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  • 笑う女・・18

    江崎の代わりに俺が介護の主任格になったわけだから、新しく補充された男は俺の代わりという事になる。学校を出て、1年老人介護施設で働いただけだという、まだまだ経験の浅い男は笑子の介護補佐に従事することにまず、驚いただろう。「女性・・ですか?」被介護者が女性ならば、女性の介護員が世話をするほうが良いに決まっている。そこで、笑子の経歴が説明され男性職員でなければ介護にあたれない理由に納得する。納得はしてみたものの実際・・・・。実際、うら若い女性の下半身の世話までやりこなすという事実に彼は随分とたじろいだ。彼の職務は笑子だけのことでなくほかの入所者への色々な配慮ができるように患者個人にまつわる予備知識を収め筋肉萎縮を少しでも防ぐためのリハビリやマッサージや簡単な運動を施し言語中枢を刺激して少しでも言葉を発し自分の意...笑う女・・18

  • 笑う女・・19

    その夜・・・当直の身分を随意に俺は笑子をまさぐり出していた。俺を煽ったのは、笑子の空中遊泳の腕の描画のせいじゃない。昼間の新人の言葉に俺は翻弄されていたと言っていい。江崎が恋しい・・俺が吐き出した返答に俺の独占欲?いや・・・、少なくとも俺には、笑子を独占したいという思いはない。的確にいうのなら、所有欲・・と言うべきだろう。笑子にセックスを与え俺に与えられた快感に酔う笑子が江崎を慕う。俺は笑子にとって一物という道具でしかないのか?俺が道具なら主従関係は一転し俺が笑子に所有されている事になる。飼いならした犬が主人を引きずり歩く・・・。所有欲以前に所有の位置が逆転して行くのは江崎・・への思慕が笑子にあるからだ。笑子の思慕を得たいというのは、恋愛感情とは、また別の位置にある。だから、それこそが、所有欲が満足させら...笑う女・・19

  • 笑う女・・20

    まずい・・・。衝動がおさまったあとの後悔は今更取り返せる事実ではない。妊娠・・・の一文字が俺の頭に大きく浮び俺はその可能性が無いことを確信したくて、笑子の日誌を取り出そうとした。だが・・・・。俺が江崎と交代してから・・・、笑子の生理の処置をした・・覚えが・・ない。新人の育成や笑子へのメイン介護やそして、俺の底に渦巻いていた江崎への嫉妬・・・。こんなものに振り回され、俺自身が忙しさに取り紛れていた。確か・・笑子の生理を書き込んだ覚えが無い。だが、徳山や新人が処置して書き込んでいたのを見逃しているのかもしれない。生理の周期を調べて今回の失敗が大事件に発展しないことを確認しようと日誌を広げた俺の目にこの二月近く・・・笑子に生理が無かった事実だけが飛び込んで着ていた。最後の生理は江崎がやめる直前・・・。笑子の生理...笑う女・・20

  • 笑う女・・21

    「あ・・」俺の頭に江崎と笑子の交渉を目撃したあの日のことが蘇ってきていた。所長はすべてを察している。俺がこの個室の中で笑子に何をしていたか・・・全てを察している。「おかしいな・・と、思っていたんだ」きっかけは笑子の定期健診だったという。年頃になった少女の生理周期が崩れていた。生理異常から、子宮などの病気も検診の対象にすべきだと所長は婦人科の検診も定期健診の項目に加えた。そこで、婦人科のドクターに告げられた事実。「彼女は性的暴行を受けている」ドクターの触診に笑子は腕を上げセックスを要求して見せた。はじめは、笑子のとっぴな行動が何を意味するか、判らなかったドクターだったが・・・。乳がんなどのしこりを調べるだけだったのに笑子の瞳はとろりとした快さによいはじめ膣磯鶏部への触診にいたって腕が舞い上がり甘ったるい咆哮...笑う女・・21

  • 笑う女・・22

    所長の腹のうちは読める。江崎の日誌が確たる証拠になる・・。これは、嘘だといっていい。だが、その嘘を嘘だと、証明するためには所長が盲判を押していたことを認めさせるしかない。従業員の勤務日誌を勤務内容と照合せず、確認判をおしていたのが、所長だ。所長は自分の保身のためになにがあっても、盲判を押していたとはいいはしない。いや、いえはしない。園の存続と所長の地位を護るためにも所長は日誌を確固たる「本物」にしておきたいんだ。だから、俺が笑子に交渉を課したその明白な事実を種に引き戻すことの出来ない事実/笑子の妊娠があるのなら、いやが応でも俺を犯人に仕立てるしかない。だが、俺には異議がある。俺が所長の盲判、つまり、所長の管理体制を白日にさらされても、所長も困る。一計を案じる前にまず、実際の笑子の妊娠の有無。これが、詮議さ...笑う女・・22

  • 笑う女・・23

    事実はいやおう無く現実をつきつけてくる。笑子の妊娠・・・。これは・・・、逃れようもない現実として俺を押しつぶす事になるはずだった。ところが・・・・。俺は・・・あの当時のことを今、思い返しても・・信じられない。信じられないが所長の措置によって、俺は今も、名実とものヴォランティアとして、介護の仕事を続けている。あの時・・・・。笑子の妊娠を医師から告げられた所長が断行した措置。それは、笑子の堕胎と同時に笑子の妊娠機能を閉鎖することだった。笑子の保護者から笑子への手術の許可を得るために所長は笑子の病名を工作した。間違っても、妊娠の挙句の堕胎措置などといえるわけがない。事実を告げれば、それを種に、慰謝料だって請求できる今のご時世だから、どれだけの負債をおわされるか。上に、園の名誉も地に落ち、他の入園者も懐疑の目を向...笑う女・・23

  • 笑う女・・24

    俺の措置は・・結局、何も無かった。何の変化も降格も謹慎も減給も・・・いっさい無かった。所長は何も無かったことにしたがった。だから、俺の措置もなにも問わないことで俺に暗黙の枷をはめた。俺がその枷に気が付くのは、もう少し後の事になる。なにも、無かったことにするためにも、俺はあえて、徳山の事実も話さなかったし堕胎された水子の性別も何ヶ月になっていたのかも、聞かなかった。おそらく、江崎が父親であってもおかしくない過月になっていただろうし、もっと言えばDNA鑑定でも、すれば間違いなく江崎が父親であるとわかったことだろう。だけど、それも、俺は要求しなかった。しいて、言えば俺の良心の呵責による。逃げた江崎と俺との差は五十歩百歩。妊娠という事実が闇に葬られたのなら残るのは罪だけ・・・。罪の違いに大差がないのなら、俺はせめ...笑う女・・24

  • 笑う・・終

    俺は笑子を見舞う前にまず、担当医の元へ足を運んだ。そこで、聞かされたことは俺を震撼させるに十分でそのあと、笑子の病室に入っていったけれど、笑子が俺を見つけて笑った顔が早送りのフィルムのように俺の脳裏で途切れずずううとつながって俺にいまでも、くっきりと、その時の衝撃と笑子の笑いをよみがえらせる。そう、俺は、笑子の笑いによって、初めて自分にはめられた枷にきがついたんだ。担当医の話はこうだった。「笑子さんが暴れるのは女性の看護のせいばかりじゃないんですよ」「と、いいますと?」「性的欲求の解消をのぞんでいるんですよ」「え・・・ああ・・はあ」そうかもしれない。見知らぬ場所に行った笑子が見渡せば交渉を与えてくれるいつもの男がいない。要求のサインの腕を上げても、誰も取り合わず、笑子の感情は無視され、己の存在認識さえ定か...笑う・・終

  • 笑う女に 寄せて・・・

    笑う女というタイトルは、平板に思える。だが、ラストで、「笑う女」というタイトルが恐ろしいと思えてくる。笑子には、ある意味純粋な希求しかない。それが、ラストでひっくり返る。もちろん、笑子のせいじゃない。君子危うきに近寄らずとか、訓戒はある。虎穴に入らずんば虎子を得ずと、いうのもそうだろう。虎穴に入ってトラに食われちまった。と、いうことも有るわけだ。それらを無視して(気が付かず)「俺」は、墓穴(はかあな)を掘り続けた。墓穴を掘り続けた理由は、いっぱい、書いた。(おそらく、その表現に辟易された方もいるだろう)気が付いたときには這い上がれない深さになりやっと、穴を自ら掘ったと気が付く。精神薄弱児特有の笑ったような顔、に、しか見えなかったその笑い顔が穴の底から見たときに、おそろしい罠だったときがつく。だが、これも笑...笑う女に寄せて・・・

  • 笑う女・・17

    江崎から、笑子のノートを受け取ると俺はそれにゆっくりと目を通した。毎日の体温。食事の量。排泄状態。女性機能である生理の状態。ことこまかく記載されてきた事実。言い換えれば江崎は笑子の介護に細心の注意を寄せていたと言える。俺が見る限り、笑子が体長を崩したことが無かったがこれも江崎の体長管理が行き届いていたからだ。他の患者がときに食あたりをして、掛かりつけの病院から医師が往診にくることも見た事が有る。それでも、笑子に医者が呼ばれたことも無ければほかの病院に担ぎ込むことなども無かった。これも、ひとえに江崎の管理の細かさを俺に知らせた。レイプを繰り返してきた江崎であるが、その裏側に笑子への情愛があると俺の胸の底を撫で下ろさせた。「もう、行くのか?」「ああ」言葉少なく頷くと江崎はなにか言いかけた。「なん?」「ああ・・...笑う女・・17

  • 笑う女・・16

    園長が話しだしたこと。簡単にいえば、俺の昇格・・・。単純に喜べないのは、俺が此処をやめようと決めていたから・・・。そして、悪い事にこの昇格は俺の辞職を反古にさせる事情の上に成り立っていた。「実は、江崎君が退職することになったんだ」え?寝耳に水というのは、こういう事かもしれない。俺の心中は複雑だった。先を越された?と、言うわけではない。江崎が、俺のように・・笑子との交渉に虚しさを感じながら自分の欲望を抑えることの出来ない。そんな自練磨から抜け出そうとしているとは思えない。だが、事実は先を越されたという事になる。だが、江崎が何故、此処をやめる?江崎の理由は俺とは、別の所に在るとおもいながら、俺は園長からの説明を待った。その事情をきいてしまえば、やむをえないと理解するしかなく、江崎が居なくなった穴を埋める人間は...笑う女・・16

  • 笑う女・・15

    笑子を抱くこともあと、何度あるだろうか?患者達が寝静まった廊下をさかのぼり、笑子の部屋にたどり着く。宿直の当番が俺たち3人の誰かだとどうやってわかるのか?あるいは、この時間まで焦がれる欲情に眠れぬまま、俺たちの誰かが来るのを待ち続けているのか・・・。笑子の部屋の電気をつけると笑子が笑子のごとくに、微笑んでいる。それも、あと、何度あることだろう。俺の後釜に入るだろう男もいずれ、笑子の渇望に飲まれ笑子との交渉はひそかな3人の男の独占行為。かすかな、嫉妬はいつでも、自由に女を抱ける男たちへのうらやましさ。それでも、もう、こんな繰り返しにピリオドを打たなきゃあるいは、俺は笑子の従属的なしもべ。『江崎や徳山に・・そして、俺の後釜に・・・』下げ渡し、手放すに惜しいのは、まだ、俺の欲望が熱いせい。「笑子・・」呼べば甘い...笑う女・・15

  • 笑う女・・14

    7月いっぱいで、此処をやめる。そう決めたからこそ、俺はいっそう、笑子をかまいたかった。俺が居なくなっても、徳山と江崎が笑子の楽しみを継続させてゆくだろうから、俺の必要性など、どこにも見当たらず事実は、俺の欲望を満足させているだけに過ぎない。ただ、俺は俺の中で自分だけは徳山や江崎とは、笑子への対峙感情が違っていると自負していた。奴らは笑子を呈のいいはけ口にしている。比べ、俺は少なくとも笑子に愛情とは、呼べないが一種、情・・・。情が映っているといっていいだろう。それは、特殊な情といっていい。笑子によって男の部分を満足させられているからこそ、沸いてくる類いのものだ。笑子を義務的、あるいは、事務的にあるいは、職務的に世話をしているだけの俺だったら、笑子の性への希求にほだされることもなく、憐れを感じることも無かった...笑う女・・14

