日々思いついた「お話」を思いついたままに書く
或る時はファンタジー、或る時はSF、又或る時は探偵もの・・・などと色々なジャンルに挑戦して参りたいと思っています。中途参入者では御座いますが、どうか、末永くお付き合いくださいますように、隅から隅まで、ず、ず、ずぃ〜っと、御願い、奉りまする!
朝から雨が降っていた。傘を目深にかぶった侍が黙々と歩いている。左の腰に大小を下げ、茶色の袴姿で大股で歩いている。傘を左手に持っているのは、いつでも抜刀できる気構えの現われか。昼時と言うのに人気の少ない郊外の道は、雨もあって益々淋しい。しかし、その侍は気にする事無く歩いている。と、背後が何やら騒がしい。侍は足を止める。「お助け下さいまし!」女の切迫した声がする。それに被るように男たちの怒号がする。振り返った侍の胸に娘が飛び込んできた。雨具も無く、全身が濡れそぼった娘は、その身形から町人と見えた。着物は背中まで泥で汚れている。相当の距離を走ったものと見える。息も絶え絶えだった。追いついた男たちは、これもどこぞの藩の者たちの様だ。皆、深胴笠を被っている。胸に与かった女をそのままにした侍をぐるりと遠まわしに囲んだ。中の...荒木田みつ殺法帳1
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 31
トイレのドアが開いた。さとみが廊下に出てきた。「会長!」しのぶが真っ先にさとみに駈け寄る。「どうなったんですか?終わったんですか?まだ何かあるんですか?」矢継ぎ早の質問攻めに、さとみは力無い笑みを返す。「ほらほら、しのぶちゃん、さとみちゃんはちょっと疲れているようよ」百合恵がしのぶに軽く注意する。それからさとみを見る。「この様子だと、無事に終わったようだわね……」「……はい、何とか……」さとみは答えると足元が覚束なくなり倒れかけた。素早く百合恵がさとみを抱きしめる。「さとみちゃん、大丈夫なの?ちゃんと歩けてない様だけど……?」百合恵が抱きしめたまま、さとみの顔を覗き込む。「大丈夫です」さとみは幾度か口をぱくぱくさせて答える。「本当、大丈夫ですから……」しのぶは百合恵の隣で心配そうな顔をしている。「しのぶちゃん…...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪31
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 30
「うわっ!」そう叫んだのは葉亜富だった。金色のさとみに突き入れた脇差が、何か硬いものに当たったかのように弾かれたのだ。その反動で葉亜富は大きく仰け反った。「天誅!」「覚悟!」みつと冨美代が同時に声を上げ、刀と薙刀を葉亜富に討ち込んだ。「うっ……」葉亜富はよろよろと後ずさる。「やりやがったなぁ……」「卑怯な真似をしたのはお前だろう!」みつが刀を正眼に構え直す。「さとみ様の優しさにつけ入るとは、言語道断!自業自得と思いませ!」冨美代も薙刀を八相に構える。「おい、もう良いだろう……」流人が言う。声が弱々しい。「葉亜富を許してやってくれ……」流人の声に只ならぬものを感じた二人は構えを解いた。「流人……」葉亜富が流人に振り返る。「……わたし、綺麗なままか?」「ああ、最高だよ」流人が笑む。「今までで最高に綺麗だ。こりゃあ、...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪30
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 29
「え?何で?」さとみ自身が驚く。「これも、おばあちゃん?」葉亜富に青白い光を放たれたさとみだったが、生身と同様に全身が金色の光で包まれたのだ。そして、生身同様、青白い光は霧散した。さとみは自身の生身を見ると、まだ金色の光に包まれている。「おばあちゃんの力って、凄いんだぁ……」さとみは呆気にとられたように感心している。葉亜富は地団太を踏んで悔しがっている。「はあっ!」冨美代の気合いが響き、流人の放った脇差は床に払い落された。太刀はみつの顔に目がけて飛んだ。「ふむっ!」みつの静かな気合がし、両手の平を顔の前で合わせた。みつが白刃取りをしたのだ。切っ先が額すれすれで止まっている。素早く柄を持ち、切っ先を流人たちに向ける。「ふん、女侍だ明治女だと、散々な事を言ってくれたな!」みつが流人を睨みつける。「お前たちには天誅が...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪29
