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りんのショートストーリー https://rin-ohanasi.blog.ss-blog.jp/

気軽に読めて笑えるショートストーリーです。名作パロディーやファンタジーなどが中心です。

お話を作るのが大好きで、こっそり書き溜めていたのですが、夫と子供に見せたところ、面白いからブログに載せたら、と言われて、思い切って作っちゃいました。 重い話はありません。 楽しいショートストーリーが中心です。 お茶でも飲みながら読んで欲しいです。

りんさん
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2009/11/29

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  • 代わってよ

    「代わって。ねえ、代わってよ」 真夜中に声がした。それは、誰かの声じゃない。 僕の声だった。 「代わって。ねえ、代わってよ」 怖くて、目が開けられない。耳をふさいでも無駄だ。 だって、声は僕の体の中から聞こえている。 「代わって。ねえ、代わってよ」 「いやだよ」と答えてみた。 「ケチだな」と声がした。不思議だ。僕の中で、僕と僕が会話している。 怖くなって起き上がって、おかあさんのところに行った。 「怖い夢を見たのね」 おかあさんは優しく背中を撫でてくれた。もう声は聞こえない。 僕は安心して眠った。 翌朝、おばあちゃんに話した。 「その子は、おそらく双子のかたわれだ」 おばあちゃんはそう言って、仏壇に手を合わせた。 「かたわれ?」 「もうひとりの、おまえだよ」 「もうひとりの、僕?」 「おまえは、双子で生まれるはずだった。だけど、どういう..

  • ママの第二ボタン

    ブラウスのボタンが取れちゃったから、似たようなボタンを探そうと思って、ママの裁縫箱を開けた。 ママの裁縫箱には、とにかくたくさんのボタンが入っている。 その中に、男子学生の制服のボタンがあった。 「ママ、これって、第二ボタンってやつ? 卒業式で彼氏からもらうやつ?」 「あー、そうだね。制服の第二ボタンだね」 「誰にもらったの? JKだったころの彼氏?」 「憶えてないわね」 「うそ。今でも大切に取ってあるのに、憶えてないの?」 「憶えてないわよ。そんな昔の話」 ママの初恋の人って、全然想像できないんだけど。 パパとは、30歳を過ぎてからお見合い結婚したって聞いた。 ママは年頃になっても全然恋人が出来なくて、おばあちゃんの方が焦って相手を探したそうだ。 当たり前だけど、ママにもちゃんと初恋があったんだよね。どんな人だろう。 ママは面食いじゃないよね。だってパパを選..

  • 家電ハラスメント

    私、疲れてます。 毎日家電に振り回されてます。 まずはホットプレート。 ピンク色でとても可愛いんです。マカロンみたいな可愛い蓋で、取っ手はイチゴ。 ショップで一目惚れして買いました。 ところがホットプレートはわがままで、パンケーキしか焼かせてくれないんです。 お好み焼きや焼きそばは、電源切って全力で拒否。 「おとぎの国には、お好み焼きも焼きそばもないわ」 餃子なんか焼こうとしたら、蓋で手をはさまれます。 「ここはおとぎの国よ。ニンニクの匂いがついたらどうしてくれるの?」 アリスだってシンデレラだって、目の前に餃子があれば食べますよね。 ああ、一度でいい。ニンニクたっぷりのタレで、焼き肉食べたーい! それから電子レンジです。 すぐにキレて、口うるさいんです。 コンビニ弁当を温めようとした時です。 「はぁっ?なんでコンビニで温めてもらわないの?おれ今休..

  • 小学生、浦島太郎

    はじめまして。浦島太郎です。 今日からこのクラスに編入しました。 特技は、魚を捕ることです。 よろしくお願いします。 僕は約600年前からタイムスリップしてきました。 海の中にある竜宮城っていうところから戻ったら、時代が大きく変わっていたのです。 親もいなくて、家もなくて、村はすっかり変わっていました。 途方に暮れていましたが、村……いや、この町の人はなぜかみんな僕のことを知っていました。 「浦島太郎さんでしょ」 「カメを助けて竜宮城に行った浦島さんよね」 僕は、意外と有名人でした。 町の人はみんな親切で、いろいろ世話をしてくれました。 600年の間に、この国が大きく変わったことを教えてくれました。 僕が学校へ行っていないことを知って、小学校から学ぶように勧めてくれました。 年齢は皆さんよりずいぶん上ですが、仲良くしてください。 「はい、みんな拍手..

  • 不快な通勤快速

    電車が揺れるたびに、コーヒーの空き缶が右へ左へゴロゴロ転がった。 今日の電車は、珍しく空いている。 私の右隣に座る女が言った。 「非常識ね。電車の中に空き缶を捨てるなんて。飲み終わって邪魔になったからって、平気でポイするなんて人間のクズよ」 私の左隣に座る男が、それに反論した。 「言い過ぎ。捨てたかどうかわからないよ。足元に置いたら転がっちゃったのかも。何でも悪く取るのは君の悪い癖だ」 「はあ?何いい人ぶってるのよ。このコウモリ男。誰にでもいい顔するから出世できないのよ」 「君みたいに粗探しする女が、陰でお局様なんて呼ばれるんだろうな」 「粗探しなんてしてないわ。私は正義感が強いだけよ」 「あの……」と私は、両隣のふたりの顔を交互に見ながら言った。 「席、代わりましょうか?」 この二人は、同じ車両の同じドアから乗ってきたが、まるで他人みたいに私を挟んで座っ..

  • お知らせ(本が出ます)

    お知らせです。 3月25日に発売される児童文庫 「意味がわかると怖い3分間ノンストップショートストーリー ラストで君はゾッとする」 に、私の作品が載っています。 17の怖いお話が載っています。 ラストで君はシリーズは、小学生に大人気なので、すごく楽しみです。 近くなったら、しつこく宣伝するのでよろしくお願いします^^ 3月25日は、みんなで本屋さんに行こう!! 予約受付中です↓ https://amzn.asia/d/1LfNBB9

  • コロナ禍の恋

    あの人は、病室の窓からいつも手を振ってくれた。 彼が交通事故で入院したと聞いてから、私は生きた心地がしなかった。 すぐにでもお見舞いに行きたかったけれど、コロナのせいで面会禁止。 事故でスマホも壊れたらしく、電話もメールも通じない。 心配で眠れない夜を過ごし、病院の裏庭で彼の病棟を眺めた。 命に別状はないと言っていたし、一目でも顔が見たいと思った。 そして5階の端の窓からあの人の姿が見えたとき、私の胸は大きく高鳴った。 ドキドキし過ぎて倒れそうなくらいだった。 「気づいて、気づいて」と念を送ったけれど、あの人は看護師との話に夢中で、私にまるで気づかない。 だけど逢えたことが嬉しくて、私は翌日も同じ時間に同じ窓を見た。 あの人が見えた。今日は、看護師はいない。 思い切って手を振ってみた。 「気づいて。私はここよ」 念が通じて、あの人が私を見て、少し戸惑いなが..

  • ライバル

    正蔵さんと大助さんは、隣同士の幼なじみ。 同じ日に生まれ、生まれたときからのライバル関係だ。 どちらが先に歩くか、どちらが先にしゃべるか。 学校へ上がれば成績、スポーツ、ラブレターの数さえも競い合うようになった。 同じころに結婚して息子が生まれると、今度は息子同士を競わせた。 そして月日は流れ、今度は孫の番だ。 「おおい、香里、香里はどこだ」 「どうしたの、おじいちゃん。ここにいるよ」 「香里、隣の沙恵が梅むすめに選ばれたぞ」 「梅むすめ? ああ、梅まつりのキャンペーンガールね」 「どうして正蔵の孫が梅むすめなんだ。香里の方がずっと可愛いじゃないか」 「おじいちゃん、私は応募してないよ。興味ないし、やりたくないよ」 「いや、今からでも遅くない。市長に掛け合ってやるから、梅むすめやりなさい」 「やだよ。別にいいじゃん。やりたい人がやれば」 「それじゃあ隣に負け..

  • 龍の子ども

    結婚して7年経ちますが、なかなか子宝に恵まれません。 夫とふたりで出掛けた初詣の神社で、私は熱心に祈りました。 「どうか今年こそ、子どもが授かりますように」 夫が毎年欠かさず参拝するこの神社は、龍神様を祀っています。 急に辺りが暗くなりました。 多くの参拝客で賑わっていたはずの拝殿から人が消えました。 何が起こったのでしょう。 「おまえに子どもを授けてやろう」 暗やみから声がしました。大地を這うような恐ろしい声です。 怯える私の前に、大きな龍が現れました。血の塊みたいな赤い目で私を見ました。 「願いを、聞いてくださるのですか?」 「ああ、授けよう。ただし生まれてくる子は龍の子どもだ。大切に育てろ」 「龍の子ども? それはどういうことですか」 龍は、私の問いには答えずに消えてしまいました。 気がつくと私は、神社の隅でうずくまっていました。 「大丈夫? 貧..

  • おとぎ話(笑)34

    <泣いた赤鬼> 青鬼のおかげで人間と仲良くなれた赤鬼の元に、村役場の役人がやってきました。 「赤鬼さん、あなたを人間として住民登録することになりました」 「本当ですか」 「はい。これ、住民票です」 「ありがとうございます」 「これ、住民税と固定資産税の納付書です」 「これ、国民年金の納付書です」 「NHKの視聴料お願いします」 「あっ、赤鬼さん、泣いてる」 「人間になれてうれしいのかな?」 ……違うと思う。 <シンデレラ> お城の舞踏会に行きたいシンデレラの前に、魔法使いが現れました。 ボロボロの服を素敵なドレスに カボチャを馬車に ネズミを馬に変えてくれました。 「さあシンデレラ、舞踏会にお行きなさい。ただし午前0時に魔法が解けるから、それまでに帰るのよ」 「はい、わかりました。ところで魔法使いさん、ひとつだけ質問があります」 「..

  • 饅頭屋のクリスマス

    小さな駅前の商店街。 昔は12月になると、街路樹にキラキラのイルミネーションを飾ったものだ。 駅からまっすぐ光のトンネルを歩くみたいだった。 あの頃は賑やかだった。 ケーキを売る声、おもちゃ屋の前で立ち止まる子ども、揚げ物や総菜のいい匂い。 今じゃすっかり寂れて、3分の2はシャッターを閉じたままだ。 私は先祖代々続く饅頭屋を、細々と続けている。 嫁に来た頃は忙しかったけど、今は常連客しか来ない。 閉店は午後7時。また売れ残っちゃった。 夫はさっさと奥に引っ込んで、晩酌を始めている。 「やれやれ」と片付けをしていると、ひとりの男が飛び込んで来た。 「もう終わりですか?」 「はい、この通り、もう閉店時間です」 「饅頭一個だけでも売ってくれませんか。朝から何も食べてなくて、もうフラフラで倒れそうなんです」 男は大げさに腹を押さえた。 「それなら饅頭なんかより、ご..

  • やさしいトナカイさん

    「ああ、今年も無事にプレゼントを配り終えたな、トナカイくん」 「はい、サンタさん、お疲れさまでした」 「上がって一杯やっていきなさい」 「でも、ソリがありますから。飲酒運転になってしまいます」 「泊って行けばいいだろう。そうだ、フカフカの最上級の藁を買ったんだ。君がぐっすり眠れるようにな」 「それはありがとうございます。では、お言葉に甘えて」 「おおい、今帰ったぞ。トナカイくんに酒を出してくれ。去年誰かにもらった高級なウイスキーがあっただろう」 「すみません、奥さん」 「いいんですよ。そろそろ帰るころだと思って、用意しておきました」 「おお、これは旨そうなローストビーフだ」 「クリスマスですから、奮発しました。では、ごゆっくりどうぞ」 「トナカイくん、君とも長い付き合いになったな」 「そうですね。サンタさんと過ごすクリスマスが当たり前になってますね」 「し..

