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「傾国のラヴァーズ」 https://blog.goo.ne.jp/saeki123

ボディーガードの翔真は、訳あり過ぎる美青年社長・聖名(せな)の警護をすることになるが… (1行更新?の日もあるかも…😅)

愛田莉久
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2022/11/19

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  • ◆小説「傾国のラヴァーズ」76・聖名との夜

    心臓がドクドクいっているのは自分でもわかったが、本当にどうしたものか…沈黙に耐えられず俺の方から、「…聖名…」「…うん…」聖名の方もかなり緊張しているようで、俺は逆に安心した。そして、(プラトニックなタイプなのかな?)なんて思った。すると、聖名が頬にキス…なぜ唇にしてくれないんだろう…なんてそんなことを少し思ったりして…すると、「ごめん緊張しちゃって…」そう言ってしがみついてきた。(もしかして本当は聖名も男は初めてで困っているんだろうか…)そこから先は何事もなく…でも緊張はしているし、それで疲れているしで眠れず…聖名も眠れはしないらしく、俺もその気配のため眠れなかった。それでも少しは眠ったようで、次の朝目覚めるといつもより少し遅い時間だった。◆小説「傾国のラヴァーズ」76・聖名との夜

  • ■小説「傾国のラヴァーズ」75・聖名とドキドキ

    俺が着替え終わるとすぐに聖名は部屋に飛び込んできた。そして後ろからしがみついてきて俺の肩に頬をのせた。「本当に翔馬のベッドに泊まって行っていい?本当に何もしないから」はしゃぐ聖名に、俺はありがたさを感じた俺はうまい言葉も出てきはしない「あ…うん泊まっていってよ」何しろ俺はどうしていいのかわからないから。まあ少しは聖名何かして欲しい気もしてきていたのだが。ベッドでは聖名を壁側に寝かせた。もう聖名の方も緊張した表情でうつむいている俺もずっと心臓がドキドキしっぱなしだでも聖名は無言…俺も無言…これは俺の方から何かすべきなんだろうか。でも俺は普通の男女の恋愛ドラマや映画みたいなものしか見たことがない。やっぱり男同士ってあんなこととかするんだろうかただ聞いたことはあるが、男同士ってあんなこととかするんだろうか。いや...■小説「傾国のラヴァーズ」75・聖名とドキドキ

  • ●小説「傾国のラヴァーズ」74・聖名からのキス

    俺が落ちるのも目前だったが、どうしてその時俺は他の人の存在を尋ねなかったのだろう。ドキドキしていた俺は、疑いもしなかったということなのだろう。聖名には芝居がかったところなんて微塵もなかった。俺を丸め込むための演技とは思えなかった。「聖名…」俺が名前を呼んだことで聖名の中の恐れは少しなくなったらしい。その様子を見て俺はまたセナを抱きしめてしまった。「あ、翔真…」聖名の声は嬉しそうだった。そして…聖名の顔が近づいてくると、俺は頬に柔らかいものを感じてびっくりした。聖名からのキス…俺は驚きのあまり、聖名をまた優しく抱きしめることしかできなかった。2人で無言のまましばらく抱き合っていた。経験のない俺には、どうすることもできない。俺が密かに困っていると、聖名はそっと俺から体を離し、照れながら元気に、「翔真、着替え手...●小説「傾国のラヴァーズ」74・聖名からのキス

  • ★「傾国のラヴァーズ」73・すがりつく聖名

    そこで聖名は彼らしくもなくため息をつくと、「…オレは、大好きな人と暮らすのが夢だった。こんなオレだから一生できないと思っていた。だからこうして翔真と暮らせて嬉しかった。翔真に名前で呼ばれて本当に嬉しかった。さっきから翔真って呼べて嬉しい」聖名は笑みを作ろうとして失敗している。「何でもいいから翔真、ここにいてほしい。今まで通りでいい。何もしなくていいから」何にもって…「翔真…」そう言って、またすがりついてくる聖名が愛おしかった。俺が落ちるのも目前だった…が…★「傾国のラヴァーズ」73・すがりつく聖名

  • ◆小説「傾国のラヴァーズ」72・聖名の叫び

    恋愛経験のない俺は、どぎまぎするばかりだった。「聖名、俺のことを好きになってくれてありがとう。俺、納得して仕事をやめられる気がする」すると聖名は不満げな表情になり、「何も終わってないだろ!仕事も、オレとのことも!綺麗事ばっかり並べて!何だよ、勝手にオレの前に現れて、仕事上とはいっても、凄く優しくしてくれて…」◆小説「傾国のラヴァーズ」72・聖名の叫び

  • ■小説「傾国のラヴァーズ」71・聖名の告白

    そして、「翔真、行かないでほしい…せめてあと2週間とちょっと、契約満了までここに住んでもらえないかなぁ。オレ、何もしないから」「えっ?」まず、名前で呼ばれたことに驚いたが…「翔真にはオレ、ひとめ惚れだったんだ。ごめん、オレ、男の人も好きになるタイプだって隠してて」俺は固まってしまった。どうしよう…そう思いながらも、俺は聖名の背中に手をまわして抱き締めていた。気がつけば頬を寄せていた。聖名の気持ちに寄り添いたかった。聖名の体がびくっと揺れた。「えっ?」聖名はびっくりした表情で俺の顔を見た。■小説「傾国のラヴァーズ」71・聖名の告白

  • ●小説「傾国のラヴァーズ」70・聖名の涙

    思えば、彼からはひと言もきちんとした謝罪の言葉もない。軽く謝られただけだ。俺を引き留めるのが形式上ということなのだろう。よくある話だ。それにしても、俺はどうしてらしくもなくこんなに怒っているのだろう。クライアントにこんなことを言い出すなんて。それだけ聖名を…想う気持ちがあったということなのだろう。そう思い至って恥ずかしくなり…その後、気づいた。聖名が、うちの会社との取引をやめると言い出したらどうするのか…聖名がぼうっとしている間に、後任を部長に決めてもらうしかない。俺はもうこの部屋に泊めてもらうのは嫌だった。でも聖名の警護がいない時間を作りたくなかった。「すみません、会社に電話して、すぐに後任を…」すると聖名は口元を引き結び、目から涙をこぼしながら俺に近づいてきた。そして俺の真ん前に立ってためらうように見...●小説「傾国のラヴァーズ」70・聖名の涙

  • ★小説「傾国のラヴァーズ」69・立ち尽くす聖名

    意外な答えに俺は驚いたが、「ありがとうございます。でも、その必要には及びません。もともとこちらでの仕事が終わったら退職して、違う仕事を探すつもりでした」「えっ、どうして…?」俺は一瞬返事に困ったが、「自分には向いてませんでした。疲れました。人の不幸に寄り添うことに。要人につくSPのように銃が持てるわけでもなく、権限があるわけでもない。もどかしいものを感じていて、それが今夜のことで抑えられなくなったのかなと思います」どうしてか、すらすらと出た。聖名はぼう然と立ち尽くしていた。★小説「傾国のラヴァーズ」69・立ち尽くす聖名

  • 小説「傾国のラヴァーズ」68・聖名のとまどい

    ではなぜ?と言いたかったが、俺はこの真面目な男が自由にデートでも楽しみたかったのではないかと思い始め、痛々しくも思った。そして、それにショックを覚えて、そんな自分に驚いて。それでも、「でも、私には社長の警護は務まらないようです。会社にこのことを報告して、ベテランのボディーガードと交代します」すると聖名は顔を上げ、毅然と、「嫌だ」と言い切った。しかし、すぐに焦ったように、「そ、その、センパイのキャリアに傷つけたないから…」小説「傾国のラヴァーズ」68・聖名のとまどい

  • ■小説「傾国のラヴァーズ」67・うつむく聖名

    もう俺は咎めなかった。どうせ俺の言うことは決まっていたし聖名の答えも想像がついていたからだ。聖名はなかなか浴室から出てこなかった。そのうち洗面所からドライヤーの音が聞こえてきた。髪が長いので彼のドライヤーの時間は長い。仕事が多い時は生乾きのままパソコンに向かうと、いつだったか聖名は笑いながら言っていた。しかし今日は随分と長く感じられた。まあ、きっとしっかり乾かしているのだろう。ようやく部屋着の聖名で出てくると、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを2本出して、1本を俺の前に置いてすすめると自分も一口飲んでいた。俺は飲む気がしなかった。沈黙の後、聖名は諦めたように俺に尋ねてきた。「それで話というのは?」「社長、さっきのように私に黙ってどこかに行かれるのは困ります。私に不満があるというなら私に直接もしくは会社...■小説「傾国のラヴァーズ」67・うつむく聖名

