骨董商Kの放浪(39)
ぼくは、両手で抱えた小さな風呂敷包みにぐいと力を込め、受付に向かった。二人の女性が座っている。その右側の短髪の女性の前に進み出ると、緊張した面持ちで名を告げた。黒髪の女性は口元に笑みをたたえ「はい」と答えてからデスクに目を落とし、すぐに顔をあげた。「お待ちしておりました」その瞬間ちらりとぼくの風呂敷に目を当てたが、一定の笑みを崩さずに「あちらのエレベーターで6階にお上がりください」と手のひらで示した。ぼくはこわばらせた顔を一つ縦に動かすと、ぎこちない動きで右奥のエレベーターへと向かった。途中、何人ものスーツ姿とすれ違う。実は今日、ぼくも一張羅のスーツを着込んでいるのだ。ぼくは、8基あるエレベー…
2023/07/31 16:27