  • 帰郷の理由

    15年ぶりに、故郷に帰ることにした。 東京で就職してからは忙しさもあったけど、「結婚はまだか」と言われるのが嫌で帰らなかった。 「お母さん、明日帰るから」 「えっ、何で帰るの?」 「何でって、何でもいいでしょう」 「良くないでしょう。何で帰るのよ」 「なに、迷惑なの?」 「違うよ。何で帰るのか聞いてるだけよ」 「もういい。とにかく帰るから!」 ああ、何だか拍子抜け。 娘が実家に帰るのに理由が必要? しかも15年ぶりに帰る一人娘に、第一声がそれ? まあ、帰らなかった私も悪いけど「待ってるよ」くらい言っても良くない? そもそも理由なんてひと言じゃ言えない。 40歳手前で10年付き合った男にフラれて、仕事に生きようと思ったら新任の上司とそりが合わずに転職。 転職先は信じられないブラック企業で即辞表。 おまけにアパートのオーナーが変わって、立ち退きを要求..

  • ピンポンダッシュ

    北風の通学路。 毎日のようにピンポンダッシュをしていく悪ガキがいる。 「ピンポ~ン」 ほーら、来た。何も玄関まで出ていくことはない。 窓から顔を出して「こらっ」と叱りつけてやる。 悪ガキは、憎たらしく舌を出して走って行く。 どこの子どもか知らないけれど、何が楽しいのかね。 老人ばかりの集合住宅で独り暮らしだ。 定期的にケアマネージャーが様子を見に来てくれる。 子どもたちに迷惑を掛けたくないから、半年前からここで暮らし始めた。 そんなある日、隣の家から怒鳴り声が聞こえた。 外に出てみると、いつもの悪ガキが隣のじいさんに捕まっていた。 「どうかしたの?」 「このガキが、用もないのにチャイムを鳴らして逃げるところを捕まえたんだ」 悪ガキは、ばつの悪そうな顔で縮こまっている。 「悪かったねえ。その子はうちに用があったんだよ。間違えて隣のチャイムを鳴らしちまった..

  • 寒空に咲く花

    11月の、高い高い空に向かって咲く美しい花がある。 青空に映えるうす紅色の可憐な花。 僕はその美しさに魅了されて、毎日飽きもせず眺めている。 「ちょっと、空ばかり見てないで働きなさいよ」 「誰かと思えばコスモスか」 「空に食べ物はないわよ」 「分かってるよ。俺は空を見てるんじゃない。あの美しい花を見てるんだ」 「ああ、皇帝ダリアね」 「皇帝ダリアっていうのか。なんて気高い名前だ。美しい花にぴったりだ」 「大したことないわよ。あたしも同じピンクの花よ」 「全然ちがう。おまえみたいな草花と一緒にするな」 「まあ失礼ね。あんたこそ、ちっぽけなアリじゃないの。ほら、早く食べ物を運びなさい。冬が来るわよ」 「うるさいな。どうせ俺はちっぽけな働きアリだよ」 ああ、一度でいいから、あの美しい花びらに触れてみたい。 下ばかり向いてる人生なんてウンザリだ。 ..

  • 帽子じぞう

    木枯らしが吹く帰り道、3年生のリカと、1年生のマミが並んで歩いています。 リカとマミは姉妹です。 「ねえ、お姉ちゃん。今日学校でね、笠地蔵の本を読んだよ」 「あー、あたしも読んだことあるよ。お地蔵さんに笠をかぶせて大金持ちになる話」 「マミもお地蔵さんに笠をかぶせてあげたいなって思った」 「笠なんて家にないよ。昔の笠は今の傘と違うんだから」 「そっか。じゃあ、帽子は?」 「あー、帽子ならいいね」 「帽子かぶせたら、お金くれるかな」 「そうだね。一万円くらいくれるかも」 「いちまんえん!!そんなにくれるの?」 「お地蔵さん、金持ちだからね」 「じゃあさ、帽子かぶせよう。ほら、バス停の横にお地蔵さんいるでしょ」 「ああ、いるね。よし、家に帰って帽子もってこよう」 リカとマミは、家に帰っておやつも食べずに帽子を探しました。 「あんたたち、何やってるの?」 「何..

  • 3年遅れの七五三

    莉子は赤い着物がよく似合う。 艶のある真っすぐな髪をきれいに結って、まるでお人形さんみたいに可愛い。 七五三参りの日、ママは何度も私に謝った。 「亜美の時は、七五三のお祝いもしてあげられなかったね。ごめんね」 「別にいいよ。着物なんて着たくないし。莉子みたいにきれいな髪じゃないし」 私が七五三を迎えた3年前、パパが病気で長いこと入院していた。 ママは、病院と莉子の世話でそれどころじゃなかった。 そんなこと、ちゃんと分かっている。 パパはその後すっかり元気になって、仕事にも復帰した。 莉子は、ママが大変で家の中がどんより暗かった日のことは、何も憶えていない。 まだ3歳だったから、何も我慢することなく我儘ばかり言っていた。 「せめて写真だけでも撮れば良かったね」 「もういいよ、ママ。お参りしなくても、こんなに元気に育ってるよ」 「そうね。亜美は本当に手がかから..

  • ハロウィンの生贄

    マリアちゃんから、ハロウィンパーティに誘われた。 マリアちゃんの家は高台の大きな洋館で、パパがイギリス人でママが日本人。 だからハロウィンの仮装も本格的なんだって。 「ゆりあちゃんも、仮装してきてね」 「どんな仮装がいいの? 魔女? ゾンビ?」 「ゆりあちゃん、可愛いからお姫様がいいと思う」 「じゃあ、ピアノの発表会で着た白いドレスを着ていくね」 「うん。楽しみ」 私は白いドレスとティアラ、そしてお気に入りのイヤリングを付けて、マリアちゃんの家に行った。 全身黒ずくめのマリアちゃんが出迎えてくれた。 「マリアちゃん、カッコいい。吸血鬼みたい」 「ゆりあちゃんも素敵。パパとママ、きっと気に入るわ」 「いらっしゃい、ゆりあちゃん」 マリアちゃんのママが黒い衣装でお茶とお菓子を運んできた。 「うわあ、おばさんもカッコいい。吸血鬼みたい」 さすが本格的だ。..

  • つるの恩返し 現代版

    「ごめんくださいまし」 「はい、どちら様?」 「先日、あなたさまに助けて頂いた鶴でございます」 「ああ、あのときの鶴か。ドローンにぶつかって怪我しちゃった鶴だろ。えーっ、マジで恩返しに来たの?」 「はい、先代の鶴が825歳で亡くなりまして、私は2代目でございます」 「へー、鶴ってやっぱ長生きなんだ」 「先代の教えに従って、こうして人間の女に姿を変えてやってまいりました」 「そっかあ、で、何してくれんの?」 「機織り機はございますか?」 「ねえよ。2DKのアパートだぜ」 「では、私は何をすれば」 「とりあえず上がったら。カップ麺食う?」 「お邪魔します。あら、何もない部屋ですね」 「引っ越して来たばっかりだからな。彼女と一緒に住むはずだったのに、寸前で逃げられた。他に好きな男が出来たってさ」 「それはお気の毒に。それで、私は何をすれば?」 「ああ、じゃあさ、布団..

  • あした、雨になれ

    明日は運動会。 だけどわたし、運動会は大嫌い。 かけっこビリだし、ダンスも下手くそ。 いいことなんて何もない。 そうだ。テルテル坊主を逆さに吊るそう。 「あーした雨になあれ~♪」 ふふふ。これでよし。明日は土砂降りだ。 翌朝、本当に雨が降った。 やった。運動会中止だ。 スキップしながらリビングに行ったら、パパとママがガッカリしていた。 「お弁当の用意してたのに」 「せっかく有給取ったのに」 ふたりともがっくり肩を落としている。 予想以上にしょげている。 「天気予報は晴れだったわよねえ」 ママがそう言いながらテレビをつけた。 『今入ったニュースです。○○町の○○小学校の運動会が、雨で中止になりました』 えっ?? うちの学校? 『運動会中止により、全児童623名及びその保護者、そして数日前から準備していた教員25名に影響が出ています。3年2組の担任S..

  • カローラの反乱

    ある朝 「あなた、大変」 「どうした?そんなに慌てて」 「お父さんが誘拐されたわ」 「誘拐?いったい誰が誘拐なんか。うちには金なんかないぞ」 「カローラがお父さんを拉致したの」 「カローラ?親父の愛車のカローラか?」 「そうよ。きっと運転免許返納がよほどショックだったのよ」 「だからといって誘拐なんて。いつもピカピカに世話してやってたのに」 「捜しに行きましょう」 「そうだな。海にでも飛び込まれたら大変だ」 「待って。電話だわ。もしもし……、えっ、警察? あなた、お父さんが警察に保護されたわ」 「カローラは?」 「現行犯逮捕ですって。警察に、お父さんを迎えに行きましょう」 警察署 「いやあ、最近多いんですよ。免許返納に激昂した車が持ち主を拉致する事件。先日もプリウスとマーチが逮捕されたばかりでね」 「それで、父は無事ですか?」 「はい。朝ごはんを食べて..

  • 日本動物児童文学賞 表彰式

    先週、日本動物児童文学賞の表彰式がありました。 優秀賞をいただいたので、喜び勇んで出席してきました! 優秀賞は2回目ですが、前回はコロナのために表彰式がありませんでした。 オンラインで名前が呼ばれるのを、家のパソコンで見ていました。 寂しいな、行きたいな、表彰式、と思っていたので、今回はすごく嬉しかったです。 場所は東京国際フォーラム。 コンサートで行ったことがあって(たしか佐野元春)、すごいところでやるなあと思っていました。 だけど会場は意外とこじんまりで、ほぼ受賞者の家族や関係者だけだったので、緊張せずに済みました。 文学賞だけではなく、ポスターや標語や写真、キャッチコピーの部もあるので、全部で15人くらいいました。小さな子どももいて、かわいかったな~ 文学賞の他の受賞者さんとお話も出来て、すごく楽しかったです。 コロナだったから仕方ないけど、表彰式..

  • 日めくりカレンダーの逆襲

    しまった。 日めくりカレンダーを2枚めくってしまった。 セロテープで張り付けるか。 いや、そんな暇はない。今日は大事な会議だ。 明日の分もめくったことにすればいいや。 僕は破いた2枚の紙をゴミ箱に捨てて、急いで家を出た。 「あれ、新田さん早いですね」 会社に着くと、後輩の柴田さんが話しかけてきた。 「ああ、9時半から商品開発会議だろう。資料を確認しようと思って」 「えっ?その会議、きのう終わったじゃないですか」 「きのう?」 「そうですよ。Aチームにプレゼン負けて、うちのチームはサポートに回ることになったじゃないですか」 「企画、通らなかったのか?」 「やだ、しっかりしてくださいよ。悔しくてみんなでやけ酒飲んだじゃないですか。新田さん、酔いつぶれて忘れちゃいました?」 しらない。会議に出た覚えもないし、酒を飲んだ記憶もない。 ハッとして、スマホの日付を..

  • だってネコだもん

    新聞を広げるとネコがやって来る。 新聞紙の上に座って動かない。ネコというやつは、いつもそうだ。 パソコンのモニター前を占拠する。 リモート会議に顔を出す。 スマートフォンを勝手にさわる。 経済新聞や、株の動きを読んでいると必ずやってくる。 人間に構って欲しいのか、新聞紙のクシャっという感触が好きなのか。 私は今朝も、必要な情報を得ることが出来なかった。 聴けば、よその家も同じだと言う。 「甘えたいのよ。可愛いじゃないの」 「うちなんか、新聞読もうと思ったらネコにクシャクシャにされてた」 「仕方ないよ、だってネコだもん」 そう、仕方ない。新聞読まなくたって死ぬわけじゃない。 パソコンもスマホもリモート会議も、ネコの可愛さにはかなわない。 だってネコだもん。何もかもが可愛いんだもん。 誰もがそう思っていた。 しかし……。 ある日突然、世界はネコに支..

  • 9月の子ども

    夏休みが終わったら、学校へ行きたくない子が増えるっていうけど、うちの息子は、全くそういう子じゃなかったんです。 それなのに、始業式の日、全然起きてこないんですよ。 起こしに行ったら「学校行きたくない」っていうんです。 無理に行かせるのも良くないって言うでしょう。 だから私、放っておいたんです。 きっと明日には元気に行くだろうと思って。 それでね、パートに行って帰ったら、あの子がいないんです。 鞄もないから、ああ遅れて学校に行ったんだなって思いました。 6時過ぎに息子が帰って来ました。「あー疲れた」って言いながら。 「学校行ったのね」って言ったら、「部活だけ行った」っていうんです。 まあ、夏休みも部活だけは行っていたから、その延長なのかもしれないけど。 「部活に行くなら朝から行きなさいよ」 私が言ったら、息子は「分かった」って言いました。 だけど、結局次の朝も起..