  • ●小説「傾国のラヴァーズ」その66・聖名ではなく…

    家に着いても、俺はス一ツのままでいた。聖名、ではなく、鈴崎社長にしっかり話をしたいと思ったからだ。聖名のスマホの電源は入らない。結局、言っていた通り、二時間ほどして聖名は帰ってきた。「ただいまー…」玄関のドアが開き、聖名の声がした。意外にも聖名はしらふだった。「ごめんね。断れなくて…あれ?着替えないの?」声は軽かったが、聖名は顔色が悪かった。しかし、俺は立ち上がり、「鈴崎社長、お話しがあります」すると聖名は驚いたように、「ちょっとごめんね。シャワー浴びてから聞かせて」何とも軽い言い方に、俺はますます怒りを覚えてしまった。ふっ、と聖名のものではないような香りがした。それにも俺はどうしてか怒りを覚え、固まった一瞬の隙に、聖名は着替えに自分の部屋に向かってしまい、更には俺の方を見ず、さっさと浴室に向かってしまっ●小説「傾国のラヴァーズ」その66・聖名ではなく…

  • ★小説「傾国のラヴァーズ」その65・好きにすればいい

    さっきのFAXは、敵対している人間からの怪文書と、聖名にはわかっていたのだろう。(でも、そんな状況なのに、こうやってボディーガードを振り切って出ていくなんて…俺は敵の目くらましにしか過ぎなかったのか…)しかし、聖名の、FAXの件の時の必死さは嘘ではなかったと思うのだ。(せめてこういう予定だとあらかじめ…)いや、言えないからこうなったのだろう。もう、好きにすればいい。そんな気持ちになった。もう、ボディーガードとしてではなく、友だちとしてというか、「センパイ」として怒っていたのだと思う。(もう俺はやめるんだし、何よりこんなことを思うようになったらプロじゃない)俺は聖名の部屋に戻って、彼を待つことにした。★小説「傾国のラヴァーズ」その65・好きにすればいい

  • ◆小説「傾国のラヴァーズ」その64・行方不明の聖名

    とにかく聖名を追わなければと、スマホでGPSをチェックしようとするが、その時、聖名からLINEが来た。ー3時間後ぐらいに帰ります。(何だよそれ!どこにいるんだ!)GPSを確かめようとしても、スマホの電源はもう切られていた。(何のために俺は…)なぜか強く、裏切られた、という気持ちになった。聖名は一体どこへ…あの一団それにしてもこんなことをして、危ないとは思わないのか?電話にさえ、FAXにさえおびえていたお前が、一体何をしているんだ?ここと同じぐらいのグレードのホテルで2次会、ということがあっても、そこまで聖名に声がかかるとは思えない。出席者だって多そうだ。どういう相手と一緒にいるのかわからないので、店の見当もつかない。何より聖名には行きつけの店のようなものはないと聞いていた。家でも仕事が多く、たまに高橋さん...◆小説「傾国のラヴァーズ」その64・行方不明の聖名

  • ■小説「傾国のラヴァーズ」その63・聖名は知らんぷり

    聖名が男性であるのを幸いに、俺はこの警護期間が終わるまで自分の気持ちを隠し通すことに決めた。聖名だってボディーガードに想われているなんて嫌だろう。まあ、俺には襲われてもいいなんて冗談を言ってはいたけれど。でも、対象に恋愛感情を持ってしまったら、ボディーガードとして失格だ。その時、エレベーターから黒スーツのSPが多数降りてきて、俺は慌てて立ち上がった。SPに守られる人々が通り過ぎていくが、聖名はなかなか現れない。それどころか、やっと現れたと思ったら、SPや他のボディーガードに囲まれて、誰かと談笑しながら、俺のことなど忘れたように、出口へと歩いて行ってしまった。SP達が立ちはだかって、俺は聖名に近づくことができなかった。■小説「傾国のラヴァーズ」その63・聖名は知らんぷり

  • ●小説「傾国のラヴァーズ」その62・聖名と離れて

    しかし、いざ会場に行ってみると、聖名も俺も驚くほど客の数は多かった。その中には、かなりのお偉いさんもいるようで、ひと目でSPとわかる人間が多く、許可証がない俺や他の一般のボディーガードはそのスペースから追い出されてしまった。俺は危険性も考えて、一階のロビーで待つことにした。そのことを聖名にLINEで送ったが、既読はつかなかった。気づくまで待つことにしたが`、俺は複雑な気持ちで、エレベーターに一番近いソファに座り込んでいた。この仕事は、やめた方がいい気がする。聖名と出会う前から、仕事柄、そう考えることがないではなかったが…もう、俺は引き返せない。この一流ホテルの豪華なロビーで見た、長身の美しい聖名に…仕事とはいえ、聖名を守リ始めたばかりなのに…これまで知らなかった不思議な感情を抱き始めた…認めてはいけないの...●小説「傾国のラヴァーズ」その62・聖名と離れて

  • ★小説「傾国のラヴァーズ」その61・聖名の艶姿?

    聖名の必死な姿に俺は驚きながら、「だから聖名、そのためにそれを貸してくれって」「あ、ああ…」俺は丁寧にその数枚の紙を受け取ったが、立ち上がった聖名は、「その内容、全部ウソだからね!」とし言い放つと、イライラしたように、自分の部屋に入っていった。「わかってるよ!」俺はその背中に叫んだ。見るからに高そうな黒のスーツに、束ねた金髪の聖名は相変わらず美しかったが、会場のホテルに向かう間も聖名は助手席でむすっとしたままだった。本当は俺も宴会場に入りたいのだが、そうもいかず、「社長、では僕はクロークの前で待っています」「うん、わかった」そして、俺が車を停めてドアを開け、ロングコートに身を包んだ長身の聖名が降りると、その若さと美しさに皆がはっとしているのが伝わってきた。★小説「傾国のラヴァーズ」その61・聖名の艶姿?

  • ◆小説「傾国のラヴァーズ」その60・聖名の叫び

    俺の言葉を聞いて俺を見上げた聖名は、言葉をのみ込むようにロを堅く引き結んだ。そこにまたFAXが流れてくる。今度は手書き、それも年配者の筆跡のように見えた。…私の700万円を返して下さい。社長だなんていって、あなたのやっていることは結婚詐欺です…異性関係だけかと思ったら……あなたは北海道の成田後援会スタッフの男の子にみだらな…もう聖名は何も言わない。それにしても、急にFAXが流れてきたのはなぜなのか。聖名が帰ってきたのを見ていたとでもいうのだろうか。「聖名、これ、俺の部屋に保管しておくね」すると聖名は突然叫び始めた。「何のために?オレ、早く捨ててしまいたいんだけど!」「わかるけど、何かの証拠になるかもしれないだろう?」「証拠?何のために?証拠なんて何になるの?そんな、やってる人間もわからないのに…」「何かの...◆小説「傾国のラヴァーズ」その60・聖名の叫び

  • ■小説「傾国のラヴァーズ」その59・聖名の苦悩

    聖名はさっきは学生ノリで元気よく答えていたが、それは俺の目にはどうしてか不自然に見えていた。ウェーブのかかった長い金髪を後ろでひとつにまとめた髪型は俺も気に入っていて…俺は目のやり場に困っている。もう自分がどうにかしているのは明らかだった。助手席の聖名は、車の中ではニコニコしていていい雰囲気だったが、部屋に帰ってFAXの音が流れていたのがいけなかった。聖名は、それらのFAXに目を通すと、がっくりと座り込んでしまった。聖名を促したが、なかなか渡してくれなかった。受け取った紙の内容を見ると、それはもうひどいものだった。…ファーストレディにしてやると言って、うちの娘に近づき、三股で弄ばれた。それで娘は妊娠した…俺は怒りを覚えた。「ひどいな、これ…」■小説「傾国のラヴァーズ」その59・聖名の苦悩

  • 【お詫び】小説超超不定期アップになります🙇

    …すみません、家庭の事情で、ちょっと休んでましたが、しばらくおさまりそうにありませんので…入院とか嫌ですねえ😱でも、少しずつ時間を見つけて、小説は進めていこうと思っております。よろしくお願い致します。【お詫び】小説超超不定期アップになります🙇

  • ●小説「傾国のラヴァーズ」その58・聖名の一張羅

    「社長にききましたが、矢野会長が来るそうですね」高橋さんも何か困っているようだったので、「何かありましたか?」「いえ、ここのところ、社長の体調が悪いので…本人は疲れと矢野会長のせいだというんですが…それだけなのかな、と。海原さんには心あたりはないですか?」そして、「私の知っている社長は、ずっと体はものすごく丈夫だったんですよ俺は何だかがっかりして、「そうですか。俺が考えつくのは2人暮らしに疲れたのかなということぐらいですが」「本当にそれだけですか?」「それだけです。では逆に高橋さんは他に何を?」「いや怪文書とか脅迫電話とか2人で隠していませんか?」「絶対にそれはありません」「何でしたら聖名、い、いや、社長に聞いてみてはどうでしょうか」…高橋さんに、2人の「友達ぐらし」が決定的にバレた気がする…マズいな…し...●小説「傾国のラヴァーズ」その58・聖名の一張羅

