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  • 小説『国宝』のモデルは誰?登場人物から元ネタを徹底考察

    吉田修一の代表作『国宝』は、歌舞伎界と芸能界を舞台にした壮大な恋愛と芸の物語です。 そのあまりにリアルな描写から、「小説『国宝』のモデルは誰?」と話題を呼びました。 市川團十郎や尾上菊五郎、坂田藤十郎など実在の名優の名前が挙がる中、読者は作中人物の背景に“昭和の芸能史”を重ねています。 この記事では、登場人物ごとのモデル説や実話との関係、そして作者の狙いを徹底的に掘り下げます。 ✅ 記事のポイント 『国宝』は歌舞伎界と芸能界の女性との恋を描いたフィクションだが、実在の人物と似た描写が多い 主人公・喜久雄のモデルには女形の最高峰である坂東玉三郎など複数の名優の要素が混ざっている 喜久雄の恋愛相手…

  • ガストンルーガ・スプラッシュクロスボディバッグをレビュー

    ファッションと実用性を両立したバッグを探している人に注目されているのが「スプラッシュクロスボディバッグ」。 防水性とデザイン性を兼ね備え、街歩き・旅行・通勤どのシーンにもマッチします。 この記事では、 実際にバッグを使ってみた感想をはじめ、人気の理由、他ブランドとの比較まで徹底解説。 購入前に知っておくべきポイントを詳しく紹介します。 🔸記事のポイント スプラッシュクロスボディバッグの魅力・機能性・デザインを詳しく解説 実際のレビューからリアルな使用感を把握 人気カラー「クラウドクリーム」「トープ」などの違いも紹介 モンベルなどの人気ブランドとも比較しながら購入の参考に ※この記事では商品のP…

  • ※1-4

    「これだから頭のいい奴は面倒だ」彼女が消えた、背の高さほどの防波堤を躊躇なく降りたらしい。下を覗く、膝を曲げた彼女が姿勢を戻す。 彼女の車が颯爽と海岸沿いを駆け抜け、遠ざかっていく。自転車を漕ぐ、歩くよりも目的地につける移動手段、風をより感じる速度。漕ぐ、ハンドルで方向を定め、前後のバランス、そしてブレーキ。視点は若干先を見つめていなくてはならないのか。 いつもよりも速度が速くてもいけない、それが続けば当たり前になり、歩くことを億劫に感じるからだ。使用頻度に制約を加える、使いたいときを限定し、時を選ぶのだ。通常は歩行が優先、リセットしなくては。 工場と林と空き地とコンビニ。疲れた。自転車を降り…

  • ※1-3

    「あなたが誘ったのでは?」 「本気にしたの?」 「四年後でしたね」 「そう、四年後。生き残りをかけた生徒獲得に乗り出して、放棄した方針転換の残骸にね」 「古い建物の部屋を要求します、可能ならば」 「どうして、新しい建物があるじゃないのよ」 「ある程度の広さを持つなら、老朽化した壁や天井に私がなじみ易い」 「骨董好きだとはね」 「古さに触れれば、新鮮さを求める。新しさに浸れば、そこに甘んじる」 「リセットしたいのね、あなたも」 「いいえ、私は常に切り替えています」 「送っていこうか?どうせ歩いてきたんでしょう?」 「急ぐ目的も到達すべき場所もない、出会うべき人は隣にいる。それに私は靴を履いている…

  • ※1-2

    「ふうん。生まれ変わるって誰かの考えね。救われる、やり直せる、今の体でリスタートをやってしまうのかぁ」 「需要は見込める。価格設定は自由にこちらに裁量が委ねられるし、類似サービスは生まれにくい。追従されても、その時には十分な余剰が生み出せている。その間にまた私は次の、何かを考えている。軌道に乗ったら興味は薄れる、そこに変革を必要としないのなら、はじめた時点で想像は理想に到達してる」 「野心家なのね、見た目からはいまいちイメージしにくい」 「電話が鳴ってますよ」 「いいの。連絡がいつでも取れると勘違いしてる奴とは、一定時間こちらが設けた時間帯でしか受け付けないの」 「その時間に連絡が殺到したら?…

  • ※1-1

    「施設の稼動はそちらの都合で中止になったと聞きましたが、私にはまったく持って連絡が入らなかった」男は皮肉を込めて言う。「施設は壊され、景色が一変していたのは、驚きました。そちらが要請したのに」 海岸の防波堤。風はなびく程度、海鳥の飛翔も見えない空はうす曇が大半。 「臨機応変な態度と褒めて欲しいわ。私のせいだって思わないでちょうだい、雇われてるのはあなたと変わらないの」 「クライアントへは、僕が調査を担当して、追加の依頼は断りましたので、一応伝えます。会社の処理はそちらで行ったようですね」 「捜査の手が伸びていたから仕方ない。悪気があって、短期間で閉めたとは、あなたなら思わないか。どうも低回転な…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より4-9

    もしも私が望んだ、例えば、一人でいられる世界が不意にひょっこり訪れても、私はすぐにそれを手放す。だってもう、願ってしまったことは叶ったのだ。だから私はまっさらに満たされたグラスをひっくり返して、水が溜まるのを待って、溜まっていることすらも忘れていられるのだ。宝くじを買って毎日当たるように祈っているだろうか、いいや、発表の当日や前日、その近辺に思い出して、または忘れないように定期的に手帳やカレンダーを見返すのだ。そこで、忘れた時の効果によって喜べてしまえる。確かに身銭を切って買ったくじかもしれない、買わないと当たらないかもしれないが、偶然であることには変わりないのだ。 忘れる、その私がいれば、こ…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より4-8

    「明日はお休みですか?」 「いいえ」 「いつお休みですか?」 「店が休みのときです」 「いつですか?」 「ご自分で調べたらいかがですか」美弥都は食器を見つめたまま答える。 「……僕に十分だけ時間をください!」 「あなたの期待には副えません」 「まだ何も……」美弥都は遮る。 「端末の紛失、または喪失を装った。その時点で私への問いかけは寸断されたのです。お分かりですか。もちろんはじめからあなたの要望に答える懐を私は持ち合わせてもない。どなたか別の方を探すべきです。切り替えたほうがあなたのため、あなたを思ってのこと」 辛らつな言葉、お客はしょげ返り、振り絞った勇気を片鱗はどこへやら落ち窪んだ凹みのよ…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より4-7

    食器を泡の立つスポンジで包み汚れを落とす。時間のたったシミがこびりついて、強く擦る。 名前を変えて、殺された彼女たちは密会を行っていた、死の要因は他殺、という考えが美弥都は強い。顔に自身がなかったのだろうか、顔が発端、はじまりだったのかもしれない。永久に他人にはあって、自分にはないものが顔であるからだ。しかし、名前を変えたぐらいでは効果の期待は薄い。 裏切ったのだ、己を限りなく透明に薄く延ばし、姿が消える直前まで、そして名前を変えて入れ替えを行った。前の自分の出現はこれで抑えられる、時間の問題ではあるがいたしかたない。だが、そう、彼女たちは命を落とした。つまり、永久に自分が薄い状態で新しい憧れ…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より4-6

    「長引いた休憩を取ってしまい、申し訳ありません」日井田美弥都は予定より三十分早い、つまり二時間半の休憩を取って店に戻った。長いという表現は、一時間の休憩時間と比較した発言である。刑事二人は店には入らずに、そのまま駐車場で反転し走り去った。警察が連れてきたと店長に感づかれないためだろう、O署の警察を店長は毛嫌いしている。 店内のお客はカウンターにゼロ、二階から漏れる話し声が聞こえた。美弥都はエプロンを付け直し、カウンターに入り、手を洗う。「電車が止まってるから、さっきまですごかったんだからお客さんで」店長は大きさを表すような仕草で胸の前に巨大な玉を想像させる動きをとった。シンクの洗い物が溜まって…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より4-5

    「あなたが無断で施設へ侵入した時期はあなたに捜査権がなかった。つまり、あなたではなく、竹部美智子を監視させていた。次の事件、二人目の竹部美智子を施設を操った人物または関係者は、彼女、竹部美智子という一人目の死体の名前を知っていたのです」 「それって、つまり同姓同名の人物を装った事件の発生を」 「はい、知っていたか、その人物が引き起こしたか」 「あの中で、名前を知っていたのは警察を除くと、弁護士の佐上明と逃走した竹部美智子です」 「あるいは弁護士と懇意にしていた施設の管理者」 「だけどですよ」鈴木は議論を終わらせたくないよう様子で、質問を続けた。「もし仮に、一人目の死体が殺害された明確な証拠なり…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より4-4

    「……ありませんね、ありません!」声を上げた鈴木は施設を見下ろせる赤い外壁のマンションであっても見下ろす角度とはいえなく、施設取り囲む木によって視界は困難であると彼は記憶を辿った。 「もしかすると門も動いたのかも、いいえ、塀が伸縮したのでしょう。すると、途中の道を入った、あなたは距離感覚を狂わされて、帰りの景色でその違和感を捉えることになる。玉石が敷かれていた、石の下には茂った雑草が隠れていたのであれば、ええ、坂道を登る住人でさえも塀との境目に注目することは少ない、しかもそれが気づかれない程度の移動を繰り返したのであれば、または一定の時間にその位置を認識させ、鈴木さんが錯覚した位置にまで稼動を…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より4-3