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 28
「あっ!」さとみは思わず声を上げる。「むっ!」みつも殺気に満ちた眼差しを影に向ける。「……何ですの?」冨美代は怪訝な表情でさとみたちと影とを見比べている。「あれは、全ての元凶です……」みつが言い、そっと冨美代の前に立つ。「あれのせいで、冨美代殿も嵩彦殿も……」「左様でございましたか……」冨美代がみつの背中越しに影を見つめる。「この破廉恥な者たちも、以前のミツルなる男装の女性も……許せませぬ!」冨美代は声を強める。そのままみつの背後から出た。すでにその両手に薙刀が握られていた。それを上段に構える。「冨美代殿、あれには武器は通じない」みつが冨美代の肩に手を置く。「わたしも斬りかかりましたが、影は刀を捕え、宙高く上がってしまいました」「なっ……みつ様の剣が通じないとは……」冨美代は驚愕する。上段の構えを解く。「あれが...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪28
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 27
葉亜富の嘲笑を無視し、冨美代はじっと嵩彦を見つめている。嵩彦は足を止めた。そして、顔を上げ冨美代を見つめる。「ははは、最期のお別れかい?」葉亜富がさらに笑う。「さっさと済ませて下僕の中に戻っちまいな!」と、嵩彦は勢いを付けて障壁へと突進した。大きな激突音がして、嵩彦は床に転がった。「嵩彦さん!」そう叫んだのはさとみだった。さとみは障壁を叩く。「何をやっているのよう!そんな事をしていたら、力尽きて、消えちゃうわ!」嵩彦はゆらゆらと立ち上がった。そして、再び後ろへと下がる。大きく深呼吸をすると、冨美代を見つめ、再び突進してきた。しかし、やはり、激突音がして嵩彦は転がった。「冨美代さん!嵩彦さんを止めないと!」さとみは冨美代の肩を掴む。「どうしたのよう!どうして黙っているのよう!」「ははは、それは呆れ果てているからさ...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪27
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 26
「……冨美代さん……」そうつぶやいたのは、絶え絶えの息の嵩彦だった。両手を床に付き、震える腕を伸ばす。なんとか上半身を起き上がらせると、顔を冨美代に向けた。やつれた顔に笑みを浮かべる。しかし、その唇は震えている。「……冨美代さん……無事だったのだね……」嵩彦は力ない声で言うと涙を流す。「良かった、良かった……」「嵩彦様!」冨美代は嵩彦の前に座り込むと、見えない障壁に両手の平を押し当てる。頬を涙が伝う。「……殿方が泣いてはいけませんわ」「はは……相変わらず、厳しいね」嵩彦は笑む。「でも、そんな冨美代さんが僕の支えだよ……」「わたくしもあの時は言い過ぎました。嵩彦様はわたくしの事を慮っておっしゃって下さったのに、わたくしったら、嵩彦様を……」「いや、僕は基本的に軟弱者だったよ。田舎では腕力のある者が上に立っていた。...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪26
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 25
ふらふらな嵩彦が姿を見せた。力尽きたように倒れ込んでくる。冨美代は支えようと手を伸ばす。しかし、嵩彦はガラスの壁のようなものに全身がぶつかった。そして、そのままずるずると壁を擦るように倒れ込んだ。差し出した冨美代の手の平はガラスの壁に押し当てられている。「嵩彦様!」冨美代は言うと、葉亜富に振り返る。その瞳は怒りに燃えている。「貴女、何と言う事をなさるの!」「ふん、うるさいなぁ!」葉亜富がうんざりした顔で言う。「全部わたしのものなんだ。だから外へ出ないように囲っているんだよ!散々いたぶって苦しませてやるのが目的だけどね。まあ、飽きたら放り出してやろうとは思っていたけどさ、……あんたの愛しい嵩彦は、絶対出してやらないよ!」「ひどい!」冨美代は唇をわなわなと震わせる。それから、うつ伏せて倒れ背を大きく上下させて苦しん...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪25