  • ★小説「傾国のラヴァーズ」その57・軽い風邪

    聖名の体調は、結局次の日の土曜になっても直らなかったが、幸いにも、というべきか、相手の都合で商談は流れ、しかし月曜になった商談は金額が折り合わず、保留になってしまった。聖名は会社に戻って作戦のすり合わせを部下とすることにしたらしい。しかし、聖名は高橋さんにきつく言われて、その日の午後は休み行きつけの内科に行くことになってしまった。もちろん俺は付き添って行った。先生の見立てでは、疲れと軽い風邪とのことで、薬を出してもらってそのまま聖名は自宅に帰った。その次の日には…聖名が席を外している間に、高橋さんに…★小説「傾国のラヴァーズ」その57・軽い風邪

  • ◆小説「傾国のラヴァーズ」その56・聖名の体温、聖名の匂い

    さらにはこの人が世襲議員ということがわかって、ますますがっかりしてしまった。それもよく読むと三代目だという。初代である彼の祖父は自憲党を与党にするために先頭に立ったが、実現直前で病に倒れた。そうでなければ初代総裁、総理大臣になれたはずという。そして2代目である父は政局の混乱のため2度目の総裁選を辞退するはめになり…それでこの伸一郎という人が、今度こそと周囲の期待を背負っているらしい。まあ俺の目には、庶民の暮らしも苦労も知らない坊ちゃん育ちのエリートおじさん。そんな風に見えた。金絡みより女性絡みのスキャンダルに引っかかりそうな脇の甘さがどうしてか感じられた。…まあこんな時代に生きている若者としては、政治家にはいい仕事をしてもらわなければ困るのだ。…聖名のお祖父さんのように。…隣で聖名がもぞもぞと動く。「セン...◆小説「傾国のラヴァーズ」その56・聖名の体温、聖名の匂い

  • ■小説「傾国のラヴァーズ」その55・気になる男

    案の定、聖名はぐったりとソファーにもたれかかって座っていた。「俺がやるから休んでろよ。カフェオレの方がよくないか?」「あ、そうかも。お願いします」カフェオレをひと口飲むと聖名は、「矢野会長がとうとう上京してくるんだって。俺を説得するために」「え?いつ?」俺は覚悟していたはずなのに、言われると驚いた声をあげてしまった。「2週間後…ごめん、詳しいことは後で話すよ」そこまで言うと、すぐに聖名はその場で目をつぶって眠り始めた。俺は聖名の部屋から厚手の毛布を持ってきてかけてやった。一人で寝るのが嫌だったように見えたからだ。それで俺は彼のそばに座っていることにした新聞を広げるのもうるさいだろうと俺は、スマホでニュースをチェックすることにした。色々見ていくうちに、「与党のプリンス」とか「総理大臣候補」と書かれた、どこか...■小説「傾国のラヴァーズ」その55・気になる男

  • ●小説「傾国のラヴァーズ」その54・聖名はフリー?

    「俺がいるからこの1ヶ月は遊びに来ないんだろうなって思ってた」「でもさ、オレに付き合ってる人間がいたら、最初から一緒に先輩に守ってもらうと思わない?」「そういやそうだな」と何気なく返事をしてから、俺ははっとした。「でもびっくりした。聖名がフリーだなんて…」「うーん、大学に入って2年くらいから、起業の準備を始めたら付き合う暇なんてなくなって自然消滅…って、やっぱり縁がないってことだよね」「そうだな…」俺が次の話に困っているとテーブルの上の聖名の携帯が鳴った。「あれ?横浜のおじさんだ。もしもし…」聖名の育ての父の矢野氏なのだろう。聖名は動くのが辛いだろうと、俺はコーヒーカップと携帯を持って自分の部屋へいったん引き上げた。…部屋の中で俺は身構えていた。聖名に用事を言われたらいつも以上に早く動きたかったからだ。そ...●小説「傾国のラヴァーズ」その54・聖名はフリー?

  • ★小説「傾国のラヴァーズ」その53・運命の相手が欲しい

    聖名は、「そうか…運命の出会いか…」と言うとグラノーラを口に運んで黙り込んだ。俺の口は勝手に質問していた「聖名はどうなの?」しまった、と思って俺は慌てて謝った。聖名は前を向いて一瞬困っていたようだったが、「いやセンパイが話してくれたからいいんだけど、そうだな、そう言われれば、告白されたからなんとなく付き合っただけだったな…」そしてうつむくと、「確かに運命の相手は欲しいね」そこで俺はまた何を思ったか「えっ?今いないの?」と尋ねてしまった。「いないよ付き合ってる相手なんて。気がつかなかった?」★小説「傾国のラヴァーズ」その53・運命の相手が欲しい

  • ◆小説「傾国のラヴァーズ」その52・白紙の恋愛経験

    「とにかく大丈夫だよ。俺はやり方知らないから」すると聖名は目を丸くして、それからなぜか気を取り直したように、「それじゃあオレが女の子だったら危なかったの?」そう言いながらも実はグラノーラの方に夢中のようだ。「いやそれも無理。その俺は女の子の扱いも経験ないから分からないし」わざわざ言うのも変なものだが。しかし聖名はびっくりして、「えっ?どういうこと?」さっきも言ったろ俺はそういうの興味ないって「うーん…」聖名は何だか困っていた「それって先輩は全く恋愛に興味ないってこと?それとも運命の出会いみたいなのがあったら付き合いたいってこと?」と言ってから、立ち入ったことを訊いてごめんと真剣に謝ってきた。「いやいいよ。あまり考えたことなかったけどカップルとか見ても他人事なんだよな。こんな俺でも告白されたことは何回かあっ...◆小説「傾国のラヴァーズ」その52・白紙の恋愛経験

  • ■小説「傾国のラヴァーズ」その51・センパイならいいかも

    聖名が無表情なのが怖かった。でも俺はどうにか、「あ、グラノーラな。今用意するよ」すると、聖名はわずかな笑みをたたえて、「先輩も一緒に食べない?朝飯まだでしょ?」聖名の気遣いに甘えて、俺も相伴することになった。しかし、いつもと違い俺の横に聖名は座ったので表情は横からしか見えない。聖名はそのまま正面を向いたままで、「先輩ごめんね。とっさのことで先輩ってわからなくて。わかってたらあんなに騒がなかったんだけど」そして重い口を開き始めた。「…実は大学生の頃襲われかけた経験があって」予想が当たって俺は黙り込むしかなかった。友達の知り合いの家で飲んで、酔ったみんなは潰れた聖名のことを忘れて帰ってしまい、その家の主と二人きりになったところを襲われたという。「まあ、抵抗しきれるかなとは思ったんだけど、友達が偶然忘れ物を取り...■小説「傾国のラヴァーズ」その51・センパイならいいかも

  • ●小説「傾国のラヴァーズ」その50・聖名の部屋にて

    「違うんだその様子を確認しに来ただけで…」聖名はベッドの上ですっかり怯えている。「そんな、変なことしようとしたわけじゃないんだ。俺そういうの興味ないし、男性にも興味ないし…」「…」「ごめん。呼吸しているか、確認していただけなんだ」「はあ?」一瞬2人とも沈黙で見つめあったが、「とにかくセンパイ、俺の部屋で寝ないで。ちょっとここは出て」「ごめんな。体温は…「自分で測りますから!」俺はパニックのまま聖名の部屋を出た。どうしよう…盗難の疑いをかけられても、会社にも迷惑がかかるし…次に俺が気づいたのはあの端正な顔立ちの聖名に、男に襲われた体験があったらどうしようということだった。それで、気の強い聖名が驚く以上に怯えてたのだとしたら…自分が信頼を失う以上に、聖名を傷つけたかもしれないということの方が心配だった。どうし...●小説「傾国のラヴァーズ」その50・聖名の部屋にて

  • ★小説「傾国のラヴァーズ」その49・襲ってなんかいない

    起こさないように小さくドアをノックして部屋に入ると聖名はまだ寝ていた。しかし俺の悲しい癖で、ベッドの脇にしゃがみ込んで聖名がきちんと呼吸をしているかを確認せずにはいられなかった。俺の親代わりの祖父は自宅で亡くなったのだが、その第一報は、慌てふためいた祖母からの電話だった。ーおじいちゃんが息をしていないみたいなんだよ…あれは高校1年の夏で、試験の最終日が終わって帰宅する途中の道すがらだった。携帯を、とり落としそうになった。あんなにショックなことはなかった。退院してきたばかりだったのに…その後のことはあまり覚えていない。しかしその後は亡き父の弟である叔父さんたちが全部取り仕切ってくれたので、何も問題はなかった。それで俺は寝ている身内を見かけるたびにちゃんと呼吸しているのか確認せずにはいられなくなったのだ。もち...★小説「傾国のラヴァーズ」その49・襲ってなんかいない

