「アメフトの練習か?」 「何を悠長なこと言ってるんですか!」鈴木の息は切れてる。どうやら部署からではなく、一階から階段を上った息切れと熊田は見極めた。「部長、今日は来てませんか?」 「まだ誰も来ていない、お前が一番手だ。それがどうした、いつものことだ」 「うちの部署に新人が入ってくるって、熊田さん知ってましたか?」鈴木はドアの隙間から顔を出した状態で処刑を待つ人物そのものに見える。乱れた呼吸はだいぶ整ってきたようだ。上がった眉が際限なく定常を越えていた。それほどのニュースらしい、彼にとっては。 熊田はマイペース、煙を肺に取り入れた。「季節を考えれば、誰かが抜けて誰かが入ってくるだろう。驚くこと…
四月を迎え、署内の顔ぶれが一新。どことなく初々しい署員もちらほら見受けられる。決して初めての仕事ではないであろうに、しかし歩き方のぎこちなさは拭えない様子で行き交う署内のエントランスをいつものように熊田はゆったりと音を立てずに幅広の硬質な階段を一段一段上った。書類を持った女性に挨拶、そのついでに健康診断を必ず受けるようにとの宣告が言い渡される。まるで、竹を割ったようにそれまでは平然と書類に目を通して階段を下りていたというのに、まったく、朝に女性特有の高い声を聞くのは割に合わないぐらいに頭蓋骨に響く。 二階のある一室。熊田はこの部署のナンバーツーである。彼の上司、部長という人物はその正体を隠すよ…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に2-5
何をしているのだろう、私はここで。だけど、生きてはいるようだ。部屋でも生きていたではないのか。これが人が求める幻想なのかもしれないな。それをわからせるため、切り離すための儀式、仕組まれた罠とも思える。どこかでカメラが私を捉えていたら、である。 誰のために私は生きている。私のためさ。間違いはない。間違っていたのは周りの人々、近しい人々。 フライパンが熱を持って音を立てた。栄養が体内で活力となり、生き血を作り、私を永らえさせる。 端末が震えた。画面を捉える。仕事の段取りが変更した、とのメール。 ご苦労なことだ、使役されてるとも思っていないんだ。 私は私にだけ私にのみ私によって私に限って忠実である。…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に2-4
「ここでの仕事はもっと非常識で非常な人間性が見られましたけど」私はそれとなく反論する。 「こっちがそもそもの姿なのよ。もちろん、私にだって落ち度はあるし、完璧とはいえない。ただし、いつも目は光らせていた。外側よりも中身を一目を置いていた、鋭い爪を隠して未使用で、けれど研ぐことを怠らずにいた。すると、あるときにこの施設から声がかかったの」 「外には出てますか?」私は次々と質問を変える。 「ここでの作業はないに等しいかな」 「具体的な内容は教えられない?」 「命はまだ惜しいつもり」 「危険?」 「均衡を保つため、世の中にバランスが必要であれば、私たちの仕事は確約されたも同然」 「私はすぐには判断し…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に2-3
「こんにちは」私は挨拶を交わした。 「初めての人だね」短い髪、男性的な口調、すらりと伸びた首から覗く白さは女性そのもの、ボーイッシュという形容が正しいかどうかは私には判断しかねる。だって、短髪が女性の象徴であるのは、子どもを育てる役割にさかのぼれば髪の長さは行動を左右しない。対して、男性は積極的にこちらから外的な事象に体を使用するため、あまりにも長い髪は不要である。それに髪の長さに清潔感を抱くのは短い髪が定常化した感覚に格上げされたに過ぎない。現れた人物は誰かに似ているだろうか、しかし名前は思い出せない 「専属でこの仕事を?」私は冷蔵庫の水を掴んできいた。 「ああ、まあ、そんなところ。今日はた…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に2-2
私は、コンビニを目指して一方通行の道路を足早に渡りきって、店内の入店音に歓迎?違う、会計を済ませた退出の命令を聞いて入る。「人にわかってもらおうと思ったのは、ずいぶん前の私です。今は必要ないでしょう。もし仮にプログラム以前のバージョンに引き戻されても、私がそれに適応するかどうか、断じて疑うべき。乗り気にはなりましたよ、あなたに会って話をして言葉を反芻しましたから」 「全く誠実な人ですね、そういわれませんか?」 「正直な部分を強調、認められない部分は手短に端的に確実にきっぱりと述べることを心がけている。それでも体は汚れる」 「純粋なのね。そういった人が私には、仕事には必要なのよ」女性は色っぽく息…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に2-1
疲労の度合いが週をまたぐたびに休息を呼びかける。しかし、私は決して疲れてはいないと、言い切り、体の声を聞こえないように遮った。仕事の疲労もさることながら、休日の出勤が週の半ば、水曜まで引きずるのは年齢のせいかもしれない、考えたくないが。いいや、考えておかなくては。もう成長期ではありしないのだし、私は酸化して細胞が蝕まれ、分裂を止めはじめた下降期に差し掛かったのだ。 また服を着たまま眠ってしまった。重たい体を引き起こす。ビールはとっくにぬるく、プリンも常温に戻ってる。腰を上げてその二つを冷蔵庫に入れた。頭が重い。途中で引き起こされた眠気がかんしゃくを起こしているみたいに、頭部が膨張してる。放置が…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-8
しばらく、天井を眺めつつ、なおもスツールに座りながら、私は再会する新たな職場での仕事の進め方を模索した。まずは、部下の個性を掴むことが重要だ。人数とこれまでの実績と言動と仕事振りを把握することがなりより先決だろう。上司の理解はこの際後回しだ。とにかく、私が従える、使える人材をいかに有効に配分させるかを、短期間で見極めることが上り詰めるには必要であるのさ。何も落ち度はないはずだ。ただし、会社内ではまったく正反対の、私への意見が聞かれたっけ。まあ、最初から同僚は視界にすら入れてない。私は絶対に届かない天井に手を伸ばす、薄い黄土色の骨組みが冷たくて気持ちいいんだろう。もしかすると私は罠にはめられたの…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-7
「だから、どうだっていうのかしら。あなたもわかっているはずよ、利便性は作られた便利で必ず背後では懐に金銭を決して見つかることのないほくそえむ人物が蓄えてる。では、反対に質問をしましょうか。あなたがこうして歩き、マンション周辺にあてもなく視線を走らせてるのは、無駄だとはいえないのかしら?」 「歩く機会が今後は極端に少ないと判断した、それに周辺の土地勘を持ち合わせておけば、歩行のときにいらない意識を周囲に配らないで考え事に専念できる」 「では、なおさら内部が気になったこの建物の正体は突き止めたいと思われるのでしょうね」 誘導尋問に思えたが、私は正直に頷いた。 「結構です。プライドも高くはない、素直…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-6
「勧誘?新聞の購読ではなかったのでしょうか」明らかな年下に対する敬語に違和感。そうか、わかった。いつも敬語を使う対象が自分よりも立場が上の、年齢も高い人物であるからだ。体面を重んじるあまり異なる対象者への使用がいつの間にか言葉に圧力と重ねた自信とが入り混じり、高圧的な態度が形成されるのか、私はひそかに特定の人物思い浮かべた。 「まだ読んでいらっしゃらないのね。それでここへきたのは、運命を感じずにはいられない。そうは思いませんか?」なぜ私が新聞の見出しすら読んでいないことを彼女は恐れもなく確信めいた言い切りが可能だったのか。それは私に欠けた、いいや。あえて獲得を拒んだ、機能だ。 私はかろうじて言…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-5
誰にも会わない。一度振り返ってみても、口をあけた門を通過する車も、緩やかになった傾斜を上る、あるいは下る人も車も視界に捉えることはできなかった。これまでもたぶん不安だったのだろう、それが一人になって、景色や車や人がすっかり周囲から音もなく消え去った反動で現状が思い返されたのだ。つまりは、これこそ私の奥底に眠る本心だ、ということか。いかにも哲学的な思考だ。しかし、哲学という概念や括りは斜に構えたようで好きにはなれない。そんなことを考えながら歩いていると、建物にたどり着いた。さて、どうしたものか。開かれた場所、とはいってもお寺に足を踏み入れて、拝むべき仏像や由緒ある宝物や歴史的な価値の高い建造物が…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-4
