みんなで1枚の大きな紙に絵を描いている。もう遅いからと言って2人が家に帰る。1人で好きなように描きたい僕は最後まで残ることにするが、絵の具は既に青と黄色しか残っていない。 後ろを振り返る。半開きになったままのドアの向こうから入りこんできた熱い風に吹かれる。風は絵のところへ行く。それは絵を乾かそうとしているのだ。 ...
僕はネットのないゴールポストを見た。ゴールポストは1つしかなかった。その女子サッカーチームの本拠地は北海道にあった。グランドは冬の間雪に埋もれて使えなかった。チームは試合も練習も一切やらなかった。 この間やっと春になった。また試合をすると連絡があった。僕は飛行機に乗って北海道まで行った。応援に行った。しかし試合には選手も観客も来なかった。 ...
君の服は鏡のような素材でできている。ロングスカートに僕の全身が映る。僕のコートも鏡でできている。昼の12時にその2つが合わせ鏡になると、映り込みの奥から誰か出てくる。男とも女ともつかないそいつが、午後の始まりを告げる。 鉄が夜になると錆びて、昼になると輝く、ということを繰り返している。 ...
夢の中で僕は、カタカナとハングルの合いの子のような文字を読んで、発音しようとしているが、うまくできない。 その間も動きのない目の前の光景は、写真というよりも、一時停止状態のビデオ映像に似ていた。 君がその一時停止を解除するボタンを押す。すると僕の口から、日本語でも韓国語でもない、その聞いたことのない言葉が流れ出して、 僕は自分が何を話しているのかわからない。君はまた一時停止...
高校の校舎がホテルになっていた。僕は3年2組の教室に1人で泊まった。広すぎるシングル・ルーム、でも部屋にはトイレもなかったし、手を洗う場所もなかった。 緑色のシーツを持って、係の人がやってきた。とても大きなシーツ、そのシーツで彼は、教室の机と椅子と黒板と壁を全部覆った。僕は窓際の席に座って、その様子を見ていた。 ...
警戒怠りなく眠る僕の隣に、まったく無警戒に起きている君がいる。見て。君は完全にリラックスして、空中浮揚し始める。風船のように、天井まで行く。その後ゆっくり落ちてきて、僕の隣に。 ...
トンネルを抜けると終着の駅だった。料金は駅の改札を出るときに現金で払った。連れの女性が細かい小銭を出してくれた。日本円にすると1円にも満たないコインを。 その女性は野球選手だった。ポジションはセカンド。「また2軍に落ちた」「もう引退しようかな」そんな話をしながら駅構内を歩く。 「諦めるのは早い」 だって彼女はまだ10歳かそこらだ。僕の前を月面を歩く人のようにぴょんぴょん飛び跳...
僕たちが乗っている路面電車の床は透明だった。電車が走っている地面も透明で、地下の様子が見えた。 地下の人間は1人で行動していた。家族連れやカップルはいなかった。全員がお1人様だった。 僕もいつか地下に行くときは1人で行かねばならないだろう‥‥ あぁバスが停車している。バス停でもないところで。それは僕のためである。礼を言って乗り込んだ。 バス...
夜は自分こそが夜だと信じている人を一緒につれてきた。 その人は女だった。若い女だった。彼女は何も食べなかった。 トイレにも行かなかった。いつも寝ているか、寝ているふりをしているかどちらかだった。 僕は彼女とずっと一緒に過ごしたが1人きりでいるようなものだった。 この間の夜がまたきた。 夜は自分こそが夜だと信じている女をまた1人つれてきた。 彼女たち...
日本への留学は延期しろと父は言った。どうしてと私は訊いたが答えはなかった。日本人のボーイフレンドを父に紹介した直後だ。父は私たちの交際は認めてくれた。それどころかいずれ結婚するんだろうとまで言った。彼の実家のある和歌山のことを訊いていた。彼は片言の韓国語でみかんのことなどを話していた。 台風がよく来るんです。ソウルにも台風は来ますか? 来るよ。でもあんまり大きなのは来ないな。...
君に似た人を町で見かけるたび、僕の胸は高鳴る。君に似た人は、そこら中にいる。だから僕は、その中でも特に君にそっくりな顔を探した。 あまりにも似た人を見つけたので、本人じゃないかと思い声をかけてみる。君の名を呼んだのだ。そうすると、僕の周囲にいた女性全員が振り返ってこちらを見た。僕は愛に取り囲まれた。 ...
超能力のある連中が集団で僕を襲った。まず心が読めるやつが僕の心を秘密を覗いた。念力のあるやつや瞬間移動ができるやつにされたことよりも、それがいちばんキツくて、僕は動揺した。 ...
その部屋の中には歌を歌っている人たちがいたが、彼らはまるで労働する者のように疲れていた。僕は冗談で歌に加わった。歌詞はドイツ語か、オランダ語のように思えたけどよくわからない。歌詞を英語に訳したものをもらった。 ...
