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10日間のショートストーリー 日々の体験を元にして書いていきたいと思います

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2024/10/31

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  • 第五話 未来の夏を歩く ひと夏の恋・再会

    第五話:未来の夏を歩く それから数日、僕は静かに過ごしていた。 澪が遺してくれた言葉、ペンダント、少女の笑顔。すべてが柔らかく胸に残っている。 夏は、過去に引き戻す季節でもあるけれど、本当は前に進むための季節なのかもしれない。 そんなふうに思えたのは、彼女が最後に教えてくれた「別れ方」のせいだ。 週末、図書館へ本を返しに行った帰り、駅前の喫茶店にふらりと入った。 涼しげな風鈴が入口に下がっ…

  • 第四話 約束の座標 ひと夏の恋・再会

    第四話:約束の座標 「“あの約束”は、私の中でずっと生きてたよ」 杉村から受け取った紙片に書かれていたその言葉を、何度も読み返した。文字は滲みかけていて、彼女がどんな気持ちでこの一文を書いたのか、その筆圧までもが手のひらに伝わってくるようだった。 十年前の夏。 「来年も、いっしょに花火を見よう」 そう言って、僕たちは小指を絡めて笑った。子どもみたいだった。でも、たしかにそれは、約束だった。…

  • 第三話 君の秘密を知っていた人 ひと夏の恋・再会

    第三話:君の秘密を知っていた人 図書館を出た帰り道、日が落ちきった空には、月がぽっかりと浮かんでいた。 あの新聞記事は、何度読み返しても変わらなかった。 彼女は——もう、この世にいない。 それなのに、どうして僕の前に現れたのか。あの夜、手を取って、微笑んで、「ありがとう」と言ってくれたのは、幻だったのか。 疑問と空虚が胸にこびりついたまま、僕はかつての通学路を歩いた。校門の手前、小さなブ…

  • 第二話:風鈴の音が消えた夜に ひと夏の恋・再会

    第二話:風鈴の音が消えた夜に 朝倉澪と再会した夜。家に戻っても、頭の中では彼女の声が何度も何度も再生されていた。 「また、どこかで」 その一言が、まるで別れの挨拶のように響いた。再会だったはずなのに、心のどこかが妙にざわついていた。 眠れぬまま、押入れの奥を引っ掻き回して、古いアルバムを取り出した。ページをめくると、そこには高校時代の澪がいた。花火大会の日、撮ってもらったツーショット。浴…

  • 第一話 ラムネの瓶に浮かぶ記憶ひと夏の恋・再会

    ひと夏の恋・再会 夏祭りで再会した初恋の人。花火の下で語り合う、止まったままの時間——切なさとノスタルジーが交差する、一夏の物語 一日目:ラムネの瓶に浮かぶ記憶 今年もまた、あの夏がやってきた。 陽炎が揺れる舗装道を抜けて、商店街の一角にある懐かしい駄菓子屋の前で足を止めた。小さな冷蔵庫の中には、青い瓶のラムネが並んでいる。栓抜きの感触、ビー玉の音、それら全てが、あの夏の記憶を静かに呼…

  • 最終話「四月の終わりにめくるページ」 四月のスケッチブック

    最終話「四月の終わりにめくるページ」 四月の終わり。 教室の窓から差し込む光が、少しだけ強くなった。 桜はとうに散って、新芽の葉が青く光っている。 季節は、ちゃんと次へ進んでいた。 スケッチブックの最後のページが、まだ白いままだった。 みんながページを重ねていくたびに、そこだけは不思議と誰も触れなかった。 千紘は、「最後は誰かが、ちゃんと終わらせて」と笑った。 クラスの誰か…

  • 第9話「描かれた横顔」 四月のスケッチブック

    九日目「描かれた横顔」 放課後の教室。 今日も誰かが、例のスケッチブックをめくっていた。 棚の上には、付箋で「今ここ!」と書かれた目印が貼られていて、みんなが次のページを待ち望んでいるのがわかる。 けれど、今日のページは、いつもと少し違っていた。 「……これって、もしかして――」 ざわざわ、とした空気が教室を揺らした。 そこに描かれていたのは、ある男子生徒の横顔。 下を…