  • 子どもの宿題

    夏休み最後の日、我が家は戦場と化す。 子どもたちの宿題が終わっていない。 私は長男(小6)と次男(小3)の読書感想文と、次男の工作づくり担当。 夫は長男と次男の算数ドリル担当。 長女(高1)は、次男の絵日記担当。 「8月6日の天気って何? みんなで水族館行ったの、いつだっけ」 「できた。お菓子の箱で作ったロボット。カッコ悪いけど、出せばOKだから」 「パパがぎっくり腰になったの、何日だっけ?」 「そんなの絵日記に描くなよ~」 「ちょっとパパ、全問正解しちゃダメよ。親がやったのバレちゃう」 「ママだって、6年生で習わない漢字が入ってるぞ」 「あー、もう、雨降ったのっていつだっけ? 全部晴れでいい?」 「お姉ちゃん、絵が上手すぎ。もっと下手に描いて」 「あー、もうやだ」 長女が鉛筆を投げた。 「どうして毎年ギリギリまでやらないのよ。あたしだって明日から..

  • 本の部屋

    ITの進化、ペーパーレスの推進。 時代が進み、紙の本が姿を消した。 新聞、マンガ、小説、教科書。何もかもが電子化された。 本はサブスクで読む時代。指一本で電子書籍を買う時代。 紙の本は、すっかり貴重品だ。 私は、未来を担う子どもたちのために、莫大な資金をつぎ込んで図書館を造った。 今さらそんなものを作ってどうすると、誰もが言った。 しかし私は、紙の本を夢中で読んだ子どもの頃が忘れられない。 あのワクワクする気持ちを、今の子どもたちに伝えたい。 木の香りが漂う森の図書館に、世界中から貴重な本を取り寄せた。 子どもが喜びそうな冒険小説、SFにミステリー、童話や偉人伝など。 壁一面の書棚に詰まったたくさんの本。 目を輝かせる子どもたちを想像すると、涙が出そうになる。 まず手始めに、5人の子どもたちを招待した。 ゲームやスマホは持ち込み禁止。夕方まで、たっぷり本..

  • 白雪姫反省会

    ただいまより、白雪姫の反省会を始めます。 <鏡の反省> あー、やっぱり本音を言っちゃったのがいけなかったよね。 いつもは、女王への忖度で「一番美しいのはあなたです」なんて言ってたけど、そんなわけないじゃん。 白雪姫の方がいいに決まってるじゃん。 だからつい「白雪姫でーす」って言っちゃったんだよね。 それで、姫が生きてるのバレちゃって、毒リンゴ食べることになってさ。 えっ? 今一番きれいな人は誰かって? そりゃあ、このお話を読んで下さっているあなたですよ。(忖度) <七人の小人の反省> 反省? まあ、強いて言うなら、白雪姫を残して仕事に出かけたことだよね。 七人もいるんだからさ、一人くらい姫のそばにいても良かったよね。 そうしたら毒リンゴ食べなかったかもしれないし。 それにしてもさ、七人もいて、どうして誰も白雪姫にキスしなかったかな。 めっちゃチャンス..

  • 迎え盆

    まだかなあ。おそいなあ。 「迎えに来たよ、お父さん」 ああ、となりの墓か。 「お迎えに来たよ。おばあちゃん」 斜め前の墓だ。 日が暮れちまったぞ。うちの迎えはまだか。 せっかくのお盆だというのに、迎えがないと帰れないじゃないか。 おや、誰か来たぞ。提灯をぶら下げた若い女だ。 右に曲がった。と思ったら戻ってきて左に曲がった。 ウロウロしている。こりゃあ迷ったな。何しろ大きな墓地だからな。 女がこちらに向かって歩いてきた。 「あった~。よかった~」って、ここは俺の墓だぞ。 あんた間違ってる。 「さあ、おじいちゃん、帰ろう」 いや待て。俺はあんたを知らん。どこへつれていく気だ。 女が歩き出した。「ちがうちがう」と思いながら、提灯に付いて行ってしまう。 このままでは、知らない家に帰ってしまうぞ。 女は、駐車場までの道を5回まちがえ、家までの道を数回まちがえ..

  • 真夜中の黒猫さん

    いつからだろう。真夜中になると、黒猫がやってくる。 赤い鈴を付けている。 猫はいつの間にか部屋にいて、僕のベッドの足元に、当たり前のように座る。 たぶん猫の幽霊だ。 だって猫に触れようとした僕の手は、すうっとその体を通り抜けたのだから。 幽霊だけど、ちっとも怖くない。 猫はあまりに気ままで無防備で、そしてあまりに可愛かった。 僕は猫を待つようになった。 どうせ暑くて眠れない。暑くなくても眠れない。 睡眠よりも、僕の心は猫を求めていた。 小さな鈴の音とともに、猫が来る。 あくびをしたり、毛づくろいをしたり、大きく伸びをしたりする。 そして朝になると、最初からいなかったように消えてしまう。 鳴きもせず、振り向きもせず、鈴の音だけを残していく。 会社のノルマがきつくて、要領の悪い僕は叱られてばかり。 心も体もぼろぼろだけど、僕は毎日会社に行く。 田舎で一人..

  • ベランダの男

    熱帯夜で眠れずに、ベランダに出た。風はない。 だけどねっとりした空気の中にも、不思議な解放感がある。 ただぼんやりと月を眺める時間も、人生には必要。 ふと、となりのベランダから物音が聞こえた。 そうっと覗き込むと、男が隣の部屋の窓から中を見ている。 えっ、泥棒? もしくは変質者? どうしよう、と思っていたら、男が私を見た。 「怪しいものじゃありません。僕はこの部屋の住人です」 「えっ? お隣さん?」 隣の奥さんは何度か挨拶を交わしたけれど、ご主人は見たことがない。 「ベランダで、何をしているんです?」 「追い出されたんですよ。たぶん酔いつぶれた僕をベランダに追い出して、鍵を閉めたんです。妻はそういうことを平気でやる女です」 「まあお気の毒に。ではおやすみなさい」 関わりたくないので部屋に戻ろうとしたら、泣きそうな声で呼び止められた。 「すみません。妻に鍵を開..

  • ぬか床LOVE

    ヨネさんとルームシェアを始めて1年。 連れ合いを亡くし、子どもたちは好き勝手に生きている。 境遇が似ていたから意気投合して、一緒に暮らすことにしたんだ。 家賃も食費も光熱費も半分ずつ。 年金が出た日は贅沢したけど、基本的には質素な暮らしだ。 漬け物とみそ汁があればそれでいい。 何しろヨネさんのぬか漬けは最高だ。 楽しい日々は続かなかった。 ヨネさんは、心臓マヒでぽっくり逝っちゃったんだ。 ピンピンコロリがいいねって言ってたけどさ、早すぎるよ。 悲しむ間もなく、ヨネさんの息子がやってきて、金目の物を探し始めた。 宝石や通帳、ベッドの下に転がった100円玉も持って行った。 何だかね、あまりにも情がないよ。 「ちょっとあなたたち、ヨネさんのこと、聞きたくないの? この家でどんなふうに暮らしていたか、知りたくないの?」 「好きなように生きてたんでしょう。それでい..

  • 宮本商店の笹飾り

    宮本商店でガムを買ったら、おつりと一緒に短冊を渡された。 「願い事を書いて、店先の笹に吊るしな」 「いらないよ」 「書きなよ。あんた小学生の頃、うちの笹に吊るした願い事が叶ったんだろう。万歳三唱しながら報告に来たじゃないか」 「いつの話? おばちゃん、僕はもう高校生だよ」 僕は、ガムと小銭をポケットに入れて、短冊を置いて店を出た。 店先の笹飾り。小学生の僕は、何を願ったんだっけ? 宮本商店は、5年前にコンビニになったけど、僕らは今も宮本商店と呼んでいる。 近所のおばさんのたまり場だった店は、学生やトラックの運転手がたくさん来るようになった。 家に帰ると、中学生の妹が短冊に願い事を書いていた。 「お帰り。短冊、お兄ちゃんの分もあるよ」 「いらねえよ。そんなの書いてどうするんだよ」 「宮本商店の笹に飾るの。だって、お兄ちゃんの願い事、叶ったんでしょう」 「いつ..

  • 誰かを殺す夢

    誰かを殺す夢を見た。 1日目は、誰かを殺す計画を立てている夢だ。 念入りに計画を立てているのは確かに私だが、誰を殺そうとしているのかはわからない。 2日目は、誰かを殺しに行く夢だ。 ナイフを持って歩いている。すぐに銃刀法違反で捕まりそうだが、夢なので逮捕はされない。 そして誰を殺しに行くのかは、やはりわからない。 3日目は、誰かの家に侵入する夢だ。 深夜なのに鍵もかかっていない無防備な家に、私はいとも簡単に侵入する。 それが誰の家なのか、やはりわからない。 4日目、私はついに誰かを殺す。 ナイフを背中に突き刺して、一発で仕留める。 夢の中の私は、慣れているようだ。 うつ伏せで倒れた誰かは、どうやら男だ。 そして今夜、私は夢の続きを見る。 今日こそ知りたい。私はいったい誰を殺したのか。 全く知らないやつか、知り合いか。 知り合いだったら「お..

  • さるかに合戦 刑事編

    海辺の町で、カニが遺体で発見された。 固い柿の実が、頭を直撃したようだ。 上層部は事故として処理したが、どうも納得いかない。 極秘に捜査をして、目撃者を見つけた。 「へい、カニの悲鳴の後、逃げるように木を降りるサルを見ました」 私は、仲間のイガグリ、ハチ、ウス、馬糞と一緒に捜査を始めた。 「これは事故ではなく、事件の匂いがするな」と馬糞。 おまえの方が臭うぞ。 「わたしが木の上を偵察してくるわ」とハチ ブンブン音を立てて、空を回った。 「サルの毛が、枝にいっぱい付いていたわ」 「やはり、間違いないな」 「おいらの仲間の柿を凶器に使うなんて許せない」と、イガグリ。 今にもはち切れそうなほど怒っている。 「ところで、柿が食べごろだな」 「鳥に食われる前に食いましょう」とウス。 柿の木に体当たりして、赤い柿の実を一気に落とした。 さすが怪力だ。捜査の役に..

  • 誓約書

    ユウコがめそめそ泣いている。 梅雨の雨みたいに鬱陶しい。 「ごめんね、キミちゃん。私、泣き上戸なの」 どうやら彼氏が浮気をしたらしい。 「別れなさいよ。そんな男」 ユウコは首を横に振った。 「彼、すごく反省してるの。二度としないって約束してくれたの。だからね、今回は許すことにしたの」 「えー、そういうやつに限ってまたやるんだよ」 「私は彼を信じるわ」 きっと、30歳手前で別れるのが嫌なんだろうな。 そういう男は、結婚してからも浮気するに決まってる。 「ねえユウコ。誓約書を書かせなさいよ」 「誓約書?」 「そう。今度浮気したら、罰金50万円」 「50万?」 「そう。慰謝料よ。二度としないと誓うなら、そのくらいの覚悟がないと」 「そうか。慰謝料なら、500万くらい欲しいけど」 「ダメダメ、無理のない金額の方がリアルでいいわ」 そうしてユウコは、彼..

  • 傘がない

    電車を降りるとザーザー降りだ。 カバンに入れたはずの傘がなかった。 困ったな。タクシーは行列が出来ている。 コンビニまで走って傘を買うか。 だけどちょっと走っただけで、ずぶ濡れになりそうな雨だ。 女が隣に立って、傘を広げた。 「よかったら、コンビニまでご一緒しませんか?」 「えっ、いいんですか。肩が濡れてしまいますよ」 「構いませんよ。困ったときはお互い様。さあ、どうぞ」 女が開いた傘は、僕の傘にとても似ていた。 どこにでもあるチェック柄だけど、僕の傘には柄のところにJの文字が刻まれている。 僕の名前の頭文字だ。 「僕が持ちますよ」 そう言って傘を受け取って柄を見た。Jが刻まれている。 「あの、これはあなたの傘ですか?」 「違います。電車の中で拾ったんです」 「拾った? じゃあやっぱり、これは僕の傘だ」 「まあ、そうでしたか。届けようと思ったんです..

