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書に耽る猿たち https://honzaru.hatenablog.com/

本と猿をこよなく愛する。本を読んでいる時間が一番happy。読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる色々な話をしていきます。世に、書に耽る猿が増えますように。

本猿
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2020/02/09

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  • 『からゆきさん 異国に売られた少女たち』森崎和江|こんなことが150年前の日本であった

    『からゆきさん 異国に売られた少女たち』森崎和江 朝日文庫 2021.11.27読了 何年も前に新聞の書評にこの本が載っていた。気になってすぐに購入していたのだが長く家に眠っていた。このタイミングで読んだのは、つい先日岩波文庫から、『まっくら』という同じく森崎和江さんの本が出版されたことで思い出したからだ。 「からゆき」とは漢字で書くと「唐行き」である。江戸末期、朝鮮・唐天竺へ働きにいくことを「からゆき」と呼び、そういった出稼ぎをする人は「からゆきさん」と呼ばれていた。それがやがて海外に売られた少女を指す言葉になっていった。 森崎さんは、友人である綾さんが複雑な家庭にあることを知る。綾さんの母…

  • 『鏡は横にひび割れて』アガサ・クリスティー|マープルは安楽椅子探偵さながら

    『鏡は横にひび割れて』アガサ・クリスティー 橋本福夫/訳 ハヤカワ文庫 2021.11.26読了 クリスティーさんの作品群のなかには、タイトルが斬新で目立つものが何冊かある。この作品もその一つだ。ミス・マープルシリーズの8作めである。 導入はミス・マープルがその住み慣れた家、住み慣れた街(ロンドンからほど近い架空のセント・メアリ・ミード村)の記憶とともにもの想いにふける場面だ。クリスティーさんの作品は単にミステリ手法が長けているだけでなく、さりげない情景を奥深く表現し、人間の心理をうまく捉えている。それがミステリファンのみならず、世界中で多くの読者に愛されている所以だろう。 アメリカの名女優と…

  • 『ほんのこども』町屋良平|言葉の独り歩き

    『ほんのこども』町屋良平 講談社 2021.11.24読了 全ての小説家にはもちろんのこと、何らかの形で文章を書き、読み、そして言葉を愛する人にとっては、少なからず心に響くものがある小説である。私小説のようなエッセイのような、いや、でもやっぱりこれはフィクションだよなと思いながら、言葉の渦の中に飲み込まれていった。 作中で町屋さんは、「おもう(思う)」「かく(書く)」「はなす(話す)」という、文章で表現するために必須の感情や行為をひらがなで示している。小説では、よく漢字を使わずに平仮名を用いて何かの意図を印象付けたり、表現を和らげることが多いが、この作品では他にも何か思惑がありそうだ。 思えば…

  • 『侍女の物語』マーガレット・アトウッド|女性が監視させられるサスペンスフルな世界

    『侍女の物語』マーガレット・アトウッド 斎藤英治/訳 ハヤカワepi文庫 2021.11.22読了 オブフレットという女性の目を通して「侍女」として生き抜く様を描いたディストピア小説で、アトウッドさんの代表作のひとつである。この作品でいう「侍女」は、子供を産むためだけの道具として扱われている。全ての女性が仕事と財産を取り上げられ、妊娠可能な女性はエリート男性の元に派遣される。 作中に出てくる「司令官」「保護者 」「 代用紙幣」「救済の儀」など聞き慣れないワードが不穏な空気をもたらす。よく比較されている通り、ジョージ・オーウェル著『一九八四年』を彷彿とさせる。健康な身体を持つ女性が監視された社会…

  • 『平場の月』朝倉かすみ|口調だけで年齢はわからない

    『平場の月』朝倉かすみ 光文社文庫 2021.11.20読了 大人の恋愛小説と謳われているこの作品、50歳の中年男女を主人公にした小説である。かつての同級生と再会し、この年齢でこんな関係になるなんてなかなかないだろうと思いながら読み進めた。決してドロドロの不倫でもなく、純粋な恋愛をしている2人が一途である。 一文が短い。歯切れがよく無駄なものがない。地の文も会話もとても短い。見たもの、思ったものをそのまま表現している感じ。だからなのか、初めは青砥と須藤がまだ若者であるかのように感じた。それでも考えている内容は大人のそれであって、よく考えたら大人だからといって長い文章になるのは小説の中だけかもし…

  • 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』トーマス・サヴェージ|鳥肌が立つほど感性を揺さぶられる名作!

