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  • 第31日

    夢の残響強烈な夢は日常の下でしばし響き続ける意識が緩むと夢の響きはせり上がり光景の断片を煌めかせるこの夢はどこへ行くのか心の奥に沈み私の色彩の一つになるのか夢はもう一つの人生意識の意図とは別に錦を織り私の魂を包み込んでいく第31日

  • 第30日

    不気味な同伴者何十年生きてきてもなぜこの体が動いているのかさっぱりわからないさして意識もしないままに何十年生きてきてもこの体をうまく扱う仕方がわからない運動をしたり薬を飲んだりしても思うようにはならない自分のものではないけれど自分を規定している人は体の奴隷なのか?自分でもなく主人でも家来でもない味方であり敵でもあるこの不思議さはなかなか解けない第30日

  • 第29日

    東京鍋東京よこの酷使される鍋よ狂気の炎の上に毎瞬違う食材が焼かれるその香ばしい煙が空に渦巻く醤油や味噌やしょっつるの匂いがする八角やクミンやローレルの香りも混じるメニューは手を変え品を変え腹の出たグルメを引き寄せる違う私はポークソテーではない焼いたところで香りも油も出ないわずかな煤がこびりつくだけださておいしく頂くのは誰か牛丼屋に通うわれわれではない頭に角の生えた異形の生物だろうか第29日

  • 第28日

    以心伝心昔同棲していた半野良の猫を膝に抱きながら顔も見ずただ独り言として「猫は何の役にも立たんしなあ」と呟いた次の朝目覚めると枕元にネズミが一匹置かれていた私は猫に平身低頭してネズミを庭に埋めたテレパシーというのは実は意識せずにけっこうやっている人間同士でも動植物相手でも気をつけましょうね隣の人が明日の朝包丁を持って立っているかもしれないよ第28日

  • 第27日

    文明崩壊ああ文明が壊れていく人は善きものを創り出したのに何かがそれを蝕み瓦礫へと変えていくその何かの正体を人は薄々知っているけれどはっきり考えてはいけない口にすることなどもってのほか今回の文明はその何かに関係が深かっただから腐蝕と瓦解も壮大だその何かが変わることはあるのかこの崩壊はそれを促すのかその答えも崩壊に呑み込まれるのか第27日

  • 第26日

    辺境の駅辺境の駅は静かに眠り続け二時間おきの列車が来ても目覚めはしない都会へ向かう人の焦燥と帰ってきた人の失望とがその表面に降り積もっていてもそれを振り払いもしないそのうち幻の列車が来るだろう花飾りをいっぱい身にまとって姿のない老若男女が降り立つだろうその日を夢見ながら駅は眠り続ける朽ちていくことも気づかずに第26日

  • 第25日

    深淵深淵がお前を覗き込むお前は何者だと大した力もないくせに何をいきがっているのかとお前の深さなど水溜まりのようなものだお前の高さなど犬の糞のようなものだ私はその冷たい息に震えながら必死に睨み返すお前は何も生み出さないではないかと塵のような存在でも何かを生み出すことができるそれが深淵へのわれらの復讐第25日

  • 第24日

    ごろり私は頭蓋骨を持っているそのことをほとんど気づくことがないギロチンで切り落とせばごろりとスイカのように転がるこの頭手や足のことはよく知っているたるんだ腹やこわばった肩のこともけれど頭のことを殊更感じることはないこの中に心や魂が巣くっているのか改めて触ってみると大きくて重いその中には脳や目や耳といったかなりグロテスクなものが入っているいっそ頭部だけで存在したら面白いだろうどこへ行くにもごろごろと転がっていくのだ争いごとも愚行もなくなるだろう第24日

  • 第23日

    臨死カナブンカナブンたちはなぜ腹を上に向けて足をジタバタさせて死んでいくのかお前らみっともないぞちゃんとその甲冑の背を見せて棘で武装した足を踏ん張って空を睨んで息絶えたらどうだお前らには重すぎるのかその立派な鎧がそれを脱ぎ捨てようと足掻いているのか人もまたあまりに過去が重いとひっくり返ってじたばたしながら死を迎えなければならないだろう第23日

  • 第22日

    鬱気候この鬱々とした気候は陽質の人にはつらかろう鬱傾向の者には多少鬱が重くなるだけだが北日本の冬も欧州の大半の季節も鬱々さとしてはこんなものだろうそれでも人は暮らしている赤道近くに行って野獣や虫と一緒にガオガオと生きればいいかどうもそれでは人間性が怪しくなる人間性は鬱々とした中で育つというのは鬱質者の偏見だろうか第22日

