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  • さよならの向こう側

    「神楽坂 暮らす。」から「コハルアン」にお店の名前を替えて、一週間あまり。 SNS関連の諸々についても、現在模様替えを試みています。ツイッター、インスタグラムに関してはアカウント名の変更が可能だったので、これまでのものを引き継ぎ、そのまま新しい店名を入れたアカウント名(@utsuwa_koharuan)に変更してみました。 ところが、フェイズブックとブログについては、アカウント名の変更がかなわず。泣く泣くこれまでとは別に新たなアカウントを取得して、一から始めることにしました。 特にフェイスブックは1000人以上のフォロワーの方がいたので、残念でならないのですが、これまでのページはアーカイブとし…

  • 遠い昭和

    僕の頭と心のベースの部分を形作っているのは、まぎれもなく、70年代と80年代の文化。 その時代はまさにテレビの全盛期だったから、僕は生粋のテレビっ子だと言えるかもしれませんね。 今思えば、面白い番組が目白押しだった時代でした。ドラマ、コント番組、歌番組、あらゆる才能がテレビというメディアに集中していたのだと思います。一人っ子で、親戚の中で唯一の子供だった僕は、大人に混じって、よくテレビドラマを見ていたものでした。 大好きだったのは、久世光彦さん(プロデュース)と向田邦子さん(脚本)のコンビによる「寺内貫太郎一家」。東京・谷中にある石屋(石貫)を舞台にしたホームドラマで、主役は小林亜星さん、その…

  • 生意気なお願い

    来月にせまった店名の変更に向けて、無為に日々を過ごしてしまっていることに焦りを感じる今日この頃。 ゆるりゆるり、必要な作業が進んでいるような進んでいないような。それでもご案内状やハンコなどを制作したり、WEBのロゴをデザインしたり、ここ数日間でようやく、「ああ、名前が変わるんだなあ」という実感が持てるようになってきました。 印刷し終えたご案内状についても、今週半ばまでに発送を終えようともくろんでいるわけですが、それに伴い、関係者とお客様にはすごーくわがままなことをお願いしておかなければ、と思っております。前のブログ でも書いた通り、今回の店名変更の趣旨は、「あれこれ取っ散らかってしまった『お店…

  • 益子の色

    やきものというのは、その産地ごとに土や釉薬に特徴があるもの。 いまは物流が進歩し、どこにいても土や釉薬を入手できる便利な時代になったので、「産地の特徴=作り手の特徴」というかつてのシンプルな構図は見出しにくくなっているけれど、それでもやはり、作陶における必然というのは脈々と受け継がれているものではないでしょうか。僕がよく行く益子にも、特徴のある釉薬がいくつかあります。 糠青磁と呼ばれている釉薬もそのひとつ。土との相性や焼成の具合によって発色の仕方は異なりますが、水色、ターコイズ、ペパーミントグリーン、そんな表現が似合う色です。 昔ながらの益子焼を見ると、メインとなる色(黒釉や柿釉)と掛け分けて…

  • 平成細雪

    世に小説を映像化した作品はいろいろあるけれど、原作を読んでいないにもかかわらず、僕がいたく気に入っているのが、83年に映画化された「細雪」(原作は谷崎潤一郎)。 家業が廃れてしまった大阪船場の裕福な商家・槇岡家の没落を、四姉妹の暮らしと関西の美しい風物を通して描いた作品です。何度か映像化されているようだけれど、僕が好きな83年版は、市川崑が監督したもの。船場の豪奢な商人文化の残滓や、近代になって阪急沿線に生まれた上流文化(阪神間モダニズム)が絢爛豪華に描かれていて、見るたびにうっとりしてしまいます。 それは、古き良き時代に向けて鳴らす晩鐘のようでもあり、栄華を極めた平家の諸行無常を描いた平家物…

  • 力強い美

    昨年夏の九州北部豪雨で、福岡の山間部にある陶郷・小石原が大水害に襲われたことについては、このブログで前に書きました。 お付き合いのある鶴見窯では、このときに起こった落雷で大事な窯が損壊してしまったのですが、その後急ピッチで復旧が進み、このたび、災害前にオーダーしていた器たちが無事やってきました。窯主・和田義弘さんの、事ここに至るまでの強い意志には、本当に頭が下がります。小石原焼の伝統は、独特の削り紋様を施す「飛びかんな」と呼ばれる加飾技法で、白と黒褐色のモダンな仕上がりが本来の特徴。 まだ若い和田さんは、その伝統に加え、様々な意匠を施したり釉色を工夫することで、現代的な小石原焼のありようを模索…