竹部美智子は、昼食用のおにぎりを二つ携えて、誘う彼女が立ち去った数十分後に部屋を出た。一階、エントランスのステンレスのポストには新聞のような材質と色合いを兼ね備える紙の束が突き刺さっていたが、私は手に取らず、焦点を微かに合わせたのみで、屋外へ躍り出た。その日の帰宅時に新聞は手にとって、部屋に運んだがローテーブルに置きっぱなしで一度も開いていないまま、朝を迎えた。 翌日からは電車で目に留まった場所に降り立ち、駅周辺をひたすら歩き、景色を眺め、建物を記憶し、お腹が減るとレストランや喫茶店を探し、夕方、日が落ちる頃に駅に舞い戻り、そして部屋に引き返す生活を三日ほど続けた。 仕事始めまでの残りの数日は…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-3
「はい」 「新聞のご購読はいかがでしょうか?」 「必要ありません」私はきっぱりと断ったつもりだった。 「必ずあなたにとって有益な情報が掲載されますが」含みを持たせた言い方。女性は上目遣いで男を誘う、ある種女性的な匂いを漂わせる仕草。同姓には悪寒が走る態度であることは、感知していないらしい。私は応える。 「結構です、宗教に頼るほど落ちぶれてはいませんので」 「勘違いをなされている」女性はつぶやくように言った。背後でマンションの住人がエントランスの自動ドアを潜り抜ける姿が映った。「特定の宗派を重んじろなどという、大それた信念はむしろ無意味だと考えていますのよ。お分かりになっているあなただから、更な…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-2
仕事を初めて旅行に行った試しは、日帰りで温泉にそれも一人で行ったことぐらいだろうか。気の置けない仲のいい友人に私は当初から懐疑的だった、三人の旅行が、友人たちはそれぞれのプライベートを優先し、結局予定変更の内私一人での温泉旅行に成り果てた。個人的な事情を優先したことは私が聞きだしたのではない。周囲が勝手に私に吹聴したのだった、そう頼んでもいないのにね。それ以来、旅に価値を見出せない私にとって二週間の空白を旅以外で埋める悩みが襲来。自室を拠点とすることを最低限に据えて、考えをがらりと変えた。すると、たちどころに景色が開け、引っ越した当日に各種自宅の手続きや金銭的な契約の更新を片付けて、それから数…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-1
O市は古きよき経済発展当時の町並みを今も尚、形をとどめた北の古都。グルメ、観光、ショッピングがあなたの帰りを待っている。宿泊はライトアップされた運河が一望できる絶景をご堪能いただけます。 あなたの旅に、ノースノエル。 北海道に転勤になって早二ヶ月と数日か、竹部美智子は言葉にならない声を出して自宅のベッドにへたり込んだ。コンビニの袋も今日で一週間ぶっ続け、新品のゴミ箱はたまりに溜まっている。もう小さく畳まずに押し込んでいた。面倒なのだ。もちろん、女性として、これは人としてだらけてはしたないとは思ってはいるが、体が疲労を溜めに溜めて言うことを聞き入れてはくれないのだから……、そうやって私は理由をつ…
私は訊いた。「ほとんどの人が端末を持ってますけど、あなたも持ってますか。私は初めてなのです」 「ああ、大丈夫ですよ。操作に不安があっても、はい、問題なく使えますよ」 「端末を利用しない人がいる事は、ご存知ですか?」 「"離反者"の事ですか、まあ、ええ、仕事柄」店員は会計を求める。私はカードを提示。サインを書いた。 「彼らについてはどう思います?」 「文明に逆らっているのではないですから、そこまで攻撃することもないとは思いますよ。連絡、通信の手段を拒んでいるのではなくて、そういった人たちはPCを自宅に置いてるとききます。外では使わない、という事なんでしょう。このまま、ご使用になりますか?」 「は…
何階だろうか、とにかく高い部屋があてがわれた。荷物は持っていないので案内は拒否した。そうだ、着替えも持っていないのだ。私は水を冷蔵庫から取り出して、傾ける。飲みかけのペットボトルが一本入っていた、それにビニール包まれたオレンジ色の飲料水も。 私は水を持ってフロントに下りる。飲みかけの水と飲料水の事を伝えた。私の仕業ではないことは、フロントの人物が証言してくれるだろう。部屋に帰るまでに片付けておいてほしい、と伝えて、私はホテルを出た。高架下と電気店。ビルが立ち並び、上空の視界は埋まってる。 駅に戻って数日の服と下着とそれらを入れるバッグを三十分ほどで同じ店で買い揃えた。タグをすべて切ってもらい、…
印刷所。カタコト。不規則な音声。 「一部ずつだとこちらとしては、販売することはできないですよ」 「では、何部からなら取り扱ってくれるのですか?」 「最低で五十」 「では、その数字で。ああ、別の文章でも印刷をお願いします」 「失礼ですけどね、こんなに少なくていいんですか?」 「ええ、十分。私が届けたい相手には伝わりますから」 「そうですか、はあ」 「納得していませんね。そこまでの説明が必要でしょうか?」 「あ、いや、そのいずれ、また印刷するんだったら、いっそのことねえ、だってどう見ても少なすぎる」 「不特定多数へ向けた提供を省いた。特定に人物にだけ行き渡るような配慮です。大量に刷り上げたからとい…
味噌汁を啜る。けれどこれで自国民の気質を思い出すことはない。たんにそれはだって周知の事実、私が食べてきた習慣によるもので、決して受け継がれた国民性をどうしてそんなにも大々的に遺伝子に組み込まれた、刻まれたなんて言えてしまえるのか。 食べるのはいつも口にしてたからである。パンでも昔から食べていたら口を支配するのはそれなのだろう。 数分で食事を終えた。容器と包装を捨てて食器を洗う。 デスクに座って、メールの返信を打った。 「早急な対応に感謝します。見えている世界をあなたが望むままに変えられる狭間のあなたのような人物を私は欲していました。お世辞ではありません。会社は昨日立ち上げました。現在はあなたの…
コーヒーを口にする。インスタントのコーヒーだ。短時間で水が沸く電気ケトル、私はキッチンに立って考察に耽る。便利の裏には失われた行動があって、生み出された余剰時間はおそらくは無意味で気にも留めない使い方に消費されると、私は思う。今日ここへ電車の車内で、前の席の男性二人が、レコーダーについて語っていたのを思い出す。二人の職業、業態は定かではなかったが、どうやら記者らしかったのだ。 昔は会見場ではメモを取った。しかし、すべてを書き出すことは困難なので、端的に単語や重要なワードだけを抽出し、それをメモした。だが、会社に戻り、記事を書き始めると、メモを見ただけで、会見の内容が頭に浮かんできた、覚えようと…
見限った思想が良いだろう。悲観的も微かに備えて、それでいて破綻をしてない。流行に左右されず、一人を好む、何度が表と裏をひっくり返した経験もほしい、それでいて現在は真裏、表でも構わないが、比較的言動の少ない性質がほしい。私は、情報網を日本国内からあえて、施設近隣の地域に絞った。もう午後の夕方。高い窓から、電磁輻射のスペクトルでも限定された空にかかる橋のアーチの色、中でも施設に降り注ぐ入射角が小さいための長い距離によって他の色が吸収されて残った赤が床に落ちていた。検索対象はいくつかのコミュニティそれも限定的で非現実的、逃避よりもそれを楽しんでまた現実への帰還を繰り返している人物たちに絞り込む。しば…
梱包された各種機器が施設に届く、そのつどサインを求められ、何度か彼らの反応を窺ったが、誰もが読めもしないサインに疑いすら持たないことを観測した。住所と運ぶ商品の一致がすべて、受け取る人物は誰でも良いらしい。住人になりすませたら、届いた荷物を簡単に受け取れる。 開業二日目。 設備が整い、ペットボトルの水を冷蔵庫から取り出すと、それをもってデスクについた。間仕切りのない空間にぽっかりと私とキッチンが空間占領の大部分。しかし、空間は五感以外の新たな法則によってしか、その存在を確認できない目に見えない微細な物質たちで埋め尽くされている。認識。これが通常捉えうる感覚をより高め、視野を広げる。狭まった装置…
「電車で。駅からは歩いて。どのような趣旨の質問ですか」 「汗かいてるからよ。車、もってないの?まさか免許もないとか?」 「必要性に駆られなかったですし、車両を保管する場所代と本体の維持費、価格に見合う価値を見出せなかっただけの事です。数年ごとの免許の更新はレンタカーを借りる事で、採算は取れています」 「変わってる。まあ、別に私はいいんだけどさ」 「そうですか、でしたら、車も数台、施設で所有しましょう」 「買うの?本当は乗りたいんでしょう?」煽るように私は言った。が反応は芳しくない。 「運転に爽快感を求めたことは考えても、ひとつたりとも思い浮かばない。ご期待副えなくて申し訳ありません」 「謝らな…
「粗野磊落の部長がですよ、私に助けを求めるはずがありません」 「どうして部長が書類の送り主だと思ったんだ」熊田はもう一度きいた。 「封筒の宛名に僕は部長としか話していない内容をにおわせる印がついてあったんですよ」 「印?」 「最新機種、今春に発売される一眼レフカメラの製造番号です」 「部長はカメラに詳しいのか?」熊田がはじめて聞いた部長の趣味である。 「それはもう僕なんかよりも」鈴木はここでタバコを咥えた。熊田がライターで火をつける。鈴木が軽く感謝の合図を送った。「だって、車にはいつもカメラを積んでるっていってましたよ」 「共通項はカメラの最新機種と部長の人事異動か。確証はないが、疑いは強いか…
