの。 パパとママには悪いけど、やっぱり地球はわたしの居場所じゃないの。 月に帰りたい。 こんな素敵な満月の夜だもの。きっと奇跡は起こるわ。 ここだけの話だけど、おれはオオカミ男だ。 子供の頃から月を見ると吠えていた。 満月の夜には黒い毛が生えて、牙が生えて、オオカミになるんだ。 だから夜は家にいようと決めていたのに、なんてことだ。 すっかり遅くなってしまった。 地下道を通っているうちは大丈夫。 だけど地上に上がったら、もうその先はわからない。 5番の出口は公園につながっている。 誰もいない夜の公園を一気に走り抜けたら、完全なオオカミになる前に家に着ける。 よし、行こう! さあ、月の..

  • 双子の美人の霊

    深夜のカフェに入ると、店員に声を掛けられた。 「3名様ですか」 「いや、ひとりだけど」 思わず振り向いたけど、もちろん誰もいない。僕はひとりでここに来た。 「あっ、失礼しました」 店員はうつむきながら、僕をテーブルに案内した。 テーブルに座ると、別の店員が水を3つ持ってきた。 「いや、ひとりだけど」 「あっ、失礼しました」 僕の前に、誰か座っているのか? しかもふたり? 気持ちが悪いので出ようとしたら、店長が来た。 「お客様。大変申し上げにくいのですが、お客様の前に双子の霊が座っています」 「双子の幽霊?」 「はい。かなりの美人です。お心当たりはございますか?」 「いや、全くないなあ。美人とは縁がないから」 この店の店員には、全員霊感があるのだろうか。 どんなに目を凝らしても、僕には美人の双子は見えない。 「それで、あの、こちらの双子の美人..

  • 新盆帰り

    新盆で家に帰る途中、迷っている男の霊と会った。 「どうされました? 家がわからないのですか?」 「ええ、すっかり迷ってしまいまして。足がないから感覚が掴めないんですよね」 「ははは、わかりますよ。私も初めての盆帰りでね、どうも勝手がわかりません」 「そうですか。新盆ですか。それは賑やかで羨ましい。私なんぞは12年目ですからね。寂しいもんです」 「12年目なのに迷子なんですか?」 「ええ、どうやら引っ越したらしいんですよ」 「お気の毒に。よかったらうちに来ませんか?」 「いやあ、そんな。よそ様の家に帰っても」 「いいじゃないですか。どうせ見えないんだから」 「そうですか。じゃあ、お言葉に甘えて」 家に着いた。みんなが集まっているのだろう。笑い声が聞こえる。 私は、初対面の幽霊さんと一緒に家に入った。 「賑やかでいいですね」 「妻と息子が3人、孫が5人いますから..

  • 彼からのエアメール

    オーストラリアに赴任したKからエアメールが届いた。 『シドニーで運命の人に出逢った。だから僕のことは待たないでください』 なにこれ。白いオペラハウスのポストカードに書く内容か? しかもKと私は、恋人でも何でもない。ただの同僚だ。 告白もされてないし、こっちからもしていない。 始まってもいないのに幕を閉じた舞台みたい。 『もちろん待ちませんとも。あなたとは付き合っていないので』 なんて返事を送ろうかと思ったけれど、面倒なのでやめた。 あれから3年。 Kが帰国して、今日から会社に復帰する。 金髪の嫁を連れて来たと、部内ではもっぱらの噂だ。 さて、どんな顔をして会えばいいのか。 いや、気にすることはない。元カレでも元カノでもないのに、意識する方が変。 会わないようにしようと思っていたのに、エレベーターでばったり再開した。 「久しぶり。変わらないね」 Kは、以..