    「僕は記憶が曖昧で、本当に施設を訪れたのか、わからない」 「別の建物を施設と見間違えて、室内にも入った。どこか異なる箇所でもあったのですか?」美弥都は送ってもらう手間賃分を質問と会話で返そうと思った。それにタバコも吸えている、しかもコーヒーが手元にある、とてもここは好意的な環境に思えた、会話を差し引いても。 「ディーラーを目印に曲がったんですよ、たぶん」 「現在でもありますか、その建物は?」 「ええ、もちろんです」 「間違えてはいない?」 「はっ、たぶん……。はぁ、そこまで念を押されると、ううんと、首をひねりたくなります。ちょっとだけ、事情聴取の気持ちがわかったように思います」 「誰に対しても…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より4-2

    「私ははじめて買いました」 「えっつ、そうなんですか。てっきり僕は、偵察に来ているんだとばかりに」 「いいえ。コーヒーは本来の用事ではありません。通りがかっただけですから」 「そうですかあ。休憩ですよね?」 「ええ。そちらは?」 「ああ、事件ですか。なんというか、未解決っていうのも表現が適切じゃなくって、捜査は打ち切りになりました」 「調べるべき事態がありませんからね」 「そうなんです。けど、施設が取り壊されたのは、どうも胡散臭くて。ぷんぷんします」 「バス停のところで下ろしてください」 「電車じゃあないんですか?」 「遅れているみたい、人身事故だそうです」 「だったら、そうだ。熊田さん、送っ…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より4-1

    暑さがにじり寄って時には抱きつき、はがれた時節、寒さがぶり返す季節の今日は、その分散が集約された一日、O署の刑事をぱったり見なくなって二週間後の火曜である。日井田美弥都は初めて休憩に入ってエプロンを取り外す、しかも電車に乗って、さらには三時間の休憩をもらった。駅の電車の時刻を逆算して乗り込み、約三十分の移動。O駅で下車。店長には、真実を告げるには酷な知らせに思えて、詳細は黙っていることに決め、市役所に用事があると嘘をついて、彼女はあるコーヒースタンドを訪れたのである。店は、O署と目の鼻の先にあり、ちょうど坂の頂上に建つO大学の学生がこぞってコーヒーを持って、坂を上っていく後姿が見えた。美弥都は…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より3-2

    「毎日顔を合わせてる方たちとは違いますから。髪だって眉があって、耳があって、目があって、対象によってその長さが測れる。あなたもね」 「施設については、今後の処理をあなたに委ねるとの通達です?」 「どうしてあなたが伝令役なわけ?自分たちは一切顔を出さないつもりってことか」 「まあ、そういうことですね」 「施設は、そうね、壊したからまた別の場所に作るか、既存の施設を借りるか」 「Y大学が四年後に移転しますね」 「ああ、そうか。大きさは合格ね。でも、目立ちすぎない?」 「代替の施設としては設備投資がかなり抑えられる。短時間の崩壊はそれなりに費用を要したとのことですし、理想的です」 「私の知ったことで…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より3-1

    「対処を信じていいのかしら?あの人、外部に持ち運んで漏らしたりしないの?」 とある人気のない狭いバー。 「まったくない、とは言い切れません。が、うん、まあ、信じても問題はない」 「あなたの信頼が厚いのね」 「そうでもありません。私は本来信頼される立場ですから」 「こういうときにだけ肩書きを表に出すのか。案外、子どもっぽいところがある。それとも男としてのプライドかしら」 「さあ、なんとでも言ってください。体外的な評価に無関心ですから、私は」 「認められたくはないの?」 「どうでしょう。目的と手段が重なれば必要なのかもしれない。私は避けて生きてきましたので、本来ならば必要なのでしょうね、社会的ない…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より2-3

    さようなら」 「まって」 「さようなら」 「いかないで」 「さようなら、今日までのあなた」 「いかないで、ひとりだよ」 「明日のあなたが待ってるから。泣かないで」 「星が出てる」 「目を閉じて」 「いや」 「目をつぶって」 「帰らないで」 「電気を消した?」 「うん」 「ベッドに入った?」 「うん」 「明日の用意は万端?」 「うん、大丈夫」 「息を吸って吐くの」 「うん」 「眠たい?」 「う……ん」 「……眠れる?」 「…………、うん」 「お休み」 「おやすみ、わたし」 PCがシャットダウン。駆動音が消えた。室内が静寂に包まれる。空気が冷たく感じた。そして、今日が終わった。

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より2-2

    「あなたは一人です。これからもそしてこれまでも。どこでも一人だった、手を繋いで生まれてはこれないのです」 「あなたがいる」 「そうですね、私はけれど一人です。これはあなたですから。皆さんも、もちろん、私であって、あなたです」 「眠くなってきた。疲れたよ」 「勉強ですか?」 「うん。テレビを見る習慣をやめた、その分の時間をまわしたの。みんな、こうやって生きてるんだね」 「ほんの一部の、この世界を支える、あるいは先の世界を見据えた地盤を固める人物は大抵は近時の世界に興味は持たない。あなたも気づいたのですから、戻る必要はないと思います。そこにあなたもう帰れませんし、かえってもまた、甘美を装った誘いに…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より2-1

    「残ったのはあなた人だけのようね、あの人は失敗、使い物にならず、廃棄処分ってことよ」 「私は誰ですか?」 「それを知ってるのは、あなただけよ。私は、そうね、鏡みたいな存在と思って」 「私は誰ですか?」 「それを知っているは、あなただけよ。私は、そうね、鏡みたいな存在と思って」 「元には戻れないの?」 「戻って一体、あなたなにをしようとするんだろうか」 「明日だってあるじゃない、今日も昨日からの続きだし、それに戻れるって安心しない?」 「それを知ってるのは、あなただけよ」 「名前が変わってしまった。どうしよう?」 「どうしたいの?」 「わからない」 「どう、わからないの?」 「全然、まったく白紙…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より1-6

    「なるほど。発表は難しいのですかね」 「無理に進めはしないが、無理やりだとお前の保障は約束できない。離れるか、留まるかだ」 「……いつまで緘口令を?」 「いつか。ずっと、という長さは寿命や定年でも区切りは訪れる」 「逃げましたね」 「逃げているから生きてこれた」 「譲歩しましょう。こちらの要求を一つ。部長を戻して欲しいのですが?」 「女は嫌いか?」 「一人で十分です。私には疲労にしか思えません」 「席はあけておくように言う。私が戻る約束は難しい」 「……事件の着地はどうしましょうか」 「死んだ者の名前は異なっていた、上層部が発表に工夫を凝らすだろう。それで問題なく自然死が一般的にも受け入れられ…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より1-5

    するとどんどん、アスファルトの地面をさくさくと掻いていく、熊田は目を疑い、見開いて眠気が吹き飛ぶ。錯覚ではないのか。しかし、男は平静と削りだして、掘っている。 端末を構えて男の足元にズーム。アスファルトではない?さくさくと地面がアスファルトの下から登場していた。 ここはなんだろうか。それにしてもこんな朝早くに、住民が起きて来ないだろうか心配だった。 熊田の予感は的中。背後から同様の土を掻く音声が届いた。体をねじって、テントから這い出して後ろを確認。 民家の前、家庭菜園の農地を老婆が開拓しているではないか。そうか、この時間だから男は耕作を選んだのだ。 男は掘り進める。どんどん道が土に変わる。 や…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より1-4

    施設近辺の道路。ディーラーの前を行きすぎて、小道に入る。一本奥の道から捜索。思ったように民間しか見当たらない、それにほぼ平地に近く、急坂とは程遠い景色である。間違えるとは思えないな。 国道に合流。道を進み、看板が立つ一本手前を上る。何もないか。まだ未開発の宅地で、斜面が区画された形跡があった。近時の痕跡はないようだ、ずいぶんと放置されているみたいだ、まだ雪が多少残っている。この先、斜面がもしも繋がっていたら、区画に家が立ち並んでいて、施設らしき場所があったとしたら、鈴木の錯覚はありえる事態だろうか。フロントガラス越しに眺めた。熊田は車を降りて、林を調べる。足元を確かめてみるが、植林され多様な土…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より1-3

    「ああ」 「あれは、記憶した景色と違ってたからなんです」 「どういうことだ?」 「僕は施設に向かう時に車のナビはつけずに走りました、二件目のY大近くマンションからは国道を通って道なりに行けば着くと思ったので」 「道を間違えた、ということを言いたいのか?」 「信じられないかもしれませんけど」 「どこを曲がった手前かそれとも奥の道か。もし仮にお前が間違ったとしても、施設には入ったのだろう。似たような場所が近隣にあったとは思えない」 「そうなんです、僕もおかしいとは思ったんですけど、どうにも、あのディーラーを目印に曲がったようにおもえないんですよね」 「記憶違いじゃないのか」 「そうなんでしょうか。…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より1-2

    捜査は当然に打ち切り、仕事は取り掛かるべき仕事があっただけでもうれしさをかみ締めれていられる。だから暇な時間もこうしてかみ締めて潰せる。あまりに時間がありすぎても人は事件の真相を必死で追わない、署内ではすっかり事件の噂は忘れ去られたらしく、飛び交う会話は次のワールドカップ、サッカーの話題で持ちきりであった。乗り遅れてはいけない祭りごとらしいが熊田にとっては、選手に礼儀正しさやインタビューの受け答えの正当性を求める報道などは見たくもなかった。彼らは心苦しさを耐えて、あえて答えているのだ。無論、取り上げられることは重要だろう、彼らの報酬に、さらに彼らの仕事場の提供にも貢献しているのだから。ただ、彼…

