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骨董商Kの放浪 https://kottousho.hatenablog.com/

大学卒業後1年もたたずに退社し、その後骨董商をめざす主人公Kが、美しくそして妖しげな骨董品をとおして、それに関わるさまざまな個性的な収集家、同業者などの人たちと織りなす創作小説。魅惑的な骨董品を巡る群像劇をお楽しみください。

立石コウキ
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2022/03/17

1件〜100件

  • 「骨董商Kの放浪」(14)

    皆の雑談がおさまった頃、いきなり司会役のあの贋物(がんぶつ)爺さんが立ち上がって挨拶。この手の爺さんはこういうときに必ずしゃしゃり出る。三代目に感謝の意を込めてのやや長めのスピーチ。僕は仕方なく聴きながら周りを見る。参加者のほとんどが女性だ。僕と同卓の向かいに、あの眼鏡の女性の姿もある。スピーチが終わり、ようやく食事が開始された。 「今日は素晴らしかったわ。清朝(しんちょう)官窯(かんよう)」N婦人は言う。「特に、あの明るい黄色一色の小さなお皿。品格があったわ」確か、三代目がその色を「レモンイエロー」と形容していた。「それと、もう一つ。鮮やかな桃紅色をした小瓶。あの色をピーチブルームと言ってい…

  • 「骨董商Kの放浪」(13)

    3月の初旬の或る日の午後、三代目の次の講義に向けて予習をしていた僕は、気がつくと、うたたねをしていた。その心地よい眠りを、携帯の着信音が妨げる。見ると才介からだ。僕は少々ムッとしながら「何だよ」と出ると、才介は大きな声で「寝てたのか?おい、K!寝てる場合じゃねえぞ。朗報だ!」と興奮している。訊くと、福井の最初の旧家から仕入れてきた掛軸の一本が高く売れたらしい。「どういうこと?」の問いに「だから、残りもんに福があったってこと!」と依然興奮気味。よく訊くと、師匠が、知り合いに頼んで美術俱楽部の市(いち)に出品したところ、10点のなかの1点が中国の古画だったようで、これが何と600万で落札されたとの…

  • 「骨董商Kの放浪」(12)

    師匠は、軸を箱に戻すとそれを手にし、土蔵の入口に立っている当主のところへ行き頭を下げた。「どうか、これを譲ってください」当主はあきれたように、「さっきも言ったじゃない。何ひとつ売るつもりはありゃせんよ!」中肉中背の50代半ばの当主は、毛皮のコートに手を突っ込みながらぞんざいに言いはなつ。「あっちの方は、たたむようですがな。こっちは跡取りもおるし、そんな気、毛頭ないので、早よ、お引き取りしとっけんか!」と土蔵の扉を開けた。師匠は回り込んで、当主の前で土下座をした。「お願いいたします!」それを見て当主は苦笑し、「どもならんよ。突然来て」当主が歩を進めると、師匠は這いつくばるようにしてそれを追う。「…

  • 「骨董商Kの放浪」(11)

    ひと月前に、才介から言われた「あんた、中国美術を学んでくれよ」の提案を受けて、僕はそれを実行に移そうと考えていた。日曜日になると余計に届くチラシのなかから、或る文化講座のお知らせをみつけたのが、先月の中旬である。『中国陶磁勉強会』と題した講座が、1月から3月にかけて、隔週で計6回行われる。第1回が「古代」、続いて「隋・唐時代」、「宋(そう)時代」は2回にわたり、「元(げん)・明(みん)時代」、最終回が「清(しん)時代」と中国1万年ともいわれる陶磁史をわずか三カ月で修得できる、何と効率の良い講座があることを知り、早速に申し込んだ。講師は、大学の教授でもなく、美術館の学芸員でもなく、骨董商であるこ…

  • 「骨董商Kの放浪」(10)