  • ◆小説「傾国のラヴァーズ」その48・聖名の携帯

    聖名にスポーツドリンクのボトルを渡してやると、ひと口ふた口飲んだ後、俺に返してきた。「大丈夫か?」「うん。おいしい…ありがとう…」そこで俺は気付いた。「夜中に何かあったのか?嫌がらせの電話とか…」夜中にこの部屋で起こったことは俺には分からない。「それはないよ。でも明日は商談だから午前は休むことにする」そして専務の高橋さんに電話すると言い出したが、サイドテーブルにあったはずの携帯がないと言う。「枕の下にでもあるんじゃない?寝る直前まで見てて床に落としたとか」俺はしゃがみ込んでベッドの下を見てやりながら何だか悔しいとでも言うような気持ちがこみ上げてくるのを感じていた。聖名がベッドの中で電話やメールする相手って…「あったあった」俺が拾い上げて渡すと聖名が礼を言いつつも微妙な顔をしたのはなぜだったのだろう。そして...◆小説「傾国のラヴァーズ」その48・聖名の携帯

  • ■小説「傾国のラヴァーズ」その47・聖名のタキさん?

    しかし、返事はない。仕方なく、俺はもう一回ノックをしたが、返事がない。やむなく、失礼します、と言ってドアを開けた。部屋に入ってみると、聖名はベッドにもぐりこんでいて、羽根布団を頭まですっぽりとかぶってもぞもぞしていた。「聖名、大丈夫?具合悪いの?」すると聖名は布団から顔だけ出して、「うーんゆうべ眠れなくて、湯冷めもしたのかな。なんか気分が悪い…」「午後から出社とかできないの?あと思い切って休むとか」「そうだね…」と、聖名は考えていたが、「センパイ、スポーツドリンク持ってきてもらっていい?水も飲めなくて…」それは大変だと、俺が冷蔵庫の奥からスポーツドリンクのボトルを持ってくると、聖名は眠っていた。しかし、なぜかはっきりと、「…タキさん!…」と寝言で叫んだのだ。たきさん?悪いが俺は少し笑ってしまった。新規事業...■小説「傾国のラヴァーズ」その47・聖名のタキさん?

  • ●小説「傾国のラヴァーズ」その46・聖名が起きてこない

    電話が終わると聖名はコーヒーを入れてくれて、「ごめん。でも助かった。ありがとう」「いや、こちらこそごめん。矢野さんっていうと、聖名の味方か会長の味方かわからなくなっちゃって」そっかごめんねと言って聖名は育ての母であるおばさんのことを再度説明してくれた。「おばさんは単に非通知設定を解除するのを忘れてたみたい。センパイに住んでもらうのはおじさんにしか話していなかったから…」そこまで言うと聖名は何か言葉を選びながら、「センパイ、大丈夫?湯冷めとかしてない?」なーんだ、それであんなに必死でジェスチャーを送っていたのか…俺はクスッと笑ってしまった「なんだよ、俺はすごく心配してたのに。こっちが余計な心配させたから」「あーごめんごめん。ジェスチャーを送ってくれる聖名がすごく可愛かったから…」可愛いはさすがにまずかったか...●小説「傾国のラヴァーズ」その46・聖名が起きてこない

  • ★(小説「傾国のラヴァーズ」)作者・愛田莉久よりお知らせ

    いつも小説をお読みいただきましてありがとうございます。作者の愛田莉久です。今日は珍しく午前中の更新となっております。これからも時間帯まちまちのアップとなりそうですが、よろしくお願いいたします。また、閲覧者さまの利便性向上のため、小説のタイトルの前に◆などのマークをつけることにしました。よろしかったらしおりの代わりにご利用ください。また、更新情報はツィッターでもご確認いただけます。作者のつぶやきも結構ひそんでますので、こちらもよろしかったらご利用ください。それでは今後ともよろしくお付き合いくださいませ。★(小説「傾国のラヴァーズ」)作者・愛田莉久よりお知らせ

  • ◆小説「傾国のラヴァーズ」その45・聖名のジェスチャー

    無言電話にこんなに緊張したことはなかった。しかし、聖名以外の人間が聖名のそばにいることをわからせてやろうと、もう一回言った。「もしもし」すると、中年の女性の声で、ーあの、鈴崎さんの携帯ではないですか?「はい、鈴崎は弊社の社長ですが」するとびっくりすることを言われた。ー私、聖名の叔母の矢野と申します。聖名に代わっていただけませんか?「おばさん?矢野さんですか?」俺が驚いていると聖名はまた慌ててそれを引き取った。「もしもしおばさん?非通知だったからわからなくって…」楽しそうに話しながら聖名は俺をちらっと見て何事かジェスチャーを送ってくる。結構必死だ。あーなるほど。上半身にも服を着ろってことか。聖名はこんな時もきちっとしてるな…◆小説「傾国のラヴァーズ」その45・聖名のジェスチャー

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その44・聖名の笑顔

    聖名の笑顔はリラックスしていたので俺は安心して冷蔵庫に食材を入れ始めた。久しぶりの知人との商談は長電話になった。それで夕食は俺が適当作ったのだが、聖名は美味しいと言ってくれた。しかし、そんな事よりも商談のことばかり楽しそうに話していた。と、そこで何かを思い出したように、「そういえば土曜日ってセンパイは、休み?」「いや、この部屋で勤務だよ。あなたが行くところならどこへでもお供しますよ」それでさっきの電話の主のもとへ行きたいと言われた。「もちろん、いいですよ」それを聞いた聖名の、ぱあっと広がった笑顔はいつも以上に輝いて見えた。こっちまで幸せな気分になった。しかし、俺がいつも通り手早くシャワーを浴び終えて服を着ていると、洗面所のドアの向こうで聖名があたふたしているようなのが伝わってきた。「聖名!どうした!」急い...小説「傾国のラヴァーズ」その44・聖名の笑顔

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その43・聖名のセンパイ

    高橋さんとしては、心配していた怪しい事件でもあったのかと気になったのだろう。俺は安心してもらおうと、「ゆうべは2人で動画を見て楽しんでいたんです」高橋さんはほっとした表情を浮かべ、「そうなんだ。でも何かあったら絶対に教えてね」「わかりました」帰りは約束した通り、スーパーに寄って帰った。俺が住み込んだことで聖名の家でかかる経費は、全て聖名持ちということになってはいる。でも「センパイ」としては何だか申し訳ないので、聖名には辞退されたが、今回はせめてもと、お菓子とノンアルコールビールを買った。「この前の動画鑑賞が楽しかったからさ」チョコレートを選んでいた聖名は、一瞬驚いた様子で俺を見たが、「心霊動画はまだまだあるから楽しみにしてね」と、笑顔を見せてくれた。嬉しかった。…いかん。どうも聖名の前では「センパイ」気分...小説「傾国のラヴァーズ」その43・聖名のセンパイ

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その42・眠そうな二人

    …聖名は天を仰ぐと、てことはやっぱり一緒じゃなきゃだめか、と口をへの字にして悩む。そしてその横顔はちょっとやつれている。でも2人暮らしには耐えてもらうしかないし、ここまで怪しい人物の接触がないのは幸いだったのだ。(そういえば会社のない土曜日曜はどうすればいいんだろう…)(ゆうべはあんなにはしゃいでいたのにな)「じゃあ仕方ない。2人で行こう」聖名の決断を聞いて、俺はふと気づいた。「もしかして何か用事があったの?デートとかそれだったら…」「いやオレ今誰とも付き合ってないし」何だかすごい勢いだったので、びっくりしてしまったが、返って怪しいと思い、それにショックを受けている自分にも驚く。「それでは買い出しは一緒にということで、よろしく」俺も何か言ってやりたくなって、「トイレにもついてった方がいいですか?」すると聖...小説「傾国のラヴァーズ」その42・眠そうな二人

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その41・俺がいる意味

    おはよう、という声は重なった。ちょうど聖名がこっちを向いてくれたからだ。「センパイ、悪いけど今朝はグラノーラで許して」「いいけど、指示があれば、俺作るよ」「じゃあグラノーラで」「わかりました」二人で布団を片付けると、グラノーラに牛乳をかけて食べた。ヨーグルトもおいしいのだが、聖名はまた無言だ。やっと、「センパイ、悪いけど今日、買い出しとかダメ?」「いいけど、何買うの?」「食料」「ああ、ついてくよ」「いや、そうじゃなくてオレ一人で」何を言ってるんだ。昨日の夜以来、聖名は変だ。(結構俺、心霊話聞きたかったのに…)「聖名、それだと警護ができないだろ?」「あー、そういえばそうだった。センパイはそのためにここに来たんだった…」小説「傾国のラヴァーズ」その41・俺がいる意味