空き缶や、ペットボトル、ヤクルトの容器などのゴミが、レジ前の床に散乱していた。買い物客が会計を待っていたが、レジには誰もいない。僕は自分の買い物を諦め、代わりにレジに立った。 客がカゴを置く台の上も、ゴミでいっぱいだった。買い物カゴの中身も、ゴミが半分だった。僕は商品と区別せず、すべてをレジに通した。機械的に作業した。 最後に「これはサービスです」と言い、消毒液の入ったスプレー容...
僕は君の家で、君のお母さんと一緒に、君の帰りを待っている。木のテーブル、大きすぎる木の椅子、木の皿に、サラダが盛りつけてある。僕はそれを、手づかみでときどき食べる。 誰も見ていないテレビがつけっぱなし(消しましょう、とは言い出せない)。君は今、どこで何をしているんだろう? そんな僕の心の声に、テレビが返事をする。 ...
黄色いコートを着た。黄色い腕時計をした。あと僕に足りないのは黄色い花束だけだったが、それは君が買ってくれた。「あなたは金持ちになるのよ」と君は言った。「黄色は金持ちの色」 僕はその花束を持って、午後の教会に行った。「僕は金持ちになるんです」「黄色は金持ちの色なんです」。教会にはたくさんの人がいて、僕はその1人ひとりに花の名前を教わった。でも結局自分が手にしているこの花が、何という花なの...
部屋に入った。ベッドメイクはまだできてなかった。畳まれたシーツが置いてあって、それは太陽の匂いがした。乾燥機ではなく、屋外に干して乾かしたものだ。 自分でベッドメイクをした。部屋にはテレビがなかった。CDラジカセが置いてあった。アンテナを伸ばして、ラジオを聴いた。隣の部屋の人も、同じ番組を聴いていた。古い歌が流れた。部屋の壁は薄かった。 ...
貧乏な村人たちが集まり、お金を出し合った。じゃんけんをして勝った男が、その金で都会のソープに行った。しかしあまりにも身なりが悪いので、入店を断られた。「ダニやノミのいるような男は、お断りだよ」と店の支配人は言った。 ...
僕は買ってきたお土産をてるてる坊主のように窓際に吊るし、それが揺れるところを君に見せた。外はもう晴れていた。君は「あれは食べるものなんでしょう?」と訊いた。「てるてる坊主を食べる人はいないよ」と僕は答えた。「あれはてるてる坊主なの?」「違うよ、お土産の饅頭だよ」 ...
部屋の隅にいて動かない白い蛇を見つめていると、その背中に羽根が生えてきた。蛇はその羽根で羽ばたき、部屋の反対側の隅に移動して、また動かなくなった。 ...
君は宇宙旅行から帰ってくると、真っ先に僕の家の台所へ向い、何かつくり始めた。宇宙で覚えてきたレシピだろうか。2人でそれを食べた後、性交しているところに、宇宙人がやって来た。行為を中断し、僕は台所に立った。そこでさっき食べたものと同じものをつくっている間、君は宇宙人に何度かお礼を言った。 ...
朝起きて、まず最初にしたことは、「勉強」だった。歯も磨かず、トイレにも行かず、机に向った。文章にはならない文字を紙に書きつづけた。その紙を小さく畳み、封筒に入れた。自分には読めない文字で、ずいぶんと長い宛名を書いた。 ...
買い物袋を抱えて坂を上る老人が、10歩ごとに立ち止まって息を吐いていた。正確に10歩だった。クロールで泳ぐときの息継ぎみたいだ。 ...
台所で料理をしていると、クー・クラックス・クランのような白装束の小人が何人か入ってきた。 「大丈夫」と君は言うのだが、少し心配になった。何か、盗まれたりしないだろうか。「うちには盗むものなんか何もないよ」と僕は小人たちに話しかけた。 彼らは何も答えず、ただ僕の家をいろいろと見て回っていた。美術館で美術作品を鑑賞しているような感じで、静かに。 「ゴミを捨ててもいい?」と彼らの1人...
エリイアンの女が、僕の前で地球の服を脱ぎ裸になった。その肌は、ピンク色と緑色をしていて、鱗のない魚のように見えた。彼女は植物のように、成長を始めた。巨大なロケットのような樹になった。 僕がその樹を見上げ、花が咲くのを待っていると言うと、君は笑った。あなたのそういうところが、好きなの。 ...
図書館で本を読んでいると、制服を着た警官がやってきて、僕に六法全書を差し出すので、僕は何か法律に違反したのかな、と思ってしまった。「私の本心を知りたいなら、これを読みなさい」と言うのだが‥‥ ...
君の部屋に行き、朝まで飲む。君は冷蔵庫から紙パック入りの飲み物を出してくれる。この間は野菜ジュースだった。今日も野菜ジュースだ。 飛行機に乗り遅れないようにしなくちゃな、と僕は思う。「タイムマシンのアラームをセットしておいていい?」と君に断った。 「タイムマシンって言った?」「大きな音が鳴るんだけど」 「野菜ジュースをありがとう。朝までに全部飲めるかな」 その言葉...