  • えびす顔の男

    男は、跨線橋の上から身を乗り出した。 会社でひどいパワハラを受けて、生きているのが辛くて仕方ない。 もうすぐ特急電車が来る。 一瞬だ。一瞬で今の苦しみから逃れられる。 「ちょっとあなた」 突然後ろから声をかけられた。 男が振り向くと、えびす顔の男が立っていた。 「死のうとしています? やめた方がいいですよ」 「あんたに関係ないだろう。俺は死んで楽になりたいんだ」 「なれませんよ。あなたの寿命は、あと38年あります。つまり、ここから飛び降りても死ねないということです。大けがをして、もしかしたら体が動かなくなって、誰かの世話になりながら38年を生きるのです」 「それは困る。だけど生きているのが辛いんだ」 「それなら」と、えびす顔の男が名刺を取り出して男に渡した。 『生命バンク 代表取締役』 「生命バンク?」 「はい。あなたの命を、生命バンクに寄付してください..

  • 百物語「嘆きの恐怖」発売!

    お知らせです。 1話ごとに近づく恐怖 百物語3「嘆きの恐怖」が発売になりました。 私が書いた「地獄ツアー」という短編が載っています。 なんて恐ろしい表紙。 ぞくぞくしますね~ 読みたくなりました? 気になった方は、こちらをチェックしてくださいね https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784799904824# 本屋さんでも売ってます。 よろしくお願いします。

  • 二階の女

    二階の部屋の女が、コンビニ弁当を持ってやってきた。 「温めさせてくれる? 電子レンジが壊れちゃったの」 彼女は唐揚げ弁当をチンして帰った。 彼女は、翌日も来た。 「チンさせて」 「コンビニで温めてもらわなかったの?」 「アツアツが食べたいのよ、あたし」 「レンジ壊れてるのに?」 彼女はその日も、唐揚げ弁当をチンして帰った。 毎日来た。 一週間後には、チンした後ソファーに座って食べ始めた。 「ちょっと、自分の部屋で食べてくれよ」 「だって、プレゼンの資料でテーブルが埋まってるんだもん」 「早く新しい電子レンジ買いなよ」 「忙しくて電気屋行けないんだもん。いいじゃないの。食べたらさっさと帰るから」 彼女はだんだん図々しくなる。 ソファーで弁当を食べながら、ビールまで飲む。 「最近面白い番組ないわねえ」と言いながら、テレビを見る。 寝そべって、スマ..

  • 生涯現役時代

    80歳を過ぎると、若い頃のことばかり思い出す。 私はとにかく働いた。 家族のため、子どもにいい教育を受けさせるため、家族が少しでも裕福な暮らしをするため、長期の休暇に、家族で旅行に行くため。 時代は変わった。 昔のように組織の中で働く人はもういない。 定年制度も昇給もない。 ただ与えられた仕事をして、働いた分の報酬をもらう。 報酬は金ではなく、食料や必要物資だ。 そう、誰もが平等に、死ぬまで働く。 妻を亡くした後、私は施設で暮らしている。 施設といっても、誰かに世話をしてもらうわけではない。 私は元気だ。ちゃんと仕事をしている。 仕事は、書類にナンバーをスタンプする仕事だ。 それが何に使われるのか、何のためのナンバーなのか分からない。 知る必要はない。ただ、年老いた私にできる仕事をこなすだけだ。 「スズキさん、今日からB施設に行ってください」 ..

  • 深大寺恋物語作品集

    お知らせです。 第18回深大寺恋物語で、調布市長賞を頂きました。 深大寺を舞台にした恋愛小説です。 今回で4回目の応募でしたが、これまで私、深大寺に行ったことがありませんでした。 ちょっと遠いし、コロナで自粛もあったし。 だけど去年、初めて深大寺に行きました。 やっぱりネットの情報と想像で書くのと、実際行って感じたことを書くのは違います。 結果が残せて、本当に行ってよかったと、しみじみ思いました。 このたび、その作品集が発売になりました。 受賞作のタイトルは「妖怪の森」です。 怖い話ではありません^^ 興味がある方は、ぜひ読んでみてくださいね。 こちらのサイトから購入できます。↓ https://jintanren.stores.jp 深大寺の境内でも売っています。お近くの方はそちらでも。 18集ですので、お間違いなく。

  • おとぎ話(笑)33

    <ウサギとカメ> ウサギとカメは、山の頂上まで競争をすることになりました。 「へへへ、楽勝!」 余裕のうさぎでしたが、山道は昼でも暗く、不気味な鳥や獣の鳴き声が聞こえます。 「こ、怖いな」 ウサギは先に進むのが怖くなってしまいました。 ずいぶん遅れてカメがやってきました。 「やっと来た。待ちくたびれたよ」 「あれ、ウサギさん、どうしたの?」 「山道が怖いから一緒に行こう。おいら、耳がいいから色んな音が聞こえちゃうんだ」 「怖がりだな。いいよ。一緒に行こう」 「できれば前を歩いてくれる?」 「はいはい」 こうして、0.1秒差で、カメの勝利となりました。 <赤ずきんちゃん> 悪いオオカミは、赤ずきんが森で花を摘んでいる隙に先回りして、おばあさんをぺろりと食べました。 そしておばあさんになりすまし、ベッドの中で赤ずきんを待ちました。 しかし赤ずき..

  • 春の陽気に誘われて

    ずっと部屋に籠っていたけれど、いい陽気になってきたから家を出た。 食料もなくなってきたし、ずっと引き籠ってもいられない。 まだ少し肌寒かったので、パーカーのフードを目深に被った。 マスクもまだ外せない。 住宅街を歩いていると、庭先のツツジがきれいな家を見つけた。 濃いピンクが一面に広がって、なんて美しい。 思わず見とれていたら、垣根のあいだから家主が現れた。 「何か御用ですか?」 「あっ、いや、ツツジがきれいだったもので」 家主が睨むので、俺はそそくさとその場を後にした。 世知辛い世の中だ。うっかり他人の家も覗けない。 公園に行った。公園の花なら、いくら見ても文句は言われない。 チューリップが見事だ。 近くの幼稚園児が集団で遊びに来ている。 「お花、きれいだね」 近くにいた子に話しかけると、すかさず先生が飛んできた。 「さあ、園に帰りますよ」と、さら..

  • イメージが

    「先輩、先輩って、そういう顔だったんですね」 「何よ、急に」 「だってほら、私が入社したのが3年前だから、ずっとマスク生活だったじゃないですか。マスクとった顔、初めて見たから」 「そうね。で、どう思ったの?」 「うーん、ちょっとイメージと違うなあ、って」 「どこがよ」 「うーん。くち元が、もうちょっと、うーん」 「そういうあなただって、イメージとずいぶん違うわよ」 「どこがですか?」 「うーん、鼻が、もっと、ねえ、うーん」 「あっ、先輩、10時に○○商事の藤岡さんがみえますよ」 「まあ、あのイケメンっぽい藤岡さん?」 「そうです。たぶんイケメンの藤岡さんです」 「笑顔がさわやかっぽい藤岡さんね」 「おそらく笑顔がステキな藤岡さんです」 「声もステキなのよね」 「はい。今日は邪魔なアクリル板もマスクもないから、きっといい声が聞けますよ」 「楽しみね」..

  • 人間大歓迎

    森の奥にある、くまのレストラン。 シェフはお父さん。フロア係はお母さん。 そしてドアボーイは、かわいいこぐまです。 レストランは大盛況。 シカの親子やキツネの夫婦。たまにウサギが女子会をします。 それは、ランチの客がみんな帰った午後2時のことでした。 お客さんはもう来ないだろうと、ドアボーイのこぐまは、ウトウト昼寝を始めました。春の日差しがぽかぽかで、とても気持ちがよかったのです。 「ぼうや、くまのぼうや。起きておくれ」 肩をゆすられてこぐまが目を開けると、見たことのない動物がいました。 「おなかがペコペコなんだ。席はあるかな?」 「ふああ、お客さんか。いらっしゃいましぇ。くまのレストランへようこしょ」 こぐまは寝ぼけまなこでドアを開けました。カランカランとベルが鳴りました。 「一名様、ご案内でーす」 「はいよ」とふりむいたお母さんが、きゃっと叫んで、コップを..

  • きれいなママ

    卒業式の日、ママはきれいな着物を着ていた。 朝から着付けをして、髪を結って、まるで自分が主役みたいだ。 「アユちゃんのママ、きれいだね」って、友達が言ってくれた。 わたしは、髪が上手く結べなくて、結局お化けみたいに広がった髪で学校へ行き、先生から「結びなさい」とヘアゴムを渡された。 可愛くもない茶色のヘアゴムで、おばさんみたいにひとつにしばった。 ママだけが、キラキラしている。 卒業式の後、写真館に行って写真を撮った。 「おじょうちゃん、表情硬いよ。笑って」 写真館のおじさんに言われた。楽しくないのに笑えない。 ママは、うしろ姿も撮るように、おじさんに言った。 「この帯、ステキでしょう。ちょっとそこら辺にない柄なのよ」 「本当に素敵ですね。おじょうちゃん、きれいなお母さんでいいね」 「あらいやだ。やっぱりカメラマンは口が上手いのねえ」 ここでも主役はママだ..

  • ささやかな幸せ

    洗濯カゴに入っている夫のズボンのポケットから、小銭が出てきた。 私はその120円を、貯金箱に入れた。洗濯代としてもらっておく。 「あら、ちょうど千円貯まったわ。じゃあ今日は、ちょっといいおかずにしよう」 これが私のささやかな楽しみだ。 小銭を出して財布に入れようとしたら、どこからか声がする。 「本当にいいの? おかず一品増やしたくらいで、せいぜい刺身くらいだろ。だったらさ、もっといいことに使いなよ」 貯金箱がしゃべってる。 「いいことって何?」 「その千円を元手に馬券を買うのさ。千円が一万円に化けるかもしれないぞ」 「でも私、競馬なんかやったことないわ」 「平気平気、馬券はネットで買えるよ。手始めにやってみな。どうせあぶく銭なんだから」 それもそうかと思って、私はパソコンを開いた。 「あら、意外と簡単に買えるのね」 私は、千円を馬券に替えた。 なんと..

  • 表彰式に行ってきました

    2月18日、新美南吉童話賞の授賞式に行ってきました。 場所は、愛知県の半田市です。 表彰式は午後からですが、新幹線が止まったらどうしようとか、いろいろ考えて前日から名古屋に泊まることにしました。 娘と行くはずだったのですが、娘が急遽行けなくなり、夫と行くことになりました。 心配なのは義母のことです。 入院していて、いつ急変していてもおかしくない状態。 何とか、18日までは頑張ってほしい。本当にそればかり祈っていました。 そして祈りが通じ、万全の態勢で行くことができました。 表彰式は本当に素晴らしかった。 だけど私、普段は緊張しないのに、この日はドキドキしっぱなし。 スピーチも震えて、何を言ったか覚えてないくらいです。 立派な賞状を頂いて、私、本当に幸せでした^^ そのあと、審査員の先生と個別にお話しできる時間がありました。 すごくありがたいです。 私..

  • 苦くて泣いた

    今日はバレンタインデー。 甘いものが苦手なアキラさんのために、腕を振るってご馳走を作った。 「ただいま」 「おかえり。早かったね」 「うん。1本早い電車に乗れたんだ」 「よかった。じゃあご飯にしよう」 「うん。あれ、すごいご馳走だね。何かあったっけ?」 「バレンタインデーだから、一応」 「ああ、そうか。そういう行事、結婚すると忘れるもんだな」 アキラさんと向かい合って夕飯を食べる。 このひと時が、一番好き。 じっくり煮込んだビーフシチュー。赤ワインとチーズもある。 「ねえアキラさん、誰かからチョコもらった?」 「もらわないよ。バレンタインデーだってことも忘れてたんだから。それに、今どき職場で義理チョコもないだろ」 「結婚前はどうだった? たくさんもらった?」 「そんなにモテないよ、おれ」 「またまた。白状しなさいよ。人生でもらった本命チョコの数、..