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その40・朝はけだるくて

    聖名の変化に戸惑いつつも、俺はいつも通り、部屋着で布団に入った。聖名の方も部屋着だ。布団に入ると意外にも聖名は俺には背を向けて灯りを消すと無言だった。あれ?合宿を提案してきたのはお前の方だったよな?(疲れて、話すのが面倒になったのかな)不思議なことに、俺の視線を感じて身を固くしたようにも見えて、俺は声をかけるのもやめ、俺の方も迷惑にならないように彼に背を向け、眠りについた。…気がつけば、朝だった。トイレの付き添いには起こされなかったようだ。隣を見ると、もう聖名の布団は畳まれていた。驚いて辺りを見まわすと、聖名はキッチンの丸椅子に座り、あらぬ方を見てぼーっとしていた。何と声をかけたものか迷った。やっぱり二人暮らしは憂うつなのかな、とまた思えたからだ。小説「傾国のラヴァーズ」その40・朝はけだるくて

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その39・リビング合宿

    聖名は俺にしがみついたままになっていた。その手を優しくほどきながら俺は、「いやあ、こんなに面白いとは思わなかった。また一緒に見たいな」「でしょでしょ、って、もうこんな時間なのか…」と、寂しそうに言うと、「ねえセンパイ、今夜はこのリビングで合宿しない?」「合宿?どういうこと?」「せっかくだから、さっきの心霊について語り合うの。オレ、来客用の布団出してくるから」俺はそんなに気がすすまなかったが、まあこんなのもいいかなと思ってOKした。そして、二人分の布団の用意を手伝った。本当に合宿という感じで、聖名の怖がりの原点でも聞けるのかとなぜかワクワクしてしまったが、いつしか彼からは笑顔が消えているのに気づいた。小説「傾国のラヴァーズ」その39・リビング合宿

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その38・聖名は小首を傾げて誘う

    それにしても聖名は怖がりだ。まあ、個人差だから、怖がる基準はまちまちだろうけど…照れくさそうに俺から離れた聖名は、ビールをひと口飲むと、もう次の動画を見ようとしている。「次は何見るの?」「せっかく先輩がいて1人じゃないから、続いてまた心霊モノ見ようかなって」俺は必死で笑いをこらえた。「いやあんなに怖がってるのになぜ見るの?」「いや大好きだから」まあ現実逃避にはいいのかも…でもテーブルの上のビールの缶をひっくり返しそうになりながら大騒ぎになるのはどうなんだろう。「ホラー映画も好きなの?」「いやああいう作り物はダメで」「そうだよね。それに時間も長いし」「そうですよね」聖名は適当に相槌を打つと、「さあ次もおすすめの…」俺は何だかからかいたくなって、「一人でトイレに行けますか?」すると聖名も負けじと(?)「ついて...小説「傾国のラヴァーズ」その38・聖名は小首を傾げて誘う

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その37・聖名の悲鳴?

    そして、画面の中では、丑三つ時、廃村の中にあるという廃校に二人が入っていき…ーリュウ君、何かねえ、すぐの教室の前に女の人が見えるの…ー女の子?ーううん、違うの。大人の女の人。ー大人?隣の聖名を見ると、いつしかクッションは捨てていて、怯えた表情でもう腰が引けている。すると動画の中では、霊の声が…音とテロップで…〈…あそんでいって…〉「!!!」聖名が俺の腕にしがみついてきた。霊よりも、聖名がしがみついてきたことの方に俺はびっくりした。ー音声アプリ使ってみようか…こんばんは。リュウといいます。今日はみなさんとお話し出来ないかと…〈死ね〉〈帰れ〉〈やめてください〉アプリの音声が暗い画面の中で赤い文字でも表示される。「アプリ使ってるけど、機械の声だけど、霊の言葉なの!怖い~」聖名はしがみついたまま、俺の胸に顔を埋め...小説「傾国のラヴァーズ」その37・聖名の悲鳴?

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その36・聖名は両方好き?

    すると今度は聖名が笑ってしまい、「いやこれは前座。大人のメインはこれからだよ。さあセンパイ、ここに座って」言われるがままに俺は彼の横に座った。「大人のメイン」という言葉が少し気になったが…彼は無言のまま、猫の動画を途中で終わらせ、手慣れた様子で、テレビで検索画面からお目当ての動画を見つけ出した。すぐに動画は表示されたが…黒い画面に赤い文字で、〈警告〉〈閲覧注意〉〈不思議な現象が起こります〉…とか書いてある…つまり、心霊動画のチャンネルだったのだ。俺には選択権がなかった。「センパイ、ほんとに面白いんです。おすすめです。センパイは怖いの苦手?」「見たことがないからわからないけど…そんなに苦手ではないと思う」「よかったあ」…ってことは、彼は実は怖がりなのか?「これは〈ホラージャパンTV〉っていうチャンネルで、リ...小説「傾国のラヴァーズ」その36・聖名は両方好き?

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その35・聖名と動画ナイト

    彼の方は車の中では無表情だったが駐車場から社長室までのわずかな距離、何気なく様子を伺うと口元の笑みこそかみ殺していたものの、目はキラキラしていて、見ているこっちまで嬉しくなるような表情だった。商談がまとまったのが本当に嬉しかったのだろう。その後は、社長たちは軽く残業だったので、俺もパソコンを開きつつ、月曜日の彼の失踪の理由を聞き出すにはどうすればいいか悩んでいた。約束通り、その夜は動画ナイトだった。風呂からあがると、暗くしたリビングのソファの上で、聖名がくつろいでいた。テレビには、可愛いネコが映っている。聖名は笑顔で、「センパイ、ノンアルでよかった?」テーブルにはビールやスナック菓子が置いてあったが…「部屋暗くして見るの?」「うん。雰囲気出したいじゃん」俺は吹き出してしまった。「ネコの動画に雰囲気?」小説「傾国のラヴァーズ」その35・聖名と動画ナイト

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その34・どうした、聖名?

    俺が開けるより早く聖名はドアを開け、「先輩シャワーどうぞ。あっ、LINE忘れた。ごめん」珍しくぶっきらぼうな感じだった何かあったのかなと、心配になったが、俺は普通にありがとうと返してすぐにシャワーを浴びに行った。上がる時に風呂の掃除もして浴室から出ると、リビングには明かりはついていたが彼はいなかった。「おやすみなさい」のメモだけ。何だか寂しかったので俺も下におやすみなさいと書いておいた。次の朝、そういえば、リビングのテーブルには例の紙はなかった。無事、聖名よりも早く起きられた訳だが…今度から取りあえずは、起床時間を決めておいてもらおうと思った…そこに聖名が起きてきて二人で朝食の準備を始めたが、妙に彼の表情は険しかった。そして、テレビをを見ながらの朝食。番組は、難しい経済番組だ。そして、聖名の口数は少ない。...小説「傾国のラヴァーズ」その34・どうした、聖名?

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その33・聖名のカニ

    彼の横顔は何だか冷ややかだった「あと、お願いしたいのは、家の固定電話の電話番」「家の固定電話は廃止できないの?」一人暮らしになってからずっと携帯だけなので、俺はピンと来なかったのだ。「うん会社始めた時、自分の家を事務所にしてたから、電話も家のを会社の電話として名刺やホームページで宣伝していた時期があったんだ。それでたくさんのお客さんに出会ったんだ」それから2、3年も経っているが、この固定電話への連絡は今でもあるという「最近はごくたまにしか来ないけれど、それでも人脈が広がっていい面があるからやめたくないんだ。それなのに…その…例の変な電話が混ざってきて…」「わかったそれは全部俺が出て必要なものだけ取り次ぐよ」「それ聞いたらほっとした。センパイ、ありがとう」と、いつしかカニをむくのに夢中になっていたらしい聖名...小説「傾国のラヴァーズ」その33・聖名のカニ

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その32・聖名って呼ぶ…よ

    フルートグラスにゴールドのスパークリングワインが注がれ、無数の泡が立ち上っていた。そのグラスをカチャ、とぶつけて2人で乾杯した。しかし俺は一口飲んだ途端、不安だけではなくなぜかワクワクし始めていた。「ありがとうございます俺一人なのに着任祝いまでしていただいて」すると彼の表情は少し曇り、「いやそうなんですけど、そういうことになるのかもしれないですが、俺としてはその、初めてのルームメイトなわけじゃん。海原輩が。それを喜んでいるってこともわかってください」と、応えてくれる彼は、口元が何だか照れくさそうだった。俺の方もそれを見てなんだか照れてしまい、よくわからない複雑な気持ちになった。「鈴ちゃん、ごめん。実は俺にもそういう気持ちがあります。」なぜかその言葉に彼は固まってしまったようだった。それを見て俺も固まってし...小説「傾国のラヴァーズ」その32・聖名って呼ぶ…よ

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その31・消えない空白

    俺は嬉しくなって、「ワインですか。いいですね。でも平日なのに大丈夫ですか?」ノンアルコールではないのも気になったが、中止になるのが嫌で、それは言わなかった。「うん。ていうか海原センパイの歓迎会っていうことで。自宅で悪いけど」一瞬は喜んだが…思えば昨日のあの空白は、何だったのかと思うとまだモヤモヤするが、「じゃあお言葉に甘えてお願いします!」…ワインはキラキラ輝くスパークリングワインだった。さらに料理も俺の目から見てかなりのごちそうだ。「すごいなあ」俺が何気なく言うと、彼も何事もなく、「このために昨日少し買い出ししたから」と言う。俺はフリーズしてしまった。「それで雲隠れしていたのか?」「それについては本当にごめんなさい。そして食料買い出しに行ったのは日曜日。記憶違い」日曜はまだ俺の常駐が決まってなかったはず...小説「傾国のラヴァーズ」その31・消えない空白

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その30・聖名ちゃんとワイン?

