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  • 第92日

    猫じゃらしおっぱいに目が行ってしまうのはあやしい思いを持っているからではなく単なる反射作用なのです(ま、ちらりと思いがよぎらないではないけど)美人が通るとつい首まで動かして追ってしまうのも同じことなのです(いくつになってもと言われるけど)猫が猫じゃらしを目の前で動かされると眠かろうが怠かろうがつい手を出してしまうそれと同じなのですDNAに組み込まれた本能なのだからどうか大目に見ていただきたいああ猫のあれだなあと流していただきたい第92日

  • 第91日

    二つの人格少年の頃私の中には二つの人格がいた昼の人格と夜の人格その違いに私は悩んだ昼は懸命に生活をこなし夜は夢想に浸るどちらも私だが昼の私には潤いはなかったその後のことは憶えていないたぶん夜の人格が主になったらしい律儀で真面目な私は消えたのかもし昼の人格が勝っていたら私はきちんとした人生を送れたのかその方がよかったとは思っていない第91日

  • 第90日

    偽詩人「詩は若くして書くものではない詩は感情からでなく蜂の蜜のようにあまたの体験の蓄積と発酵から生まれる」そうリルケは言った老いぼれの偽詩人にはありがたい言葉だ世は若く瑞々しい感情の歌を好むがそれはきらきらと輝いて去っていく私の集めた蜜はみすぼらしく妙な香りしか立てないかもしれぬがそういうものが世の片隅にあってもいいだろう誰もが人生の秋に詩を書くがいいそれぞれの体験の蓄積を発酵させてそれは自分の魂との対話にはなる第90日

  • 第89日

    異郷ここが異郷だったのだ私は何度も手を差し伸べた愛し愛されようとしたしかしそれは静かに拒まれたふくよかな土に種を蒔き秋の稔りを祝い柔らかな褥に身を休めるそんな夢にも砂が混じり込むこの流砂の園靴にも下着にも口にも目にも入り込む棘私は帰郷の夢を紡ぐ高くもつれ合う雲を眺めながらその向こうにほの見える場所を第89日

  • 第88日

    ある朝ある朝という言葉はいい何かが始まるというのがいいある朝それは起こるたとえそれが悲しい別れであろうと新しい世界がそこから始まるある朝のない日々何も始まらない日々は精神が腐食していくさあ眠りにつこう明日目覚めた時にそれがある朝であることを願って第88日

  • 第87日

    都市の夜ねっとりとした硫酸のごとき想念が夜十時の都市の空を流れる絡まり合う声を固化させぶすぶすと燃やしながら永遠はもう私たちの手元にはないその言葉さえ忘れてしまったかつて私を見つめていた慈母のまなざしをひとかけらも思い出せぬように我らは火花のごときものとなった闇をかすかに照らし瞬く間に消え去り冷たい静寂だけがあたりを満たし続ける高らかに勝利した虚無が甘酸っぱい瘴気を分泌し都市の夜の夢を爛れさせていく第87日

  • 第86日

    ちびりひらめいたものがあったのにくしゃみしておしっこちびったらあとかたもなくわすれてしまったくそ(くそではないおしっこだ)おしっこをちびるなんてわかいころはありえなかったやっぱりしまりがなくなっているくそ(じゃないって)ちびりおしっことともにながれてさったひらめきはけっしてかえってこないながれさったものはしかたがないけれどのこったのがちびりぱんつだけというのはわがじんせいのようではらだたしい第86日

  • 第85日

    すれ違い寂れた駅の長椅子に濁った夕日が射し私は身じろぎもせず誰かを待っていたいつのことだったのか誰を待っていたのか誰かは来たのか来なかったのかそれは覚えていないたぶん誰かは来たのだそしてすれ違いで私は列車に乗ったのだ駅舎を後にしたのは私ではなくその誰かそして今ここにいる第85日

  • 第84日

    内閉的言語ゲーム内閉的言語ゲームの中で俺はすごいと顎を突き出したところでそれは内閉的言語ゲーム内のことに過ぎない外にいる者には何のことやら学界も宗教界も芸術界もともすれば内閉的言語ゲームに陥る権力権威が好きな人たちはそこで角突き合わせたり威張ったり独自の前提やルールや語彙で内閉的言語ゲームはますます内閉していく幻想権力の塔は天に聳える内閉した世界に真理の探究はない多くの優れた知性がそこに囚われているのは恐ろしい悪魔の罠ではないか第84日