  • 汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より1-1

    対象となった死体発見現場の第一の施設は無残にもその形が跡形も無く崩れ去り、更地に早代わり、地中を深く掘り下げて地下の駐車場を備えたマンションに立て替えるらしい。日井田美弥都の推理が熊田たちに披露された日から一週間後の出来事である。第一の死体の関係者、または逃走者の竹部美智子はその後、上層部がひそかに張り付く尾行を撒いて姿を消し、二度目の消息を断った。弁護士佐山明は、彼女は姿、形のない施設のかつての関係者であり、施設はひっそりと会社の形態を放棄、解散に至った現在において、まったくの他人であることを強調し、なんら説明責任がないことを警察に言い渡し、今後の調査には応じない構えを見せた。説明責任こそ継…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である7-3

    「想像に過ぎない」美弥都から視線を切って種田は鼻を鳴らした。 「ええ、もちろんです。管理人たちの犯行の可能性も亡くなった彼女たちもすべては想像です。それでも、経路をある程度、その足跡を辿ることは難しくはありません」 「しかし、竹部美智子の名前を語って亡くなった彼女たちはどうしてまた、同時期に死ねたのでしょうか?」 「連鎖反応ではありません。一人の死が次の一人へのメッセージを残していた、あなたたちは何か見落としてはいませんか?事件の詳細な情報は不必要。彼女たちは亡くなることでバトンを渡した」 「待ってください」熊田は遮る。「死因は心臓関連の突発的な死ですよ!」 「ええ、次というのは一つ飛ばした次…

  • フリスキ副業は安全?口コミ⑥・料金・特徴を徹底解説

    「フリスキ」という名前を聞いたことがありますか? ネットやSNS広告で「誰でも簡単に稼げる」と目にする一方で、口コミや料金に不安を感じる人も多いようです。 実はフリスキは、よくある“怪しい副業サービス”とは少し異なり、複数のスキルを体系的に学べるオンラインスクールという側面を持っています。 この記事では、 フリスキの 特徴・口コミ・料金・安全性 「フリスキ以外で安心して始められる副業サービス」 を詳しく紹介します。 フリスキとは?副業サービスではなく“全部入り”オンラインスクール フリスキの基本概要 他の副業との違い フリスキの特徴を徹底解説 ①6つのスキルを体系的に学べる ②立ち上げ1年で1…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である7-2

    「あくまでも可能性です。そういった見方ができるということ。死体と氏名にばかり気をとられていたので、……白紙に戻すべき、事件として扱うなら」美弥都は続ける。「また、死因に関しても曖昧な点が多すぎる。相手を死に至らしめる方法ならば、つまり連続殺人を装うなら、刃物や鈍器などわかりやすい形状の凶器を使って殺害を企てる方が臨場感が出て、警察の動きは活発にそして当事者からは遠ざかる傾向にある。考えても見てください、行き詰った捜査を私に頼る傾向がその要因の一つ。不可解に事件をそして難解に仕立て上げる一つの出来事ですよ。話を戻します、第一の事件で示された謎は失踪女性の再登場によってその事実は、本人の創作とも思…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である7-1

    四件目の死体、その人物が騙った氏名、五人目の竹部美智子の出現とその経緯、施設の駐車場の車と弁護士佐山の所有車、ついでに熊田の車の不調についても語った。美弥都は手を休めることなく食器類を片付ける、仕事の合間にこちらの要求に最大限応じる構えといえない態度はいつもの彼女。しかし、彼女は考察を深める落とした視線で、ほとんど手元の食器を見つめてはいない。見てはいるが、時間が限りなくその周辺に亡羊と視野を広めて、まるで全体を捉えているように熊田からは映った。種田のグラスは既に空である。美弥都はそれを熊田の説明の最中にグラスを取り替えた。つまり、種田の前に置かれているのは二杯目のコーヒーである。 「最後の方…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である6-3

    「銀行に行ってくるよ」店長は休憩に入る。カウンターのお客もつられるように席を立って、演出されたみたいに店内は三人だけの空間に切り替わったようだ。 「忙しそうでしたね」熊田が店員の日井田美弥都に言った。 「そう、ではなく、忙しいが正しいです」美弥都はグラスを拭いている。手元のグラスを磨き終えるとカウンターの食器を回収、それをシンクで洗う。カウンター内の様子は見えていないので、熊田の想像である。 「実はですね、五人目の竹部美智子が登場しました」 「どなたですか?」美弥都はそっけない返事を混ぜたように薄い空気で返答した。 「成りすまし事件に利用された氏名です」 「ああ。そう」彼女の小さな口が動く。 …

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である6-2

    思ったように店内は込み合ってる。人が並び、お客の出入りはひっきりなしで途切れる様子がない、列にきっちりと敷地内に収まり、その列は歩道に差し掛かる前に折り返す、そして店舗に並んで、それらの繰り返し。それでも車の出入りのスペースは開けておかなくてはと、あぶれた列のお客は、歩道に逃れていた。通行人、駅に向かう近隣の住民はあまりよく思っていないだろう。歩道は一人がかろうじて歩ける幅しかなく、すれ違うためには、両者が肩を入れなくてはならない。しかし、列は常に前者と平行の肩の位置を維持。よって、通行人はびゅんびゅん、交通量の多い、車道を振り返って、車道に出つつ、列を回避しなくてはならない。 黙って熊田はそ…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である6-1

    「あれが弁護士を同席させた理由なんでしょうかね」鈴木が後部座席で唸った。彼は、第五の竹部美智子、これまでは現場から立ち去った逃走者の認識で警察一般に知れ渡る短髪の女性と死者に寄り添う第一発見者という重要参考人など、複数の肩書きを持った彼女のことを言っているのだ。熊田は弁護士佐山は施設内の案内を買って出るものと解釈していたのだが、あの施設には想像した施設内のからくりのような仕掛けが施されてたのか、確かめられずに、弁護士到着前に行った施設内の侵入をネタに五人目の竹部美智子の紹介が終わると、さっさと施設を追い出されてしまう。駐車場をわざわざ通る熊田は、佐上の乗用車を記憶に留めた。すっかり日が暮れて時…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である5

    とある喫茶店。海岸沿いの喫茶店とは別の店。垂直の椅子、床と一体化の高すぎるテーブル。古典的な打ち明け話とデザートを少々。 「好奇心が旺盛すぎます」 「元々はあなた側。見破られるって、心配なんだ?」 「あなたを通じた私が心配です」 「タバコ一本もらえない?」 「どうぞ」 「いつも予備を持ちあるいてるんだ」 「口調がいつも違いますね」 「前とは違う」 「失礼」 「目的は?」 「そっちの情報は?」 「教えてくれたら、タバコのおごりを帳消しにしてあげます」 「安い貸しね」 「歌詞?歌ってるのはだれだろう?」 「おちょくんないでって」 沈黙。ドアベル。レジ音。歌声。時計。食器。それから息遣いとソーサーと…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である4-5

    「ええと、はい」彼女は佐山の了解を得て、頷き、細い顎を引いた。「依頼された人物の行動を調べるのが私の仕事です。探偵といえば、わかりやすいでしょうか。対象の人物の合法的な範囲において、私一人が一人のクライアントを受け持ち、依頼に応える。この施設へは報告書を書くために戻ります、それ以外はほとんど、直接クライアントとはやり取りを行い、口頭で伝える。データ使用は基本的に流失の恐れがあって、外部では使用できません。なので、私たちは手ぶらでの行動を余儀なくされて、亡くなった人も軽装というか、何も持っていなかったのは、そのためだと思います。私は、特別に外部との連絡、管理者と呼んでいますが、私たちに仕事を割り…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である4-4

    「な、わあ、ちょ、ああっ」種田は飛びついて一気に相手との間合いを詰め、手首を掴むと豪快にねじりあげた、そして体の構造に任せた相手は軽々と宙を待った。二人の出番はなし。 「待った、待ったって、ちょっと、ああもう、離してくださいって。私です、佐山です、弁護士の」床に寝転がる人物は連絡をつけた、この施設を運営する会社の弁護士佐山明であった。鞄が数メートルも飛んでいた、宙に舞っている時に放したのだろう、それにしても弁護士の存在をすっかり忘れていた。 腕を押さえた佐山は種田を睨みつけて、スーツの汚れを払う。鈴木は鞄を回収し、手渡した。鈴木から奪い取るような仕草である。人違いか、約束の時間から一時間の遅れ…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である4-3

    「そうだな」あっさりと彼は言った。 「熊田さんがそう簡単に認めないでださい」鈴木が泣きついて言う。 「事実です」種田がきつく真実を告げる。 「上層部もやっぱり困って僕らに捜査を投げたとしか思えませんよ。でも、弁護士の佐上明を待たなくてよかったんですかね?」車内で佐山明の番号を知る種田が連絡をつけていた。 「種田が連絡を入れてだろう?約束の時間に姿を見せなかったんだ、こちらには十分正当な理由だよ」 「そうだといいですけどねえ」鈴木の息を含んだ言葉が施設に響いた。 それから三人は分かれて施設内を片っ端から調べ上げた。しかし、めぼしい死体の死亡要因に繋がる証拠は出てくる気配すら感じられないでいた。時…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である4-2

    「いいや、金銭的なつながり。まあ、友人と呼べる人物のほとんどが、金銭的な結束だよ。その残りも形のない、互いの利益関係だ」 「悲観的ですね、いつもならが」住宅街はひっそり、小学生が坂道を登る。二本目の角を曲がって、急勾配を上りきり、数日ぶりの施設を拝んだ。駐車場に相変わらず車が止まっているか……。ブースに見合う職員や席の所有者が事件をまったく知らないとなると、ひょっこり顔を出しているかもしれない、熊田は予測を立てた。種田に車のナンバーの記憶を尋ねるが、彼女は同一のナンバーと回答、車の駐車位置とフロンタイヤの角度も変化がないことを伝えた。 室内に入る。先ほど立てた仮説を熊田は壁に手を付けて確かめて…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である4-1