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 24
「さとみ様……」冨美代はさとみに振り返る。その頬は涙で濡れていた。「わたくし……」「おい!無視すんのかよう!」葉亜富は立ち上がる。怒りで顔が真っ赤だ。「人にぶつかっておいて、詫びもしないのかよう!」「あ……」冨美代は葉亜富を見る。流れる涙をどこからか取り出した絹のハンカチーフで拭うと、両手で袴を摘まんで少し左右に拡げ腰を落とす仕草をする。「これは失礼をいたしました。急いでいたものですから」「何を気取っていやがるんだ!」葉亜富が怒鳴る。「それになんだい、そのへんちくりんな格好はよう!」「へんちくりん……?」冨美代は意味が分からないと言う顔をする。「それって、どちらの方言ですの?」「お前、ふざけてんのか!」「ふざけているには、そちらではないのですか?」冨美代は眉間に皺を寄せ、嫌悪感を隠さない表情で続ける。「何ですの...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪24
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 23
「さあて……」葉亜富がにやりと笑む。「もうお前だけだよ。どうしてやろうかねぇ……」「女侍に期待しているのかい?」流人が笑いながら両手を広げる。床に落ちていたみつの刀が流人の手元まで浮かび漂ってきた。「残念だけど、刀はここだ」「おのれ、卑怯な!」みつが語気を荒げる。「だが、素手でもお前たちを相手に出来るのだぞ!」「そんな事をしたら、この刀、お嬢ちゃんを貫くぞ」流人が笑う。切っ先がさとみに向いた。「斬れ味が良さそうな刀だからな。貫いたら、あっと言う間に消えて無くなるんじゃないかな?」「むっ……」みつは握りしめた拳をさらに強く握る。腕が怒りで震えている。「それに、さっきも言っただろう?君は全裸と同じだってさ」「そんな世迷言はもう効かない!」みつが言う。「それに、その刀で貫きたいのなら、わたしにするんだな。もし、さとみ...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪23
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 22
「お姐さん、ちょっと言い過ぎね……」葉亜富が言う。「お仕置きが必要だわ……」「お仕置き?」百合恵がからかうように言う。「どうするのかしら?お尻でも叩くの?それとも、『めっ!』って叱るの?」「ふざけんじゃないわよ!」葉亜富が怒鳴る。それから冷たい笑みを浮かべ、おろおろしているしのぶを見つめる。「お姐さんにはお仕置きはしないよ。……そっちのお嬢ちゃんにだよ」「ちょっと!ふざけないで!」百合恵はしのぶの前に立って楯になる。「この娘は、ただの傍観者、言ってみればお客さんよ。お客に手を出しちゃいけないわ」「……百合恵さん、何の話ですか?」しのぶが弱々しい声で訊いてくる。百合恵の一方的な言葉からでも、自分に危険が近付いていることが分かる。「わたしが危ないんですか?」「大丈夫よ、しのぶちゃん」百合恵は背中越しにしのぶに言う。...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪22
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 21
「百合恵さん……」しのぶは不安そうな顔を百合恵に向ける。しのぶには、霊体を抜け出させ、ぽうっとした表情のままで突っ立ているさとみしか見えないからだ。今回は声らしきものも聞こえないし、肉眼で捉える事の出来る霊体もない。しかし、雰囲気で、何かが起こっているのは分かる。しのぶの不安そうな表情に、百合恵は優しい笑みを返す。「大丈夫よ、しのぶちゃん。男だ女だって言ってもめているわ」「……どう言う事ですか?」「そうねぇ……」百合恵はくすっと笑う。「思っているほどに凶悪じゃ無さそうね」百合恵は言うと視線を揉めている三人に戻した。「……だからさあ!」葉亜富が流人に縋る。「そいつは流人持ちだってば!」「おい、何回言わせんだ!」虎之助が怒鳴る。「そいつ呼びは止めろって言ってんだろうが!この馬鹿野郎が!」「なんだよう!お前だって口が...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪21
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 20