  • 第8話「秘密のページ」 四月のスケッチブック

    八日目「秘密のページ」 クラスの棚に置かれた「みんなのスケッチブック」は、日ごとに厚みを増していった。 詩、落書き、しりとり、意味不明な謎かけ。 最初は戸惑っていたみんなも、今では笑いながら「次、誰か何か描いてた?」と確認し合うのが日課になっていた。 千紘は、以前のように誰よりも真ん中で笑っていた。 俺は、その姿を見て、ようやく“春が戻ってきた”と思っていた。 だけど―― そ…

  • 第7話「ひとつのスケッチブック」 四月のスケッチブック

    七日目「ひとつのスケッチブック」 次の日、千紘は、何事もなかったかのように教室に現れた。 だけど、昨日までとは少しだけ違っていた。 「みんなに、話したいことがあるんだ」 昼休み。 千紘は、スケッチブックを両手に抱えて、教室の真ん中に立った。 みんな、最初はきょとんとしていた。何を言うんだろうって顔をしていた。 「このあいだまで、机に落書きしてたの、私。 ……でも、言葉を書…

  • 第6話 閉じられたページ 四月のスケッチブック

    六日目「閉じられたページ」 昼休み、千紘の姿は教室になかった。 彼女の机の上には、スケッチブックが一冊、ぽつんと置かれている。 誰も、そこに触れようとはしなかった。 まるで、そこだけ違う空気が流れているみたいに、誰も近づこうとしなかった。 俺は、そっとそのスケッチブックを手に取った。 持ち上げると、表紙には小さな文字が書かれていた。 * 四月のスケッチブック * 中を開…

  • 第5話「すれ違う風」 四月のスケッチブック

    五日目「すれ違う風」 放課後の教室に戻ると、いつも誰かがまだ残っていた。 今日も同じだ。窓際の席では、千紘がスケッチブックに向かってペンを走らせていた。斜め後ろでは、クラス委員の桐生(きりゅう)が何やら書類をまとめている。窓から吹き込む風に、彼の髪がふわりと揺れた。 机の上をふと見ると、また新しい“交換”が始まっていた。 * きみに、春を届けたくて * その下に、小さなチューリ…

  • 第4話「書かれなかった名前」 四月のスケッチブック

    四日目「書かれなかった名前」 その日、落書きはなかった。 昼休み、いつもと同じように机を覗いた俺は、そこで立ち止まった。 昨日まであった“ことば”も、“絵”も、消されていた。 何度も消しゴムで擦ったような跡が残っていて、消したのは誰か、なんとなく“怒っていた”ように感じられた。 「……誰が、消したんだ?」 誰にともなくつぶやいた声は、当然ながら誰にも届かない。 千紘も気づい…

  • 第三話 線とことばが交わるとき 四月のスケッチブック

    三日目「線とことばが交わるとき」 昼休み。 教室の空気が少しだけざわついていた。 「ねえ、あれ……昨日の机だよね?」 誰かの声に、自然と視線が集まる。俺も気になって見に行った。落書きが書かれていた、あの机。今度は――そこに、小さな“絵”が添えられていた。 言葉のすぐ下に、鉛筆で描かれた一対のスニーカー。雑なのに、妙に温かい。春の午後、少し埃っぽい廊下を歩いているような、そんな匂…

  • 第二話 名前のない落書き 四月のスケッチブック

    二日目「名前のない落書き」 放課後の教室には、まだ春の光が残っていた。 ガラス越しの西陽が机を照らして、影が長くのびている。窓の外ではグラウンドから野球部の掛け声が聞こえてくる。 そんな風景の中、俺はひとり、席に戻って筆箱を探していた。 ……なかった。昼休みに英語の辞書と一緒に出したはずだ。ロッカーにも机の中にも見当たらない。仕方なく机の下を覗き込んだとき、不意に目に入った。 机…

