**************** 「圭吾!」 走りながら、上がりそうな息で必死に叫ぶ。周囲を見回して、胸の底でずっと忘れなかった後ろ姿を探す。「圭吾!」 美並の声が響くのに、会社のホールを通る人々が
ツンデレ姫と美貌の付き人などの恋愛ファンタジー毎日連載。『アルファポリス』『小説家になろう』参加。
男勝り姫君ユーノと美貌の付き人アシャのハーレクインロマンス的なファンジー小説『ラズーン』毎日連載。『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』は出戻り姫シャルンと腹黒王レダンのラブコメディ、時々連載。
**************** 俺は滝という男が嫌いだ。 孤児だかなんだか知らないが、明るく正しく生きてるんだという顔をして、へらへら笑っていやがるあの能天気さが嫌いだ。 ドジで頭も切れねえく
**************** 「坊っちゃま…」「何?」 打てば響くように返ってくる答えに、高野はことばに詰まった。 周一郎は知っていたのかもしれない、大悟が決して自分を大切に思って保護してくれた
**************** 「坊っちゃま…」「何?」 打てば響くように返ってくる答えに、高野はことばに詰まった。 周一郎は知っていたのかもしれない、大悟が決して自分を大切に思って保護してくれた
**************** 朝倉家ほどの邸を管理し、動かし、整えるのは並大抵のことではない。邸そのものや広大な庭、数々の防災設備(もちろん、それには『人災』も入る)などの物質的なものは無論
**************** 高野は5時30分に起きる。 かけておいた目覚ましは大抵5分前に止め、ベッドから起き上がって着替えを済ませ、まだ火の入っていない食堂で自分で淹れた紅茶とビスケット数枚
**************** 解剖室に戻る前に、ここだけ見ておいて下さい。 そう頼まれて、森田とともに実験室に入る。「へえ…」 シャーレに液を落としながら、森田は感嘆したような声を上げた。「出会っ
**************** 解剖室には静けさが漂っている。 今しも目の前で、同期の田畑が遺体の右脇にメスを入れている。 人の腰ぐらいの高さの台に横たえられた遺体はホルマリン漬けになっていて
**************** 「ほ…ほほ…」 話を聞き終わった『寿星老(ショウチンラオ)』は微かに笑った。「そのタキ、とか言う男……なかなかどうして……大した男じゃないか…」「でしょう? 何か……呆けて
**************** 飛行機は今、再び由宇子を香港へ、あの夜の都へ運びつつあった。痛みに似た優しさとひとりぼっちの心細さが交互に由宇子の心を揺らせる。 あの2日後、由宇子は陵から資料を
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』4.闇の中の野花儿(イェーファール)(3)
**************** 大学を出て、由宇子は近くの喫茶店に向かった。今朝家を出る前に、唐突に厚木から電話があって話したいと言って来たのだ。「いらっしゃいませ」 ウェイトレスの声に迎えら
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』4.闇の中の野花儿(イェーファール)(2)
**************** コーヒーの香りが満ちて、由宇子は立ち上がった。カップに移し、口元へ持って行こうとした矢先に電話のベルが鳴る。こんな時間にかかって来る相手は相場が決まっている。「
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』4.闇の中の野花儿(イェーファール)(1)
**************** 薄い夕闇だった。 目の前を男が1人、背を丸めるようにして急ぎ足に歩いて行く。 右へ曲がる。立ち止まる。目の前に工事中の札。引き返す。左へ曲がってしばらくまっすぐ、
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』3.十字路口(シーチールーコウ)(2)
**************** 「質問って、どんな質問?」「よく覚えていないんだが…」 滝は子どもっぽい悩みの表情を浮かべて見せた。「テストの闇市…だとか……『つなぎ』がどうとか」「ふ…うん…」 由宇
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』3.十字路口(シーチールーコウ)(1)
**************** 告示が出たのは、それから1週間も立たない日のことだった。『滝 志郎 右、一ヶ月の停学処分とする』「あら…」「へえ…」「どうしたんだろうねえ…」「あいつのことだから、
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』2.一人ぼっちの小姑娘(シャオクーニャン)(2)
**************** あの時。 滝が階段を転げ落ちた時、並の人間なら気づかなかっただろうが、あの八木、と言う男がとっさに紙を滝のポケットに滑り込ませるのを、由宇子は見ていた。 街中、
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』2.一人ぼっちの小姑娘(シャオクーニャン)(1)
