頼りない左手首
10年弱の記憶の痕跡を消すかのように、 捨てて捨てて捨てまくって、 もう捨て切っただろうと思ったところに愛用の腕時計を思い出した。 「お金に困ったら売ればいい」 と、当時そんなことを教えてくれた気がする。 「Laraは俺と一緒にいたほうが幸せだと思う」 (だから考え直すべきだ、の意。) と言われたとき、 どうして私の「幸せ」をあなたが決めるの?と思った。 決断に間違いはなかったと思うし、 いまここでこういう極端な選択をしなければもう二度と私は自分の足で歩けないと感じていた。 決断に間違いはなかったけれど、 腕時計の重みを失くしてぽっかりと軽くなった左手首は、おそろしいほどに心細く頼りなさげで、…
2025/01/28 23:28