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りんのショートストーリー https://rin-ohanasi.blog.ss-blog.jp/

気軽に読めて笑えるショートストーリーです。名作パロディーやファンタジーなどが中心です。

お話を作るのが大好きで、こっそり書き溜めていたのですが、夫と子供に見せたところ、面白いからブログに載せたら、と言われて、思い切って作っちゃいました。 重い話はありません。 楽しいショートストーリーが中心です。 お茶でも飲みながら読んで欲しいです。

りんさん
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2009/11/29

1件〜100件

  • 元妻1号

    元夫が、4度目の結婚をしたらしい。 懲りない男だ。どうせまた別れるに決まっている。 私は最初の妻だ。浮気を繰り返す夫に辟易して3年で別れた。 2番目の妻と、3番目の妻とは、たまに連絡を取り合っている。 同じ男と離婚した者同士。友達とは違う、不思議な関係だ。 私たちは、1号・2号・3号と呼び合っている。 2号は離婚しても、彼と仕事上のつながりがある。 3号は離婚しても、彼と同じ町内に住んでいる。 4度目の結婚の情報も、彼女たちから教えられた。 「で、今度はどんな女なの?」 居酒屋で、ビール片手に二人に訊いた。 「24歳らしいですよ。4号さん」 3号が言った。 「彼の秘書をしていたらしいわ。割と優秀みたい」 2号が言った。 「そんな若い女と? まるで親子じゃないの」 「でも、彼は若く見えるから大丈夫よ」 「そうですよ。一度見たけど、お似合いでしたよ..

  • 雨とカエルとワイパーと

    午後から降り出した雨は、時間を追うごとに強さを増した。 まるで暴力だ。「これでもか」と、フロントガラスを叩き続ける。 ふと見ると、ドアミラーにカエルがしがみついている。 必死だな。こんな暴風雨に耐えながら、踏ん張って生きている。 逆境に強いんだな。尊敬するよ。 ワイパーは忙しなく同じ動きを繰り返す。 働き者だ。僕の視界を確保するために、文句も言わずに動き続ける。 えらいな。不満だらけの僕とは大違いだ。 信号が赤になって、ワイパーを休ませた。 たちまち雨で視界が歪む。滝の中にいるみたいだ。 こんな雨の国で、カエルと暮らすのも悪くない。 クラクションを鳴らされた。 ああ、信号が青に変わったのか。 アクセルを踏んで、ワイパーを動かした。 その途端、ワイパーが何かを弾いた。 カエルだ。いつの間にか、カエルがドアミラーからワイパーの上に移動していた。 ..

  • おとぎ話(笑)30

    かさ地蔵 おや、峠の地蔵さんがノーマスクだ。 感染したら大変じゃ。 予備のマスクを持っているから掛けてあげよう。 あれ、1つ足りない。 仕方ない。わしのマスクを外して…… 「それだけは勘弁してくれ」 アリとキリギリス 「頼むよ。食べ物を分けておくれよ」 「いやだよ。夏のあいだ遊んでいた自分が悪いんじゃないか」 「そう言わずに。一匹でいいからさ」 「一匹? キリギリスさんは何を食べるの?」 「アリ」 「………」 赤ずきん 「やあ、赤ずきんちゃん。森の奥にきれいなお花が咲いてたよ。摘んでおばあちゃんのお見舞いにしたらどうだい?」 「ありがとう。オオカミさん」 さて、ここで問題です。 オオカミは、ここで赤ずきんを食べることも出来るのに、なぜ食べなかったのでしょう。 A:そこまで空腹じゃなかった。 B:おばあさんも食べ..

  • 傘の小さな物語

    私は傘。どこにでも売ってるビニール傘よ。 今、電車に乗っているの。いったいどこまで行くのかしら。 別に乗りたくて乗ってるわけじゃないけどね。 持ち主さんは、私を置いて電車を降りちゃった。 忘れられたの。無理もないわ。雨がやんだから必要なくなったのよ。 終点で駅員さんに回収されると思ったら、そのまま折り返し運転。 私はドア近くのシートの隣に掛けられたまま、来た道を戻っている。 途中の駅で乗ってきた紳士が、私の隣に傘を掛けた。 わあ、バーバリーの傘だ。とても高そう。 「こんにちは。となり、失礼します」 「まあ、ご丁寧なお方。やっぱりブランド物はちがうわ。こんな、どこにでも売ってるビニール傘に話しかけてくれるなんて」 「ブランドなんて関係ないですよ。僕たちの役目は、持ち主が雨に濡れないように守ることです。みんな同じ目的で作られたんですから」 「立派な考えね。持ち主..

  • 優しいライオン

    休日は動物園に行く。家族連れに混ざって、さえない中年男がひとり。 目指すのは、ライオンだ。僕はライオンの檻の前で数時間を過ごす。 ライオンは静かな深い瞳で、僕の話を聞いてくれる。 僕にはわかる。このライオンは父の生まれ変わりだ。 売れない画家だった父は身体が弱く、志半ばでこの世を去った。 僕が15のときだった。 父はいつも言っていた。 「生まれ変わったらライオンになりたい。誰よりも強く逞しいライオンになりたい」 初めてこのライオンに会ったとき、懐かしさを感じた。 このライオンは、父の生まれ変わりだ。 目が似ている。穏やかでどこか悲しみを含んだ目だ。 そして何より、父が描いたライオンの絵にそっくりなのだ。 「ねえ父さん。僕も父さんみたいに好きなことを仕事にしたかった。毎日満員電車で会社に行って、上司と後輩に気を遣い、家に帰れば妻の愚痴。子どもの教育費がどう..

  • 散り際の桜

    「桜は散り際が美しい」 彼がそう言った時、私は口をとがらせて反論した。 「それって嬉しくないと思うわ。年老いて死にそうな女に、今がいちばんきれいだと言ってるのよ。絶対ありえないでしょ。そんなこと」 「まったく君は風情がないな。いちいち人間に置き換えることはないだろう」 何もかもが正反対だった私たち。よく4年間も付き合ったものだ。 大学を出た後、私は東京で就職して、彼は地元で家業を継いだ。 それっきり会っていないのに、彼のことを思い出すなんて。 きっと桜が満開だからだ。 定年まで勤めあげた会社を辞めた途端に病気が見つかって、ここ10年、入退院を繰り返している。 気ままな一人旅でもしようと思っていたのに、神様は意地悪だ。 家族もいないし、いっそケア付きの施設にでも入ろうかと考えて、見学に来た。 静かな海辺の街、庭には見事な桜の木が並んでいる。 ここで、遠い昔の恋を思..

  • 猫の恋

    「ねえ、パルくん。猫の恋って春の季語なんだって」 菫ちゃんが僕の背中を撫でながら言った。 この前まで漫画しか読まなかったのに、歳時記なんか買って来た。 「パルくんは去勢しているから、恋はしないよね。なんか可哀想だな。恋を知らずに一生を終えるなんて。あっ、一句浮かんだ」 ― 縁側に 並んだ二匹 猫の恋 ― なんじゃそりゃあ。小学生か。 僕を膝に乗せて、作った俳句を読んで聞かせるんだけど、これがまあ、交通安全の標語みたいな迷句ばかり。聞く方の身にもなってよ。 きっかけは、アパートの隣に越してきて大学院生だ。 大学で俳句の研究をしている彼に、菫ちゃんはひとめぼれ。 すっかりのぼせているというわけだ。 「ねえ、パルくん。今度彼を夕食に誘おうと思うの。恋は胃袋からって言うじゃない」 菫ちゃんは、こう見えて料理はかなりの腕前だ。 今はカフェで働いているけれど、い..

  • ぼくの右くつ・左くつ

    ぽっかぽかの春。こいのぼりが風をはらんで、ゆうゆうと泳いでいる。 ひごいとまごいが全部で七匹。すごいなあと見ていたら、いきなりドボン。 やっちゃった。水を張った田んぼに、右足がズボっとはまちゃった。 まるで底なし沼みたい。足が泥に埋まって抜けない。 通りかかったおじさんに助けてもらってようやく抜けたけど、その拍子に泥の中でくつが脱げちゃった。 おじさんがさおで「どれどれ」と探ってくれたけど、くつはとうとう見つからなかった。 ぼくは半泣きで帰った。お気に入りのくつだったんだ。 「新しいくつを買うしかないねえ」 お母さんは困り顔。お父さんは大笑い。ぼくはがっかりしながら頭をかいた。 その夜のことだ。玄関先で泣き声がした。シクシクシクシク。 そうっとのぞくと、ポツンと残された左のくつが泣いていた。 「なあ、あんた。うちら二つで一足なのに、相方がいなくてどうしたらええ..

  • おじいちゃんの日常

    「梅はな、花だけじゃないんだぞ。この枝ぶりを見るのも楽しみだ。見ろ、この曲線の美しさ。桜はドーンと大きな木に、これでもかというほど花が咲く。だけど梅は違う。どこか儚げが気がしないかね。気品があると思わんかね」 おじいちゃんは、同じ話を何度もする。 それ、さっき聞いた。3回め。ウンザリだけど顔には出さない。 「そうだね、おじいちゃん」と言って、手を引いて歩き出す。 「風が出てきたよ。もう帰ろう」 「そうだな。ああ、そうだ、美穂子。まんじゅうを買っていこう。今日は客が来る」 「客なんて来ないよ。たしか家にどら焼きがあったよ」 「そうか。じゃあ帰ろう」 ちなみに私の名前は美穂子じゃない。美穂子は私の叔母さんの名前。 おじいちゃんが町の相談役をやっていたころは、毎日のように誰かが来ていた。 だけど2年前、おじいちゃんが認知症になってからは誰も来なくなった。 あんなにしっか..

  • 先祖代々のおひなさま

    私の家には、立派なお雛様がありました。 先祖代々引き継いだ、7段飾りのお雛様です。 我が家は昔から女系家族で、なぜか一人娘しか生まれない家でした。 だから母も祖母も曾祖母も、婿を迎えて来たのです。 「あなたもお婿さんをもらって、この家とお雛様を守るのよ」 ずっとそう言われて育ったので、私もそう思っていました。 しかし突然異変が起きました。弟が生まれたのです。 両親も祖父母も大喜びです。毎日祭りのような騒ぎでした。 ピカピカの五月人形が飾られて、この家を継ぐのは弟だと言われました。 甘やかされて育った弟は、小学生になると「広い部屋が欲しい」と言い出しました。 両親は、奥の座敷を改装して、弟の部屋にすると言うのです。 「えっ、じゃあ、お雛様はどこに飾るの?」 「お雛様はもういいわ」 「だって、毎年出していたのに、お雛様が可哀想よ」 「いい加減にして。高校生に..

  • コロナを知らない子どもたち

    「大人って、いつも同じ話をするよね」 「あー、するする。あなたが生まれたときは大変だったのよ~って、その話ばっかり」 「そうそう、コロナ禍だったから、誰も病院に来れなくてひとりで産んだって話」 「うん。入院中も心細かったって話」 「あのときの子が、もう14歳だなんて、って言いながら涙ぐむんだ」 「あー、うちも同じ」 「田舎のおばあちゃんにやっと会わせたのは2年後だった、とかね」 「あと、旅行に行けなかったとか、パパが家で仕事していてウザかったとか」 「そうそう、ママたちが集まるとその話ばっかり」 「コロナを知らないあなたたちは幸せなのよ~って、必ず言うよね」 「そりゃ知らないよね。赤ちゃんだったんだから」 「あとさ、先生も何かにつけてコロナ持ち出すよね」 「ああ、修学旅行も遠足も行けなかった話ね」 「卒業式や入学式が普通に出来るのはありがたいことだって言うけど..

  • ディナー

    私の彼は、深い緑色の目をしている。背が高くて、誰もが振り向く異次元の美青年。 家族と一緒に日本に移住して一年になる。 道に迷った彼を助けた縁で、交際が始まった。 素敵な人だけど、たった一つ難点がある。 彼とは、食の好みが全く合わないのだ。だから一緒に食事をしたことがない。 外国人だから、私たちの食事は口に合わないのだろう。 食事時には必ず家に帰るので、デートの時間はせいぜい4,5時間だ。 私は、思い切って言ってみた。 「あなたと一緒に食事がしたいの。あなたと同じものを私も食べるから、家に招待してくれないかしら」 「本当にいいのかい? 僕たちの食事は、きっと君の口には合わないよ」 「いいの。あなたが好きなものは、私も好きになりたいの」 「ありがとう菜々子。今夜母さんにご馳走を作ってもらうよ」 緊張しながら、彼の家に行った。 彼の両親と高校生の妹が、流暢な日本語で..