「熊田さん!」喫煙室の扉は、腰から天井まではガラス張り、外部と視界を共通する。ドアなど眼中にない勢いで鈴木が激突、しかし反動を諸共せずにドアを引きあけた。彼は熊田の部下である。 「アメフトの練習か?」 「何を悠長なこと言ってるんですか!」鈴木の息は切れてる。どうやら部署からではなく、一階から階段を上った息切れと熊田は見極めた。「部長、今日は来てませんか?」 「まだ誰も来ていない、お前が一番手だ。それがどうした、いつものことだ」 「うちの部署に新人が入ってくるって、熊田さん知ってましたか?」鈴木はドアの隙間から顔を出した状態で処刑を待つ人物そのものに見える。乱れた呼吸はだいぶ整ってきたようだ。上…
四月を迎え、署内の顔ぶれが一新。どことなく初々しい署員もちらほら見受けられる。決して初めての仕事ではないであろうに、しかし歩き方のぎこちなさは拭えない様子で行き交う署内のエントランスをいつものように熊田はゆったりと音を立てずに幅広の硬質な階段を一段一段上った。書類を持った女性に挨拶、そのついでに健康診断を必ず受けるようにとの宣告が言い渡される。まるで、竹を割ったようにそれまでは平然と書類に目を通して階段を下りていたというのに、まったく、朝に女性特有の高い声を聞くのは割に合わないぐらいに頭蓋骨に響く。 二階のある一室。熊田はこの部署のナンバーツーである。彼の上司、部長という人物はその正体を隠すよ…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に2-6
「どこで私を見つけたの?」 「いつも見ていたさ」 「嘘ばっかり」 「うん、嘘。だけど、その方があなたは笑う」 「うそつきはうんざり、顔も見たくない」 「鏡を差し出せばいい」 「鏡?」 「水面にはいつだって山が映ってる」 「私は嘘はついてないよ」 「そう」 「信じないのね」 「いいや、君の言ったことがすべてだ」 「仕事を辞めたのよ」 「そう」 「どうおもう?」 「君はどう思うの?」 「正直、ちょっと不安」 「そう」 「さっきからそればっかり」 「そうは三回、そのは一回」 「私は私であるために生き抜くって決めた、あいつらの驚いた顔見せてあげたかったな」 「いつも見ている」 「しったかぶりだね」 「…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に2-5
「危険?」 「均衡を保つため、世の中にバランスが必要であれば、私たちの仕事は確約されたも同然」 「私はすぐには判断しかねます、なんだか裏社会の仕事みたい思える」 「私は特別かもしれない、即決だったもの。あなたはまだ正常なのかも、両方の規定に縛られながら良く生きていられるわね。私はとっくにそっちの糸は切ってしまったもん」 「糸ははじめからなかったと、私は解釈してます。切れないのは、うーんと、うまく言葉に表すのは難しいかも」 「言わなくていいよ。それよりさ、まだ作業してくの?」彼女は好機の目でこちらの内部を探る。 「軽く食べて、少しだけは」 「何をつくんの?」 「ああ、適当にある材料で作るけど………
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に2-4
「誰だって一人じゃん。繋がってるなんて作り上げた幻想だもん。考えたくないなら素直に結婚して身を固めればいい。身を固める結婚が一人の人間として認められるのはもう過去の遺物、遺産なのに、まだ懇切丁寧に持ち合わせていなくっちゃって、思い込ませてるのは癪に触るよ」 「勝手に料理をしてもいいのかな?」私は砕けた言い方に変えた。 「いいんじゃない。明日になれば、誰かが片付けて、冷蔵庫の中の食材は補給されてるもん」短髪の女性は手を天井に、降り始めた雨を確かめるポーズで応える。「あなた、前の所属はどこ?」 「前って、私はまだ仕事辞めていないけど」 「仕事は?」 「SAKAKI」 「へえ、自動車関連ねえ」 「感…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に2-3
「結構です、異論はありません」私は、添加物だらけの炭水化物、それと消火しきれない野菜が盛り込まれた弁当を手に取る。 「契約成立ね。音声は記録されてます、これが契約のサインとなるので、ご容赦なきように。では、ごきげんよう」 こういったやり取りを彼女と交わして、週末にあの施設を訪れた。鍵は無用心にも開いていた。私のブースがわかりやすく、初出勤の方と殴り書きのコピー用紙が貼られ、仕事に取り掛かった。ブース内は、PCとデスクに椅子。快適な空間とは言いがたいが、仕事に取り組み始めると私は時間の感覚を忘れて、およそ八時間を初の大役に充てた。 仕事というのは、画面に表示される特定の人物の行動記録から、その自…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に2-2
「積極性の欠如は、その安全性、危険察知の能力肥大にあるわ。どこかで、危険に長期間さらされた過去があったのでしょう。しかし、あなたは経験に裏打ちされたデータを基に積極性の不足を補う。あえて言わせてもらえれば、あなたはかろうじて優秀さを保っている、その能力も惜しみなく発揮する場を与えられず、ひた隠して生きる。なんて無意味なんでしょうね。誰も気がつかない、実に惜しい現状だわ。もちろん、私はすぐに見抜きました」女性は電話口で続ける。「私に何があってもあなたは泣いたりはしない、あなたは家族の死にもおそらくは立ち会わないでしょう、心がないという人が正常だと思っている浅はかな人間にこの機能の有能さはいつまで…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に2-1
疲労の度合いが週をまたぐたびに休息を呼びかける。しかし、私は決して疲れてはいないと、言い切り、体の声を聞こえないように遮った。仕事の疲労もさることながら、休日の出勤が週の半ば、水曜まで引きずるのは年齢のせいかもしれない、考えたくないが。いいや、考えておかなくては。もう成長期ではありしないのだし、私は酸化して細胞が蝕まれ、分裂を止めはじめた下降期に差し掛かったのだ。 また服を着たまま眠ってしまった。重たい体を引き起こす。ビールはとっくにぬるく、プリンも常温に戻ってる。腰を上げてその二つを冷蔵庫に入れた。頭が重い。途中で引き起こされた眠気がかんしゃくを起こしているみたいに、頭部が膨張してる。放置が…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-8
「どうも」男が一人、挨拶を述べた。私は咄嗟に声のほうに姿勢正した。短く借り上げた髪、端整な顔立ちは横顔がそう言っている。 「ここは何をする場所ですか?」男は片手を腰に当てて、首を鳴らした。しばらく間があく、コーヒーがボタン一つでカップに注がれた。コーヒーメーカーの方は手を付けないのか。 「初めての人?」響く声、しかし高音も持ち合わせた融合。厚い瞼に一重の切れ長の瞳。 「その辺を散歩していたら、たまたま通りかかって、それで中に入れてもらいました。あの、ご迷惑なら、帰ります」 「部外者は入れない、一歩とたりとも。入れたのは選ばれたからで、あなたはここにいる権利が認められた。慌てて出る必要ない。また…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-7
誘導尋問に思えたが、私は正直に頷いた。 「結構です。プライドも高くはない、素直に自分の非を認められる柔軟さ」女性は、顔を最後まで残して先へ進んだ、ドアが横にスライド、直線上の私の視線を逸れた、同時にそれはドアが見せ付けた空間上を彼女が移動した、ということ。「どうぞ、お好きなように心ゆくまでご堪能あれ。お帰りは私に言付けてなくて結構、好きなときに出ていかれて構いませんから。ご質問があれば、なかの者に聞くか、それが躊躇われるときは、壁のインターフォンを押せば、私が応答しますので」 ドアは開いたまま。内部がドアの分だけ見えていた。慄然たる恐怖を押し込め、私はそっと、開いたドアを片手で押さえて、覗いた…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-6
「まだ読んでいらっしゃらないのね。それでここへきたのは、運命を感じずにはいられない。そうは思いませんか?」なぜ私が新聞の見出しすら読んでいないことを彼女は恐れもなく確信めいた言い切りが可能だったのか。それは私に欠けた、いいや。あえて獲得を拒んだ、機能だ。 私はかろうじて言い返す。「思いません」 「あらっ」女性はわざとらしく首を傾ける。しかし、演技には見えなくなっていた。「正直な人ですね」まじりっけのない澄み渡る空を思い起こさせる微笑だ。 「……私には場違いですから、失礼します」 「このあたりを散策していたのでしょう?」女性は肩越しに覗く私に高らかと宣言めいた口調で話しかける。表情の変化に忙しい…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-5