  • 第一話 最初のページに風が吹く 四月のスケッチブック

    第一話「最初のページに風が吹く」 風がやけにあたたかい朝だった。 駅前の桜は満開を越えていて、花びらを落とすことに夢中になっていた。まるでこの春に間に合わなかった誰かを急かすように、はらはらと空を舞っていた。 俺は制服の襟を直しながら、自転車を押して坂をのぼっていた。今日から高校生活。中学のときの友達はそれぞれ違う道を選び、俺は誰一人として知り合いのいないこの高校に進んだ。期待よりも、…

  • 最終話 光の書の真実 暁の冒険譚 〜光の書を求めて〜

    第十話 光の書の真実 「ここまでご苦労だったな……だが、この先へは行かせない」 カインが鋭い笑みを浮かべ、手にした短剣をくるりと回す。その背後では黒蛇の部下たちが静かに剣を構えていた。 「ここで終わりだ、お前たち」 「そう簡単にやられるわけないでしょ!」 リナが杖を振り上げ、炎の魔法を唱える。 「ファイア・ストーム!」 灼熱の炎が渦を巻き、黒蛇の部下たちを包み込んだ。悲鳴を上…

  • 第九話 封印の扉 暁の冒険譚 〜光の書を求めて〜

    第九話 封印の扉 亡者の鉱夫たちを振り切り、アレンたちはスカーレット山脈の奥へと進んでいた。冷たい風が岩の隙間を吹き抜け、不吉な予感を漂わせている。 「この先に何があるのかしら……」 リナが不安げに呟く。 「何かがあるのは確かだ」 レオンが険しい表情で前を見据えた。 やがて、道は急に開け、大きな岩壁に突き当たった。そこには、巨大な石の扉がそびえ立っていた。 「これは……!」…

  • 第八話 赤き山の秘密 謎多き戦士レオン 暁の冒険譚 〜光の書を求めて〜

    第八話 赤き山の秘密 スカーレット山脈の奥へと進むにつれ、道は次第に険しさを増していった。岩は鋭く尖り、足を踏み外せば谷底へ真っ逆さまだ。 「ここ、本当に道なの?」 リナが足元を見ながら不安げに呟く。 「どうやら、昔は鉱山として使われていたみたいだな。あちこちに掘削の跡がある」 レオンが周囲を見渡しながら言った。確かに、風化した木製の橋や、崩れかけた坑道の入り口が点在している。 …

  • 第七話 謎多き戦士レオン 暁の冒険譚 〜光の書を求めて〜

    第七話 謎多き戦士レオン 赤く染まるスカーレット山脈の岩場で、アレンたちは新たな人物と対峙していた。 「俺はレオン。お前たちと同じく、《光の書》を探す者だ」 黒いマントを纏った戦士は、落ち着いた声でそう名乗った。しかし、その鋭い眼差しには、ただの旅人ではない何かを秘めているように見えた。 「光の書を探している……?」 アレンが警戒しながら剣を握ると、レオンはふっと笑った。 「そ…

  • 第六話 スカーレット山脈の罠 暁の冒険譚 〜光の書を求めて〜

    第六話 スカーレット山脈の罠 スカーレット山脈が視界に入ったのは、出発から二日後のことだった。赤みを帯びた岩肌が朝日に照らされ、不気味なほどの存在感を放っている。 「まるで血の色みたいね……」 リナがつぶやく。確かに、山の色は異様だった。かつてここで戦があったことから、山が血を吸い、この色に染まったという伝説もある。 「迷っている暇はない。早く《光の書》の手がかりを見つけよう」 …

  • 第五話 黒蛇との激突 暁の冒険譚 〜光の書を求めて〜

    第五話 黒蛇との激突 風が静かに木々を揺らす。緊迫した空気の中、黒蛇の盗賊たちがアレンたちを取り囲んだ。 「逃げ場はないぞ」 黒ずくめの男が嘲笑を浮かべながら短剣を構える。周囲に控える仲間たちもそれぞれ武器を手にし、じりじりと間合いを詰めてくる。 「そう思っているのはお前たちだけだ!」 アレンは地面を蹴り、一気に前へと踏み込んだ。剣を振るうと、男は俊敏にかわしながら短剣で反撃して…