  • 笑う女・・13

    同じことの繰り返し同じことの繰り返し同じことの繰り返し・・・ボランテイアの仮面をかぶって笑子を蹂躙しつくす俺はいつのまにかその主導を見失っていた。笑子に性の歓喜を渡してやるだけのはずが笑子の肉に溺れ俺は今日も笑子をまさぐる。「ちょっとだけだぞ」笑子の精神年齢を例えれば3歳児のそれと同じだろう。陰部の清拭を終えるとぐうと果肉をつまみ、突出した陰核に指を沿える。笑子の瞳が潤み甘い咆哮と空中に腕が泳ぐ。腕が泳ぐのは笑子の要求だ。男の物がほしいとあえぐ三歳の肢体不自由者の懇親のサインだ。「欲しいんだろ」俺はあいもかわらぬスタイルに変化を求める。これさえ、既にボランテイアの域を脱し己の嗜好を追従する『男』の表れでしかない。いつもと違う恰好・・・。笑子を俯けるとベッドの端まで笑子の肢体をずりさげ高さをあわせるために、...笑う女・・13

  • 笑う女・・12

    俺の胸の中で、この時は確かに『ココを辞める』そう決めていたはずだった。此処は7月に賞与が支給される。それをもらったら、俺は此処を辞めよう。そう決めて・・・何事も無かったように職場に入った。さいわいなことに、俺はメインで笑子の世話をする立場じゃない。江崎が公休の時の代打になるわけだが、それも、徳山と分割される。だが・・・・。やはり、順番というものは回ってきて・・・俺の宿直当番と江崎の公休が重なった。笑子の父親は笑子を施設に放り込んだまま、マトモに面会にも来ないうしろめたさを拭うためか、笑子に個室を与えるように支持して来ていた。それが、結局江崎の恣意を容易にこなす手伝いになるともしらず・・・。そして、また・・・。俺の意志に逆らう逆賊的なフェロモンに誘淫されることを許す環境でもあった。笑子の個室のドアをあけると...笑う女・・12

  • 笑う女・・11

    通常・・。病院などに長期入院している患者にとって何よりも楽しみなのは、食事だろう。笑子に性を教え込みさえしなければ笑子はひずんだ欲望処理の餌食にされることはなかった。そして、三度の食事を楽しみにするだけの憐れな消化器官を具有する物体として、男の欲望にもまれもしなかった代わりに食事を与えられ、厄介な生き物として事務的にあるいは、機械的に満腹感を渡される。これは・・、惨めじゃないか?わずかながら・・・。女として扱われる。人間として対峙されるという部分だけにスポットを当てれば笑子はセックスされることで、笑子という存在としては、最高に人間らしい頂上に立てているのかもしれない。まして・・や、江崎の言う通り笑子の希求であるならば・・・。笑子の意志でしかない。笑子が望んでいる。俺は手を胸から滑らし笑子の秘部にふれた。薄...笑う女・・11

  • 笑う女・・10

    「なんだって?」徳山・・が?徳山までもが・・・?二人して笑子を犯していたというのに・・・、俺は何も気がつかず・・。笑子に対して清廉潔白をもって処していた・・。守るべき筋もない笑子の操であるが・・、それも、すでに貫通をうけ、男の物によがる女でしかなくなっていたとも知らず?あるいは、俺一人、つんぼ桟敷・・・。「徳山・・は・・」俺は何を聞こうとしていたのだろう・・。徳山が自分で笑子を犯し始めたのか?それとも、江崎が教えたのか?そんなことをきいてどうなるという?今更・・笑子が男の身体を知らない処女にもどれるわけもない・・。徳山が江崎に教えられたにしろ、笑子の変調に気が着いてのことにしろ、自分が笑子に対してどう接するべきかを決めるのは徳山自身だ。その徳山が笑子を犯しその肉を味わうことを選んだ・・事について、俺が何を...笑う女・・10

  • 「障害(優性思想)ー(劣勢排除)」

    笑う女を揚げようと思った。その当時の迷いが、そのまま本編に投入されたままだった。この作品むつかしい側面があると思う。書くに至ったバックグランドから細かく書いていきたいのが、本音だったが下記掲載により省略することにした。****************今回もブログふたつの連載物?を横において、此処のHPに作品をぶっつけ、本番で書き始めた。書いているというほどの量ではないが、書きかけて、迷った。と、いうのが・・・。今回、精神薄弱児をモチーフにしてゆこうと思った。其の裏にある身体障害者の話がある。精神薄弱児、肢体不自由児への性的虐待。これは、時に、施設の職員によっておこなわれることがあるという。性的虐待という表現は適切でないのかもしれないが、例えば女の子の生理。この世話もたいへんであるうえ、仮にレイプなどという...「障害(優性思想)ー(劣勢排除)」

  • お登・・・終わった・・

    長かった~~~~~!!お登勢・・終えました。これから、順番替えですが・・・余韻に浸りたい気分もある。最初の設定では、2万文字くらいだろうと考えたのは、単純に、このラストシーンにもっていきたい。と、いうだけだったのです。ところが、あんちゃんのところにお登勢が、転がり込む?どうしたら、転がり込める?なにもなしに転がり込むなら惚れたもの同士ー一緒に居たいと、いう設定しかないわけでだったら、ラストシーンは必要ない。でてこない~~~~!!人物・キャラクターというのは、設定以上のパワーをもっていて設定どおりに動かそうとしたらーありえんーーこいつは、こんなことしないーと、いうことが、しばしば。一番、もがいたのは、白蛇抄白峰大神のラスト。子蛇を討つシーン。ひのえは無論の事だが白銅が、無情な決断を遂行できるか。これを、無理...お登・・・終わった・・

  • 心の中のフィルターに・・・

    開設日とビジネスと食べたのと-~美味しく楽しく~2(goo.ne.jp)この記事を読ませてもらってコメントを残そうと思ったのだけど・・・ど~~も、複雑。NHKの朝ドラは、カム・カム・・・にどっぷりはまってしっかり、見た。が、ちむどんどん???は、さっぱり。なにか、気になるトリガーがあれば朝ドラの落とし穴におちたのだろうが・・・うまいこと、ひっかからなかった。そのちむどんどんの中でねずみ講にひっかかってしまった登場人物がいるらしい。管理人様のリアルでも、同じようなことが有って色々、回想されている。そこである。ふたつの事がわいてきて・・・コメントを書こうとおもったのだ。だが、めちゃんこ長くなるぞwwwと、思った。ま、それなら、自分の所に書こうと・・・(長い、前置きである)湧いてきたひとつめ。ねずみ講のようなも...心の中のフィルターに・・・

  • お登勢・・49

    夜来の雨が止み、抜けるような青空をくっきり移しこむ水溜りをよけた拍子にお芳の下駄の鼻緒が切れた。たまり水のぬかるみをよけて、鼻緒をくくりなおしたお芳の顔が薄暗い影を貯めて水溜りに映っていた。『こんな・・顔じゃあ・・・』このまま、あいまいに話がながれてゆくかもしれない。流れてゆけばいい・・と、思っていた。なのに、まちくたびれ、業を煮やした剛三郎が口火を切った。「俺が呼び出しても、お登勢がうんというまい。お前が丁子屋に・・・お登勢を・・」あとは俺がうまくやる。と、剛三郎が言った。『うまく・・や・・る・・』男と女に成る。剛三郎から、あからさまにお登勢への執心をかなえてくれとねだられると、お芳は悲しい顔を繕うことに勤めるしかなかった。そして、夜半の雨音に紛らわせながら震える心を振り絞り声を殺し、喉の奥で泣いた。朝...お登勢・・49

  • お登勢・・48

    お登勢と木蔦屋の女将の話がどうなったか・・・。染物の型を敷く晋太のまなざしがきつく、ききだしかねていた徳冶の心中を察していた晋太だったが、染物の型とりをすました昼前にやっと、徳冶に昨日の落着を告げた。「ああ・・。案ずるより、うむがやすしというところだったんだな」あんきに木蔦屋の女将が得心したと考える徳治に晋太の一抹の不安を話し徳冶の気持ちを煩わせることを控え肝心のお登勢との進展を考えあわせた晋太だった。「お登勢は今日から大森屋で働いています」「ああ?だったら・・・」早速にでも、大森屋にいってみようと己の恋情を口に乗せ掛けるをてらい、徳冶が黙った。「お登勢の様子見がてら・・・昼飯をたべにいきませんか?」徳冶にとって願ったり叶ったりの引き合わせである。そして、暖簾をくぐった晋太が大森屋に声をかけられることにあ...お登勢・・48

  • お登勢・・47

    お登勢の朝は早い。大森屋は朝飯から、顧客を得ている。陽が登りきらないうちから床を抜け出し晋太の朝食を作りあげるとお登勢は暗闇の中を走り出してゆく。大森屋の賄い場にはいれば、大きな釜に味噌汁がつくられ、その横のかまどでは、大根の煮付けが湯気を立てていた。「おお・・待ってたよ・・・」お登勢を見つけた大森屋の主人は早速、米をたいてくれとお登勢をせかす。「とにかく、合戦みてえなもんなんだ・・」一汁一菜の朝飯が、さまにたべられる重宝さで、朝から大森屋はごった返す。なにがどこにどうあるか、まだ、要領がわからないなどといっている余裕さえなくして次から次から指図される事をこなしおえて、やっと、客がひけると、今度は昼食に向けての準備が始まる。「お登勢ちゃんといったかねえ。こんな調子だから、手のすいた時にそこらへんのものを自...お登勢・・47

  • お登勢・・46

    他の女じゃ駄目・・・。お登勢がいいといってるんだ・・・。お登勢だから剛三郎の胤をはぐくませたいと思い始めたんだ。夫の心を奪い去った「女」であるお登勢が、ねたましくそして、憎いとお芳は思った。そして、そんな思いを持ってしまった自分を許すこともできず、醜い女になってしまった。それがお芳を憔悴させていた。「おまえさん・・・どうしても、お登勢じゃないと駄目かえ?」また、妙なかんぐりが始まったと剛三郎がお芳をいなすかと思った。だが・・・。「てかけをとれというなら、おまえがそういってくれるなら、俺はお登勢がいい・・・」「おまえさん・・・」やっと事実を認め始めた剛三郎であったが、恋情を吐露せずに置けなくなった剛三郎の本意がお芳の胸にあまりにも痛すぎた。悲しい女心である。『お前がそういってくれるなら・・』あくまでも、お芳...お登勢・・46

  • お登勢・・45

    「なんだろう?なにか、良いしらせかね?」「・・・・・」「お登勢の縁談相手がわかったのかい?だったら・・・、うちで、仕度をしてやらなきゃなるまい?木蔦屋から、嫁にだしてやろう・・。そうだな・・。そうなら、お登勢に帰ってくるようにおまえ、ちゃんといったんだろうな?はああ~~ん。帰ってくるんだな?そういったんだろう?」饒舌になる剛三郎の言葉の中に魂胆がある。筋書き通り・・・。お登勢を呼び戻して嫁に出す前に・・・。棚から転がってくるように話が進んでゆく。剛三郎は満面の笑みをうかべていた。「帰ってきやしないよ」「え?」「此処には、帰ってこないよ・・・」「なに、いってるんだ。子飼いの時からの奉公人が店を飛び出してあげく、そしらぬ顔で嫁にゆく?お登勢はそれでいいかもしれないが、木蔦屋のめんもくがたたないじゃないか?だけ...お登勢・・45