    才介は、帰りの車のなかで、終始不機嫌そうだった。しばらく続く一本道を片手ハンドルで進めながら、「あのジジイ、ろくな仕事もってこない上に、手当も少ねえ、いっつもだ」才介はちらっと助手席の僕に目をやったあと「あんたも、そのつもりでやるんだな」と言う。「知り合いの人が、目利きだって言ってたけどな、師匠のこと」この僕の発言に才介はふっと笑って、「目利きには間違いないだろうが、商売の仕方がきれいじゃねえ」バックミラーをちらっと見たあと「おれは正直組みたくねえんだ」と、アクセルをやや踏み込む。それから、急に顔つきを変え「ただな、ちょっとした噂を耳にしてな」才介の細い眼がうっすらと輝く。「先月新券が出ただろ…

  • 「骨董商Kの放浪」(九)

    この秋、東京国立博物館で開催されている『中国国宝展』に出向いた。この展覧会には、仏教彫刻を中心に、近年中国本土で出土した国宝級の文物が出品されている。なかでも、僕の目を惹いたのは、むき出しに展示されている、3メートルを超える巨大な如来三尊の石彫であった。何しろでかい。その大きさに驚く。キャプションには、「山東省青州(せいしゅう)出土・東魏(とうぎ)(6世紀)」と書かれている。仏像は、何カ所かに壊れていたようで後でついであり、左の脇仏は上半身が丸々欠損している。本尊の顔は残っているようだったが、僕の眼は、聳(そび)え立つような光背に向かっていた。光背の両端には、飛天が左右三個ずつ配されている。光…

  • 「骨董商Kの放浪」(八)

    昨年同様、10月開催の骨董イベントに、ネエさんの店は出展した。三日間、僕はその手伝いで参加。この一年で知り合いもずいぶんと増えた。先だっての骨董フェスティバルに出ていた面々もいる。初日の飾り付け終了後、僕はぶらぶらと敵情視察。何かないだろうかと歩いていると、迷彩柄のバンダナが目に入った。 U氏は僕を見るなり開口一番、「K君、並んだらしいね」と訊く。「はあ」と僕は後頭部を掻く。「結局、あの山形の方がお買いになったんですよね?」の問いに「うん。会場内は拍手喝采だった」と答えた。僕は、黒いジャージを着て背中を丸めて座っている、その男の茫洋とした姿を思い浮かべた。U氏は続ける。「あの人、初めて骨董を買…

  • 「骨董商Kの放浪」(七)

    僕はその男の前にゆっくりと歩み寄った。僕に気がつくと、男は両膝を抱えたまま振り返り「こんにちは」と無表情で挨拶をした。「どうも」と僕も返す。40歳くらいだろうか。もじゃもじゃ頭の小太りな男は、上着の黒いジャージのジッパーを首まで上げて「この時間になると、ちょっと冷えますな」と僕を見つめた。座っている男の下には、青色のビニールが敷かれている。それを見ながら、僕は全身の力が抜けていくのを感じていた。僕はゆっくりと男の後ろに座り、そして尋ねた。「飛天ですか?」男は「ひょっとして、あなたも」と訊く。「はあ」と答えると、男は初めて笑顔をみせた。「お互い、バカですな」そう言って男はふくらはぎのあたりを掻い…

  • 「骨董商Kの放浪」(六)

    この頃、世の中の韓流ブームとは全く無縁と思える宋丸さんの店に、僕はしばしば通っていた。宋丸さんは僕の来店に、Reiの言葉を借りれば「ウエルカム」のようで、僕も宋丸さんに傾倒していた。宋丸さんの話しは、相変わらずつかみどころがなかったが、モノに対して発するコメントは、決して展覧会図録の解説に書かれているような文言ではなく、独特の調子をもつ的を得た表現で、それを聞くのが僕の愉しみだった。 その年の夏の終り、宋丸さんの店を訪ねると、Reiは自分の机の上で習字をしていた。「なかなか上手いじゃん」と僕が覗くと、Reiは墨のついた筆を僕の顔に近づけた。「勝手に見ないでください」「勝手にって、扉を開けたらす…

  • 「骨董商Kの放浪」(五)