  • 新しい店の名は

    「暮らす。」― それは、十年程前、当時の僕が抱いていたフレッシュな野望を体現した店名です。ただ、この店の名前については、ここ数年、いろいろな思考がぐるぐると頭の中を回っていた、というのが偽らざるところ。大きく風呂敷を広げ過ぎたネーミングであったなあ、と思ったり、いろいろなものを背負わせ過ぎたかな、と思ったり。この名がもたらすイメージから、これまで様々な方々に大変な買いかぶりをしていただいたようにも感じていました。 ただ、僕はそんなごたいそうな人間ではないので、もっと矮小な自分でいたい、というのが本音。矮小という言葉の印象があまり良くないとすれば、こぢんまり。箱庭的なサイズのフィールドで生きる中…

  • 和と洋

    僕は、染付の器が大好き。 そんな僕の独断と偏見に満ちたセレクトによって、店内は全日本染付祭りのようになっているわけですが、同じ青い色の絵付けであっても、作り手によって筆使いや発色のさせ方が千差万別なので、それぞれに妙味があって、これもまた一興ではないかと思っています。そんななか、砥部の池本窯から、新たに染付のマグが入荷。 今回は、「洋のアイテムであるマグに、和の紋様である網目を入れてもらう」という冒険をしてみました。一般論で言えば、マグに和柄を入れるとダサくなる場合が多いけれど、そこは、さすが朝鮮白磁や初期伊万里に精通した池本さん。朴訥なフォルムに闊達な筆使いで描かれた網目紋は、枯淡の風合い。…

  • サブカルおじさん

    あけましておめでとうございます。 あっという間に正月七日。今朝は、無病息災を願って七草粥を作ってみました。 新年早々で、本来は今年の抱負を語るのがスジかもしれませんが、今日はちょっとした与太話をしてみたいと思います。このところ、世の中は器ブームということになっているらしく、日本全国におしゃれな器の店が増殖中。旅で地方都市を回っても、東京でもあまり見かけないような垢抜けた店に出会って、おおっ!と感心したりすることがあります。 翻ってわが店について考えると、なんというか、おしゃれになりきれんなあ、という感じ。もちろん、良い作り手の良い作品を扱っているという強い自負はあるんですよ。でも、店というハコ…

  • 注連縄を綯う

    先月は、四国愛媛へ。 砥部焼や姫だるまなど、Nowvillage 今村さんの案内で松山周辺の手仕事を中心に見てきたのですが、その道程で、かなり離れた西予に足を延ばし、上甲清さんの注連飾りの制作現場にもお邪魔することができました。注連縄作りというのはもともと、農家が稲刈り後の農閑期に行う副次的な仕事として発生したものだと思うのですが、上甲さんの場合は発想が全く逆で、稲刈り後が本番。食べるためのコメを作付けするのではなく、年末の注連飾りを作るためだけにコメを作っているのです。だから、色や形がきれいなものを育てることに注力し、稲刈りについてもすべて手作業。注連縄に対する並々ならぬ情熱を感じます。 伺…

  • ひとくち ふたくち

    現在開催中の展示「ポケットに花 -坂有利子彫金展-」では、彫金作品とともに、坂さんの旧友・歩種(ポッシュ)さんの焼菓子を販売しています。今回作ってもらったのは、坂さん手製の金型で象ったクッキーで、中に苺風味のチョコレートをサンドしたものです。 クッキー生地は、卵と牛乳と砂糖を使わずに作られています。展示の前、一足先に味見をさせてもらったのですが、その時の印象がちょっと不思議だったので、手短に書き残しておきますね。 ひとくちめは、正直言うと、味がしないように感じられたのですよ。「ん?」と思ってもう少し口にすると、ほんのり甘い。みたび口にすると、さらに甘い。間にはさんだチョコの甘さではなく、食べ進…

  • おおらか

    今年の誕生日は、高野山で迎えました。数年前に訪れた比叡山が厳粛な空気に満ちていたので、今回も同様の雰囲気を覚悟して行ったのですが、ケーブルカーとバスを乗り継いで急峻な山を登ると、そこにはいきなり平らかな土地と宗教都市が現れます。「こんな山の上に⁈」と、ちょっと意表を突かれるほど、おだやかな空気が漂う場所でした。 僧侶とともに一般の人びともたくさん住んでいるとのことで、下界と隔絶されているにも関わらず、孤立した感じはありません。聖と俗がほどよく混在した中で生活が営まれていて、とても大らかな雰囲気。 それでも、弘法大師のお住まいである奥之院への入り口・一ノ橋を渡ると空気は一変、ピンと背筋が伸びるよ…