もう1つのパーティーが始まった。それはテーブルの下で行われた。僕は君とそこに潜り込み、ちょっとの間イチャイチャした後、別の服に着替えて、再度みんなの前にあらわれた。 「どこにいたの?」と誰かが訊いた。「あのコはどうしたの?」 「テーブルの下にいるよ」と僕は答えた。 そしてテーブルクロスをめくったが、誰もいなかった。そこには子供が履くような小さな靴が片方だけ転がっていた。 ...
僕の護衛は背の高いアフリカ人だった。テーブルで僕が飲み食いしている間、ずっと僕の後ろを護衛していてくれる。 僕の前には鏡がある。鏡に映った護衛のアフリカ人を見ながら僕は食事をする。安心感が違う。食事中に護衛がつくのは僕だけだ。 僕は重要人物だ。他の人たちはそうではない。護衛なしで食べている。彼らのテーブルには鏡すらない。 ...
検察側の証人として呼ばれた君。裁判官は君の胸を見てにやけている。 君は証言台の下に潜り込み、ドレスに着替えている。君は下着をつけていない。僕は下着をつけるように言ったが、君は笑うだけだった。その話をすると、僕の弁護士も僕を笑った。 ‥‥。死んだ人間を生き返らせた罪で僕は死刑になった。裸の女に服を着せたら強姦罪が適用されたみたいなものである。僕はヤケになっていた、女に服を着せつづ...
こんな結果になったのは、弁護士が無能だからだ。死んだ人間を生き返らせた罪で僕は死刑になった。裸の女に服を着せたら強姦罪が適用されたみたいなものだ。僕はヤケになって、女に服を着せつづけた。その女たちの中に君がいたのだ。 僕たちはバーにいた。テーブルは高く椅子はない。僕たちの身体が縮んだのか、それとも家具が大きくなったのか。 君はテーブルの下に潜り込み、ドレスに着替えている。君は下着...
「私が捕まったら妹も終わりよ」とその女性は言った。女性は檻の中にいた。捕まっているように見える。 僕は妹が「終った」のかどうか確かめに行ったが、大丈夫そうだったので安心した。 ...
電車に乗ろうとしてホームで並ぶ人たちが、制服を着た職員に指導を受けていた。「笑顔で並べ」と。何かの撮影なのだろうか。 ホームに電車が入ってきた。今度は「目を瞑れ」と指導があった。関係ない僕も目を瞑った。すると耳慣れない音がした。日常生活ではまず聞くことのない、奇妙な音だ。いったい何が起きたのだろう。知りたかった。けれど僕は目を開けなかった。 ...
君の指先が、軽く鍵盤に触れる。いつも思う、まるで自分の身体に触れているような触り方だと‥‥。 僕たちの楽器はピアノで、ピアノは1台しかなかった。君はずっと、何の練習もしていなかった。僕は僕たちのピアノに触れ、君は自分の身体に触れた。 僕たちはみんなで集まり、バラバラに楽器の練習をしていた。1人ずつ練習を終え、楽器を持ち、帰っていく。もう残っているのは、君と僕だけだった。 そ...
家を出ると、僕と入れ替わりに、僕にとてもよく似た人が、家に入った。家の中には、君によく似た人がいる。2人は、つき合っているのだろうか、と思った。結婚して、幸せになってほしい。僕たちは、同じ過去を共有しながら、そういう選択をすることも、できたはずなのだ。 ...
ホテルの部屋で、君が長い髪を洗っている隣で、僕も髪を洗っている。僕の短い髪、乾くまでに長い時間がかかるのは、なぜだか知らない。 君は、先に部屋を出た。後から行くよ、と僕は言った。 部屋に、別の人が入ってきた。そのときもまだ髪は乾いてなかったが、僕は荷物をまとめて、部屋を出た。靴だけが見当たらなかった。 ロビーで君と落ち合った。靴がないことを話す。 靴は金庫の中。靴べら...
電車に乗って、遠い県まで行った。終点で降りると、そこが目的地だと知った。駅が図書館になっていて、図書館の中にはレストランがあった。レストランの中には駅のホームがあり、乗ってきた電車はそこにまだ停車している。僕は今日中に戻るつもりだったので、終電の時刻を確認した。図書館の職員は、コーヒーの値段を答えた。それは僕の知りたい情報ではなかった。 ...
それは靴の宣伝で、僕はムーンウォークをした。綱渡りのような曲芸も披露した。僕はまたコマーシャルに出たのだ。撮影はうちの屋上であった。たくさんの人たちがその様子を見学に来た。近所のビルの窓から顔を突き出し、こちらに手を振る者もいた。遠すぎてよく見えなかったけど、全員が友達というわけではなさそうだった。 ...
飛行機の僕の隣の席に、小学校のときの同級生が座る。が僕たちはお互いに気づかない。半世紀近い年月が僕たちの顔かたちを変えてしまったからだ。記憶も薄れてしまった。 そんな悲劇を避けるために、僕たちは名札をつけて飛行機に乗るのだ。飛行機の中では出欠が取られる。スチュワーデスから順に名前を呼ばれ、僕たちは返事する。元気よく「はい」「はい」と。その声が客室の中に響く。彼女は初恋の人だった。 ...
