ハルヤマノカスミの自伝 6 異母兄のアキヤマノシタヒはわたしとの約束を守ることは無かった まあ、わたしとしてはそんな約束、どうでもいいことではあったのだが・・ しかし、あのアキヤマシタヒの態度には、腑に落ちないものがあった。 わたしは家に帰ると、母にその話をした すると母は、おおきなため息をついて 「我々は神の国に住んでいます。なので我々は神の国のしきたりによく従うべきなのです。なのに・・ アキヤマシタヒ殿が神の国のしきたりに従わず約束をたがえるというのは、人間社会に染まってしまったからなのだろうか・・・」 と言った。そして・・ 母上は、伊豆志河(いずしがわ)の中洲から一本の竹を取ってきた。 …
ハルヤマノカスミの自伝 5 わたしはイズシオトメを嫁にし、彼女はわたしの子を身ごもった。 そんな折、異母兄のアキヤマノシタヒと会う機会があった。 アキヤマシタヒは嫌味っぽく、わたしに話しかけてくる 「おう、ハルヤマ!久しぶりだな! どうだ、イズシオトメを嫁にすることができたか?! ははは、お前にそんなこと、できるわけないか!!」 わたしは平然と答えた 「いえ、兄上・・イズシオトメは今はわたしの妻ですよ。それにイズシオトメは今、懐妊してるんです。もちろん、わたしの子です」 それを聞くと、今まで余裕そうな兄の顔がみるみる青ざめていった・・引きつったような、恐ろしいことを聞いたような・・ まあ、もし…
ハルヤマノカスミの自伝 4 わたしは半信半疑ながら、母上の言う通り、イズシオトメの屋敷に忍び込んだ。そして、藤の蔓でできた弓矢を厠の前にかけたのだ すると・・・どうだろう・・ 信じられないことが起こったのだ! 厠の前にかけた、藤の蔓で作った弓矢・・そこから鮮やかな藤の花が咲いたのだ・・・ いや、弓矢だけではない。わたしが着ていた、藤の蔓で編んだわたしの衣服にも、沓にも藤の花が見事に鮮やかに咲いていた。 どういうことだろうか・・その鮮やかな藤の花と立ち上る藤の香りに、わたしは頭がぼーっとなってしまった・・あたかもここは桃源郷か・・ そんな錯覚さえも覚えたほどだった・・ すると、そこにした物音で、…
ハルヤマノカスミの自伝 3 その日の夕食時、わたしは母上に、その日の異母兄アキヤマノシタヒとの出来事をつぶさに話した。 すると母上は、 「そうですか・・ならば母が一肌脱いでみましょう」 と言った 「母上・・いったい何をされるのですか?」 「ふふ・・それは明日の朝までのお楽しみ」 母上は意味あり気に笑うと、奥の部屋に入っていた。 そして、その翌朝・・・ 「これを着て、イズシオトメさまのもとに行きなさい。そうすれば、すべてはそなたの意のごとく、物事はうまく進んでいくでしょう」 母上から渡されたもの・・ それは、藤の蔓で編んだ上衣に袴、足袋、靴だった。 さらに藤の蔓の弓矢もあった。 母上は、一晩でこ…
ハルヤマノカスミの自伝 2 わたしの元に兄のアキヤマノシタヒが訪ねて来た アキヤノノシタヒは兄と入っても異母兄である。なのでそんなに親しい親交があるわけでもない。 「おう、ハルヤマ!久しぶりだな」 「あれ、兄上?どうなさったのですか、突然」 「ああ、お前、イズシオトメを知ってるな?」 「イズシオトメ様ですか?知らないわけがないでしょう。この地を開いたアメノヒボコ様の娘で、いろんな男が求婚してるが誰にも首を縦に振らないという・・・」 「そうそう、俺も今日、イズシオトメに結婚を申し込んで来たんだよ・・・」 「え・・・そうですか・・・それで結果は?」 「ハハハ!見事にダメだったよ!『わたしはあなたの…
ハルヤマカスミの自伝 1 わたしの名はハルヤマカスミ。但馬の国で母と暮らしている。 また、異母兄にアキヤマノシタヒもいる。 ところで、わたしたちが暮らしている但馬には、イズシオトメという、とても美しい娘がいた。それもただの娘ではない。 新羅の国から来日し、今はこの但馬国を開拓して支配しているアメノヒボコの娘なのだ。 但馬国の若い男の間では、このイズシオトメを嫁にする男は誰だろうと、うわさで持ち切りだった。 そんな折・・・ 異母兄のアキヤマシタヒがわたしの元を訪ねてきたのだ・・ 次>>> ハルヤマカスミの自伝 目次 ☆アキヤマノシタヒとハルヤマノカスミ この話は古事記中巻の巻末に収録されています…
アメノヒボコの自伝 8 わたしは瀬戸内海を西に進んでいった もう少しで難波だ・・・難波に行けば、妻に会えるかもしれない・・・ わたしは一縷の望みをもって船を進めていた しかし・・・ 難波の津に入ろうとしたとき、急に風が強くなってきた 海は大荒れとなり、難波に入ることができない! 舟はまるで木の葉のように、荒波に翻弄された! その時、わたしは、心に言いようのない畏怖を感じたのだった・・・ これは、ただの嵐ではない! 神の怒りが引き起こしているのだ・・・ああ、そこまでして日本の神は、わたしを妻に会わせないようにしたいのか・・ 船は難波に入ることはできず、流され、翻弄され、ようやく兵庫津に流れ着いた…
アメノヒボコの自伝 7 「・・・日本へ・・・行くぞ・・・」 わたしは海岸に出ると、船で海原に乗り出した。たった一人で・・・ 従者は誰もついてこなかった。みな、しりごみして、わたしの命令を聞かなくなってしまったのだ・・ 薄情な奴らがと思ったが、やむを得ない。誰も知らない未知の国に行くわけだし、日本の国というと神に守られた恐ろしい国だと伝えられていた。 そんな国に行くことを拒否されても、とがめだてはされないだろう・・ わたしは荒波を越えて、対馬・壱岐を経て、日本へ・・・そこは筑紫の那の津だった。わたしは妻の行方をそこで聞きまくった・・ そこでこんなうわさを聞いた 「新羅の国から日本の国に帰ってきた…
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