  • 麦とろの夏休み

    夏休みの息子に、毎日お弁当を作って置いていく。 塾に行かせる余裕はないけれど、宿題は夜にちゃんと見てあげる。 誰かに助けてもらわなくても、私は立派にシングルマザーをやっている。 仕事から帰ると、お弁当がそのまま残っていた。 「大樹、お弁当食べなかったの?」 「うん。タケちゃんの家で食べた」 「タケちゃんって、学校の友達?」 「違うよ。公園で会ったの。すごく仲良しになって、家に遊びに行ったんだ」 「それでお昼をご馳走になったの?」 「うん。家に帰ってもひとりだって言ったら、おばさんが一緒に食べようって言ったんだ。ひとりじゃ寂しいでしょうって」 ああ、たまにいるんだ、こういう人。 父親がいなくて可哀想とか、大変でしょう?とか、力になりたいとか、親切な振りして心の中で憐れんでいるんだ。 「大樹、ママ言ったよね。人から物をもらったりしちゃだめだって」 「もらっ..

  • 夜の公園

    男の人が来ると、外に出された。 「2時間は帰ってきちゃだめよ」とお母さんは千円をくれた。 昼間はまだいい。コンビニやショッピングセンターで時間をつぶせる。 だけど夜は困る。すぐに補導されてしまうから、お店には行けない。 その夜、わたしは近所の児童公園に行った。 夜になると誰もいない。薄暗い外灯がいくつかあるだけで、暗くて寂しい。 わたしはブランコに座り、思い切り地面を蹴った。 ブランコが加速していく。順番待ちの子もいない。独り占めだ。 ふと、隣のブランコを見ると、同じように揺れている。 風もないのに、まるで誰かが乗っているように、前に後ろに揺れている。 「誰かいるの?」 声を掛けたら、返事の代わりに微かな笑い声が聞こえた。 小さな子どもの笑い声だ。 わたしは次に、シーソーにまたがった。 ひとりでは動くはずがないシーソーから、わたしの両足がゆっくり離れた。..

  • 節電の夏

    「10回」 「何が」 「この5分間に君が冷蔵庫を開けた回数。多すぎる」 「別にいいでしょう。取り出すものがいろいろあるのよ」 「この夏、政府からの節電要請を君はまるで無視している。エアコンの温度設定、23度は低すぎる」 「暑がりなのよ。あっ、マヨネーズ忘れた」 「11回め。素早く閉める!」 「あーもう、うるさいな」 「昨夜は洗面所の電気がつけっ放しだった」 「たまたま忘れたのよ」 「電力不足を甘く観てはいけない。ひとりひとりの心がけが、地球温暖化を防ぎ、しいては人間の未来のためになる」 「わかった、わかった。ちゃんと消すわ」 「待機電力も甘く観てはいけない」 「待機電力?」 「使わない電源はこまめに消す。パソコンの電源入れっぱなし、スマホの充電フル活動、昨日はドライヤーのコンセントを入れっぱなしだった」 「ちょっと忘れただけよ」 「ドライヤーは危険だ。今度や..

  • 願いが叶いますように

    地球の人たちが、短冊にたくさんの願い事を書いているわ。 世界平和や合格祈願、恋愛成就、宝くじ当選。 いろんな願い事に混ざって、毎年必ずあるの。 『織姫と彦星が逢えますように』 私たちのことを願ってくれてありがとう。 だけど心配無用よ。そちらは雨でも、こちらは大丈夫。 私たち、雲よりずっとずっと上にいるんだもの。 私たち、仕事をしないでいちゃついていたから引き離されちゃったんだけどね、幸か不幸か、一年に一度の距離感って、案外いいのよ。 自由な時間はたくさんあるし、何より新鮮でしょ。 一緒にいるより、彼のことを考える時間が増えて、ずっと恋愛中の気分なの。 一年って長いと思うでしょ。 それがね、そうでもないの。 次に会うまでにダイエットしようと思っても、いつも間に合わないのよ。 あっという間に七月七日(笑) さて、そろそろ行こうかしら。 今日のた..

  • 異星人と犬

    若い女が、ベンチで水を飲んでいる。 傍らには、やや大きめの犬がいる。 「犬の散歩」という行為の途中で、のどが渇いて休んでいるのだ。 横顔しか見えないが、なかなかの美人だ。 身なりもいい。服もシューズも高級品だ。 彼女に決めるか。いやしかし、犬が気になる。 犬は敏感だ。余計なことを感じ取ってしまうかもしれない。 私は、遠い星から来た。今はまだ体を持たない。水のような流体だ。 ターゲットを探している。性別はどちらでもいいが、女の方に興味がある。 すうっと入り込み脳を支配して、地球人に成りすますのだ。 そして我々の星にとって有益なデータを持ち帰ることが目的だ。 誰でもいいわけではない。容姿は重要。生活水準も高い方がいい。 あの女は、大企業の重役秘書をしている。申し分ない。 犬さえいなければ。 私には時間がない。地球時間で5時間以内に入り込まないと、気体になって..