**************** 桜の蕾はまだ固い。頑なに内にこもった淡色の丸みは、目を閉じ耳を塞ぎ、ただひたすら自分の中の何かが熟すのを待っている、幼い少女のように見える。「……」 見るともなし
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』1.片眼の『寿星老(ショウチンラオ)』
****************「小朋友,你好!」 香港の下街、道幅の狭い裏道でそう呼びかけられて少女はゆっくり振り向いた。 肩を少し越すおかっぱ頭、黒い瞳が澄んで見張られ、相手を捉える。通った鼻筋
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**************** 「圭吾!」 走りながら、上がりそうな息で必死に叫ぶ。周囲を見回して、胸の底でずっと忘れなかった後ろ姿を探す。「圭吾!」 美並の声が響くのに、会社のホールを通る人々が
**************** 「ふぅん」 真崎が目を細めて振り向く。「そうなんだ?」「あの、ずっと前のことです、それに」「今でも好きなんだ」「はい…?」 もう一度繰り返されて、ようやく一連の会話
**************** 「あの、今なんて?」「……聞こえなかったならいいよ」 真崎はむつっとした顔で呟き、また窓の外をじっと見ている。「どうせ、僕とは違うタイプだし」「……はい……??」 またわ
**************** 「何…っ」 いつの間に戻ってきたのか、声に真崎が身を引いた。「す、すみません」「課長、おかしなことしないでくださいよ」 石塚が睨む。「おかしなことなんかしていないよ、
**************** 新年一週間たって、ようやく美並の気持ちが決まった。 大石となら頑張っていけるかもしれない、温かな笑顔を思い出しながら、そう思った。 年末から連絡はずっとなかったけれ
**************** それが、週末、のこと。「手、動いてないわよ」「あ、はい」 石塚に指摘されて、美並は慌てて資料を捲った。 真崎に耳元で囁かれてぼうっとしていたのかと思われるのは恥ずか
**************** 「やあ、おはよう」「……お、はようございます」 翌朝、大あくびをしていたところをまともに大輔に見られて、美並は引きつった。 夕べの衝撃的な真崎の告白がまだ頭に残っている
**************** 旅先で、夜中に入ってきた真崎はまっすぐ美並の枕元にやってきた。「……伊吹さん」 何かをしかけてくるようなら、力の限り抵抗してやる。 布団の中でこぶしを握り締めていた
**************** 夜中にまた夢を見た。 押し倒されて首を押さえられる。息ができなくてもがいたとたん、目が覚めた。「は…っ…はっ」 喘ぎながら汗に塗れて目を開けると、見上げたすぐ目の前
**************** 意外な応えが返って目を見開くと、生真面目な顔で尋ねられた。「イブキは誰の猫なんですか?」 いぶき、は誰のものなんですか。 一瞬そう聞こえて、ことばにならなかった。
**************** 近付いてくる唇を拒めなかった。 伸び上がって吸いついてくるべったり濡れたそれは強い化粧品の匂いがして、押し倒されてのしかかられて、ぼんやり見上げていたら繰り返し吸
**************** 一瞬伊吹が来てくれたのかな、と無邪気に思って苦笑する。「京ちゃん?」 ああ、あんたか。 なるほど、そういや来てくれとか言ってたよね、すっかり忘れてたよ。 一人ごち
**************** 苦しくて、眠れない。 京介は唇をきつく噛み締めて目を閉じる。 布団に必死に潜り込んで、大丈夫だ、大輔はいない、と言い聞かせるのに、身体が納得してくれない。 ずっと
**************** 何だろう。 何だろう。 更けていく夜に美並はずっと考えている。 何かどこかが妙な感じだ。 真崎の話で行くと、真崎と前後してここから離れた孝はかなり荒れた生活をしてい
**************** 「う~」 頭、痛ー。 眉をしかめる美並の手を引いて、ゆっくり山道を降りながら、真崎は不安そうな顔で覗き込んでくる。「見えるって大変なんだね」 あんなになっちゃうなん
**************** 抱きたいな。 もう、ほんとに駄目だ、伊吹が抱きたい。 けれど。「う~……頭……いたー」 足下をふらつかせながら歩いている伊吹の手を引きながら京介は振り向く。 伊吹の顔
**************** もがいたり逃げたりするかと思っていた伊吹は、抱き竦めても動かなかった。 動けない、ということではない。余分なところに力が入っていない。自分の意志で動こうとしていな
**************** 「………だから見せに来たんですか」「え?」「大輔さんと恵子さんに」「……」 黙り込んだ真崎に、やっぱり、と思った。 ただのイブキの墓参りなら、まっすぐここへ来ればいいだ
**************** 残念ながら、移動先での一休みと食事にはありつけなかった。 周囲を警戒しながら進んでいたはずだが、燃え続けて収まる気配のない『氷の双宮』に皆が気を取られた一瞬、「敵
**************** 大輔は京介が『ぼけ』にかまけて自分と遊ばないとたびたび癇癪を起こしていた。そうして、ある日、『そんなにこいつが大事か』『大ちゃんっ』『こんなちっこいやつが』『やめ
**************** 何を考えているのか。「私が聞きたいところだ」 冷ややかに嗤いながら、リヒャルティを置き去りに、セシ公は自室から持ち出した紫の布包みを手に、パディスへ馬を走らせ