飛行機が闇の中を飛んでいる。音もなく飛んでいる。飛行機はクルマのようなヘッドライトを点けて飛んでいるが、それが何かの役に立ってるとは思えない。 僕は飛行機の中で寝ている。夢の中では飛行機も僕と一緒に寝ている。ふっと僕だけが目を覚ました。隣で寝ている飛行機の寝顔を見る。なんかこう人間みたいな寝顔だ。 ...
夏だった。暑い夜、冷房もなかった。僕はタキシードを着ている。踊っている人たちがいる。彼らは元々は人間だったのだが、踊っている内に動物に変身していた。そしてそのことに気づいてないようだ。 そんなことがあるだろうか、とロシア人女性に日本語で話しかけられた。 僕は汗をかいている。彼女もそうだった。それは泡のような汗だった。石鹸の匂いがする、シャボン玉のような汗だ。 僕たちの汗はプ...
暗闇は黒くなかった。どちらかと言えば茶色かった。だんだん明るくなってきたが、そこに差す光も白くなかった。やはり茶色かった。セピア色というのだろうか。その汚れは僕に感傷的な記憶を思い出させた。 ...
君が僕の肩にもたれかかってくる。ふだんはそんなことをする人ではなかったので驚いた。 僕たちは草サッカーの試合を見ていた。グランド脇で見てる僕たちにはコートの反対側で何が起きているのかわからない。ほとんどの選手と観客はその反対側にいた。(つまり僕たちの応援しているチームが優勢だということだろうか。) そこで唐突な場面転換があり、僕たちは満員の電車の中にいた。君は僕にもたれた...
上空から見るとその島には蜘蛛の巣がかかっているように見えた。飛行機は左に旋回しながら降下した。やはりどう見ても蜘蛛の糸だ。 飛行機から降り空港の外に出ると空気がベトベトした。 そしていたるところで女たちが僕を待っていた。彼女たちは順番を待っているのだ。階段に腰掛けたり、橋の欄干に寄りかかったりしてこっちを見ていた。煙草を咥えて「火貸してくれない?」 僕が順々にライターで火を...
韓国と九州の間を、その鳥は何往復かした。僕が飼っていた鳥だ。旅行の間、ずっと一緒だった。蜘蛛の巣でつくった鳥籠に入れて、いつも持ち歩いていた。蜘蛛の巣でできているだけあって、鳥籠の重さは感じられないくらいだ。鳥がその中に入ると、鳥の重さもなくなった。僕は常に何かを持ち運んでいるという感覚がなかった。 ...
武器を持って列車に乗り込み、乗客から金品を脅し取った。車両の一方の端から僕が、もう一方の端から相棒が進んだ。僕は犬を連れていた。大きいけど、大人しそうな犬だ。僕が脅しても言うことを聞かなかった人も、その犬を見ると態度が変わった。笑顔になり、何でも欲しいものを盗っていいと言った。 ...
部屋には2台のテレビがあって、1つのテレビがもう1つのテレビと結婚したいと言い出した。「私たち、真剣なんです」。僕は軽く「いいよ」と言った。 テレビを2台横に並べて結婚式をした。僕が神父の役をやった。「誓いますか?」と訊くとテレビたちは「誓います」と答えた。タイミングよくテレビから拍手の音が聞こえてきた。音はデカすぎたので少しボリュームを下げた。 ...
眼下には「白い空間」があって一粒の丸いチョコレートが転がっていて、僕はそれを掴まえようと思って「白い空間」にダイブした。 白いガーゼのような布が柔らかく幾重にもチョコレートと僕を包んだ。「白い空間」ごと僕は落下していく。みんなが落ちていくのとは違う場所へ。 ...
スネ毛の代わりにパクチーのような野菜が生えてきたので風呂で収穫した。根から抜いてしまうともう生えてこなくなるかも知れないので気をつかった。見た目や匂いもパクチーにそっくりだが本物だろうか? もう一方の足には違う種類の草が生えていたがそれもサラダになるだろう。妹たちがどんだけ長風呂なんだと文句を言ってきたので黙らせるために先に収穫物を渡した。 僕が風呂から上がると部屋にマリファナ...
水を切って傘を畳んだ。聞き覚えのある声が後ろでした。ラジオでよく聴くあの人の声だ。僕は振り返って「ファンなんです」と言おうとした。「昨夜の放送も聴きました」 テーマパークの一画がライブ会場だった。開演までもう時間がない。僕は駆け出したが間に合わなかった。 「当日券ありますか?」と僕は訊いたが通じなかった。「今から入れますか?」がチケットなどいらなかったのだ。歌手は僕の目の前...
石の羽根を持った蝶が飛べなくなっていた。地面を歩くのにも疲れたようで「私はもう死にます」と言った。化石になるのです。 蜜を吸わせてやろうと僕が花を摘んで戻って来るまでに石化していた。林の中にその墓はあった。 ...
裸足で階段を下りる。途中から泥の中だった。泥は温かい。しばらく足を浸したままでいた。すると前方から男がやって来た。男は手に楽譜のようなものを持ち、それを歌っていた。妙に芝居がかった歌だ。ミュージカルのようだ。がよく見ると彼が手にしているのは、五線譜ではなく折れ線グラフである。 ...
