日々思いついた「お話」を思いついたままに書く
或る時はファンタジー、或る時はSF、又或る時は探偵もの・・・などと色々なジャンルに挑戦して参りたいと思っています。中途参入者では御座いますが、どうか、末永くお付き合いくださいますように、隅から隅まで、ず、ず、ずぃ〜っと、御願い、奉りまする!
みつは伝兵衛を静かに見つめる。「……道場で相対した時よりは腕を上げているようだが……」みつは静かに言う。「わたしに、その刀に寄り掛かり過ぎていると言われ、地擦りの構えを解いたのか?」「ほざけ!」伝兵衛は一喝する。「お前などに、定盛の力などいらぬと言う事だ!」「あなたは刀の妖しい話を受けて、日々の修練を怠っている。そのような者の剣など、わたしには通じない。腕が上がって見えるのは、単に場数を踏んで血の気を帯びただけの事。しかも己より弱い者を相手にして得た、まさにその邪剣に相応しい恥晒しな腕前だ」「抜けい!」伝兵衛が怒りに任せて叫ぶ。その場の空気がびりびりと震える。その空気に気圧されながらも、周りの者たちは息を凝らして成り行きを見ている。「抜かぬ」みつは伝兵衛に答える。「あなたがその刀を手にしている限り、わたし...荒木田みつ殺法帳Ⅱその十一
「好い加減にしたらどうだ?」みつは静かに言う。「戦う気力の無い者を嬲るなど、不快でしかない」「……荒木田みつ……」伝兵衛はからだをみつの方に向けた。その隙に清左衛門は這いながらその場を離れた。伝兵衛は、その姿に侮蔑の一瞥をくれると、すぐにみつに顔を戻した。「ならば、お前が相手になろうと言うのか?」伝兵衛は言うと、不遜な笑みを浮かべる。「斉藤は死に、村上は腰抜けだ。定盛が『まだ血が足らぬ』と嘆いておるわ!」「愚かな……」みつは大きくため息をつくと、前へと進み出た。伝兵衛の誘いに応じる事と、宿場の人たちを巻き込む事を避けるためだ。「あなたはその刀が妖刀だと言うが、証しはあるまい?」みつは腕組みをしたままで言う。「それに、定盛なる刀鍛冶が実在したのかも定かではないのだろう?」「……何が言いたいのだ?」伝兵衛の表...荒木田みつ殺法帳Ⅱその十
斉藤源馬は上段に構えた。一気に振り下ろして何者をも両断しようと言う気迫の籠った剛の剣だ。村上清左衛門は正眼に構えた。相手の力をいなしながら懐に斬り込もうと言う静かな中に必殺の斬れ味を持つ剣だ。……どちらもなかなかの使い手だ。みつは横並びになった源馬と清左衛門を見て思う。……さて、伝兵衛はどう出るか。みつは伝兵衛に目をやった。伝兵衛は抜刀した刀をゆっくりと下げ始めた。右足先に地擦りの下段に構えると、刀を返し、刃を二人に向けた。みつは道場での戦いを思い出していた。……あの時は下段の構えをしていなかったはずだが?あれから更に修業を積んだのだろうか?みつは思案しながら見つめていた。「……おみつさん……」背後から声を掛けられた。振り返るとおてるが青褪めた顔で立っている。「あの浪人さんたち、斬り合うの?」「そうなるだ...荒木田みつ殺法帳Ⅱその九
荒れ寺の朽ちた門をくぐり、正面の廃墟となった本堂の右側を見ると、すでにわいわいと騒ぐ下衆な声がしていた。そこが境内だ。だが、今では単なる雑草の生えた野原でしかない。長四角の土地の三つの隅にそれぞれ十人前後の男たちが固まって立っている。ひときわ大きなからだをした髭面の浪人が腕組みをして立っている。これが梅之助の所の用心棒の斉藤源馬で、源馬の隣に立っている辛気臭い様子の男が梅之助なのだろう。立ち止まっているみつを放っておいて、文吉と宗助は小走りにその二人の方へと駈けて行った。別の隅には、すらりとした立ち姿の若く小ざっぱりした浪人が笑みを浮かべて立っていた。その隣には、父親くらいの歳の、酒のせいか鼻の頭の赤いでっぷりとした男が立っている。これが、優男の村上清左衛門と竹蔵だった。みつに続いて現われた宿場の娘に気が...荒木田みつ殺法帳Ⅱその八