  • 小石原から

    明後日9/15から始まるのが、企画展「いま伝えたい九州の手仕事」。この展示に関する相談と常設用の発注を兼ね、福岡県の小石原(東峰村)を訪ねたのは、4月のこと。 そのあと、7月に大豪雨による土砂災害があり、大分との県境にある小石原を含む一帯は酷い被害を被りました。一部壊滅的な状況の地域もあったことは、TVなどでご存知の方も多いかと思います。僕が春に発注をしてきた小石原の窯元は、鬼丸豊喜窯さんと鶴見窯元さん。 鬼丸さんのところはほぼ被害がなかったとのことで、先週無事に飛びかんなのうつわたちが届き、明後日からの展示で紹介する予定です。 また、鶴見さんのところは工房は無事だったものの、落雷によって別棟…

  • 当たり前のこと

    素敵な器が好きな僕ですが、そこにはちょっとした枕詞が付きます。正確に言うならば、「『日々使える』素敵な器」が好きなのです。 作家ものや骨董でものすごく素敵な器を見つけると、確かに所有欲は喚起されますが、手に入れたとしても、結局使わなくなってしまうことって結構あると思うのですよ。ひとりの器好きとして、これまでそういう失敗を数多く繰り返してきたけれど、器を売る売る側のヒトとしては、そういう失敗はしちゃあいけないよなあ、と思っています。 だから、お店の器をセレクトする場合は、自分の器を買う時以上に頭がフル回転。大きさとか、色とか、重さとか、手にした時の馴染み感とか、あとお値段(これも大事)とか、さま…

  • 瑠璃とカレー

    もともとカレー屋さん巡りが好きな僕ですが、夏は料理を作る気力が萎えてしまうため、家でもカレー。それも、簡単に作れるので、もっぱらドライかキーマです。 そんなわけで、画像のごとく、この日もキーマカレー。瑠璃釉の八寸皿に盛ってみました。15年以上のお付き合いになる波佐見の窯元・陶房青さんの器で、春に直接オーダーしてきたものです。これまで、瑠璃釉を掛けた器については玄人っぽい印象(料亭とか割烹っぽい感じ)があって避けてきたのだけれど、この器の発色は、すんなりと日々の暮らしに馴染んでくれそうで気に入りました。縁に施したしのぎの、手仕事感あふれる風合いにも好感が持てます。そういえば、この春、東京の器屋さ…

  • 福井再訪 3

    昨日の記事 では、福井の作り手・土本訓寛さんが制作する焼締の器の話をしましたが、今日は、象嵌の器について。訓寛さんが成型を担当し、そのあと久美子さんが加飾して完成する器たちの話です。 ずっと前の記事 で、ふたりで作る象嵌の徳利とぐい呑みの画像を紹介していますので、そちらもあわせてご参照ください。無釉の焼締には、越前の伝統を感じさせる原初的な力が宿っていますが、象嵌(三島手)には、大陸から渡ってきた技巧の妙とエキゾチックな魅力を感じることができます。 前回の訪問では、その作業を拝見することはできませんでしたが、今回はちょうどタイミングよく見学させてもらうことができました。 素地に紋様を彫り、そこ…

  • 福井再訪 2

    昨日の記事 の続き。土本さん夫妻の作品というと、かわいらしい絵柄の象嵌作品が思い浮かびますが、夫・訓寛さんは、個人作家として焼締の器を制作。地元で掘られた土を成型し、穴窯で焼成する、というシンプルなスタイルでの作陶を続けています。 福井県越前町で育まれてきた越前焼の原点は、まさに高温で焼き締める無釉の器であり、それはやきものの原初的な姿だと言っても過言ではありません。いっときは衰退もしたようですが、今こうやって古陶の流れを受け継ごうとする作り手がいるのは、心強いことではないでしょうか。 ただ、ここで大事なのは、やきものは時代とともに更新されていかないと、やがて過去の遺物になってしまうということ…

  • 福井再訪 1

    二年ぶりの北陸出張。新幹線の終着駅・金沢から在来線で南下し、旧知の九谷焼の作家・川合孝知さんの工房(石川県能美市)に立ち寄り、さらに次の目的地・福井県越前町へ。 ここ数年、とてもお世話になっている土本訓寛さん・久美子さん夫妻の工房を訪ねてきました。 建物の内外の至るところに、越前ならではの野趣あふれる焼締の器が無造作に置かれているので、土本さんに失礼かとは思いつつ、時間が経つのも忘れてひとつひとつの作品を手に取って長居してしまいました。中世から続く窯業地・日本六古窯のひとつに数えられる越前焼の里はとても長閑で、独特の時間が流れています。古くから人が生活を営んだ場所にはたぶん、その営みの残像のよ…