  • お登勢・・44

    大森屋の奥座敷からお芳を送り出すと、お登勢はほうううとため息をついていた。お芳の胸中を思うと暗澹としたものがお登勢をつつむこんでゆくのであるが、その暗い気持ちの横に得手勝手なうきたちが並び立ってくる。「あんちゃん?女将さんがいっていた縁談っていうのは・・・ひょっとして?」徳冶さんのことだろうか?と、たずねたくなる言葉をお登勢はつぐんだ。いくら、女将さんがお登勢が自身の幸せをつかめばいいといってくれたとしても、剛三郎の事実を告げられた女将の心証を考えれば、己のときめきに走るは、あまりにも身勝手すぎる。「そうだなあ・・」お登勢の口から出てきた言葉が徳冶への甘やかな期待だったから晋太はかすかに微笑んだ。お登勢という妹が一人前の女性になりかけている。たゆとい思いでお登勢をながめる晋太の胸の中では徳冶がお登勢の真の...お登勢・・44

  • お登勢・・43

    お登勢にあった。無事で居ると分かって安心したし、あとは、お登勢の想う人と木蔦屋に仲人をよこした先方様が合致すれば、話はとんとんとまとまるだろう。あの品の良いご隠居がどこの誰かを調べなきゃ成らないなと考えながら家路を急ぐお芳の胸にふいに暗く深い痛みがはしってきた。お登勢から聞かされた事実。いや、正確にはやっと気が着いた事実。剛三郎の不埒を嘘だと否定してみるものの、どう考えても、つじつまが合う。お登勢には虚勢を張ってもみた。お登勢のさいわいのほうがお登勢を目の前にすれば気がかりだった。だから、いま、目の前にお登勢が居なくなればお芳の胸の中で悲しい事実が煩悶される。うちの人には、何も、いわないほうがいいのだろうか・・・。お登勢から知らされた事実は無論お登勢の所在も・・・。何も聞かなかった事にしてこっそり、お登勢...お登勢・・43

  • お登勢・・42

    だが・・・。「女将さん・・。追い出したり出来る人なら、あたしも逆に堪忍してやってくださいとお願いもしたと思います。その人は・・・」一番言いたくない事実にお登勢の肩が震え、お芳はお登勢の様子をみつめていた。その頭の隅でなにおか、納得するにしっくり来ない食い違いが在るとおぼろげに理解し始めていた。「お登勢・・・?約束するよ。それが、誰であろうとけっして、悪いようにはしない」お登勢の口が開かれるを待つよりお芳の口は流暢である。「だいいち・・、追い出すに追い出せないなんて・・。そんな・・・そ・・ん・・・あ?」お芳が思い浮かべた、追い出すに追い出せない人間とは・・・「え?・・まさか・・?」奉公人であれば、追い出す事は簡単に出来る。簡単が通らない相手は・・・わが亭主である剛三郎しか・・いない?「え?あ?・・・まさか?...お登勢・・42

  • お登勢・・41

    「まあ・・びっくりしたよ」大森屋の奥にとおされたお芳の前に小さくお登勢がうずくまりただただ、頭をたたみに擦り付けている。その横に、染物屋の晋太さんがお登勢の頭が上がってくるのをじっと見ている。「お登勢・・まあ、無事でいるってわかったから、なんだよ、あたしも・・なおさら、やっぱり、はいそうですか。って、いいきれないんだけどね・・。なんだって、おまえ、何も言わずに飛び出しちまったんだい?なんで、あたしに一言の相談もなく・・。情けなくって・・あたしも・・」口の端をくうとへの字にかみあげて、お芳が泣き顔になる。「女将さん・・・。それをお登勢の口から言わせるのが酷で、俺がついてきたんですよ。お登勢がやったことは恩知らずも、恩知らず。女将さんにすりゃあ、飼い犬に手を噛まれたなんてそんなもんじゃあすまないだろうに、お登...お登勢・・41

  • お登勢・・40

    「ところで・・・木蔦屋の女将さんには、いつ話しにいく?出来れば、俺がついていって、立ち会ってやりたいとは思うが・・・」そうも行かないことは重々承知の徳治である。「できるだけ、早いうち、俺は今からでも良いと思ってるんですが、こんな話しってのは難しいですよ」晋太がいうのは、病で言えば自覚という事である。自分に病巣があると、うすうす気が付いている人間に話すことはたやすい。病人はすなおに病から救われる法に耳を傾ける。ところが、木蔦屋の女将は自分に病巣があることすら、知らない。その人間に『病』を知らせてみても、まず、しんじるか、どうか。たとえ、信じても『病』を『病』通りに受け止められるか、どうか。剛三郎の不埒をお登勢のせいと考えるかもしれない。確かに、お登勢にも隙があったと言える。己が女であることを思えば男が女にい...お登勢・・40

  • お登勢・・39

    井筒屋に入った途端晋太は徳冶にひっぱられる。「で、どうだった?」徳冶がたずねることはお登勢の事に決まっている。「木蔦屋には話に行きます。それとは、別に、お登勢は働きにいきたいっていいだして・・・。俺もその方がいいと思うし、食べ物屋かなにかがいいっていうから、大森屋に話にいってこようかとおもってるんですよ」「う~ん」徳冶にすれば、そんなところにお登勢を働きにいかせたくない。嫁にもらえば、大森屋だって直ぐにやめることになるわけだし、なによりも、大森屋も客の出入りが激しく、あらくれた人足だって、くるし、おまけにそいつらは、酒だって飲む。器量の良いお登勢に剛三郎のようにちょっかいをかける奴もでてくるかもしれないし、そうでなくても、お酌くらいしてゆけと、お登勢に強請るだろう。「いや・・。そんなことより、先に木蔦屋の...お登勢・・39

  • お登勢・・38

    晋太の暖かさにお登勢の瞳から涙がまたあふれかえってくる。その涙をひっこめてやろうと晋太が言う。「食い物商売ってのは、いいな。お前がしっかり話してゆくと決めたからあんちゃんが大森屋に口をきいてみるよ」「大森屋?」「ああ。その折が大森屋だ。うまいだろ?」「うん」頷きながら、あんちゃんらしい、お登勢はそう思う。きっと、あんちゃんは登勢が働きたいって言ったときから大森屋がいいって決めていたんだ。でも、登勢がどんな思いではたらきたいっていうか・・。それがちゃんと筋の通ったものになってないから、大森屋のことは言わなかったんだ。それが、登勢がちゃんと、逃げないと決めたら直ぐに「大森屋」って、教えてくれる。あんちゃんの切り替えは吃驚するくらい早い。登勢も・・見習わなくちゃいけない。ぱっと変わる。登勢もそうならなきゃ・・。...お登勢・・38

  • お登勢・・37

    「う・・・ん」頷いてみたものの、やはり、お登勢の不安は取り払えない。事実を知った女将さんがどんなに苦しむだろう。そればかりじゃない。知ったばかりに、逆に旦那様に愛想をつかしゃしないだろうか?晋太は迷い顔のお登勢をじっと見ていた。「それに、このままじゃ、お前は女将さんに顔むけができなくて罪を侵した人間みたいに外に出ることもできないんじゃないか?よしんば、外に出ずにずっと、ここにいてもいつ旦那様が、此処におしこんできやしないか、って、びくびくしながらって事になる。壊れかけた夫婦のためにお前が損な思いでいきる必要はないだろ?まず、自分がちゃんと生活できるようにするのが、先なんだ。お前はびくびくしながら、夫婦が壊れてゆくのをみているほうがいいか?それより、自分もまっとうに暮らして行けるようにする、夫婦の仲も本物に...お登勢・・37

  • お登勢・・36

    「・・・・」返す言葉がでてこなくなったお登勢である。確かに・・・あんちゃんのいう事は筋が通っている。でも・・・。登勢が考えたように、「魔がさした」で、収まってしまうことはないのだろうか?もし、気の迷いだったと旦那様がかんがえなおすのであれば、女将さんに事実を伝えずにすましたほうが、なんぼか、良いに決まっている。旦那さまの足元をくずす真似をする必要はないといえる。それでも、あんちゃんの言う通り、旦那様が他の女・・・を、囲うというのなら・・・。跡継ぎ、自分の血筋がほしいと願う旦那様を引き止め止めさせることが、旦那さまにとっては幸せだろうか?夫婦が崩壊し女将さんは苦しむだろう。でも、男の・・・。それも、きっともう、今が最後の機会だろう。我侭でしかないだろう男の、子を得たいという願いを考えると女将さんこそがかなえ...お登勢・・36

  • お登勢・・35

    酸味が勝った安物の酒は口の中に小さな粟粒を残す。口の中の渋さを湯飲みの酒でのみほして、又も、小さな粟粒のような酸味を舌にころがして、晋太は止まったお登勢の手先を見つめなおした。「まあ・・・たべながら・・にしよう」せっかくの折を食べさせなきゃ徳治にももうし分けない。「うん・・」漬物をぽりりとかみしめて、お登勢は晋太を待った。「夫婦ってのは、割れ鍋に綴じ蓋っていうようにな・・・。それなりの相手にそれなりの相手が添うもんだよ。不埒で不誠実な考えを起す旦那って物を裏返してゆくとそんなことをしでかさせてしまう割れ鍋って言うものがあるんだ。木蔦屋の旦那の醜態も結局は、女将のせいでもあるって事だ」晋太の言い分をお登勢は飲み込むに飲み込めない。慌てて、漬物を噛み砕き、のみこむと、異論を唱えるお登勢になる。「女将さんに、何...お登勢・・35

  • お登勢・・34

    屋移りの祝いに貰った酒を湯飲みに注ぎながら、晋太は飯台の上に折り詰めをおいたままのお登勢に遠慮することはない、とすすめなおした。「あんちゃんはお酒をのむようになったんだ?」「うん。だけど、これは違う。これは屋移りの祝い酒だから・・・」今までは給金は井筒屋預かりであるが、節季にまとまった金を渡されると姉川の両親の元へ届けに行った。金を渡しに行って、帰ってくるだけの盆休み・正月休みになるのだが、晋太の届ける銭のお陰で弟も妹も何処にも奉公に出されず、田地田畑を耕し続けていられた。だが、一本立ちになったこれからは家賃も晋太が自分で払い、食い物も着る物も自分で裁量してゆかねばならない。生活は厳しくなるが、些少の自由もできる。その一つが、酒になるかもしれない。「もう、前ほど、親に銭をわたしてやれなくなったけど・・・。...お登勢・・34

  • 思い起こす

    消し忘れていたのだろう・・・以前の連載№が残っていた。97だった。現在の33№を思うと、1スレッドに3倍の文字数を詰め込んでいる。長くて、嫌になっちゃうだろうと心配するが長ければ、嫌になってしまうような、書き方しかできない方が悪いわけで、そこを反省?せず、心配するなどやっぱ、おこがましい。とは、いうものの、自分でも考える。プロト、粗構想のときには、せいぜい、2万文字の作品と思った。ところが、人物の肉付けが必要になってくる。その結果、しつこいほど、強くて優しいお登勢と、書いているのだから簡単に話が終わる・・はずだった。ところが、晋太は、ちゃんと、お登勢の穴を見抜く。すると、今度は、お登勢の穴を見抜ける晋太であるという人物の肉付け・根拠が必要になってくる。その見抜ける晋太であるということを話の中にいれこむ設定...思い起こす

  • お登勢・・33

    「このままじゃ、お登勢は外にも出られない。おまけに、女将には、黙っていようとするお登勢だと木蔦屋の旦那にとっても、他の女を捜すより、女将には話さないお登勢なら、自分の立場も護れるし、外に出て行ったお登勢だから、女将の知らぬ所で、旦那はいっそう、好き勝手が出来る。こんな好都合な事はない。って、事になる。お登勢は喋らないことでいっそう自分を窮地に追い込んでいるんだ。俺のところに逃げ込んだって何の解決にもならない外側の状況と心のうちも不幸せ。俺はそんなお登勢に若頭を引き合わせるわけには行かない」徳冶の元へ嫁ぐことになったとしても、今のままのお登勢では、逃げであり、ごまかしになると、晋太は繰り返した。「おまえ・・・?まさか・・・」「夫婦の喧嘩は犬も食わないというけど、ましてや、俺がしゃしゃり出る立場でもないけど、...お登勢・・33