「ははは、怒るなよ、葉亜富」流人の笑い声がした。姿は見えない。「僕たちは力をもらっただろう?そんな傷なんか無いも同然だよ。忘れたのか?」「分かっているわよう!」葉亜富は言うと腹から手を離す。傷が消えていた。「でもさ、腹が立つじゃないか。この腹を舐めるヤツは一杯いたけど、斬るヤツは初めてなんだ」突然、流人がみつの目の前に現われた。左の親指と人差し指とでみつの刀を摘まんだ。「……そう言うわけだよ、女侍さん」流人は刀の峰を軽く摘まんでいるようにしか見えなかったが、みつが押そうが引こうがびくともしなかった。みつは刀から手を離し、腰に手挟んでいた脇差を抜き、流人を斬り付けた。しかし、これも右手で摘ままれてしまった。みつは素早く後方へと跳び下がった。流人は両手に刀を摘まんだまま、うっとりするような笑みをみつに向けた。「はは...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪20
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 19
「そもそも僕たちはね」流人がうっとするような笑顔で言う。「つい数年前まで、持ち前の美貌で異性をたぶらかし、散々しゃぶりつくした後に捨てて行ったんだ。あ、しゃぶるって言っても、変な意味じゃないよ?持っている財産をすっかりと頂き尽くすって意味だからね。変な想像は禁物だよ。……まあ、最期は二人とも危ない組織に捕まって、嬲り殺しにされちゃったんだけどね」「それは流人がその組織の親分の奥さんに手を出したから、報復されたんじゃないのよ。関係ないわたしまで捕まっちゃったわ」「何を言ってんだい。捕まった後なのに葉亜富はその親分を誑かそうとしたじゃないか」「それはわたしの本能だもん、仕方ないわ」「そのせいで酷い殺され方をしたんだぞ。覚えているかい?」「あら、恨んでるの?」「いや、生身が無くなった分、好き勝手に動き回れるようになっ...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪19
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 18
百合恵が入って行くと、しのぶは左手にボイスレコーダーを持ち、右手にデジカメを持って、手洗い場の付近に立っている。さとみは一番奥の個室の前にいた。その脇にみつと虎之助がいる。「しのぶちゃん、そろそろ時間?」さとみが個室を見ながら言う。「ええと……」しのぶがデジカメを洗面台に置いて、ポシェットを開けようとしている。携帯電話を取り出して時間を確認しようとしているようだ。百合恵はすっと左腕をしのぶの前に出し、腕時計を示した。しのぶが百合恵を見上げると、百合恵は優しく微笑み、うなずいてみせた。「はい、あと一分程です」「そう。じゃあ、電気を消してちょうだい」「は、はい」いつもと違う雰囲気のさとみに戸惑いながらも、しのぶはドア付近にあるの電灯スイッチを切った。一瞬で真っ暗になる。しのぶが持っているボイスレコーダーの作動中を示...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪18
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 17
さとみはむすっとしたまま進む。その後を息を切らしたしのぶが続く。「綾部君、どうしたんでしょうねぇ?」松原先生が並んで歩いている百合恵に訊く。「……百合恵さんも少しばかり怒っているようですが……」「いえ、さとみちゃんほどではありませんわ……」百合恵が答える。「ちょっと困ったちゃんがいましてね。それに腹を立てているんですよ」「困ったちゃん……?」松原先生はつぶやいて、はっと気がつく。「困ったちゃんって、霊ですか?」「そうですわ。囚われているかつての恋人に冷めちゃったとかで、助けに行きたくない、会いたくないって言い出して」「そうなんですか……」松原先生は答えてから、再びはっとする。「ちょっと待ってください!囚われているとか、助けるとか、なんだか危険な雰囲気が漂っているようですが……」「あら、何をいまさらおっしゃってい...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪17
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 16