  • おとぎ話(笑)29

    <舌切りすずめ> 舌を切られたすずめを助けたおばあさんは、すずめのお宿に招待されて、たいそうなもてなしを受けました。 「おばあさん、お土産です。大きなつづらと小さなつづら、どちらがいいですか」 「あら、ご馳走になった上にお土産までくれるの? どうしましょう。じゃあ、大きい方をもらおうかね。大は小を兼ねるから」 「えっ、大きい方?」 「(ひそひそ)予想外だ。謙虚なおばあさんが大きい方を選ぶなんて」 「(ひそひそ)どうしよう。大きい方にはお化けやヘビが入っているのに」 「それからね、悪いけど、箱は邪魔になるから中身だけもらえないかね」 「な、中身だけ?」 「(ひそひそ)どうする?ここで開けたら大変なことになる」 「(ひそひそ)困ったな。想定外だ」 「(ひそひそ)現金渡して帰ってもらおう」 <かさ地蔵> 夜 「おじいさん、誰か来ましたよ」 「..

  • GO-TO鬼ヶ島

    どうも。鬼です。そうです。昔話に出てくる角が生えた鬼です。 私たちは昔、人間に退治されました。それ以来、人里離れた小さな島でひっそりと暮らしていたのです。 しかしあるとき、命知らずのユーチューバーがやってきて、私たちにカメラを向けました。 「伝説の鬼ヶ島は実在しました~!本物の鬼がいま~す」 そう言って、私たちの動画をネットで流したのです。 人間たちがうじゃうじゃやってきました。鬼ヶ島行きの定期船まで出る始末です。 私たちは戸惑って怯えました。 何しろ人間は怖いものだと教えられて育ちましたから。 しかし人間は、手土産に酒や食べ物をくれました。 それを目当てに独占インタビューに答える鬼も出てきました。 特に害はないので、これも時代かな~なんて思っていました。 ある日、大企業の営業マンがやってきました。 「この島に、鬼のテーマパークを造りませんか。たくさんの鬼の..

  • コタツ沼

    家に帰ると、妹の冬美が丸くなってコタツで寝ていた。 「ネコかと思ったよ。仕事見つかった?」 「あー。いちおう求人サイト見てるけど~」 「焦らなくていいけどさ、ちゃんと探しなよ」 冬美は、勤めていたショップが閉店して無職になった。 一緒に暮らしていた彼氏とも別れ、今は私の家に居候中。 可哀想だと思うけど、かれこれ2か月もこの状態。 1日中、コタツの中でゴロゴロゴロ。 さすがの私もイラっとしてきた。 「コタツが難だね」と、同僚が言う。 「コタツはダメだ。人間をダメにする。コタツの中は底なし沼だよ」 「なるほど」と思って、コタツを撤去した。 「何するの、お姉ちゃん。寒いじゃん」 「あんたね、一日中コタツの中にいるでしょ。見てごらん、スマホにペットボトルにリモコンに雑誌にパンにゴミ箱。コタツから出なくてもいいように、全部周りに置いてるでしょ」 「やだなあ、お..

  • お知らせ(日本動物児童文学賞)

    日本動物児童文学賞で、優秀賞をいただきました。 受賞したのは去年ですが、作品集がようやく届きました。 大賞1点と、優秀賞2点が掲載されています。 日本獣医協会が主催で、テーマは「動物愛護」です。 私は猫の話を書きました。 家族同様に過ごした猫を看取り、一年後にお墓参りに行くお話です。 モデルは愛猫のレイちゃんです。(レイは2歳だからまだまだ元気だけど) やっぱり近くにモデルがいると、リアルな話が書けますね。 たくさんの作品の中から、私の作品を選んでいただけて嬉しかったです。 コロナで授賞式がオンラインになってしまったのは残念でしたが。 これは作中の挿絵ですが、レイがモデルです。 ほら、似てるでしょう(笑) また良い報告が出来るよう、頑張ります。

  • お年玉強盗

    1月3日のことである。 おばあさんの家に、4人の孫がやってきた。孫は男ばかりである。 毎年揃って顔を出し、お年玉をもらうのだ。 孫といっても20歳を過ぎた大人だが、もらえるものはもらいたい。 しかしおばあさんは、正月早々浮かない顔をしている。 「実は、昨日空き巣に入られて、お前たちのために用意したお年玉を盗まれたんだ」 「何だって?」 「警察には行ったの?」 「行ってないよ。だってさ、お前たちの中に犯人がいるかもしれないから」 孫たちは思わず顔を見合わせた。 「何言ってるの?俺たちを疑ってるの?」 「昨日防犯カメラに映っていたんだよ。1月2日の13時20分に、合鍵を使って家に入る誰かがね」 おばあさんは、昨日老人会の仲間と初詣に行った。 それを知っているのは、近所に住む二人の娘夫婦と孫たちだけ。 娘たちの家には、おばあさんの家の合鍵がある。 防犯カメラに映..

  • 地獄か天国か

    天国に行くか地獄に行くか。 裁かれるのは一人の男。 天国代表の裁判員に選ばれてしまった私は責任重大。 だって、彼の来世がかかっているんだもの。 地獄側の検察官が、男の様々な悪事を並べ立てる。 窃盗、詐欺、障害事件、暴力沙汰。 相当な悪人だ。地獄行きは、ほぼ確定ね。 そして次に、天国側の弁護士が登場した。 「どうせ地獄だろ。早く終わらせてくれ」 男が悪態をついている。 バカね。閻魔裁判長の印象が悪くなるのに。 「今からあなたが行った善行を申し上げます。善行が悪行に勝れば、天国に行ける可能性はありますよ」 弁護士はそう言ったけれど、悪行の方が多いに決まっている。 まあ、聴くだけ聞いてやろう。 「1972年、あなたが小学一年生のとき、となりの席の女の子にクレヨンをあげましたね。名前はゆみこちゃん。ゆみこちゃんは青のクレヨンがなくて空が塗れないと泣いていて、..

  • カレンダーの声

    あっ、どうも。 私は2022年のカレンダーです。 筒状に丸められて、部屋の隅で出番を待っているところです。 信用金庫のカレンダーです。 数字が大きくて見やすい、書き込み式のカレンダーです。 隣の奴は、保険会社が持ってきた花の写真のカレンダーです。 六曜もないし数字も小さいですが、写真だけはきれいなので女子人気ナンバーワンです。 その隣は酒屋でもらったカレンダーです。 着物姿の女優さんが写っています。 女優メインで、日付など横にズラズラと並んでいるだけです。 しかしどの月も美人ぞろいなので、殿方に人気です。 そのまた隣はイヌネコカレンダーです。ガス屋が持ってきました。 イヌネコは人気ですね。子犬と子猫さえ載せとけば、好感度抜群ですからね。 カレンダーとしての意味は薄いかもしれませんけどね。 あとは日本の庭園カレンダー。住宅メーカーが持ってきたものです。 まあ..

  • クリスマスお茶会のお誘い

    もぐらさんが開催している「クリスマスお茶会」へのお誘いです。 素敵な朗読ブログです。 私の「サンタクロース・ハナ」も朗読していただきました。 ぜひ、お茶会の扉を開いてみてください。 なんと、タダです(笑) http://mogura-tearoom.seesaa.net/article/484917657.html

  • 飽食の時代

    きのう、冷蔵庫で賞味期限切れになった食材を捨てました。 まだイケるかな、と思ったけれど、まあいいか、と捨てました。 うっかり食べるのを忘れたパンが、かびていたので捨てました。 買ったことさえ忘れていました。 知人から頂いたお漬物が辛すぎて口に合わず、仕方がないので捨てました。 ごめんなさいと呟いてから捨てました。 ファミレスで頼んだ料理が食べきれなくて残しました。 ご飯を3分の1くらい残しました。 そのくせデザートのアイスクリームはぺろりと食べました。 今の私をあなたが見たら、きっと眉をひそめるでしょうね。 食べ物がなくてやせ細って、死んでいったらあなたが見たら。 でもね、もしもあなたが生きていたら、私と同じことをするでしょう。 だってね、これが当たり前になっているんだもの。 飽食の時代よ。 こんな時代が来るなんて、あなた想像できた? ..

  • プレゼント交換

    幼いころ、クリスマスに友達とプレゼント交換をしていた。 缶バッチやマンガ本といった他愛のない物だ。 しかしその友達は、遠い北の国に行ってしまった。 もう何十年も会っていない。 携帯でもあれば連絡を取り合っただろうが、あいにくずいぶん昔の話だ。 携帯はおろか、エアメールの送り方さえ知らなかった。 遠い昔の話だが、クリスマスになると何故か彼を思い出す。 私はプレゼント交換をやめなかった。 恋人とプレゼントを交換し合い、妻と交換し合い、子どもと交換し合った。 そして今は、5歳になる可愛い孫とプレゼント交換をしている。 今年のプレゼントは、折り紙で作ったサンタクロースだ。 私からは長靴に入ったお菓子をあげた。 「タツヤはサンタさんに何をお願いしたんだい?」 「あのね、恐竜の図鑑にしたの。ぼく、恐竜が好きだから」 「そうかい。届くといいね」 「絶対届くよ。だってサン..

  • サンタとトナカイ

    「おはようございます。サンタさん。雪かきをしておきました」 「ありがとうトナカイくん。しかしわしはもうサンタじゃないよ。もう引退したんだから」 「ほかの呼び方を知りません」 「じいさんでも、クソジジイでも、好きに呼びなさい」 「滅相もない。あなたは私にとって偉大なサンタクロースです」 「嬉しいね。しかしトナカイくん、君まで辞めることはなかったんじゃないか? まだ若いのに」 「いいえ、あなた以外のサンタクロースと仕事をする気にはなりません」 「そうか。君は実によくやってくれたな。何かプレゼントを贈ろう」 「ありがとうございます」 「そうだ。イブの夜にプレゼント交換をしよう。今まで配るばかりでもらったことがない。トナカイくん、イブの夜にうちに来なさい。何がいいかな。金の鈴がいいかな」 「そんな高価なものを戴けませんよ」 「あげるんじゃないよ。交換するんだ。君もプレゼントを..

  • 影がないのは

    放課後、いつものようにユウ君と待ち合わせをした。 同じ方向だから、一緒に帰ることになっている。 五月の木漏れ日がキラキラ光るケヤキの下で、ユウ君はぼくを待っていた。 「ユウ君ごめんね。そうじ当番でおそくなっちゃった」 「別に平気だよ。さあ帰ろう」 ぼくたちは、並んで歩き始めた。ユウ君は、何だか少し元気がなかった。 の葉っぱが反射しているせいか、ちょっと顔色も悪い。 確かにユウ君なのに、何かがちがうような、不思議な感じがした。 「ユウ君、クラスで何かあった?」 ぼくたちは、二年生になってクラスが離れてしまった。 ユウ君のクラスには、いじめっ子がいるのかもしれない。 先生も、ちょっと怖そうだ。 ユウ君はおとなしいから、何かひどいことをされているのかもしれない。 「別に何にもないよ。ちょっとお腹が空いているだけさ。サトシ君は優しいね」 ユウ君が笑った。いつもの笑顔..

  • 自己紹介

    みなさま、初めまして。 どうでしょう。こうしてバスに乗り合わせたのですから、自己紹介などしてみませんか。では、まずは私から。私は、ガイドのタカギと申します。 そしてこちらが運転手のツヤマでございます。 私共、誠意をもってみなさまを無事に目的地までお連れすることをお約束いたします。 さあ、本日の乗客は4名様でございます。では前の方から順番に自己紹介をお願いします。 「初めまして。ヤマダです。17歳です。初めて参加しました」 「初めまして。スズキでございます。62歳です。初めて参加しました」 「おれ、キノシタ。52歳。初参加。……っていうかさあ、初めて参加するに決まってるだろう。いちいち言う必要ある?」 「私は、あっ、初めまして。スドウです。29歳です。私は、二回目です」 「えっ、あんた二回目?」 「はい。前回、失敗してしまいまして」 「はあ? 失敗することなんかある..