  • お登勢・・32

    大森屋の奥に入れば、腹が減ってるだろうと徳冶がたずねるより先に晋太への飯とおかずが給仕されてくる。「いけたよな?」と、酒を注文した後に晋太を振り返る徳治の気配りも深い。「お登勢ちゃんの分もたのんである。折りにつめるようにいってあるから、帰りにもらっていってやってくれ」それでゆっくり喋れるという按配で徳冶が用件を切り出し始めた。「お登勢ちゃんからも、聞いていることと思うが・・」と、徳冶が言い出した言葉に晋太がかぶりをふった。「いや、おおかたの察しはついているが、お登勢からはまだ何も聞いていない」ぐうと、徳冶の顎がひける。「な?なんにも、きいてないのか?」「ええ。これから、聞こうとおもってるんです」晋太の返事にいささかのじれったさが見える。それが、多少の切り口上を生んでいる。お登勢から聞いてるだろうとあてこん...お登勢・・32

  • お登勢・・31

    店の中は相変わらずあわただしい。大釜で染料を溶かし始めていた徳冶が晋太を見つけると「法楽屋の暖簾をやってみろ」と、いう。法楽屋の暖簾はこれから蝋を落としてゆく段階である。その最初の段階を任せるという。それはすなわち最後の仕上げまで晋太がやれという事に通じる。何処までの技量に仕上がっているか、試されるのだと判ると晋太に軽い武者震いが起きていた。晋太に仕事を言いつけた徳冶の様子が常でないと晋太が気が付くのはもう少し時間を経てのことになる。言いつけられた仕事への奮起が晋太を包み徳冶は晋太の仕事振りを見つめる。徳冶は徳冶で思うところがある。木蔦屋に今日、大西屋が出向いて行く。お登勢の返事がかんばしければ・・・。『晋太は俺にとっても兄になる』いささか、先走りすぎるとは思うが女房の兄を奉公人の立場で置いておくわけには...お登勢・・31

  • お登勢・・30

    お登勢は昨日の明け方近くに木蔦屋をぬけだしていた。これもお登勢なりにかんがえたことである。夜中に戸閉まりを解き放つ無用心を思ったお登勢は木蔦屋のまかない方であるおさんどんが一番におきだしてくる明け方近くまでを待った。勝手口の戸が開いていてもおさんどんが最初にそこに来る。蜆売りや豆腐売りがくどに顔をだせるように、戸の鍵をはずすのが、おさんどんの日課でもあるわけだからおさんどんがいれば、戸があいている。逆を言えば戸が開いていても、おさんどんがいれば無用心でない。そろそろ、おさんどんがおきだしてくるまでのほんのわずかの違いをひきぎわにお登勢は木蔦屋をぬけだし、晋太あんちゃんの元へとひた走った。晋太のすまいの前にたちつくすと、それでも、お登勢の胸に迷いが生まれる。「あんちゃんの屋移りのことは女将さんに、はなしそこ...お登勢・・30

  • らちかんぞ に籠る思い

    お登勢11のなか・・・泣き出したお登勢に晋太は手ぬぐいをにゅとつきだし・・・。「はなしてしまわなきゃ・・・らちかんぞ」やっぱり、あんちゃんらしくお登勢をしかりつけた。と、いうのがある。「らちかんぞ」と、いう言葉。だちかん(新潟の方言)の解説仕方がない。だめだ。そのんことゆーたらだちかんちゃ(そんなこと言ってはいけないよ)※「らちかん」とも。この言葉を知ったのは、福岡・博多あたりのものとしてだった。ところが、ネット検索では、新潟の言葉となっている。いずれにしろ、滋賀県あたりの言葉ではないのだが使いたかった。改めて、調べなおしてみると新潟で、だちかんぞとなるのは理解できる。新潟の言葉使いに~~だろ?と尋ねるときなどに~~らろ?と、発音することが有った。「だ」と「ら」が、おなじ発音になってしまうということだと思...らちかんぞに籠る思い

  • お登勢・・29

    縁の下に隠れたままのお登勢がみじろぎもせず、正気を逸しかけていた。そのお登勢に気がついたのが、晋太であり、子供ひとりがやっとはいれるかという狭い縁の下でお登勢を菰に乗せ、引きずり出してきたのである。晋太がお登勢に気が付くのがもう少し遅かったら、今頃は口のきけない気違いになりはて、お登勢はどうなっていたであろうか。「子供心にもねえ、助けてやりたい。助けてやりたい。って、晋太さんはそれだけしかなかったんでしょうね。お登勢さんはね、晋太さんの『生きろ。生きろ』って、思いをいっぱい受けて正気を取り戻していけたんだと思いますよ。だってねえ・・・。考えても御覧なさい。お登勢さんにすれば、そのまま、死ぬか、狂うか、よほどそっちのほうが楽だったと思うんですよ。それを、いきてゆこうときめさせたのは、晋太さんがささえてくれた...お登勢・・29

  • お登勢・・28

    徳冶を連れ出すと大西屋は立ち話もなんだからと一膳飯屋に入った。昼真から、酒もなんだろうかとおもったが、いける口かなとたずねれば、徳治の云もあり、大西屋は徳利ふたつと、奴を前に徳冶がお登勢さんの承知をもらう難しさを話す事になった。「まず、なにから、はなしてゆけば、よいかとおもうんだが・・・」大西屋の口の重たさの裏側にあるものが、なんであるか、わからないまま徳冶の不安をあおる。「ま・・まさかと、おもいますが・・。お登勢ちゃんの身代になにかあったのが、本当のことなのではないのですか?もし、そうなら・・・お登勢ちゃんは今・・・・どんな思いで・・・・」お登勢は剛三郎の恣意にのみこまれてしまったのではないか?だとすれば、どんなに辛い思いでいることだろう。徳冶は先日、井筒屋を訪ねてきたお登勢ちゃんから番頭が「晋太と兄妹...お登勢・・28

  • お登勢・・27

    井筒屋に上がりこんだ男こと米問屋。大西屋の隠居であるが、親子みつどもえで雁首を並べられると、さすがに立て板に水の如くには言葉が出てこない。何処から、話してゆくかを順序だてていたはずだが、良い知らせを待つ親子にお登勢の出奔を告げるのが、いかにも残念である。「大西屋さん・・・。いかがでしたか?」うずうずと、尻が動くかのような息子徳冶を目の端に置く事にこらえかねた井筒屋の主人・徳エ門が口火を切った。「それが・・・。お登勢さんは木蔦屋を飛び出して、行方がわからなくなっているんですよ」まず事実を告げてから、お登勢の深い事情を話してゆくしかないだろう。お登勢の出奔を聞かされて徳冶の表情は酷く、こわばったものになっていた。「で・・・出て行ったって、いったい?なんで?何処に・・・」お登勢を恋し、信じる男はお登勢の出奔の窮...お登勢・・27

  • お登勢・・26

    「ああ。やっぱり、おまえさんも本当は店の中の誰かだとおもっていたんだね」じゃあ・・・。本当は剛三郎も何もかも承知だったんだ。お登勢が男をかばってやったことを見抜いて、ああ、ああ。それで、お登勢の好きなようにさせてやれって・・・。「なんだよ?その男もそういってたのか?店の中のものだって?」「そうだよ。そして、お登勢の事もその夜這いの男の事をよくよく、かんがえてやったんだ、って。その男にだって、生活があるだろうし・・。女房もいるだろう。こんなことが主人にあからさまになっちゃあ、男が路頭に迷う。女房さんの信用も無くし、夫婦がばらばらになったあげく、たっきの道が無くなる。一人の男の人生を潰しちゃ行けない。自分が出てゆくことで男も改心してくれるだろうって、男をかばうために理由もいわず黙ってでてゆく恩知らずを装うしか...お登勢・・26

  • お登勢・・25

    男が井筒屋奥の間に上がりこんだ頃、木蔦屋にやっと剛三郎が戻ってきた。相変わらず一目散に庭に降り立とうとする剛三郎に「おまえさん。ちょいと、盆栽はあとにして・・・。こっちへ来ておくれよ。良い知らせがあるんだよ」「まあ、待ちなよ・・・」お芳の言葉をかわしておいて、剛三郎は剪定の道具箱をのぞいた。あるはずのものが無い時の人間の顔は、どこか、魔が抜けた表情になる。思考と感情がいっぺんに止まり頭の中と同じに顔まで無表情に近い。とまった時が動き始め剛三郎は此処にあるはずのものがないわけを考え始める。蓋をあけりゃあ、直ぐ分かる場所にかきおきなんぞ残しておいて・・・。側にお芳がいて、一緒に覗き込んだらそれは何だ?ひょっとすると、お登勢が何か書いて寄越しているのではないか?見せろ。と、ひと悶着が起きる。あげく、そこに『何処...お登勢・・25

  • お登勢・・24

    「なるほど・・・。確かにおまえさんの話を聞けば晋太さんというのが、『兄』のような人と言われたのに、得心するよ。私は、口入屋にも、いってこようとおもっていたんだけど、その前にやはりその晋太さんをたずねてみようとおもう。晋太さんというのが、何処にいるのか、おしえてもらえまいか」男の言葉に清次郎はゆっくりと男を斜めからみあげなおした。「笑わせちゃあいけないよ。木蔦屋にならいざ知らず、この俺にも、お登勢に縁談をもちこもうという相手が誰かあかそうともせず、こっちの知ってることだけを喋れっていうのは、むしがいいっていうか。信用が置けないっていうか。え?その相手が何処の誰かも判らない。ひょっとすると、とんでもない輩かもしれねえじゃないか?おいそれと、俺もしゃべりたくねえ。俺から晋太の居場所を聞き出して晋太にだって、そん...お登勢・・24

  • お登勢・・23

    木蔦屋での用事が不首尾に終わったと手ぶらで帰るわけも行かず、男は郭界に足を伸ばした。蛇の道は蛇、の、通り、女衒のことは郭界にきけば直ぐ分かる。郭界の入り口から三軒目。こじんまりした構えをしているが、そこに任侠の徒がいる。郭界の秩序を守り、かわりに上前をはね、かたわら、ときおり、賭場も開いている。歓楽街の任侠といえば、また女衒の元締めといってもいい。そこで、清次郎のことをたずねあげるが、いっそうはやいと男は踏んだ。この界隈においても、今だに顔が聞くこの男の生業は米問屋である。今は隠居という身分に落ち着いてしまったが、人の命をつないでゆく米という食物の上がりは大きく商売の伝も含め、この界隈に大枚を落とし豪遊の旦那としても、今も語り草になっているようである。男は若気の至りが、思わぬ役に立つことがおかしく、くすり...お登勢・・23

  • お登勢・・22

    「女将さん。私はひとつだけ・・・不思議に思うんですが、たずねてもいいでしょうかねえ?」曰くありげにきかれれば誰でも「どうぞ」というであろう。お芳もそうだった。「なんでしょう?」膝を正すかのようにお芳がすわりなおすと、男はくすりとわらった。「いや、そんな、たいそうなことじゃないんですよ。一つは、そんなお登勢さんなのに、ひょっとして、どこかの所帯持ちの男と・・・と、いう考えが何故わいてきたのか?と、やっぱり、私には解せないのですよ」ああ、そう・・。そうだろう。お芳とて、考えなかったことである。それをかんがえさせたのは、ほかならぬ夫の剛三郎である。「ああ・・それは主人がいいだしたんですよ。私は女ですから、女の見方でしか、考え付きません。男というものに、囲妾願望があるとすれば、お登勢にそういう思いを抱くものが居て...お登勢・・22