  • 細かいことが気になる「桃太郎」

    「おじいちゃん、この本読んで」 「おお、桃太郎か。よし、読んであげよう」 『むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました』 「昔って、どのくらい昔?」 「そうだな。100年……200年くらい前かな」 「ふうん。じゃあ、あるところってどこ?」 「あー、そうだなあ、岡山とか、そのあたり……かな」 『おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました』 「ちょっとまって。ふたりとも出掛けたの?家を空けて大丈夫? 鍵は掛けた?」 「あー、昔は、鍵なんか掛けなくても大丈夫なんだよ」 「ふうん。平和なんだね。だけどちょっと心配だな」 『おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきました。おばあさんはそれを家に持って帰りました』 「大きいって、どのくらい大きいの?」 「うーん。直径1メートルくらいかな」 「おばあさんは..

  • 次の恋

    Aと別れた1か月後にBとつき合って、Bと別れた2週間後にCとつき合って、Cと別れた1週間後にDとつき合って……。 恋が終わって次の恋が始まるスパンが、年々短くなっている。 「あんたさあ、よくそんなに次から次へと彼氏が出来るよね」 親友のレイコは、呆れ顔でウーロン茶を飲み干した。 「久々に飲もうって誘っておきながら、ウーロン茶って何?舐めてんの?」 「車で来ちゃったんだもん。しょうがないでしょ」 レイコには、付き合って12年の腐れ縁彼氏がいる。 同級生のタカシくんだ。高3で付き合い始めて今に至る。 干支が一周してもまだ同じ男って、そっちの方がよっぽど異常だよ。 「今度の彼はイケメンだよ。学生の時、モデルのバイトしてたんだって」 「えー、なんかチャラそう。あのさ、あんたが恋に本気になれないのは、最初の恋が忘れられないんじゃないの? ほら、大学のとき、初めて彼氏に..

  • 祝! 1,100記事

    本日は、「りんのショートストーリー」1,100話記念パーティにお越しいただきましてありがとうございます。 このブログを始めて12年。 1,100ものお話を、どうにかこうにか書いてこられたのは、ひとえに読者の皆様のおかげでございます。 心より御礼申し上げ…… ん? なにやら外が騒がしいですね。 何事でしょう? 「りんさん、乱入者です。招待状もないのに、りんさんに会わせろと数人の男女が……」 「何ですって? おめでたい席なのに、追い返しなさい」 「いや、もう入ってきちゃいました」 「りんさん、原稿料がぜんぜん振り込まれてないけど、どういうことなんだ」 「払ってもらわないと住宅ローンが」 ヤバい。私のゴーストライターたちだわ。 「おとぎ話(笑)の原稿料、12までしかお金もらってないわよ」 「俺のミステリーの原稿料が先だ」 「コメディ散々書かせておい..

  • ノラ猫だけど何か?

    おいらはノラ猫。 去年までは家ネコだった。 飼い主さんが突然死んじゃって、おいらノラになっちゃった。 飼い主さんが死んだあと、家族や親戚たちが集まって、遺産がどうとか揉めていた。 だけど、おいらのことを気にかけてくれる人間はひとりもいなかった。 おいらもあまり好きなタイプの人間じゃなかったから、そうっと家を出たのさ。 たまに家が恋しくなったけど、飼い主さんの家には息子や娘がいつもいた。 生きていたころは顔も見せなかったくせにさ。 あれから1年。 怖いノラ猫に追いかけられたり、車に轢かれそうになったりしながら何とか生きて来た。 ノラ猫にご飯をくれる人がいるという情報をキャッチすると、おこぼれをもらいに行った。 みんなに混ざって食べていると、必ず言われる。 「あんた、どこかの飼い猫だろう。おうちにお帰り」 おいらが首輪をしているから、どこに行っても飼い猫扱いだ..

