2019年3月30日日経新聞夕刊に掲載されたものです。 1月、南米の最高峰のアコンカグアに挑んだ僕たちの遠征は強風によって停滞し、僕の父、三浦雄一郎の心臓のコンディションを危惧した山岳医の大城和恵先生がドクターストップをかけた。副隊長だった僕は医師の判断に従うように父を説得した。父の頂上への思いは非常に強く、この説得には全身全霊を込めなければならなかった。長い沈黙の後、父が言った。「豪太たちだけでも頂上に行ってくれ」 僕は父の言葉に従いアコンカグアに登ったが、その間、あんな形で父を山から下ろしたことをずっと気に病んでいた。冒険と父の命とをてんびんにかけたことが、ひどくおこがまし