    「相田さん、怒ってるだろうな」喫煙ブースの相田には鈴木が出動を宣告して、その場に居合わせた自分が熊田と種田についていく旨を伝え、当然相田は鈴木と仕事を交換するように強制的な態度に躍り出ようとしたのを彼は、するりと身をかわし相田の魔の手から逃れ、駐車場の熊田の車に乗り込んだのである。捜査権の復帰は、やはりどう見積もっても、今後の展望が見えない上層部の行き詰まりと踏んでいる。その辺の細かな情報は、後に噂となって、あるいは鈴木や相田の世間話からも聞こえてくるだろう。 埃っぽい車道に見慣れた春の道路を走る。信号待ちでじっくりと歩道と車道の段差に目を凝らすと黒々とした泥のような埃のような堆積物がこびりつ…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である3-4

    「色ですか」 「うん。温度が変わると変色する、素材っていうんだろうか、あんなかんじの壁」 「施設は稼動が可能かもしれない」熊田はつぶやいた。 「動くって言うんですか、壁が?そんな隠し扉でもあるまいし。第一、大きな体育館みたいな空間ですよ」 「壁の素材は熱を感知する機能が組み込んであるとすれば、鈴木さんが調べた壁と対面の壁が動く」 「ううんと説明になっていない、もっとわかりやすく話してよ」鈴木は熊田の発言を補う種田に詳細を求めた。 「壁は何のためにあるのかをまずは考えるべきです。壁は構造の柱、屋根を支える、屋外との屋内を隔てる構造物である。つまり、その機能が損なわれないためには、壁は屋根を常に支…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である3-3

    部長の席、斉藤彩子はどこにもいない。署に帰還した時から一度も姿を見ていない。 「……旅行のパンフレットを持ち歩く心理って、つまりですよ」鈴木は誰に言うでもなく、話し始めた。「行ったことのない土地や過去に訪れた場所にもう一度行きたくなった、こんな心境だと思うんです。旅行ですからね、せっかくですから、住んでいる場所からは遠いところに行きたいと思うのが大方の旅行者の心理でしょう」種田は顔を上げたものの、鈴木の意見に対して無反応、熊田も黙って彼の話の先を促す。 「要するに、転勤や新しい仕事を求めて移り住んだ先のパンフレット持っているのは、おかしいですよ。あれは劣化も見られなかった、昔から憧れたのだった…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である3-2

    人の心配をするように自分もなったのだ、熊田は月日を振り返る。 涙腺のゆるい涙を流す人が浮かんだ。 涙を流すのはかまけていた自分だけの時間を離れられたからだろう。 他人を思いやるような大それた気概は持ち合わせいないのが、熊田という人間。まだ涙は出てこなかった。 「おつかれさまです」相田がブースに入る。恰幅のいい体格を彼は水太りだと言い張る。小食であるとも公言していたが、食べていないはずはないのだ。食事は皆に平等に体内に影響を栄養を与える。 「どうだ?」 「えっ、なにがですか?」 「捜査権の行方を調べていたんだろう?」相田は席を離れて、署内の各所を回っていたようだ。鈴木の証言である。 「調べるって…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である3-1

    四件目の事件は唐突に訪れを告げた。マンションの一室、発見場所がS市とはいえ、O市と隣接する市境の町で死体が発見された。第一発見者は三度目の抜擢、管理人がその役。契約書の不備の訂正に貸主の部屋を訪れたこともずいぶんとご多分に漏れず、前例に倣った様式である。死体は女性。氏名は竹部美智子。職業は保育士。問い合わせた職場では該当氏名の人物は既に働いており、死体の人物はまたしても名前を語る事態であった。O署の熊田たちは初回の捜査には借り出されて、捜査は上層部に引き継がれるという循環も決まり文句に従うよう行われた。手が回らない、という初回捜査に熊田たちを送り出す一つの理由に死体が借りた部屋と死体が絡む仕事…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である2-4

    「もっとおいしくつくれます」 「わたしでも?」 「もちろん」 「失敗したこともわからないかも。成功の味が舌に記憶されてないんですよ、味音痴で」 「そう。だから、作るの、何度も。見返して、見落としがないかを探って。昨日とは違って、一つ前とも違って、どれがおいしくてどこか突出してるのか、その繰り返しでおいしさが決まる。私は人のをあれこれを食べたばっかりに、目標地点が曖昧に出来上がって、いつもそこを目指してたけど、……私に勝るものはないのよ」 彼女は一口で臆面もなくケーキの半分を口に押し込んだ。にんまりと笑っていう。「いつでも来てくれていいよ。私はいないかもしれないけど、あなたは、やってくると思う」…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である2-3

    「ああ、はい、いただけるのであれば」私は戸惑いつつも、申し出を断る理由が思いつかず、流れでつい、うっかり受け入れた。しかし、食べる、といったのは、彼女が見つめるステンレス製の容器に入ったケーキのことと推測する。私は、たしかに朝からここまで何も食べてなかったのだ。お腹は減ってる。それは確実にいえる。だから、了承も無意識が言わせたのか? 「ちょっと待ってくださいね、外枠に沿って、これに慎重に包丁を差し込んでっとお」女性はペティナイフを生地と容器との間へもぐりこませて外周をぐるりと切り離した。そして、中心の筒の周り(容器は中央がしゃぶしゃぶ用の鍋みたいに火が通りやすい設計で空間ができているのだ)にび…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である2-2

    扉。格子戸という名称だったか、仕事柄曖昧な答えはしない性質だ。脳に記憶。後で調べることにするが、何のために調べるのかという疑問に行き着いた。つまりは、それを知らない私なのか、優先されるのはそれを知らしめてたい私なのか。本心から望んで知りたいことではなかった。忘れよう。 民家には見えないようにで、正体がつかめない、想像できないから、私はこの建物を知りたい、と曖昧な興味を言語化して、木製のドアを引きあけた。中に叫ぶ、呼びかけ。今日始めての発声だった、声がよく出ているように思う。出なくても構わない、どうってことはないのに。 うっすら周波数の高い音が聞き取れるかどうかで発した音に似てる。昔受けた検査で…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である2-1

    さすがに足取りは極端に遅くなっていた。どこか休憩する場所を探しても見つからない。ええい、それならいっそこのままもっと疲れさせてやれと、私は車が巨大なショーケースに入った店を曲がって、坂道をえっちらおっちら登り始めた。当てもなく歩いている住宅街。先ほどまでは畑が広がった地帯と住宅街だったが、またまた急斜面である。坂から逃げるように角を曲がるが、際限なく続く。この辺りに住めば、眺望は独り占めっていう独断的な発想に駆られて、目の前に背の高い建物が建てば、それこそ近所づきあいはスタート地点から険悪を一方的に決め込むんだ。東京の高層マンションにも憧れていた。だけど、いざ住むとなっていろいろと想像をショー…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である1-3

    ただ、そういったやり方を続けた結果、ある生徒が私の指導法を両親に話してしまい、そこから私は個人を教える立場を失い、基礎的な学力の解説の専念を会社から言い渡された。昔のことだ。 止まった私の動きに、邪魔を目線で訴える主婦が何度も私のまわり行ったり来たり、すいませんという言葉をどうやらいいたくはないのか、それとも発することによって己の価値が下がるとでも思っているのか、奇特な人物だ。 いつの間にかカートを押して、かごは二つに増えていた。レジでポイントカードの提示を求められるが、私はカードは財布には一切入れていない。しつこく、お得ですよと、勧められてもまったく必要性を感じないのだから、そういったお客へ…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である1-2

    レジ横のワゴン。大判サイズから手ごろな文庫本のサイズ、これはちょっと書きづらい。そうそう、手帳にあったペンも買わないと、細めのペン先でないと文字が重なる。せっかく書いた文字が読めなくては、元も子もない。書店に売っている手帳はどうもしっくり来ない。私は一折、サイズと仕様を見比べて手にとってみたが、やはりダメだ。 一度、持ち帰る。まだ、来週まで時間はあるんだ、次の買い物で買えばいいんだから。 大丈夫かな? 食材を買いに食料品売り場を目指す間に子ども連れの親子がやたらと目に入る。不安なのはいつでもそれが私の定常だったのだから、今さら、何を恐れることがあるんだ。 笑顔を振りまけるだろうか、しっかりと怒…

  • さあ、調べるがよい、我は紛ごうことなき純潔である1-1

    住まいを近くに借りたのは誤りだったのかも、しかしもう手遅れ。家賃は振り込んだ。銀行を出る。手数料を取られないために次からはこの銀行のカードを使わなくては、またしても決意。各種の手続きはこれで完了したも同然、残るは仕事が始まるまでに私の損失部を洗い出しておくんだった。厳しくても、洗いざらい表出しなくてはいけない。痛みは今日でおしまいにするの、だってそのほうが後々のため。日光がまぶしい、いい気分だ。車はやっぱり所有していたほうが維持費は毎月かかるけど、この街では必需品だと思う。生活費でどうにかやりくりできないものだろうか、今年の冬までにはめどを立てておこう。そのためにまずは仕事に専念すること。こん…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん5-4