誰にも会わない。一度振り返ってみても、口をあけた門を通過する車も、緩やかになった傾斜を上る、あるいは下る人も車も視界に捉えることはできなかった。これまでもたぶん不安だったのだろう、それが一人になって、景色や車や人がすっかり周囲から音もなく消え去った反動で現状が思い返されたのだ。つまりは、これこそ私の奥底に眠る本心だ、ということか。いかにも哲学的な思考だ。しかし、哲学という概念や括りは斜に構えたようで好きにはなれない。そんなことを考えながら歩いていると、建物にたどり着いた。さて、どうしたものか。開かれた場所、とはいってもお寺に足を踏み入れて、拝むべき仏像や由緒ある宝物や歴史的な価値の高い建造物が…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-4
竹部美智子は、昼食用のおにぎりを二つ携えて、誘う彼女が立ち去った数十分後に部屋を出た。一階、エントランスのステンレスのポストには新聞のような材質と色合いを兼ね備える紙の束が突き刺さっていたが、私は手に取らず、焦点を微かに合わせたのみで、屋外へ躍り出た。その日の帰宅時に新聞は手にとって、部屋に運んだがローテーブルに置きっぱなしで一度も開いていないまま、朝を迎えた。 翌日からは電車で目に留まった場所に降り立ち、駅周辺をひたすら歩き、景色を眺め、建物を記憶し、お腹が減るとレストランや喫茶店を探し、夕方、日が落ちる頃に駅に舞い戻り、そして部屋に引き返す生活を三日ほど続けた。 仕事始めまでの残りの数日は…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-3
「はい」 「新聞のご購読はいかがでしょうか?」 「必要ありません」私はきっぱりと断ったつもりだった。 「必ずあなたにとって有益な情報が掲載されますが」含みを持たせた言い方。女性は上目遣いで男を誘う、ある種女性的な匂いを漂わせる仕草。同姓には悪寒が走る態度であることは、感知していないらしい。私は応える。 「結構です、宗教に頼るほど落ちぶれてはいませんので」 「勘違いをなされている」女性はつぶやくように言った。背後でマンションの住人がエントランスの自動ドアを潜り抜ける姿が映った。「特定の宗派を重んじろなどという、大それた信念はむしろ無意味だと考えていますのよ。お分かりになっているあなただから、更な…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-2
仕事を初めて旅行に行った試しは、日帰りで温泉にそれも一人で行ったことぐらいだろうか。気の置けない仲のいい友人に私は当初から懐疑的だった、三人の旅行が、友人たちはそれぞれのプライベートを優先し、結局予定変更の内私一人での温泉旅行に成り果てた。個人的な事情を優先したことは私が聞きだしたのではない。周囲が勝手に私に吹聴したのだった、そう頼んでもいないのにね。それ以来、旅に価値を見出せない私にとって二週間の空白を旅以外で埋める悩みが襲来。自室を拠点とすることを最低限に据えて、考えをがらりと変えた。すると、たちどころに景色が開け、引っ越した当日に各種自宅の手続きや金銭的な契約の更新を片付けて、それから数…
おお、神よ。あなたはそこにいらしたのですね、私の足元に1-1
北海道に転勤になって早二ヶ月と数日か、竹部美智子は言葉にならない声を出して自宅のベッドにへたり込んだ。コンビニの袋も今日で一週間ぶっ続け、新品のゴミ箱はたまりに溜まっている。もう小さく畳まずに押し込んでいた。面倒なのだ。もちろん、女性として、これは人としてだらけてはしたないとは思ってはいるが、体が疲労を溜めに溜めて言うことを聞き入れてはくれないのだから……、そうやって私は理由をつけて、仕事帰りに、駅近くのコンビニで夕食には遅すぎる夜食の弁当とプリン一つ、ビールを一缶購入し、帰宅の途についたわけである。誰に説明しているのだろうか、竹部はまっさらな天井を見つめて迫りくる窮屈な部屋をぼんやりと眺めた…
「この端末でこの回線は使えますか?」 「ええ、問題ないと思いますけど、試してみますか?」レジの隣にまた座る。店員に二センチ角ほどカードを手渡す、数分で動作が確認できた、すぐに使えるよう設定を施してくれるというので、お願いする。 私は訊いた。「ほとんどの人が端末を持ってますけど、あなたも持ってますか。私は初めてなのです」 「ああ、大丈夫ですよ。操作に不安があっても、はい、問題なく使えますよ」 「端末を利用しない人がいる事は、ご存知ですか?」 「"離反者"の事ですか、まあ、ええ、仕事柄」店員は会計を求める。私はカードを提示。サインを書いた。 「彼らについてはどう思います?」 「文明に逆らっているの…
自分のPCは施設においてきた。新しい端末を買おうか。外でも繋がる必要が出てきそうな予感。 私は電気店を訪れる。不必要なソフトが極力取り除かれ、計量でコンパクトな物が欲しい。手ごろな値段で果物のシンボルのそれを選ぶ。手にしたのは、初めてである。レジで領収書を切った。忘れずに回線の契約をレジで聞く、隣のカウンターに移動、幾つかのプランを提示。ほとんどが月額固定の料金徴収、思う存分心ゆくまで仕様を認める代わりに料金を、使用の少ない月であっても同額を支払うのか。私は、利用に応じたプランはないものだろうか、と尋ねてみた。すると、端末を持っているのであれば、そちらを介した回線の利用が可能だという。しかし、…
当てもなく駅通路を進む。 資金が必要だったのは確かにいえる。それでも、自分だけの生活は可能だった。世界を細部まで観測しつくしてから、異なった尺度と理論と角度を求めたかったのかもしれない。すべては命が尽きるまでの実験に過ぎない。これに尽きる。 家はどこだったろうか、自宅というものをそういえば持ち合わせていないことに気がつく。そう、施設に住む予定だったのだ。しかし、どうしてか私はあそこと職場として解放するようなのだ。自分の行動を振り返って思う。よくわからない事をたまにやってのける、だけれどもそれは私だ。気がついていないだけの、生きるために生存獲得に勝ち続けた私。 とりあえず、守られた駅に別れを告げ…
印刷所。カタコト。不規則な音声。 「一部ずつだとこちらとしては、販売することはできないですよ」 「では、何部からなら取り扱ってくれるのですか?」 「最低で五十」 「では、その数字で。ああ、別の文章でも印刷をお願いします」 「失礼ですけどね、こんなに少なくていいんですか?」 「ええ、十分。私が届けたい相手には伝わりますから」 「そうですか、はあ」 「納得していませんね。そこまでの説明が必要でしょうか?」 「あ、いや、そのいずれ、また印刷するんだったら、いっそのことねえ、だってどう見ても少なすぎる」 「不特定多数へ向けた提供を省いた。特定に人物にだけ行き渡るような配慮です。大量に刷り上げたからとい…
一人である。 音がないようで、私は、自らの鼓動は常にリズムを刻んでいる。外側にばかり意識を向けるのは、もったいない。 味噌汁を啜る。けれどこれで自国民の気質を思い出すことはない。たんにそれはだって周知の事実、私が食べてきた習慣によるもので、決して受け継がれた国民性をどうしてそんなにも大々的に遺伝子に組み込まれた、刻まれたなんて言えてしまえるのか。 食べるのはいつも口にしてたからである。パンでも昔から食べていたら口を支配するのはそれなのだろう。 数分で食事を終えた。容器と包装を捨てて食器を洗う。 デスクに座って、メールの返信を打った。 「早急な対応に感謝します。見えている世界をあなたが望むままに…
コーヒーを口にする。インスタントのコーヒーだ。短時間で水が沸く電気ケトル、私はキッチンに立って考察に耽る。便利の裏には失われた行動があって、生み出された余剰時間はおそらくは無意味で気にも留めない使い方に消費されると、私は思う。今日ここへ電車の車内で、前の席の男性二人が、レコーダーについて語っていたのを思い出す。二人の職業、業態は定かではなかったが、どうやら記者らしかったのだ。 昔は会見場ではメモを取った。しかし、すべてを書き出すことは困難なので、端的に単語や重要なワードだけを抽出し、それをメモした。だが、会社に戻り、記事を書き始めると、メモを見ただけで、会見の内容が頭に浮かんできた、覚えようと…
見限った思想が良いだろう。悲観的も微かに備えて、それでいて破綻をしてない。流行に左右されず、一人を好む、何度が表と裏をひっくり返した経験もほしい、それでいて現在は真裏、表でも構わないが、比較的言動の少ない性質がほしい。私は、情報網を日本国内からあえて、施設近隣の地域に絞った。もう午後の夕方。高い窓から、電磁輻射のスペクトルでも限定された空にかかる橋のアーチの色、中でも施設に降り注ぐ入射角が小さいための長い距離によって他の色が吸収されて残った赤が床に落ちていた。検索対象はいくつかのコミュニティそれも限定的で非現実的、逃避よりもそれを楽しんでまた現実への帰還を繰り返している人物たちに絞り込む。しば…
梱包された各種機器が施設に届く、そのつどサインを求められ、何度か彼らの反応を窺ったが、誰もが読めもしないサインに疑いすら持たないことを観測した。住所と運ぶ商品の一致がすべて、受け取る人物は誰でも良いらしい。住人になりすませたら、届いた荷物を簡単に受け取れる。 開業二日目。 設備が整い、ペットボトルの水を冷蔵庫から取り出すと、それをもってデスクについた。間仕切りのない空間にぽっかりと私とキッチンが空間占領の大部分。しかし、空間は五感以外の新たな法則によってしか、その存在を確認できない目に見えない微細な物質たちで埋め尽くされている。認識。これが通常捉えうる感覚をより高め、視野を広げる。狭まった装置…