「わあっ、先生!朝の惨状からは想像もつかない綺麗さですね!」しのぶが感嘆の声を漏らす。数学準備室は綺麗に片付いていた。壁も床のタイルもぴかぴかに磨き上げられている。しのぶが思わず言うのも納得だ。「何を言っているんだね、栗田君」松原先生は慌てたように言う。「いつもこうだったじゃないか。君は記憶違いをしているのだよ」「いいえ、そんな事はありません」しのぶは言うとポシェットから携帯電話を取り出し、画像をチェックし始めた。その手が止まる。「ほら、今朝の惨状ですよ。これでも記憶違いですか?」時代劇で、悪代官たちを平伏させる究極のアイテムのように、しのぶは携帯電話の画像を皆に見せた。ぽんこつの松原先生と散らかり放題な周辺とが写っている。百合恵はくすくすと笑い、覗いていたみつと冨美代と虎之助も笑っている。「ちょっと、栗田君!...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪16
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 15
百合恵の車で学校に向かうと、校門にしのぶと松原先生とがいた。「あ、会長!」しのぶがさとみたちに気がつき、駈け寄って来た。その後をもったいぶって歩き方で松原先生が着いて来る。「あらあら、しのぶちゃんったら……」百合恵はにやにやしながら言う。それと言うのも、しのぶの恰好が、さとみと同じオーバーオールだったからだ。さとみはピンクのTシャツだったが、しのぶは黄色のッシャツだ。そして、似たようなポシェットをたすき掛けしている。「ふふふ……さとみちゃんはポコちゃんで、しのぶちゃんはパコちゃんって感じね」「なんだか恥ずかしいんですけど……」「きっと、さとみちゃんを尊敬しているのよ。同じ格好をしたいって言うのは、その表われよ」しのぶがはあはあと息を切らしながら、さとみたちの前で立ち止まる。ちょっとぽっちゃりなしのぶは走るのが苦...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪15
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 14
さとみは帰宅後、母親に夜出掛けると話をした。今日休みだった父親は、まだ寝ているようだ。「麗子ちゃんのお宅でお勉強でもするの?」母親は言う。「麗子ちゃんはともかく、あなたが勉強したって、今さらな感じがするけどねぇ……」「ふん!」さとみはぷっと頬を膨らませる。しかし、母親の勘違いを利用しようと思った。「良いじゃないのよう!これでもわたし、国語系は強いんだから、麗子に教えてやれるわよ!」「国語なんて教わるものなのかい?」母親は馬鹿にする。「どうせなら、理数系が強かったらよかったのにねぇ」「仕方ないじゃない!お母さんの娘なんだから!」「あら、わたし、これでも、理系が得意だったのよ」母親はさらに馬鹿にする。「お父さんも理系の大学に行ったわ。それなのに、お前は文系なんだねぇ……本当にわたしたちの娘なのかしら?」「何て事を言...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪14
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 13
「……と言う訳なんです」「ほえっ?」ここは数学準備室だ。数メートルの高さにまで積まれた参考書が不安定に揺れている机があった。周辺には何枚もの破ったりくちゃくちゃに丸めた紙で埋められている。その中で椅子に座っている人物は、髪の毛をぼさぼさにして逆立て、そこそこ伸びた無精髭にカップ麺のナルトの欠片を貼り付け、目の下に黒のマジックインキのペンで書きこんだ様な隈を作っている。「ほえっ?じゃなくてですね、松原先生」しのぶが言う。「聞いていてくれたんじゃないんですか?今夜、また学校に入りたいんです。これは霊体さんを助けるためです」「ああ、そう……」すっかりポンコツになっている松原先生が上の空のように答える。「で?」「で?じゃなくって……」冨美代に嵩彦と会うようにと勧めたさとみだったが、その方法が浮かばなかった。霊体を戻し、...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪13
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 12