    「お名前が同じだったのね」 「ええ、よくわかりましたね」熊田は驚いた、名前のことは当然明かしていない。 「あら、そうなの。勘で言ったんだけど、当たるときは当たるのね」 「彼女の住まいを教えていただけませんか?」 「彼女なら……、今何時です?」 「三時前です」 「防波堤にいると思いますよ。雨が降ってないなら、たぶんそこで海を見てる」 「竹部さんの住まいはこの辺りですか?」 「二駅、隣だったと思う。詳しいことは表の従業員に聞いて。ここへの案内係を買って出た人が最適よ。私が許可したと言ってください。すぐに教えてくれます」顔が再びテーブル、その上のコピー用紙に張り付いたので、会話が終了したのだと、熊田…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん5-3

    情報処理班の男は鑑識の到着を恐れて、管理人から受け取った死体の書類を逃げるように熊田に受け取らせ、一番に現場に駆けつけたことは鑑識には黙っているようにときつく何度も頼み込んで、現場を立ち去った。情報処理班は鑑識の不足情報を補う形で捜査にあたる。そのため両者はあまり良好な関係性を保ちづらい。 熊田は契約書に目を通す。氏名は竹部美智子だ。大きく瞬き、急激に眠気が襲ってきた。職場は言ったとおりの斜向かいの黄色いスイーツ店か、熊田は独り言を呟いた。 それからも種田と室内の捜索に当たったが、めぼしい情報はもたらされず、判明したことといえば、この部屋は引っ越し間もない部屋であり、やはり物が少ないという共通…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん5-2

    部屋中央の死体をよけて熊田は窓に移動する。部屋は海に面した道路側の一室で、リビング兼寝室の窓とベランダは海が一望できた。施錠の有無を確認、鍵はかかってる。ベランダに出た熊田が下を覗く。 「女性がつけてるエプロン、僕が立ち寄った店の名前が入ってます」玄関口まで下がった彼が言った。 「従業員でしょうか?」種田が熊田に訊く。 「無関係とは言いがたいな。現職か、以前に勤めていたのかもしれない」 種田が死体を調べる。切り傷や打撲、その死体の衣服をまくった肌の露出部分に争った形跡は皆無。もちろん、頭部その他、毒物混入の痕跡等も調査の対象であるが、またもや外傷は一切見当たらなかった、彼女は早口で状況を伝える…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん5-1

    現場は喫茶店から数百メートル先、情報処理班の署員が話した黄色い店とのちょうど中間の建物である。階段下の駐車場を支える骨組みは白い塗料がはがれ、海風にさらされたのか、赤くさび付いている。駐車場の車の台数を何気に熊田は確認している様子だ。車は来客用のスペースに止める。種田は、歩道に出て住まいに上がるコンクリートがむき出しの階段の踊り場から足取りの重い熊田を眺めている、遅いとせっつかれそうな勢い。 種田が情報処理班の人物のから連絡を受けたのである、彼が番号をどこで知りえたのか、おそらくは相田か鈴木に聞いたのだろう。しかし、彼はなぜ種田に通報を……、その意味を考察しつつ、熊田は最上階の部屋に向かった。…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん4-7

    施設周辺が発信場所ということは、倒れた女性を直接目撃したか、あえて現場に近い場所で通報を行わせたかの二択だろう。熊田は煙を吸って大きく吐いた。閑静な住宅街、目撃者は見込めない。不審な車両が止まっていたとしても、ああいった静かな場所は車を止めて車内で休憩を取るドライバーが数多く存在するように思う。坂を上りきった辺りは絶好のポイントだろう。景色も眺められる。それにまた、発信場所の近くのゴルフコース上での通報も可能だろうし、高速の道路からでも基地局に観測される。すぐにその場を離れられ、しかも嫌疑をかけられる恐れは微量な可能性だ。持ち主の異なる端末を使って通報をしたのだ、無関係ほど足がつきにくい。しか…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん4-6

    「ええ、鑑識はもっと後の到着。……周辺のカメラに逃走した彼女が映らなかったのはそのためだったのか」熊田は感心するように口を開いて、タバコに火をつけた。しかも防犯カメラは駅に向う道沿いの民家にしか設置されておらず、施設を出た三台のうちの一台に乗った弁護士がゴルフ場に通じる道を選択していたら、証拠は得られない。 「逃走の手段は説明がかろうじてついています」種田がつっけんどんに口を開く。「ですが、逃走の理由は未だに不明確。彼女の死への関与と、通報者の男性の説明には不十分です」 「考えたのかしら?」 「弁護士が何者かに通報を促したとでも?」 「いらっしゃいませ」 店内を見渡すように男性が一人、入店して…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん4-5

    「その辺りの情報は降りてきません」熊田が指先にタバコを持って応える。「上層部に捜査権が渡ってしまったのです」 「怖くなって逃げ出したのか、または殺害に関して心当たりや今度は自分を狙う予測がもしかするとついたのかもしれませんね。彼女は施設で働く人物だったというもの、未定。ならば、彼女も開いていたドアから無断で入った、その事実を警察に知られないよう隠蔽する目的で、現場を離れた。そのような場面も想像が可能です。いずれにしろ」美弥都は言葉を切る。「捜査権の剥奪が敢行された時点で、事実を捻じ曲げる用意が、画策されたのです。あなた方の動きが見張られている以上、これより深く踏み込んだ事実の出現は期待が薄い。…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん4-4

    午後の休憩に店長が店を出た。私たちにコーヒーを提供してからのことである。店はいつの間にか二階の物音を残し、一階は綺麗さっぱり連なるレジ前の人の波は引いていた。熊田は注文を頼む仕草で手を挙げてみたが、カウンターの日井田美弥都は聞き逃した。二度目の問いかけに顔を上げて、しかし、手元の作業に見切りをつけてから、テーブルについた。黒のエプロンが、微細にふうわりと空気を含んでしぼんだ。 「何か軽食のようなメニューはありましたか?」 「残念ながら、トーストは完売しました。これが唯一店での食べ物です」美弥都ははっきりと告げた。 「お話を聞いていただきたいのです、お時間を少しいただけませんでしょうか」 「二階…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん4-3

    「住み始めたばかりで顔はほとんど見られていないと思う、マンションの左右上下階の部屋は前に調べたから、次は個人の家だ」 施設とマンション間の距離は直線で三百メートルぐらいである、熊田たちは駅へ歩いたと仮定したルートに出くわす住宅をまず訪問した。在宅率は高かったものの、マンション名と名前だけでは首を縦に振らずに、警察手帳の出現に驚いて、会話は終わってしまう。次に、わき道、最短距離ではないが、駅から直接施設に向かう場合を想定した道を辿り、聞き込みを続ける。これもあたりはなし。マンションの住人はほとんど民家との交流はないのでは、一軒の家で小さな子どもの抱いた女性が情報を提供。一人暮らしの人物が多く、夕…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん4-2

    独り。女性にはそれが可能だろうか。子どもを生む機能を有しながら世間での居場所も欲しい。贅沢。しかし、一人では生活は苦しい、パートナーがいたとして共働きでやっと生計が立つ。だったら最初から生まなければいいのに。簡単なことだ。世間での一定の視線で年代に不相応な目線で見られたいのだから、文句としか思えない。私が結婚をしていないから言える意見かも。だがしかし、よりによって先のことを考えなしに養育費や日々の生活費等々を賄えない暮らしを捻出しようとたくらんだはのどこの誰だろう。 熊田は女性の立場、つまり亡くなった人物がこれから辿るかもしれない標準的と異なる道のりを追ってみたのだ。通常ならば想像は容易く、考…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん4-1

    熊田は慎重な捜査を自らに課し、種田と共に一件目の海が見渡せる高台、真四角の建物に車を走らせた。だがその前に、通り道の二件目死体発見のマンションに立ち寄った。見張りの警官の姿は見当たらない、警備をつけていないようだ。熊田はそっとエントランスを覗き、建物内部の様子を伺う。上層部の捜査員の姿が見得ないことを確認し、種田をエンジンをかけたままの車に残して、エントランスまでの数段、マンションの階段を軽快に登った。マンションは外観の新しさが示すようにオートロックが完備されている。しかし、ちょうど住人の学生がドアを通過、開いたそのドアに滑り込む。管理人室がマンションに住んでいるとすれば、一階でまちがいはない…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん3-6

    「企業間におけるトラブル回避と解決に関する補助」 「なんだそれ?」相田が言った。「具体的な事業形態を示す決まりじゃなかったのか?」 「必ずしも登記にある事業しなくてはいけない、という決まり存在しません。投資家や株主に新事業や異業種参戦の場合、説明責任は発生するでしょうが、それは個々の裁量に委ねる。法律は関しない。企業の信用を失う危険をはらむのであるならば、説明は絶対的に付随するもとの考えます。ただし、あのような施設、事業の全容も不確かな企業が運営を成立させているのは、独自の運用を持ちえるのか、あるいは強力なコネクションが存在を支えているのかは、各自、私たちが想像するのみ」 種田の演説を受けて熊…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん3-5

    「勝手に画面を覗いたりしませんよ、僕たちは」 「あの人は真実だけを話したがる。調べていないという相田の見解か、もしくは調べても解剖結果が少なかったのもしれない」 「情報が少ないんじゃ、捜査のしようがありません。お手上げです」鈴木のアクションに斉藤がくすりと笑った。相田は沸点の浅い女性を嫌う、呆れたように上司を注視、ふてくされたように腕を組んで背もたれに重たい体を預けた。 「匂いの元は腐敗臭ですか?」空気を切り裂く種田が正面の鈴木に質問を投げた。灰色の瞳が明るく光る。 「これがまた、そうそう、最初は腐ってるのかと思ったけど、今日だって気温は低いし、暖房は止まってた。仮に朝方まで点けていたとしても…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん3-4