    強烈な印象を放つ白磁の大壺を見つめながら、「やっぱり、すごいですね」と彼女は言った。僕はどきどきしながら唾を飲み込んで「こ、この口の造りも見事でして、ここも見どころです」と学芸員のような解説をした。口縁部の立ち上がりが力強く折れて内側に向かっている。彼女は覗き込むように顔を近づけ「はい」と言うと、両手で口元を押えクスっと笑った。「実は、わたし、あちらにある白磁の方が好きなんです」と指をさして、彼女は隣りの展示室へ向かって歩き出した。そこには、これより小ぶりな白磁の立壺(たちつぼ)が下の方に並んでいる。キャプションに「棟方志功旧蔵」とある。僕のお気に入りの一品だ。僕らは一緒にしゃがんで眺めた。彼…

  • 「骨董商Kの放浪」(四)

    「びっくりしましたよ。いきなり眼の前にあんなもの出すんだから」先ほど教授の与えた衝撃に、僕のテンションは高まっていた。ネエさんは笑いながら「教授、若い人が好きだから。今度お宅に誘われると思うよ」そう言ったあと「超目利きよ。凄いもの持ってる」とつけ加えた。「凄いもの?」僕が興味を示すと、ネエさんは続けた。「例えばね、私の好きなものだと」と言って、突然両腕を四十五度に差し上げ、手だけを内側に折った。「プレ・エジプト文明、紀元前3500年の加彩(かさい)の女性像。アメリカの美術館で見たことあるけど、おそらく日本にはあれしか無いわね」ネエさんは腕を下ろすと、ふーっと息を吐き、「超格好いい!もろ現代アー…

  • 「骨董商Kの放浪」(三)

    ネエさんの店の応接間の床(とこ)には、赤色をした、頭の後ろが大きな瘤のように隆起している牛の形をした土器が黒い敷板の上に置かれ、床(とこ)の隅には、胴部に円いスタンプ状の彫り込み文様のある、ほどよい高さの石製の筒瓶があり、そこに女郎花などの草花が生けてあった。先ほどまで内科の先生が腰かけていたところに僕は座り、ネエさんは新しく入れ替えたアイスティーを僕の前に置いた。先生はあの後すぐに用事があると言って帰ったので、自然とネエさんと二人でお茶を飲むことになったのである。 「優しそうな方ですね」僕が言うと、ネエさんは「何でも興味があって、いろいろ持ってるのよ。一度お家に行ってみればわかる。びっくりす…

  • 「骨董商Kの放浪」(二)

    犬山得二の部屋で見たローマンガラスの破片に魅入られた僕は、さっそく彼に教えられた骨董店に向かった。その店は、僕の住んでいるところから二駅隣りにあった。案外近くにあるんだなと、もちろん来たことはあるが、意外に知らないその街の界隈をぶらついた。駅前はこじんまりしているが、近くの商店街は充分に機能しており、洒落たブティックやスイーツ店のなかは人で賑わっていた。10分近く歩けば、裕福そうな住宅地が広がっている。その骨董店は、駅から2~3分の、目印となるコンビニを曲がった細い路地のすぐ右手にあった。 僕は生まれて初めて骨董屋というところに入った。5坪ほどの店内には飾り棚に小さな品物が並んでいて、奥は仕切…

  • 「骨董商Kの放浪」(一)

    僕が骨董商になったのは、今から17、8年前のことである。一年浪人して、さして有名でない私立大学の理工学部に入学し、ここで一年の留年を経て都合五年を過ごし、21世紀初頭の就職氷河期の真っ只中に、或るシステムエンジニアの優良企業に何とか就職したものの、自分はやはりアナログ人間であったことを悟り八カ月で退社、自問自答の生活に入ったのが約20年前のことである。その頃毎朝起きると、僕の頭のなかに「人間失格」という文字が周回していた。 取りあえず僕は家の近くのファミレスでバイトを始め、深夜遅くまで「シンク」と呼ばれるどでかい洗い場でひたすら格闘しながら、これからどうしようかと途方にくれていた。 そんな僕が…

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