  • お登勢・・21

    「お登勢がそれだけの理由で出て行ったんだと思えないのは、まだ、ほかにもわけがあるんですよ」お芳は話してゆく道筋を思い返しながら男にまだ、わけがあるきがすると、きりだした。「次の日に・・・私はお登勢にかねてから考えていたことではあったのですが・・・」これも、いいわけだと、お芳は思う。かねてから、考えていたなら、もっと、早くお登勢の口が利けなかったときにこそ、告げるべきだったのだ。「お登勢の口がきけるようになったというのが、それをはっきり決心させることになったんですが・・。お登勢に此処に・・・。木蔦屋の養子になってくれないかとたのんだのですよ・・・」染物屋の徳冶が嫁に欲しいと必死になる娘である。木蔦屋自らが養子に欲しがるのは至極当然とおもわれるが・・。「と、いう事は此方には、跡を継ぐ方がいらっしゃらない?」「...お登勢・・21

  • お登勢・・20

    「そのお登勢が・・・一昨日・・口がきけるようになったんですよ・・・」それは、めでたいことであろうに・・・。それでも、くぐもったお芳の顔からよくない仔細があるらしいと男にはわかった。「貴方がお登勢にあったことがあるのか、見たことがあるのか、わかりませんが、そりゃああ、綺麗な娘なんですよ。ですから、お登勢にのぼせ上がって悪さを仕掛けるものがでてきちゃ・・・口の利けないお登勢になにか、あっちゃあいけないと・・・私たち夫婦の直ぐ横の部屋をお登勢にあてがったんですよ」言い訳に過ぎない。それなりに自分も気をつけていたんだという弁解に過ぎないと判っていながら、お芳はやはり言い募っていた。「それなのに・・・一昨日・・・お登勢の部屋に・・・誰かが忍び込んだのです。お登勢は先程も話したとおり目の前で母親が犯されそして、殺され...お登勢・・20

  • お登勢・・19

    そして、剛三郎である。中村の旦那をたてまえにとって、急く足をそのまま、洸浅寺横の茶店にすべりこまると、番台に座ったままの茶店の婆にたずねた。「若い娘が、一人であがりこんでいるだろう?」当然、「ああ。ずっと待っておいでだよ」と、返されてくるだろう婆の言葉が剛三郎を裏切った。「昨日、一緒に来た娘さんかい?・・・見かけてないよ」「え?」婆の顔つきをまじまじとのぞきこんでみた。ずいぶんと娘を待たした男を娘に代わり、しっぺをはって、からかっているものとは思えない。「昨日の娘って・・・わかっているんだよな?」「婆だと思って、ぼけたといいなするか?娘もなにも、一人で来ている客なんか、いやしないよ」「そ・・うか・・・」剛三郎はそのまま引き下がるしかない。茶店の外に出た足がそのまま洸浅寺をめざす。そうだ。俺が行きそうな場所...お登勢・・19

  • お登勢・・18

    しぶしぶという呈をよそおって、剛三郎はぽつりとつぶやいてみせた。「どこかの・・・大店の・・旦那の妾・・」「あっ・・ええ?」あまりにも意外な言葉がとびだしてきた。お芳の胸がびくりびくりと動いているのが自分でもわかる。「なにを・・、そんな馬鹿な・・・」剛三郎の話に何の裏打ちなんかありゃしない。ないけれど、それを違うといえる裏打ちもない。違うといえる裏打ちもないどころか、大店の旦那の妾。そう考えれば、なにもかもにつじつまがあってくる気がする。「じゃあ・・・。お登勢は・・・もう、そこに行って戻ってこない覚悟ででていったということなんだろうか?」いったい、何処の大店の旦那だという?妾を囲えるような大店で・・。少なくともお登勢が出入りした店・・。『染物屋の・・?いや、ありえない。あそこの夫婦は随分と仲が良いって、もっ...お登勢・・18

  • お登勢・・17

    お芳もおさんどんよろしく、袖をまくり挙げて、てつないにはいっていったくどにいつも、朝餉の手伝いにはいるお登勢の姿がみあたらない。「おやあ?めずらしく寝坊かい?」今まであったことじゃないから、寝坊というより・・・。具合でも悪くしたのかしらん?と、お芳は挙げた袖、そのままに、お登勢の様子を見に行く事にした。お登勢の部屋のふすまの前でお芳は声をかけた。「お登勢、はいるよ。どうしたね?具合でもわるいのかい?」だが、部屋のなかから、お登勢の返事はない。いよいよ、これは・・・。熱でもだしているのかとお芳は遠慮なくふすまを開いた。「え?」部屋の中にお登勢の姿はなく、寝床もあげられていて、部屋の真ん中に昨日の夜遅くまで仕立てていた紬の男羽織が丁寧に折りたたまれている。「や・・やだね・・」お芳ははじめ、お登勢が晋太さんと逢...お登勢・・17

  • お登勢・・16

    ひとり、部屋に残されるとやはり、お登勢がこっちに話してくれなかったことが心に浮かび、ひかかってしまう。そのこだわりを宥めるようとお芳は自分に言い聞かせる。剛三郎の言うとおりにしよう。あたしからは、お登勢になにもいうまい。と・・・。だけど・・・。と、お芳は思う。剛三郎の推量が本当だったとしたら、お登勢は誰の事をおもっているというんだろう?殆ど木蔦屋に居るばかりで、お登勢が誰かとこっそり逢っている・・とは、とても、考えられない。ましてや、昨日まで口が聞けなかったお登勢がどうやって想いを交わすことができるのだろうか?こう考えるとお登勢が胸のうちに想いを秘めているだけに思える。たぶん、そうだろう。と、なると、剛三郎の言う例えば、大店の跡継ぎというのは、違う。お登勢ひとりが胸に秘めている想いだけでしかないのだから、...お登勢・・16

  • お登勢・・15

    つじつまあわせにどうだん躑躅をひとつ買い込んで、剛三郎は昼も過ぎた刻限にぶらぶらと帰って来た。「おまえさん、昼はどうしなすったんだい?」と、問い詰めるお芳への答えもいつものごとくで構わない。そして、庭に躑躅の鉢を持って行きがてら、仕立物にかかずらわってるだろうお登勢をちょいと、覘いて・・・・。だが、店先に顔を出した途端剛三郎の楽しい思案も吹っ飛ぶお芳のいきなりの切り口上を浴びせかけられることになる。「おまえさん、ちょっと、きいてみたいことがあるんですがね」主人がかえってきたというのに、おかえりでもなければ、帳場にすわったまま、お芳の目つきまで、座っているように見える。「なんだね・・・いきなり・・・」お芳のこういう感情むきだしも、剛三郎には慣れたことである。お芳にいわれる先に「じゃあ、これをおいて、部屋にい...お登勢・・15

  • お登勢・・14

    胸に抱いた、海老茶色の風呂敷の中には染物屋から、託された使いの品がある。それをぐうと、胸に抱いていないと、お登勢の胸がつぶれそうに、痛い。剛三郎に触れられた事よりも、ねとりと、口を吸われたことよりも、『女将さん・・・・、なんていうことだろう・・・』女将さんがあんなに信じ、敬い、大事にしていなさるだんなさまは・・・・。女将さんを裏切りなさる。そして、そうさせるのがお登勢なのだ。何も知らせちゃいけない。剛三郎をして、この先、あん時は、ちょっと、魔がさした・・・で、おわる事にするのだ。そのためにも、毛ひとつもうたがいもしない、女将さんを崩しちゃいけない。何もかも、なかった事にしてしまうためにも、この先にも、何もおこらないためにも、お登勢は木蔦屋に居ちゃいけない。出てゆくしかない。だけど、それは、あまりにも恩知ら...お登勢・・14

  • お登勢・・13

    剛三郎に手をとられて、はじめて、お登勢は剛三郎の真意と、昨日の夜に、お登勢の寝間に忍び込んだ男が誰だか判った。えり合せに差し込まれたひやりと湿り力仕事をした事のない柔らかな手の感触が、お登勢の手を包む剛三郎のそれと同じものだった。なにもかも、つじつまがあってくると、お登勢は今、自分がとんでもない窮地に立たされていることも理解できた。『あの時と・・・同じだ』お登勢の思うあの時とは、昨日のことなどではない。姉原の縁の下に潜り込んだ時のことである。『やりすごすしかない。じっと、黙って、やり過ごすしかない』うっかり、叫び声をあげたり、顔色を変えて、抗って見せたり下手ないいわけで、剛三郎から、にげようとしたら、剛三郎はあの時、母を、父を、殺した武者と同じ。己の感情のたけりのままをぶつけてくる。だが、このままでは、剛...お登勢・・13

  • お登勢・・12

    ちょっと、と、思っていたのに、随分手間をとってしまって、女将さんが心配なすっているかもしれないと、お登勢の足は小走りになる。あんちゃんが一本立ちになったことも嬉しい伝えごとになる。ひとりで暮らせるという事は染物の技を大方を取得できたからこその自由でもある。あんちゃんは子供の時から器用でやさしかったから、染物ひとつにも、丹精こもるものをつくっているに決まっている。良かった。良かった。と、お登勢の胸の中があたたかくなってくる。頑張れば、ちゃんと、みてもらえるんだ。あんちゃんがそう証だてて見せてくれている。あんちゃんに負けぬよう、お登勢もがんばらにゃあ・・。胸のうちの喜び事と語り合いながら小走りのお登勢が洸浅寺に差し掛かると、「お登勢、おい、ちょっと、お待ち」声をかけられた。えっ?と後ろをふりむくと横の小道から...お登勢・・12

  • きっかけは・・・

    お登勢を書こうと思ったのは帰郷の途中、姉川の合戦址に立ち寄ったことによる。一面、青々とした稲がたなびきそろそろ、実がはいってきて軽く頭をたれていた。史跡には、姉川一帯で合戦となり1万人以上の死者(負傷者含むか?)がでたとあった。姉原と呼ばれる一帯も血でそまり血原とよばれるようになり姉川も血の色に染まり血川と呼ばれるようになった。と、書かれていた。地図や地名標識などそのあたりには見当たらずその史跡の看板だけが、史実を伝えている。と、思っていた。ところが、史跡をあとにして国道にぬけて、しばらくああ・・・・納得という・・あるいは、異様な看板を見つけた。ー名物血原饅頭ー「姉原が血原と呼ばれる(一部だろうけど)」を、まのあたりにした。そして、血原饅頭・・・・史実を先にみてしまうと饅頭に血原と銘打つのは、異様に思えて...きっかけは・・・

  • お登勢・・11

    甚部衛長屋の右手の三件目。お登勢はたどり着いたその場所に入って行った。晋太の背中が見えて晋太は畳を吹き上げていた。「あんちゃん」家の中に人が入り込んだのも気がつかないくらい一生懸命畳を吹き上げていた晋太の手がとまった。お登勢はもう一度晋太を呼んでみた。「あんちゃん」晋太の顔がゆっくりとねじまげられ、声をかけてきた相手を確かめる。晋太を「あんちゃん」と、呼ぶものは妹と、弟、ふたりしかいない。声は女の声だ。妹が・・・?姉原から、ここまで、でてきたのか?それは、どういうことだ?妹も奉公にだされることになったか?あるいは、両親になにかあったか?確かめるのを戸惑う「あんちゃん」の声に晋太は直ぐにはふりかえることができなかった。だが、もう一度確かにあんちゃんと呼ばれた。晋太はそっとふりむいてみた。「あ?」そこに居たの...お登勢・・11

  • 次・・・お登勢

    壬生浪ふたり・・・冒頭から読めるように順番替えしました。(恒例行事ですがwww)カテゴリーから、どうぞ♡壬生浪ふたり・俄狂言・「恋語り」次に何をあげるか・・・というのが、まよいどころです。、書きおろしも、あと3~4編くらいだったと思うのでこれを先に上げてしまうとひたすら白蛇抄のみ・・・(6話~17話まで)それも、良いかなと、思うのです。(気分?雰囲気が変わらないので、ムードがあがるかも)が・・・どうだろう?最後の最後に「空に架かる橋」をゆっくり、あげていきたいという思いもあるし・・・ん~~~~そういう「こだわり」こそ、打破しなきゃならないか!!どちらかというと時代物調のほうが、好きなのだけど読む人にとっては、とっつきにくいものかもしれない。で、決定する。一番長い物語。お登勢約20万文字。(順番替えで揚げな...次・・・お登勢