その翌日、文吉と若い衆とが現われた。水ごりをして艶やかに光る黒髪と、真新しい晒しを巻き付けた胸元が着物から覗いているみつの、妙に神々しい雰囲気に、文吉はほうっと見惚れてしまった。「……じゃあ、行くぜ」文吉は邪念を掃う様に頭を振る。「他の連中もすでに集まっているだろう」「どのように進めるのだ?まさか、一斉に斬り合いをさせるわけではあるまい?」みつが文吉に訊く。「何故そんな事を?」文吉は訝しそうな顔をする。「いや、話だと『松竹梅の三馬鹿』と言う事だから、何を考えているかと不安になってな」「三馬鹿……」文吉はつぶやくと、おてるを睨んだ。「おてる、お前ぇが吹き込みやがったのか?」おてるは固まってしまった。そんなおてるの前にみつが立つ。「三馬鹿は偽りか?」「え?……いや、その……」文吉も歯切れが悪い。「松吉と竹蔵に...荒木田みつ殺法帳Ⅱその七
「……おてるさん、その黒田と言う男の額に傷はないか?」みつは言うと、自分の額の真ん中に、真っ直ぐ立てた右の人差し指を当てて見せた。泣き出しそうだったおてるは真顔になって、みつの様子をじっと見つめた。「そう、黒田って人のおでこには縦に傷があったよ。結構古そうで……」おてるは言う。「……おみつさん、本当に神通力があるんじゃない?」「そうではない」みつは額の手を下ろす。「やはりそうなのか……」みつは深いため息をついた。五年ほど前の事になる……三衛門は剣術に少しでも興味関心がある者を、武家も町人も農民も分け隔てなく通わせ、皆門弟として扱った。門弟同士も分け隔てなく仲良く付き合うようになって行った。三衛門の人徳のなせる業なのか、みつを目当てに通っている仲間意識からなのかは分からないが。そんな折、ふらりとやって来たの...荒木田みつ殺法帳Ⅱその六
翌日の昼過ぎ、宿場外れの小川の岸辺で、みつは白刃を素振りしていた。一日でも剣の修行を怠ると全身を重い鉛で包み込まれたような感じになってしまう。みつは一振り一振りに集中していた。風切り音が凄まじい。そんなみつの元へ、おてるが駈けてきた。「おみつさ~ん!」おてるは叫びながら両手を振り回している。みつは手を止め、おてるの方を向いた。みつの傍まで来ると、おてるは膝に手を当てて、はあはあと荒い息遣いを繰り返す。ずっと走って来たのだろう。「おてるさん、どうした?」みつが尋ねるが、おてるはちょっと待ってと言わんばかりに右手を上げる。みつは手にした刀を腰の鞘に納める。鍔がちんと涼やかな音を立てた。しばらくすると、おてるの息も整い、からだを起こす事が出来た。「はあ~っ、やっとしゃべれる……」おてるはにっこりと笑う。「それで...荒木田みつ殺法帳Ⅱその五
……来たか……奥の床几に腰掛け、壁に背凭れていたみつは目を開けた。店の中は暗い。太助は二階で寝ている。おてるは、みつと一緒に居ると言って聞かず、隣に座った。隣に座り、最初の内こそ色々と話をしてきたものの、夜が更けるころには寝入ってしまい、今は壁に背凭れながら、ぐうぐうと鼾をかいている。みつは、おてるを起こさぬ様に、左手で太刀をつかみ、そっと立ち上がった。みつは出入り口の障子戸の前まで進む。外の気配を窺う。雪駄が地を掏る音がしている。ぶつぶつと何やらつぶやく声もする。六人ほどいるようだ。みつは、あからさまな様子に苦笑する。……そうか、わたしがいるとは夢にも思っていないのだな。みつは障子をを押さえている心張り棒を外し、障子戸を勢い良く開けた。目の前には、右手を振り上げて拳骨を作った文吉が、驚いた顔で立っていた...荒木田みつ殺法帳Ⅱその四