  • 第83日

    橙色の廃墟都会の街は夕暮れがよく似合う昼の厳粛さでも夜の糜爛でもない中途半端な空白が訪れるオレンジ色の日差しは冷たさやけばけばしさを中和し妙に甘い切なさで疲れた心を包み込む通りの主役は学校帰りの小中学生無邪気な華やぎは失われていない夕暮れの街は廃墟に似る静かさと遠さがかすかに匂うそれは遠い未来の幻像だろうか第83日

  • 第82日

    ホモ・エコノミクス誰もがホモ・エコノミクスになったそれが現代なのかもしれない何と恐ろしいことか経済は理性の一形態だがあまりに多くのものを殺していく恐怖の武器を手にした人間は自らをそれで切り刻むけれどもやがて来るだろう経済への崇拝が終わる時が私はそれを信じるもし人類が進化をするものであればそうでなければならないでなければ精神も地球も枯渇するだろう第82日

  • 第81日

    まあなまあなという言葉はなかなかいい否定しない肯定するけれど熱烈支持はしない子細に論じればいろいろあるという含みもある論じても詮ないという達観もある怒り出す人もいないではない真剣でないお高くとまっているとまあなあんまりキンキンしなさんな問題は複雑だけど人生は長いよ第81日

  • 第80日

    隠遁風狂人と人がぶつかる苛酷さより自然と闘う苦しさのほうがいい日本人はそう思って天災の多いこの島にやってきたのか人間嫌いなのだろう和を尊ぶのは人間が嫌いだからだ人間同士で争うのを好む西洋人は実は逆に人間が大好き隠遁風狂が日本人の理想今の文明はそれを許さないだから今の日本人は不幸なのだ隠遁風狂を取り戻すことが日本の進むべき道だろうそれが新しい文明の先鞭となるだろう第80日

  • 第79日

    風籟土の中に眠る私の死体から一本の木が生え小さな実を結ぶ実はやがて干涸らびて風に吹かれてしゃらしゃらと音を立てる一人の旅の僧がそれを見上げて意味ありげに微笑む月が昇り風が止むと片目のリスがやって来て乾いた実を囓る揺れる梢から一粒の滴が落ち土に吸い込まれていくだが乾いた私の骨までは届かない第79日

  • 第78日

    ガラス窓昭和前期のガラス窓は心の奥の何かを掻き立てる古びた色の木の枠と歪んで泡の入ったガラスその窓から外の鮮やかな色彩を見ていたその窓の奥に秘密めいた世界があった風が吹くとガタガタ鳴り隙間風が入り込む真冬には氷が張るアルミサッシは快適だが日本の美を破壊した寒くても昭和のガラス窓の家に住みたい第78日

  • 第77日

    目的合理性徹底した目的合理性の前には倫理もなく悩みもない人間であることもないスターリンやヒトラーや毛沢東たちは何百万人殺しても目的しか見なかったわれらもまたしばしば目的合理性の穴に落ちる自分も人も壊していく目的が悪ではない合理性が悪ではない合体すると悪魔が宿る第77日

  • 第76日

    天気変転天気予報が当たらなくなった異常気象と専門家は言う前例がないだから予測できない西高東低、南高北低移動性高気圧と前線昔は数パターンの天気図ばかりで誰もが予測できた不確実性という言葉がかつて流行ったが今は地球が身をもってそれを実現している人間社会ももっと不確実になるのか失うものもさしてない身は目まぐるしく変転する世を少し茫然と眺めるのがいいか第76日

  • 第75日

    空洞遠い花火の音ばかりが響き夏は過ぎていくこの夏に死んだ人はこの夏をどう憶え続けるだろうあの冷たい窓の外に聳えて輝く入道雲を見たのか庭の枯れたヒマワリを見たのか窓枠に落ちた蜂の死骸を見たのか季節は去り人は去り空洞の時間がしばし続く遠い花火の音ばかりが響き新たな季節が来ても空洞は埋まることはないやがて世界は空洞だらけになる第75日

  • 第74日

    潮騒素直に緩やかに立ち上がり切なく焦がれるように打ち寄せ高く弾けて消えていくこの不思議な無尽の運動神は人をこのように見るのか自らに届くことを求めながらああまた消えていくと静かに見つめ続けるのか無数に生まれ似たようなものばかりなのに波は見ていて飽きない神もまた見飽きないのかいやそんな神などいない私は立ち上がり靴を脱ぎ崩れた波の名残と戯れる第74日

  • 第73日

    手じっと見つめなくても手は私の貧しく弱々しい姿を映し出しているもっと何かに使えばよかった土を捏ねたり木肌を撫でたりそうすれば私ももっと力強く生きられたのに使ったのは女と自分をまさぐるくらいそれでは手のほうも泣くだろう見つめるのは手のほうだ私を少し哀しげに第73日