  • ここ掘れワンワン

    僕は、かの有名な「花咲かじいさん」の子孫だ。 先祖代々この土地に住み続け、白い犬を飼うことが習わしになっている。 「花咲かじいさん」を読んだ人はご存じだと思うが、犬が「ここ掘れワンワン」と吠えるところを掘れば、お宝がザックザック出てくるのだ。 おじいちゃんのときは金塊を掘り当てた。 お父さんのときは一等の宝くじを掘り当てた。 そうしてこの家は、常に繁栄してきたのだ。 しかし僕は、犬が嫌いだ。幼いころに噛まれてから、見るのも怖い。 「仕方ないね。あんたは犬の力を借りずに慎ましく生きなさい」 両親に言われた通り、僕は慎ましく生きた。 気づけば40手前で独身だ。資産を増やすことは無理でも、子孫だけは残したい。 そんなある日、隣のアパートに美人が引っ越してきた。 アパートといっても一戸建てで、そこの住人とは、先祖代々相性が悪い。 「花咲かじいさん」を読んだ人はご存じ..

  • ハロウィンの夜

    じいちゃんが、カボチャをくりぬいてランタンを作った。 三角の目に、大きな口。不気味な顔だ。 「もうすぐハロウィンだ。知ってるか、和也。ハロウィンには死者の霊が帰ってくるんだ」 「そうなの?」 「ああ、だからな、ばあさんが帰ってくるように、ランタンを作ったんだ」 じいちゃんがそう言って、カボチャのランタンにろうそくを灯した。 「ステキね。そういえば、このカボチャ、おばあちゃんに似てるわ」 「本当だ。こんな目でよく笑っていたな」 お母さんとお父さんは嬉しそうにランタンを見ていた。 だけど僕には、お化けカボチャにしかみえない。 おばあちゃんの顔なんか、よく憶えていない。 ハロウィンの夜、玄関先にカボチャのランタンを灯した。 「おーい和也、ご飯だぞ」 呼ばれて階段を降りると、居間から賑やかな笑い声が聞こえる。 テーブルにはいつもより豪華な夕飯が並んでいる。 そして..

  • おとぎ話(笑)28

    <一寸法師> 「ばあさんや、ワシのお椀を知らんかね」 「ああ、一寸法師の船にしましたよ。ちょうどいい大きさだったから」 「ばあさんや、ワシの箸がないんじゃが」 「ああ、一寸法師の船の櫂にしましたよ。櫂がなきゃ漕げないでしょ」 「ばあさんや、ワシのごはんは?」 「ああ、一寸法師のおにぎりにしましたよ。小さくてもいっぱい食べるから」 「ばあさんや、ワシも旅に出る」 <白雪姫> 「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」 「お答えします。それは白雪姫です」 「なんだと。生きているのか?」 「はい、白雪姫は森で7人の小人と暮らしています。小人の職業は木こりです。働き者です。名前は、ドッグ、グランピー、ハッピー、スリーピー、バッシュフル、スニージー、ドーピーです。年齢不詳ですが、ひげや服装から考えて、若くはないでしょう。小人たちは7人で一緒くたにされていますが、よ..

  • 故郷に帰る骨

    電車内はひどく混み合っているのに、四人掛けのボックス席を占領している。 それは恐らく私が黒い服を着て、膝に白い骨箱を乗せているからだ。 遠慮して誰も座らない。 申し訳ないような気持ちで母の遺骨を抱いていた。 母の故郷に向かっている。 病気になっても我儘ひとつ言わなかった母の唯一の願いが、「遺骨は故郷の寺に預けてほしい」というものだった。 先に逝った父と同じ墓に入ると思っていた私は、とても驚いた。 「骨になって故郷に帰ることは、ずっと前から決まっているの。きっとお父さんも許してくれるわ。だからお願い」 母は、やせ細った手を合わせて懇願した。 終点が近づくにつれ、乗客はまばらになってきた。 小さな駅で乗り込んできた老人が、迷わずに私の前に座った。 座るなり老人は「遠山の静子ちゃんだろ」と言った。 私にではなく、母の遺骨に向かって話しかけている。遠山静子は母の旧姓..

  • ショック!

    僕が学校から帰ったら、ママが落ち込んでいた。 好きなアイドルが結婚を発表したからだ。 「ああ、ショックだわ。この喪失感を何で補えばいいの?」 アイドルと結婚できるとでも思っていたのか。 そもそも自分も結婚しているじゃないか。 ママのために独身を貫けとでも言うのか? 「相手は一般人って言うけど、嫌な女だったらどうしよう。ママ友相手にマウント取りにいくようないけ好かない女だったら最悪よ」 一生関わることがいない人に対して、よくそこまで言うなあ。 ママが好きなアイドルが選んだ人なんだから、それでいいじゃん。 「ああ、ショック。今日は人生最大のショックだわ」 「ママ、ショックなのはわかるけど、晩ごはん作った方がいいんじゃない。そろそろパパが帰ってくるよ」 「ああ、そうね。そうよね。どんなにつらくても、不思議とお腹がすくわ」 パパが帰ってきた。 ママは少し落..

  • 「ただいま」「おかえり」

    妻と別れて、アパートで独り暮らしをしている。 年金暮らしの老人だ。 わびしい暮らしの中にも、楽しみはある。 隣から聞こえる微笑ましい会話だ。 隣の部屋は母と娘のふたり暮らしだ。 娘は、まだあどけなさが残る中学生だ。 母親は8時に家を出て4時半に帰ってくる。 娘は部活を終えて5時半に帰る。 「ただいま」 「おかえり」 「お腹空いた。ごはん何?」 「今からカレーを作るところ」 「じゃあ私、ジャガイモ剥くね」 こんな会話が聞こえてくる。何とも幸せだ。 私の家も母だけだった。 もっとも母は夜遅くまで働いていたから、「おかえり」を言うのは私の方だった。 おかずは少なくて、水みたいに薄い味噌汁だったが、今となっては懐かしい。 「部活でレギュラーになれそう」とか、「新しい先生がカッコいい」とか、娘ははしゃぎながら話す。 母親は、どんなに疲れていてもきち..

  • 浦島太郎はなぜ?

    「浦島太郎はなぜ玉手箱を開けてしまったのか」 今日は、このテーマで話し合いをします。 では、各グループに分かれて、話し合ってください。 Aグループ 「お腹が空いたんじゃない?」 「あー、わかる。玉手箱って、お弁当箱と似てるもんね」 「豪華な弁当って感じだな」 「あー、お腹空いちゃった。ねえ、遠足のお弁当って何がいい?」 「玉子焼きとウインナーは必須でしょ」 「のり巻きもいいな。中がお花になってるの」 「でもやっぱり、定番はアレでしょ」 「あー、アレね」 Bグループ 「捨てようと思ったんじゃない?」 「あー、ずっと持ち歩くの、邪魔そうだよね。でも何で開けるの?」 「中身確認しなきゃ。ちゃんと分別しないと、条例違反になるだろ」 「そうか。プラスチックかな?」 「あんな昔にプラスチックなんかないよ。木だよ」 「じゃあ燃えるゴミ?」 「でも、海の中..

  • 幕が上がると

    幕が上がると、いつも母の姿を探した。 最初は幼稚園のお遊戯会だ。 私はピンクのドレスを着た花の精だった。その他大勢の中のひとりだった。 それでも母は大きな手拍子をして、私だけを見ていた。 小学校の合唱祭も、中学校の演奏会も、母は欠かさず来てくれた。 最前列を陣取って、上手く出来ても出来なくても、惜しみない拍手をくれた。 「藍子が一番可愛かった」「藍子が一番上手だった」「藍子の声が一番聞こえた」 絶対にそんなことはないのに、帰るといつも褒めてくれた。 父の記憶はあまりない。殆ど家にいなかったからだ。 たぶんよそに女の人がいたのだと思う。私が中学に上がる前に離婚して、私の顔も見ずに出て行った。父の記憶がない分、母の笑顔と拍手はいつでも鮮明に思い出せる。 心の中に「母」と書かれた特別な引き出しがあるのだ。どんなときでも引き出せる。 高校では演劇部に入った。舞..

  • キューピットのお仕事

    私はキューピットです。人間を結婚まで導くのが仕事です。 遠距離恋愛担当、略して「遠坦」です。 職場恋愛担当(職坦)や、婚活担当(婚坦)だったらもっとポイントが稼げるのにと、思うことは少なくありません。 だけど、やりがいはあります。 距離や寂しさに負けず頑張るカップルを応援するのは、とても有意義です。 今回のターゲットは、東北支社に異動になった中田ナオキ君と、本社勤務の大沢さおりさんの遠恋カップルを結婚させるのが仕事です。 本社の職坦キューピットから引き継ぎました。 この二人は、離れても順調に愛をはぐくみました。 毎日の電話、月に一度の逢瀬、2年の地方勤務の後、結婚させるのは難しくないと思っていました。 ところがそこに、突然現れた東北支社の新入社員、野村ヒカリ。 東京に彼女がいると知りながら、ナオキ君にグイグイ迫ります。 後ろに誰かいるなと思ったら、やはりいました。..

  • 不夜城

    「お客さん、終点ですよ」と肩を叩かれて飛び起きた。 終点だって?  仕事を終えて最終電車に乗り込んで、珍しく座れたから眠ってしまった。 よほど疲れていたんだろう。何しろこのところ、毎日残業だ。 ホームに降りたのは私だけだ。 乗客もいなければ駅員もいない。無人駅か? 自動改札もなく、切符を入れる木箱が置いてある。今どき切符など持っていない。 仕方なく改札を抜けて外に出た。生暖かい風が不快だ。 何もない。店もなければタクシーもない。 始発まで駅のベンチで待つしかないと思ったとき、若い女が現れた。 「おじさん、乗り過ごしちゃったの?」 「ああ、そうなんだ。すっかり寝てしまって。この辺りに、泊まれるところはあるかな。ビジネスホテルかネットカフェ。朝までやってるバーでもいいけど」 女は、値踏みするように私を見た後「あるよ」と言って歩き出した。 スナックの女か? 現金..

  • 作文が書けません!

    ああ、なんてことだ。 夏休みがもうすぐ終わるのに、作文の宿題が終わらない。 計画的に物事を進めることをモットーに生きて来たのに、11年間の人生で一番の不覚だ。 去年はおばあちゃんの家に行って、虫取りと川遊びという小学生男子ならではの視点を重視した作文で銀賞をもらった。 その前は初めての海外旅行で得た異文化との触れ合いを、子どもらしくまとめて金賞をもらった。 その前は……。まあいい。過去の栄冠に浸るのはこのくらいにしよう。 「お母さん、作文が書けません」 「まあ、珍しいわね。秀ちゃんが宿題のことでママに相談するなんて」 「お母さん、ママと呼んでいたのは6歳までです。秀ちゃんという呼び方も、いい加減やめてください。僕は秀一です」 「いいじゃない、どうだって。それで、どうして書けないの?」 「どこにも出かけていないからです。コロナで緊急事態宣言が出て、外出を自粛しているか..

  • 人魚の娘

    八十吉さんは、人魚を助けたことがあるそうだ。 岩場にきれいな虹色のうろこが見えて、近づいたら人魚だったそうだ。 「まだ子どもの人魚でなあ。海に帰そうと思ったら腕に怪我をしてたんだ。それで手当てをして、しばらく家の生け簀で泳がせてたんだよ」 八十吉さんは80過ぎのおじいさんだ。この病院に入院して、2か月ほどになる。 ボケてるわけではないけれど、時々おかしなことを言ったりする。 「相手にしちゃダメよ」と婦長は言うけれど、私は八十吉さんの人魚の話が好きだった。だからこうして、婦長の目を盗んで八十吉さんの病室に来ている。 「八十吉さん、続き聞かせて」 「またあんたか。怖い婦長に叱られるぞ」 「いいの。休憩時間だもん。ねえ、怪我が治った人魚を海に帰した後、何があったの?」 「ああ、あの後な、そうだな、10年くらい経ったころだな。海で釣りをしていたら、あのときの人魚が海からぽっか..

  • ビニールプールとスイカとビール

    水しぶきを上げながら、3歳の香帆が全力で遊んでいる。 「子どもはいいなあ」と言いながら、隆一がホースで虹を作った。 芝生の上のビニールプール。 幼い笑い声が垣根を越えて空に響く。 これが幸せの縮図というものか。 「スイカ切ろうか?」 「おっ、いいねえ。夏だねえ」 いつも以上に隆一がはしゃいでいる。 「お迎え何時?」 スイカを食べながら、隆一が訊いた。 「遅くなると思う。たぶん香帆が寝てからじゃないかな」 「起こして連れて行くのか。可哀想だな」 「仕方ないわよ。あの子も色々あるのよ」 香帆は、妹の子どもだ。 妹の久美子はシングルマザーで、働きながら香帆を育てている。 たまに私たち夫婦に預けて遊びに行く。 子どもがいない私たちにとって、香帆は娘みたいな存在だ。 「久美ちゃん、遅くない?」 時計の針は、午後9時を回っている。 「電話しても出な..