  • 3年越しの結婚式

    コロナのせいで結婚式が延期になって、早2年。 終息したら絶対に式を挙げようと約束して、籍だけ入れた。 だけどコロナは一向に収まらない。 彼はすっかり諦めモードだ。 「もういいんじゃない」とか言い出した。 生活が始まってしまったら、式だの披露宴だの、どうでもいいみたい。 「そりゃあ、君の気持はわかるよ。式場見に行って、ドレス選んで、エステに通ってダイエットもしたんだろう。最高の笑顔で、たくさんの人に祝福されたいのは分かるけどさ」 「全然分かってない。あなた全然分かってないわよ」 私は手帳を取り出して、広げて見せた。 「なに、これ?」 「私が今までに出したご祝儀よ。友達、職場の同僚、先輩、後輩、いとこ、はとこ。隣の数字は出した金額。これだけご祝儀を包んできたのに、自分のときにもらえないなんて、悔しくて夜も眠れないじゃないの」 「えええ、君がどうしても式を挙げた..

  • 絵本のSOBA

    家の光「絵本のSOBA」2月号に、私のインタビューを載せて頂きました。 https://www.ienohikari-koubo.com/picture-books/ 絵本のSOBAは、児童文学作家の正岡慧子さんが運営するサイトです。 楽しい絵本を紹介しています。 私もお気に入り絵本を紹介させていただきました。 プロでもないのにインタビューなんて、すごく恥ずかしいのですが、よかったら覗いてみてください。

  • 邪な介護

    土曜日は、おばあちゃんの家に行く。 足が悪いおばあちゃんを車椅子に乗せて、お散歩に行く。 「エミちゃん、いつも悪いわね。叔母さん助かるわ」 「1時間くらい歩いてくるから、韓流ドラマでも見たら」 「あら、じゃあ、そうさせてもらおうかな」 叔母さんは、いそいそと家の中に入っていった。 「おばあちゃん、湖の方に行こうか」 「そうだねえ」 天気がいいから、湖面がキラキラ輝いている。 水辺には、たくさんの鳥が集まっていた。 おばあちゃんは、昔の話ばかりする。 「ボケてるから適当に話合わせてね」と叔母さんが言っていた。 ウンザリだけど、いいこともある。 「そうだ。エミちゃんに、今月のお小遣い、あげてなかったね」 おばあちゃんはそう言って、1万円をくれる。 「ありがとう。おばあちゃん」 実はもらっている。おばあちゃんは、月に一度のお小遣いを毎週くれる。 「適当に..

  • 運命の初夢

    初夢を見た。 夢の中に、見知らぬ女性が出て来た。 顔はぼんやりしているけれど、会ったことのない女性だ。 数日後、同僚の中村にその話をした。 「単なる夢だから普通は気にしないんだけどさ、初夢だから気になって」 「ふうん。初夢には意味があるって言うもんな。おまえさ、占いとか信じる?例えば血液型占いとか」 「信じないよ。おれ、B型だから、どうせ良いこと言われないし」 「あっ、おまえB型か。まあ、信じる信じないは別として、夢占いをしてみないか。知り合いに当たるって有名な占い師がいるんだ」 「えー、そういうのって高いだろ」 「店を構えてるわけじゃないんだ。だから知り合いしか見ない。連絡とってやるから、会ってみろよ」 中村に言われて、会うことにした。 何しろ中村は、会社でいちばん信用できる男だ。 仕事はできる、家庭を大事にする、先輩にも後輩にも好かれている。 週末..

  • 福の神に来てほしい(切実)

    「あれ、お母さん、正月早々何張り切ってんの?」 「タカシおはよう。あのね、福の神が来るのよ。精いっぱいおもてなししなきゃ」 「ここ、3DKのマンションだよ。神様って、由緒正しいお屋敷に来るんじゃないの?」 「私もビックリよ。でもね、今朝電話があったのよ。今日伺いますって」 「福の神が来たらどうなるの?」 「そりゃあ、福が舞い込むのよ。宝くじが当たるのよ」 「マジで?」 「お母さん、電話受けてすぐ、ネットでブランドバッグ爆買いしちゃった」 「早! 俺さ、免許取ったら車欲しい」 「大きい車がいいね。コストコでいっぱい買い物できるし。お父さんの軽じゃ、いくらも積めないし」 「そういえばお父さんは?」 「駅に神様を迎えに行ってるわ」 「はっ? 神様、電車で来るの? 雲とかに乗って来るんだと思った」 「それは仙人でしょ。福の神は、どこかの由緒正しい神社から来るのよ」 「ふ..

  • 今年もお世話になりました

    2022年は、私にとって最高の年でした。 日本動物児童文学賞の奨励賞から始まり、 家の光童話賞 大賞、 新美南吉童話賞 最優秀賞 深大寺恋物語 調布市長賞 1年で、こんなにたくさんの賞をいただいたのは初めてです。 そして3月から始まった「ニュースつくば」の連載と、それに伴って絵を描き始めたこと。 これも私にとってはとても楽しいことでした。 あと、インスタも始めました。 内容は、ほぼネコです^^ そんなこともあって、ブログの更新が少なくなってしまったのは、ちょっと反省です。 来年はもう少しちゃんと更新します。 来年は、「5分ごとにひらく恐怖の扉百物語2期」の本が出ます。 そのときはまたお知らせしますね。 これからも良いお知らせがたくさんできるように頑張ります^^ 一年間ありがとうございました。 みなさま、よいお年をお迎えください。 ..

  • サンタさんのランク付け

    ユミちゃんの家には、天井に届きそうなほど大きなクリスマスツリーがある。 てっぺんの星は、パパに肩車してもらって飾るんだって。 すごいね。 うちにはクリスマスツリーもないし、パパもいない。 サンタさんは、いつも望み通りの物を持ってきてくれない。 去年は大きなクマのぬいぐるみをリクエストしたのに、運動靴が置いてあった。 「ごめんね。クマさん売り切れだった」っていうお手紙と一緒に。 その前は、プリンセスのお洋服をリクエストしたのに、ペンケースだった。 お洋服も売り切れだったんだ。 「ねえママ、ユミちゃん、サンタさんにピンクの自転車をお願いしたんだって」 「ふうん。ステキね」 「わたしは、何をお願いしたらいい?」 「カナコが欲しいものにすればいいでしょう。今年は何が欲しいの?あっ、お正月に着るコートは?小さくなっちゃったよね」 「それは欲しいものじゃなくて必要な物..

  • おとぎ話(笑)32

    <ウサギとカメ> 「お願いしますよ。今回だけ、ウサギが勝つことにしてもらえませんか」 「ダメですよ。ウサギは油断して昼寝をして負けるんです。油断は禁物っていう教訓のお話なんですよ」 「しかしですね、ウサギ役の子が、議員の孫なんですよ」 「議員って、あの、町の権力者の?」 「そうなんです。お遊戯会も見に来るんですよ」 「ウサギを勝たせましょう」 よい子のみなさん、これが、忖度です。 <かさ地蔵> 「ちょいとおまえさん、峠の地蔵に笠をかぶせただけで、大金持ちになったじいさんがいるんだと」 「ほう、笠をかぶせただけで大金持ちに」 「だからさ、おまえさんも行ってきな」 「どこに?」 「峠の地蔵に笠をかぶせに行くんだよ」 「しかしうちには笠などないぞ」 「じゃあ、笠屋に行って買ってきなよ。地蔵は七人だから七つ買うんだよ」 「よし、行ってくる」 ..

  • お知らせ(家の光童話賞・新美南吉童話賞)

    ワールドカップ、盛り上がっていますね。 私も朝から応援しました。 日本代表に力をもらいました。寝不足だけど^^ さて、いつもブログを読んでくださる皆さま、ありがとうございます。 このたび、家の光童話賞の大賞をいただきました。 そして、なんともうひとつ。 新美南吉童話賞の最優秀賞をいただきました。 こちらは、オマージュ部門の大賞とのダブル受賞です。 これから季節は寒い冬なのに、私、お花畑にいるみたい。 大きな童話賞を二つもいただけるなんて。 浮かれてます。 家の光童話賞は、雑誌「家の光」1月号で読むことが出来ます。 すごく可愛い挿絵が付いてます。 チェックしてみてください。 新美南吉童話賞は、ホームページで読むことが出来ます。 こちらもどうぞ。 http://www.nankichi.gr.jp/Dowasyo/kekka34...

  • コタツ生活

    朝、いつものようにタカシ君を迎えに行った。 「タカシ君。学校行こう」 家の中から声がした。 「ごめん、ユウ君。コタツから出られないんだ」 「えっ、何言ってるの? 早くおいでよ」 タカシ君のお母さんが出てきて言った。 「ごめんね、ユウ君。コタツがタカシを放してくれないのよ。今日はお休みさせるから、ユウ君ひとりで行ってね。気を付けるのよ」 「はあい」 ???コタツがタカシ君を放さないってどういうこと? 寒くてコタツから出られないだけだろう。 学校が終わってから、ぼくはまたタカシ君の家に行った。 「タカシ君、プリント持ってきたよ」 「ユウ君、玄関開いてるから入って」 「おじゃましまーす」と上がって部屋に行くと、タカシ君はコタツに寝そべってマンガを読んでいた。 「なんだ。やっぱりさぼりじゃないか」 「違うよ。コタツがぼくを放さないんだ。コタツ布団をめくってごら..

  • ホチキッス

    中条さんは文房具マニアだ。デスクの上は遊園地みたいだ。 パラソルみたいな七色のマーカーや、マーブル模様のボールペン、ハサミはワニの形だし、定規はピアノの鍵盤になっている。 瀬尾君は、この部署に移動して半年になる。 へんてこな文房具を愛する中条さんが気になっている。 中条さんは、誰にでも惜しげなく文房具を貸す。 マカロンみたいな消しゴムも、パンダの付箋も、カタツムリのセロテープも笑顔で差し出す。 だけど、なぜかホチキスだけは、誰にも貸さなかった。 ある日瀬尾君は見てしまった。 中条さんの引き出しに、ひっそり収まるホチキスを。 それは古い紺色のホチキスだった。カラフルなハートのクリップの隣で、それはやけに地味だった。 瀬尾君は不思議に思った。なぜそれだけが正統派の事務用品なのだろう。 可愛いホチキスって売っていないのかな。 地味だから誰にも貸したくないのかな。 ..

  • 抜け殻あつめ

    「子どもの頃、セミの抜け殻を集めるのが好きだったの」 彼女は甘いカクテルを飲みながら、そんな話をした。 「机の引き出しが、ひとつ丸々抜け殻で埋まったの。それを見つけた母親が悲鳴を上げて全部捨てたわ」 「ひどいね。せっかく集めたのに」 「そうね。私には宝物でも、母にはただ気持ち悪いだけのゴミだったのね」 「俺も好きだったよ。セミの抜け殻。形を残したまま空っぽになるなんて、ある意味芸術だよ」 「あなたとは気が合うわ。ねえ、私、また抜け殻を集めているんだけど、よかったら見に来る?」 俺は、カウンターの下でガッツポーズをした。 彼女は、いわゆる「あげまん」だ。 彼女と付き合った男は必ず出世する。 営業部のTは彼女と付き合ってから成績が伸びて、同期で初めて課長になった。 うだつが上がらなかったYは、彼女と不倫してからとんとん拍子に出世して、今は総務部の部長だ。 ひょんなこ..

  • 姉の存在

    姉は子どもの頃から、わがままで手に負えなかったという。 中学くらいから悪い仲間と付き合いだして、万引きで捕まって高校を退学。 18歳で家を出てから10年間、一度も帰ってこない。 子どもの頃から大人しかった私は、姉を反面教師にして高校・大学を問題なく卒業した。 今は、地元ではわりと大きな安定した会社で働いている。 姉と違って優等生。それが私の立ち位置だ。 父も母も、姉の話をしない。 部屋はそのまま残っているのに、最初からいないように話題を避ける。 ある日、家族でご飯を食べていたら、テレビで詐欺師が捕まったニュースをやっていた。 その詐欺師が、姉と同姓同名だったので、私たちは箸を止めてテレビを見た。 だけど捕まった女は50過ぎの太った女で、ちらりと映った顔は姉とはまるで別人だった。 姉の名前はありふれているから、こういうことは時々ある。 「あー、びっくりした..