  • 第72日

    悪魔の窓人々は皆小さな窓を持っているつながるため遊ぶため訴えるためしかしその窓から悪魔が進入してくる知らずのうちにあるいは半ば知りながら悪魔の魔術は巧妙よいものを追い掛けているうちにいつの間にか腐った沼に入る午後十時の都会の空をたくさんの悪魔が飛び交うそして群衆の精気を食らう第72日

  • 第71日

    ぼうっとするぼうっとすることは何ものにも代え難い喜びだ思い計りから離れ価値や当為からも離れて人々がもっとぼうっとすることを学べば世はもっとおおらかになりまた創造的にもなるだろう戦争もなくなるかもしれない……?そんなに急いでも仕方ないよ眉を吊り上げたところで知れてるよお茶でも飲んでぼうっとしなさいなぼうっとする時人は存在そのものにかすかに触れるそして創造の恩寵にも第71日

  • 第70日

    薄氷音楽が響いていたラジオのつまみを少し動かすと整った旋律は消えてしまい雑音や奇妙な言葉が飛び交う高熱に浮かされると幼い私はいつもそんなふうになった現実はふっと消え悪夢や光の乱舞に包まれる現実というものは薄い皮のようなものちょっと踏み外すと消えるそう思って私は育ったやがて私の受信機は安定した現実は薄い皮ではなくなったけれども少し厚くなりすぎて息苦しく感じる時もある第70日

  • 第69日

    疲弊人間関係さえなければ人生は単純素朴なものということは魂を磨く試練は人間関係ということかそうではないと思いたい黙々と真理や美を追求する人生相手の反応に頓着せず善を撒き散らす人生その方が魅力も稔りも多いのではないかと誰がどう思ったとか敵対したとか傷つけたとか愛し合ったとか喜びを分かち合ったとかそれらは私を疲れさせるそれらは本当に必要なことなのか私にはいまだにわからない第69日

  • 第68日

    怯え生きるのが怖い私がいるのが怖い心の深い奥底に埋め込まれた怯えが時たま浮かび上がる私は鎧を身に着けた意義を探り出したけれども時折それらは跡形もなく消える私が呪われているのかほとんどの人は安心を持っているのか手足を畳んで丸くなるなどしないのか誰もそして何もこの怯えを癒しはしないただ死のみがこれを解き放つだろう第68日

  • 第67日

    ブツ唯物論は究極の自己否定だ自分が自分の考えで自分を葬るなんてこれほどの悲劇があるだろうかあなたの甘やかな恋も人の熱い愛情も花に涙する感動もすべては物の戯れなのかい?唯物論を否定したからといって宗教に行かなければならないわけではない宗教が妄説を撒き散らしているからといって唯物論が正しいわけではない六日創造説もビッグバン説も真実にはほど遠いそんな馬鹿馬鹿しい二者択一はやめて少しはましなことを考えようではないか第67日

  • 第66日

    熱死熱中症あるいは風呂でのヒートショック穏和な熱で死ぬのはどうも楽なものらしい熱い日差しと土の匂いの中で草を摘みながら意識を失う暖かく体をほぐしていく湯の中で何かを夢見ながら死んでいく昔の私は四十度の熱を頻繁に出していた確かにあのまま死んだなら楽だったような気がする死ぬならこんな形でと思っていてもなかなか実現できないのが人の定め何とかする方法はないものか第66日

  • 第65日

    弱き人間人間をひ弱なものと見ようとする現代の風潮は明らかに異常だ傷つけるものを取り除こう傷ついた心のケアをしよう体に悪いものは追放しようばい菌は徹底して消毒しようそれは悪魔の奸計だ守ってくれる権力を増長させその中に人を囲い込む守るふりをして生き血を吸う人間をひ弱に見る見方は人間と個人の能力を腐らせていく出来上がるのは無力で従順な大衆これが悪魔の奸計以外の何なのだ第65日

  • 第64日

    錬金術泥や石から魔法のようなものを作り出す現代科学の錬金術は本当に魔法のようだそれほどの知性があるのなら心の中の泥や石から途方もなく美しいものを作り出せないだろうか紋切り型の精神論や還元主義の心理学ではなく本当に美しい心の姿を魂の神秘と生の苦闘を途方もない美として見ることができれば人類は間違いなく次の段階に進めるだろうに第64日

  • 第63日

    いい人天を見上げる人はいいその目は光を宿す光は私をも照らす地を耕す人はいいその手は豊かさを作る豊かさは私を安らかにする人を愛する人はいいその笑みは命を力づける私のみすぼらしい命をもいい人がいて世はかろうじて美しさを保つ私はそれを頼りによれよれと生きる第63日

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