  • 第四話 追跡者の正体 暁の冒険譚 〜光の書を求めて〜

    第四話 追跡者の正体 アレンたちは夜明けとともに宿を出た。昨夜の襲撃者がまだ町に潜んでいる可能性がある以上、ここに長居はできない。 「どこへ向かう?」 ゴードンが地図を広げながら尋ねた。 「手記の最後のページに、"赤き山脈の影に眠る" って書かれていた。おそらく《スカーレット山脈》のことだと思う」 アレンの言葉に、リナが不安げに眉をひそめた。 「でも、スカーレット山脈って、盗賊団…

  • 第三話 盗賊の影 暁の冒険譚 〜光の書を求めて〜

    第三話 盗賊の影 迷いの森を抜けたアレンたちは、小さな町《ブレイズ》へとたどり着いた。夕陽が町を朱色に染め、石畳の道には行き交う人々の活気が満ちている。 「やっと休める……」 リナがほっとしたように息をついた。旅を始めてから、まともな宿に泊まるのは初めてだ。 「まずは宿を確保しよう。それから飯だ!」 ゴードンが豪快に笑いながら、町の宿屋へと足を向けた。アレンとリナもそれに続く。 …

  • 第二話 試練の森 暁の冒険譚 〜光の書を求めて〜

    第二話 試練の森 村を出て三日目の朝、アレンたちは深い森の入り口に立っていた。 「ここを抜ければ、隣町に着くはずだ」 アレンが地図を広げて確認する。だが、その地図には注意書きがあった。 『迷いの森――訪れし者の覚悟を試す』 「なんか、不吉ね……」 リナが不安げに呟く。確かに森の中は、陽が差し込まないほどの木々に覆われ、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。 「大丈夫だ。怖いなら俺…

  • 第一話 旅立ちの朝 暁の冒険譚 〜光の書を求めて〜

    第一話 旅立ちの朝 東の空が白み始める頃、アレンは丘の上に立っていた。遠くに広がる森と、その向こうにそびえる山々。その先に何が待っているのかは分からない。だが、胸の奥に渦巻く熱い想いが、彼を突き動かしていた。 「本当に行くんだな」 振り向くと、幼馴染のリナが心配そうにこちらを見つめていた。 「ああ。父さんの残した《光の書》を探しに」 アレンの父は、かつて偉大な探検家だった。しかし…

  • 第2話 春風の便り

    第2話 「春風の便り」 翌日、私はいつものように公園へ足を運んだ。しかし、ベンチには老人の姿がなかった。 「あれ……?」 少しの違和感を覚えながらも、私はベンチに腰を下ろした。春の風が吹き抜け、昨日と変わらぬ公園の風景が広がる。しかし、老人の不在がその風景にぽっかりとした空白を生んでいた。 「おじいさん、今日は来ていないのかな」 呟くと、その瞬間、背後から声がした。 「やあ、待たせた…

  • 第一話 「いつものベンチ」

    小説タイトル『ベンチのぬくもり』 第一話 「いつものベンチ」 公園の奥にある古びたベンチに、毎日座っている老人がいる。白髪をきちんと撫でつけ、背筋を伸ばして座る姿は、まるで時間が止まったかのように静かだった。 「こんにちは、おじいさん」 私がそう声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げ、目尻にしわを寄せて微笑んだ。 「やあ、今日もいい天気だね」 春の風が柔らかく頬を撫でる。私は老人の隣に…

  • 10話 届く、未来のその場所で

    君に届く、その瞬間まで 10話: 届く、未来のその場所で 冬の気配が近づき、街の空気が少しずつ冷たくなっていた。 涼介と麻子が出会った駅のホームにも、厚手のコートを着た人々が足早に行き交っている。 あの日、雨の中で偶然見つけた彼女の姿が、今でもはっきりと脳裏に焼き付いていた。 あの時は、こんなふうに彼女と未来を語れる日が来るなんて、想像もしていなかった。 「ねえ、工藤さん。」 ホームのベンチ…

