最近、かなり久しぶりに行政法の本を読んでいるのですが、妙にハマっています。久しぶりにという表現をしましたが、これは学生時代に単位取得で学んだことがあった時…
年が明け、判事補二年目になった秋一は一層職務に精励していた。年末年始も帰省しなかったのは、彼が担当した大型脱税事件を検挙したマルサこと国税庁査察部の調査員…
控室ですっかり意識を戻した秋一は、壁の時計を見やった。まだ披露宴は続いている時間であり、慌てて式場に戻ろうと腰を上げたところをスタッフに止められた。 「…
その年の秋口、秋一の担当した大型脱税事件の第一回公判が全国報道されテレビニュースで流れた。細いフレームの銀縁眼鏡から、テレビカメラを見つめる鋭い眼光と凛々…
当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで出世街道を驀進していた林崎部長から雑談中に指導を受けた秋一は、しばらく今後の判事としての生き方、あり方について思い悩んでいた。 …
秋一は悩んでいた。すっかり惚れ込んでしまったユウと毎週土曜日同伴出勤するのはいいが、その本心にはなんとか彼をものにしたいということがあった。彼はウケ専らし…
先程来、花ママと二人きりのカウンターに、夜の匂いが風に乗って薄っすらと浸潤した。 「あら、ユウくん、おはよう。丁度噂してたところなのよ。」 ユウくんと…
仕事は忙しく毎晩深夜とまではいかないが、夕飯の時間帯を過ぎるまでは残業であった。大きな判決起案をしなければならなくなると土日出勤もやむをえなくなるが、まだ…
秋一は当時暇が出来ると精神医学や心理学の本ばかりを読んでいた。それは大学時代に知己を得て多大なる影響を受けた異端の理論刑法学者水上達夫氏の交際による。水上…
四月から司法修習生になった秋一は、とにかく忙しい研修スケジュールに目を白黒させていた。義人のことを考えるのも卒業旅行で完全燃焼した感があり、かてて加えてハ…
義人は、ほんの数年前に英語担当講師として市内で有名な英秀という進学塾に勤めていたという。 数年前のことであるのだから、きっと知り合いの同僚はいるだろうし…
翌朝目を覚ますと、ホテルの二重窓のカーテンの隙間から白い陽射しがさしていた。疲れていたのか夢もみず、セミダブルのベッドで呆れるくらい熟睡した秋一である。 …
翌日には東京に帰る最後の晩、秋一は家族そろったところで父に頭を下げた。今夜は姉夫婦も祖母も一緒の晩餐である。 「あのさ、俺、卒業旅行に行きたいんだよね。…
桜井義人、昭和二十八年十二月十日生まれ。東京都八王子市××町出身。父は日本を代表する大手電機メーカーの事業本部長まで勤め、母は専業主婦であった。六年前に父…
「まあ、あの頃からしばらく、ワタシの人生は川面に浮かぶ岩石を駆け抜けるような感じだったのよね。いつも丁度いい位置に石があって、他の人と違って自分だけ簡単に…
翌年、大学四年生になった秋一は司法試験を受験することになるのであるが、この時期は司法試験が史上最も難しかった頃であり、その試験範囲の広さには多くの受験生が…
八月に入ってすぐの金曜日。夕暮れ時、秋一は日独文化センター教室を訪れ、幻の刑法研究者水上達夫と対面することが出来た。 事前に受付スタッフを通して、こんな…
水上助教授はドイツ語に秀でてはいたが、法学研究者としては三流であり博士課程にも進学していないし法曹資格も有していなかったという。都内一流大学法学部四年生の…
水上教授との出逢いは大学二年次の晩秋であり、それは神田の古本街でのことであった。神田の古本街には上京以来足繫く通うように秋一であるが、雰囲気が好きなのであ…
直美との一事があって、秋一はしばらく落ち込んだ。勿論、直美を傷つけてしまったのが一番の理由であるが、それと併行して彼女にカミングアウトしたということは、彼…
銀座八丁目から秋一の世田谷区内小田急沿線のアパートまで、タクシーでは時間がかかった。そもそもタクシー待ちの行列に時間がかかったうえでのことだから、アパート…
実際、日曜日のこの時間帯、銀座のバー通りはまるでゴーストタウンのような静けさを保っており、着物姿のホステスは一人しか見かけなかった。その静寂さは新宿二丁目…
「アキくん?アタシ、誰だかわかるかしら・・・。」 幾分緊張気味だがおっとりした聞き覚えのある声で、すぐに誰だかわかった。 「直美ちゃんだね。元気でやっ…
秋一と彼に想いを寄せる畠山青年との関係は、一向に進展がなかった。求愛を受け取らないが決して見放すような態度もとらない秋一の態度に、畠山青年は疲弊していた。…
