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穢銀杏
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2019/02/02

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  • すべてを焼き尽くす暴力

    楽な戦(いくさ)と思われた。 英国陸軍司令部は、そのように政府に請け負った。「完全な軍団が一つ、騎兵師団が一つ、騎乗歩兵が一個大隊、それに輜重兵が四個大隊」、南アフリカにはそれで十分。ボーア人どもを薙ぎ倒すには、その程度の戦力投入で事足りる、まったくわけ(・・)ない仕事です――と、 「すべては六週間以内にカタがつく」「クリスマスまでにプレトリアへ」 そう豪語していたものだった。 (Wikipediaより、プレトリア) 政府は信じた。 げに頼もしき発言よと頷いて、開戦のベルを打ち鳴らす。南ア戦争、もしくは第二次ボーア戦争の始まりである。 ところがだ、いざ蓋を開けてみればどうだろう。 混沌展開、収…

  • 南ア残酷ものがたり

    開拓作業の第一歩。――未開蛮地に文明人が勢力を新たに張るにつき、自然力を減殺するのは常道だ。 必須条件ですらある。原生林には火を放ち、人や家畜を害し得る猛獣類は殺戮するべきだろう。 (仏軍の火炎放射器攻撃) 日本人も北海道でやっている。明治の初期に、狼による損失が馬鹿にならなくなったとき。これ以上(・・・・)を防ぐため、あの四ツ脚に、いっそ破格と思えるほどの賞金を懸け、津々浦々から猟師の助力を募ったものだ。 いわんや西洋に於いてをや。 オランダ人らも十七世紀、南アフリカでそれ(・・)をした。水野廣徳の紀行文、『波のうねり』に記された、当時の模様左の如し。 「現今大廈高楼、甃(いらか)を連ね、車…

  • ホルモン黎明

    「臓物あります」の貼紙をつけた食堂がこのころめっきり増えてきた。 註文すれば、豚や牛の内臓を調理したのが皿に載ってやって来る。 (『アサシンクリード オデッセイ』より) 見た目のグロさにちょっと逃げ出したくなるが、エエイ日本男児であろう、剣林弾雨に突撃するのに比べれば、なんのこれしき怖じ気づいていられるか、大口開けてかぶりつけ――と、勇を鼓して頬張れば、なんだ意外と悪くない、悪くないどころじゃあないぜ、味蕾が歓喜しているぞ、はっきり美味いじゃあないかッ! ……こうした趣旨の日記あるいは随筆が、当時ちょくちょく書かれてる。 昭和七年あたりを機として盛り上がった風潮だろう。 ちょうどそのころ北米合…

  • 死が死を誘う

    地球に熔けると表現すれば、まあまあ聞こえは良かろうが――。 マグマを慕って自由落下に身を委(まか)す、火口投身の試みは三原山の独占物でないらしい。 阿蘇山もまた、その舞台に使われた。か細いながら、それは確かにあったのだ。 明治三十九年に渋川玄耳が記録している、「阿蘇山に新噴火口が出来た、旧口と共に盛に噴火して居る、先日来二人まで投身者が有ったから、山霊が穢れを怒って暴れるのだ、と山下の村民は大に危惧を抱いて居る」云々と。 (Wikipediaより、阿蘇山中央火口丘) 火山としての格ならば、むしろ大いに上回る。 にも拘らず阿蘇山が、ついに三原山になれなんだ理由(ワケ)。自殺用のスポットとしてメッ…

  • 人類の友、汝の名は犬である

    忠犬ハチ公の芳名はまったく世界的である。 この風潮は昨日今日誕生したのにあらずして、戦前昭和、彼の秋田犬の存命時よりそう(・・)だった。 何日、何週、何ヶ月、何年だろうと主人の帰りをじっと待つ、けなげで一途な有り様はひとり大和民族のみならず、アングロサクソンの胸をも締め付け、感傷に濡らしたものだった。 そうでなければハチの葬儀に、態々海の向こう側、ロサンゼルスの小学校から百円もの香典が届けられた一事への説明がつけられそうにない。 (Wikipediaより、渋谷駅のハチ公) 筆者はこれを、この情報を、清水芳太郎から知った。 石原莞爾の盟友であり、国家主義団体「創生会」のリーダーたる彼である。 当…