    「困った電話の時は、スピーカーにするから、近くで相手に聞こえるように何か話してほしい。オレのこの問題を知っているかよわい女性じゃなくて男性が、常にオレのそばにいることをさりげなくアピールできると思うから」「わかりました」そこまで一気に語ると彼は少し安心したようで、「他にもいろいろ出てくると思うけど、その都度相談するよ」その日の彼は一日中社内でおとなしくしていた。財務会計に関する本や社内の財務資料をゆっくりと読み込んでいるようだった。実は俺の方は高橋さんからメールで、ではあったがきつく、彼から目を離すなと言われていた。それで、ということらしく、お昼は高橋さんが近所の弁当屋さんで3人分唐揚げ弁当を買ってきてくれた。よっぽど彼を外に出したくなかったのだろう。しかしその日は社長室は早めに上がった。車の中で彼はよう...小説「傾国のラヴァーズ」その30・聖名ちゃんとワイン?

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その29・微妙なセンパイ

    彼は視線を落としたまま、「冷蔵庫からイチゴのヨーグルト2つ出してもらえる?」トーストなんかと色々並べて、2人で朝食の食卓に向かった。「いただきまーす」2人で手を合わせて、まず俺はコーヒーを一口飲んだ。天気も良さそうで、気はつかうが、なかなか幸せな気分だった。「センパイ、勝手にパンにしちゃったけどよかったかなあ?苦手なものとか、昨日のうちに訊いておけばよかったね。ごめん」まだ俺の目を見てくれないなあ…「いや、特に好き嫌いもないし、朝食はパンの方が好きなんで、助かります」するとようやく、彼はいたずらっ子のように笑いながら俺を見つめて、「センパイ~敬語も禁止にしようよ~。どうせ会社でいっぱい使えるんだし」「そ、そうだな」俺のうろたえぶりにようやく彼は俺の目を見て笑ってくれた。本当は昨日の顛末を尋ねるべきなのだろ...小説「傾国のラヴァーズ」その29・微妙なセンパイ

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その28・シャワーは済ませた?

    そして彼は、「ごめんね、それじゃおやすみなさい」と、自室に引き上げていった。風邪薬とか…と、俺はその背中に問いかけたが、彼は振り向かず、大丈夫だから、とドアを閉めた。俺は何だか悪いなと思いながらも、シャワーを使わせてもらうのも仕事のうち、と割り切ってバスルームに向かった。髪も乾かし終わり、リビングまでやってくると、部屋着姿の彼がぼーっとソファに座っていた。「大家さん、どうしました?」すると彼は思わず苦笑しながら、「い、いや、センパイにおやすみなさいをきちんと言いたかったから待ってた」センパイか、今度は俺が笑ってしまった。彼も笑顔になって、「じゃぁおやすみなさい」「おやすみなさい。温かくして寝てください」次の朝は…いつもより1時間早く目が覚めて、鳴る前のスマホのアラームを解除することができた。この広いベッド...小説「傾国のラヴァーズ」その28・シャワーは済ませた?

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その27・ルームメイト?

    すると彼は、「こっちこそとんでもない。ややこしい仕事を頼んじゃったから、せめて自分の部屋ではゆっくり休んでほしかったんだ」「でも…」「大丈夫だよ。でもそんなに遠慮するなら白状しちゃうけど、これ、知り合いの家具屋さんがドタキャンされて困ってたベッドなんだ。人助け、ベッド助けと思って使ってやって」と、彼は微笑む。ようやく明るい彼が戻ってきたと、俺は内心ほっとして、「では社長、ありがたく使わせていただきます」スーツ姿のままでよかった、と思いながら、俺はぺこりと頭を下げた。すると彼は、「この部屋では、プライベートでは、その、社長、っていうのやめようよ」「じゃあ何て…大家さんとか?」彼は吹き出したが笑いをこらえて、「鈴崎でいいよ、海原。きっとオレはジムか何かのあんたの後輩で、ルームメイトになったんだ」その後はざっく...小説「傾国のラヴァーズ」その27・ルームメイト?

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その26・まだ慣れぬ彼

    俺は冗談めかして、「担当が僕に決まって、すみません」「あ、ああ、そんなことは…」笑ってはくれず、それどころか彼は挙動不審ぽかった。それでも、「気に入ってもらえるかわからないけど、いちおう最低限の家具は用意したから」「すみません。わざわざありがとうございます」…部屋に着いて俺はびっくりした。俺の部屋は例の一番広い部屋だったからだ。そして家具はどれも新品。パソコン用の机と椅子は人間工学に基づいたもののようだし、あとは本棚とかサイドテーブルとか…落ち着いたデザインだがどれも高そうだ…しかし何より驚いたのは、ベッドがキングサイズの立派なものだったことだ。マホガニーのヘッドボードの、これまたシンプルなデザインだがこれも高そうで恐縮してしまう。何と言ったらいいか俺が困っていると、彼は、「ごめんね。急だったから、これし...小説「傾国のラヴァーズ」その26・まだ慣れぬ彼

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その25・痛々しい彼

    午後になっても、高橋さんには呼ばれない。「海原、一応泊まれる用意だけはしてこい」と言われて、トランクに荷物を詰めて会社に戻ったが、まだ連絡がなかった。ようやく高橋さんから電話が来たのは夜で、近くの居酒屋の個室で、彼と高橋さんとやっと契約になった。俺ではなく、月曜の担当の先輩が彼らを迎えに行った。「すみません。僕が予定を取り違えていたばかりに、今日は一日中ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」彼の謝罪から始まった。高橋さんも何か言いあぐねているようだったし、彼に至っては、ほとんど俺と目を合わせてくれない。ただ、今日からよろしく、と張りついた笑顔で言ってはくれた。しかし、契約の方は無事に済んだ。場は和やかだったが、俺以外はみんな時間が気になっているようだったので、早々におひらきとなった。彼と一緒に帰るのは...小説「傾国のラヴァーズ」その25・痛々しい彼

  • ◆小説「傾国のラヴァーズ」更新再開します(超不定期)

    お久しぶりです。小説「傾国のラヴァーズ」作者の愛田莉久です。体調は「少し良くなった」程度なのですが、「病気が治らないのは、小説をアップ出来ないストレスも原因では?」と思うようになりました😣それで、超不定期になりそうなのですが、急で申し訳ありませんが、小説の更新を今日3/31から再開させていただこうかと思います。またお読み頂けましたら幸いです。よろしくお願い致します。また、ツイッターの方は鍵を開けました。ふたたび宣伝メインになるかもですが、これからも続けていきますのでこちらもよろしくお願いします。◆小説「傾国のラヴァーズ」更新再開します(超不定期)

  • 【活動休止のお詫び】小説「傾国のラヴァーズ」の更新休止に関しまして

    こんにちは。作者の愛田莉久です。いつも小説をお読みいただきまして、ありがとうございます。さて、本当に申し訳ございませんが、私、愛田は病気療養のため、長期に活動休止をさせていたただくことになりました。(いつも優しい担当医に強く言われました)小説更新の約束が守れないことになりまして、本当に申し訳ありません。治る目処は今のところわかりません。何ヶ月、では終わらないっぽいようです…1年以上かかるかもしれませんが、できることなら、もう一度こちらに戻ってきたいと思っております。その時は、またこちらのブログにてお知らせさせていただきます。ほぼ更新情報のみにつかっていたTwitterは、鍵はかけましたが削除しようかどうしようか悩み中です。申し訳ないことばかりですみません。よろしくお願い致します。【活動休止のお詫び】小説「傾国のラヴァーズ」の更新休止に関しまして