同じ大学とはいえ見ず知らずの学生から奇妙な告白を受けた秋一は、独り悩んだ。義人に代わる心のパートナーを熱望している彼としては新たなチャンスであることは事実…
「こんばんは。」 図書館の丁度出入り口を出た辺りで、前方を進む青年に声をかけた秋一である。 えっ、慌てて振り返る青年は目を真ん丸と大きくさせ茶色のジャ…
やがて夏がきて、秋がきた。昨年同様お盆に少しの期間だけ帰省して東京に戻ってきてからも特に秋に受験予定の行政書士試験の対策はしなかった。 十月の日曜日、都…
「何をやったんですか。」 「寸借詐欺よ。ゲイリブの団体を作りたいと語ってはあちこちで知り合いからお金を借りまくってね。雑誌の文通欄まで利用していたらしい…
大学一年次の夏休み、帰省したがすぐに東京に戻ってきた秋一は、既にして自分は島民ではないことに気づいていた。それは島を発った多くの若者と同様であり、そもそも…
「花屋敷」という店名のそのゲイバーは、林氏の昔からの行きつけであり、ママは年齢不詳、しかし非常に特徴的な外見の持ち主であった。 プロレスラーにしては上背…
当時、新宿二丁目ではなく三丁目の路地裏に「風車」という小さなラブホテルがあった。表向きは普通の男女向けの休憩所であるが、場所柄か同性愛者同士の利用が多く、…
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最近、かなり久しぶりに行政法の本を読んでいるのですが、妙にハマっています。久しぶりにという表現をしましたが、これは学生時代に単位取得で学んだことがあった時…
根抵当権は分かるようで分からない。私にとって、いつまでも模糊とした抽象性に富んだところもありますが割合好きな法分野です。根抵当権の定義自体は、そんなに難し…
法定地上権と共同抵当の問題は難しいですね。ここは一つの論点を挙げ、個別価値考慮説と全体価値考慮説による論理構成と結論の違いにだけ触れてみます。 土地と建…
今までにアップした記事なのですが、浅学非才の身、あらためて読み返すと知識が曖昧な部分や誤字脱字が多いです。というわけで、今後、彫琢し、noteの方に移行し…
【共同抵当不動産の一部が物上保証人所有の場合】 (具体例) Aは1000万円の債権を担保するために債務者B所有の甲不動産(時価1000万円)と物上保証人C…
第392条【共同抵当における代価の配当】① 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、そ…
【抵当権設定当時、土地と建物が同一人の所有であること~要件②】 ④共有と同一人の所有の論点 この論点は、以下に事例をあげますが、第一に他の共有者(B)の利…
【法定地上権の意義、成立要件】 第388条(法定地上権) 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定…
今回の執行猶予制度改正についての最後の点、③刑の執行猶予期間経過後の刑の執行の仕組みの導入とは何か。なんだか、分かりにくい表現なので、具体例を挙げて話しま…
次に改正点②です。これは通常の執行猶予と違って保護観察付執行猶予の場合、その猶予期間中に罪を犯したら、従来は絶対に再度の執行猶予は付かないとされていたもの…
今回の執行猶予制度改正内容をまとめると、①再度の刑の全部執行猶予を付することのできる条件として、宣告刑の上限が1年から2年に引き上げられたという点(改正後…
令和4年6月17日に公布された刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)が今年の6月から施行されることになりましたね。もっとも、既に施行されている…
抵当権の処分、つまり、抵当権の譲渡、放棄、順位の譲渡、順位の放棄が行われた場合の具体的配当分の計算が私はとても苦手でした。計算自体は非常に単純なのですが、…
捜査には任意捜査と強制捜査があり、その違いについては今までに話したところです。そして、捜査というのは任意捜査が原則であり、強制捜査というのはあくまでも任意…
【抵当権の移転と抵当権の譲渡は違う】 第376条【抵当権の処分】① 抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益の…
第521条(商人間の留置権) 商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、…