  • 真夜中の仁義なき闘い?

    おじゃましま~す。 入るなと言われても入りますよ~。 何しろこっちも命がかかっていますからね。 わあ、この人間、丸々太っておいしそう。 足もお腹もぷにぷにだ。 いただきま~す。 ブチ、チュー あんまり健康的な血液じゃないな。 でもまあ、腹は満たされた。 「カール、助けて」 「レベッカ!フラフラじゃないか。どうしたんだ」 「人間にやられたわ。隣の部屋の女よ。いきなり両手でバチンですもの。身も蓋もないわ。まあ、すんでのところで逃げたけど」 「ひどいな。俺たち、人間よりずっと短い命なのに」 「本当よ。ワクチン注射は進んでするくせに」 「とりあえず栄養補給だ。この男の血を吸え。腕なんかどうだ?」 「ありがとうカール。やさしいのね」 「ボーフラの頃からの付き合いじゃないか」 「じゃあ遠慮なくいただきます」 「うわ、まぶた。そこ行く? 人間が一番嫌がるところ..

  • 廃墟潜入リポート

    ハルタが真夜中の廃墟に潜入して、戻らかった。電話も繋がらない。 昔病院だったというその廃墟は、近所では有名な心霊スポットだ。 「本当に出るから、1人で行ってはいけない」と言われていた。 彼はユーチューバーだ。 「無謀なことに挑戦しなきゃ意味ないっしょ」と言いながら、スマホひとつ持って出かけて行った。 登録者数を増やして、就職を迫る父親に認めて欲しかったのだ。 翌日心配になって友達数人と廃墟に行った。昼間でも気味が悪い。 名前を呼びながら捜し歩いたけれど、どこにもいない。 「ハルタ、他に女がいるんじゃない?」 「そうそう、いいのが撮れてテンション上がって、女でもひっかけたか?」 「やめてよ。ハルタはそんな人じゃないわ。せっかく撮った動画をアップしてないのも変だし、絶対何かあったのよ」 「じゃあ逆に、何にも撮れなくて落ち込んで」 「飲み屋の女と……?」 「だからや..

  • 玄関先をお借りします

    夏の午後、ちょうど簡単な昼食を済ませたところに、チャイムが鳴った。 いつものようにインターフォンで応答すると、画面に一人の老婆が映った。 「ちょっとの間、玄関先をお借りしたいのですが。ひどく疲れてしまってね、休みたいけど日陰が全然ないものだから」 背中に大きな荷物を背負って、肩で息をしている。 気の毒になって「どうぞ」と言った。 うちの玄関先は低いブロック塀で囲まれていて、いい具合に腰かけられるようになっている。 その周りにはたくさんの樹木があり、ちょうどいい日陰になる。 「よいしょ」と腰を下ろす老婆は、しきりに汗を拭っている。 私は冷蔵庫からペットボトルの水を出して、老婆のところに持って行った。 「あらまあ、これはどうもご親切に。玄関先を借りた上に、お水まで頂けるなんて」 老婆は喉を鳴らして水を飲んだ。よほど美味しかったのか、何度も礼を言った。 「どちらまで行か..

  • ワイシャツになった朝

    「何日目ですか?」 ふいに尋ねられて横を向くと、話しかけているのはフード付きのパーカーだ。 「よく降る雨ですね。私はもう3日もこうして干されているんですよ。フードの部分がね、乾かなくてね」 「はあ」と俺は生返事をした。 ここは軒下だ。雨がしとしと降っている。 窓ガラスに映る自分の姿を見て驚いた。 ワイシャツだ。俺はワイシャツになっている。 「ワイシャツさんはいいですねえ。乾きが早いから。ジーンズさんなんか、かれこれ4日もあのままですよ。おっと、バスタオルが来ましたよ。ちょっと端に避けましょう」 僕とフード付きパーカーは端っこに追いやられ、真ん中に大きなバスタオルがやってきた。 「すみませんね、お邪魔します」 バスタオルを干しに来たのは妻だ。 ため息を吐きながら、恨めしそうに雨を見ている。 はて、どうして俺はワイシャツなのだろう。 昨日の出来事を、順を追って..

  • 七夕に会いたくて

    「おばあちゃん、今年はケンちゃん来ないの?」 奈々子は、お隣の縁側で日向ぼっこをするおばあさんの顔を覗き込んだ。 「ああ、そうだねえ。塾と野球で忙しいから来ないだろうね」 おばあさんは寂しそうに言った。 毎年七夕祭りの日に、隣の家に泊まりに来る健太は、奈々子と同じ10歳だ。 少し離れた大きな街に住んでいる。 おばあさんの家は大人ばかりでつまらないから、奈々子の家に遊びに来る。 お祭りも一緒に行く。 幼いころは別れるのが嫌で「帰らないで」と泣いたりした。 年に一度の楽しみなのに、健太が急に遠くなったみたいだ。 「ケンちゃん来ないのか。つまらないな」 奈々子は小石を蹴りながらとぼとぼ帰った。 家ではお母さんが笹飾りの用意をしていた。 奈々子は短冊に『ケンちゃんにあえますように』と書いて吊るした。 奈々子の願いが通じたのか、七夕の夜、健太は来た。 その日..

  • おとぎ話(笑)27

    <大きなかぶ> おじいさんが植えたかぶが、ビックリするほど大きくなって全然抜けません。 おじいさんに呼ばれて、おばあさん、孫、犬、猫、ネズミが加勢しました。 みんなで引っ張って、ようやくかぶは抜けました。 「おつかれさまでした。みんなありがとう」 「ばあさんや、お茶でも飲むか」 「そうですね。お茶にしましょう。ああ、腰が痛い」 「ところでおじいさん、このかぶはどうするんです?」 「そりゃあ食べるだろう。煮物、漬物、スープもいいな」 「誰がお台所まで運ぶんですか?」 「あ………」 <かぐや姫> 「おじいさま、おばあさま、私は月に帰ります」 「かぐや姫や、達者でな」 「おまえのことは、ずっとずっと忘れないよ」 「それは無理ですわ」 「なぜじゃ」 「私に関わった全ての地球人の記憶から、私の存在が抹消されるからですわ。そういうシステムになっ..

  • お化け屋敷に住んでみた

    ここはとても居心地がいいです。 朝から夜まで暗くて、1日中ひんやりしています。 時おり不気味な風が吹いて、人間の悲鳴がたくさん聞けるんです。 どこだかわかりますか? そう、遊園地のお化け屋敷です。 私たち幽霊にとって、この世はとかく住みにくいのです。 太陽はギラギラだし、人は多いし車も多い。 休める場所なんてないんです。 その点お化け屋敷は最高です。 万が一見えてしまう人がいても、大騒ぎにはなりません。 ある夜のことです。 閉園後のお化け屋敷に、数人の若者が入ってきました。 スマートフォンをかざしながら、ハイテンションで歩いてきます。 「ここは本物の幽霊が出るとウワサのお化け屋敷でーす。生ライブ中に幽霊が映るかもしれません。こうご期待!」 何でしょうか、この人たちは。遊園地の許可は取っているのでしょうか。 スマホの照明を照らしながら、ずんずん奥へ進んで..

  • 悲しい結末

    図書館に行く目的は、読書でも勉強でもない。ただ、あの子に会いたいだけだ。 坂の上にある女子高の制服だ。 艶のある長い髪とページをめくる細い指。 笑顔はスイートピーみたいに可愛くて、そこだけ光が射しているように輝いている。 僕はさえない高校生で、幽霊部員ばかりのパソコン部は中途半端、バイトは禁止で時間を弄んでいた。母に「勉強してこい」と追い立てられて行った図書館で、妖精みたいな彼女を見かけた。 一人のときもあれば、数人で来るときもある。 勉強したり本を読んだりしながら閉館まで過ごす。 僕はといえば、勉強も手に着かず、かといって漫画以外の本を読んだことがない。 ただただぼんやり、彼女を見つめる毎日だ。 雨の日曜日、図書館は静かだ。 今日の彼女は、袖にリボンがついた黒いブラウスと、くるぶし丈のジーンズを履いている。 私服もいい。カチカチとシャープペンシルを鳴らして、..

  • 未来の食卓

    私が幼いころ、母は誰よりも早く起きて家事をこなしていた。 「お母さん、朝から大変だね」と私が言うと母は笑いながら言った。 「何言ってるの。洗濯は洗濯機がやるし、ごはんは炊飯器が炊くし、お湯はポットが沸かしてくれるのよ。大したことないわ」 偉いなあ。私もお母さんになったら、母のようになりたいと思った。 そして今、私は二人の娘の母になった。 お母さんのようになりたくて、久しぶりに早起きをした。 「ママ、おはよう!どうしたの? 今日はやけに早いね」 「あら、リナちゃんおはよう。今朝はね、炊飯器でごはんを炊いたのよ」 「ゲッ!炊飯器なんて売ってたの? 家電ミュージアムでしか見たことないよ」 「アキバの古い電気屋さんで見つけたの。ちゃんと動くのよ」 「今どき炊飯器でご飯炊く家なんかないよ。ねえ、なんか焦げてない?」 「えっ? あらいやだ。お水入れるんだったわ」 「もう..

  • 捨てられちゃった

    捨てられちゃった。 飼い主さん、「元気でね」って車で走り去っちゃった。 ネコを捨てるのは犯罪よって訴えたけど、届かなかった。 ニャーとしか聞こえないから仕方ない。 飼い主さん、優しかったのは最初だけだった。 だんだんかまってくれなくなって、ごはんも1日1回になって、トイレ掃除もしてくれなくて、挙句の果てに捨てられた。 新しい飼い主さんを探さなきゃ。 でもわたし、もう子ネコじゃないし難しいかな。 あらいやだ。雨が降ってきちゃった。 アジサイの葉っぱの陰に隠れよう。 ああ、温もりが欲しい。 捨てられちゃった。 他に好きな人がいるって、何なのよそれ。 ずっと二股かけられてて、しかも私、2番目だった。 彼女にバレたからさよならって、あんまりだわ。 笑顔がいいって言ってくれたのに。 二股罪で死刑になれ。 考えてみたら、優しかったのは最初だけだったな。 記念日も..

  • 上から目線

    「初めまして」と自己紹介をするのも変な話ですが、私は地縛霊です。 三か月前に、この部屋で死にました。 上から目線ですみません。死んでからずっと、天井に張り付いているのです。 私はここから動けません。 ずっと待っていたのです。新しい住人が来て、私に気づいてくれることを。 あなたのように霊感がある方に出会えるなんて、きっと神の思し召しですね。 しかも元カレにちょっと似てる。好みのタイプです。 私ね、自殺したことになっているんですよ。 スマホに遺書を残して首を吊ったことになっているんです。 だけど違うんですよ。殺されたんです。だから成仏できないわけですよ。 睡眠薬で眠らされて、この天井の梁に吊るされたんです。 あえて梁を見せている天井がお洒落で気に入ってこの部屋を借りたのに、それが仇になるなんてね。 誰に殺されたか分かります? さっき言った元カレに殺されたんですよ..

  • おとぎ話(笑)26

    <桃太郎> 桃太郎は、サル、キジ、イヌを連れて鬼退治に行きました。 みごと鬼を成敗し、鬼の財宝を奪ってやりました。 「金銀財宝、全部持ってきてやった。これでもう悪さは出来ないだろう。は、は、は」 「あのう、桃太郎さん、上機嫌に水を差すようですが……」 「なんだ」 「舟が沈んでます」 「なんだと!いったいなぜ」 それは、鬼から奪った財宝を積んだからに違いない。 「あわわ、水が、水が~!!」 瀬戸内海の底には、今でも金銀財宝が、沈んでいるとかいないとか。。。 <王様の耳はロバの耳> 床屋は、王様の耳がロバの耳であることを知ってしまった。 厳重に口止めされたが、言いたくて仕方ない。 「そうだ、森に穴を掘って、そこに向かって言おう。穴を塞げば大丈夫さ」 床屋は森に行って穴を掘り、いざ叫ぼうとしたが思い出せない。 「はて、何の耳だったかな?..