    「荒らされた形跡、争ったあとは?」 「いいえ、まったく。引っ越してきたばかりのようで、梱包を解いた荷造りのダンボールが残ってましたが、それ以外では、ええっとそうですね、ああ、ひどい匂いの肉と野菜の煮物がキッチンで異臭を放っていたぐらいでしょうか。その匂いで管理人が気づいたんですよ」 「管理人がわざわざ部屋に何しにいったんだ」相田が首を反らせて質問した。 「家賃振込みの口座番号が間違ってたみたいです」 「管理人って大家を兼任か?」 「ああ、どうでしょう。聞いてませんね」鈴木は思い返すが、指摘された質問に対しての答えは持ち合わせてない。「でも、金銭の管理を管理人が行うんですかね。それは大家が直接関…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん3-3

    着飾ったのだ、名前を。それが究極に思える、他者ではなく自らに判断を委ねた。 鈴木は現場のマンションに引き換えしてから、署へ車を走らせる。渋滞にはまり到着の時刻は午後一時を過ぎていた。 「鑑識の結果によると、口外は厳禁と前もって伝えておこうか」鑑識の神がだるそうに灰皿を引き寄せ、鈴木の席に座っていた。視線が一斉にドアを開ける戻った鈴木に向けられる。「さっさとドアを閉めたらどうだ?」 「……あっと、はい。ただいま戻りました」鈴木は入り口に近い相田に詳細を尋ねた。 「何だよ、今から鑑識の結果報告だよ。極秘の」 「極秘?」 「いいから、黙って聞いてろ」 相田の苛立ちの要因はわかりかねたが、重い腰を上げ…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん3-2

    「いこう」二人は二号館の建物へ足早に歩き出したかと思うと駆け足に変わった。 「いきましょうか。昼食なんですよ。この時間は」はにかみは男性にでも見せるのか、それとも形状記憶で口が自動的に笑顔をつくってしまうのか、ハシモトは案内、先を促した。並んで歩く。一号館は、細長く張り出した二号館の入り口を左手に、構内を直進し、海外の宮廷を思わせる円形のロータリー風のベンチを左側から回って入った。 「学生課はこの先です」事務室の隣、目の上の高さに飛び出した学生課の札を確認、頭を下げて鈴木はハシモトと別れた。学生課は職員一人が残り、窓口は閉まっていた。窓を叩くと、人が出てきた。私の格好は学生には到底見えない、応…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん3-1

    憤りも新たに竹部美智子がY大の三号館を出て、ベンチで日がな一日そこでしなびかかった鈴木に威圧的で見下す視線で呼びかけた。声と距とが鈴木との信頼を如実に表しているといえる。タバコを灰皿に押し付けて、私は立ち上がった。彼女は二人の人物を従えてる。彼女も含め、全員が白衣を着用。薬を扱う大学ということが、外見でもわかりやすいよう、しかし八割方の確率でそういった配慮ではないらしい。証拠に白衣は、ところどころにシミが目立つ普段使い。また白衣は三者三様で白さに違いが見られた。竹部はうっすら生地全体が黄色がかり、他の二人は漂白剤の清潔な白とまだ下ろしたての青みがかった白である。 「先生がこっちで、隣が私の友達…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん2-4

    「どうぞ、気分が優れますよ」手渡された水。ペットボトル、五百ミリの持ち運びのサイズ。「あなたの準備が整い次第、ここはまた開かれる。すべて用意されていると考えて、手ぶらで来た方がいいと思う。私のアドバイス」 ひときわ小さなブースへ女性はカップと共に入室、途端に広すぎる空間に私は一人を思い知らされた。水分を補給。こわばっていた手で蓋をあけるのに苦労した。彼女の人工的な香りとコーヒーの香りが漂った。 施設をあとにした。確かめるような石、歩いてる感覚を呼び覚ますため、あるいは足元にだけ意識を通わせる意味合い。門のところで振り返る。デザイナーが建てた意匠ある建物だったら、たぶん写真に収めていたのかも。け…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん2-3

    「はぁ」私は発言者とその発言内容のギャップに少々戸惑った。もっと、私のように突飛な会話が展開されるとばかり思っていたのだ。けれど、不思議と、何だっけ、懐かしいような、それでいて、くすぐったい印象を彼女には覚える。しかし、ここへ訪れた目的を思い出して、躊躇いがちに私は尋ねた。「ここは、会社ですか?それとも、宗教とかの施設でしょうか?」 女性は口を押さえて笑った。コーヒーの香りだ。彼女は一人分の使い捨てドリップをカップにはめて、お湯を注ぐ。香りが私に届くまで彼女は返答を遅らせた。「会社というには、正確ではないし、宗教ではもちろんないわ。怪しいからって何でも宗教に考えがちなのは、悪い癖だと思う。皆さ…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん2-2

    インターフォンをプッシュ。誰も出てこない。留守には思えない、だって車が止まっているもの。もう一度。出ない。声をかけてみる。振り返った。見られてはない、見られてる私を見られるの?私でいなさいよ、堂々と。 ドアに手をかけた、聞こえていないのかも。大胆な私は徐々に顔を押し入れる。玄関。足元に靴箱。スリッパは金属製のスポークに、差し入れる空洞のつま先部分が収まる。四足。お客は来ていないか。「すみません、どなたかいらっしゃいますかぁ」大きな声が出るんだ、私は出ないって決め付けていたんだろうな。改めて、思う。何だろう、声が聞こえたような気がした。空耳みたいに。もう一回、今度は口元に手を当てて呼んだ。聞こえ…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん2-1

    工場だろうか、右側の金網の向こうにはショベルカーが一台稼動中だった。トラックは泥にまみれた黒っぽい何だろう、雪だ、荷台を傾けてすべり下ろした。堆積場という場所だろうか。しかし、ここに積もった雪はどうしているのだろう。土地は広大だけれど、集めた雪って相当な量に膨れ上がると思うけど。わからないので保留。 道が突き当たった。右手はゴルフ場の看板。高速道路のさらに向こう、本当の山中にゴルフ場があるらしい。山を切り開くというイメージがここでやっと結ばれた、成就。左を私は選択すると、殺風景な景色にちらほらと民家がまた点在しはじめただろうか。かつての農場、サイロのような、縦に伸びる円筒状の建物。しかし、動物…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん1-3

    階段を見つけて、侵入。階段と片方にはスロープ。自転車も通るらしい。息を切らせて、勾配を踏破。中は風が遮断されて、かなりの暖気。夏はかなり暑いことが予想される。記憶。 高所、そして道路の左右が見上げるほど背の高い林だ。アニメに出てきそうな光景だった、左右の道路の先が両方共に建造物が見当たらなくて、心細さが襲う。夕方や日が落ちた時間帯だったら声を上げたかもしれない、でも人がまったく歩いていないのは良い所。東京ではいつも、誰からどこからか、知らない人だけど、見ているように思って、私は萎縮していたんだと、改めて、当時の否定した感触を思い返して、ここに来て、ぐぐっと脊椎を伸ばせば、知れた。物寂しい、薄着…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん1-2

    そんなこんなで部屋を借りて、仕事場に顔を出した。店員や職人ともちろんあの人には、もつれた舌で挨拶を交わした。店の一人、職人が独立し、入れ替わりに私が入るらしい、そうきいた。今日は送別会なんだそうだ、私は誘われたが、面識がないので断った。あの人は残念そうだったけど、入れ替わる人同士が顔をあわせるのは、ちょっと強引過ぎる。意見を押し通した私に後悔してる、だから、思い出すんだ、私を肯定するために。別になんとも思っていないはず、常識のない、浅はかで、ずうずうしい、せっかく誘ったのに無碍に断るなんて。聞こえない、これらは作り話、想像。振り切って、本当に頭も振る。ぶぶぶんがぶんと。 ちょっと外の空気を吸お…

  • 面を上げよ、汝の示す方角へ、いざ行かん1-1

    引越しは全部一人で誰の助けも借りることなくやってのけた。普通のこと、見事さに拍手を送られる出来事とはまったく別次元の日常。この時期ならもっとも多い出来事の一種。誰が見ても、どこから来たのか、という文句が声をかけられるきっかけのようだ。荷物は少なくてよかったと思う。あれこれと日ごろから、一人暮らしの準備のため、物を処分していた甲斐があった。所詮、物は現在必要性を欠いているものは不必要と、一度決めてかかれば、捨てるのに躊躇いは見せない私がいた。アクセサリーは自分をよりよく見せるため、あるいは自分を高めてくれるもの、そんなものは必要ない。何もなくてもまずは私に従順であるべきなのだ。写真もすべて処分し…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって4-3

    調べるべき場所は遡り、探す対象を明確に想像する必要がある。対象は何だろう、鈴木は考える。彼はキッチンの周り、現在はぐるぐると一定の速度徘徊している。 隈なく調べるとは、つまり調べていない箇所を調べる。 調べていない場所か。鈴木は動きを止める、辺りを見回した。キッチンは当然調べた、トイレも出入りがあったのだから調べている、残すは天井と床。しかし、調べる手段が思いつかない。鈴木は広すぎるそして高すぎに室内を見上げて、途方に暮れた。 「あっ」と声を上げて腕時計を見る。残り時間は四十分だった。わざとらしく胸を押さえてため息。調査は行う、時間内に。しかし、調べるとはいっても、どこから手を付けるべきかを考…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって4-2