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その24・肩すかしな彼

    月曜の朝、普通に出勤するといきなり緊急会議だった。彼の警備・警護の内容を変更して欲しいという依頼があったというのだ。この上得意の担当責任者である課長が、まず状況を説明してくれた。出馬を断り続けている彼だが、俺が彼のそばにいなかった三日間ほどの、矢野会長だけてなく祖父の成田元総理と敵対してきたいくつもの派閥や誰かが色々接触してきて、精神的に参ってしまったらしい。矢野会長とは関係なく、地元東京からの出馬を誘う者。上から目線で「成田氏との過去の確執は水に流してあげる」ので、成田の孫で新進気鋭のベンチャー企業家という肩書きでアピールして若者代表の議員になればいい、とか。そのための応援はさせてもらう、と。また別の他の派閥からは、党のマイナスイメージになるので、どこの党からでも出馬しないでほしいとか…どこで聞いたのか...小説「傾国のラヴァーズ」その24・肩すかしな彼

  • 【お知らせ】年末年始の小説更新の予定に関しまして

    小説「傾国のラヴァーズ」作者です。更新をお休みしていてすみません。次回の更新は、申し訳ありませんが23日以降になりそうです。本当にすみません。今後はこれまで以上にワガママ更新になりそうです。(不定期とか、字数が少ないとか😓)あっ、でも年末年始はぽつぽつ更新したいしたいと思ってます。よろしくお願い致します。【お知らせ】年末年始の小説更新の予定に関しまして

  • 【お詫び】少し更新お休みします。

    いつも小説をお読みいただきましてありがとうございます。さて、大変申し訳ございませんが、作者都合により、小説の更新を少しお休みさせていただきます。クリスマス🎄前には再開できるかなあ…と思ってます。皆様、寒さにはお気をつけください。【お詫び】少し更新お休みします。

  • 小説・「傾国のラヴァーズ」その23・不思議な気持ち

    本当に彼から連絡が来るとは思っていなかったので、見ていたパソコンのすぐ脇のスマホが鳴った時には慌てふためいてしまった。…彼からのメールは、火曜・水曜のねぎらいの言葉と、来週もよろしく、というもので、特に深刻な内容ではなかった。安心はしたが、何か平和なひとことでも欲しかったな、と思っている自分に驚く。まあすぐに、こちらからも無難な返事は送ったのだが。火曜日はよろしくお願いします、と。…で、当然だがこの夜のやり取りは終わった。でもやっぱりなぜか寂しい。何なんだいったい…この週は珍しく土日が休めた。体力的にはそう疲れはなかったが、やはり彼のところへの初の派遣で精神的に疲れたという感じだったので、連休は本当にありがたかった。近所の銭湯にでも行きたい気がしたが、結局だらだらして自宅から一歩も出ずに過ごしてしまった。...小説・「傾国のラヴァーズ」その23・不思議な気持ち

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その22・次の火曜に

    しかし、特に彼は何も言ってはくれなかった。外部の人間に案件のことを話題にするのも嫌だったのかもしれないし、朝のこともあったのだと思う。…長期になるであろう警護の2日目にして、俺は気まずいことになってしまった。彼と無言のまま会社に戻ると、俺の周りはみな今日彼が決めてきた案件に動き出してしまい、彼は昨日見たとおりの元気な彼に戻っていた。会社を八時に出ると、車の中で助手席の彼が、「海原くんは次の火曜には来るんでしょ?」と、俺を見ながら言ってきた。「はい」…としか言えなかった。というのは、何となく、担当を外されそうな気がしたからだ。いくら「秘密」を預けられたとはいえ。…いや、すぐにそれは自分の恐れなのだと気づく。もう会えなかったらどうしよう、という…それで、「社長に契約を切られなければ」と言ってみた。するとやっと...小説「傾国のラヴァーズ」その22・次の火曜に

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その21・働く彼

    気持ちを切り換えなければ、と思いながらも、俺はまだモヤモヤしていた。しかし、すぐに、昨日言われていた、お得意さんとの打ち合わせに同行した。議事録の自動作成ソフトのデモも兼ねていたので、新人秘書という設定の俺はノートPCの動きを見ていればよかったので助かった。彼の方は、朝のあの暗さが信じられないほど、明るい表情で、慣れた様子で笑いも取りつつ商談を進めていた。相手方の担当者たちも笑顔で、いいムードだ。そして、彼は今日の案件もソフトの開発の仕事も受注することになったのだった。しかし、会社への行きも帰りも、彼は無言だった。俺としては明るい雰囲気にしたかったのだが、ここは彼に任せることにした。小説「傾国のラヴァーズ」その21・働く彼

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その20・夜中の電話に期待する

    でも俺はどうにか、「誰にも言いませんが、もし、僕ができることがあったらいつでも連絡してください。今みたいに話を聞いてほしい、っていうのでもかまいません」夜中でも大丈夫ですから、とまで言うと、彼の横顔が少しほころんだように見えた。大変なことに巻き込まれたら面倒だな、とは思ったが、夜中に彼の声を聞けたら嬉しいかもしれない、などとおかしなことが頭をよぎる。「それじゃあよろしく頼みます」と、彼はものすごく神妙な顔で俺に頭を下げると、駐車場へと降り立った。「…社長、皮膚科に行った方がいいですよ。畑に行った時とか、外来種の虫でも連れてきたんじゃないですか?」社長室で高橋専務に言われると、彼は、「僕もそう思うんだよ」と、さっきとは打って変わって落ち着いた様子で答えていた…小説「傾国のラヴァーズ」その20・夜中の電話に期待する

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その19・謎の人脈

    しかし彼は、「いや、それは無いんだけど…」と答えてはくれたが、その声に、俺はためらいのようなものを感じた。「…その…向こうは僕のことを気に入ってくれてるのかもしれないけれど、酒が入ってからの説教というか指摘が長いしつらくて…いつもお前は駄目だとか、どういう仕事やってるんだとか…」まずは聞くことに撤することにした。俺に話せたことで少し気が楽になったのか、彼は安心したように、でもまっすぐ前を見たまま、「向こうは後輩を育てているつもりなのかもしれないけど、僕としては古い考えで的外れなことばかり言われてる気がして、苦痛で…」それでも今後の仕事の展開を考えると切れない相手なのだろう。門外漢の俺が想像するより、かなり社会的地位のある人間なのかもしれない。でも、彼は祖父のコネなど使うような人ではないようだから、彼自身の...小説「傾国のラヴァーズ」その19・謎の人脈

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その18・二人だけの秘密

    自分でもお節介なことを言っていると俺は思うのに、彼は無言ではあったが不愉快そうな様子も見せず…でも困っている様子ではあった。車が動き出すと、助手席の彼はうつむいて、「…ゆうべ、海原くんが帰った後のこと…海原くんだけの秘密にしてもらうことはできない?」「えっ?」信号待ちの時で良かった。俺は確かにモヤモヤしていたけれど、仕事上、内容による。まあ俺ひとりにでも打ち明けようとしているだけでもましなのかもしれない。そして俺は、個人的にも知りたいと思っている。何かに失望しながら…そしてそれに驚きながら…「わかりました。教えて下さい」「ゆうべは…あの後、本当は先輩に呼び出されて飲みに行ったんだ。ちょっと遅くまで引き留められた」「それで…先輩というのはどういう関係の方ですか?」「農業関係の偉い人としか言えない」「そうです...小説「傾国のラヴァーズ」その18・二人だけの秘密

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その17・どうして俺は

    それでも彼は、「ゆうべちょっと寝るのが遅くなっただけなんだけどな。あの後、調べものに夢中になっちゃって」と、出かけようとする。俺はそれよりも彼の首すじの、多分キスマークと思われる赤い痕の方が気になって、言葉を選んで尋ねた。「首、どうしました?虫刺されか何かですか?」「えっ?」俺の予想に反して、彼はものすごくうろたえた。冗談めかして、「その辺は察してよ」くらいに言ってくれると思ったのに。「そんなに目立つ?ええっ、どうしよう?」「絆創膏か何かで隠せれば…」俺にも動揺が移ってしまい、彼と一緒に玄関に上がって洗面所についていってしまった。「ほんとだ」鏡で確認すると彼はすぐに絆創膏を二枚貼って痕を隠した。更にまとめていた髪もほどいてしまった。「これで目立たないかな?」目をそらしたまま、彼は訊いてくる。俺は、「後から...小説「傾国のラヴァーズ」その17・どうして俺は