「会長、冨美代さんと彼氏さんとの間に何があったんですか?」「そうねぇ……」さとみは冨美代の方を見る。「平たく言えば、意見の相違、ってヤツかしら?」さとみの言葉に冨美代は大きくうなずいた。「ええええっ!そんなのダメじゃないですかあ!何を考えているんですかあ?」突然、しのぶは大きな声を出した。明らかに憤慨していた。「ちょっと、しのぶちゃん……」「いいですか?」しのぶは鼻息荒く、さとみの視線の先の壁を見る。見えてはいないが、冨美代に向かって話しているようだ。「人なんて、思い通りに行く事なんて、滅多にありはしないんですよ!実験だって、研究だって、最初から思い通りの結果なんて出ないんです!何回も何回も失敗して、何回も何回も考えて、時には自分の非を素直に認めて方法や考えを修正して、それでもダメで、でも挫けずに続けて、それで...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪12
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 11
「会長、おはようございます……」しのぶはさとみに向かって一礼する。まだ眠いのか、いつもの元気の良さはない。寝ぼけたような顔で返事を待っている。さとみの霊体が抜けている事に気がついていない。さとみは慌てて霊体を戻した。「おはよう、しのぶちゃん」さとみが声をかける。「なんだか、眠たそうだけど、大丈夫?」「え?はい、大丈夫です。何が録れているのか色々と推察していたら、朝になっていました……」しのぶは大きな口を開けて欠伸をする。その様子を見て、冨美代は咎めるような顔をした。……何とはしたない!冨美代さん、そう言いそうね。さとみはくすっと笑う。「会長、どうかしました?」しのぶが欠伸ついでに流れた涙を手の甲で拭った。「さあ、学校に入りましょう。そろそろ部活の朝練組が来る頃ですから……」しのぶが歩き出す。やっと目が覚めたよう...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪11
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 10
翌日、さとみは早起きをした。前日、しのぶと一緒にボイスレコーダーを仕掛け、朝一で学校に行って回収し、録れたものを聞こうと言う事になったからだ。正直言って眠い。寝るのが大好きなさとみだったが、ここは心を鬼いして自分自身を奮い立たせる。制服に着替えてリビングに降りる。昨夜、明日早いから朝食はいらないと言ってあったので、食卓には何も並んでいなかった。……育ち盛りの娘の事を考えたら、おにぎりの一つでも作ってくれて良いじゃないのよう!そう思ったさとみは、ぷっと頬を膨らませる。そんな事を思うのなら自分で用意すれば良い、と言う事にまでは考えが至らない。実際、まだ両親は起き出してはいなかった(さとみは知らなかったが、今日は父親は会社を休んでいたのだ)。ぷんぷん怒りながらさとみは家を出た。学校に着いた。まだしのぶは来ていなかった...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪10
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 9
「さてっ、と……」さとみは北校舎に来た。ここの三階に心霊サークル「百合恵会」が使っている空き教室がある。テスト期間中と言う事で足が遠のいていたが、ほんの数日だ。しかし、かなり来ていないかったような気がしている。しんとして人気が無く、しかも幽霊騒ぎのあった場所だ。さとみは何となくイヤな雰囲気を感じて辺りを見回すが、霊体は見かけなかった。あのラスボス級の黒い影が、どんよりとした気のようなものを漂わせているからかもしれない。加えて、昼のしのぶの様子だ。あの心霊モードのしのぶでさえ怖がっていた。余程のものが録れているのだろう。さとみは気が重かった。気分が重いまま階段を上って三階に着くと、しのぶが優れない顔色で立っていた。胸に鞄と昼間に握り締めていたボイスレコーダーの入った布袋を抱え込んでいた。「あら、教室で待っていてく...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪9
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 8