  • 思い出してしまった。

    壬生浪ふたり・俄狂言・「恋語り」を、投稿中ですが・・・思い出すことがいくつか。審査員全員一致で、全国出版に押されたもののこれは、嬉しいというより「あれ????」と、いう気持ちが先になった。白蛇抄を本にしたいと思ったのが審査応募へのきっかけだったわけで、単行本であれば10冊?くらいになる量にむこうも、GOを出してくれなかった。そして、他になにかありますかと尋ねられ3作ほど送ったのだが、これを、保留になった白蛇抄をどうするかの判断にするのだと思い込んでいた。そこに「審査員全員一致で、全国出版に押された」上梓せよ!!という。ーまず、上梓から判らないーwwwwwなぜ、梓(木の名前)なんだ?と思う。梓の木(表皮?)が、文字を刻みやすいとか文字を刻まれたまま、保存がきく?とか、調べたが・・・見つけられなかった。ー本意...思い出してしまった。

  • 次は 沖田君の話・・・

    波陀羅白蛇抄第5話終えました。波陀羅を書き終えたあと、残った思いというのは、波陀羅は、その後どうなったのか?二人の兄妹は、永常のいうように救いようのがないのか?いざなみなみづちという邪宗の神を狩ることはできないのか?なぜ、この神はシャクティを吸わねばならぬのか?そして、やはり、白河澄明でなければ救い出せない・解決できない・・・と、いうことで、邪宗の双神をしあげました。長い物語になっています。7月末からぶっ続けに投稿し15日で400投稿以上・・ちょっと、読んでくれている人もおいつけないのではないか?と、思っています。カテゴリから引いてゆっくり読んでいただければ良いなと思ってちょっとした文庫を作ってしまおうと思っているので急ピッチで上げています。次は・・・どうしようか?すこし、気分をかえるため沖田君を揚げよう...次は沖田君の話・・・

  • 波陀羅・・11 白蛇抄第5話

    十余年が過ぎた。鉄斎の妻は心労が祟ったのか一樹が生まれ二人目の子である比佐乃が生まれると間もなしにこの世を去っている。鉄斎も齢に勝てず伏せこみ勝ちになると身代を娘婿に譲った。何もかもが二人の勝手になり、子も福々と育っている。絵に描いたような幸せに浸りこんでいる波陀羅の胸の中に瑣末な思いが生じて来たのもこの頃であった。(この波陀羅こそが織絵であろう?陽道の妻はこの波陀羅であろう?)幾年の日々を陽道と供に過ごし、織絵の身体もすでの波陀羅そのものであった。その陽道の望むままに子を成し、産の痛みにも耐えてきた。波陀羅こそ織絵であるのは間違いのない事であった。十年余りの歳月が波陀羅の女心に波陀羅として愛されたいという哀しい思いを膨らませていった。十年余りの歳月が、波陀羅の中に小さな自信を育ててもいた。陽道も波陀羅を...波陀羅・・11白蛇抄第5話

  • 波陀羅・・12 白蛇抄第5話

    「おんばしゃ。おんばまぁ。ぐだら。そわか・・・・」「波陀羅」呼ばれた声に血も凍るような思いで波陀羅は呼ばれた声に振り向いた。「ぁ・・・独鈷ではないか」「えらい事をしてしもうたの」同門の兄弟子になる独鈷が何故ここに現れたのか不思議な面差しで見るに、独鈷が「なに。なみづち様にお前が弱り果てていると言われての」「あ。なみづち様は我をずうと見遣ってくれおったのか?」「当り前だろう」波陀羅はこの時はまだ、なみづちが波陀羅を見ておった本当の理由も独鈷を遣わせた本当の理由も知らず、己のある事を見てくれおる存在に思わず咽び泣いたのである。「お前。この男が憎いであろうに、何故生き返らす?」波陀羅の心の底の悲しみを全て悟っている独鈷の口調が余りに優しい。「子が憐れじゃに。よう、死なせん」「わしが、助けてやろうか?」「え」波陀...波陀羅・・12白蛇抄第5話

  • 次は 白蛇抄第5話 波陀羅を・・・

    七日七夜白蛇抄第4話終えました。この物語で、ー悪童丸ー白蛇抄第2話の、中の「判然としない物事」が、少し?はっきりしてきたと思います。例えば、海老名が、何らかの仔細をしっているらしいがそれが、どういうことか、判らないまま海老名が号泣する。「かなえ様、かなえ様。私は貴方様をお守りできず、そして、又、罪深い業を姫に負わせて、あの時私もいっそ、御側に参れば良かった。私が、貴方様を、姫を、悪童丸様を・・・」この言葉の理由を追うのは、悪童丸の抄では、無理でした。蟷螂白蛇抄第1話の、采女の謀を解決せねばならないし悪童丸と勢この因縁を、通り越させねばならない。さらにここでも、悪童丸と勢の因縁なるものが、はっきり判らず判らぬままかなえの死が語られていて委細不明www**********そして、別件ですが。できるだけ、時代物...次は白蛇抄第5話波陀羅を・・・

  • 七日七夜・・・序 白蛇抄第4話

    只の死体でなかった。内伏した死体のその髪が金色であった。「面妖な」そう呟いて近づいた如月童子は、死体が女と判ると顔を見たくなった。話しに聞く外っ国の紅毛人である。思いきり蹴繰りその身体を転がした。見れば先程まで生きていたのではないかと思う程真新しい死人であった。大きく見開かれたままの瞳は、空の色に似ていた。「むううう・・」如月童子は死体を担ぎ上げると、森の中に入った。しばらく、歩くと頃合の良い窪地に死体を横たえ、女が身につけていた物を引き毟った。「ほう。ここも同じか」軽く縮れた陰毛も頭髪の色と同じであった。「ふむ」如月童子は女だけの持ち物に指を押し込んでいった。ぐうっと奥まで入れて行くと微かな温みが残っていた。「やはり、死にたえたばかりか」如月丸は下帯を解くと己の紫根をむずと掴み女のほとに潜り込ませた。ほ...七日七夜・・・序白蛇抄第4話

  • 七日七夜・・終 白蛇抄第4話

    かなえは黙っている。かなえ自身は光来の子である事を願っているのに違いない。光来への恋を諦めた辛さに生きるよりよほど死んで光来への恋を成遂げたいのである。今更ながら命をかけおるといった是紀の言葉が海老名の胸によぎった。「かなえさま。生きて、生きて生きおおさねばなりますまいに」「童子・・・?」かなえはいつか同じ事を童子の口から言われた事がある。「は?どう・・?」童子、そう聞こえた言葉を海老名は口にするのを止めた。「かなえ様はまるで人が代わられてしもうて、つい海老名が要らぬ事を考えてしまいましたに・・」「いえ」「かなえ様、昔のように海老名を御叱り下さいませ。言う事を聞かず困らすほどにご自分の思いをあれほどに、はっきり言わされたのに・・・かなえ様・・・」「海老名には苦労ばかりかけてしまいます。許しおれ」「は・・は...七日七夜・・終白蛇抄第4話

  • 七日七夜・・21 白蛇抄第4話

    かなえは小さな小研ぎの刃物を懐に収め主膳の元に嫁いだ。青波・・・光来童子が使って居た小研ぎである。たった一つしかない童子の肌身に触れた物を手放す事は出来なかったのである。嫁いで三月、懐妊の兆候に気がついたのは海老名である。「と・・・まりましたかや?」「はい」嫁いでからあの闊達で海老名を困らせ果てたかなえが嘘の様に変った。あの日・・・・。光来童子に押しやられるときりりとした顔でかなえは歩んで来た。泣くかと思ったかなえが取り乱しもせず光来童子を振り向きもしなかった。「帰りました」一言海老名を見やると、そう、声をかけた。そのかなえの通り過ぎて行く横顔を見た海老名は、はっと息を呑んだ。かなえの中に峻厳とした女を見て取ったのである。七日を一世と思う。そう言ったかなえが生きた一世がかなえの中に清清と女を極めさせている...七日七夜・・21白蛇抄第4話

  • 七日七夜・・20 白蛇抄第4話 (追文)

    是紀は安藤白夜を呼び付けていた。「帰してくれるであろうか?」理が働くと言うもののかなえが約束を守るのであろうか?「光来童子は、判っております」「だろうか?」「で、無ければかなえ様が先に飛び降りいた時にもう、連れて行っておりましょうに」「・・・・」「かなえさまが命をおかけになったのでしょう。で、なければ、光来も諦めて居った筈です」「そう・・・なのか?」「殿がかなえをやらねばならぬかというた時に、青ざめたおったのではないですか。己が鬼である事をように弁えております。血のなせる業でしょうな」「血?」「人の子でもありますに」「半妖の身か・・・」「人の幸せを求む気持ちが御座いますに。その気持ちはまた、かなえ様を人として生かさせたいと、思わせるのです」「・・・・・」「主膳様が引けるわけの無い弓を引くのを見ておるのでし...七日七夜・・20白蛇抄第4話(追文)

  • 七日七夜・・19 白蛇抄第4話

    大台ケ原の童子の居室である。擁き逢う二人が成す事はもう決っている。かなえの物をまさぐると童子も高揚した物を我が手でむずと掴んだ。だが・・・「どうなさいましたに」「わしの物は馬ほどの物であるに・・・」「構いませぬ」「かなえ」「女子の物はややを産みまするにそのぐらいのもの・・・」言うもののかなえも恐ろしいのである。「かなえ。やはり、成らぬ事じゃに、成らぬ事ゆえ・・・」童子の側でかなえは乱れた着物を脱ぎ捨て一糸纏わぬ裸身になるとそのまま童子の胸に崩れるように縋って行った。「鬼の物、人の物というて、どうあろうに。成す事は同じであろうに」「かなえ」「契りが欲しいだけであるに。かなえを童子の物であると知らされたいに」「かなえ」愛しいのである。どうしようもないほど愛しいのである。「つらいぞ」「どうぞ、我物に」されよ。と...七日七夜・・19白蛇抄第4話

  • 七日七夜・・18 白蛇抄第4話

    かなえが光来童子の元に行ったのを知らぬ海老名が朝になると血相を変えて是紀の所へやってきた。「た、た、た、たい、大変で御座います」こうなる事の予測は付いている是紀である。「ああ、何を落ちつき祓うて、大変な事で御座いますに・・・」「かなえが居らぬのじゃろう?」「はい。へっ?」間の抜けた返事が返すと海老名がまじまじと是紀を覗き込む。「どこに行きやったか・・知って・・おらるる・・のですか?」「・・・・」「又、抜け道をあけてやったのでは・・・御座いませぬわな?」是紀の顔がそうでない事を語っている。「主膳様に嫁ぐ身に・・怪我でも・・・」「・・・・」「殿?」じっと黙っている是紀の顔がひどく暗い。「なにぞ?あったのですか?」「いや。かなえは元気でおる」「元気で?何所におらせられますに。寝床も上げてあるに、床は冷とうて、い...七日七夜・・18白蛇抄第4話

  • 七日七夜・・17 白蛇抄第4話

    「命をかけて・・・・鬼が良いか・・・・・」主膳の元に行かねばならぬなら、童子と生きて行けぬなら死にます。その思い成就さすのはこれしかない。ただ一つの証の為にかなえは飛んだ。へたりと座りこむ是紀が見たものはかなえを受けとめる童子の姿だった。神王の定めがある故、かなえは死ぬ事もままならぬ。否が応でも、その定めの流れに引き戻す者が他ならぬ童子であるというこの皮肉な巡り合わせに是紀は手を合せた。「許しおれ」屋根を蹴た繰り童子は是紀の元に降りて来ると、かなえを静かに立たせた。「死んではならぬ。お前が死んだら、わしは何をめどうにして生きるに。例え逢う事が叶わぬでも・・・おまえが幸せなら、わしも生きて行けるに・・・・。死んではならぬ」かなえに言うと、そのまま飛び退ろうとする光来童子に是紀が「連れて行くが良い。但し・・・...七日七夜・・17白蛇抄第4話