    『パワー・オブ・ザ・ドッグ』トーマス・サヴェージ 波多野理彩子/訳 ★★ 角川文庫 2021.11.18読了 今日から一部の映画館で公開される同名映画の原作である。この作品自体かなり気になっていた。というのも、なんと『ブロークバックマウンテン』を彷彿とさせるとあるから。私は映画のなかでは『ブロークバック〜』が5本の指に入るほどお気に入りなのだ。 だから、少しだけ期待しながら映画の原作であるこの作品を読んでみたのだが、、なんと期待以上に素晴らしかった。こんな小説は今までに読んだことがなく、読み終えた直後は衝撃を受け鳥肌が立ってしまったし、暫くしてからもぼうっと放心状態。とんでもないものを読んでし…

  • 『ゴリラの森、言葉の海』山極寿一 小川洋子|因果という考えを持たないゴリラ

    『ゴリラの森、言葉の海』山極寿一 小川洋子 新潮文庫 2021.11.16読了 霊長類学者の山極寿一(やまぎわじゅいち)さんと、小説家小川洋子さんの対談集である。なんと、ゴリラにまつわるもの。猿好きとしてはもちろんたまらない。山極先生は、ゴリラ研究の第一人者であり私も尊敬してやまない存在。小川さんも繊細で美しい文章を奏でる好きな小説家の1人である。 山極さんはゴリラのことを「人間の模範であるということ、人間の本当の姿を映し出すことから、人間の鏡である」という。小川さんは「言葉で代用できない部分に実は真実が隠れている。言葉によらない共感を小説に書かなくちゃいけない」と考えている。 ゴリラの生態を…

  • 『都会と犬ども』マリオ・バルガス=リョサ|塀のなかでの人間関係

    『都会と犬ども』マリオ・バルガス=リョサ 杉山晃/訳 新潮社 2021.11.15読了 ペルー・リマにある軍人士官学校を舞台とした、寄宿舎に住む10代の少年たちの群像劇である。これがリョサさん初の長編小説で、しかも20代に書かれたものであることが信じがたい。自身の体験を元に創り上げたようだが、作中で「詩人」と呼ばれるアルベルトが彼自身のイメージに近いのであろうか。 語り手も時間軸も行ったり来たりするので、最初は戸惑いがあったが、意外と読むペースはスムーズだった。リョサさんの作品は読みやすいもの(『楽園への道』『悪い娘の悪戯』など)と読みにくいもの(『緑の家』『ラ・カテドラルでの対話』など)が二…

  • 『雲上雲下』朝井まかて|古くから伝わる民話の復興を

    『雲上雲下(うんじょううんげ)』朝井まかて 徳間文庫 2021.11.13読了 子供の頃にテレビで観た「まんが日本昔ばなし」を思い出した。必ずあのテーマ曲とセットだ。「ぼうや~ 良い子だ ねんねしな」という歌声とともに、竜に乗った男の子が画面いっぱいになって映し出される。懐かしいなぁ。当時は特別好きなアニメだったわけではないけれど、いま思えば良い番組だったと思う。今の子供達は、昔ばなしは寝る前に読んでもらったり、絵本で読んで知るのだろうか。 そう、この『雲上雲下』という小説は、古来から伝わる昔ばなし・民話を元にした小説である。「草どん」という植物の視点で話が始まる。金色の子狐が草どんのところに…

  • 『断片的なものの社会学』岸政彦|言葉にするほどのない物事を絶妙に表現する

    『断片的なものの社会学』岸政彦 朝日出版社 2021.11.11読了 岸政彦さんといえば、東京に暮らす150人にインタビューしそれをまとめた『東京の生活史』が話題になっている。かなり分厚くて値段もまぁまぁなのに、すでに4刷の増刷が決まったらしい。私が岸さんのことを知ったのは柴崎友香さんと共著の『大阪』を読んでからだ。岸さんの文体が気に入ったので、他の作品も読みたいと思っていた。 honzaru.hatenablog.com 社会学とは何か。思えば大学の学部を選ぶ際に社会学部というものがよくわからなかった。曖昧で抽象的な概念であるが、岸さんは「仕事として他人の語りを分析する」という表現をしている…

  • 『サイラス・マーナー』ジョージ・エリオット|人生の晩年に幸せがやってくること

    『サイラス・マーナー』ジョージ・エリオット 小尾芙佐/訳 光文社古典新訳文庫 2021.11.10読了 機織り(はたおり)という職業については、現代社会で、さらに日本ではなかなか想像しにくい。サイラス・マーナーとは、この小説に登場する孤独な機織りの主人公の名前である。地味で、はたから見ると幸せにみえない彼の人生ではあるが、晩年に得たものは何だったのか。 友と恋人に裏切られたサイラス・マーナーは、絶望のなかで故郷を捨てた。ラヴィローという小さな村に辿り着き、機織りをして質素にひっそりと暮らす。楽しみは機織りで得た金貨を貯めて眺めて触れること。これは、今でいう通帳を見てにんまりするようなイメージだ…

