短編集「一人称単数」より、『品川猿の告白』を考察します。 こちらの短編集はエッセイのような文体で、主人公も著者自身と思われるような語り口で物語が進んでいきます。しかし、明らかに現実では起こり得ない展開が待っていますので、現実(エッセイ)と非現実(フィクション)がシームレスに移行していく不思議な物語も楽しめます。 こちらの短編集のテーマは全体として「一人称単数」のタイトルに表れているように「私とは誰か?」というアイデンティティの模索です。 ”テーマ?そんなものはどこにも見当たらない。ただ人間の言葉をしゃべる老いた猿が群馬県の小さな町にいて、温泉宿で客の背中を流し、冷えたビールを好み、人間の女性に…
短編集「東京奇譚集」より、『品川猿』を考察します。先日文庫化された短編集「一人称単数」に、「品川猿の告白」という後日譚が収録されていました。そこで今回は、順番に一作目の『品川猿』について考察したいと思います。 東京奇譚集(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon
短編集「一人称単数」が文庫化されました。今回は表題作『一人称単数』を考察します。 一人称単数とは、私・あたし・オレ・自分など自分自身を指し示す言葉です。一人称複数になると、私たち・我々など自分を含めた複数を指し示します。「あなた」が二人称で、三人称は語り手・聞き手以外の話題に挙がった人・物・名詞です。 世界の言語と比べると、日本語は主語(人称)を省略して話すことが多い特殊な言語です。これは、日本語が「相手の同意を求めながら」コミュニケーションをしていることにも関係があると私は考えています。「私はこう思いますが、あなたもそうですよね?」と、同調圧力を含んでいます。 諸説あるようですが、「おはよう…
村上春樹著、短編集「パン屋再襲撃」より表題作の『パン屋再襲撃』を考察します。 主人公は学生時代に金欠で食べるものにも困ったときに、当時の相棒(パートナー)と共にパン屋を襲撃した過去があります。十年後、主人公は就職・結婚して、まともな社会人になっているのですが、深夜に極度の空腹感で目を覚まします。何故か奥さんも異常な空腹で眠れなくなり、主人公は過去の失敗を奥さんに告白します。 するとどういう訳か、奥さんはパン屋襲撃を成功させなければならないと主人公に説き、夫婦で再襲撃を企てますが、深夜営業のパン屋がなかったので仕方なくマクドナルドを襲うというお話です。 パン屋再襲撃 (文春文庫) 作者:村上春樹…
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