  • 墓前デート

    久志のお母さんに初めて会うから、ちょっとおしゃれした。 袖がレースのブラウスと、淡いグリーンのフレアースカート。 5センチのハイヒールは買ったばかりの新品。ウキウキしながら彼の車に乗り込んだ。 「えっ、愛里ちゃんどうしたの。その服」 「だって、初めて久志のお母さんに会うんだよ。気合い入れたの」 「いつもの服で良かったんだけど。母さんに会うって言っても、墓参りだし」 「お墓参りでも何でも、初めて会うのに変わりないでしょ」 「そうだけどさ」 「何なのよ。ムカつく。あたしがこんなにおしゃれしてるのに、あんたは何? 訳わかんないキャラクターのTシャツとスウェット? 登山靴みたいなごついスニーカー。季節感ゼロじゃん。車だってしょぼい軽自動車だし、あーあ、浮かれて損した」 「ごめん。だけどさ……」 「もういい」 女心がわからない無粋な奴。それが久志。 着くまで口きかないから。 ..

  • 生存確認

    「こんにちは」 嫁が来た。40過ぎてようやく結婚した息子の嫁だ。 毎週土曜日、判を押したように同じ時間に来る。 杓子定規な人で変わった人だ。 「お義母さん、週に一度の生存確認に来ました。お元気そうで何よりです」 「はいはい、生存確認ね。ご苦労さん。洋一は元気? このところ顔を見せないけど」 「洋一さんは元気です。公私ともに順調です」 「職場の挨拶みたいだね」 「お義母さん、お茶の葉を変えましたか? 深みが違いますね」 「おや、よくわかったね。ネットで取り寄せたんだ。便利な世の中だよ。若い人の世話にならなくても何でもできる。生存確認なんて必要ないんだよ」 「好きでやってることですから、お気になさらずに」 全く、何でも事務的な人だ。 「つつじがきれいですね」 「放っておいても毎年咲くよ。ありがたいね」 「あの葉っぱは、アジサイですか?」 「そうそう、あれも..

  • オンライン家族

    パパとママがテレワークになって1年が過ぎた。 毎日家にいるのは嬉しいけれど、家が会社になったみたいで落ち着かない。 リビングを挟んで右がパパの部屋。左がママの部屋。 そして正面が僕の部屋。 だからそれぞれの声が、よく聞こえるんだよ。 パパはいつも謝ってばかり。 ママはいつも部下を叱っている。 ママの方が偉いのかな。 5時半になると、ふたりとも疲れた顔でリビングに来る。 「ああ、使えない部下、マジでしんどいわ」 「ああ、理不尽な客、一回殴りてえ」 「ズームの背景変えることより、やることあるでしょ。まったく」 「発注ミスをこっちのせいにしやがって。個数間違えたのおまえだろ!」 「あーあ、やってられない」 大人って大変だなって思いながら、僕は今日の宿題を終わらせる。 それから僕たちは、ウーバーイーツで運んでもらったご飯を食べる。 僕はハンバーガー、パパ..

  • 島育ち

    私は、この島から出たことがありません。島で生まれて、島で育ちました。 母は私が小さいころに、海に身を投げて命を絶ったそうです。 長老様が教えてくれました。 それから私は、この島に育てられました。 鳥たちが魚や木の実を運んでくれて、長老様が生きる術を教えてくれました。 「長老様、あれは何?」 いつものように長老様の肩に乗って、海を眺めていたときです。 見たことのない大きな塊が、海の上を滑ってきます。 「あれは船じゃよ。珍しいな、こんな島に船が来るなんて」 船からは、見たことがない生物が下りてきました。私と同じ二本の足で歩く生物です。 私に向かって何か話しかけましたが、何を言っているのかさっぱりわかりません。 「あれは人間だ。お前と同じ人間じゃ。ようやく迎えに来たようじゃ。さあ行きなさい。人間の住む世界に帰るのじゃ」 長老様はそう言うと、私を振り落としました。 人..

  • 50年後の桜

    沼田のおじいさんが生き返った話は、半世紀が過ぎた今でも語り継がれています。 葬式を終えて、まさに火葬をしようとしたそのとき、棺から声がしました。 開けてみると死んだはずの沼田のおじいさんが、パッチリ目を開けていたのです。 沼田のおじいさんはその日から一週間生きて、今度こそ本当に逝きました。 私は生まれたばかりだったので実際に見たわけではないけれど、奇跡の生還と話題になり、テレビ局まで来たそうです。 そしてあれから50年。 50歳になった私は、この春母を看取りました。 葬儀を済ませ、いざ火葬というまさにその時、棺から声が聞こえたのです。 「開けてちょうだい」 私たちは顔を見合わせました。 棺を開けると、母はたった今眠りから覚めたように欠伸をして起き上がりました。 「沼田のじいさんの時と同じだ」 「50年後にまた奇跡が起こったぞ」 当時を知っている老人たちが、手を..

  • くもり空のむこう(空見の日)

    毎年恒例 もぐらさんの呼びかけで、本日は「空見の日」です。 みんなで同じ日に空を見上げよう という企画です。 今日は、どよ~んとした曇り空。 お墓参りの後に撮った空。 大仏様が、ひときわ大きい。 桜の木と大仏様。 満開になったらきれいだろうな。 短いお話を一つ。 『くもり空のむこう』 どんよりしてるな。 くもり空って、見てると瞼が重くなるな。 眠くなってきた。 いけないいけない。仕事をしなくちゃ。 早いところ仕事を片付けて、墓参りに行くんだ。 ろくな親父じゃなかったけどさ、死んだらみんな仏様だ。 ああ、それにしても眠いな。ちょっとだけ寝るか。 10分の仮眠で効率が上がるって聞いたことがあるぞ。 よいしょっと。 なんだなんだ、このロッキングチェアー、揺れ方が神だ。 気持ちいいな。 5分で起きよう。5分だけ。5分..

  • 消滅

    久しぶり。20年ぶりくらいかな。 まさか淳史くんが同窓会に来てくれるなんて思わなかった。 ほら、淳史くん卒業前に東京に行っちゃったでしょう。 だから名簿に載っていないのよ。フェイスブックで見つけたときは飛び上がったわ。 ねえ、ちょっと太った? 貫禄あるよ。 やめてよ。淳史くんがおじさんなら、私だっておばさんだよ。 結婚は? へえ、子どもが二人。私はね、バツイチ。 淳史くんと別れた……っていうか、自然消滅した後、親が決めた人と結婚したの。 うまくいかなかったな。そりゃそうだよ。好きじゃなかったもん。 あの頃はね、自暴自棄になってたな。 もう遠い昔の話だけどね。 ねえ、淳史くん、同窓会の後、時間ある? 違う、違う。そういうんじゃないよ。 ほら、神社の桜の木、憶えてる? あの下に、埋めたじゃないの。何をって、お金よ。 ふたりで貯めて、お地蔵さんの下に隠していたじゃな..

  • マスクを外せば

    大学付近にやたらと貼ってある、指名手配犯の写真。 一緒に歩く友達が立ち止まって、僕と指名手配犯を交互に見た。 「なあ、この犯人、ヨシキに似てねえ?」 「本当だ。眉毛と目元がそっくり」 言われてみれば似ている。太い眉と一重の目。 それ以来そこを通るたび、「おまえ、何やったんだよ」とからかわれた。 「ハート泥棒」などとふざけていたのは、去年までの話だ。 世界中に広まったウイルスの影響で、出かけるときはマスクをかけることが当たり前になった。 マスクをかけて鼻から下を隠すと、あの指名手配犯と瓜二つになってしまった。 一体どんな悪いことをしたのか、指名手配犯の写真は街中に貼られている。 僕とすれ違う時、ひそひそ声で話す女性や、ぎょっとした顔で目を背けるサラリーマンに、「違いますよ」とマスクを外して見せるわけにもいかない。 ただ足早に通り過ぎる。まるで怪しい人みたいだ。 ..

  • 過去に戻れたら、の話

    職場の飲み会で、タイムトラベルの話が出た。 「過去に戻れるとしたら、いつに戻りたい?」 SF好きの課長を囲んで、そんな話で盛り上がった。 「そりゃあ10代ですよね。青春時代に戻りたいな」 「あたしはダンナに出会う前に戻りたいわ。もう一人候補がいたのよ」 「俺は小学生からやり直したいな。あの頃から英語をやってりゃ苦労しなかったな」 みんな盛り上がっているけど、正直あまり興味がない。 子供の頃から入退院を繰り返していたから、あまりいい思い出がない。 今が一番いい。だからあえて話に加わらなかった。 家が遠いから、みんなより先に店を出た。 歩き始めると、後ろから知らない男に声をかけられた。 「すみません。駅まで行くんですか?」 何だ、こいつ。ナンパか? 無視をしたけど、男は隣に並んで歩き始めた。 「不躾ですけど、あなたたちの話が聞こえてしまって。ほら、過去に戻れたらっ..

  • もどき

    ああ、やっと退院できた。 長くてつらい入院生活だったぜ。 なにしろ酒もたばこも女も我慢。生きてる意味がないぜ。 「山田さん、いいですか。退院したからといって、不摂生はいけませんよ。規則正しい生活を心がけてくださいね」 怖い看護師に言われたけどよ、退院したらこっちのもんさ。 ああ、早く一服したいぜ。 「セブンスター2箱くれ」 「お客様、当店ではたばこは扱っておりません」 「はあ? コンビニでタバコ売ってねえってどういうことだよ」 「お客様、たばこは今、どこでも買えませんよ。たばこもどきならありますけどね」 「たばこもどき?」 「はい、ミントやレモンなど、いろんな味がありますよ」 「ガキじゃあるまいし。もういい。酒はあるか?」 「お酒もどきならございます。ビールもどき、チューハイもどき、日本酒もどき、どれになさいますか?」 「もどきなんかいるか!」 頭にきて店..

  • 懺悔の春

    穏やかな、早春の庭である。 「梅の花が咲きましたね」 「ああ、春だな」 「春ですね」 「おまえには、今まで苦労かけて悪かったな」 「あら、何ですか、急に」 「家のことをきちんとやって、毎日弁当を作ってもらったのに礼も言わず、数々の女性蔑視発言、本当にすまなかった」 「あらあら、どうしちゃったんです?」 「女は黙っていろ、女のくせにと、事あるごとに言ってきた。風呂はまだか、めしはまだか、お茶くれ、酒出せと、当然のように言ってきた」 「まあ、そうですねえ」 「大いに反省した。だからおまえ、離婚なんて考えないでくれ」 「あらいやだ、あなた。フフフ、引き出しの離婚届を見たんですね」 「そうだ。爪切りを探しておまえのタンスを開けてしまった。まさか離婚を考えていたなんて」 「ちがいますよ。あれはね、お守り代わりに母が持たせてくれたんです。いつでも離婚できると思ったら、大概..

  • 五年後の卒業式

    久ぶりに降りた故郷の駅は、すっかり変わっていた。 大きなビルが立ち並び、あの日の災害がまるで嘘のようだ。 五年前、町を呑み込むような大きな災害があった。高校の卒業式の前日だった。 両親は亡くなり、僕は町を離れた。 ようやく落ち着いた頃、「卒業式を兼ねた同窓会」の案内が届いた。 懐かしい。もちろん出席に〇をつけた。 「拓郎君、待ち合わせして一緒に行こう。五年ぶりの待ち合わせだね」 そんな手紙をくれたのはクラスメートの由香里だ。 家の方向が一緒だから、よく待ち合わせをして一緒に帰った。 実は卒業式の日に告白しようと思っていた。 だけどそれどころじゃなくて、あれから一度も会っていない。 手紙には、待ち合わせ場所と、目印の白い造花が同封されていた。 「ちょっと早すぎたかな」 駅前のホテルのロビーで、白い花を胸にさして由香里を待った。何だか照れる。 十分が過ぎ..

  • リフォーム大作戦

    マンションのお風呂が突然壊れて、仕方なく親子3人、実家の風呂を借りることになった。 古い家で昔ながらのタイルの風呂だけど、入れないよりマシだと思った。 しかし、実家の風呂はいつの間にかリフォームされていた。 「うわあ、おじいちゃん家のお風呂、広くてきれい。しかもジャグジー。えっ、24時間沸いてるの? 温泉みたい。暖房もついてるよ。ねえお母さん、あたし一番に入っていい?」 娘が興奮気味に言った。風呂も洗面所も驚くほどきれいだ。 「お父さん、これ、どうしたの?」 「見りゃわかるだろう。リフォームしたんだ」 「いくらかかったのよ。一人暮らしにこんな贅沢なお風呂必要?」 「去年の夏ごろにな、業者が営業にきて、トイレとセットで直せば安くしてくれるって言うから頼んだんだ」 「トイレも?」 「自動で蓋が開くぞ。こりゃ清潔だ」と夫が目を輝かせている。 「2階のトイレもサービスでウ..