  • 元妻1号

    元夫が、4度目の結婚をしたらしい。 懲りない男だ。どうせまた別れるに決まっている。 私は最初の妻だ。浮気を繰り返す夫に辟易して3年で別れた。 2番目の妻と、3番目の妻とは、たまに連絡を取り合っている。 同じ男と離婚した者同士。友達とは違う、不思議な関係だ。 私たちは、1号・2号・3号と呼び合っている。 2号は離婚しても、彼と仕事上のつながりがある。 3号は離婚しても、彼と同じ町内に住んでいる。 4度目の結婚の情報も、彼女たちから教えられた。 「で、今度はどんな女なの?」 居酒屋で、ビール片手に二人に訊いた。 「24歳らしいですよ。4号さん」 3号が言った。 「彼の秘書をしていたらしいわ。割と優秀みたい」 2号が言った。 「そんな若い女と? まるで親子じゃないの」 「でも、彼は若く見えるから大丈夫よ」 「そうですよ。一度見たけど、お似合いでしたよ..

  • 雨とカエルとワイパーと

    午後から降り出した雨は、時間を追うごとに強さを増した。 まるで暴力だ。「これでもか」と、フロントガラスを叩き続ける。 ふと見ると、ドアミラーにカエルがしがみついている。 必死だな。こんな暴風雨に耐えながら、踏ん張って生きている。 逆境に強いんだな。尊敬するよ。 ワイパーは忙しなく同じ動きを繰り返す。 働き者だ。僕の視界を確保するために、文句も言わずに動き続ける。 えらいな。不満だらけの僕とは大違いだ。 信号が赤になって、ワイパーを休ませた。 たちまち雨で視界が歪む。滝の中にいるみたいだ。 こんな雨の国で、カエルと暮らすのも悪くない。 クラクションを鳴らされた。 ああ、信号が青に変わったのか。 アクセルを踏んで、ワイパーを動かした。 その途端、ワイパーが何かを弾いた。 カエルだ。いつの間にか、カエルがドアミラーからワイパーの上に移動していた。 ..

  • おとぎ話(笑)30

    かさ地蔵 おや、峠の地蔵さんがノーマスクだ。 感染したら大変じゃ。 予備のマスクを持っているから掛けてあげよう。 あれ、1つ足りない。 仕方ない。わしのマスクを外して…… 「それだけは勘弁してくれ」 アリとキリギリス 「頼むよ。食べ物を分けておくれよ」 「いやだよ。夏のあいだ遊んでいた自分が悪いんじゃないか」 「そう言わずに。一匹でいいからさ」 「一匹? キリギリスさんは何を食べるの?」 「アリ」 「………」 赤ずきん 「やあ、赤ずきんちゃん。森の奥にきれいなお花が咲いてたよ。摘んでおばあちゃんのお見舞いにしたらどうだい?」 「ありがとう。オオカミさん」 さて、ここで問題です。 オオカミは、ここで赤ずきんを食べることも出来るのに、なぜ食べなかったのでしょう。 A:そこまで空腹じゃなかった。 B:おばあさんも食べ..

  • 傘の小さな物語

    私は傘。どこにでも売ってるビニール傘よ。 今、電車に乗っているの。いったいどこまで行くのかしら。 別に乗りたくて乗ってるわけじゃないけどね。 持ち主さんは、私を置いて電車を降りちゃった。 忘れられたの。無理もないわ。雨がやんだから必要なくなったのよ。 終点で駅員さんに回収されると思ったら、そのまま折り返し運転。 私はドア近くのシートの隣に掛けられたまま、来た道を戻っている。 途中の駅で乗ってきた紳士が、私の隣に傘を掛けた。 わあ、バーバリーの傘だ。とても高そう。 「こんにちは。となり、失礼します」 「まあ、ご丁寧なお方。やっぱりブランド物はちがうわ。こんな、どこにでも売ってるビニール傘に話しかけてくれるなんて」 「ブランドなんて関係ないですよ。僕たちの役目は、持ち主が雨に濡れないように守ることです。みんな同じ目的で作られたんですから」 「立派な考えね。持ち主..

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