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  • ゲイシャロボット VS ニンジャ

    「馬鹿かよ、わざわざ災厄を持ち帰るとは」おれは、そう言い放つと金髪の野獣たちの前に立った。霊柩車のように黒く武骨なフォードから降り立ったベビーフェースは、天使のように整った顔に苦笑を浮かべる。肩にはドラム弾倉をつけたトンプソンSMGを担ぎ、月の光のように金色に輝く髪の下で青く光る瞳を少し曇らせた。「おいおい、おれたちが何を持ち帰ったのか判っているのか」「そもそも」ダークスーツを身につけ、マシンガンを肩から吊るした屈強の男たちは車から札束の詰まった袋をいくつも下ろす。「今時、紙屑同然の価値しかない札束を列車強盗なんていう時代錯誤なやりくちで手に入れるのも間抜けだが」「言ってくれるね」「そいつはな…

  • 百物語 四十二回目「仮面」

    学生時代の話。嘘をつくのが好きな友人がいた。彼は、嘘をついているときにはとても楽しそうにしていた。だから。嘘をついているときには、すぐに判る。彼は、言葉を操り。束の間の仮想現実の中で、僅かばかりの享楽を得る。反対に。真実を語るときには、とても静かで感情を失ったような平板な口調になった。彼は、時折耐え難い現実と向き合う。その時もまた。彼は言葉とともにある。彼はおれたちと共に絵を描いていたが。やがて、演劇の世界へと入り込んでいった。虚構を演じ。演じることを現実とする。おそらくそれが彼の選択であったのだろう。彼が描いた絵をひとつ覚えている。ある人物の肖像画だ。彼はその絵について、こう語った。「これは…

  • 百物語 四十一回目「ローゼンクロイツ」

    学生時代のころ。ヨーロッパで荷物を財布ごと盗まれて文無しになったやつが。なぜかロシアを横断してこの島国まで帰ってくることができて。どうもそいつは、秘密結社であるローゼンクロイツに加入しているという噂があり。哲学科の学生なのに教授からは相手にされていなかったらしいが。さすがローゼンクロイツすげぇ、とおれたちは皆そいつを尊敬することになった。 それはさておいて。 学生時代、サークルで毎日新聞京都支局ホールでグループ展をやったことがある。文化財として指定されたとても歴史的に貴重な建物であり、古き時代の匂いを感じさせる風格のある建物であったが。そこにおれの友人は二トントラックに積んで持ってきた、百個く…

  • 百物語 四十回目「呪詛」

    十数年前のことになる。そのころは、移動するのによく飛行機を利用していた。今ではまずやらないのだけれど。東京-大阪間でも普通に飛行機を使っていた。その日。珍しく、夏の夕暮れに大阪へと向かっていた。飛行機の窓から見える景色は、どこか現実離れしている。地上の風景も、ジオラマのようであり。手を伸ばせば建物も乗り物も手にとることができるようで。空から見下ろす雲にしても。それは、シュールレアリスムの例えばイブ・タンギーが描いた風景画のような。頭の中の空想が取り出されたように見え。特に夕暮れ時の真紅に染まった景色は。とてもこの世のものとは思えず。機内も夕日の紅い光を浴びて薄赤く染め上げられており。ふと気がつ…

  • 百物語 三十九回目「夜を歩く」

    僕らが辿り着いたのは、とても小さな駅だった。僕とあなたは、夜の闇に浮かんだ白い孤島のようなプラットホームから降りると。銀色の雨が降る夜道へと歩みだす。僕らは記憶をたどるようにして。そう、古い古い記憶をたどってゆくようにして、銀色に輝く雨の中をゆっくりと歩き出す。ああ、そうすると本当に。あなたとの記憶が揺さぶられるような気がして。傍らを歩むあなたに思わず目を向けると。あなたはそっと、闇の中でその大きな黒い瞳を見開いて微笑んでみせる。あなたも同じように。僕と記憶をたどっているのだと思うと。それに勇気づけられれ、僕はさらに歩きだすのだが。けれど間違いなくその銀色の雨に彩られた夜の道を歩くのは、はじめ…