    施設、鈴木はぼんやりと浮かんだ動機を掴み取る、逃げない内に行動に消化させる。迷っている暇はない、思い立ったが吉日、善は急げ、躊躇うな、要求に従えばいいのだから。知りたいという動機がやりがいではないのか、出世の道を諦めたら、見えてきたおぼろげな視界を鈴木は息を吐いて、その霧を一息でかき消した。コーヒーを飲み干す。 鈴木は講義終了までの残り時間を計り、腕時計のストップウォッチをスタートさせる、クロノグラフを買っていて良かった。これでよし。飲み干した缶を籠に入れて一路、部長の盗聴を警戒した警告に従って熊田たちが調べた昨日の現場に、鈴木は急行した。 車の流れはスムーズでまだ正午前であることが幸いしたと…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって4-1

    「噂では私は死んだということになっているみたいだな」部長は缶コーヒーを購入。小銭を受け取り口から財布に移す。鈴木はぽかんと口をあけて、現実の把握に時間を要した。部長がタバコを要求、鈴木は一本を部長に渡すと手で囲い、火をつけた。 二人はベンチに並んで座る。 「聞いてませんよ、そんな噂は。そういえば、部長の名前って、失礼ですけど何でしたっけ?」鈴木はあけすけに言った。こういった失礼に思える態度は、単刀直入に述べたほうが相手の怒りを買わない傾向にある。 「一応、まだ部長の職は続いている」 「けど、新しい部長が来ましたよ。女性が。僕よりも若い」 「若さがネックか?」部長は笑って言う。めずらしい、部長は…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって3-4

    熊田にも連絡を入れた、鈴木は時計を見る。二人目の竹部美智子と別れて十分しか経過していない。マンションに引き返すか、どうにも今回の事件は腑に落ちない状況ばかりだ。ベンチに戻って次の行動を考える。腰掛けた鈴木は運良く屋外に円筒形の灰皿を見つけ、タバコを取り出した。考え事に耽る。学生が数人、坂道を歩いて通る。どうしたものだろうか。熊田さんは、鑑識の結果がもたらされるまで署を離れらないし、種田は車を持ってはいない、相田さんは省かれたのを根に持っているだろうから、早々言うことを聞いて、応援要請に加わるとは思えない。新部長の斉藤彩子は、車は持っているのかも。部長クラスの役職なら所有は容易い、それにO署に電…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって3-3

    「竹部さんですか?」 「はい。ほんとに来たんだ」学生は端末に視線を落とす。「もういいでしょう」 立ち上がって歩き出しそうな彼女を鈴木は両手で制した。「ちょっと、もう少しだけ。学生証があれば見せてください」 「もうっ!」学生は用意していたようにコートのポケットから手帳を取り出した。 問題はない、顔写真も当人であるようだ。住所も符合する。 「国道沿いのマンションの部屋をあなたが親に内緒で借りていたのですか?」 「はぁ、何を言って。だから、時間がないって何度も……」彼女は学生所を取り出したポケットを探り、端末に出た。「もしもし、うんわかってる、もういくから、席取っといて」端末を切った。「仕送りだけで…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって3-2

    「ああ、ありがとう。また、何か聞くかもしれないですよ」鈴木の問いかけはむなしく、学生は背中で受け止めて、エレベーターの前に移動した。 手帳をしまうと、端末がスーツのポケットで震える。 「はい、はい。そうですか、確認を取りたいので、番号を教えていただけますか、わかりました。電話には出られる状態でいてください、所在確認に向かってまた、掛け直しますので、ええ。失礼します」鈴木は手の内側、手首のあたりにペンで書きとめた端末の番号にかける。 「もしもし」 「はい」コール数は躊躇いの証、電話に出た声は明らかに警戒の色が強い。女性の声である。 「O署の鈴木と申します。突然すいません、お母さんからお話は聞いて…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって3-1

    不可思議。この言葉が適切だろう。管理人が鈴木に告げた死体の名前は、記憶に新しい、"竹部美智子"であった。昨日熊田たちが借り出された現場で見つかった死体の氏名である。しかし、それもまた正確に正しいとはいえない。この竹部美智子なる人物は平然と会社に出社し、生存が熊田たちの目で確認された。その人物の同意も得て、本人特定の質問事項が敢行されたわけであるが、疑いようもなく名前の人物であった。それでは、死体となって発見された人物は誰であるか、という疑念が自然と持ち上がる。しかし、死体が発見された施設の管理者からもたらされた情報を辿り、当該人物の部屋から見つけたのは、部屋を借りる際に結んだ契約書のみで、その…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって2-2

    キッチンに鍋を見つけた、半開きで蓋がずれている。意を決して、覗くと変色した肉と野菜が水分を吸って膨張していた。蓋を閉めて、換気扇のボタンを押すのを躊躇い、鈴木は口で呼吸をする。現場を荒らすわけにはいかないのだ。振り返って窓の施錠を確認。リビングの窓は鍵がかかっている。それから別室をざっと物色、窓はすべて閉まっていた。もちろん施錠も。出入りは、扉からと言えそうだ。鈴木は再びリビングへ。 身元はすぐに判明した。死体はバッグを提げていた、帰ってきてすぐに命を引き取ったらしい。しかし、外傷は見られなかった。見開いた目、つまり咄嗟に死が訪れた、ということだろう。鈴木は首を振る、詮索は後回しだ。バッグのマ…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって2-1

    鑑識の捜査結果の報告に長時間の滞りが生じた。漏れ出した話によれば、上層部にかかった圧力が捜査を部署から引き離して、捜査権が上層部に一旦移りかけて、事件発覚当日は解散。翌日の午後になって一人昼食から戻った熊田を駐車場で鈴木が呼び止めたのであった。 「あっ、熊田さん!」鈴木が署の階段を下りて、駐車場に降り立つ熊田の下に駆け寄った。ちょうどドアを閉めたところである。 「昼飯か?」 「違いますって。事件の通報です。また人手が足りないらしくって、僕が行ってきますね。部署に相田さんがイライラして待ってますから、あのう、できるだけ、丁重に扱ってください」 「ああ、わかった」 Y大の近辺だった、現場の位置を反…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって1-3

    「死亡要因によっては調べにとりかかれますが、今日明日に、とは結果をきっかけに順序良く運ばない予測が妥当」種田が応えた。 「弁護士か」種田の発言を受けて熊田がつぶやいた。「それよりも事業形態を外部に知られたくはない様子は、現場に居合わせた通報者の女性と管理者、弁護士が死に関与してるような動揺とは、なんとなくだが当てはめて考えるには無理がある、あの態度は」 「刑事の勘?」おどけるように斉藤が声を弾ませた。 「しかも、女性が通報者ということも警察の記録は残されていなかった。事件の一報を伝えたのは男性の声です」警察の要請は男性による連絡で、しかも救急車ではなく警察が呼ばれた点に熊田は引っかかっていたの…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって1-2

    「思い悩んでいるようには見えない」 「ご名答」斉藤がまた幼稚さを発揮する。「楽しいわね、ドライブみたい」 「仕事です」 「楽しんじゃいけないの?人が死んでいるから、それってどうかなって考えたのよ、私。人から搾取する、半ば広告で手ぐすねを引いて、商品を買わせる行為を皆さん正当化しすぎじゃありませんこと。だったら、生命に関する仕事も同等に扱うべきなんですよ。牛を殺して舌まで食べて」斉藤は押し黙った。「……そうか、私みたいにおしゃべりだから戒めに舌を食べるのかしら」 種田は鼻を鳴らして、黙ってしまった。当然、話は熊田に振られる。 「次はどちらへ?」 「鑑識の結果から判断を下します。通常のルーティーン…

  • Jackery/ジャクリ夏セール2025|7月の割引情報&狙い目製品を徹底解説

    できる限りポータブル電源・ソーラーパネルを安く買いたい ブランドはJackery/ジャクリがいい という人に向けて、 Jackery/ジャクリが開催する夏セール2025の情報を紹介! 割引率は、最大で50%。 キャンペーン期間内の購入であれば、キャンプや災害対策などで必要なポータブル電源・ソーラーパネルをお得にゲットできますよ。 Jackery/ジャクリ夏セール2025|7月の割引情報 ■ビッグセールの詳細 Jackery公式ビックセール対象製品一覧(2025年7月) ポータブル電源 Jackery 3000 New 利用に合っている人の特徴 Jackery 2000 New 利用に合っている…

  • 退路を確保せよ、肝要な命をもって1-1

    SAKAKI自動車の北海道S支社へO署刑事たちは訪れたのであるが、思った成果、つまり死体の身元に関する情報に明らかな思い違いが発生し、当人たちは当惑の色を隠せなく、名前の挙がった人物、マンションの契約書に記載された名前の人物は、あろうことか会社に出社、今さっきに通された応接室で面会を果たしたである。マンションの住所にその応対する人物はまったく身に覚えがなく、四月に北海道転勤は事実と認めたが、そのような場所には住んでいない、言われたような施設にも足を運んだつもりはない、答えは意外なものだった。 署に帰還する熊田の車内、昼食の算段をほぼ熊田の意見がスムーズに二人の女性を通過して、立ち寄った定食屋で…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ6-7

    私は来た道をしばらく眺めて、門の外、歩道を下った。 知らない場所、入り組んだ住宅地。 下りは迷いようがないの、だってどこかに道は通じているのだ、先は少しだけ見えてる。 上りとは違ってね。 ディーラーから一台の車が斜線に合流した。 店員が二人、いつもは下げない頭を無理やり地面に近づける。 固まったことを感じようともしない顔の筋肉みたいだ。 ディーラーの道を挟んだ反対に蕎麦屋が見えた。 それらしい店名。 各料理店にふさわしい店名もお客に対するわかりやすさに隠れて、思い込んだ名称の選択に違いない。 いくら凝っても、味は食べてみないことには判断ができない。 私は入り口の暖簾をくぐって、ドアを引きあける…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ6-6

