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オリジナル恋愛小説。O&O。H。となりに住んでるセンセイ。ワレワレはケッコンしません。など。

コツコツと執筆中。 北海道を舞台にしたものが多めです。

小田桐 直
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2021/02/12

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  • 09・雨がはじまる4

    うつ伏せのままだった。テーブルの感触が、硬い。痛い。 テレビコマーシャルの音声が、背中にびりびりとぶつかってくる。そのコミカルなメロディが一転して、急迫してくるかのような曲調。 なのに奥村は能天気だった。「あ。土曜ワイド劇場」 これ、昔けっこう見てたんだよね。家族全員で。奥村家総動員で。って言っても四人しかいないけど。「え。奥村んちの愉快なご家族が? 見ちゃってたんだ、昔の素敵な土ワイを」「そう...

  • 09・雨がはじまる3

    窓に雨がぶつかる音。テレビコマーシャルの音。アルコールのにおい。スナック菓子と燻製珍味の塩辛いにおい。それとは別に、誰かの甘い香り。 何だろうこの香り。いい香り。 顔も手足も、ほかほかと温まっていた。うつ伏せに覆っていたテーブルを硬く感じていたのに、今はそうでもなかった。ふわふわと、気持ちよくなっていた。 暗くなり明るくなり、そしてまた暗くなりを繰り返す視界。閉じたまぶたの裏が一瞬明るくなるのは...

  • 09・雨がはじまる2

    ・ 歩けば床が、ぎしりと鳴いた。 きれいなものというのは不思議で、目にしただけで幸せな気持ちになってしまう。あたり一面が、キラキラ光るガラスの世界。いまにも降りだしてきそうな外の空とは大違い。 慎重に歩かないと、ぶつかって商品を落としてしまいそうだ。通路は狭い。 店内の向こう。ガラス越しに、小さな工房も見えている。ここは函館硝子明治館。 細長いブルーのグラスを手にとってみれば、案外と重い。底...

  • 08・そこまでには至らない4

    「いやいや、かわいそうな陽子ちゃん。山本に遠慮してはっきり言えないでいるのだね? きみって意外と思いやりあるよね。そういうとこは偉いよね」 奥村の吐く台詞がすべて、薄っぺらく聞こえてしまう。 から威張りしているように思えてならない。「もういいから奥村は。たらたら喋ってないで早く注文決めろや」 呆れ返ってしまっている山本に、奥村がクッと苦笑い。言われたとおりに黙って、ぱらぱらりとメニューをめくり始め...

  • 08・そこまでには至らない3

    ◇「奥村くん、ちょっと痩せた?」 向かいから、やわらかな声が聞こえてはっとする。 考えごとをしていた。ぼんやりしていた。「そうかあ? 痩せた?」 隣で、奥村が自分の顔を撫でていた。服が擦れあうほどそばにいるから、動くだけで肘もぶつかってしまう。「うん。痩せた。なんかね? 顔がこう、シャープになって素敵になった」 素敵になった。 なんて、恥ずかしくてなかなか言えない台詞を、照れもなく口にしてしまえる...

  • 08・そこまでには至らない2

    ◇ あと一分で発車します、という車掌のアナウンス。窓の外に見えている札幌駅のホーム。車両の通路をせかせかと移動していく乗客たち。 指定席禁煙車はいつの間にか、大部分が埋まっていた。どこからともなく漂ってくる美味しそうなにおいは、朝食をとりはじめた各座席からだろう。 発車のベルが鳴り、ホームの自販機や売店がゆっくり離れていってしまっても、奥村は戻ってこなかった。 不安になって立ち上がった時、前方...

  • 06・のっぺらぼう3

    目の前は壁。 フックから吊り下げられた、シルバーグレイのジャケット。 どれくらい時間が経ったのだろう。ようやく入ってきた奥村の声は、知らない人のような違和感があった。かしこまったような低い声。「あの、小笠原?」 うん。 と返事をすれば、かすかな笑い声が携帯から伝わってくる。戸惑ったような、それでいて照れくさそうな笑い声が。 奥村はいま、どこにいるのだろう。電話の向こうが静かすぎる。会話が途切れて...

  • 06・のっぺらぼう2

    思いきり閉じてしまえば、分厚い背表紙が文字どおりの音をたてる。ぱたん。 見えなくなったいくつかの寄せ書き。見えなくなった「飯田詩織」。 着信音が聞こえた気がしたのは、卒業アルバムをケースカバーに入れていた時だった。 ああ電話。と小さくつぶやく。 誰からだろう。とぼんやり思う。 妙に遅鈍だった。耳からの情報が脳へ伝わるのも。それに繋がった考えを生み出すのも。 夜も更けている。こんな時間に電話をかけ...

  • 06・のっぺらぼう1

    乳白色の湯に浸かりながら、なぜか昔のことを振り返っていた。小学校時代のことを。 記憶にかすんでしまっている子供たち。浮かんでくる顔はのっぺらぼうばかりで、名前がもう出てこない。愛称は覚えていても、フルネームが出てこない。 そういえば「オガ」と呼ばれていた。ノッポのオガ。 あの頃好きだった山本学の顔はどんなだったか。あの時の自分の声はどんなだったか。 掘り起こしても掘り起こしても、思い出すことがで...

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