  • 七日七夜・・16 白蛇抄第4話

    「是紀殿」白夜(はくや)は、首を振った。是紀に呼ばれて来て見ると、是紀は愛娘かなえが鬼に惑わされておるのを如何にかできぬかと言う。鬼に懸けられた妖術を解くのは、流石に、白夜しかおらぬという。「残念ながら。かなえさまは術に懸けられておるのではありませぬ」「な・・・」「本意で御座います」やはり、あの眼は正気であった。「ならば、諦めさせられぬか?」「それよりも、大きな理が動いております」「こ・・と・・わり?」「神王に奉納するつもりの弓を量りに懸けませなんだか?」「あっ」「その折に、二人の男が弓を引いておりますな?」「あ、ああ。確かにやるというた。弓を引く者があらばかなえをやると」「残念ながら、その言葉、もはや取消せませぬ」「あ・・あ、あ」「後に引いたは?」「主膳・・・だ」「後に夫君になられるでしょう」「・・・・...七日七夜・・16白蛇抄第4話

  • 七日七夜・・15 白蛇抄第4話

    怒声が劈くかのようである。「せ・・せ、青波が良い?もう一度言うてみろ」その怒声に恐れる事もなくかなえは繰返した。「青波が所で無ければ嫁に行きませぬ。主膳の所に行くなら、死にます!」言い放つかなえの眼の色を覗き込んでいた是紀であったが正気で言っておると判ると「おのれ」刀を掴むと馬屋に向かった。「青波を討つはお止め下さい。父上の御許しなからば、かなえは死にます」後ろから走りくるかなえがそう、叫ぶ。「お、お、親を脅しにかける気か?」「脅しでは御座いません。あそこより落ちます」是紀の閃く刀をひらり、ひらりとよけていた童子であった。が、かなえの言葉を聞くと思いきり跳び退った。「かなえ。成らぬと言うたに・・・・」その身のこなしに驚いたのは是紀の方である。「己、人ではあらぬな。正体現わせ!」「まこと、邪恋の果て。未練で...七日七夜・・15白蛇抄第4話

  • 持ち駒(その他のシチュエーション)がないだけか?

    いろいろと、登場人物をだしてこなければならない。七日七夜の中で新たにでてきたと(記憶する)伽羅、新羅、邪鬼丸、鏑木丸(光来童子)、如月童子(光来童子の父)まだ、他にいたが・・・このあたり、他編につながります。名前不明の如月童子の妻(紅毛人)ー他の抄で、アマロとして、執筆一番困ったのが、邪鬼丸のキャラクター里の人間の女に狂い命を落とすわけですからま~~無茶苦茶な色狂いwwwwその情婦である伽羅を使って如月童子の事ー光来童子の出生・・など話すしかないわけです。と、なると、いわゆるピロートークでないとー話さない方が良いこと(と、暗黙了解)ーを漏らさないシチュエーションを作らなければいけない。まあ、いきなりの過激な描写から始まったのは他に考え付くシチュエーションが無かったwwww邪鬼丸が人間の女に夢中になっている...持ち駒(その他のシチュエーション)がないだけか?

  • 次は 七日七夜を予定

    物書きの言葉遊びをひとつ、いれたのが小枝・・24とたび・・・。十度。つごもりの音がなくなる十の字は男の縦糸と女の横糸がまっすぐに交わり恋をあけそめる最後の契りになる。つごもりの音がなくなるひとつ、ふたつ・・ここのつまで、「つ」の音が籠っている。十は、それゆえに「つ無し」(つなし)とも読む。この「つ」というのは、津であり、津とは、境界点、接触?点ととっている。例えば、国津神天津神国に近い側の神天に近い側の神津という文字が付く地名は多く、海(水辺)に面する焼津・・津波も水辺に面する場所まであがってくる波海上だけで終息する高い波は津波とは呼ばないのでは?ここのつまでなにかと面しているのだろう。それは、例えば親の守りとか・・・「つ」が、外れるのが、十というのが「妙」である。と、いうのも日本人独特の左脳の働きは日本...次は七日七夜を予定

  • 小枝 終えました。

    小枝終わりました。また、後で、順番替えです。過激な表現が続くため(過激という言い方にしていますが・・性表現というのが正解です。が、性表現という言い方も、妙な煽りをもたらしてしまう?と、過激と言換えていますが・・・)官能小説・アダルト系と間違われてしまわないかと心配しています。ー実際に有ったのですが、作品中のテーマを映えさす「小物」象徴的な小物の使い方に悩んでいらした作家さんがいたのでこの作品を薦めたのです。なにが、小物で、それをどうやって「象徴に、させているか」というところにいきつくまでに、「こういうジャンルは嫌いです」と、返事が返ってきてしまいました。ーたぶん、途中まで読んで、官能小説・アダルト系ときめつけられたのでしょうwww小枝の中では「紅」が小物になります。小物を巧く使うということを強く意識させて...小枝終えました。

  • 小枝・・27

    「小枝・・・・」一言声をかけたもののやはり、言葉はとまる。小枝がめしいでなければ、簡単に言える慰めが本当と言える言葉がのどの奥に止まる。『なにも、おまえを弄んだ男なぞに、執心しておらずとも、ほんに、おまえを大切にしてくれる男は他におるわい』身勝手な男を慕うのさえ、きにいらぬ腹立ちでしかないが、その男にいいように、なぶられ、犬、猫のように、子をはらまされ、あげく、まだ、そんなことに感謝しなければならないのは、小枝がめしいばかりのせいではない。幸太が貧乏なせいだ。これが、どこかの大店の主人ででもあったら、めしいの娘でありとても、婿を見つけてやることくらい出来るだろう。小枝の盲目をはかなんでみる以上に胸にささくれる悔しさが小枝への一言をおしだしてゆく。「おもちゃにされてできた子なぞを後生大事にかんがえやがるな。...小枝・・27

  • 小枝・・終

    板の間に頭を擦り付けていた小枝が顔をあげると、幸太に尋ねた。「おとっつあん?おとっつあんは、小枝が生まれてこなかったほうがよかったのでしょうか?」小枝が言おうとしていることは幸太にもわかる。ここで、うかつに生まれてよかった。と、いえば、小枝は腹の子もそうであるというだろう。その言葉を吐き出させないために、生まれてこないほうが良かったといえば、小枝自身の命が否定される。親にうとまれる。いらないといわれる。どんなにみじめになるであろう。ましてや、たとえ、めしいでありとても、小枝は幸太にとって、大事な娘である。「なあ、子供がにくくていってるんじゃねえんだ」やっと、小枝の策をそらす言葉を見つけると、幸太は小枝の手を取った。「おまえがいるから、わしもいきてゆくめどうがある。菊をうしない、おまえまで、なくしては・・・...小枝・・終

  • 小枝・・26

    しばしの、沈黙のあと、幸太は辛い宣告をつげる臍を固めるしかなくなる。「小枝・・・おまえ・・・はらんでおろう?」言葉はたずねているが、幸太にはひとつの確信がある。それは、外の厠である。便壷から、肥えをくみ、わずかの畑にまきあげる。これは、幸太の仕事である。そのときにも、きがついていたといっていい。ここ、しばらく、小枝のさわりの痕をみていない。そして、マタギ・・・。幸太とて、男である。男の生理はすぐに思い浮かぶ。めしいの女が紅をつけ男に腕をまわす。その結果がどうなるか、考えてみなくても、分かる。その結果・・・。小枝が身ごもった。当たり前のこと過ぎる。だが、それを機に二人が一緒になることはありえない。むしろ、それゆえに男は無責任な恋から、のがれようとするだけだろう。小枝が身ごもったゆえ、男が小枝を捨て去ったのだ...小枝・・26

  • 小枝・・25

    それから、文治はもう、小枝の元に現れることがなくなった。小枝の確信はうつつのものになり、ただ、もと通りのめしいの小枝に戻るしかなくなった。けれど、小枝は今までの小枝ではない。心にともされた明かりは今も小枝を照らしつづけている。そんな小枝が身ごもっていることに気がつかされた。小枝の変調を懐妊だと解き明かしたのはほかならぬ幸太であった。「いつ頃からかの・・・気がついておった・・・」幸太はそういった。幸太が出かけるたびに小枝の炭俵を編む数が減る。身体の具合が悪いのかとはじめは気にしなかった。が、必ず幸太が留守のときに限って炭俵が編み上げられない。「おかしいな。と、思っての・・・」でかけるふりをして、幸太は荷車を引き山を下った。下った場所に荷車を置き炭焼き小屋に引き返してみた。「あれは・・・・マタギじゃのう・・・...小枝・・25

  • 小枝・・14

    立ち尽くす小枝の瞳に映るものを小枝には、認識できない。ただ、光の温かさが変わった。小枝に差し込む光をふさぐ何かが影を作ったに、違いない。「文治さ・・・ん?」小枝は、小声でそっと、たしかめてみた。雲の流れが日の光をさしとめただけなのかもしれない。なのに、小枝は文治ではないかと、思うだけで、鼓動が大きくなる。はたして・・・。「よう・・・わかったの」文治の声だった。女が文治の名前を呼んだ。たった一度会っただけの男の名前を女は覚えている。女は文治を待っていた。そう思って間違いはない。其の自信が文治を大胆にさせる。我が物のように、女をよせつけ、その胸にかきいだくと、女は抗いもせず、まっていたとしか、いえない素直さで文治にいだかれる。それは、女の可愛さだ。その可愛さをもっと、はっきりと掴み取りたいと文治の男がせく。ど...小枝・・14

  • 小枝・・13

    幸太のくどいほどの念押しに、小枝は素直に「はい」と、応えると、幸太のいいつけどおり、小屋の中に入って、しんばり棒をかった。俵に詰めた炭を問屋に持ってゆく幸太は己の留守の間の小枝が心配でならない。「むこうの尾根に、煙があがっていた。マタギがはいりこんでいるにちがいない」だから、小枝は外にでちゃいけないと、出掛ける寸前まで小枝にいう。男親の勘というものは、男の生態を解したうえで、わきあがるものであろう。ゆえに、幸太の勘は当たっている。マタギが小枝を見つけたら、何をしでかすか判らないという点で、鋭すぎる勘ではあった。が、まさか、既にマタギが小枝をみつけ、なにかをしおでかす道筋をつけているとは、思いもしない幸太である。その幸太の親心を小枝は裏切ろうとしている。胸の内にきりりと突かれる痛みがあるが、小枝は幸太に隠し...小枝・・13

  • 小枝・・12

    山の斜面に大きな岩がせり出し、其の後ろに祠がある。文治はこの土地での仮住まいをこの祠に決めると祠の奥に山の神への供物をささげるために土を盛り、平たくならすと、そこに白米をいれた小さな杯と、竹筒に入れたお神酒をそなえおいた。この地での狩猟が実りあるものであること、狩りの無事を祈願し、山の神の聖域に入り込み、山の神の物である獣を頂戴する許しを請うた。文治は其のまもなしに、小枝という女子に出会う事になった。山から山を渡りおよそ、おなごと名のつくものを見かけることなぞない文治の前にあらわれたおなごに男の欲を漱がれたいと男の息吹が文治を差配するのは、無理の無いことである。が、であったおなごはめしいであった。尾根の中腹からみわたした炭焼きの小屋の狭い平地におなごがいるのをみつけた文治は獣道を通り、おなごにちかよってい...小枝・・12