    「雪国でしたか?」 「前の家?ううん。東京」 「私と一緒だ」共感、私ではない相手との意志の疎通。 「ねえ、ここで働いてみる気はない?」 「アルバイトですか?」私は見渡す。 「仕事よ、きっちりとした。給料も出るんだよ」 「大学があるので、それはちょっと難しいと思います、せっかくですけど」せっかく?本心だろうか。 「そう。残念ね。けど、気になったらいつでも来るといいよ。契約を結ばなくても日給は払ってくれるでしょうから」 「あの、何の仕事ですか。ぱっと見、人が働いているようには見えませんよ、ここ」 「一言では表しにくいな。それにあんまり人には言えないのよ。守秘義務ってやつでね」女性は目を細めて笑った…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ6-5

    コーヒーの香りが立ち込める。彼女はスナック菓子を頬張りつつ、体重を片側の足に預けて、キッチンの対面で水を補給する私にまた微笑みかけた。綺麗とは言いがたいが、内面は艶やかである。私の印象。もう少しこの状態が女性に続くようであれば、たぶんだけれど、顔は整っていくだろう。余計なこわばりがまだ細部には残っているのだ。私自身も特段かわいくはないと思ってる、自己評価だ。不細工と人によっては主張するだろう。ただ、各パーツを構成する大きさを変えずに、それを支える筋肉が本来の機能にのみ動けば、私の顔は変わるのではと思い、取り組んだ時期が過去にあった。まずは顔の血流が滞ってるであろう箇所をつぶさに観察すると、おも…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ6-4

    返答はない。帰ろうか。いいや、私は古民家を意識した引き戸に手をかけた。古すぎなくて新しくもありたい。贅沢なセンス。ドアを引きあけて右足を踏み出したら最後、体も大胆に屋内に滑り込ませてしまった。御伽噺に出てくる世界かもしれない、取り巻いたのはそんな錯覚である。 「ごめんください」私は勇猛活発に声を出し切った。すると切れそうな声が聞こえる。途切れらたらもう一度、二度目の音声を振る絞る。声の在り処は捉えていた、大丈夫、何かを言ってる。私はゴーサインと勝手に解釈して、正面のドアが閉まっているとも思わずにそこを引きあけて侵入してしまった。 声が届かないはずだ。市が管轄する体育館を思わせる空間だった。私は…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ6-3

    道は平坦となる。住宅も増えた。右手の山側に、私道を見つけた。しかし、先は鎖が行く手を阻んでいる。農園らしい、高速道路の越えた側にビニールハウスとかまぼこ型の建物。冬の期間は封鎖してたのかも、解禁後は通れるかもしれない。大学への道でもっとも近道とも思われる道は現在封鎖されていた。そこは、かなりの急勾配でたぶん車は登れないし、降りるには止まらないから危険で封鎖しているんだろう。人も車も通らない、だから雪がそこだけ残っているんだ。残雪で思い出した。雪国といえば当たり前なのか、昼間に家の周りの雪山をせっせと道路にスコップでかいた雪を放り投げてる光景は、私には衝撃的だった。いつか溶ける雪をなぜ、道路を通…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ6-2

    緩やかに坂を下りて、高速道路の通じる道に出くわした。道はまっすぐにも続いてる。私は逸れて登場した道、坂を上ることを選ぶ。傾斜地の町並みはどことなくその形状が似ている。左手には海が見えていた。息を切らせてのぼる。対向車ばかりで人とはすれ違わない、やはりみんな車がすきなのだろう。自分だけ持たないのは割に合わないとでも思っているんだ。左手に下がる道路が一本。それを通過。もう一本先に現れた道を私は選ぶ。インターの入り口が正面に、そこをぐるり回るようにガードレールと切り立った崖のみの道路をたらんと歩く。何もない、歩道もない。たまに、車が私を追い越していくも、クラクションは鳴らされない。だって、道は十分広…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ6-1

    スーパーを右手に駅へ向かう方角につま先を地面から離して先に運ぶ。特に目的はないに等しい、周辺の散策は駅から自宅マンションそれから大学とスーパーを結ぶ大まかな地図に頼って数日を生きた私。不自由を探していたのかもしれない、今思えば。橋を渡って、谷を望む。流々と水が流れ落ちる。雪解け水だろう。はじめてみる光景に私は端末で写真に収めた。あとでプリントアウトして手帳に張るつもり。大学の授業が忙しくなれば、こんな悠長な時間の過ごし方はできそうにもないんだろうけど、先のことをいくら思い描いても、まだその時間に私は到達するどころか、今を省みていないのなら、瞬間の楽しみに勤しむのも許してあげるべきだろう。受験勉…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ5-2

    外を眺めた。何気なく。車が一台、真向かいの坂をぐんぐん登っていく。視界のさらに右上に私が通う大学が建ってる。明らかに古い白っぽい建物と、近代的な青みがかった窓が特徴的な黒っぽい建物。一度、構内をぶらりと歩き回った。学校は休みの期間で人はほとんど歩いていなかった。足元に雪が残っていたのには驚いたな。かなりの豪雪地帯だと、話には聞いていたけど、もう四月なのに。山が近いからたぶん、冬は寒いんだろうな。それよりも、来週の入学式を焦点をあわせないと。 ぐらぐらと鍋が吹き零れる音。慌てて私は、コンロに飛びかかる。早速噴きこぼしてしまった。あれだけ、火から目を離さないようにと母に言われていたのに。冷蔵庫に貼…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ5-1

    四月、変遷の時期にこの土地に足を踏み入れた。マンションは決まって、親が昨日実家に帰り、今日からは本格的に一人暮らしがはじまる。期待よりも不安のほうが膨らむ。気の置けない友人はできるだろうか、あどけない私の顔では……友達はもっと大人びてるのかも、想像は自己評価の低さにいつも行き着くのだ。やっぱり、あまり考えないほうがいいんだ、わかってる。そんなことは十九年付き合ってきたのだ、今更という感触。カーテンは事前に購入した淡い緑をカーテンレールに取り付けて、空気の入れ換えにあけた四階の窓からそよそよまだ冷たい当然に冬の空気が室内と屋外を覗く私の頬に際限なく衝突。父は家を出るまで、機嫌が悪かった。私と離れ…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ4-2

    女性の管理人は割合、話し好きが多いと熊田のデータがはじき出していたが、書類を持ってきた人物は無口で怒っているような渋面がデフォルト。言葉は必要最低限であり、調べが終わったら鍵は一階のこの部屋のポストに入れて欲しい、管理人室には尋ねないで欲しい、そう言い残して部屋をあとにするのだった。 熊田はリビングに戻る。確認。死体の氏名と前所属会社が書類によって判明した。ただし、生年月日は一と九がすべて。端末の連絡先も一と九でほとんど占められている。偶然だろうか。契約者の保証人は、同姓の名前が書いてある、家族か親戚だと思われる。 種田が書類を受け取ると署に待機する鈴木に調べるように連絡を入れた。カーテンが引…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ4-1

    施設の封鎖は最小限に抑え、死体を鑑識が運び出し、周囲の住宅への関心を引かないように作業をひっそり執り行う。遺体を乗せた鑑識のバンを見送り、出入り口を封鎖。警官は立たせずに熊田たちO署の刑事は、施設管理に雇われる弁護士佐山明から聞きだした死体の自宅住所に向かった。住まいは現場から程近い場所であり、車は施設に止めて、真昼の空の下、徒歩で数分の時間を要し、たどり着いた。現場に向かう途中に見えた赤い外壁のマンションが目的の場所であった。種田がマンションの管理人から鍵を借りて、三名の刑事は最上階にエレベータで昇り、三つの扉の真ん中に教えられた部屋番号を見つけた。一階ロビーの郵便受けは番号、部屋にも個人名…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ3-5

    「引き抜く相手を知らない?ちょっと疑わしいですね」熊田が疑惑の目を向ける。 「わ、私は言われたとおりにお伝えしてるまででして、それよりも、もう、そろそろ私もこちらを出ないと。次の仕事が待ってます。引き止める材料がなければ、ここでお暇しますが?」 「管理者の連絡先を教えてくださらない?」斉藤が言う。 「お答えでき……」佐上明の言葉を斉藤が遮る。 「いずれ教える。その手間が省けるのだから、言ってくれたほうが、あなたもこちらも仕事はスムーズに運ぶ。時間に見合った仕事がしたいのであれば、ここを早急に抜け出し、次の案件に取り掛かるほうがベストだとは感じません?効率を重視しましょうよ、端末でもう一度連絡を…

  • 何卒、そなたの白い肌を私にだけ、お見せくだされ3-4

    「旅行に行きたい、行くつもりだ、そういった発言をこの女性から聞いた覚えはありますか?」熊田はきいた。女性の名前が判明していない事実というのは言葉にするだけでも、かなりの苦労を強いる。Aさんとでも仮名をあてはめたほうが、よっぽど回りくどい言い方を避け、それにまた時間の短縮にもなる。 「さあ、私は仕事上のやり取りしか」短髪の女性は一往復、首を真横に振った。 佐山は哀悼の意を体現する、または態度に表すどころか、腕にはめた時計を何度も確認していた。 「名前を教えてくださらないのは、何か特別なわけ、あなたに不利益になるような事態を想定している。そうに違いないわ」花を摘むように斉藤が予定を気にかける佐山に…

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