相棒と僕とでオリジナルの脚本を書いた。ミュージカルの脚本だ。最高の舞台にする。自信はあった。 オーディションをして、役者を集めた。最高の役者が揃った。「絶対成功するよ」と僕は言った。「それはまだわからない」と相棒は答えた。 そのとき話題になっていたのはカミュの『異邦人』をミュージカル化した舞台だった。相棒はそれを偵察に行き、ショックを受けて帰ってきた。「おれは裸足で逃げだした‥‥...
校庭の横の道を1人で歩いていると、黒人が後ろから来て僕を追い抜き、校庭のフェンスの上にボールを放り投げた。そのボールはバスケのゴールに入った。ナイスシュートだ。僕はテレパシーで彼に賞賛の言葉を送った。 その黒人の後について学校の敷地に入った。彼は体育館に入った。そこではダンスパーティーが行われていた。彼はバスケのゴールに超ロングシュートを次々と決めていく。なのに誰も彼を見なかった。 ...
駅を出る。弱い雨が降っていた。僕は四つん這いになって動物のように歩いた。雨が降っているからだよ、と僕は心の中で思った。闇雲に僕は駆け出した。 周囲の人々はまだ雨に気づいていないようだ。二足歩行をしているのが気づいてない証拠だ。僕の正しさを証明するために、雨よもっと強く降ってほしい。 ...
窓の外を見ると君が手を振っている。手に旅行鞄を持っている。僕はバスを降りた。そのとき鞄がないのに気づいた。胸の前で抱えていたはずなのに。 もういちどバスに乗り込み、座席の下を覗いてみたがなかった。車内をあちこち探しまわった。乗客は誰もいなかったが、運転手さんが迷惑そうに僕を見て誰かに電話をかけた。 ...
急に韓国へ行くことになった。1泊だけしてすぐに帰る。飛行機に乗って5分で着いた。誰にも言わずに来た。 やはり誰かに言っておいた方がいいだろう。僕は再度飛行機に乗って日本に戻った。帰りもやはり5分で着いた。そして友達に会い、「今からまた韓国に行く」と言った。 ...
(調べものをするのに、アルバムを見た。もう亡くなってしまった人の写真で、見るには許可がいった。僕はある女の人に、その許可をもらいに行った。彼女は故人の年下の妻だった。年下にしてもほどがあるだろう、と思った。どう見ても20代である。) 未亡人は僕に、四角い紙を渡した。名刺サイズの紙で、暗号のようなものが記してある。彼女は一言も喋らずに、僕が暗号を解読するのを見ている。「あぁ、わかりました」...
その人はポスターの中に住んでいた。気取った服を着て、酒を飲んでいる。それは服の宣伝なのか、酒の宣伝なのかわからない。その人自身にもわかってなかったと思う。 僕はそのポスターの前を通りかかり、彼に手を振る。彼はニヤッと笑い、何か応えたが、それも挨拶の言葉ではなかったのかも知れない。 ...
夢日記、と漢字3文字だけのタイトルしか書いてない、企画とも呼べない企画書を持って、僕は映画プロデューサーたちや、映画監督たちに会いに行き、まさに夢のような話をする。 最初はあまり有名ではない、実力もない監督からはじめて、だんだんと雲の上の、有名な監督に会いに行ったが、無名の監督ほど、僕の話を聞こうとしなかった。最後に断られるのは一緒だったけど、中堅の映画関係者たちは、話を聞いてはくれた...
僕たちはボクシングの試合会場へ行くバスを待っている。そこに巨大なバスがやって来た。白い豪華客船のようなバスだ。いったい何人乗りなんだろうと思ったが、定員は1人だという。 僕は1人そのバスに乗って会場へ向った。道は空いていてすぐに着いた。到着したのは砂浜だった。波の音はするが海は見えなかった。こういうビーチにつきもののヤシの木もない。先に来ていた君が僕を迎えた。 「ここでボクシングを...
クレジットの明細を見ると、僕は家族のために、ハンモックを500万円で購入したことになっていた。どういうことかと、制服を着た係の人に指摘された。「何かの間違いでしょう」と僕は答えた。ハンモックを500万円で買う人などいないし、そもそも、僕には家族もいない。 が、そんな僕の言い分は通らなかった。 僕は別室につれていかれた。僕の後から、女の人がついてきた。女の人は、子供の手を引いていた...
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みんなで1枚の大きな紙に絵を描いている。もう遅いからと言って2人が家に帰る。1人で好きなように描きたい僕は最後まで残ることにするが、絵の具は既に青と黄色しか残っていない。 後ろを振り返る。半開きになったままのドアの向こうから入りこんできた熱い風に吹かれる。風は絵のところへ行く。それは絵を乾かそうとしているのだ。 ...
ラジオをつける。待っていたかのようにDJが喋りだす。「○○君においらの先生を紹介するよ‥‥」どうして僕の名前を知っているのだろう。 「先生はすごいんだ‥‥」 「先生はバレーボールの選手だった‥‥」 僕の背後に背の高い女性が出現する。彼女は僕の隣にやってくる。11時になった。DJはお喋りをやめる。 ...