  • 祭りのあとの街

    10月になると、ショーウィンドウはハロウィン一色です。 どこもかしこもオレンジ色のお化けカボチャが並んでいます。 街角のデパート。お化けカボチャたちのおしゃべりが聞こえてきます。 「あー、今日はいよいよハロウィンだな」 「この大通りを、仮装した人間たちがぞろぞろ歩くんだ」 「いいなあ。一度でいいからあのパレードに加わってみたい」 「じゃあさ、抜け出しちゃう?」 「そうだな。今夜なら、誰にもバレないぞ」 「仮装パレードに混ざって歩くんだ。最後の夜だ。楽しもうぜ」 「そうだな。明日には俺たち、倉庫行きだもんな」 夜になり、人出が増えて来ました。 お化けカボチャたちはショーウィンドウを抜け出して、パレードの中に紛れ込みました。 「うひゃー、楽しい。テンション上がるぜ」 「人間の仮装すげーな。俺たちぜんぜん目立たない」 魔女やゾンビや流行りのキャラクター。何でも..

  • ただの幼なじみ

    幼なじみの太一が嫁をもらった。 東京の大学で知り合って、卒業と同時に式を挙げたって。 お金がないから、地元に帰って親と同居するらしい。 同居ってことは隣に住むんだ。嫌でも顔を合わせるしかない。 太一とあたしは、小学校から高校まで、ずっと一緒に通った。 朝はどちらかが迎えに行き、帰りも一緒に帰った。 どちらかが部活で遅いときは、待ってて一緒に帰った。 まるで付き合っているみたいだった。将来結婚するかもって、ちょっと思っていた。 でもまあ、そう思っていたのはあたしだけ。 太一にとっては、隣に住んでいるだけの、ただの幼なじみ。 「あーあ、家出ようかな。でも就職したばっかりだしな」 つぶやきながら隣の窓を見た。もうすぐ、太一と嫁が帰ってくる。 「おはよう。麻衣子さん」 「おはよう。実花さん」 太一の嫁の実花さんと、毎朝挨拶を交わす。 「行ってらっしゃい」と、実..

  • 生まれ変わったら

    「生まれ変わったら、お金持ちの家の子になりたいです。そして町で困っている人を見かけたら、100万円ずつ配ってあげます」 私が発表すると、クラスのみんながどっと笑った。 「佐伯さんは優しいのね。だけどね、昨日の宿題は、将来の夢ですよ。生まれ変わったらの話じゃないのよ」 みんながさらに笑った。 先生、私には将来はないんです。だってもうすぐ死ぬんだもの。 昨日の夜、パパとママが話すのを聞いてしまったんです。 コロナでお店がダメになって、借金もたくさんあって(たぶん100万円より多いです)、もうみんなで首をくくるしかないって言ってました。 だからもう、学校へ来るのも最後かもしれません。 金曜日の午後、私は仲良しのクラスメートに「元気でね」と言って別れた。 不思議そうな顔をしていた。 だって、今日が最後かもしれない。そんな予感がする。 家に帰ると、お客さんが来て..

  • プロフィールをちゃんとしました

    このブログを始めて、もう13年も経つというのに、プロフィールがいい加減でした。 私の場合、カテゴリー分けもかなりいい加減で、ずぼらな性格が出てるなあ~とお恥ずかしい限りです。 この度、プロフィールを書き換えることにしました。 というのも、3月からウェブサイト「ニュースつくば」で連載を始めました。 月に1度(ほぼ月末)に、このブログから抜粋したショートストーリーを少しアレンジして掲載させていただいています。 伊東葎花という筆名で書かせていただいています。 たぶんこのブログよりも多くの人の目に触れていると思うので、本家のブログの方もちゃんとしなきゃと思った次第です。 「短いおはなし」というコラムです。よかった覗いてみてください。 https://newstsukuba.jp/ これまであまり載せなかった受賞歴も、主なものをプロフィールに載せてみました。 けっこう時間..

  • おとぎ話(笑)31

    <浦島太郎> 信じてください。殺意なんてなかったんです。 わたしはただ、助けてもらった恩返しがしたかったんです。 ええ、そうです。竜宮城にお連れしようと思っただけです。 まさか、人間が海の中で呼吸が出来ないなんて知りませんでした。 本当です。殺すつもりなど微塵もありませんでした。 私は無罪です。 「判決を言い渡す。亀、有罪。懲役千年」 「ええ~、有罪? でもまあ、千年ならいいか。寿命長いし」 <ヘンゼルとグレーテル> 「お兄さん、見て。お菓子の家よ」 「本当だ。屋根は瓦せんべいだ」 「壁は落雁よ」 「柱は千歳あめだ」 「庭のお花は和三盆よ」 「ドアは羊羹だ」 「窓は飴細工ね」 「ちょっと、私のお家を食べているのはだあれ?」 「あっ、おばあさん、ちょうどいいところに。渋いお茶をお願いします」 「あたしも」 <赤ずきん> ..

  • ルール

    55歳の姉が結婚するらしい。 シニアの婚活サイトで知り合った人で、姉より一つ上の56歳。 共に初婚だという。 「結婚する前に彼に会って欲しいのよ。経済的に問題はないし、穏やかでいい人なの。それにね、月の半分は日本にいないんですって。シンガポールに支店があって、そちらに行くらしいの。ねえ、好条件だと思わない?」 確かに、経済力があって束縛されない生活なんて、55年もひとりで生きて来た姉にとってはこれ以上の条件はない。 土曜日、ホテルのレストランを予約して、3人でランチをすることになった。 姉の婚約者の木村は少し遅れてやってきた。 背が高くてスマートな人だ。物腰も柔らかく、かなりの好印象だ。 「結婚しても束縛するつもりはありません。夫婦というより、人生のパートナーとして共に暮らしていきたいと思っているんです」 「素敵ですね。ところで、これまでご結婚を考えたことはな..

  • A子の横領事件

    A子が、会社のお金を横領したんだって。3億円だって。 そりゃあ、すごい大さわぎ。 小さな町にもテレビの取材が来て、私もインタビューされた。 「ああ、A子はね、高校生の時から派手だったよ。ヴィトンだかカルティエだかの財布を学校に持ってきて見せびらかしていたからね。金持ちの大学生とでも付き合ってたんじゃない?やっぱさ、まだガキなのに贅沢覚えちゃったからさ、こういうことになるんじゃない?ところでさ、顔出さないでよね。小さい町なんだから」 顔出しNGでモザイクがかかっていたけど、声はそのままだったし、髪型や服装で、私だってすぐにばれた。 「ひどくない?あんたA子と仲良かったじゃん」 「テレビ見たけど、あの頃大学生と遊んでいたのはあんたでしょ」 などなど。あー、小さい町はこれだからいやだ。 ワイドショーを盛り上げてあげようと思っただけなのに。 実際すごく盛り上がった。私の話..

  • かぐや姫とオオカミ男

    ここだけの話だけど、わたし、かぐや姫なの。 生まれたときから、月が恋しくて仕方ない。 こんな満月の夜は、月からの使者が迎えに来るはず。 だからこっそり家を抜け出すの。 パパとママには悪いけど、やっぱり地球はわたしの居場所じゃないの。 月に帰りたい。 こんな素敵な満月の夜だもの。きっと奇跡は起こるわ。 ここだけの話だけど、おれはオオカミ男だ。 子供の頃から月を見ると吠えていた。 満月の夜には黒い毛が生えて、牙が生えて、オオカミになるんだ。 だから夜は家にいようと決めていたのに、なんてことだ。 すっかり遅くなってしまった。 地下道を通っているうちは大丈夫。 だけど地上に上がったら、もうその先はわからない。 5番の出口は公園につながっている。 誰もいない夜の公園を一気に走り抜けたら、完全なオオカミになる前に家に着ける。 よし、行こう! さあ、月の..

  • 双子の美人の霊

    深夜のカフェに入ると、店員に声を掛けられた。 「3名様ですか」 「いや、ひとりだけど」 思わず振り向いたけど、もちろん誰もいない。僕はひとりでここに来た。 「あっ、失礼しました」 店員はうつむきながら、僕をテーブルに案内した。 テーブルに座ると、別の店員が水を3つ持ってきた。 「いや、ひとりだけど」 「あっ、失礼しました」 僕の前に、誰か座っているのか? しかもふたり? 気持ちが悪いので出ようとしたら、店長が来た。 「お客様。大変申し上げにくいのですが、お客様の前に双子の霊が座っています」 「双子の幽霊?」 「はい。かなりの美人です。お心当たりはございますか?」 「いや、全くないなあ。美人とは縁がないから」 この店の店員には、全員霊感があるのだろうか。 どんなに目を凝らしても、僕には美人の双子は見えない。 「それで、あの、こちらの双子の美人..

  • 新盆帰り

    新盆で家に帰る途中、迷っている男の霊と会った。 「どうされました? 家がわからないのですか?」 「ええ、すっかり迷ってしまいまして。足がないから感覚が掴めないんですよね」 「ははは、わかりますよ。私も初めての盆帰りでね、どうも勝手がわかりません」 「そうですか。新盆ですか。それは賑やかで羨ましい。私なんぞは12年目ですからね。寂しいもんです」 「12年目なのに迷子なんですか?」 「ええ、どうやら引っ越したらしいんですよ」 「お気の毒に。よかったらうちに来ませんか?」 「いやあ、そんな。よそ様の家に帰っても」 「いいじゃないですか。どうせ見えないんだから」 「そうですか。じゃあ、お言葉に甘えて」 家に着いた。みんなが集まっているのだろう。笑い声が聞こえる。 私は、初対面の幽霊さんと一緒に家に入った。 「賑やかでいいですね」 「妻と息子が3人、孫が5人いますから..

  • 彼からのエアメール

    オーストラリアに赴任したKからエアメールが届いた。 『シドニーで運命の人に出逢った。だから僕のことは待たないでください』 なにこれ。白いオペラハウスのポストカードに書く内容か? しかもKと私は、恋人でも何でもない。ただの同僚だ。 告白もされてないし、こっちからもしていない。 始まってもいないのに幕を閉じた舞台みたい。 『もちろん待ちませんとも。あなたとは付き合っていないので』 なんて返事を送ろうかと思ったけれど、面倒なのでやめた。 あれから3年。 Kが帰国して、今日から会社に復帰する。 金髪の嫁を連れて来たと、部内ではもっぱらの噂だ。 さて、どんな顔をして会えばいいのか。 いや、気にすることはない。元カレでも元カノでもないのに、意識する方が変。 会わないようにしようと思っていたのに、エレベーターでばったり再開した。 「久しぶり。変わらないね」 Kは、以..

  • 麦とろの夏休み

    夏休みの息子に、毎日お弁当を作って置いていく。 塾に行かせる余裕はないけれど、宿題は夜にちゃんと見てあげる。 誰かに助けてもらわなくても、私は立派にシングルマザーをやっている。 仕事から帰ると、お弁当がそのまま残っていた。 「大樹、お弁当食べなかったの?」 「うん。タケちゃんの家で食べた」 「タケちゃんって、学校の友達?」 「違うよ。公園で会ったの。すごく仲良しになって、家に遊びに行ったんだ」 「それでお昼をご馳走になったの?」 「うん。家に帰ってもひとりだって言ったら、おばさんが一緒に食べようって言ったんだ。ひとりじゃ寂しいでしょうって」 ああ、たまにいるんだ、こういう人。 父親がいなくて可哀想とか、大変でしょう?とか、力になりたいとか、親切な振りして心の中で憐れんでいるんだ。 「大樹、ママ言ったよね。人から物をもらったりしちゃだめだって」 「もらっ..