  • 第9話 真実の向こう側

    君に届く、その瞬間まで 9話: 真実の向こう側 麻子が涙を流したあの夜、涼介はそっと彼女の手を握り続けた。彼女の心に少しでも寄り添えるよう、言葉を選ばず、ただ静かにそこにいることを選んだ。 「工藤さん、私…。」 涙を拭いながら、麻子は途切れ途切れに話し始めた。 「彼を失ったとき、本当に何もかもが崩れてしまったんです。自分が悪いんじゃないか、私のせいで彼がいなくなったんじゃないかって、ずっと思っ…

  • 第8話 君の声が聞こえない

    君に届く、その瞬間まで 8話: 君の声が聞こえない 涼介は、これまでになく落ち着かない気持ちでスマートフォンを見つめていた。 昨日の夜、麻子と別れた後、彼女に「今日は楽しかった。ありがとう」とメッセージを送った。けれど、既読がつかないまま、夜が明けた。 朝になり、もう一度メッセージを送ったが、それも変わらず未読のままだった。 「何かあったのか…?」 彼女が返事をしないことが気になって仕方がなか…

  • 第7話 手のひらに残った温度

    君に届く、その瞬間まで 7話: 手のひらに残った温度 それから数週間、涼介と麻子は頻繁に連絡を取り合い、時折会ってはささやかな時間を共有するようになった。涼介にとって、麻子と過ごす時間はかけがえのないものだった。彼女が見せる小さな笑顔や、少しずつ心を開いてくれる姿を見るたびに、彼の想いは確かなものになっていった。 その日、涼介は麻子を誘い、紅葉が見頃の郊外の庭園を訪れることにした。秋風が心地よく…

  • 第6話 交差する想い

    君に届く、その瞬間まで 6話: 交差する想い 涼介と麻子の関係は、少しずつだが確かな形を帯び始めていた。連絡を取り合い、時間を共有するうちに、涼介は麻子の無防備な笑顔や控えめな優しさに魅了されるようになっていた。けれど、彼女の中に根付く悲しみの影を払拭するには至っていない。 ある土曜日の午後、涼介は麻子を誘い、彼女の好きだと言っていた静かな公園を訪れた。木々が並ぶ広場のベンチに座り、温かい飲み物…

  • 第5話 君の知らない僕

    君に届く、その瞬間まで 5話: 君の知らない僕 麻子から手渡されたメモを握りしめ、涼介は家に帰ると早速スマートフォンにその番号を登録した。「田辺麻子」という名前を入力しながら、彼女との会話を思い返していた。 「彼女には何か秘密がある。」 そう思わずにはいられない。彼女の寂しげな瞳の奥には、過去の影のようなものが潜んでいる気がした。涼介はそんな彼女をもっと知りたいと思う一方で、踏み込むことへの迷い…

  • 第4話 「消えたメッセージ」

    君に届く、その瞬間まで 第4話 「消えたメッセージ」 涼介は次の日も駅へ向かった。あのカフェでの麻子との時間が頭から離れない。彼女の何気ない仕草、柔らかな笑顔、その奥に隠された寂しげな影。それら全てが彼を引きつけ、再び彼女に会いたいという気持ちを強くしていた。 ホームに立ちながら、涼介は周囲を見渡した。けれど、昨日と同じ時間、同じ場所に麻子の姿はなかった。時計を何度か見ながらしばらく待ったが、…

  • 第3話 「名前のない関係」

    君に届く、その瞬間まで 第3話 「名前のない関係」 翌日、涼介は定時で仕事を終えると、真っ直ぐあの駅へ向かった。昨日の出来事を思い出しながらホームに立つ。麻子は現れるだろうか。そんな期待と不安が胸をよぎる。 電車が到着し、乗客がぞろぞろと降りてくる。涼介はその流れの中に麻子を探したが、彼女の姿はなかった。肩を落としてホームを後にしようとしたその時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。 「また…