  • つめあと

    先週発生した九州豪雨災害では、福岡県と大分県の境のあたりが、大きな被害を被っています。あの周辺は民藝的な窯業の集積地で、小石原(福岡県東峰村)と小鹿田皿山(大分県日田市)があります。 どちらも、今年4月中旬に出張で訪れた地域。小鹿田は視察だけでしたが、小石原は以前からお付き合いのある窯元が二軒あり、秋の展示の打ち合わせと器の発注をしてきました。標高が高い地域なので、九州と言っても桜の開花は遅く、4月の中旬は、桜とともに菜の花をはじめとした春の花々が一斉に咲き乱れる時期。 確かに交通の便はよくない地域なのだけれど、その分美しい山や川がそのまま残っていて、本当に桃源郷のような美しさでした。 災害発…

  • 朝ごはん 4

    このブログで幾度もしつこく告知してきましたが、この6月は、WEBマガジン「暮らしとおしゃれの編集室」(主婦と生活社)の中で「器店主の朝ごはん」というコラムを連載しておりました。毎週日曜、4回にわたって掲載されてきたコラムも、今日更新された分で最終回。 はじめは筆が乗らなくてちょっと苦戦したのですが、それでも書いているうちに楽しくなってきて、無事に4回分の原稿を書き終えることができました。3回目までは普段の自分の食事について書きましたが、最終回だけは「理想の朝食」というタイトルで、旅館で出てくるような和の朝食について書いてみました。 夕食についてはほぼ和食なんですけどね、朝は簡単にパン食で済ませ…

  • 朝ごはん 3

    現在、WEBマガジン「暮らしとおしゃれの編集室」(主婦と生活社)の中で連載しているコラム「器店主の朝ごはん」。本日、新しい記事が更新されました。全4回の予定で綴っているこちらのコラムも、既に3回目。 今回は、正確に言えば朝食には当たらないのかもしれませんが、ブランチについて書いてみました。だから、前の2回と比べると、若干ヘビー気味。こってり。お時間ございましたら、どうぞのぞいてみてください。来週(最終回)も日曜日の更新予定です。 暮らしとおしゃれの編集室 器店主の朝ごはん vol.3

  • 朝ごはん 2

    前回の記事でも書きましたが、現在、WEBマガジン「暮らしとおしゃれの編集室」(主婦と生活社)内のコンテンツ「器店主の朝ごはん」にて、全4回のコラムを連載しています。初回分は先週の日曜に掲載され、今日はその更新日。第二回目の原稿が新たに掲載されました。前回は自分にとって最もオーソドックスな朝食(パン食)について書きましたが、今回はちょっと変化球で「飲んだ翌日の朝食」というテーマで書いています。さっとにゅうめんを作り、器や道具についてつらつらと綴ってみました。お時間ございましたら、どうぞのぞいてみてください。来週も日曜日の更新予定です。 暮らしとおしゃれの編集室 器店主の朝ごはん vol.2

  • 朝ごはん 1

    このたび、WEBマガジン「暮らしとおしゃれの編集室」(主婦と生活社)内のコンテンツ「器店主の朝ごはん」の6月担当のオーサーとしてご指名いただき、現在、全4回のコラムを連載しています。(一回目のみ既に公開済み)これまで同人誌などで原稿を書いたり、知人の編集者からの依頼で器特集の監修を務めたりして署名記事を書くことはあったけれど、まったく知らない編集者の方からからオファーをもらうのははじめて。感触を探りつつ、4回分の記事は先月までにすべて書き上げ、あとは編集の方に委ねている状態です。物を書くことは嫌いじゃないけれど、自分のことをわかってくれているであろう特定少数の人に向けて細々とブログを綴るのと、…

  • 古い九州

    4つの県を廻るよくばりなスケジュール組みをしてしまったため、自由時間があまり取れなかった今回の九州出張。 ただ、有田と波佐見での予定がかなり早く終了したので、その日の宿泊地・福岡に入る前に、予定していなかった太宰府に寄ることができました。太宰府と言えば、思い浮かぶのは天満宮。でも、僕が目指したのは、以前訪ねてすっかり虜になってしまった観世音寺という古刹です。今から1300年以上前の7世紀中葉、白村江の戦いで唐に敗れた日本は、海上交通の要であった那の津(現・博多)よりさらに内陸の奥深く、現・太宰府市に外交や軍事を統括する行政機関・大宰府政庁を設置しました。大国・唐がいつ海を渡って報復に来るかわか…