  • エイジはどこだ ―小説家と挿絵画家―

    「最後の回が出来ました」 すわりきった眼差しで、開口一番、吉川英治が言ったセリフがそれだった。 (Wikipediaより、吉川英治) 場所は岩田専太郎の仕事場である。岩田は当時、挿絵画家として吉川英治の新聞連載小説にあでやかな華を添えるべく、彩管の技を駆使する任を負っていた。 それゆえに、面識があるどころではない、共に作品を編みあげる仕事仲間と十分呼べる関係性(あいだがら)ではあるものの、さりとてこうして吉川英治本人が原稿を届けにやってくるのは珍しい。 「これで終りです、この分の絵を描いてから、一緒にそこらまで出ましょう」 つまり打ち上げのお誘いである。 (ずいぶんとまた、勢い込んでいらっしゃ…

  • 発気用意 ―江見水蔭の土俵入り―

    江見水蔭には妙な私有物がある。 土俵である。 彼は庭の一角に、手製の土俵を設(しつら)えていた。それも屋根付き、雨天でも取っ組み合えるよう、とある知人の船主から古帆をわざわざ貰い受け、そいつを改良、覆い代わりにひっ被せていたそうな。 仲間内では「江見部屋」の呼び名さえあった、そういう自家製土俵をむろん、江見水蔭はただ腐らせはしなかった。濫用といっていいほどに、常習的に使用した。相手は主に村上浪六、大町桂月、長谷川天渓、田村松魚、神谷鶴伴、他にも他にも――総じて謂わば明治文壇のお歴々。錚々たる面々と、力較べをやってやってやりまくったものだった。 知られざる名取組があったのである。 同業者が相手な…

  • 野心の炎に焼け爛れ

    人は米寿を超えてなお、――老いさらばえて皮膚は枯れ、頭に霜を戴くどころか不毛の曠野を晒す破目になってなお、野心に狂えるものなのか? むろん、是である。 是であることが証明された。姓は中本、名は栄作。数えで九十一歳になる、大じじいの手によって――。 (フリーゲーム『妖刀伝』より) いやむしろ、「脚によって」と書く方がより実相に近いのか。 北海道は函館市、大町に棲む栄作が、直線距離にて800㎞にも及ばんとする東京・大島警察署に収容保護されたのは、昭和九年も晩秋近く、木枯らしの吹く十一月十日前後のことだった。 名目は単純、「三原山投身自殺志願の廉(かど)にて」。なんと驚くべきことに、栄作じいさん、北…

  • 死んでも売らぬ

    商用で、あるいは研修で。 理由は個々でまちまちだ。が、とまれかくまれ、第一次世界大戦勃発の秋(とき)、国外に身を置いていた日本人は数多い。 早稲田大学に至っては、危うくその学長を異郷に失うところであった。 高田早苗を言っている。大正三年四月から、「欧米諸国の教育制度を調査する」との名目で、この人物は遠い旅路に就いていた。 (Wikipediaより、高田早苗) 遠いであろう。ほとんど地球の反対側だ。列強諸国が宣戦布告をカマし合った八月初旬、高田の姿はスイス、ジュネーヴの地に在った。 (さしあたり、流れ弾の危険はないが) さりとて身動きもまた取れぬ。 鉄道、自動車、隔てなく、国外への道筋は、開戦早…