「噂を流すの?」 「写真は取れない。そこには想像が働く、しかも言葉による伝達には少なからず人を楽しませる装飾が必要になる。勝手に想像を膨らませてくれるのですから、こちらが流す情報よりも信憑性は増すでしょう」 「人手は?あなた単独作業ではいずれ破綻をきたすわ」 「そうですね。それは、こちらで対応します」 「あなた、どうやってここまで来たの?」私は思いついた質問を投げかけた。 「電車で。駅からは歩いて。どのような趣旨の質問ですか」 「汗かいてるからよ。車、もってないの?まさか免許もないとか?」 「必要性に駆られなかったですし、車両を保管する場所代と本体の維持費、価格に見合う価値を見出せなかっただけ…
完成した建物の玄関を開け、室内に入る。音がない。真っ白、空気に色をつけたらおそらくこんな様子。すぐになくなる絵の具の作られた石灰石の白だ。 中央にキッチン。誰の発想だか、まったく、私は舌打ち。何を想定しているかは、私にも微かにわかる。しかし、正体、本質、目的は一切知らされない。それが組織を継続させる秘訣。私が捕まれば、そこから情報が流れる。要するにフェールセーフと使い捨て。 音もなく突然現れた気配を感じて私は振り返った。人が一人立っていた。入り口の前である。 「何が必要?」私は尋ねた。こっちを眺める人物がここを取り仕切るのだろう、私は完成直後の当該施設へ選出された担当者に建物の引継ぎの命を伝え…
建設工事は着々と進行、作業の着手は一年前に遡る。 仏閣の破壊を嫌うので買い取り手がつかなかったらしい、建物と敷地を格安で手に入れられたのは、組織への私の貢献度はかなり高い。別に褒めて欲しいとは思わない。仕事だから、仕方なく尽くしてる。私のようなポジションの仕事が存在することが、そもそも不可解な事態である。また、それにもまして、私が施設の建設に関わっているなどとは夢にも思わない、かつての自分からは想像すらつかない。抜け出せないのだろうな、このまま。それもいいだろう。だって、戻れたとして、そこに居場所を見つけるのも一苦労だ、私を殺してまで、いられるとは到底思えない。まして、新たに居場所を作り出す労…
着替えて、ギターを背負う。これからスタジオ。年中を抑えたままのスタジオ。いつでも使えるように、資金のほとんどがスタジオに費やされている。所有は嫌い。だから、高くても借りる。身軽なほうがいいのだ、飛ぶためには。 裏口を説得されて選択、そちらから外に帰還。 春の陽気。行き先だけを私に告げる端末でスタジオへの経路を調べる。立ち止まる私は数枚、撮影された。視線を送る。目を逸らした。ありきたりな光景。いくらかあなたの話題になってくれたら、幸い。一過性、見返すこともないのだから、腹を立てるのはナンセンス。取り合うべき対象は、曲である。 いつかのための帽子をギターケースのポケットから引き出す。黒いキャップを…
弦を弾く。声を紡ぐ。どちらも振動。 私ではないのに、笑えてる、聞き取ろう、あるいは自分にものにと、目を凝らす。 気づいて。 これは見せかけ、商売なのに。まだ、私に未来を見出してる。 何も与えない。それが私だ。 笑顔に埋もれた、一人だけ悟ったような顔を見つける。 どこかで見かけた人。 スタジオの人物だ、名前は知らない。 伝わってる、理解者が一人。これで曲は完成。救われたも同然。 披露はおしまいでいい。曲は生きられる。私も次に進める。何をしようか、これまでに歩まない道を進もうか。 笑えているか、おまえたちは。 私の笑顔で。鏡ではないのだ、そこに見出しているのは、いつかの、過去ではない、現在のおまえ…
「アイラさんが了承してくれるのなら、私が意見することなど……、断りきれなかった私に責任がありますから」カワニはまだクライアントに押し切られた打ち合わせを悔やんでいるらしい。自分以外に不手際の影響が及んでしまう、だからふがいなさが払拭されないのか。とって代われないのは生まれたときから決まって、わかっているはずなのに、スイッチの切り替えがとても緩慢。なんとも思っていない、私の言葉も半ば耳に届かずに一定方向に渦巻く流れをただただ水流が収まるまで待っているような構えか、アイラは鈍重な反応を示すカワニを切り離して、仕事に取り掛かった。 ステージの下見。先ほどの人物とは別の店員に案内されて、三階に降り立っ…
「いらっしゃいませ、……あっ、おっ、えっつと、ああ、こんばんわ」 「会場はどちらですか?」 「わ、私がご案内したしますです」 「お願いします」 お客の列を保つレーンに沿って店内を平静を取り戻しつつある店員に案内を頼む。私の声に気がついたのだろう、短い奇声が通り過ぎてから後頭部に刺さった。途切れた陳列棚の隣、ドアを押し開けた店員に先に入るように、促された。裏手。上下に階段。どうやら地下もあるらしい。 二階へ階段を上る。上りきってすぐに右に。事務室、室内の周囲という周囲を灰色の棚とロッカーで埋め尽くす。中央に個人用のデスクを配置、うずたかく各種の書類やCDが詰まれて、壁が見えるはずのスペースは歌手…
透き通った拡散の青空。週があけた月曜日。憂鬱な一日。今日は新曲のリリースイベントに借り出される、これから。クライアント側の意向、一度だけ販売促進のために曲を弾いて欲しい、との訴えであった。断ったはずだ、オファーを受ける段階において、力強く誠実に、断固として期待する反応や態度は見せられない、口をすっぱくして伝えたのだ。それでもやはり、人間は契約に無関心、というか破っても構わない、ある程度の許容を相手に委ねるずるがしこい気質を持っている。だから、打ち合わせ、つまり仕事を受けるか、否かの段階で相手に何度も契約以上の仕事を私にさせない約束を取り決めたのに……。本来なら、今日もスタジオで楽曲の作成に没頭…
スタジオを訪れる私。帰還。現実との境界線をまたぐ、ドアを閉めた。体臭の混ざった空気。窓を開ける。全開。コートは着たまま。前も同じような行動を取っていた、だけど記憶は曖昧。埃のかぶったデスクとPC、布でもかぶせておけば、埃を払う作業はベランダに出て、布をマタドールみたいに叩き落とせたんだ。後悔?それほど、落胆はしていない。次回の改善点、と受け止める。そうやって前に進んできた。目標はこの改善にかける。大げさに夢は掲げない私。 軋むデスクチェアに腰掛ける。ギタースタンドの傾斜は、安定性と部屋の隅において置けるギターの立場を考えて設計されたみたいだった。店の棚で踵を八の字に重ねる靴みたいに威圧的。でも…
「彼は懇切丁寧に証拠品を所有してくれている、彼自身の利益のために。どのような価値があるのか、被害者の遺伝子が事前に外部に漏れていた事実の明るみは、彼女の資産管理の不備を露呈してしまう。これは、管理側にとっては避けがたい。証拠は被害者の管理側から不透明な、おそらくカモフラージュされた、資金の流れを追うしか方法が後手に回ってしまった現状の打てる最善策」 「バッグを持ち去ったのは、敷地ではないのかもしれない、とも考えます」熊田はタバコを取り出して煙を吐く。いつもとなりで目を光らせる種田は煙に指摘の態度を表さないまま、虚空を睨むように、凝視してばかり。 「ええ、そうですね」美弥都は応えた。「特別室の利…
「忘れた事実が強化された。彼の証言に重みが増した」 「集めた吸殻の説明は?不自然では?タバコをもらうために敷地に続いて喫煙ルームに入った、余計に怪しまれる」種田は口は細く尖る。 「その場合は正直に被害者の要求に応えた証に吸殻をみせたはず、取っておいた理由は単純に本数を確認しておきたかい、健康上の返答を用意した、と思われます」 「あなたは空論を突きつけてるに過ぎなくて、これらは状況証拠。殺害を決定付ける証拠とはとても言い難い」種田は腕を組んだ、しかし言った傍から美弥都の説明を決定的に結論付ける可能性を探している、貪欲、あるいは探究心の賜物。美弥都は使用済みのフィルターを足元のダストボックスに落と…
「それは憶測に過ぎない、確たる証拠があって言って欲しいです」 「吸殻が消えた、という状況証拠は、吸殻がもともとなかったという起点から進められない捜査が原因です。手詰まりは、情報の少なさではない。捜査の捉え方に要因があったというべき。これは私にもいえます」 「もともと無かったのですから、探しても見つからない。仮に吸っていたとしても、それが喫煙ルームで吸われ、個人の携帯灰皿にしまわれたのであると、喫煙場所の特定に困難。しかも、一度調べられて解放された。確実に処分しているでしょうね、被害者との接触の証拠ならば。口紅がついていたのも、あらかじめ周りの女性にタバコを提供した事実を作っていれば、警察には疑…
「アイラ・クズミを自称とまではいかないが、倒錯しかけた人物に最初の話を聞いた。特別室の利用者であることを、その人物は否定していていた。財布にホーディング東京の会員証がありましたが、開場後に席につけたなら特別室の利用を回避しても不自然と言い切れない行動です。持ち物検査と事務的な事情を尋ね、すぐに店内にいた他の観客の下へ席を立った」 「次はどなたに?」美弥都はきいた。 「男女のペア。小柄な男性と細身の女性です」 「関心がないようですね、その二人には。あともう一人残っていますか」 「敷地誠也。被害者とは会話を交わした事実が報告されました。相手を観察する能力は高く、人を抜け目なく判断できる機能を有する…