  • リアル鬼は外

    鬼の皆さん、今年も忌々しい節分がやってきます。 私たち鬼が恐れられていたのは遠い昔の話。 今じゃすっかり人間たちと共存し、穏やかに暮らしています。 しかし数年前の節分の夜、一部の若者が「リアル鬼は外」と称して鬼に豆を投げつける動画を投稿したのをきっかけに、すっかり広まってしまいました。 「リアル鬼は外」はその年の流行語にもなり、すっかり定着してしまいました。 いつもは優しい人間も、節分の夜だけは急変するのです。 まさに鬼です。いや、悪魔です。 しかし我々鬼も、いつまでも豆をぶつけられて黙ってはいられません。 今こそ立ち上がりましょう。こちらも負けずに豆をぶつけるのです。 節分に怯えて生きるのは、もうやめましょう。 「ただいま」 「おかえりなさい。鬼の集会、どうだった?」 「うん。今年は人間に逆襲するってさ。”人間は外”って言いながら、豆をぶつけるんだって。だから..

  • 赤い毛糸

    雪がちらついていた。 景色に見とれて、小さな駅でうっかり途中下車してしまった。 次の電車はもうなかった。閑静な田舎町で、宿などない。 「失敗したなあ」と途方に暮れて歩いていると、道端にお地蔵さまがいた。 赤いニット帽を頭にかぶっている。 「まあ、可愛らしい」 雪を払ってお参りすると、お地蔵さんが少し笑ったように見えた。 「お嬢さん、見かけない顔だね。どうかしたのかい?」 通りかかったおばあさんに事情を話すと、快く「うちに泊まりなさい」と言ってくれた。 おばあさんの家は、お地蔵様のすぐ近くで、ひとり暮らしのようだ。 「さあ、さあ、温まって。古い家で驚いたかい」 ストーブの炎が優しくて、心まで溶けていくのを感じる。 恋人と別れて、ひとりの傷心旅行だった。 特に急ぐわけでもなく、宛てもなかった。 「さあさあ、たくさんお食べ」 おばあさんが、ご馳走を用意してく..

  • 女子大生ソーシャルディスタンス

    楽しみにしていた成人式が中止になった。 本当に楽しみにしていたのは、その後の同窓会だったけど、どっちみちこの状況では無理だ。 「あーあ、あたしたちって不幸だよね」 友達の佳奈ちゃんに、ついつい愚痴る。 「あたしさあ、中学のとき、今より20キロも太ってたんだ。痩せてギャルになった姿を見て、クラスメートが驚く顔を見たかったなあ。あーあ、大学には行けないし、カラオケも行けないし、実家にも帰れない。あたしたちって、マジで最悪だよね」 「そうね」と佳奈ちゃんはアクリル板越しに微笑んだ。 佳奈ちゃんは、学部は違うけど大学が一緒で、同じ寮にいる。 以前は顔を合わせる程度だったけど、コロナ禍で大学に行けなくなり、一緒にいる時間が急激に増えた。 おっとりしていて清楚なお嬢様タイプ。手作りっぽいマスクが愛らしい。 「佳奈ちゃんも振袖着たかったでしょう」 「そうね。パパとママもがっかりし..

  • 福の神 福子さん

    福子さんは、その名の通り福の神だ。 小さな町の商店街、福子さんが気に入った店は何故か必ず繁盛する。 カフェ、パン屋、ラーメン屋、雑貨屋に古本屋。 彼女が気に入れば客が増え、ネットで話題になり、テレビの取材まで来るほどだ。 「どうか、うちの店に来てください」 賄賂を持って訪ねてくる店主も数知れず。 しかし福子さんは、そんなものには全くなびかない。 行列が出来ているラーメン屋を横目で見ながら、とんかつ屋の店主は考えた。 「そうだ、圭太、おまえ福子さんと結婚しろ」 いきなり話を振られた息子の圭太は「はあ?」と目を丸くした。 「だってそうだろ。福子さんが嫁に来てくれたら、この店は一生大繁盛だ」 「そうよ、どうせあんた恋人いないんでしょう。そうだ、映画のチケットが2枚あるから今すぐ誘ってきなさい」 「今すぐって、家なんか知らないよ」 「さっき駅裏のカフェにいたわよ。早く..

  • おとぎ話(笑)25 年末スペシャル

    今年は、コロナコロナの1年でしたね。 こうなったらもう、コロナが吹っ飛ぶように笑い飛ばしちゃいましょう。 <桃太郎> 桃太郎や、鬼退治に行くのは勝手だけどね、頼むから帰省はしないでおくれよ。 あたしたちは年寄りなんだ。感染したら困るだろう。 ああ、でも宝物は送っておくれよ。ちゃんと除菌してからね。 じゃあ行っておいで。はい、黍団子。 ひと口食べるごとにマスクするんだよ。 <かさ地蔵> 「ただいま。峠のお地蔵さんが感染しないように、マスクをかけてきてあげたよ」 「まあおじいさん、いいことをしましたね」 「それから地蔵同士の距離を2メートル離してあげたよ。ソーシャルディスタンスだ」 「あら、いいことをしましたね。今夜あたり、お礼の品を持ってくるかもしれませんね」 ドンドンドン 「ほら来た。あら、封筒が置いてある。おじいさん、何が入っているんでしょ..

  • ケーキ屋のクリスマス

    「今年も作り過ぎたわね」 ショーケースに残ったケーキをのぞき込みながら、夫を軽く睨んだ。 ケーキ職人の夫は、腕はいいけど商売はまるで下手。 12月25日の閉店間際に、ケーキを買いに来る人がどれだけいると思っているのだろう。 「あと1時間じゃ捌けないわよ。どうする? 半額にする?」 「うん。するする。半額の紙貼ってきて」 全くこの人は、丹精込めて作ったケーキを半額で売ることに、何の抵抗も感じないのだろうか。 『只今よりケーキ半額』の張り紙を持って外に出たら、駅前に飾られた巨大なツリーの陰で、女がこちらを見ている。 あの人、去年もいた。確か一昨年も、その前も。 半額の紙を貼った途端店に来て、待っていたようにケーキを買っていく女だ。 スーパーで値引きシールを待っている客みたい。 あの人のために半額にするみたいで、なんだか悔しい。 ところが女は、半額の紙を貼ってもなかな..

  • サンタクロース宅配便

    公園に突然、大きなモミの木が生えた。 「サンタクロースからの贈り物だよ」と町長さんが言った。 みんなでオーナメントを飾り、ピカピカの電飾を付けた。 最後に町長さんが、ひときわ輝く大きな星を天辺に付けた。 「ねえ町長さん、天辺の星は、どうしてあんなに輝いているの?」 「ああ、あれはな、灯台の役割をしているんだよ。どんなに高い空の上からだって、この星が見えるんだ」 「わかった。サンタさんの目印だね」 「まあ、そういうことかな」 子供たちは大さわぎ。 「この公園に、サンタクロースが来るってことじゃないか?」 「きっとそうだ。あの星めがけて来るんだよ」 「なあ、サンタさん、見たくないか?」 「見たい、見たい」 「24日の夜中に、こっそり集まろうぜ」 そしてクリスマスイブの夜、子供たちはそうっとベッドを抜け出して、公園に集まった。 つま先まで凍りそうな夜だけど、..

  • リモコンベビー

    秋に里帰り出産をした妻が帰ってきたのは、街にジングルベルが流れる12月の初旬だった。 生後二か月の我が子は頬の赤い女の子で、なんとこの日が初対面だった。 妻の故郷はとても遠い。 電車を乗り継いでようやく港にたどり着き、そこから一日二本しか出ていない連絡船に乗り換えて五時間。 まるで日本の一番端っこのようなその島で、妻は子供を産んだのだ。 もちろん里帰り出産には反対だった。 仕事を休んでついていくことは出来ないし、生まれる時に立ち会うことも不可能だ。 僕の仕事はとても忙しい。 「生まれ育った家で子供を産みたいの。先祖代々そうして来たから」 妻はそう言い張って、八か月のお腹を抱えて一人で帰った。 そんな島にも電波は届いていたから、スマホで赤ん坊の顔が見られた。 ネットの電話で会話をして、動く小さな手や足を見て、ちょっと感動した。 名前はちゃんと顔を見て決めた。桜..

  • 白い月の夜

    「今夜の月はやけに白いね」 「そうね。ねえ、次はいつ会える?」 「5回目だね、その質問。言っただろ。年末年始は忙しいんだ」 「クリスマスは?」 「うちのショップ、クリスマスは書き入れ時。しかも俺、遅番」 「ふうん。じゃあ私、静香さんとパーティしようかな。誘われてるの。静香さんの彼氏が友達連れてくるって。10人ぐらい集まるんだ。静香さんって、すごいセレブなのよ」 「楽しそうだね。それにしても、月、白いね」 「そうね。じゃあ次はいつ会えるの?」 「6回め。だからさあ、俺、ショップのオーナーなんだよ。クリスマスと年末年始は絶対無理」 「ふうん。ねえ、静香さんの彼氏ってすごいお金持ちなんだって」 「へえ」 「年収1千万の男紹介してくれるって」 「あのさ、さっきからちょいちょい出てくる静香さんって誰?」 「会社の先輩」 「へえ、君の職場ってラーメン屋でしょ。家族でやってる..

  • 結婚したい

    いい夫婦の日に結婚したからって、幸せになれるとは限らない。 だけど新郎新婦はとびきりの笑顔で、世界で一番幸せそう。 職場の先輩は、宣言通り30歳の誕生日前に結婚式を挙げた。 ブーケトスのとき、私は最前列を陣取って、居並ぶアラサーたちを押しのけてブーケをキャッチした。 「はっ? 何であんたが取るのよ」という先輩たちの冷たい視線を感じながら、私はブーケを空に掲げた。 「やったー、次は私の番だー」 ごめんね、先輩方。 若くても、私は焦っているんです。 結婚したい。出来れば春までに。 今日も二次会を断って、卓也が待つ家に帰る。 今日こそ、結婚の話をちゃんとしよう。 「ただいま、卓也」 「おかえり。わあ、きれいな花だね」 「ブーケトスでね、私のところにブーケが飛んできたの。これって運命よ」 「ふうん。よかったね」 「花嫁さんからブーケを受け取るとね、次に結婚..

  • 知らない子

    40歳を過ぎて実家暮らし。両親を看取って一人暮らしになった。 在宅勤務で出かけることもなく、仕事のやり取りはすべてリモート。 食事はネットで買ったカップ麺、たまにピザかウーバーイーツ。 これじゃ出会いなんてあるわけないよ。 「親の介護がなかったら、あのとき結婚していたのにな」 今さら思っても仕方ない。 7年前、母の介護で会社を辞めた。 家でも出来るデザインの仕事に切り替えたけど、安定しないから将来が不安だと梢子は言った。 そして別れた。35歳の秋だった。 さて、今日は何を食べようかと考えていたら、勝手口のドアが開いた。 勝手口から出入りする人などいない。そもそも一人暮らしだ。 覗いてみると女の子が立っていた。 「どこの子だ? 鍵がかかってたのにどうやって開けた?」 女の子は答えずに、靴を脱いで上がり込んだ。 「おいおい、人の家に勝手に入っちゃダメなんだぞ..

  • ふたりの縁側

    「先生、先生」 ぱたぱたと廊下を走ってくるのは、妻のカナコだ。 カナコは私を先生と呼ぶ。 たまには名前で呼んで欲しいが、結婚以来一向に呼び方を変えない。 「先生、こんなところにいたの? ごはんよ」 金木犀が微かに香る午後のリビングに、読みかけの本と老眼鏡。 若いつもりでいても、カナコはそれなりに年を重ねている。 食事が終わると、カナコはパソコンを開く。 「先生、ミステリーって難しいわ。軽いミステリーでいいって言うから引き受けたけど、なんか煮詰まっちゃった」 カナコは小説家だ。かく言う私も小説家だった。 今はすっかり書かなくなってしまったが、文章だったら妻よりも巧い。 「カナコ先生、お邪魔しますよー」 あの声は担当編集者の谷中だ。 相変わらず勝手に上がり込み、自分の家のように冷蔵庫を開けたりする。 もともと私の担当であった彼女は、数年前、カナコに小説を書く..