「いやいや、ありがとうごぜぇます……」そう言いながら調理場から出てきたのは白髪頭の老人だった。老人は、みつに向かって深々と頭を下げた。右手にはもりそばの乗った器を左手には汁の入った椀とを手にしている。「あいつら、毎日来ちゃあ、酒ばっかり飲んでさ、それでお代も払わないで帰っちまうんだ」老人の後ろから、赤い頬のおてるが、同じくもりそばの器と汁の椀とを手に現われた。「でも、お侍さん、強いんだね!」「こら、おてる!お侍は男に使う言葉だ!」老人がおてるをたしなめ、申し訳なさそうな顔をみつに向ける。「すんません、何しろ学のねぇ小娘でして……」「いえ、それは気にしてはいません。わたしを知る者は『女侍』と言いますので」みつは答え、頭を下げる。「……わたしは荒木田みつと申します」「もったいねぇ!頭をお上げくだせぇやし」老人...荒木田みつ殺法帳Ⅱその三
ぼたり、と、編笠越しに何かが当たる音がした。みつは足を止めた。ぼたり、ぼたり。音が続いた。「……雨……」みつはつぶやく。その声に呼応するように、雨粒の音は間隔を狭め、強くなる。やがて本降りとなった。みつは街道沿いの林に入り、木の下で雨宿りをする。「さて、これからどうしたものか……」みつは剣術以外の事には全くの無関心だった。この中山道がどこに通じているのかさえ関心が無かった。それ故に、坂田の家までの道筋を父三衛門に一筆認めてもらい、それを頼りに進んでいたのだ。途中で泊まる宿場も記されていた。「帰りはこの逆を辿れば良い」と三衛門は言った。みつはその通りにしようとしていたが、生憎の雨になってしまった。雨脚は強くなってきた。止みそうな気配はない。「この調子では、今夜決めている宿場まで辿りつけそうもないな……」みつ...荒木田みつ殺法帳Ⅱその二
昼下がりの中山道を江戸へと帰る荒木田みつの姿があった。相変わらず袴姿で左腰には大小を手挟み、深編笠を被り、大股で歩いていた。編笠から見える束ねて垂らした黒髪がその背で忙しなく左右に揺れている。みつは、父三衛門の代理として、上州の近くまで足を運んだ。訪れたのは坂田家だった。相手は三衛門の亡き妻であり、みつの母でもあったしのの実家筋に当たり、その土地では古くからの家柄で、財力も豊富、当主も代々、江戸の方面にも顔が利いた。本来は三衛門が行くべきであったのだが、三衛門は苦手としていた。坂田家は、妻生前から、何かと三衛門に風当たりが強く、事ある毎に文句をつけて来ていた。元々格式の違いを気にしていた坂田家だったが、仲人に立った剣術の師範の手前、断り切れなかったのだった。それ故に、妻が亡くなった際には、三衛門を「妻も守...荒木田みつ殺法帳Ⅱその一
「おい、まだ先か?」高志が言う。「もう少しだ」オレは答える。「本当にこの森の深奥に、お宝があるんだろうな?」「あるさ。間違いない」オレは後ろを歩く高志に振り返り、笑みを見せる。ここは深い森の中だ。進むにつれて木々が多く高くなり、空が見えなくなった。高志は忌々しそうに見上げる。「森に入り前はあんなにカンカン照りだったのに……」「まあ、怒るなよ。もう少しだ」しばらく行くと、いきなり開けた場所に出た。「……ここだ……」オレは足を止めつぶやいた。高志はオレを押し退けて、この開けた場所に駈け出した。あちこちを探っている。オレはそんな高志を見つめていた。「……おい」息を切らした隆がオレに振り返る。「どこにもお宝なんてないじゃないか!」「そうか?」オレは答える。「じゃあ、ガセネタだったんだろう」「ふざけんな!」高志はオ...悪意の森
「ブログリーダー」を活用して、伸神 紳さんをフォローしませんか?
指定した記事をブログ村の中で非表示にしたり、削除したりできます。非表示の場合は、再度表示に戻せます。
画像が取得されていないときは、ブログ側にOGP(メタタグ)の設置が必要になる場合があります。