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その16・友達と赤い痕

    その後は、彼の方が時間を気にしてくれた。それでも、デザートの夕張メロンゼリ一までしっかりいただき、後片付けの手伝いをして帰った。「今日はいいよ。それより早く帰って報告書提出してよ」と、彼には言われたが…「もー、こうやって飲むのを禁止にされたら困るじゃん…」お世辞でも嬉しい。そんなに彼は俺に親しみを持ってくれたのかな。そして俺は気づく。俺も親しみ…仕事面で気に入られたいというのとは、別の感情を持ったと言うことに。落ち着いた知的な社長の顔と、腕白な子供のような可愛らしさとのギャップ。でも初対面なのに色々気をつかってくれる優しさもあって。そして、永遠の美少年と言われるような世界中の俳優にも負けない美しさ。他にも何だかあったかさがあって、この人と「友達」になりたいと思った。次の朝は初めてのお迎えで、俺はちょっと緊...小説「傾国のラヴァーズ」その16・友達と赤い痕

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その15・いつかは合宿

    さすがに俺は断った。いくら気が合いそうでも、出会ったばかりの顧客の家に泊まるわけにはいかない。盗難を疑われたり、ケンカになったりとトラブルになっては本当に困るからだ。「あの…初日だったので、今日中に提出しなければいけない報告書が多いもので…」「えっ?これから会社に戻るの?」「まず、自宅からリモート使って…何かあれば会社へ」「大変だなあ」「24時間動いてる職種なので…」でもフォローのためにも、「でも泊まったら、なんて言ってもらえて嬉しかったです。僕、泊まったりって経験ほとんどないので」それに驚いた顔をしながら、彼はまたノンアルビールを一本あけ、「意外。体格いいから、体育系の合宿が多い人かと思った」「いいえ…」と俺は、いい機会かと、自分のこれまでを話すことにした。2才の時に交通事故で両親を亡くしたこと。それ以...小説「傾国のラヴァーズ」その15・いつかは合宿

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その14・泊まっていかない?

    そして、農業から伝説が始まったと聞く彼の祖父の呪縛には、とらわれていないことにもほっとした。彼の見た目とはかけ離れた作業のようにも思えるが、勉強のためには畑にも田んぼにも入るという。「まずは日本の食料自給率もあげなくちゃね。有事の時にはきっと、東京なんてなかなか食料が回ってこないでしょ。それも東京で生まれ育った僕としては嫌なんだ」彼の瞳の輝きが増していく。楽しく俺は見ている。「獣害の問題もあるからね。それにも関われないかとと思ってきてるんだ。それに、茨城ならスマート農業で大規模農業もやれるかもしれないから…」夢のある話でいいなと俺は思った。それでつい口走ってしまった。「いいなあ、俺そちらに転職させてもらいたいなぁ…」それを聞くと彼ははびっくりした顔をした。俺がびっくりするほど、目をまん丸にしていた。まずか...小説「傾国のラヴァーズ」その14・泊まっていかない?

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その13 農業っていいよね

    彼はすぐに気を取り直したようノンアルのビールを飲み、「次の年は中学受験を控えてるから行かないことになってた。そのうち中学にもなれば、矢野会長の目的も分かってくるから行く気もなくなるし」「でもそれは今の仕事では損してると思うんだよね。本音を言えば北海道の大規模農業に関わってみたかったなって」社長室の書籍なんかで農業ジャンルを見た・俺はその事にも突っ込んで訊いてみたかった。「僕はITコンサルの会社とうかがって来たんですが、農業のコンサルもやってるんですか?」「多角経営ってヤツ。会社に力があるうちにと思って。今の混沌とした時代、小さい会社ほどひとつの部門だけだと心細いから」社員のフロアと違って、やや圧迫感を覚える社長室で、彼は今は関東圏のITのコンサルだが、農業のコンサルティングや分析にのりだしたのだという。「...小説「傾国のラヴァーズ」その13農業っていいよね

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その12 ザンギと札幌

    俺は彼の様子を見てぼーっとしていたようだ。彼は俺が遠慮していると思ったらしく、「食べて食べて、頂き物なんだけど、独り者にはいつも量が多くて」と言ってくれた。それで我に返った俺は、北海道の唐揚げ「ザンギ」に箸を伸ばした。「頂き物って親戚からとかですか?」不用意な質問だったと後悔した。しかし彼は自然な様子で、「うーんまあ横浜の矢野さん、さっき話した、俺を育ててくれたおじさんとおばさんへの誕生日のお返し」「そういうのいいですね」「うん、でもおじさんは、会長の長男だから、札幌出身なんだけど、札幌に戻れなくて。会長の後援会活動手伝うの嫌だから、それで奥さんの故郷の横浜に家を建てちゃった」でも故郷が懐かしくて、色々北海道ゆかりのものを送ってくれるんだよね。矢野会長もだけど。「なんだか悪いこと聞いちゃいましたね」「いや...小説「傾国のラヴァーズ」その12ザンギと札幌

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その11 メロンに生ハム

    彼はキッチンで冷蔵庫を開けると、俺の方を振り返り、「あ、適当に座って…海原くんはメロンって食える?」「はあ、好きだと思います…」「無理しなくていいよ」「そりゃ大好きですけど…そんな高いもの…」「もらったんだけど、一人じゃ食べきれなくて…生ハムのっけてもいい?」「はい…俺も手伝いますよ」彼は料理もする人のようで、包丁も危ない感じがない。祖父母に育てられた俺も簡単な料理はするのだが、酒の用意なので特に出る幕もなく、皿やグラスを運ぶくらいだった。しかし、彼も俺と同じくらい空腹だったらしく、米のメシが食いてえ、とおいしそうな白飯に牛肉のとろとろふりかけをかけてくれた。あとは大好きだというアボカドのサラダや取り寄せのレンチン用の唐揚げとか……ようやくノンアルのビールで乾杯すると、つまみを俺にすすめてくれながら、彼は...小説「傾国のラヴァーズ」その11メロンに生ハム

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その10・ちょっぴり仕事

    リビングでは薄いブルーのソファだけは、昼寝にでも使うのか、大きくて立派なものだった。「ごめんね、殺風景な部屋で」と彼は苦笑していた。引っ越しの時、手伝ってくれた高橋専務や伊藤常務にも指摘されて、三人で笑ってしまったそうだ。「えっと、こっちが寝室…」ベッドやクローゼットや本棚が机がある普通の部屋で、派手さはない。彼自身の芯に持つ上品さや穏やかさが何となく感じられるような部屋…だがいつまでも見ているようではばかられた…彼には別に何も言われなかったが。もう一つの部屋にはダンベルやトレーニングチューブなんかが置いてあって、筋トレ用の部屋のようだった。更にもう一つの部屋は、一番広いのだが、積み上げられた本の山が三つほどあるだけだった。「こっちの部屋、本当は寝室兼書斎の予定だったんだけど、入れたい本棚が大きくて、地震...小説「傾国のラヴァーズ」その10・ちょっぴり仕事

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その9・2人で飲み会

    暗い表情で彼は、「でも、愛人の子の更に子供なんてやっぱりお偉いさんには、黒歴史だよなぁ」俺は本当に言葉がない。しかし、それは彼のせいではないのだ。だから、何となく味方をしたくなって、「でも、日本は男社会だったから歴史的にそういうのを認めてきましたよね。今だって直系の世襲もどうかと思いますけど、亡くなった議員さんの親戚だから後継にするとか…」「あれは不思議だよね…」でも、出馬しないのなら彼はそんなこと気にしなくていいのではとも俺は思うのだったが、彼の苦労を考えれば複雑な思いがあるのも事実だろう。二人とも黙り込んでしまったところで、彼は前を向いたまま、「海原くんて全くの1人暮らしなの?」「はい」痛い所を突かれたとと思いながら、「はい、寂しい1人暮らしですよ。全くの」と苦笑いするしかなかった。すると、彼はいきな...小説「傾国のラヴァーズ」その9・2人で飲み会

  • 小説「傾国のラヴァーズ」その8・偉大過ぎる祖父

    俺には質問せずにはいられないことがあった。「高橋さん…専務はどこからかのお目付け役なんですか?」「いや僕が連れてきた大学の先輩にあたる人で。ベテランの事務屋さん…鈴木さんは高橋さんの友達。矢野会長の一味ではないよ」俺は少し安心した。「だから今回海原君たちに依頼したのは、僕が誰かに狙われている、よりも、自分やその仲間たちが被害を被るような動きをしないか見張らせるのが目的のような気がしてる。矢野会長は〈何かと物騒だから〉なんて僕には言っていたけどね」俺には何のことやらで、「って矢野さん達の被害って、社長はそんなことできるんですか?」「うーん僕が考え着くのは矢野さんたちの利権を守るために、俺には会長系のよその派閥からは出馬しないでほしいっていうがあるみたい。あとは他の候補のためには指1本動かさないで欲しいみたい...小説「傾国のラヴァーズ」その8・偉大過ぎる祖父

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