  • 第21日

    悪魔憑き私は悪魔私に取り憑き私を呪い私を踊らせる大丈夫ほかの人には取り憑きません取り憑かれた私が悪さをするけどそれはご愛嬌のようなもの悪魔の目的は私に世の真実を教えること世を厭うことを教えることそうして悪魔はぼろぼろになった私を神への生け贄として捧げる第21日

  • 第20日

    沈降淀みに淀んで濁りに濁って私という地獄の中で私は窒息しそうになる言葉にならぬ罵倒を発し重く絡まる体を殴りそういう自分をさらに糾弾し沈降は果てしなく続くああ軽やかな身体と澄んだ心が欲しい天空を自由に飛び回りたいいや一筋の光となって宇宙の果てまで突進していきたい光の源泉に辿り着くまで第20日

  • 第19日

    穴幼い頃抱きしめていたぬいぐるみはどこへ行ったのかあれが埋めていた心の場所には今何があるのか愛する情景も愛しい人々もそこを埋めるものではないそこにはただ空白があるそんな空白が心にはいくつもあるらしいわれらの心は穴だらけなのか穴にはかすかな香りが漂い消え入りそうな旋律が流れるそれが私の心の色を作る第19日

  • 第18日

    屋根屋根は趣がある茅葺きは言うに及ばず色とりどりの瓦葺きも安普請のトタン屋根さえ雨露をしのぐという人にとって最も大切な役目を屋根は黙々とこなしているその静かな凛とした姿コンクリのビルには屋根がない趣はばっさりと切り取られている屋根は文明文化のアイコンそれを持っていないのが今の文明ということか第18日

  • 第17日

    山河破れ「山は崩れるものだよ」あっさりと林野庁の官僚さんはおっしゃったいくら植林しようが砂防ダムを築こうが崩れるのは山の定め国破れて山河ありというのは幻想山河も徐々に破れていく国が破れればもっと速やかに緩やかに崩れていくそのわずかな隙に人は田畑を拓き家を建てる厖大な労力を掛けて道を造るしかしそれもいつまで続くか人の住まなくなった日本の田舎は崩れた山ばかりになるだろう第17日

  • 第16日

    私の時世の時間の流れからふっと浮き上がり私自身の時の流れに入るその時の幸福感世には冷徹な時間が流れる暦と日課表が鞭を振るう消滅と忘却が焼きごてを押し付けるわれらは悲鳴を上げつつ這い回る夜の静寂の中で天使の手のように私だけの時の川が降りてくるそこでは何も私を急き立てないどんな経験も失われることがない私は無私と不死の中に入る第16日

  • 第15日

    ヤルダバオートこの百年の発展は異常だということをわれわれはつい忘れてしまい異常の下に隠れたものを見ない悪神ヤルダバオートは勝利したのか物質におぼれた魂がさらなる物質への欲望を募らせ地表を覆い尽くすほどに繁殖した悪神は次に何を企んでいるのか七〇億の魂を引き連れてさらに重い惑星世界を創造するつもりか移住が完了した時地球は用済みとして破壊されるかもしれないそんな兆しがあちこちに見え隠れする第15日

  • 第14日

    出会う心と心が出会い共に震える時あなたの中の何かが私に入り私の中の何かがあなたに流れる優しさであり憧れであり魅惑であり安らぎでありそれは特別な恩寵たとえ持続することがなくとも魂の確かな宝になる結び合った縁はより大きな模様の種となりそうして創造の絵巻は織られていく第14日

  • 第13日

    塵も積もれば塵を山と積んだところで何になると思うけれども塵を山と積まないとおまんまは食えない仕事は些細なことで溢れ返っている何でこんなに細々としているのかと嘆くけれどそれをせっせと積み上げてようやくわずかばかりの果実が得られる濡れ手で粟と夢見るけれどそうは問屋が卸さないだから粛々と塵を積むわれら自身もまた塵のようなものそれが集まって織物を造る創造も生存も塵から始まるのだ第13日

  • 第12日

    脳の栄養脳が消費するのはブドウ糖のみという説はどうも疑わしい糖分だけ摂っていれば頭脳労働はできるのか頭だけ動かしていてもへとへとになるほど疲れる肉や香辛料を食わないと疲労は回復しない肉体がせっせと作った何か見えない栄養素を脳は猛烈に消費している絶対そうに違いないでなきゃ頭脳労働の立つ瀬がないブドウ糖だけ食ってろと言われてしまう第12日

  • 第11日

    自己像突然道に出現した鏡は醜くたるんだ老人を映し出し何じゃいこりゃおめえは一体誰だ脳内の自己像は十年くらい前の姿時には青年や少年まで飛び出してくるソフトクリームを前にしていると自己像は少年のボクチンになっているが実際の姿はかなりおぞましいのだろう肉体の成熟老化は残酷なものだが青年の自己像はひそかに持ち続けたいそしていたいけな幼児の自己像も第11日

