野見宿祢の自伝 23 アマテラス大御神の御魂はヤマトヒメさまに託された。ヤマトヒメさまは大御神の魂の鎮まるところを求めて各地を旅していた。 ヤマトヒメさまからは逐次、状況について便りが届いていた。 ヤマトヒメさまは宇陀の筱幡(ささはた)に一旦落ち着いたそうだが、そこも大御神が鎮まるにふさわしい地ではなかったという。 そこから近江から美濃へと、渡り歩いたそうだ。 そして、伊勢の国に至ったときのことである。 その日の朝、伊勢の東の海から日が昇ってきた。その時、ヤマトヒメさまの心の中に、凛とした声が響いてきたそうだ。 「神風がそよぐこの伊勢国は、常世からの波も打ち寄せ、大和にもほどよい近さにある良い…
野見宿祢の自伝 22 ホムチワケさまも言葉をしゃべれるようになり宮中が落ち着いてから、数年がたったある日のことである。 わたしは陛下に呼ばれ、御前に進み出た。すると陛下は 「先帝の崇神天皇は賢く聡明な聖帝であった。とても慎み深く、良き政治を行い真摯に祭祀を行った。このため人民は栄え、国は豊かになった。 今、我が御代においても、天神地祇をしっかりお祀りしなければならない」 と、仰せになった。 そのうえで 「実は、アマテラス大御神をお祀りしなければならないのだ。今日、朝廷付きの神官から連絡があった。急ぎアマテラス大御神の御霊を鎮めなければ、またこの日本に災厄が降りかかるだろうと、占いに出ているとい…
野見宿祢の自伝 21 「ホムチワケは大和の宮殿に帰っている。ノミもすぐ帰れ」と陛下から勅使が届いた。 ホムチワケさまは我々に何も告げることなくおひとりで大和に帰ったのか・・・何故・・・わたしは訳が分からなかった。 とにかくその日のうちにわたしはあわただしく出立し、大和への道を急いだのだった。 大和に帰り、御前に出廷すると、そこには陛下の横に、ばつの悪そうな顔をして控えているホムチワケさまがいた。 「ノミ、ご苦労だったな。おかげでホムチワケも言葉が話せるようになった。感謝するぞ」 陛下が仰せになる。 「恐れ入ります。しかし・・・それにしても、ホムチワケさまがわたしに何の知らせもなく大和に帰られた…
野見宿祢の自伝 20 さて、ホムチワケさまが言葉を話せるようになり、そのことを大和に急使を立てて知らせた翌日。 その日、ホムチワケさまは少数の従者だけを連れて散歩に出かけていた。わたしは斐伊川の仮宮にとどまり、オオクニヌシの神殿の建て替えや今後の祭祀について、息子で出雲国造のキイサツミと打ち合わせをしていた。 その日の夕方、出かけていたホムチワケさまが帰ってきたのだが・・・一人の美しい、若い娘も一緒に連れて帰ってきたのだ! 「ホムチワケさま・・・そちらの娘さんは・・・?」 あっけにとられたわたしが尋ねると・・・ 「ヒナガヒメと言ってな、小川で水くみをしていたところをわたしが見初めて、后にするこ…
野見宿祢の自伝 19 わたしはホムチワケさまのお供をして、わたしの故郷である出雲の国に来ていた。 「父上、お久しぶりです。大和のほうから伝令が来て、話は承っております」 出迎えてくれたのは、わたしの息子であり、わたしの後を継いで出雲国造を務めているキイサツミだった。 さっそく我々はキイサツミの案内でオオクニヌシの大神の神殿に出向き、そこで一心に 祈りをささげた。朝廷の責任において神殿を建て替えることも約束した。 その日の夜。 キイサツミはホムチワケさまのために、斐伊川のほとりに仮宮を建てて宴を開いてくれていた。 仮宮の周囲は青葉で盛大に飾り付けがなされていた。 その仮宮でホムチワケさまにお食事…
野見宿祢の自伝 18 わたしはホムチワケさまの伴として出雲に向かうことになった。 しかし、陛下は申されたのだ。 「果たして本当にオオクニヌシの大神を拝むと、ホムチワケが話せるようになるのか・・・今一度、占いで確かめよう」 そして陛下の命により朝廷専属の占い師が再び呼び出され、今度は誓約(うけい)による占いが行われたのだ。 陛下とホムチワケさま、それにわたしは占い師に連れられ、鷺巣池(さぎのすいけ)に来ていた。占い師は 「この大神を拝むことによりて確かな霊験があるのならば、この鷺巣池に住む鷺(サギ)、すべて落ちよ!」 占い師はそういうと、木にとまっていた鷺がバタバタ落ちて、死んでしまったのだ! …
野見宿祢の自伝 17 「陛下の夢に出てきた神は、出雲に鎮座されますオオクニヌシの大神でございます」 占い師は言った。 「出雲・・・というと、ノミ、そなたの出身地だな。そなたが出雲国造を退いて上京してからは、息子のキイサツミが後を継いでオオクニヌシの大神の祭祀を行っていると聞いておるが・・」 陛下が仰せになる。 「はい、左様でございます。実はオオクニヌシの大神が鎮座なさっている神殿はもうかなり古く、あちこちに傷みが出ております。以前より建て替えを検討してはおりますのですが、近年国が豊かになるとともに人心は神から離れ、思うように寄進が集めりませぬ。そのため現在は傷んだところを小修理しながらしのいで…
☆古事記を小説風に書き直してみました。 ☆古事記を基本としつつ、話によっては日本書紀や風土記の記述も取り入れながら話を構成しています。 ☆わたしは古代史好きの素人であり、学者でも専門家でもありません。ネットで調べ調しながら書いており、また皆様に興味を持ってもらえるよう、わかりやすく面白く編集しております。 そのため専門的・学術的な解釈から見れば間違っているところもあるかと思います。ご了承ください。 古事記の話 目次
野見宿祢の自伝 16 白鳥を見ても、ホムチワケさまが言葉を発することはなかった。 陛下は大変落胆されていた。 そんなある日のこと、わたしは陛下に呼ばれた。 御前に出ると、陛下は 「ノミ、占いの準備をしてくれ」 と仰せになる。 「占い・・・でございますか?それはまた、どういうわけで?」 「うむ、夢を見たのだ」 そういって、陛下は昨夜見たという夢のことを話された。 なんでもその夢のなかで、一柱の神が出てきたそうだ。その神は 「そなたの皇子を我が宮に参らせるとともに、我が宮を天皇の宮殿のごとく修理せよ。そうすればそなたの皇子は言葉を話すようになるだろう」 それだけ言って、消えてしまったということだ。…
野見宿祢の自伝 15 それまで一言の言葉も話さなかったホムチワケさまは、空を飛ぶ白鳥を見て「ああ・・ああ・・」と仰せになった。 これを聞いた陛下は、大変な喜びようだった。 「おい、ノミ!聞いたか!ホムチワケがしゃべったぞ!」 「はい、確かに・・・」 「ホムチワケはあの白鳥を見てしゃべったんだ!!あの白鳥をとらえてホムチワケに見せれば、もっといろいろ言葉を話すようになるかもしれん・・・ ノミ!オオタカに命じて、あの白鳥を負わせるんだ!急げ!!」 「は!」 わたしは急ぎ、オオタカに陛下のご命令をつたえるために走った。オオタカは足が速く、鳥を生け捕りにすることにかけては何物にもかなわない名手である。…
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