  • 若い九州

    先週は出張で九州北部四県を廻ってきました。 18年ほど前にこの仕事をはじめてから、九州のものづくりに興味を持つようになり、訪問した回数は数知れず。今回は二年ぶりの訪問です。 新しい窯元や工房を回ることはなかったのですが、有田や小石原で勝手知ったる工房を訪れると、見知らぬ人が絵付けをしたり轆轤を回したりしていました。あれ?と思ったら、それぞれ、息子さんが作陶を始めたとのこと。 ゆっくりと、でも確実に技が受け継がれてゆく様子が見て取れて、ひそやかな変化の兆しが感じられるうれしい旅になりました。いつの間にかこの業界にいる時間だけは長くなってしまった僕だけれど、そういう技の継承を現在進行形で見るチャン…

  • 菜の花とホタルイカ

    年が明けてからの三か月はあっという間に過ぎてゆき、気が付けば新年度のはじまり。こわいくらい早い。 そんな中、3月は特に慌ただしくて、生活工藝を提案する器屋だというのに、食事を作る気力がなくなり、外食の日々が続いておりました。 「これじゃいかん」ということで、4月からは自分の手で料理を作る生活に戻しています。 そんなわけで、仕事が終わってからスーパーに立ち寄ると、お買い得になっている商品があったりする頃合い。この間はホタルイカがお値打ちになっているのを発見し、旬の菜の花とともに迷わずカゴに入れました。昔の人は、季節のものを体に取り込むと健康で長生きできると信じていたようですが、それ、真を突いた考…

  • 象嵌の器

    福井の作り手・土本訓寛さんについては、かなり前の記事 で紹介したことがありますが、現在開催中の展示「北陸ノ手工藝」のために再び作品を制作してもらっています。前回 は焼締作品をご紹介しましたが、今回展示しているのは、妻・久美子さんとの合作の『象嵌(ぞうがん)の器』。 『象嵌』というのは、本体の表面を彫って紋様を施し、その凹んだ部分に別の素材を埋め込んでゆく装飾技法のこと。土本さんの場合は、赤土を彫って白い化粧土を埋め込んでいます。 もともと古い時代の朝鮮半島で『粉青沙器』と呼ばれていた器の加飾パターンのひとつで、日本では『三島』と呼ばれてきた古い手わざです。それゆえに、どこかいにしえの風情を醸し…

  • ケイゾク

    店内では、ほぼ2週間ごとに企画展示を開催していますが、2週間なんて、本当にあっという間。近くにお住まいの方には毎回ご覧いただいているのですが、電車で来ていただくお客さまの場合、毎回欠かさずにご覧いただくのはなかなか難しいのではないかと思います。展示については、「ただ作家の作品を並べる」ということではなく、一応店主が無い知恵を絞って年間24回程度の展覧会の内容を組み立てているので、それぞれにそれぞれの思い入れがあるもの。 そんな経緯から、「2週間経ったらパッと終了!次行ってみよー!」という風には気持ちが動かないわけで、展示した作品は(すべてではないけれど)、常設のコーナーで何らかの形で継続して販…

  • ヘンクツ

    ここ数年は店舗を取材していただく機会が増え、今月は、東京や世界の素敵ショップを紹介している超おしゃれーなWEBマガジン「The World Elements」で店舗を紹介してもらいました。この取材自体、とてもありがたいことだったのですが、いま考えると、わざわざ足を運んでくれたエディター・Nさんを随分と手こずらせてしまったよなあ、とちょっと反省気味。 というのも、記事内容が、おそらくNさんが当初予定していたであろう企画とはまったく別モノになってしまったからです。Nさんが質問したかったことは、「よい器の条件とは何ですか?」。 本当はインタビュアーの誘導する方向に従って、万人受けしそうな答え(サービ…

  • お鷹ぽっぽ

    民藝品と呼ばれる手仕事には、それぞれ地域的な背景と歴史的な経緯があるもの。 それを無視して、むやみやたらに『デザイン』という『手』を入れてしまうと、民藝品本来の意味が失われてしまうことがあります。 以前、愛媛の両村信恵さんに新作として「白い姫だるま」を作ってもらった時にも、そのあたり、伝統を壊さないように細心の注意を払ったものです。上の画像は、「お鷹ぽっぽ」という米沢の民藝品。 米沢藩の名君・上杉鷹山の殖産興業政策によって農民の農閑期の仕事として広まったものだそうです。 コシアブラという木をサルキリという刃物一本で彫り上げてゆくワイルドな木彫(笹野一刀彫)で、本来はこの造形の上に絵具で加飾が成…

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和食器屋店主の[代官山 LO-FI DAYS]
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