「あの、すみません。駅の入り口はどちらでしょうか?」もうそこは駅を構成するビル群の一つなのだが肝心の改札が分からない。ビルは出来たてでその周りには幾つもの真新しい高層ビルと大型クレーンが空に向かって伸びていくのだ。これから仙台に帰るので東京駅に行きたい。しかし肝心の駅が分からない。大きな荷物を降ろして彼女は空を見上げていた。 僕も教えたい。しかし困ったことに肝心の自分もここが何処なのかが分からないのだった。こんなビルはあの頃にはなかった。この辺りは雑居ビルの並ぶやや疲れた路地裏だったのに。ぐるりと回廊を歩いて改札前に出た。そこまで彼女を送リ、僕は首都高速のガード下に出てようやく肩を降ろした。金…