  • 小枝・・11

    文治はマタギである。マタギが獲物を狩るときは、まず、めどうとする獲物のすまう地形をつぶさに把握する事から始める。そののちに獲物の行動をじっくりと量りこむ。あわてて、獲物を狩りだそうとはやる気持のままに動けば獲物を取り逃がし行方をうしなう事もある。一度、マタギの難を逃れた獣は嫌に成る程臆病で、敏感になり、マタギの気配を感で知るようになる。殺気を気取りだした獲物を追い込むことほど危険な事は無い。逃げ足は速いくせにひとたび追い詰められると捨て身でマタギに向かってくる。獲物が大きければ大きいほどこの危うさも大きくなる。ひとたび、マタギにてむかい出した獣は命ぎりぎりの覚悟をもちながら、いっそう用心深く逃げ惑う。こうなったら、この土地での猟はいったん撤収をよぎなくされる。文治は狙った獲物を逃さないために周到に地形をは...小枝・・11

  • 小枝・・10

    小枝の朝は早い。起き上がると小枝はまず手水鉢にむかい、顔を洗い口をゆすぐ。それから、畑にいって、伸び上がってきた大根菜を間引く。手探りで積んだ葉を触り、そっと、ひきぬく。それで、朝の采をつくる。青い葉の匂いは小枝の手に染み付き、小枝はそっと、指先をすりあわせてみる。そうだ。尾根の向こうから文治が小枝を見ているかもしれない。小枝は間引いた大根菜をもつと急いで家に入る。くどの水場に大根菜をおくと、水桶の水をひしゃくにくみ上げ手をあらうと、手ぬぐいで手をふきあげ、昨日の紅を懐からとりだした。紅の蓋をあけてみたものの、小枝はとまどう。文治が見ているかもしれない。だから、綺麗に紅をさしてみたい。だけど・・・。戸惑ったままの小枝の手にもたれたままの紅を目に留めて幸太は声をかけた。「紅をさしたいのだろ?」「うん」小枝だ...小枝・・10

  • 踊り娘 頭だし 完了www

    踊り娘頭だし完了wwwよみなおしてみると年齢とか・・・ちょっと、つじつまがあわないと気が付いたがそのままにしておく。そして、もうひとつ思ったのはブロー・ザ・ウィンド(16)と、良く似た・・いや、同じテーマだなあと。ブローでは、レフィスが「私でも、人を喜ばせることが出来る?」「亡くなったティオと一緒に死んでいる生き方?」と、変化のきっかけを与えられていく。そして、生きているってことは、自分も周りのみんなも幸せ(笑顔)にすることと、いう指標を得るわけだけど踊り娘も、このシチュエーションは同じと思う。人の、生活の、「役にたつ生き方」をしたいと他を意識した時人の為に生きる生き方こそに充足を感じるのだと気が付いていく。ある「殻」の中から抜け出していくにはもしかして自分の為というのは、小さな?エネルギーで人の為という...踊り娘頭だし完了www

  • 踊り娘・・終

    ******サーシャ。驚き。驚き。姉さんはなんと、立派なパン職人になっちゃうんですよ。するとね・・・。そこにイワノフさんがパンを買いにくるの。そして・・・。こういうの。「僕の家で僕のためにパンをやいてくれませんか?」そう。そして、姉さんはきっと、こうこたえるの。「YES」***************踊り娘・・終

  • 踊り娘・・21

    「私はやっと、恵まれてるという意味がわかった気がしています。こうやって、自分の人生のプリマドンナになろうと思った時イワノフさんに支援されていた自分にきがつきました。でも、それは、本当の意味で私の・・人生という舞台でソロをはっていた自分じゃなかったから、イワノフさんの支援に、感謝ひとつ、もてない自分だったと思います。でも、そんな私でも、本当のソロ・プリマドンナとして、自分の舞台の主役になれたときのことを考えます。その時にきっと、私は後援者でなくパートーナーが欲しいと思います。人生という舞台で私が焼いたパンを食べる・・・。その配役にイワノフさんしかいないとおもっています」一気にしゃべりきると、ターニャは俯いて口を閉ざした。一点を見つめ続けたイワノフの焦点が鮮明な画像を結ぶ。「ターニャ・・・?それは・・?」それ...踊り娘・・21

  • 踊り娘・・20

    ターニャの岐路選択。それが、誰かとの契約で無い事に胸をなでおろしたものの、イワノフにとって、深刻な問題が生じていた。ターニャが此処を辞めて・・しまえば、イワノフとターニャの接点が無くなる。接点をなくした男女が、お互いの距離を縮められるだろうか?ましてや、求婚を断られた相手。接点をつくろうとしても、焼けぼっくいにもならなかった二人に火がつくこともなく、不自然な接点をつくろうとするわざとらしさがターニャの嫌悪感をそそりかねない。と、なると、いつかどこかで、偶然に会うことを願うしかないのだろうか?そのいつかはくるのだろうか?来たとして、その時にも、まだ、ターニャはひとりだろうか?誰かの妻となり、嬰児をさする優しい母親になってから、であったら?今・・此処で何か手をうたなければ、イワノフのこの先の人生は後悔一色にな...踊り娘・・20

  • 地名表記はそのままで・・・

    踊り娘を揚げながら・・・・なんと、世の中変わってしまったのかと思う。「サーシャをキエフにいかせる。」今や、キエフはキーウになり戦禍舞踏の聖地で、なくなってしまった。戦後の少年・少女は蛙(3)パンパンとチョコレート(12)柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児(8)書いている。「蛙」・「パンパンとチョコレート」は大江健三郎の芽毟り仔撃に触発された。「柿食え・・・」は、「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」を、もじったタイトルだが母からきいた話をモチーフに書き上げた。母の実家の坂を登ると国道がとおっていてーそこを進駐軍がジープで通って行ったーと、いっていた。あと、近未来?を舞台に戦争、前線に派遣された医師と看護師の性と生と死を書いた「空に架かる橋」がある。が、どこかで、昔の話未来の仮想話と、遠いところにいた自分と感じる。...地名表記はそのままで・・・

  • 次は 踊り娘・・かな?

    白砂に落つこの作品を書いたときの記憶があまり残っていない。何故かわからないが、男が刑場で貼り付けられ竹の柵のむこうに人がいっぱいいて・・・と、いうイメージ?画像?が浮かび上がっていた。そのイメージから、そういうことになるシチューエーションを考えてみたところからストーリーが浮かんだのかもしれない。物語を書いている時に断片的、部分的にであるが自分の中に「風景」「イメージ」が浮かび上がる。たとえばブロー・ザ・ウィンドアランが良く冷えた薄い黄金色の液体をグラスに注いだ。細かい泡がたち、それが軽くもりあがり、消えていくと小さな飛沫がグラスの中で弾けてゆく。アランが良く冷えた薄い黄金色の液体をグラスに注いだ。と、なるとそのシャンペンはどんな状態なのだろうと考えるせいかもしれない。頭の中にシャンペングラス(なぜかチュー...次は踊り娘・・かな?

  • 白砂に落つ・・12

    「俺は卑怯だとおもった。だけど、一度、そういうつながりをもっちまったら、自分の気持ちにうそがつけなくなっちまった」子胤を与えたら、それで、自分は用なし。弥彦の気持ちひとつ、考えてもくれないお千香であればあるほど、いっそう、好いた気持ちがどこにも、抜け出ず、はらまなかったと再び訪れたお千香をかきくどくことになる。「なあ、俺はいったい、なんなんだ?お咲の父親だということも出来ず、佐吉をうらぎって、あげく、お千香ちゃんには、種馬でしかねえ。なにひとつ、俺はむくわれねえのかい?」この惨めさにおとしこむものは弥彦の、お千香への恋情のせいでしかない。弥彦に欲だけしかなかったら、転がり込んできた熟れた女の体を棚ぼたであると、喜んでいられただろう。だが、弥彦は苦しい。苦しいのはお千香に思いをかけてもらえないことだけではな...白砂に落つ・・12

  • 白砂に落つ・・13

    お千香が身ごもった後になんどか、弥彦は無茶をいった。だが、お千香は「子供に障るから・・」と、弥彦の手をふりはらった。確かにお千香に触れたいがお千香の腹の子は弥彦の子でもある。「そうだな。俺の子だ・・・」誰にも言うことが出来ない。誰にも知られてはいけない事実をいえる相手はお千香しかいない。いくら暗黙の中に隠してもお千香と弥彦をつないでいるものがある事を念押しするためにも弥彦はくりかえした。「俺の子だ・・・」形は佐吉の女房であっても、本当の夫婦は俺たちなのだと弥彦は胸をなでる。そして、お千香が男の子を産み、産褥がおさまるころに、弥彦は約束の逢瀬をねだった。「親方・・・。お千香ちゃんは、いやだっていったんだよ。だのに、俺は・・・。佐吉にすべてを話すって、おどかしたんだ・・・」弥彦の手が再び、顔を覆った。「弥彦。...白砂に落つ・・13

  • 白砂に落つ・・14

    佐吉を囲む人の群れが定次郎をみつけると、佐吉の前までの通り道をあけてゆく。『佐吉の親父だ』『お千香さんの親父だ』通してやれ、場所をあけてやれと、言葉が飛び交い定次郎の目の前に憐れな佐吉がうかびあがってきた。娘を殺された男と女房を殺した男が向かい合う。しんと静まり返ったその場所は定次郎の舞台を演じるのを待つかのように人の群れが2歩3歩と定次郎から退き丸く定次郎と弥彦を囲んでいた。目を瞑ったまま、張付けられている佐吉ににじりよるにも、竹縄が邪魔をしている。佐吉は最後の時をまつのか、苦しみもないのか?身じろぎ一つみせずにいる。竹縄に手をかけ佐吉を呼ぼうとした定次郎の声がかすれた。そのときだった。「とっつあん。よく、きてくれなすった」ひときわ、大きな声が群れの中からひびいた。定次郎がきたくもないのは、誰だってわか...白砂に落つ・・14

  • 白砂に落つ・・15

    男の声に佐吉がうっすらと目をあけ定次郎を目に留めた。まさに目に留めたというしかない。佐吉の瞳は定次郎を映してはいたが定次郎への何の感情もよこしてこなかった。「佐吉・・・す・・すま・・」すまねえ。云おうとした言葉に定次郎はよどんだ。俺があやまったら、もしかして、佐吉はお千香の不貞のわけをしらずにいたなら、子供が佐吉の子じゃないことを云うに等しいのじゃないかと。ぼんやりと定次郎を見つめていた佐吉だったが、いよいよ、処刑役人が長槍をかまえ佐吉の横にたちならび槍を構えると佐吉は今度はしっかりと瞳を閉じた。「構え」執行奉行の重い声が響き渡るほどに静かに佐吉を見つめる人の群れの中でたけなわにしがみついた定次郎は見届けてやるしかないと思った。俺に出来ることはみとどけてやることしかないと思った。構えた槍が佐吉の身体を貫き...白砂に落つ・・15

  • 白砂に落つ・・16

    佐吉の最後を見届けた人の群れが波を退くように消え去ってゆくと、定次郎と弥彦は役人詰め所に向かい歩きだした。がくりと肩を落とした弥彦は佐吉の死の前と後でいくつも老け込んだかのようにみえた。憔悴とせめぎが、弥彦をとらえている。「弥彦。佐吉の亡骸をお千香の横にうめてやれねえかなあ」佐吉は身寄りも無い。このままでは、野ざらし同様に阿弥陀淵の投げ込みにすてられ、無縁仏になるしかない。佐吉の亡骸をゆずりうけることができるか、どうか。それも判らないが、お千香を呼んで死んだ佐吉があわれすぎる。そして、もっと、憐れな男がいる。「お願いしてきてみます」と、役人詰め所に足を運びかけた弥彦のことである。「うん。そうして、佐吉を一緒につれかえってやろう。そしてな・・・」定次郎はどうつたえようか、迷った。「なんでしょう?あっしに出来...白砂に落つ・・16

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