  • 夜の公園

    男の人が来ると、外に出された。 「2時間は帰ってきちゃだめよ」とお母さんは千円をくれた。 昼間はまだいい。コンビニやショッピングセンターで時間をつぶせる。 だけど夜は困る。すぐに補導されてしまうから、お店には行けない。 その夜、わたしは近所の児童公園に行った。 夜になると誰もいない。薄暗い外灯がいくつかあるだけで、暗くて寂しい。 わたしはブランコに座り、思い切り地面を蹴った。 ブランコが加速していく。順番待ちの子もいない。独り占めだ。 ふと、隣のブランコを見ると、同じように揺れている。 風もないのに、まるで誰かが乗っているように、前に後ろに揺れている。 「誰かいるの?」 声を掛けたら、返事の代わりに微かな笑い声が聞こえた。 小さな子どもの笑い声だ。 わたしは次に、シーソーにまたがった。 ひとりでは動くはずがないシーソーから、わたしの両足がゆっくり離れた。..

  • 節電の夏

    「10回」 「何が」 「この5分間に君が冷蔵庫を開けた回数。多すぎる」 「別にいいでしょう。取り出すものがいろいろあるのよ」 「この夏、政府からの節電要請を君はまるで無視している。エアコンの温度設定、23度は低すぎる」 「暑がりなのよ。あっ、マヨネーズ忘れた」 「11回め。素早く閉める!」 「あーもう、うるさいな」 「昨夜は洗面所の電気がつけっ放しだった」 「たまたま忘れたのよ」 「電力不足を甘く観てはいけない。ひとりひとりの心がけが、地球温暖化を防ぎ、しいては人間の未来のためになる」 「わかった、わかった。ちゃんと消すわ」 「待機電力も甘く観てはいけない」 「待機電力?」 「使わない電源はこまめに消す。パソコンの電源入れっぱなし、スマホの充電フル活動、昨日はドライヤーのコンセントを入れっぱなしだった」 「ちょっと忘れただけよ」 「ドライヤーは危険だ。今度や..

  • 願いが叶いますように

    地球の人たちが、短冊にたくさんの願い事を書いているわ。 世界平和や合格祈願、恋愛成就、宝くじ当選。 いろんな願い事に混ざって、毎年必ずあるの。 『織姫と彦星が逢えますように』 私たちのことを願ってくれてありがとう。 だけど心配無用よ。そちらは雨でも、こちらは大丈夫。 私たち、雲よりずっとずっと上にいるんだもの。 私たち、仕事をしないでいちゃついていたから引き離されちゃったんだけどね、幸か不幸か、一年に一度の距離感って、案外いいのよ。 自由な時間はたくさんあるし、何より新鮮でしょ。 一緒にいるより、彼のことを考える時間が増えて、ずっと恋愛中の気分なの。 一年って長いと思うでしょ。 それがね、そうでもないの。 次に会うまでにダイエットしようと思っても、いつも間に合わないのよ。 あっという間に七月七日(笑) さて、そろそろ行こうかしら。 今日のた..

  • 異星人と犬

    若い女が、ベンチで水を飲んでいる。 傍らには、やや大きめの犬がいる。 「犬の散歩」という行為の途中で、のどが渇いて休んでいるのだ。 横顔しか見えないが、なかなかの美人だ。 身なりもいい。服もシューズも高級品だ。 彼女に決めるか。いやしかし、犬が気になる。 犬は敏感だ。余計なことを感じ取ってしまうかもしれない。 私は、遠い星から来た。今はまだ体を持たない。水のような流体だ。 ターゲットを探している。性別はどちらでもいいが、女の方に興味がある。 すうっと入り込み脳を支配して、地球人に成りすますのだ。 そして我々の星にとって有益なデータを持ち帰ることが目的だ。 誰でもいいわけではない。容姿は重要。生活水準も高い方がいい。 あの女は、大企業の重役秘書をしている。申し分ない。 犬さえいなければ。 私には時間がない。地球時間で5時間以内に入り込まないと、気体になって..

  • 細かいことが気になる「桃太郎」

    「おじいちゃん、この本読んで」 「おお、桃太郎か。よし、読んであげよう」 『むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました』 「昔って、どのくらい昔?」 「そうだな。100年……200年くらい前かな」 「ふうん。じゃあ、あるところってどこ?」 「あー、そうだなあ、岡山とか、そのあたり……かな」 『おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました』 「ちょっとまって。ふたりとも出掛けたの?家を空けて大丈夫? 鍵は掛けた?」 「あー、昔は、鍵なんか掛けなくても大丈夫なんだよ」 「ふうん。平和なんだね。だけどちょっと心配だな」 『おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきました。おばあさんはそれを家に持って帰りました』 「大きいって、どのくらい大きいの?」 「うーん。直径1メートルくらいかな」 「おばあさんは..

  • 次の恋

    Aと別れた1か月後にBとつき合って、Bと別れた2週間後にCとつき合って、Cと別れた1週間後にDとつき合って……。 恋が終わって次の恋が始まるスパンが、年々短くなっている。 「あんたさあ、よくそんなに次から次へと彼氏が出来るよね」 親友のレイコは、呆れ顔でウーロン茶を飲み干した。 「久々に飲もうって誘っておきながら、ウーロン茶って何?舐めてんの?」 「車で来ちゃったんだもん。しょうがないでしょ」 レイコには、付き合って12年の腐れ縁彼氏がいる。 同級生のタカシくんだ。高3で付き合い始めて今に至る。 干支が一周してもまだ同じ男って、そっちの方がよっぽど異常だよ。 「今度の彼はイケメンだよ。学生の時、モデルのバイトしてたんだって」 「えー、なんかチャラそう。あのさ、あんたが恋に本気になれないのは、最初の恋が忘れられないんじゃないの? ほら、大学のとき、初めて彼氏に..

  • 祝! 1,100記事

    本日は、「りんのショートストーリー」1,100話記念パーティにお越しいただきましてありがとうございます。 このブログを始めて12年。 1,100ものお話を、どうにかこうにか書いてこられたのは、ひとえに読者の皆様のおかげでございます。 心より御礼申し上げ…… ん? なにやら外が騒がしいですね。 何事でしょう? 「りんさん、乱入者です。招待状もないのに、りんさんに会わせろと数人の男女が……」 「何ですって? おめでたい席なのに、追い返しなさい」 「いや、もう入ってきちゃいました」 「りんさん、原稿料がぜんぜん振り込まれてないけど、どういうことなんだ」 「払ってもらわないと住宅ローンが」 ヤバい。私のゴーストライターたちだわ。 「おとぎ話(笑)の原稿料、12までしかお金もらってないわよ」 「俺のミステリーの原稿料が先だ」 「コメディ散々書かせておい..

  • ノラ猫だけど何か?

    おいらはノラ猫。 去年までは家ネコだった。 飼い主さんが突然死んじゃって、おいらノラになっちゃった。 飼い主さんが死んだあと、家族や親戚たちが集まって、遺産がどうとか揉めていた。 だけど、おいらのことを気にかけてくれる人間はひとりもいなかった。 おいらもあまり好きなタイプの人間じゃなかったから、そうっと家を出たのさ。 たまに家が恋しくなったけど、飼い主さんの家には息子や娘がいつもいた。 生きていたころは顔も見せなかったくせにさ。 あれから1年。 怖いノラ猫に追いかけられたり、車に轢かれそうになったりしながら何とか生きて来た。 ノラ猫にご飯をくれる人がいるという情報をキャッチすると、おこぼれをもらいに行った。 みんなに混ざって食べていると、必ず言われる。 「あんた、どこかの飼い猫だろう。おうちにお帰り」 おいらが首輪をしているから、どこに行っても飼い猫扱いだ..

  • 元妻1号

    元夫が、4度目の結婚をしたらしい。 懲りない男だ。どうせまた別れるに決まっている。 私は最初の妻だ。浮気を繰り返す夫に辟易して3年で別れた。 2番目の妻と、3番目の妻とは、たまに連絡を取り合っている。 同じ男と離婚した者同士。友達とは違う、不思議な関係だ。 私たちは、1号・2号・3号と呼び合っている。 2号は離婚しても、彼と仕事上のつながりがある。 3号は離婚しても、彼と同じ町内に住んでいる。 4度目の結婚の情報も、彼女たちから教えられた。 「で、今度はどんな女なの?」 居酒屋で、ビール片手に二人に訊いた。 「24歳らしいですよ。4号さん」 3号が言った。 「彼の秘書をしていたらしいわ。割と優秀みたい」 2号が言った。 「そんな若い女と? まるで親子じゃないの」 「でも、彼は若く見えるから大丈夫よ」 「そうですよ。一度見たけど、お似合いでしたよ..

  • 雨とカエルとワイパーと

    午後から降り出した雨は、時間を追うごとに強さを増した。 まるで暴力だ。「これでもか」と、フロントガラスを叩き続ける。 ふと見ると、ドアミラーにカエルがしがみついている。 必死だな。こんな暴風雨に耐えながら、踏ん張って生きている。 逆境に強いんだな。尊敬するよ。 ワイパーは忙しなく同じ動きを繰り返す。 働き者だ。僕の視界を確保するために、文句も言わずに動き続ける。 えらいな。不満だらけの僕とは大違いだ。 信号が赤になって、ワイパーを休ませた。 たちまち雨で視界が歪む。滝の中にいるみたいだ。 こんな雨の国で、カエルと暮らすのも悪くない。 クラクションを鳴らされた。 ああ、信号が青に変わったのか。 アクセルを踏んで、ワイパーを動かした。 その途端、ワイパーが何かを弾いた。 カエルだ。いつの間にか、カエルがドアミラーからワイパーの上に移動していた。 ..

  • おとぎ話(笑)30

    かさ地蔵 おや、峠の地蔵さんがノーマスクだ。 感染したら大変じゃ。 予備のマスクを持っているから掛けてあげよう。 あれ、1つ足りない。 仕方ない。わしのマスクを外して…… 「それだけは勘弁してくれ」 アリとキリギリス 「頼むよ。食べ物を分けておくれよ」 「いやだよ。夏のあいだ遊んでいた自分が悪いんじゃないか」 「そう言わずに。一匹でいいからさ」 「一匹? キリギリスさんは何を食べるの?」 「アリ」 「………」 赤ずきん 「やあ、赤ずきんちゃん。森の奥にきれいなお花が咲いてたよ。摘んでおばあちゃんのお見舞いにしたらどうだい?」 「ありがとう。オオカミさん」 さて、ここで問題です。 オオカミは、ここで赤ずきんを食べることも出来るのに、なぜ食べなかったのでしょう。 A:そこまで空腹じゃなかった。 B:おばあさんも食べ..

  • 傘の小さな物語

    私は傘。どこにでも売ってるビニール傘よ。 今、電車に乗っているの。いったいどこまで行くのかしら。 別に乗りたくて乗ってるわけじゃないけどね。 持ち主さんは、私を置いて電車を降りちゃった。 忘れられたの。無理もないわ。雨がやんだから必要なくなったのよ。 終点で駅員さんに回収されると思ったら、そのまま折り返し運転。 私はドア近くのシートの隣に掛けられたまま、来た道を戻っている。 途中の駅で乗ってきた紳士が、私の隣に傘を掛けた。 わあ、バーバリーの傘だ。とても高そう。 「こんにちは。となり、失礼します」 「まあ、ご丁寧なお方。やっぱりブランド物はちがうわ。こんな、どこにでも売ってるビニール傘に話しかけてくれるなんて」 「ブランドなんて関係ないですよ。僕たちの役目は、持ち主が雨に濡れないように守ることです。みんな同じ目的で作られたんですから」 「立派な考えね。持ち主..

  • 優しいライオン

    休日は動物園に行く。家族連れに混ざって、さえない中年男がひとり。 目指すのは、ライオンだ。僕はライオンの檻の前で数時間を過ごす。 ライオンは静かな深い瞳で、僕の話を聞いてくれる。 僕にはわかる。このライオンは父の生まれ変わりだ。 売れない画家だった父は身体が弱く、志半ばでこの世を去った。 僕が15のときだった。 父はいつも言っていた。 「生まれ変わったらライオンになりたい。誰よりも強く逞しいライオンになりたい」 初めてこのライオンに会ったとき、懐かしさを感じた。 このライオンは、父の生まれ変わりだ。 目が似ている。穏やかでどこか悲しみを含んだ目だ。 そして何より、父が描いたライオンの絵にそっくりなのだ。 「ねえ父さん。僕も父さんみたいに好きなことを仕事にしたかった。毎日満員電車で会社に行って、上司と後輩に気を遣い、家に帰れば妻の愚痴。子どもの教育費がどう..