「日井田さん、そこまでなさっていたのですか?」熊田が驚いて眉が上がる、声も高くなった。 「重力センサーや扉の開閉が行われない時に鳴らす警告音は、特別室という一つのゲートによってわざと機能を取り払ったようにも、思います」美弥都は熊田の質問には答えなかった。液体は雫となり、色を変えて滴り落ちる。カップに液体を移し変える、二人の前に差し出した。 「熊田さん、事実でしょうか」 「さあ、考えもしなかった」 「あちらに連絡を」 「先に殺害を企て実行に移した犯人をまだ聞いていないが、それでもか?」 「結局、誰が殺したのです?」種田が純真に尋ねた。 「事件を振り返りましょうか。被害者の健康、遺伝的な要素が絡ん…
「教える義務はありません。ボランティアでもありませんから。まあ、ボランティアは慈善事業よりも、隠れた上手なイメージアップやうまみが本来の姿です、適切ではないわね。訂正します」 種田はのらりくらり、美弥都の対応にさらに苛立ちをあらわす。 「受付嬢は被害者のバッグを想定したロッカーからすぐさま発見できない様子でした。これは、行動に及ぶ前に取り付けた監視カメラの映像を見返した刑事の発言です」熊田が説明を追加。私に話させるつもりらしい。 「事件の背景を複雑に見た理由がまさに彼女、受付の女性が特別室に残されたバッグを外へ持ち出す暴挙に出たことに起因します」 「殺害とは無関係のように聞こえますが」種田がき…
これはあらかじめ喫煙可能な場所を選んでいる、とも言い換えられる。また、飲食後の喫煙も無意識に胃袋を満たす行為に乗せた喫煙を抱きつくように貼り付けて、喫煙にいたる動機、そのプロセスを日々蔑ろに、考え捨てて、思考を麻痺させている、と美弥都は思う。そうならないために、美弥都は何度か自問を繰り返す。それは必要な行為で、この次のどの時間帯にまで喫煙が制限され、あるいは許可されるのかを、毎回吸う機会が訪れるごとに、尋ねるのだ。大抵の要求は反射的な行為、つまり過去の行動をトレースしているだけのこと、本来の要求は五割にも満たないだろう。あくまで美弥都の観測。しかし、考えることを考えると、行動の意味はあまり意識…
すっかり溶けるはずだった店長の思惑に反し、今日の雪はそれでも数センチの積雪、日中の気温上昇が手早くそして跡形もなく漆黒のアスファルトを覗かせるはず。今日を除いて、明日からはまた晴れ間が続くらしい、店主が早朝の挨拶に乗じて外の天候に文句を言うついでに日井田美弥都は外部の情報を吸収し、それらを現在の景色に活用してるところである。 学生の一段が二階席にたむろしてから一時間弱、数分前にぞろぞろと個別の会計をレジにて申請、一人一人にレシートとおつりを手渡し、静けさに包まれた午後。カウンターのお客は一人だけが残り、その人も、私がレジに立ったのを見計らってか、気を利かせるように席を立ち、見事に店は私一人の空…
「失礼します」 「タバコを吸っているぞ、気にならないのか?」彼女は喫煙者とその煙に嫌悪を堂々と表情や態度に出す。 「日井田さんにお話を伺いたいのです」 「彼女にはもう、迷惑は掛けられないさ」 「納得できない箇所を私は消化しきれていない。お願いします」 「一人で行くべきだな。非番の日に」 「休みは来週にならないとやってきません。それでは遅い」 「私が同伴する必要はないように思うが」 「私だけでは彼女は発言に踏み切らないでしょう」 「……雪は止みそうだろうか?」 「ええ、いつかは止みます」 「そうか、タバコを吸うまでとはいっていなかったか」 「なんのことでしょう?」 「こっちの話だ」 「お答えを」…
東京出張の翌週、金曜日。休日を数えて三日、部署をあけた埋め合わせに部下の相田に休暇をとらせた。前日にもう一人の部下の鈴木を休ませ、熊田と種田は平常どおり何も起きない、平穏無事な午前を過ごした。書類に数枚目を通して判を押す。部長のデスクに溜まった書類入れの容器に数十枚、了承を待つ用紙の束が重なる。しかし、これも気がついたときには姿が消えている。我々が席を外す時間帯を狙って仕事を片付けているらしい。風の噂だ。代理人の仕業でも、こちらには影響がないのだから、特に不平を漏らす傾向を持ち合わせる人物はこの部署には在籍を許されていない。それに部長は何かしらの行動を起こしている事実は、彼に捜査依頼を受けるこ…
「納得できません。未使用のロッカーならば、扉は簡単に開けることができる、発見される危険性の高い場所に犯人が隠していたとは思えません」種田は投げつけられた結論、熊田が導き出した結論を捉えきれずにいる。 「だが、警察と我々は見逃した。たぶん警察は見つける、見つかってしまっても構わないだろうと、犯人はあまりバッグの発見には危機感を抱いていなかったんじゃないのかな」熊田はうそぶくように言う。 「どういうことです?」 「あくまでも憶測だが、被害者のバッグを移動させた人物と殺害を企てた犯人は異なる」 「……」無言で種田は機体の揺れが引き起こす、紙コップの荒波を穴が開くように凝視。 「それぐらいしか、受付嬢…
「熊田さんの困惑の焦点はそこですか?それでは、昨日受付に掛けた連絡の目的は?」意外な熊田の引っかかり。 「ロッカーの高感度なシステムさ」熊田は胸ポケットのタバコを取り出そうとしてから、機内を思い出し、コーヒーに手を伸ばす。「被害者自身かそれとも特別室の観客がバッグをロッカーに入れたんだよ、ロックを掛けずにね」 ロック。ぐるぐる糸が断線の悲運を誘発するイヤホンケーブルのように絡まる、それが熊田の一振りで結び目のないまっすぐな線が重さに従い互いを弾く、イヤーピースがお披露目。 熊田は窓を見ながら急降下に陥る種田を尻目に淡々とそしてかつてないほど饒舌に、コーヒーを傾けては論理の展開を伝えた。 「壁一…
「うん。バッグは、アイラ・クズミのライブが始まる前に、何かしらの方法により、会場の外へ運び出された。ところが、被害者の異変を察した我々が観客の動きを止めた二曲目に、バッグの姿は彼女の近辺を既に離れていたことになる。現にライブが始まってしまうと、観客はたとえチケットを持っていても、途中で会場内に入ることは禁じられている。受付の二人が誰も中に入れていない、そう証言をしていた」 「敷地誠也の喫煙ルームにおける接触、彼の証言に食い違いが見られたとすれば、バッグが彼の手に渡る。そして、彼は、所持品検査が行われた特別室に連れられる時間内にバッグを消し去った……、納得のいく解説は、正直お手上げです」種田は横…
「メニューの変更が仮に行われたとして、エレベーターで運ぶ食事の皿を給仕係は、まぎれた特殊な皿をどのように見分けたのか。いまからそちらに送る、というインカムを通じたやり取りが行われたのですか?」 「同じ帯域で無線は飛んでいた、必ず一階の二人の係りに聞こえているはずだ。もしそういったやりとりがあったのならな。それに、事前の打ち合わせで何番目のどの順番で皿を運ぶかを決めていた、とも考えられる」 「しかし、毒、あるいは毒のようなものは見つからない」種田は、手元の紙コップを持ち上げる。まだ温度が高い。 「これら二つの要素から導かれる死亡の要因は、彼女、被害者が特定の食物に対してのアレルギー反応を発症する…
機内。北へ帰る午後一の便に熊田と種田は搭乗。二人は昨日、命じた指示の待つためにホテルを出た時刻はチェックアウトぎりぎりの午前十時。移動と空港内のカフェで時間を潰し、チケットの刻限の間に合うように熊田に連絡がもらされた。空席が目立つ機内、登場口で連絡を受けた熊田は意図的に言葉を忘れた態度を取っているように思う。腑に落ちない点が捜査状況に含まれていたのだろう。恐ろしく険しい皺を眉間に刻んでかれこれ三十分は経っている。その間に種田は、待ちぼうけを食らう始末。事件は解決したのか、それとも思惑通りの結果報告ではなかったのか。考え尽くした、睡眠時間を削って可能性を探るが、種田は未だに納得する回答を選らず、…
よし。 ここからはスピードが命だ。片っ端からロッカーにカードキーをかざす。 左上は踏み台を使って、腕を引き伸ばす。焦りからか、息が上がった。 言い聞かせて、焦る私を宥めた。腕時計を見て時間を確認。まだまだ二十分もある。約束は十一時。 ない、見当たらない。空だ。空っぽ。 くそっ、どこに入れたんだ。 コートを掛ける縦長のロッカーも何もない。開かない扉は昨日の日付と日時が二センチ四方のパネルに表示。 下段。ここでもないか。 右側だ、焦るな。良く考えるんだ、何も正直に上から調べることはないのだ。取り出しにくい下段に、あえて隠していたのかもしれないぞ、冴えてる。 私は鳴らない指を弾いた。はいつばって、右…
歩き出す、入ってきたエントランスを離れる方向へ進むと突き当たりの階段で一階に下りて、進行方向を変える、今度は一階をエントランスへ目指した。手のひらが汗ばむ。生唾を飲んだ、これで二回目。 向かって右手のドアを押し開けて中に進む、誰もいない、私は立ち止まって階段を見上げた。踊り場に上がる、さらに見上げる、大丈夫、こだますのは私の渇いた足音だけ。ここは少し寒さを感じる。 受付入り口に辿りついた。いよいよ。ガラスを覗くが、もちろん中に人はいない。一階でもらった入館証をパネルにかざす。ホーディング東京の受付に通じるこのドアは、入館証とパスワードによって開かれる。受付自体に金銭の取り扱いはなく、チケットの…