放課後になった。アイが教室に入って来て、麗子と並ぶ。二人は、のろのろと帰り支度をしているさとみを待っている。「あ、今日はこれからちょっとあって、一緒に帰れないわ……」支度か終ったさとみが麗子に言う。「ごめんなさい。今日は二人で帰ってもらって良いわ」「会長」アイが言うって口を尖らせる。「最近、何だか付き合いが悪いような気がするんですけど?」「そうかしら?別にそんなつもりは無いんだけどなぁ……」「じゃあ、無意識に避けているって事ですかぁ……」アイの声が弱くなる。「わたし、会長の逆鱗に触れるような事をしましたかぁ……」「え?ちょっと待ってよう!」さとみは慌てる。「そんな事、何にもしていないわよう!」「じゃあ、どうして!」アイは強く言ったが、続く声は聞き取れないほど弱くなっていた。「どうして……会長……わたしの事……嫌...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪8
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 7
翌日。昨夜の事が気にはなったが、あれきり何の音沙汰もない。ならば、あれこれと気に病んでも仕方がない。さとみはそう割り切る事にした。……冨美代さんも、イヤだ嫌いだって言うんなら、もう放っておけば良いのに。でもあの様子じゃ、まだ気にしているようだったし。振り回されるみつさんや豆蔵が気の毒だわ。それにしても、あれだけ好きだった相手をそんなに簡単に嫌いになれるものなのかしら?恋愛経験の乏しいさとみには、あまり良く分からないと言うのが実際だ。昼休みになった。いつものようにアイがやって来て麗子とこそこそと話を始める。「会長、麗子と話があるので、屋上へ行っても良いですか?」アイが訊いてきた。「ええ、どうぞ」さとみは返事をする。「それにしても、二人って仲良しなのねぇ……なんだか恋人同士みたい」さとみがしみじみとした口調で言う。...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪7
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 6
「あっ、豆蔵、良い所に!」さとみが大きな声で言った。豆蔵が振り返る。みつの腕にしがみつく冨美代、それを何とか振りほどこうとするみつ、その様子に豆蔵は呆気にとられている。「……みつ様、冨美代様、何をなさっておいでなんで?」豆蔵が訊く。冨美代は慌ててみつから離れた。「……それに、冨美代様が嬢様にお話があるからって事じゃなかったでしたっけ?」「ああ、豆蔵さん!」みつがほっとしたように言う。「冨美代殿が、いきなり、しがみ付いてきまして……」「左様ですかい……」豆蔵は冨美代を見、それからみつを見た。「きっと、お一人でお淋しかったんですよ。ほら、あっしらの中で女性はお二人だけだしね。虎之助は何だかんだ言って男でやしょう?それにお二人は産まれた時代は違え、似たような年頃。みつ様もちったあ冨美代様を甘えさせても良いんじゃねぇで...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪6
霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 5
「それなら、わたしも嵩彦さんを探すのを手伝う?」さとみが二人に訊く。「でも、顔を知らないからなぁ……」「散々探し回ったのですが、見つかりません」冨美代が言う。「勝手に成仏したのか、あるいは……」「あるいは……?」さとみは首をかしげる。「まさか、他の女の人と仲良くなった、とか?」「そうかもしれません」冨美代はため息をつく。「それならそれで構わないのですが、そこがはっきり致しませんと、わたくしも先に進みようがございません」「そこで、わたしは思うのですが……」みつが言う。「嵩彦殿の姿が見えなくなったのは、学校であのミツルが絡んだ一件からでした」みつは忌々しそうな表情をする。我知らず腰の刀の柄に手がかかるみつだった。「ねぇ、座りましょ?」さとみが言う。みつの態度に危惧を覚えたからだ、怒りがきっかけで思い出さなくても良い...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第四章女子トイレのすすり泣きの怪5
「ブログリーダー」を活用して、伸神 紳さんをフォローしませんか?
指定した記事をブログ村の中で非表示にしたり、削除したりできます。非表示の場合は、再度表示に戻せます。
画像が取得されていないときは、ブログ側にOGP(メタタグ)の設置が必要になる場合があります。