その宇宙船には刑事だけが乗っていた。何百年も人工冬眠して大宇宙を旅する‥‥。目的地に到着する前に1人目覚めた刑事は不思議に思う。「犯人」はどこにいるんだろうか。 ...
ホテルのロビーのテレビのニュースに映っているのはこの人たちだ‥‥オリンピックで大活躍した選手たち。スキャンダルの渦中にある彼女らと同じホテルに泊まっていた。僕はテレビを消すか、チャンネルを変えようと思ってリモコンを探した。背の高い彼女らの間を、スキー板を持ってウロウロした。‥‥僕はスキーは初めてだということを彼女らにまだ言ってない。 ...
オフィスで働いている僕たち4人のもとに料理が運ばれてきた。仕事を中断して集まった。何なんだろう。注文した覚えはない。後から請求が来るのだろうか。料理を運んできた女性は何も言わずに帰った。 同僚の男性が一口食べた。目を伏せ、何も言わずに仕事に戻った。それを見た僕らは働く気をなくしたのだ。 ...
カンフーのような、護身術の訓練を受けていた、僕の隣では、別の訓練生が、銃の扱いをレクチャーされている。 狙い、構えた。彼は、何発か撃った。弾は、ゆっくり飛んだ。人型の標的に向って、まっすぐ進む、弾丸、彼は自分の撃った弾丸を追い越し、倒錯的な喜びを感じながら、笑顔で標的の前に立った。 ...
最初に人の名前、そして「これは演習ではない」と、放送があった。僕に向けられた言葉ではないのだろう、か。僕は自分の名前が、思い出せない。 容疑者が、非常階段を下りてきた。赤い靴と、スカート。部屋で、着替えてきたようだ。僕は、拳銃を構えた。「これは‥‥拳銃ではない」。そして、僕は、先程の名前を叫ぶ。 ...
「傘貸して」 「やだよ」 雨の季節が来た。地面から緑色の茎が生えている。1本だけ。ネギのように見えるが違う。それは傘だ。それはあちこちに生えている。強い風が吹いて斜めになる。 ...
整形外科医になった妹に手術してもらうことになった。お兄ちゃんは口をもっと大きくした方がいいと言う。横に広げるのだ。洗濯バサミのような器具で僕の唇の両端は引っ張られた。その状態で笛を咥えさせられた。何か吹いてと妹はリクエストした。 ...
無人のゴール前でパスを受けたバスケの選手が、丸出しにした尻をペンペンしたりして、相手チームをからかうが、 どうすることもできない。 彼はシュートを決めた後、ゴール裏にあった平屋の住宅に駆け込み、奇声を上げ、中にあったテレビやソファーを窓から投げ捨てる。 ゴール周辺が、粗大ゴミ置き場のようになる。ボランティアによる片づけが始まる。試合は一時中断する。 ...
宝くじを買う。そこには僕の顔が、紙幣のように印刷されている。手に取り、ずっと眺めている。5億円。当たったのだ。 1日中、ニヤけている。 「お兄ちゃん、もしかして」妹が声をかけてくる。僕は当たりくじを妹に見せる。 「この顔はお兄ちゃんの顔だ、間違いない!」 「これで大金持ちだな」 「金持ち兄ちゃん(笑)、私にいくらくれるの?」 「お前さ、これからバイトだっけ?...
日本の大富豪がモナリザを買ったという。ニュースを見た。世界的名画だ。 例の謎の微笑がテレビに大写しになる。 だがその顔は、どう見ても僕の顔だった。モナリザは、僕だった。 大富豪がインタビューで答えている。 「今日から私がモナリザ」 いつ入れ替わったのだろう。モナリザと大富豪と僕と。 ...
その女性は、バスの中で歌い出す。「あのカーブを左に曲がると、町は外国気取りよ」 僕は初めて聞くが、よく知られた歌らしい。乗客のみんなが、合唱し始める。実際にはバスは、右折する。急停車する。 みんなが降りるので、僕もつられて降りた。しかしそこは、僕の行きたい場所ではない。 みんなは改めて、左に行った。僕はまっすぐ行くことにする。僕の行く道にだけ、雨が降っている。 ...
バスを待っていると知らない女性が話しかけてきた。僕の親しい友人だというふりをしたがっているようだ。東洋人にしては異様に彫りが深く、きれいな人だったし、話もおもしろかったので、僕も演技してあげることにした。 愛想笑いをしたり、「そうだね」などと相槌を打ったみたりである。そのうちにバスが来た。 バスの中では、僕たちは少し離れて座った。すると彼女の隣に座った男性が、彼女に話しかけた。彼...
そこは砂漠だった。歩いていくと雪原になった。足元の雪は固く凍りついている。 何度も滑って転びそうになる僕の、ポケットの中の電話が鳴った。安全な「小屋」にいる友人たちからだ。 「今夜の巨人・中日は、どっちが勝ったんだ?」 知るか、と思ったがテキトーに答える「巨人」 「何対何で?」 雪原の中に、黒いセダンが1台停まっているのを見かける。何なんだろう? 僕は乗せてもらおう...