  • 第10日

    橋の下橋の下には異界が口を開いているむやみに覗いてはいけない引き込まれてしまうからお前は橋の下から拾ってきたんだよという伝統的なブラックジョークは案外真実を衝いている子供は異界からやってくるのだからホームレスや不良たちが好んで橋の下にたむろするのは異界へ行きたいという思いがあるからかいくら近代的な街を作っても異界はあちこちに出没する今日も橋の下では何かが消え失せている第10日

  • 第9日

    厭世私が心底世を厭い生を厭う時私は正しいのか間違っているのか欲望もなく執着するものもなくただ重苦しさに耐えるその苦しさは厭わしい私の魂は冷え切ってしまったのか氷のサナギの中に入ってしまったのか創造の恩寵も否定して私は必死に心の底を探る飛翔への一粒の希求があるがそれはあまりにもか弱い第9日

  • 第8日

    水の味わい何も棲んでいない川に置かれたヤナのように時だけがただ過ぎ去っていく溜まるのは落ち葉や小石ばかりそれを時折取り払いやがて朽ちて水から引き上げられるその時を待つそれでも季節ごと変わる水の味わいを楽しみ続ける第8日

  • 第7日

    不快の海人間の受け取る生理的刺激のうち八〇パーセントは不快だという心理的刺激に至っては九五パーセントは不快だろうよく生きているものだわずか二〇パーセントの生理的快と五パーセントの心理的快を反芻して何とかやりくりしている不快は当たり前なのだそれを当たり前と捉えないともがき続けることになる不快の海を渡っていく舟快不快を超えた何かを生きない限り人間は不幸だということだ第7日

  • 第6日

    灼け火箸灼けた火箸が何本も私の心の奥に埋もれている時折うっかりそれに触れて私は叫び声を上げる重大な罪もあれば些細な過誤過失もあるそんなものを溜め込むことが生きるということなのかいつかはあっさりとそんなこともあったなと思い返せるようになるのかいくら幸福な境遇になったとしてもこの灼け火箸は私を叫ばせ続けるだろう私はついぞ幸福になれないに違いない第6日

  • 第5日

    ニンジンニンジンをぶら下げて今日も何とか一歩を踏み出すそんな人間に私はなってしまった休憩になったら饅頭があるよ今晩は牛肉を食べていいよ週末はサウナに行かせてあげるからそうやって足を一歩ずつ進めるけれどニンジンもだいたい食い飽きる足はどんどん重くなる何か新しい驚くニンジンはないものかニンジンがなくなった時私は首をくくるのだろうかそれともそこから本当の生が始まるのか第5日

  • 第4日

    土星土星のあの環に巨大な針を乗せてレコードのように再生させたらどんな天体の音楽を奏でるだろうこの宇宙の創生神話を歌うだろうかあの環は屑の集まりと人は言うがあれは巨大な本星が生み出した軽やかな詩ではないだろうか甘く切ない夢想ではないだろうか環のない土星なんて醜く恐ろしい悪魔のようなものだとても地球人には正視できない宇宙はしばしば軽やかに飾りを付けるそれは宇宙が単なる機械ではなく詩心のある創造だという証ではないか第4日

  • 第3日

    ヒステリア・ジャポニカ日本人のヒステリーは規律を壊すほうにではなく規律で人を締め上げるほうに向かっているように見えるあれをするなこれをするな通報するぞ晒し上げるぞよってたかってぶっ叩き溜飲を……下げられるのか暴動よりはいいけれど安全安心な世が守られるけれど……息苦しいこの息苦しさも破壊には向かわないさらなる規律へと向かう何かが死にはしないだろうか第3日

  • 第2日

    塀の上の猫塀の上の猫は不敵な笑みを浮かべて「だんなさんどこへお出かけじゃあ」どうもこいつらはわれらの行動を逐一見抜いているような気がする猫宇宙人説というものがあるがこいつらは閻魔様の手先でわれらの悪事を逐一報告しているのではなかろうかまあわれらの悪事などたかが知れている閻魔様だって馬鹿馬鹿しくてやってられないええいどいつもこいつもやり直しじゃあ!「雨が降りそうだから傘持っておいき」猫は空をちらと見ながら忠告する確かに西に入道雲が聳えている第2日

  • 第1日

    空を眺める何を見るわけでもなくしばし空を眺める人はそれすらもしなくなっているどんなに夕焼けが鮮やかだろうと見事な入道雲が聳えていようと人は空を見ずただ足下を見つめて歩く切れてしまったのだろうか切ってしまったのだろうか空との繋がりを空は神の沈黙そこに拡がる音のない問い掛けに人はもう向き合おうとしない第1日

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