  • 第2話 再会は突然に

    君に届く、その瞬間まで 第二話 「再会は突然に」 次の日、涼介はいつもより早く仕事を切り上げて、あの駅へと向かった。昨日と同じ時間、同じ場所。雨はやんでいたが、空はどんよりと曇り、どこか昨日の続きのような空気が漂っている。 「本当に来るのか…。」 改札を抜けながら、涼介は自分に言い聞かせるように呟いた。再び会える保証はどこにもない。もしかしたら昨日のあの光景自体が、ただの偶然だったのかもしれ…

  • 第1話 あの日、駅で見つけた人

    君に届く、その瞬間まで 第1話: 「あの日、駅で見つけた人」 雨音が駅の屋根を打つ。夕方のラッシュアワーを前に、傘を差した人々が列を成して電車を待っていた。無数の傘の下、涼介はぼんやりとスマートフォンを見ていたが、特に気になることもなく画面を閉じた。 その時、ふと目を上げると、視界の隅に一人の女性が映った。彼女は人混みから少し離れた場所で、傘も差さずに雨の向こうをじっと見つめている。長い髪…

  • 最終話 未来への選択

    テイラーと冬の謎箱 – 最終日 静まり返る地下室で、テイラーとリディアは改めて巻物を開き、そこに記された最後のメッセージを読み返していた。 「選択が街の未来を決める。守る者は真実を背負い、滅ぼす者は全てを忘れる。」 「どういう意味なの?」 リディアが焦りを隠せずに呟く。彼女の手は巻物を持つ間も微かに震えていた。 「おそらく、この球体が鍵だ。」 テイラーは手の中で光を放つ球体を見つめながら続…

  • 第9話 守護者の決断

    テイラーと冬の謎箱 – 第九日目 「逃げ道はないぞ。」 細身の男が冷たく笑いながら歩み寄ってきた。背後には、ずんぐりとした男が拳を鳴らしながら立ちはだかっている。狭い円形の部屋は、敵を迎え撃つ以外の選択肢を消し去っていた。 「ここで終わりだなんて冗談じゃない。」 テイラーは球体を手にし、リディアに向かって低く言った。 「時間を稼ぐ。装置の仕掛けを探してくれ。」 リディアは一瞬迷ったが、すぐに…

  • 第8話 テイラーと冬の謎箱

    テイラーと冬の謎箱 – 第八日目 巻物の言葉は、テイラーとリディアに重くのしかかった。「守るか滅ぼすか」。その意味を考えるほど、選択の重さが増していく。 「どういうことなの…?」 リディアが巻物を見つめながら呟く。古びた文字は時間の経過を感じさせるが、内容はまるで今の状況に直接訴えかけているかのようだった。 「まだ全貌はわからない。でも、この街に関わる重大な秘密が隠されているのは確かだ。」 …

  • 第7話 時間を動かす者

    冷たい夜風の中、テイラーとリディアは街外れの小さな教会にたどり着いた。エヴァンスの骨董屋を飛び出してから何時間が経ったのか、時間の感覚すら曖昧だった。 「ここなら、少しは安全かもしれない。」 リディアが教会の扉を押し開けると、中は静まり返り、ほのかな蝋燭の香りが漂っていた。祭壇の前には古びた木製の椅子が並び、窓から月明かりが薄く差し込んでいる。 「誰もいないみたいだな。」 テイラーはポケット…

  • 第6話 テイラーと冬の謎箱

    テイラーと冬の謎箱 – 第六日目 青白い光を放つ球体は、まるで生き物のように静かに輝いていた。その不思議な光に、テイラーもリディアも言葉を失っていた。だが、次の瞬間、店内に響く荒々しい声が二人を現実に引き戻した。 「出てこい!その箱を渡せ!」 屋敷で出会った二人組の男たちが、骨董屋の入り口で怒鳴り声を上げている。その声には、焦りと苛立ちが混じっていた。 「どうする?ここに留まるのは危険よ。」…