彼女は高校の制服を着ている。バッジを見ると2年生だ。男の後をついていく。それは学校のある方向とは違う。 僕は高校の方へ向って歩き出す。僕は3年生だ。僕の前を女の人が歩いている。僕も女の後についていく形になってしまった。彼女の顔は見えないけど美人だろう。 ...
国境を歩いて越えたとき、クレジットカードも現金もないことに気づいた。家に忘れてきた。家は歩いて帰れる距離にあったが、戻る気にならなかった。もう面倒くさかった。考えるのも、決断するのも。 1人で来ていた。ジャージの上下を着ていた。パジャマの代わりにしている、紺色のジャージだ。ポケットに煙草の箱があった。国境の兵士に渡そうと思って持ってきたやつだ。彼らがワイロを欲しがると思ったのだ。 ...
カーテンを開けると眩しい日差し。夏の朝だった。朝から暑かった。しかし窓の外は雪だった。激しく降っていた。積もってはいなかった。積もるのだろうか。 子供と一緒に予想した。どのぐらい積もるだろう。スキーができるくらいに? いや積もりはしないさ。結局その日、僕たちは外に出なかった。なので雪がどうなったのか知らない。次の日の朝はいつもどおりの夏だった。 「もう雪は溶けてしまっただろうね」 ...
郵便受けに入っていたスーパーの特売のチラシを手に歩き出すと住宅街は幟の立ち並ぶ商店街に変わっていた。驚いて後ろを振り返ったがそこはもう僕の家のある区画ではなかった。空には飛行船が浮かんでいて通りには賑やかな音楽が流れている。とにかくしばらく歩いてみることにした。 僕の家の前に着いた。どうしてこんな商店街のド真ん中に僕の家があるのだろう。玄関のドアは閉まり切ってなかった。これはいけない、...
僕の家は広い。だからなのか、たくさんの人が集まってくる。何人かは知り合いだ。さっきまで話していた。彼らは自分のウチに帰った。玄関まで見送りに出た。 2階に残っているのは知り合いの知り合いといった連中だ。寝室では女のコが2人、裸になって抱き合っている。その向こうでは誰かが煙草を吸っていた。ここは禁煙だよ、と僕は注意して窓を開けた。 ...
木星の衛星にいました。君と木星を見に来たのです。空に浮かぶ木星。太陽系最大の惑星。 そして足元の水槽の中にも、「木星」はありました‥‥ 水槽に手を入れ、木星をまさぐる僕に、君は訊きます、「木星に生物はいる?」 「探してみるよ」 木星の大きな渦を、ぐるぐるとかき混ぜていたのは僕です。 ...
みんな小走りでした。1人として歩く者はなかったです。僕も小走りしました。疲れると停止して、体力が回復するのを待ち、そしてまた小走りし始めます。決して歩きません。みんなで誓ったのです。 ...
バルコニーに出ました。僕の目の前を蝶が高速で過ぎていきました。あんなに速く飛ぶ蝶を初めて見ました。 次から次と蝶は飛んできます。ここは蝶たちのハイウェイになっていたのです。僕は蝶に撥ね飛ばされそうになりました。 クラクションは鳴らされませんでした。蝶たちは上手に僕を避けていきます。 バルコニーの先でさらにスピードを上げた蝶たちが、空の彼方で虹と一体化するのが見えました。 ...
突然寝室の明かりがつき、人の気配がして僕は目を覚ました。起き上がって確かめようとしたが体が動かなかった。黒い布で目隠しがされていて、目を開けても何も見えなかった。 耳には栓がしてあって、何も聞こえなかった。 誰かがゆっくりと近づいてきて、僕の胸に手を当てた。その手が僕の体内に入ってくる。手は僕の心臓の位置を、正しい場所に置き直しているのだ。 だが心臓の位置がちょっと動くたび...
気づいてみれば、僕が話しかけていたのは、レタスの葉っぱだった。何か、とても大事な話をしていたのだが、相手がレタスだとわかった途端、醒めてしまった。話の内容も、一瞬で忘れてしまった。「今からおまえを食べる」と僕は宣言した。「ドレッシングもつけずにな」 そいつからは、何の反応も返ってこなかった。午後7時のレタスは、午後の5時からレタスだったが、誰も気づかなかっただけなのだ。 ...
ルビー色の蜘蛛の糸のような、レーザー光線の上を、小人が渡ってきた。まっすぐ僕のところにやってきた。 次はオマエの番、と小人は言った。 誰の番だって? じゃ、もういちどオレの番。エヘエヘヘ。 小人がレーザー光線の上に足を乗せ、体重をかけると、レーザーの光は消えた。。 ...
女たちは1人ずつ順番に、まったく同じ質問を僕にした。「私はどうすればいいの?」 僕は全員に、まったく同じ答えを返した。「横になるといいです」 「どうして横になるといいの?」 「あなたはもう死んでいるからです」 ふ〜ん、という顔をして全員が床に横になった。 だが彼女たちは眠るどころか、目を大きく見開いて僕を見つめている。 そして「あなたはもう少し起きていた方がい...