  • 『叫び声』大江健三郎|青春時代の難所

    『叫び声』大江健三郎 講談社文芸文庫 2021.11.8読了 悩み大き青春の時代を歩む若者にこの本を読んで欲しい、そして人生の最初の難所を克服する助けとなれば、という思いで大江さんはこの小説を書いたそうだ。でも、若者でこの作品が理解できる人はそうそういないのではないか。もう人生半ばを過ぎた頃に書かれたものかと思いきや、大江さんがこれを書いたのは20代後半だと言うから驚きだ。 大江さんの小説を読むと、いつものっぴきならない空想の世界に足を踏み入れてしまい、彼の頭の中は一体どうなっているんだろうと、その想像力に圧倒される。それでもこの小説はまだわかりやすいほうだ。私が読んだいくつかの作品のほうが確…

  • 『やさしい猫』中島京子|日本の入国管理制度をすぐにでも考え直すべき

    『やさしい猫』中島京子 ★ 中央公論新社 2021.11.6読了 今年の5月まで読売新聞の夕刊に連載されていた作品が単行本化された。ジャケットだけみると、猫が出てくるほのぼのとしたお話なんだろうと予想してしまうが、これがどっこい、とても重いテーマなのだ。でも、心に残る良い小説だった。涙してしまうような場面が何度もあった。 タイトルの『やさしい猫』とは、スリランカ人のクマさん(本当はクマラさん)がまだ小さかったマヤに話し聞かせてくれた母国に伝わる童話のようなもの。優しくておもしろいクマさんは色んなことを教えてくれる。 語り手のマヤは、母親のミユキさん(この作中ではさんづけ)と2人暮らし。ミユキさ…

  • 『エリザベスの友達』村田喜代子|忘れられない大切なひととき

    『エリザベスの友達』村田喜代子 新潮文庫 2021.11.3読了 千里(せんり)の母親初音(はつね)さんは97歳、認知症のため施設で暮らしている。千里は週に2回、千里の姉の満洲美は歩行が困難なため千里と一緒に週に1回母親に会いに行く。千里と満州美のそれぞれの視点で現実が語られる。また一方では、初音さんが20歳の頃満州で暮らしていたときの記憶とともに過去に遡る。 認知症が悪いところばかりでないのは「認知がある人は死に別れた人たちと夢の中で会うことができる」からだという。元気に100歳まで生きていても、現実で大切な人と会うことはできない。夢のような世界を想い描き幸せに暮らすことができるのなら、とも…

  • 『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー|日本語以上に流暢な文章で傑作ミステリを

    『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー 駒月雅子/訳 創元推理文庫 2021.11.3読了 この作品はジョン・ディクスン・カーの多くの小説の中でも名作と名高く、そのトリックはアガサ・クリスティーをも脱帽させたと言わしめている。クリスティー作品を読むことをライフワークにしている者にとって、これは読むしかない。 前夫ネッドと離婚したばかりのイヴは、トビイ・ローズと知り合う。ローズ家の人たちにも気に入られ、トビイからの求婚を受けて婚約をした。ところがトビイの父親が書斎で殺害され、その容疑がイヴに降りかかる。何故、ありもしない証拠がー。 この小説のタイトルである「かぎ煙草入れ」がどんなものなの…

  • 『アレグリアとは仕事はできない』津村記久子|機械との付き合い方

    『アレグリアとは仕事はできない』津村記久子 ちくま文庫 2021.11.1読了 てっきり同僚の女子社員のことだと思っていたら、このアレグリアって複合機だったのか…。地質調査会社で働く事務員のミノベは、高機能と謳われた複合機と格闘する。1分間機能を果たしては2分の休憩をする、すぐに壊れる、メンテ会社にも判断できないエラーをする…。コピー機に八つ当たりしても仕方がないのに。 わかるなぁ。コピー機にもその機械なりの癖があって、詰まったら叩けば何とかなるみたいなところがあるからそれなりにうまく付き合っていくしかない。それでも機械にはたまにポンコツが存在するし、電化製品は運もある。スマホやパソコンなんて…

  • 『ウォーターダンサー』タナハシ・コーツ|未だなお続く差別問題

    『ウォーターダンサー』タナハシ・コーツ 上岡伸雄/訳 新潮クレスト・ブックス 2021.10.31読了 美しい装丁である。そしてタイトルもまた美しい。だけど、この美しい本の中に書かれているのは、自由を奪われたアメリカ南部の奴隷制度のことだ。現代でもなお社会問題として切り離せない人種差別をテーマとした心をえぐるストーリーだ。 白人で農園主の父と黒人奴隷の母を親に持つハイラムは、兄メイナードに仕える者として暮らす。ハイラムには、物事を絵画のように記憶できるという特殊な能力があり、それを見込まれて教育を受けることになる。 奴隷の逃亡を助けるネットワーク「地下鉄道」の話であることは知っていたが、ストー…

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