第511条(多数当事者の債務の連帯)1 数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。…
【報酬請求権】 第512条(報酬請求権) 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。 民法の委任契約の…
【商行為の委任】 第505条(商行為の委任) 商行為の受任者は、委任の本旨に反しない範囲内において、委任を受けていない行為をすることができる。 本条は、直…
商行為というのは、商法各条文をみていくと、民法の規定とかなり異なる部分が散見されますね。商行為というのは、①営利性の徹底、②取引の迅速、③担保の強化という…
昨年の九月から書き始めた「島唄」も本日をもちましてようやく終結いたしました。 これから推敲、手直しと更に時間をかけて、世に出るのはおそらく来年の事になる…
本作品は冒頭に書いたように、武田秋一さんの最晩年の友人であった涼子と私の共同作品のようなものである。涼子の話を基に、私が小説風に肉付けして書き上げたもので…
直美と島内をドライブしてから数日後、近場の書店まで散歩がてらに出かけた帰り道であった。東京に帰るのはいつにするか、戻ったらすぐにホスピスに入るべく、今夜あ…
シンボルツリーであるバナナの木を実家の門前に見出した時、秋一は少年時代を思い出したのであるが、緑の草木は手入れが行き届いておらず、家も一目で古くなっている…
風車は当初予定していた金曜日までもたず、月曜日の朝、秋一が吐血して緊急搬送されたことをもって二十五年の歴史に幕を閉じた。 三週間の入院期間で秋一は別人の…
「初めてパパからホモセクシャルの話を聞いたのは、私が大学二年生の頃でした。同時になぜパパがママと結婚する決意を抱いたのか、それは数年前八丈島転勤時代に知り…
千鶴子が十三歳、中学一年生の秋の事であった。 市内の中心部にあったピアノ教室でのレッスンをすませ、ロータリーに面したバス停に向かうところであったという。…
カウンター越し、視線の合った秋一は瞬時で彼女の属性を推理し、それから冷蔵庫へと振り向いた。上背はあるが間近で見ると顔から足先までが細身で黒髪のロングヘアー…
日曜日の夕方であった。冴え返る肌寒さも感じたが、全体的に街には春の到来を告げる気配が漂い、あと二週間もすれば桜の開花時期となると思うと、秋一はなんとなく嬉…
多くのお客さんたちが秋一に別れを告げにやって来た。日本屈指のコメディアンS田氏に続いて、元上司である林崎裁判長の暖かい訪問まで受け、秋一は自分の東京生活に…
「家内も最近じゃ、すっかり涙もろくなってしまってな。」 林崎部長は嗚咽をもらす老婦人を横目にカウンターの秋一を見つめた。 「事情は私から話そう。私はね…
直美が帰った翌日の日曜日、秋一は夜六時から店に立っていた。一時間ほどで仕込みを済ませ、八時か九時頃まで店に立ち、後はジョージに任せるのであるから、さほどの…
秋に医師から節制して余命一年と宣告されて約四か月が経った。その間も通院治療は怠らなかった秋一であり、医師たちからの励ましで延命の期待を十分に胸に刻み込んで…
人気絶頂のコメディアンS田氏がぞっこん惚れ込み再婚相手にまでと考えていた銀座のクラブホステス明美が初めて、風車に顔を出したのは、もう二十年近くも前の話であ…
その晩、風車の閉店メッセージを知った長年来の常連客であるコメディアンS田氏は最後の宴を愉しむべく秘書を連れてやって来た。一年先のスケジュールまでに拘束され…
その頃から、秋一は毎晩のように妙な夢をみるようになった。スキーのジャンプ台に立つ夢である。多くの人がジャンプ台に立つまで順番待ちをしている。自分もその内の…
精神力が体力を凌ぐというのにも限界がある。二月の中旬に入ると倦怠感に襲われることが多くなり、食欲不振から益々瘦せ衰えてきた。しかし、抗がん剤治療を始めとす…
一月下旬の寒い夜、閉店のお知らせメールを受信した光の会の内田理事長と羽根女史とが更に数人の仲間を連れてすっ飛んで来た。真面目なゲイとビアン同士は基本相性が…
翌日、秋一は病院で担当医に対して三月いっぱいまで働き、後はがんと闘うことだけに専念したいと相談した。担当医としては秋一の仕事内容を知っているだけに渋い顔を…
八丈島の母親や姉家族、それに直美には退院直後に少しだけ事情を説明したのであるが、やはり医師からの余命一年という宣告については話せなかった。とりわけ高齢だが…