女ばかりだった。またそういう場所に僕は迷い込んでしまった。若い女がいて、若くない女もいた。ほとんど服を着ていないのもいたが、僕を気にする者は誰もいなかった。女たちはみんなとてもリラックスしているように見えた。そして同時に、とても疲れているようにも見えた。 ...
1人の訓練兵と、1つのウンコ、1台の便器がセットになっています。完成させなさい、というのです。すでに完成しているじゃないか、と思いました。それとも脱構築しろというのでしょうか。徴兵され、軍隊に入る夢を見ました。ポストモダンな軍隊です。1週間ほどの訓練の、最初の朝でした。 ...
朝、起きると僕は、知らない場所にいた。床に直接、たくさんの布団が敷いてあり、さっきまで誰かが寝ていたのだろうが、今は全部空だ。部屋の扉は開いていて、外に人の気配がある。気配は感じるのだが、誰もいない。 トイレに行った。便器が異常に小さい。人形の家のトイレみたいに。なぜだろう。僕の体が大きくなったのかも知れないが、よくわからない。あちこちから、水を流す音が聞こえてくる。シャワーを浴びる音...
猫が僕にカードを渡した。どうしろというのだろう。僕はそのカードにポイントを付与して返した。猫は僕の顔をパンチして鳴いた。 ...
手のひらで水をすくって、弱った猫に飲ませた。歯磨きのチューブから少し出して、水に溶かす。水はミルクのように白っぽくなり、薄荷の味がついて、猫は喜んだ。 その猫は、人間の言葉が喋れた。その猫は、銀行に口座を持っていた。大金を僕にくれると言った。ATMについて行った。列に並んだ。 僕たちの後ろに、体長4メートルのキリンが立った。キリンはスーツを着ている。その威圧感が半端なかっ...
「私の瞳、どこにある?」 「どこって‥‥そこに‥‥」 君が笑みを浮かべ、大きくまばたきをすると、君の瞳の中の輝く星は、100個にも200個にもなった。 「えっ‥‥」 君はもういちど、ゆっくりと目を閉じた。僕たちのいた部屋全体が、それに合わせて収縮した。僕たちの距離が縮まった。 君がまた目を開けても、何も元には戻らなかった。君の瞳の中に生まれた、すべての星が一カ所に集ま...
筒の中には巨大なポスターが入っていて重い。家一軒分の重さはあるだろう。 吉幾三の別荘よりは軽いだろうが、ホームレスのダンボールハウスよりは重い。 そんな「家」を抱えて飛行機に乗ったのだが、税関を抜けるときに捕まった。 「こちら拝見してよろしいですか?」 無理だと思う。 ...
僕たちの王が歌うのを、僕は聴かなかった。石を積み上げてつくった玉座に僕はいた。急な段を下りる。もちろん手すりなどない。足を踏み外して転げ落ちたら死んでしまうだろう。だがゆっくりと下りればいいのだ。 下界には人間たちがいて、ピラミッドのような玉座を見上げている。姿の見えない王は。 ...
その大きな車が運んでいたのはたった1枚のレコード。1人の男がそれを大事そうに抱えている。 車はノンストップでもう何日も走りつづけていて、どこまで行くのか知らない。 たまたま乗り合わせた僕ともう1人の男の、鞄の中にある音の出るものはすべて捨てさせられた。 僕が持っていたペンでコツコツとリズムを取っているのを見て(聞いて)、レコードを抱えた男はそれも捨てろと言う。 夜にな...
電話相手は僕に50億円をくれると言った。僕はもらうことにしてその人に会いに行った。川べりのホテルの一室で詳しい話を聞いた。 「本当にタダでくれるの?」相手は若い男だった。 「うーんと、まずワールドカップの得点王になってもらいたいんだ」 「得点王になったらくれるの?」 「そしてヨーロッパのクラブと契約してもらいたい」 「わかった」と僕は請け負った。 「そのとき代理人が要...
いい人が悪い人と一緒にいるとき、悪い人はワニに変身されられた。「この姿も悪くないな」と悪い人は思った。 いい人は人間のままだった。ワニに訊いた。「まだ人間の言葉が喋れるかい?」 返事はなかったが。 構わず「一緒に歌おう」と呼びかけた。そしていい人らしく「希望の歌」を歌った。ワニも口を大きく開けた。 ...
俳優としてのキャリアをスタートさせたのは60歳のときだった。あるドラマの中で僕は30歳の青年を演じて話題になった。たいした役ではなかった。いつも鏡を見て自分の顔を気にしている男の役だった。 その後200歳まで生きた僕は長い牙のある大きな動物に変身して劇に出た。若作りの二枚目役は卒業だった。ラストシーンだった。城の地下に閉じ込められた。王の家臣と一緒だった。「希望はどこにある?」フランス...
2隻の大きな宇宙戦艦があった。それよりも大きな若い女がいた。彼女は戦艦を蹴飛ばした。 僕は宇宙戦艦と同じ大きさだったが、慌てて彼女と同じ大きさになった。しかし彼女は僕も蹴った。 ...