  • 肉、魚、野菜

    駅前の寂れた商店街。 肉屋の奥さんと、八百屋のおじさんが駆け落ちをした。 今日は朝から、商店街中その話で持ち切りだ。 僕は肉屋と八百屋に挟まれた魚屋だ。 両親を亡くしてひとりで切り盛りしている。 商店街の人たちが、なぜか僕の魚屋の前に集まった。 「ちょいと魚松さん、あんた、二人の行き先を知ってるんじゃないの?」 「ええ? 知るわけないだろう」 「最後に二人に会ったのは、あんたなんだよ」 「ああ、そういえば夕べ、ハラダミートの奥さんが回覧板を持ってきたな。八百春のおじさんもいたような気がするけど、隣同士だし、別に不自然でもないだろ」 僕は無造作に棚に上げた回覧板をヒョイと取った。 その拍子に中から一枚の紙がはらりと落ちた。 『身勝手をお許しください。どうか探さないで』 紙には、そんな言葉と二人の連名が書かれていた。 「あらやだ。回覧板に手紙を挟んで駆け..

  • 家出少女と僕

    日暮れを告げる鐘がなった。 薄暗くなった道の両端で、お化けみたいなススキが揺れている。 理沙ちゃんと僕は、駅に向かって歩いていた。 大きく膨らんだ理沙ちゃんの赤いリュックには、いったい何が詰まっているのだろう。 理沙ちゃんから「家出しない?」と誘われたのは3日前だ。 僕たちは中学2年生で、家や学校に、それなりの不満はある。 だけど家出をするなんて考えたことがなかったから、すぐに断った。 「じゃあ、駅まで見送りに来て。誰かに見送ってもらわないと心が折れそう」 潤んだ目で懇願されて、僕は「見送りならいいよ」と言った。 歩きながら引き留めようと思った。家出なんかやめようって。 事情があるなら相談に乗って、なんとか引き留めよう。 「あのさ、どこに行くつもり?」 「そりゃあ、やっぱ東京でしょ」 「お金あるの?」 「お年玉貯めたから。太一君はいくら持ってる?」 「..

  • ハロウィン2020

    今年のハロウィンは、いつもと少し違うみたい。。。 1、トリックオアトリート ピンポ~ン 「はいはい、あらまあ可愛らしいオバケさんだこと。蜘蛛の巣柄のマスクがキュートね」 「トリックオアトリート」 「ああ、そうね。お菓子をあげましょうね。さあどうぞ」 「あの、受け取る前に消毒してもいいですか」 シュッシュッシュッ 「ありがとうございました」 「……ちょっとフクザツ」 2、リモートハロウィン 「パーティが出来ないから、今年はリモートでハロウィンね」 「わあ、ユウコの仮装すごいな。本物の魔女みたい」 「ヒロミもすごいわ。ナースの衣装キマッてる」 「ところでユウコ、後ろにいるゾンビは誰?」 「えっ、何言ってんの? 私一人だけど……」 「あれ? 消えた。ユウコ退出?」 3、宇宙からハッピーハロウィン 「ママ、もうすぐ地球に着くよ..

  • ちょうどいいサイズの世界

    昔々、北のはずれに小人の国がありました。 何もかもが小さくて、住んでいる人たちも、5センチから10センチくらいの大きさでした。 そんな小人の国に、ひとりだけ、大きな小人の男がいました。 たくさんの兄弟の中で同じように育ったのに、その男だけずんずんずんずん成長しました。 家や木までも追い越して、天に届きそうな大きさです。 「いったい何を食べたらそんなに大きくなるんだい」 「すみません、お母さん」 声も大きいので、お母さんは吹き飛ばされそうになりました。 そんな大きな服はないので、たくさんの布を繋ぎ合わせて腰に巻き、のっしのっしと歩きました。 男が歩くと地震が起きて、小人たちは木の幹にしがみつきました。 「僕がいると、みんなに迷惑がかかるんだね」 男は、ある夜明け前、村を出ました。 誰もいない国を目指して、西へ西へと向かいました。 昔々、南のはずれに巨人の国があり..

  • おさがり

    糊がついた浴衣を丁寧に畳みながら、「もう来年は着られないね」とママが言った。 お気に入りの金魚の浴衣は、来年は楓が袖を通すのだろう。 私が着られなくなった服は、近所に住む従妹の物になる。 従妹の楓は2つ下の6歳で、楓のお母さんである幸子おばさんはママの妹だ。 近所だからしょっちゅう遊びに来る。 楓は男の子みたいに乱暴なところがあって、私が大切に着ていた服をすぐに汚す。 フリルがついたワンピースも、チェックのスカートも、全部全部泥だらけにする。 「楓ちゃん、私があげた服なんだから、もっと大事に着てよ」 「えー、もう唯ちゃんの服じゃないでしょ。今は楓の服だもん」 そう言ってあっかんべーをする楓は、本当に可愛くない。 私はママに、「もう楓ちゃんに服をあげないで」と言った。 「まあ唯ちゃん、どうしてそんなこと言うの?」 「だってさ、楓ちゃんすぐ汚すもん。それにさ..

  • 田辺さん

    憧れていた田辺さんが会社を辞めた。 退職して、専業主夫になるそうだ。 何でも奥さんは敏腕弁護士で、かなりの高収入らしい。 だから田辺さんが、家事と育児に専念するそうだ。 「よく決断したよね、田辺さん、男のプライドないのかな」 「奥さんってどんな人かな。尻に敷かれてるんじゃない」 そんなふうに陰口をいう同僚もいたけれど、私は立派だと思う。 妻が心置きなく働けるようにサポートするなんて、最高の夫だ。 田辺さんは同じ町内に住んでいるので、スーパーでたまに見かける。 小さな子どもを連れて買い物をしている。 実にいいお父さんで、買い物も慣れている。どこから見ても立派な主夫だ。 田辺さんの奥さんは、どんな人だろう。 きっと洗練されたスーツを着こなす知的な美人だろう。 それに比べて私は、もう3年くらい服を買っていない。 暴力亭主と別れてから、派遣の仕事と子育てで毎日ク..

  • 緊急家族会議

    「お父さん!」 「おお、つとむ、部活の帰りか」 「うん。お父さん、今日早いね」 「お母さんから、緊急家族会議があるから早く帰れって連絡が来た」 「ああ、僕のところにも来たよ。でもさ、どうせ大したことないだろう」 「そうだな。前回はパートに出たいっていう議題だったもんな」 「そうそう、結局1カ月で辞めちゃったよね」 「お母さんは家のことだけしてればいいんだよ。女なんだからさ」 「ピピー、お父さん、それレッドカードね。女性蔑視で訴えられるよ」 「こりゃ参った。発言撤回だ」 「まあでも、お母さんはゴキブリが出ただけで大騒ぎだもんね」 「そうそう、守ってあげたくなるタイプなんだ。昔も今も」 「今日の議題、何だろうね」 「あれじゃないか、新しい洗濯機が欲しいとか」 「友達と旅行に行きたいっていう話かも。ほら、お母さん、たまに出掛けるだろ」 「ああそうか。女友達とのリ..

  • 百合とカスミソウ

    夕暮れだった。僕は母とふたりで夕涼みをしていた。 虫の音が聞こえていたから、夏の終わりの頃だと思う。 僕は五歳だった。 空に一番星を見つけてはしゃいでいたら、知らない女の子が突然庭を駆け抜けて、縁側に座っていた母に抱きついた。 女の子が被っていた帽子が脱げて、ふわりと僕の両手に収まった。 「お母さん」と、その子は言った。 母は、女の子の背中を撫でながら、「どうしたの、ユリエちゃん」と涙声で言った。 訳が分からず立ちすくむ僕の手の中で、カスミソウみたいな白い帽子が揺れていた。 ユリエという女の子は、その日僕の家に泊まった。 母は何だか嬉しそうで、父も得意のかき氷を作ったりしていつもより賑やかな夜だった。 ユリエは小学生で、お姉さんぶって本を読んでくれた。 楽しかった。夢のような夜だった。 朝になったらユリエはいなかった。 縁側に、ユリエが忘れていった帽子..

  • A君とB子

    あのさ、これは友達の話なんだけど、そいつ、仮にA君にするね。 A君には、生まれたときからずっと一緒の幼なじみの女の子がいるんだ。 生まれたときから一緒だからさ、妹みたいなものだよね。 だけどね、最近急に彼女を意識するようになったんだって。 8歳くらいまで風呂も一緒に入っていたし、お泊りして一緒の布団で寝たことだってある。友達っていうより家族みたいな関係だ。女として見たことなんか一度もない。 それなのにさ、急に彼女のことが好きになっちゃったんだって。 A君は割とイケメンだからモテるんだよ。 それでさ、色んな女の子に告白されて付き合ったけど、どこかでその幼なじみと比べてしまうんだって。 付き合った彼女と、幼なじみと、どっちが好きかって心に問いかけると、答えはいつも幼なじみの方だった。 つまりさ、A君にとって一番好きな女の子は、幼なじみの彼女なんだよ。 それに気づいて..

  • 暗やみ坂

    通学路の途中に、暗やみ坂と呼ばれる短い坂があった。 鬱蒼とした樹木が空を隠し、昼でも夜のように暗い。 『暗やみ坂は、一気に駆け上がらなければならない。途中で止まったら、闇に取り込まれてしまう』 そんな言い伝えがあった。 体力があり余った小学生の僕には、暗やみ坂を一気に駆け上がることなど朝飯前だった。 いつも友達と駆け上がり、「やった、闇に勝ったぞー」と飛び跳ねた。 体の弱い転校生がやってきたのは、9月の始業式の日だった。 青白い顔をした痩せた女の子で、梢子という名前だった。 一緒に帰るように先生に言われ、仕方なくふたりで帰った。 暗やみ坂に通りかかると、梢子は足を止めた。 「何だか真っ暗で怖い。違う道を通ろうよ」 「えー、遠回りだよ。大丈夫。短い坂だし、一気に駆け上がろうよ」 僕は、梢子の腕をつかんで坂を上った。 「早く上らないと、闇に取り込まれるよ」 ..

  • 若さの秘訣

    ご近所に住む絵里香さん。 私より2歳くらい年上のはずだけど、驚くほど若くて輝いている。 「若さの秘訣は何なの?」と尋ねてみたら、ニッコリ笑ってこう言った。 「そうねえ、強いて言えば、恋かしら。詳しく知りたい?」 その夜、絵里香さんに誘われて、会員制のバーに行った。 このバーで、若返りドリンクでも飲んでいるのだろうか。 絵里香さんに続いて中に入ると、カウンターだけの小さな店だった。 春の陽ざしみたいな暖かい色の照明が、店全体を包んでいる。 「いらっしゃいませ。今日は如何なさいますか」 低い声のマスターが、洒落たカードを手渡す。 「そうねえ、1985年もの、出していただける」 「かしこまりました」 「そのカード、なに? 絵里香さん専用みたいだけど。もしかしてワインのボトルをキープしているの?」 「違うわ。キープしているのは思い出よ。恋の思い出」 マスターが、..

  • 5人で肝試し

    夏休み恒例の肝試し。 無縁仏が多く祀られている古い墓地を、みんなで一周する。 怖いけれど、友達と一緒だから平気だった。 とても楽しみにしていたけれど、僕はその日、熱を出して行けなかった。 僕を除く4人の子供たちが、帰ってこないと知ったのは翌朝だった。 4人の友達は、肝試しの夜に忽然と消えてしまったのだ。 警察やテレビ局が押しかけて、僕たちの小さな村は連日大騒動だった。 あれから20年。4人の友達はとうとう帰ってこなかった。 平成の怪奇事件として、今でも8月になるとワイドショーがやってくる。 とても仲良しだった5人組の中で、僕だけが大人になった。 僕は小学校の教師になった。 あの事件以来、子供だけの夜の外出は禁止になった。 もちろん肝試しなど論外だ。 しかし子供というものは、禁止されたことほどやりたがる。 夕飯を済ませたところで保護者から電話が来た。 ..