  • 第5話 テイラーと冬の謎箱

    テイラーと冬の謎箱 – 第五日目 骨董屋に戻ったのは夜遅くのことだった。冬の寒さが肌に染みるなか、エヴァンスの店の小さな看板だけが明かりを放っている。扉を開けると、エヴァンスがカウンター越しに顔を上げ、目を見開いた。 「無事だったか!随分遅かったじゃないか。」 テイラーは返事をする代わりに、腕に抱えていた木箱をカウンターに置いた。埃だらけのそれを見て、エヴァンスは深く息を吸い込む。 「これが…

  • 第4話 テイラーと冬の謎箱

    テイラーと冬の謎箱 – 第四日目 テイラーとリディアは、暗闇の中で息を潜めていた。廊下からは複数の足音と低い話し声が近づいてくる。 「箱がどこかにあるはずだ。しっかり探せ。」 「風車の印だ。間違いない。」 声の主は二人いるようだ。一人は低く太い声で、もう一人は冷たい響きを持つ鋭い声だった。テイラーはリディアの方に視線を送ると、彼女は軽くうなずき、緊張を隠せない様子でじっと動かなかった。 ド…

  • 第3話 テイラーと冬の謎箱

    テイラーと冬の謎箱 – 第三日目 テイラーは息を殺しながら影の動きを見つめていた。部屋の入り口に現れたのは、思いがけず若い女性だった。彼女は少し乱れた髪を帽子の下に隠し、厚手のコートを身にまとっている。手には懐中電灯を持ち、慎重に部屋を照らしている。その表情には警戒心と焦りが入り混じっていた。 「誰かいるの?」 彼女が低い声で問いかける。テイラーは一瞬迷ったが、ここで隠れ続けても怪しまれるだけ…

  • 第2話 テイラーと冬の謎箱

    テイラーと冬の謎箱 – 第二日目 テイラーは、エヴァンスから渡された写真をポケットにしまいながら、骨董屋の小さなカウンターを後にした。冬の冷たい風が顔に当たり、ふと現実に引き戻される。この街に来て、こんなに早く冒険じみた出来事に巻き込まれるとは思わなかった。 写真に写る屋敷を探すのは案外簡単だった。エヴァンスが「ここから南に10分ほど歩いたところだ」と地図を描いてくれたおかげで、昼過ぎには目的地…

  • 第一話 テイラーの不思議な依頼

    テイラーの不思議な依頼 – 第一日目 「この街に来てよかったと思う?」 カフェの窓際、曇ったガラス越しに見えるのは静かに流れる小川と、冬の寒さをしのぐためにコートをぎゅっと抱きしめて歩く人々の姿。テイラーは目の前のコーヒーに視線を落としたまま、少し考えてから答えた。 「うん、悪くないね。」 短く言って、軽く微笑む。彼の隣に座る中年の男性は、その答えに満足したのか、ふっと息をついた。その名はエヴ…

  • 最終話 心の扉

    十日目:心の扉 ついに、最後の日が来た。手の中には古びた鍵と、もう一つの巻物が握られている。「最後の扉は、心の奥底にある」――巻物に書かれたこの言葉が、何を意味しているのか一晩中考えていた。 鍵は物理的な扉を開けるためのものではないのかもしれない。これまでの出来事すべてが、俺自身の内面と繋がっているように感じた。謎が外にあるのではなく、俺の心の奥底に隠された何かを見つけることが重要なのだ。 …

  • 第9話 過去の影

    九日目:過去の影 昨日の夜、解き明かされた「扉」という言葉が、頭から離れない。そして「過去に繋がる」というメッセージ。俺は、自分の過去に何か重要な手がかりが隠されているのではないかという考えに取り憑かれていた。 朝になり、俺は自分の子供時代のアルバムや古い日記を引っ張り出してきた。これまで、特に気に留めることのなかった記憶が、今になって重要に思えてくる。あの巻物と「扉」という言葉が、どんな過…

  • 第8話 暗号の解読

    八日目:暗号の解読 夜が深まり、部屋は静寂に包まれていた。巻物に刻まれた「蛇の目」の印と、謎めいた文字の列。頭の中でいくつものパターンや解釈が浮かんでは消えていく。俺は何かを見逃している。これまでの出来事すべてが、この暗号に繋がっているように感じた。 集中力を高めるため、コーヒーを淹れ、机の上に広げた巻物を再び見つめた。何時間も暗号を解こうと試みていたが、まだ明確な手がかりを掴めていない。だ…