  • 派手に狂った方が勝つ

    密告社会の基本はつまり「闇から闇へ」だ。良き釣り人ほど気配を殺すのが上手く、必要以上に水面を揺らさず、鼓動さえも慎んで、獲物(サカナ)を欺き、正体を悟らしめぬ如く。 大衆という、ニトロ以上に爆発しやすい液体に波紋を生じさせぬまま、「問題」だけを取り除く。そういう手際を理想とし、実現のため、当局は智慧を絞るのだ。 1914年10月8日、大英帝国アスキス内閣内務大臣、レジナルド・マッケナの名の下に公布された訓令は、そのあたりの消息によく通じたるものだった。 「内務省は何人たりとも若し間諜嫌疑者を発見せる場合は直ちに附近の軍隊並に警察に密報すべく、決して公開演説又は新聞投書に依って徒に世人を騒がし間…

  • 夢路紀行抄 ―冷蔵庫と氷壁と―

    夢を見た。 とっちらかった夢である。 思い起こせる限りに於いて、始まりはそう、冷蔵庫を診察しているところから。私は耳に聴診器を装備して、あの先端の丸くなってる例の部分を冷蔵庫の扉へと、細心の注意を払いながら押し当てて、微かな異音も聞き逃すまいと神経を尖らせきっていた。 (Wikipediaより、汎用聴診器) 患者役たる冷蔵庫氏は、別に業務用でない、どこの家庭にもありそうな3ドア式の直方体のヤツだった。 スリムなボディに、冷え冷えとしたメタリックな色彩である。 ところがだ。次の瞬間、冷蔵庫は氷壁と化し。私の両手は聴診器にあらずして、アイスアックス保持のため固く握り締められていた。 この時点でオイ…

  • In The Myth,God Is Force.

    セオドア・ルーズヴェルトは快男児である。 グレート・ホワイト・フリートに、ひいては棍棒外交に象徴されるが如きまま、その政治上の遣り口は徹頭徹尾「力の信徒」そのものだ。本人もそれを自覚して、理解(わか)った上で金輪際隠さない。むしろ全身で誇示しにかかる。世の正しさに沿うのではなく、己の歩んだ道こそが正しさになってゆくのだと確信している者特有の傲慢さをそこに見る。 (グレート・ホワイト・フリート) 価値創造者気取りとでも言うべきか。 圧迫された側からすれば面憎い限りであるのだが、それでもあそこまで好き勝手絶頂にやられると、一周まわって胸を涼風が突き抜ける爽やかさがあるような、変に痛快な感覚が沛然と…

  • 潮のまにまに

    活動弁士は日本のオリジナルである。 (Wikipediaより、長谷川利行『二人の活弁の男』) トーキーが世に出るより以前、映画といえば声無しに定(き)まっていた黎明期。銀幕に映る情景がいったい何を意味するか、舞台袖に陣取って、一生懸命解説するを事とする、あの職業の人々は、内地に居てこそ極ありきたりであるものの、しかしひとたび外遊の途に就くや否、たちまち姿を隠してしまう、まったく独自の存在と。 日本で生まれ、日本に於いてしかウケぬ、特異な発明であるのだと。 哀愁を滲ませ書いたのは、海軍軍人、水野廣徳なる男。 大正十一年、世に著した、『波のうねり』なる書物の中の一節だ。 「日本の活動写真には、弁士…

  • そして亡国へ

    目を疑うとはこのことか。 どうしてこんな光景が成立するのか理解できない。 いわゆる人民戦線がフランスの牛耳をとっちまって(・・・・・・)いた時分。我が世の春を謳歌しまくるアカどもはパリの街路を勝手に占拠、検問を据え、通りすがりの市民から「カンパ」と称して金を抜く、言語道断の真似をした。 (Wikipediaより、関所) 「国家試験が朝七時から始まるので、遠方に住む受験生は二三人誘ひ合はせタクシーを飛ばす者が多い。赤化して居るある区の大通りで罷業者の一群が軍資金調達の為に不法にも停車を強制し、一人五フランづつ寄附して呉れねば通さぬといふ。十五六の子供がそんな余分な金を持合せるとは限らず、又よしや…

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