午前十時、青川セントラルヤードの正面玄関が開放、開店の時刻に私はぶらりと通りかかった雰囲気を周囲に纏わせて、ビルに足を踏み入れた。ロッカーの中身を取り出す緊張の高さに昨日も眠れなかった、少しだけ瞼が重いが、朝食を抜いた、眠気は抑えられるはず。 ホーディング東京の受付のドアはロックが掛かっているために正面から内部へ侵入することは難しい。何度も計画をさらい直した、失敗を呼び起こすな。私は言い聞かせる。呼吸が荒い。エントランス、左側に進路を取る。通路に入る前に、一旦立ち止まる。端末を見ながら、後方を確かめる。二人。中央のオブジェと、花屋の前に一人ずつ。確実に目を逸らした。見張られている?私が?これは…
「これから作る。まだ形すら見えていない。だれかと勘違いされています」 「いいえ、あなたはだって私ですから。間違える?冗談でしょう」失笑。スナップをきかせた柔らかい手首。 「いつでも自由に出て行ってもらって構わない。出るときも声掛けは必要ないですから」ソファの前をつっきって、カップを薄っぺらいディスプレイの脇に置く。椅子を引いて、ギターを手に取る。アンプに差し込んだヘッドホンを耳にあてがうまでの数秒に、うっすらと口ずさむメロディが耳に届いた。聞き覚えのあるコードと歌詞。私の、ではない。真似ている、真似は真似でも、当人になりきったがらんどう、中身のない、コピーを上回る不協和音。ショルダーベルトを首…
「色々大変だったらしいな、昨日」ベースの担当者が呼びかける、私は彼らにPCの電源を入れる丸めた背中を見せる、コートを着たままだ。室内の温度もそれほど温まっていない。「どういう風の吹き回しだよ。テレビ収録を受けるなんて」彼らに会場での事件は伏せている。事件と会場の日程を結びつけてはいないらしい。事件を伝える報道に関してアイラはまったく情報を入れないので、世俗の視点は彼女には不明確。彼らもあまり一般的な感覚を持っているとは思えないにしても、アイラよりは確実に世間に精通した人物、しかし彼らの反応はこちらをうかがうそぶりはあまりというか、ほとんど感じられなかった。探るような気配ならばアイラはすぐに捉え…
可能なら、地平線と海面と空が見える景色が最適だ。何もない、たまに鳥が優雅に羽を数回羽ばたいては風に飛び乗って遊覧を楽しむ。 私は目に写るあらゆる物質を見ようとする。通り道はいつも決まった最短ルート。それでも変化は多大だ。歩行者はもちろん、車の往来があって、天候は一つとして同じ時はなく、そもそもその景色を見てる私さえも移り変わってるのだ。捉えるだけ精一杯。私の現在地と現状の私に、相手が加わったら、もう手一杯だろう。人との接触を制限するのは、正常を維持するためのフェールセーフである。取り合わない、明日には忘れる幸せも願わない。 開いた口への流れに乗って、アイラがホームに押し出された。階段、改札、駅…
居座らない、すがらない、求めない、寄り添うなんて言語道断。 一人で空を見上げられたら、もうけもの。 そしてまた何かと誰かと、どこかで何らかの形で会えたりする。 離れて、忘れていたからこその接触。そして、刹那の離脱。キャノピィ越しでハンドサインが送れたら、一人前だろう。 アイラはソファにどかっと座り込んで高々な天井を水平線を望むよう目を見開き、慌てて閉じた。 また開いて、瞼の裏の立像が微かに、天井に浮かんで見えた。 コーヒーを何も考えずにアイラは飲み干すまで、楽曲制作に取り掛かるどころか、彼女はカップをきちんと洗って、スタジオをあとにしたのだ。 翌日。 冬に逆戻り、クリーニングに預けたコートに後…
出会いを思い出させるとはいっても、これまでの曲作りとの相違点が多すぎるように思う。アイラ・クズミは自問、スタジオはいつも定刻、夕方の七時に仕事を切り上げるのだが、今日の彼女は粘り強く新曲の構想を引きずる。スタジオに篭り、ほぼ毎日を見慣れた空間で過ごす。そのため、想像を働かせる外部刺激は見込めない上に、曲制作には期限がつき物。スケジュールは崩れる定説にのっとり、仕事が進行。アイラは、二週間の締め切りまでの猶予を計画に盛り込む。しかし、いつしか彼女のコンスタントな仕事を侵食し、余裕を剥ぎ取る、得体の知れない闇夜の使者が必ず弛んだスケジュールを緊迫感を漂わせる真っ黒な下地へと変貌させるのは、もう慣れ…
「頭を冷やす時間と新しい論理の組み立て、明日までは到底間に合いません」 「弱気だな」 「事実ですから」 「……君を説き伏せるだけの労力はもう残ってない。もう一本タバコを要求しても?」 「交換条件ならば、成立です」 「コーヒーのお代わりも?」 「認めましょう」 「……確証が得られてないことが前提だ、それを肝に銘じておくように。きっかけは……」 タバコの灰が増えるごと、コーヒーの黒い液体は対照的に減り、お客が席を立ち、入れ替わり、コーヒーもお代わりが注がれる。二杯目は半額の料金であると、店員が教えてくれた。力強く、強風が通行人の体をさらう。春を思わせる南風。釣り下がる照明が文字を読むには物足りない…
「私の質問は忘れられたようなので、もう一回いいます」 「覚えているよ」タバコを抜き取って火をつける。熊田が座り直して、応えた。「今日の飛行機、機内で敷地誠也と一緒だったらしい。彼は被害者と会場一階の喫煙ルームでタバコを吸っていた。同席の時間は二分弱。彼が先に入り、先に出た。彼の席から喫煙室の様子はみえない、喫煙ルームは彼の席のほぼ真下にあたる位置だ。彼によればクラッチバックを被害者は持っていたようだけど、彼の記憶は曖昧らしい。持っていたとはっきりと言い切りはしていない。一ヶ月前のことだから、無理もないだろう」 「証言を躊躇ったのは疑いを掛けられたくはなかった」 「まあ、当然だろうね」熊田は煙を…
「明日にすべてがわかるのならば、私にも事情を話してください」種田はポークカツを力強く刺して、動きを止めた。 「万が一という可能性が残されているからな」 「私が信用ならないというならはっきりといってください」 「信用はしている」熊田はスプーンのカレーを冷ます。 「"は"?」 「を、だ。訂正する」 「いつ、その判断をされたのですか?」種田は質問を変えた、目は鋭く、灰色に光る。窓際の席、通りの風景を配した二人が窓に浮かぶ。外はもう闇が支配権を握る時刻。 「確信を得たのは、日井田さんの言葉を聞いてからだ。それまでは、半信半疑だった」 「彼女も知っているのですね」 「僕よりも前に気づいていたんじゃないか…
青川セントラルヤードは暗闇に包まれるどころか自身の発光機能による、夜光虫のごとく、闇に浮遊する市民を引き寄せては、各種取り揃えた彩を操る。熊田と種田は、そこから横断歩道を渡った年月による風化が目覚しい外観の飲食店に腰を落ち着けた。熊田同様、種田も食こだわりがないタイプである。そのため、おいしさを判断する直感が働いてもいなければ、換気扇が運ぶにおいに誘われたのでもない。単にビルを出て、一番に目に入った飲食店だから。 「もしもし、熊田です。はい、ええ、東京です。いえ、その一つ頼みごとがあってお電話しました。……ええ、事件に関する事項です。できれば、明日にでも。はい、待ちます。……よろしいですか、ホ…
照明の明かりがほんのりと灯り始める。熊田はタバコを三分の一を灰に、窓を向いて女性に尋ねた。 「最後に一つだけよろしいですか?」 「どうぞ」 「ロッカーの見た目は区別が付きにくい。私のように最近のシステムに疎い人間には扱いが難しいと感じる壁のロッカー」熊田は赤い灯火を指し棒の代わりに使う。「自分の荷物をどの棚に入れたか、忘れてしまう。あなたははっきりと自分の荷物を入れた場所を覚えているのですか?」 「この鍵」女性はバッグの素早くカードキーを引き抜く。裸でバッグのうちポケットに差し込んだ、取り出しの速度と思われる。「私がドアを閉めた正確な時間が記憶されているの、秒単位まで。いくら同じ時間に利用した…
「事件発覚後にここに集められて所持品とロッカーの保管品を調べたが、被害者が持っていたはずのバッグは見つからなかった。犯人が持ち去ったにしても、やはり不可能に思うのです。要するに手詰まり。ここへは見落としがないか調べに来たのです」 「ふうん。だけど、バッグは持ち出されているんじゃないの?リバーシブルみたいに裏返しになっていたりとか、他の人のバッグも調べたのよね」 「見落としがあったようには思えませんね」 「もしかして、私も疑われてる?それって女だからって理由?」 「男性が持つには色が不自然です……」熊田は女性の頭部か、隣の列を見つめるような視線を送る。考え事に耽る熊田に時々伴う行動だ。種田は会話…
後ろ手に熊田がロッカーの前を低速度で歩く。散歩というより、考え事を促すための動力に足を動かしている、というのが正しい表現だろう。種田は、熊田が何か事件の核心に迫る内実を掴みかけていると読んだ。普段の熊田は、全体の様子を見ていないふりを装いつつ、すべての対象物に神経を注ぐ。しかし、歩き回る現在の熊田は、外部との関わりを意識的に無防備にさらす、危うさがにじみ出ている。私は何もつかめていない、まったく呆れてものが言えない。このふがいない頭を取り外したい。 また、あいつが躍り出て事件の解決するのは、我慢ならない。 冷静に。あせってはいけない。 だが、空港で言い残した台詞は、あの澄ました顔は事件の真相を…