  • 散り際の桜

    「桜は散り際が美しい」 彼がそう言った時、私は口をとがらせて反論した。 「それって嬉しくないと思うわ。年老いて死にそうな女に、今がいちばんきれいだと言ってるのよ。絶対ありえないでしょ。そんなこと」 「まったく君は風情がないな。いちいち人間に置き換えることはないだろう」 何もかもが正反対だった私たち。よく4年間も付き合ったものだ。 大学を出た後、私は東京で就職して、彼は地元で家業を継いだ。 それっきり会っていないのに、彼のことを思い出すなんて。 きっと桜が満開だからだ。 定年まで勤めあげた会社を辞めた途端に病気が見つかって、ここ10年、入退院を繰り返している。 気ままな一人旅でもしようと思っていたのに、神様は意地悪だ。 家族もいないし、いっそケア付きの施設にでも入ろうかと考えて、見学に来た。 静かな海辺の街、庭には見事な桜の木が並んでいる。 ここで、遠い昔の恋を思..

  • 猫の恋

    「ねえ、パルくん。猫の恋って春の季語なんだって」 菫ちゃんが僕の背中を撫でながら言った。 この前まで漫画しか読まなかったのに、歳時記なんか買って来た。 「パルくんは去勢しているから、恋はしないよね。なんか可哀想だな。恋を知らずに一生を終えるなんて。あっ、一句浮かんだ」 ― 縁側に 並んだ二匹 猫の恋 ― なんじゃそりゃあ。小学生か。 僕を膝に乗せて、作った俳句を読んで聞かせるんだけど、これがまあ、交通安全の標語みたいな迷句ばかり。聞く方の身にもなってよ。 きっかけは、アパートの隣に越してきて大学院生だ。 大学で俳句の研究をしている彼に、菫ちゃんはひとめぼれ。 すっかりのぼせているというわけだ。 「ねえ、パルくん。今度彼を夕食に誘おうと思うの。恋は胃袋からって言うじゃない」 菫ちゃんは、こう見えて料理はかなりの腕前だ。 今はカフェで働いているけれど、い..

  • ぼくの右くつ・左くつ

    ぽっかぽかの春。こいのぼりが風をはらんで、ゆうゆうと泳いでいる。 ひごいとまごいが全部で七匹。すごいなあと見ていたら、いきなりドボン。 やっちゃった。水を張った田んぼに、右足がズボっとはまちゃった。 まるで底なし沼みたい。足が泥に埋まって抜けない。 通りかかったおじさんに助けてもらってようやく抜けたけど、その拍子に泥の中でくつが脱げちゃった。 おじさんがさおで「どれどれ」と探ってくれたけど、くつはとうとう見つからなかった。 ぼくは半泣きで帰った。お気に入りのくつだったんだ。 「新しいくつを買うしかないねえ」 お母さんは困り顔。お父さんは大笑い。ぼくはがっかりしながら頭をかいた。 その夜のことだ。玄関先で泣き声がした。シクシクシクシク。 そうっとのぞくと、ポツンと残された左のくつが泣いていた。 「なあ、あんた。うちら二つで一足なのに、相方がいなくてどうしたらええ..

  • おじいちゃんの日常

    「梅はな、花だけじゃないんだぞ。この枝ぶりを見るのも楽しみだ。見ろ、この曲線の美しさ。桜はドーンと大きな木に、これでもかというほど花が咲く。だけど梅は違う。どこか儚げが気がしないかね。気品があると思わんかね」 おじいちゃんは、同じ話を何度もする。 それ、さっき聞いた。3回め。ウンザリだけど顔には出さない。 「そうだね、おじいちゃん」と言って、手を引いて歩き出す。 「風が出てきたよ。もう帰ろう」 「そうだな。ああ、そうだ、美穂子。まんじゅうを買っていこう。今日は客が来る」 「客なんて来ないよ。たしか家にどら焼きがあったよ」 「そうか。じゃあ帰ろう」 ちなみに私の名前は美穂子じゃない。美穂子は私の叔母さんの名前。 おじいちゃんが町の相談役をやっていたころは、毎日のように誰かが来ていた。 だけど2年前、おじいちゃんが認知症になってからは誰も来なくなった。 あんなにしっか..

  • 先祖代々のおひなさま

    私の家には、立派なお雛様がありました。 先祖代々引き継いだ、7段飾りのお雛様です。 我が家は昔から女系家族で、なぜか一人娘しか生まれない家でした。 だから母も祖母も曾祖母も、婿を迎えて来たのです。 「あなたもお婿さんをもらって、この家とお雛様を守るのよ」 ずっとそう言われて育ったので、私もそう思っていました。 しかし突然異変が起きました。弟が生まれたのです。 両親も祖父母も大喜びです。毎日祭りのような騒ぎでした。 ピカピカの五月人形が飾られて、この家を継ぐのは弟だと言われました。 甘やかされて育った弟は、小学生になると「広い部屋が欲しい」と言い出しました。 両親は、奥の座敷を改装して、弟の部屋にすると言うのです。 「えっ、じゃあ、お雛様はどこに飾るの?」 「お雛様はもういいわ」 「だって、毎年出していたのに、お雛様が可哀想よ」 「いい加減にして。高校生に..

  • コロナを知らない子どもたち

    「大人って、いつも同じ話をするよね」 「あー、するする。あなたが生まれたときは大変だったのよ~って、その話ばっかり」 「そうそう、コロナ禍だったから、誰も病院に来れなくてひとりで産んだって話」 「うん。入院中も心細かったって話」 「あのときの子が、もう14歳だなんて、って言いながら涙ぐむんだ」 「あー、うちも同じ」 「田舎のおばあちゃんにやっと会わせたのは2年後だった、とかね」 「あと、旅行に行けなかったとか、パパが家で仕事していてウザかったとか」 「そうそう、ママたちが集まるとその話ばっかり」 「コロナを知らないあなたたちは幸せなのよ~って、必ず言うよね」 「そりゃ知らないよね。赤ちゃんだったんだから」 「あとさ、先生も何かにつけてコロナ持ち出すよね」 「ああ、修学旅行も遠足も行けなかった話ね」 「卒業式や入学式が普通に出来るのはありがたいことだって言うけど..

  • ディナー

    私の彼は、深い緑色の目をしている。背が高くて、誰もが振り向く異次元の美青年。 家族と一緒に日本に移住して一年になる。 道に迷った彼を助けた縁で、交際が始まった。 素敵な人だけど、たった一つ難点がある。 彼とは、食の好みが全く合わないのだ。だから一緒に食事をしたことがない。 外国人だから、私たちの食事は口に合わないのだろう。 食事時には必ず家に帰るので、デートの時間はせいぜい4,5時間だ。 私は、思い切って言ってみた。 「あなたと一緒に食事がしたいの。あなたと同じものを私も食べるから、家に招待してくれないかしら」 「本当にいいのかい? 僕たちの食事は、きっと君の口には合わないよ」 「いいの。あなたが好きなものは、私も好きになりたいの」 「ありがとう菜々子。今夜母さんにご馳走を作ってもらうよ」 緊張しながら、彼の家に行った。 彼の両親と高校生の妹が、流暢な日本語で..

  • おとぎ話(笑)29

    <舌切りすずめ> 舌を切られたすずめを助けたおばあさんは、すずめのお宿に招待されて、たいそうなもてなしを受けました。 「おばあさん、お土産です。大きなつづらと小さなつづら、どちらがいいですか」 「あら、ご馳走になった上にお土産までくれるの? どうしましょう。じゃあ、大きい方をもらおうかね。大は小を兼ねるから」 「えっ、大きい方?」 「(ひそひそ)予想外だ。謙虚なおばあさんが大きい方を選ぶなんて」 「(ひそひそ)どうしよう。大きい方にはお化けやヘビが入っているのに」 「それからね、悪いけど、箱は邪魔になるから中身だけもらえないかね」 「な、中身だけ?」 「(ひそひそ)どうする?ここで開けたら大変なことになる」 「(ひそひそ)困ったな。想定外だ」 「(ひそひそ)現金渡して帰ってもらおう」 <かさ地蔵> 夜 「おじいさん、誰か来ましたよ」 「..

  • GO-TO鬼ヶ島

    どうも。鬼です。そうです。昔話に出てくる角が生えた鬼です。 私たちは昔、人間に退治されました。それ以来、人里離れた小さな島でひっそりと暮らしていたのです。 しかしあるとき、命知らずのユーチューバーがやってきて、私たちにカメラを向けました。 「伝説の鬼ヶ島は実在しました~!本物の鬼がいま~す」 そう言って、私たちの動画をネットで流したのです。 人間たちがうじゃうじゃやってきました。鬼ヶ島行きの定期船まで出る始末です。 私たちは戸惑って怯えました。 何しろ人間は怖いものだと教えられて育ちましたから。 しかし人間は、手土産に酒や食べ物をくれました。 それを目当てに独占インタビューに答える鬼も出てきました。 特に害はないので、これも時代かな~なんて思っていました。 ある日、大企業の営業マンがやってきました。 「この島に、鬼のテーマパークを造りませんか。たくさんの鬼の..

  • コタツ沼

    家に帰ると、妹の冬美が丸くなってコタツで寝ていた。 「ネコかと思ったよ。仕事見つかった?」 「あー。いちおう求人サイト見てるけど~」 「焦らなくていいけどさ、ちゃんと探しなよ」 冬美は、勤めていたショップが閉店して無職になった。 一緒に暮らしていた彼氏とも別れ、今は私の家に居候中。 可哀想だと思うけど、かれこれ2か月もこの状態。 1日中、コタツの中でゴロゴロゴロ。 さすがの私もイラっとしてきた。 「コタツが難だね」と、同僚が言う。 「コタツはダメだ。人間をダメにする。コタツの中は底なし沼だよ」 「なるほど」と思って、コタツを撤去した。 「何するの、お姉ちゃん。寒いじゃん」 「あんたね、一日中コタツの中にいるでしょ。見てごらん、スマホにペットボトルにリモコンに雑誌にパンにゴミ箱。コタツから出なくてもいいように、全部周りに置いてるでしょ」 「やだなあ、お..

  • お知らせ(日本動物児童文学賞)

    日本動物児童文学賞で、優秀賞をいただきました。 受賞したのは去年ですが、作品集がようやく届きました。 大賞1点と、優秀賞2点が掲載されています。 日本獣医協会が主催で、テーマは「動物愛護」です。 私は猫の話を書きました。 家族同様に過ごした猫を看取り、一年後にお墓参りに行くお話です。 モデルは愛猫のレイちゃんです。(レイは2歳だからまだまだ元気だけど) やっぱり近くにモデルがいると、リアルな話が書けますね。 たくさんの作品の中から、私の作品を選んでいただけて嬉しかったです。 コロナで授賞式がオンラインになってしまったのは残念でしたが。 これは作中の挿絵ですが、レイがモデルです。 ほら、似てるでしょう(笑) また良い報告が出来るよう、頑張ります。

  • お年玉強盗

    1月3日のことである。 おばあさんの家に、4人の孫がやってきた。孫は男ばかりである。 毎年揃って顔を出し、お年玉をもらうのだ。 孫といっても20歳を過ぎた大人だが、もらえるものはもらいたい。 しかしおばあさんは、正月早々浮かない顔をしている。 「実は、昨日空き巣に入られて、お前たちのために用意したお年玉を盗まれたんだ」 「何だって?」 「警察には行ったの?」 「行ってないよ。だってさ、お前たちの中に犯人がいるかもしれないから」 孫たちは思わず顔を見合わせた。 「何言ってるの?俺たちを疑ってるの?」 「昨日防犯カメラに映っていたんだよ。1月2日の13時20分に、合鍵を使って家に入る誰かがね」 おばあさんは、昨日老人会の仲間と初詣に行った。 それを知っているのは、近所に住む二人の娘夫婦と孫たちだけ。 娘たちの家には、おばあさんの家の合鍵がある。 防犯カメラに映..

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