最終話「四月の終わりにめくるページ」 四月の終わり。 教室の窓から差し込む光が、少しだけ強くなった。 桜はとうに散って、新芽の葉が青く光っている。 季節は、ちゃんと次へ進んでいた。 スケッチブックの最後のページが、まだ白いままだった。 みんながページを重ねていくたびに、そこだけは不思議と誰も触れなかった。 千紘は、「最後は誰かが、ちゃんと終わらせて」と笑った。 クラスの誰か…
九日目「描かれた横顔」 放課後の教室。 今日も誰かが、例のスケッチブックをめくっていた。 棚の上には、付箋で「今ここ!」と書かれた目印が貼られていて、みんなが次のページを待ち望んでいるのがわかる。 けれど、今日のページは、いつもと少し違っていた。 「……これって、もしかして――」 ざわざわ、とした空気が教室を揺らした。 そこに描かれていたのは、ある男子生徒の横顔。 下を…
八日目「秘密のページ」 クラスの棚に置かれた「みんなのスケッチブック」は、日ごとに厚みを増していった。 詩、落書き、しりとり、意味不明な謎かけ。 最初は戸惑っていたみんなも、今では笑いながら「次、誰か何か描いてた?」と確認し合うのが日課になっていた。 千紘は、以前のように誰よりも真ん中で笑っていた。 俺は、その姿を見て、ようやく“春が戻ってきた”と思っていた。 だけど―― そ…
七日目「ひとつのスケッチブック」 次の日、千紘は、何事もなかったかのように教室に現れた。 だけど、昨日までとは少しだけ違っていた。 「みんなに、話したいことがあるんだ」 昼休み。 千紘は、スケッチブックを両手に抱えて、教室の真ん中に立った。 みんな、最初はきょとんとしていた。何を言うんだろうって顔をしていた。 「このあいだまで、机に落書きしてたの、私。 ……でも、言葉を書…
六日目「閉じられたページ」 昼休み、千紘の姿は教室になかった。 彼女の机の上には、スケッチブックが一冊、ぽつんと置かれている。 誰も、そこに触れようとはしなかった。 まるで、そこだけ違う空気が流れているみたいに、誰も近づこうとしなかった。 俺は、そっとそのスケッチブックを手に取った。 持ち上げると、表紙には小さな文字が書かれていた。 * 四月のスケッチブック * 中を開…
五日目「すれ違う風」 放課後の教室に戻ると、いつも誰かがまだ残っていた。 今日も同じだ。窓際の席では、千紘がスケッチブックに向かってペンを走らせていた。斜め後ろでは、クラス委員の桐生(きりゅう)が何やら書類をまとめている。窓から吹き込む風に、彼の髪がふわりと揺れた。 机の上をふと見ると、また新しい“交換”が始まっていた。 * きみに、春を届けたくて * その下に、小さなチューリ…
四日目「書かれなかった名前」 その日、落書きはなかった。 昼休み、いつもと同じように机を覗いた俺は、そこで立ち止まった。 昨日まであった“ことば”も、“絵”も、消されていた。 何度も消しゴムで擦ったような跡が残っていて、消したのは誰か、なんとなく“怒っていた”ように感じられた。 「……誰が、消したんだ?」 誰にともなくつぶやいた声は、当然ながら誰にも届かない。 千紘も気づい…
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