  • おとぎ話(笑)24

    <かぐや姫> 「おや、かぐや姫、もう帰ってきたのかい?」 「月に行ってまだひと月じゃないか」 「だって月って、近くで見たら全然きれいじゃないのよ。ごはんも不味いし、人間が住むところじゃないわね」 「困ったねえ。もうあなたの部屋はないのよ」 「どうして?」 「おじいさんが鶴を助けたら、どういうわけか娘さんが来てね、一緒に暮らしているのよ」 「気立てのいい娘でなあ。きれいな着物を織ってくれるんじゃ」 「話、違ってない?」 <赤ずきん> こちら、コードネーム赤ずきん。 森でオオカミと遭遇したわ。 ミセス・マミー、あなたの予想通りね。 ええ、大丈夫。気づかれていないわ。 本当にお見舞いに行くと思っているみたい。 騙されたふりで花を摘むわ。 おばあさんに伝えて。安全な場所に避難するようにと。 扉を開けたら、オオカミがおばあさんのふりをして寝ている..

  • 青田風

    最近、故郷の夢を見る。 もう20年も帰っていない僕の故郷は、田園風景が広がる田舎町だ。 鳥のさえずりで目覚め、カエルの合唱を聞きながら眠った。 緑一面の田んぼに風が吹くと、まるでさざ波みたいに稲が揺れた。 「青田風っていうのよ」と教えてくれたのは、母だったか、それとも姉だったか。 生まれ育った家はもうない。両親も、もういない。 帰る家なんかないのに無性に恋しい。 憂鬱な月曜日、気がつけば、故郷へ向かう電車に乗っていた。 満員電車に嫌気がさして、部長の小言に辟易していた。 JR線で2時間、ローカル線で40分のところが僕の故郷だ。 人気のない駅に降りて、歩いて15分。 通学路だった畦道、競い合ってザリガニを捕った小川。 何もかもが、昔のままだ。 さやさやと波打つ緑色の稲は、もう15センチほどに伸びている。 「ああ、いい風だ」 せっかくなので、実家があった場..

  • ねごと

    松下君が居眠りしてる。授業中なのに、教科書を立ててずっと寝てる。 よりによって英語のノーメン先生だ。 能面みたいに無表情で、出来の悪い生徒を容赦なく切り捨てる。 「松下、これ以上内申下がったらヤバいよ」 腕をつんつんしてあげたけど、起きる気配は全くない。 それどころか小さな声で寝言まで言っている。 「大丈夫。俺が地球を守る」 どんな夢を見てるんだか。 休み時間になったら、松下はようやく起きて大きな伸びをした。 「松下、あんたどんな夢見てたの?」 「えっ、寝言言ってた?」 「言ってたよ。地球は俺が守るって。あんたに守られる地球ってどんだけだよ」 「いや実はさ、夢の中にノーメン先生が出てきた。ノーメンのやつ、実は侵略を企む宇宙人でさ、生徒を全員仲間に引き込もうとしているのさ。授業中に目が合った生徒はみんな支配されちゃう。支配された奴は窓から飛び降りるんだよ。そこには..

  • ジジ帰る

    これはいったいどういうことだ。 お盆前の下見に、ちょっと帰ってきてみれば、この体たらくは何だ。 わしは去年天に召された。 初めての盆帰りの前に、ちょいと様子を見に来たら……。 息子は働きにもいかず家でゴロゴロ。 パソコンばかり見ている。 高校生と中学生の孫は学校にも行かず、スマホで動画ばかり見ている。 嫁だけが朝から忙しそうに働いている。 「ああ、絶対太ったわ」とぼやきながら、せんべい齧ってひと休みだ。 息子よ、リストラでもされたか。 孫たちよ、苛めに遭って不登校か? 嫁がストレス太りになってもいいのか? こんなことで新盆の支度はちゃんとできるのか? 夕方、唯一マトモだと思っていた嫁が、裏口で男と逢っていた。 こそこそしながら、若い男に金を渡している。 何ということだ。不倫した上に、男に貢いでいるのか。 それともいかがわしい写真を撮られて脅されて..

  • 夕立の、前と後

    雨が降ると、石田君は決まって校庭に飛び出していった。 両手を広げて、まるで何かの儀式みたいに雨に打たれる。 髪も制服もびしょ濡れなのに、修行僧みたいに動かない。 クラスメートは二階の窓からヤジを飛ばし、呆れたように「またやってる」「アホだぜ、あいつ」と笑った。 やがて先生に連れ戻されて叱られて、その後の授業をジャージで受ける石田君は、本来は極めて普通の中学生だった。 あれだけ雨に濡れても風邪をひかない健康な身体を持ち、成績だって悪くない。 雨さえ降らなかったら、さほど目立たない、どちらかと言えば地味なクラスメートのひとりだ。 よく晴れた七月の空を、石田君はぼんやり見つめていた。 二つ後ろの席で、私は石田君の背中を見ている。 石田君とは、小学校の時からずっとクラスが一緒で、気が付くと彼の背中を目で追っていた。 今日の背中は、少し寂しそうだ。 「ねえ、石田ってバカなの..

  • 地球人5号

    地球に未練なんて何もない。もともと異星人だもん、私。 今はじっと迎えを待つ日々。ああ、早く自分の星に帰りたい。 「エリナ、飯だぞ。何度呼べば来るんだ」 地球人1号、こいつは野球を見ながらぼやくのが生きがいだ。 「早く食べてちょうだい。片付かないでしょ」 地球人2号、こいつは「早くしなさい」が口癖でいつも怒っている。 「あーあ、姉がヒッキーなんてハズくてピエンだわ。マジ死んでほしいんですけど」 地球人3号は、意味不明な地球語を話すくせにいつも上から目線。ムカつく。 今日は地球人4号が来た。中学校の担任だ。 「通信制の高校に行くのもひとつの選択肢ですよ。エリナさんは、やれば出来る子ですから、このままではもったいないです。とりあえず、保健室登校してみよう」 「先生、お気遣いなく。16歳になったら迎えが来て、自分の星に帰りますので」 「エリナ、あんたはまたバカなこと言..

  • 黒い心

    始まりは、5歳の夏だった。 母が入院している間、僕は伯母の家に預けられた。 伯母は母の姉で、農家に嫁いだが夫に先立たれ、広い家に一人で住んでいた。 慣れない畳の部屋でなかなか眠れずにいたら、天井に黒いシミが現れた。 「古い家だから壁も天井も汚くてごめんね」と伯母が言っていた。 だから気にしないようにして眠ろうとしたけれど、シミはどんどん大きくなり、やがて液体になって僕の額にポトリと落ちた。 「うわあ」と悲鳴を上げて、隣の部屋の伯母の布団に飛び込んだ。 「あらあら卓ちゃん、怖い夢でも見たの?」 伯母は優しく僕の背中をさすってくれて、ようやく僕は眠りについた。 数日後、父と母が赤ん坊を連れて迎えに来た。 「卓ちゃんの弟よ」 母の腕の中で、サルみたいな赤い顔をした赤ん坊が泣いていた。 それから母は、弟ばかりを可愛がった。僕は何でも我慢の日々だ。 「お兄ちゃんでしょう..

  • ベガとアルタイル

    小さな星で父親と暮らすベガは、宇宙一の美女と称されるほど美しい。 近隣の星から毎日のように男たちが押しかけて、ベガをデートに誘った。 父親は、男たちに言った。 「もっとも素晴らしい宇宙船を持っている男に、ベガを誘う権利を与える」 それは宇宙中に広まり、財閥の息子たちが自慢の船に乗って、ベガの星にやってきた。 アルタイルは、中流家庭の次男坊。宇宙科学アカデミーに通う学生だ。 あるとき、天の川のほとりでベガを見かけてひとめぼれ。 何としてももう一度会いたいと願っていた。 アルタイルは、バイトした金で中古の宇宙船を買った。 修理してピカピカに磨き上げ、出来る限りの技術で改造した。 「よし、この船でベガに会いに行こう。彼女、気に入ってくれるかな」 ベガの家には、3人の先客がいた。 どの男も高級な宇宙船に乗り、身なりもよかった。 アルタイルは、何だか気後れしながら一..

  • 対岸の家

    施設の前には、大きな湖がありました。 湖の向こう側は、私が生まれ育った町です。 よく晴れた日は、高台の小学校や公園の展望台が、すごく近くに見えるのです。 そして小学校の裏山を上った先にある私の家が、はっきりと見えるのです。 もう誰も住んでいません。両親はとうに亡くなり、弟は遠い街で所帯を持ち、帰るつもりはなさそうです。 半年前まで、独りでどうにか暮らしていましたが、歩くことが困難になって施設にお世話になることにしました。 こうして眺めていると、誰も住んでいない家が不憫です。 たまに帰って空気の入れ替えをしてあげたいけれど、それも叶いません。 施設に来てから、ただの一人も面会に来ません。夫も子供もいないのです。 弟は遠くにいるから滅多に会いに来ません。 長いこと働いて、両親と家を守ってきました。気がつけば独りです。 湖のほとりで、近くて遠い我が家を見ることだけが..

  • 未来の殺人犯

    会社からの帰り道、突然警察に拘束された。 「いったい何? 私が何をしたっていうのよ」 「今はまだ何もしていません。これからします」 「これから? 私がこれから何をするっていうの?」 「殺人です」 「はあ? 意味わかんない。私が誰を殺すっていうの?」 「この方です。ハラダシンヤさんです」 刑事が写真を見せた。まったく見覚えがない。 「だれ? このおっさん」 「あなたのご主人です。そしてあなたは将来、ご主人を殺します」 「絶対ウソ。こんなおじさんと結婚するわけないじゃん。全然好みじゃないわ」 「30年後の写真です。30年後はあなたも相当のおばさんです」 「余計なお世話よ」 「30年後、世界を揺るがす恐ろしいウイルスが発生します。ハラダ氏は、そのウイルスの特効薬を開発しました。完成まであと一歩のところで、あなたに殺されてしまうのです。私たちは、未来警察からの依頼を受..

  • 雨上がりの街

    5月最後の土曜日、滝のような雨が降って、汚れた街を洗い流してくれた。 あじさいの葉が色鮮やかに輝き、遠くに大きな虹が見えた。 なんて美しい。街が生まれ変わったみたい。 散歩の途中で雨に降られて、カフェの軒先を借りている。 小さいけれどきれいな庭があって、花がたくさん咲いている。 とても素敵なカフェ。 居心地がよくて、雨が止んだのに動けない。 客でもないのに迷惑かしら。 だけどね、もう少しだけ余韻に浸っていたいの。            * 「ちょっと、あの女、店の前にずっといるけど、まさか例の地上げ屋の仲間かね」 「ええ?普通の主婦に見えるけど。考え過ぎですよ、お義母さん」 「向こうも手を替え品を替え、いろいろ考えてくるからね、用心するに越したことはないよ」 「でもお義母さん、最近売り上げも落ちてるし、ショッピングモールのテナントに入るのも悪くないかもしれませ..

  • 河原でバーベキュー

    むかしむかしのお話じゃ。 10人の男女が、河原でバーベキューをしておった。 当時「合コン」と呼ばれる行事があってな、これもその一種じゃ。 男女の出会いの場というわけじゃ。 男たちは、ふだんはゲームばっかりしてるのに、いかにも慣れた手つきで水を汲んだりテントを立てたり「君たちは危ないから見てて」などとカッコいいことを言ったりするんじゃ。 女は女で、ふだんは母親任せのくせに、ここぞとばかり野菜を刻んだりするんじゃ。 「いつもやってます。お料理好きなんで」とか言いながら、上手く切れないと包丁のせいにするんじゃ。 腹も満たされ、数人のカップルも出来て、いい感じになってきたときじゃった。 突然雨が降って来たんじゃ。 そりゃあもう、バケツをひっくり返すような雨じゃった。 バケツと言うのは、水を汲んだりする道具じゃな。 おじいさんやおばあさんの家にはまだあるかもしれんから、..

  • 祝!!1000記事!

    「うちのオカンがな、好きなブログがあるんやけど、どうしても名前が思い出せないって言うんや」 「そうか。ほな一緒に考えたるわ。そのブログの特徴言うてみて」 「オカンが言うにはな、そのブログは、最近1,000記事を達成したらしいんや」 「ほなそれは、りんのショートストーリーやないか。りんのショートストーリーは、この話でちょうど1000記事や」 「おれも、りんのショートストーリーやと思ったんやけどな、オカンが言うには、そのブログを書いてるブロガーさんは、若い女性やっちゅうねん」 「ほな、りんのショートストーリーと違うな。りんのショートストーリーのブロガーさんは、年齢訊くとめっちゃキレるらしいで。若かったらキレへんやろ。ほな、他の特徴言うてみて」 「オカンが言うにはな、そのブログは、カテゴリー分けが、めちゃくちゃ雑やって言うねん」 「ほなそれは、りんのショ..

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