  • 第7話 巻物の真実

    七日目:巻物の真実 朝が来た。昨夜の出来事が、まるで夢だったかのような感覚がある。あの黒いジャケットの男、月明かり、そして手に残ったこの巻物。けれど、目の前にある古い巻物が、それが現実だったことを証明していた。 ベッドの上に座り込み、巻物をじっくりと眺める。薄茶色の紙には、手書きで書かれた不思議な文字がびっしりと並んでいる。その文字は、どこかで見たことがあるような気もするが、意味はまったく理…

  • 第6話 月明かりの影

    六日目:月明かりの影 夜が訪れた。予告されていたように、月が空高く昇っていく。さっきまで不安と期待が入り混じっていたが、今は不思議な静けさが心を包んでいる。スマホに届いた「今夜、月が昇る頃、箱を開ける方法が見つかるだろう」というメッセージが、頭の中で何度も繰り返される。 向かいの家の窓に視線を向けると、そこには先ほど見たオブジェがまだ置かれている。月明かりがそのオブジェに当たり、まるでそれ自…

  • 第5話 見えない繋がり

    五日目:見えない繋がり 朝が来た。けれど、昨日の夢とメッセージのせいで、どこか現実感が薄れているような気がする。目覚めても、まだあの「扉」のイメージが頭から離れない。箱を抱えて過ごした昨日は、まるで自分が何か大きな流れに巻き込まれているかのようだった。 コーヒーを入れてベランダに出ると、爽やかな風が吹き込んできた。しばらくぼんやり空を見上げながら、これまでの出来事を思い返していた。 その時…

  • 第四話 夢の中の声

    昨夜は、木箱のことが頭から離れず、ほとんど眠れなかった。眠ろうとしても、目を閉じると不気味な箱の模様が浮かんでくる。鍵は「君の中にある」というメッセージも、ますます不可解で不気味だ。 いつの間にか深い眠りに落ちたのか、奇妙な夢を見た。夢の中で、俺は真っ暗な部屋に立っていた。足元は冷たく、視界はほとんど何も見えない。しかし、遠くの方から何かが聞こえてくる。それは…声だった。 「君はすでに知って…

  • 第三話 鍵のかかった箱

    あの日のカフェの出来事が頭から離れないまま、今日は朝からぼんやりしていた。自分の生活は何も変わらないはずなのに、どこか現実感が薄れているような感覚だ。昨日の「君は今、気づき始めている」というメッセージ。黒いジャケットの男が突然消えた謎。そして、メモに書かれていた「目の前にあるもの」という言葉。 昼過ぎに家に戻ったとき、ふと思いついた。「目の前にあるもの…」もしかして、家の中にヒントが隠されてい…

  • 第二話 カフェの不思議な客

    今日は、いつものカフェに来た。ここは静かで落ち着ける場所。窓際の席に座って、いつも通りアイスコーヒーを注文し、頭を冷やそうとした。昨日のメモのことが気になりながらも、現実離れしていると自分に言い聞かせる。 だけど、何かが違った。今日のカフェは、いつもとは少し雰囲気が違う気がする。店内は普段通り静かで、常連客が本を読んでいたり、ノートパソコンを叩いていたり。けれど、窓際の反対側に一人、見慣れない…

  • 第一話 謎のメモ

    朝、目が覚めると何かが変だった。まず、昨日寝る前に置いたはずのメガネがない。しかも、枕元に置いてあったはずのスマホが、なぜか部屋の隅に転がっている。そんな中、ふとベッドサイドに置いてあるメモ帳が目に入った。 「君の目の前にあるものは、まだ気づかれていない。」 寝ぼけた頭の中に、この意味不明なメッセージが響いた。いつ書いた?しかも、この字は確実に自分のものじゃない。 まさか、夢の中で書いた……

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