黒に近いブラウンのカウンター、紅茶を注ぐ体の傾きがもたらす顔の角度の先が都合よく計られたようにドアに向いていた。 「あれれ、刑事さん。まだ事件を追いかけているとか?」作ったような音質、女性は先ほどまでアイラ・クズミの楽屋にて警視庁刑事、佐山の聴取に引き止めを食らった人物。傍らに寄り添う相手、つまり男性とは別れて行動しているようだ、種田はさっと特別室に視線を走らせる。彼女だけが空間を独り占め、ライブ中なら人が来ないのも当然、意外と合理的な頭の働きもっている、種田は彼女の見方を変えて、切り替えた。 「ロッカーの仕組みが気になったのですよ。そちらは、買い物といってましたけど、このビルにわざわざ足を運…
「当日特別室を利用した方々の部分だけです」 「プライベートな空間ですので、お客様の了承を頂いてきます」風を切るみたいに熊田に応対した受付嬢はカウンターの切れ間から、特別室に滑り込むように消えた。沈黙。 種田はバッグが持ち去られた可能性と意味を考察する。短時間における思考は、とっぴな発想を加えると彼女は経験から学んでいた。バッグはこの目で見ていた、ピンクの装飾、バッグは彼女の持ち物だ。持ち出したにしても検査を通り抜けたとは到底思えない。また、殺される前、会場に移る前に、受付に被害者のバッグを預けたほかの観客がいたとして、受付に預けたバッグはすべて徹底的に、隈なく、特殊で一見して高価な代物であるそ…
遠距離に立って見上げる青川セントラルヤードはかすむ上空の雲を三本の槍が突き刺すようだ。O署の熊田と種田は日井田美弥都に名残惜しい別れを告げ、都内に引き返して、彼らのつま先は一ヶ月前の不可思議な事件現場を向く。最寄り駅、構内のほうが若干騒々しさは上回るか、種田は熊田の後頭部を視界の中心に入れて、雨の上がった夕方の淡く染まる空を前方、隙間なく並べ建つ高さの異なるビルの間に望んだ。やはり、上空の開き具合が方向感覚に左右するらしい、大まかな距離感覚と目的地付近の風景が道を覚える種田の手法である。北や南といった方角の概念はあまり持たずに、見慣れない場所に赴く場合は主要な地点に後方を振り返る。帰りの風景を…
このまま飛行機に乗って帰りたいのは山々であるが、捜査の継続を任されたのだ、あきらめるわけには行かない。しかし、手がかりを掴むどころか、特別室の観客の背後関係が浮き彫りになり、疑わしさ、要するに被害者を殺害する動機が垣間見えたに留まって、先へは見えない壁が邪魔をしているように、前後左右に行き場を失っていた熊田である。 遅延の文字を願ってしまうやましさ、熊田は搭乗ゲートへ美弥都を送る。種田は音もなく傍に付き添う。 「私はこれで」 「何か気づいたことがあったでしょうか?」最後に熊田は尋ねた。 彼女は一人になれる喜びからか息を呑む微笑を顔に浮かべた。「……わからないことが、わかってしまえば、一つの前進…
「見送りは結構です」警視庁佐山の独演会が幕を閉じたHホール、アイラ・クズミの楽屋を後に、熊田、種田、日井田美弥都は、最寄り駅を目指して地上、歩道を進む。美弥都の隣に熊田が平行して歩き、種田は一列後ろを歩く。小雨が降り出した。傘を差すのは、通行人の数人。用意がいい、天気予報に従順だ。 「お邪魔ですか?」熊田が美弥都を見ずにきいた。 「私に捜査の権限はありません」 「闇雲に探して待ち望んだ成果は得られない、学んだ教訓に従います」 電車に乗り込む三人。駅は混雑、人と人の距離が近い。かろうじて電車がホームに留まる時が人の顔を見ないでおける。車内、つり革に掴まり三人は、雨を含む衣服の水分が蒸発する車内に…
「現在は?」 「私は私を一人で支えてる、転びそうになっても、バランスを保つためもっと身軽になるでしょう」 「さびしくはありませんか」 「誰かと常に一緒ではいられない、それらの対極は他人の人生に干渉すること。私は私でいられるためのことだけが見えているし、人の人生を覗く余裕、いいえ、私をもてあます暇はない」 「あなたの曲を聴いて、勇気をもらった、人生をやり直した、そういった声が聞かれますが、いかがでしょうか」 「何度も言います、正確には三度目ですが、私の曲を聴いたのは観客です」 「最後に、新曲の構成について、概要だけでもお聞かせ願えればと思います」 「すべてを盛り込んだ曲」 「集大成ということです…
「コミュニケーションは無駄と思えても、それが女性という生き物ではないでのしょうか」 「必要と思っている、思い込んでいる。あるいは脳が男性とは異なるから、発達する脳領域に違いが認められるから、どれも一つとして、例外に目をつぶっているように私は思えます」 「これまで結婚を考えた人物はいらっしゃいました?」 「一つ。プライベートな質問及び具体的な私を特定する質問事項はあらかじめマネージャーが注意喚起をあなたに対して行っていたはずですが、聞かれていないのですか?」 「ああっと、これは。すいません、すっかり忘れていまして。気分を害されたのなら、謝ります」 「日本語は通じていないのかと思いました」 「それ…
「それについてはどのように捉えます?」 「なにも」 「なにもとは?」 「私から発信されたのですから、解釈は聴衆に委ねる」 「つまり、すべて事実ではないにしても少しは実体験が書かれている」探るような目つき。 「こういった話が続くのでしょうか?私は何一つ聞かされずに、ここに座っています」 女性は雑誌名と今回の取材内容を説明した。特集記事の取材であること、表紙に私の写真が乗ること、来月の発売、写真は許される限りの掲載を希望したいが、私の要求を受け入れる体制も可能であることをてきぱきと述べた。カメラのフラッシュも止む。インタビュアーの傍らに立つマネジャーのカワニは恐縮しきった表情で現場に立ち会う、本来…
マネージャーのスケジュール変更に合わせ、作曲作業は二時間後に不本意な区切りを課せられたアイラ。 すみやかに時間は経過。肩を叩かれるまで、時計と時間そのものに彼女は無頓着。 掃除の大変さを想像しても、使用する器具や脚立の高さ、手に持つ汚れを落とす掃除用具のイメージもぼんやり、それぐらいに天井が高く、押し付け過ぎない木の質感の空間の上部、この世にもめずらしいタイプの、いつも利用するレコーディングスタジオに見慣れない仕事相手とアイラは対峙する。 マネージャーの話と根本的な食い違いをアイラは早々に感じ取った。カメラが見えた時点でそれは確信に変わった。 小さくため息。写真は断ってきたはずだ、特に顔を重視…
「いいえ、熊田さんと種田さん、それにそちらの日井田さん、ドクターと会場で捜査にあたった鑑識たちの共同作業です」重症、熊田は呆れて、とがめる気すら薄れた。これが真相を解き明かす芝居なら、拍手を送りたい。それぐらいに演技は迫真であった。 「不安定な過程を基に推論を組み立てる場合、証拠や整合性高める事例をあなたはデータに組み込まなくてはならない。しかし、あなたは推論に推論を重ねる。私を含めた死体にかかわりの高い観客とドクターに関連を結論付ける決定的な証拠は不十分だとは思いません?」美弥都は、かなり譲歩した言い方で、佐山の顔を立ててた。相手の特性を読み取った、対応。種田ならば、立ち直れない辛らつで正確…
「ステージは見下ろす格好です、あなたがもっとも光を浴びて、観客席はそれに比べ、落ちた照度。あなたがもっともはっきり被害者とドクターの対応を見ていた人物。怪しい動きがドクターにあったのでないのでしょうか?」自信満々、顔に生気が戻る。先ほどの、落胆と混乱を覆す、佐山の発言。論理の展開はかなりとっぴ。この発想が予想するに佐山の推理の要らしい、と熊田は感じ取り、アイラ・クズミの返答を待った 「彼の手元は彼自身の体が私の角度の視界を遮っていた。そちらに立つ人物が観客の動きをけん制して、周囲を見張り、あなたが医者の傍らで、ドクターと死体を調べていたように思い起こされる」手のひらが向けられたのは種田である。…
「食べたのかもしれません」きっぱり、佐山は敷地の反論を一蹴した。 敷地は渇いた笑い、そして腹からの笑いに変わった。「何を言うかと思えば、食べたって、ええ、それは見つかりませんよ。ですけれど、吸殻を腹に収める事は私の特技ではありませんよ。私からこっそり回収した吸殻を手渡されて、ここの誰か、もしくは他の観客が口に運んだかもしれない。可能性は限定されるどころか、広がってしまいます。推理には遠く及ばない。しかもそれは命を落としたタバコですよ、観客のどなたかが会場を出て亡くなった事実は聞いていない。……あきらめましょう、こんな無益な討論は。時間を有意義に使いたいと願っているのは、あなたも私は同じはずだ。…
「被害者の吸殻は見つかりましたか?」熊田は、話の展開に困惑する佐山に助け舟を出す。佐山は猫背、前傾する上体を正して、頷き、音声はならない感謝を熊田に言う。 「少々腑に落ちない点を皆さんに言い忘れてました。ライブ開演の直前、被害者は喫煙室に足を運んだ。そこで、タバコを吸っていたのですが、彼女の吸殻は鑑識の捜索では発見されなかった。敷地さんは、被害者と顔をあわせたそうですが、彼女は本当にタバコを吸っていたと断言ができますかね?」 「棘のある言い方ですね。僕が嘘を言ってるとでも言ったように聞こえます。気のせいかな」 「状況から考えますと、吸殻はおかしなことにあなたのものまでも綺麗さっぱり、吸煙と灰皿…
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