  • 百物語 三十八回目「見つめる瞳」

    子供のころの話である。家の裏手には庭があったのだが。あまり手入れのされていない、サヴェージ・ガーデンといった感じの庭であった。一度その庭で竜巻がおこったことがあり。親は小さな池を造って、竜巻を防止した。おれはその池に蛙をつれこんだので。夏場には随分鳴き声でにぎやかなことになった。おれはひとりで遊ぶことの多い子供であったため、その庭で蛙や虫を捕まえて遊んでいたものである。例えばバッタを捕まえて、蜘蛛の巣につけて蜘蛛が獲物を捕らえるところを見たりして。夏の終わりから秋のはじまりの長い午後を過ごしたりしていた。ただ。ある日の出来事を境にして、おれは虫を捕まえて遊ぶのを止めてしまう。出来事といっても、…

  • 記憶の箱

    あたしは、雑踏が苦手だ。ひとが多いと、何か異様なものを感じてしまう。ひとがひとに見えない感じ。まるで無数の操り人形が、耳には聴こえない音楽に合わせて動いているような。非現実的な感覚に陥ってしまう。そんなときは、頭の中でぼんやり想像する。自分の腕の中にはマシンガンがあって、それを撃ちまくることを。操り人形となったひとたちは、みな崩れ落ちあたしに見えない糸や聴こえない音楽は打ち消され、消えてゆく。後に残るのは平穏な静寂だけ。そんな想像はあたしをうっとりさせ、無意識のうちにあたしの口元に笑みが浮かぶ。多分、そのときもあたしはきっと、ぼんやりと無意味な笑みを浮かべていたのだろうと思う。気がつくと目の前…

  • スイッチオフ

    幾千もの刃が降り注ぐような日差しの下、彼女は夜の闇のように黒い蝙蝠傘をさして現れた。「なんで蝙蝠傘なんだよ」おれの呟きに、彼女は美しい、そう、大輪の花が開いたように美しい笑みを浮かべて応える。「決まってるじゃない」彼女の傘の中だけは、太陽の支配から免れた黄昏の空間であり、彼女が支配する世界である。彼女はその世界に相応しい月の輝きのような笑みを見せ、言葉を続けた。「日が照ってるからに決まってるじゃない。馬鹿ね」 戦争は、補給路の確保によって勝敗が決まる。そういうやつがいるが、まあ、そういうやつは戦争というものが判っていない。じゃあ、USAがベトナムで戦争に負けたのは、補給路の確保に失敗したからな…

  • 百物語 三十七回目「憑物筋」

    学生時代の話である。それは、当時はやっていたと思われる無国籍料理の店であった。エスニックな装飾がほどこされたその薄暗い店内で。おれの前にいたそのおんなの子は、こんなことを言ったと思う。「結婚するときに、娘さんをくださいとかいうの。あれ絶対いややわ」おれは。「ほう」と相槌をうつと。皮肉な笑みを浮かべた唇を歪めて。こう言った。「しかし、レヴィ・ストロースのおんなが原始社会において富として流通するような経済人類学を学んでおいて、その実践の場においては否定するというのは、ダブルスタンダードやろう」おれは。怒らせたつもりだった。罵倒されるのであろうと思っていた。レヴィ・ストロースなんてあたしの人生には微…

  • 百物語 三十六回目「天国と地獄」

    それは5年ほど前のこと。プロテスタントの牧師と話をしたときのことである。おれは前々から聞いてみたいと思っていたことを、牧師に訊ねてみた。それは。「イエスは死んで生き返ったということは、今もどこかにいるのですよね。どこにいてるのでしょう?」多分、あまりに質問がくだらなすぎたせいか。牧師は、少しあきれた顔になったように思う。それとも、こちらの意図をはかりかねて不審に思ったのかもしれない。おれとしてはとてもナイーブな質問をしたつもりだったのだが。あまりにナイーブすぎたというか。率直に言えば、まぬけな質問だったのかもしれない。牧師は少し複雑な笑みを見せて、こんなこと言ったように思う。「天国に。と言うひ…

  • 百物語 三十五回目「サイン」

    学生のころの話である。おれたちは、学生会館の一室をアトリエとして借り受けて、そこで作品制作を行っていた。そのアトリエは結構広い場所であったが。なぜか、大量の廃材が置かれてあり。おれは、意味もなくそこで廃材を叩き壊したり、角材を振り回してへし折ったりしていた。そのころのおれは。自分の中から沸き上がってくる情動に振り回されていたように思う。何か自分の奥底から沸き上がる無色の力。どこにも向かわぬ、何も形成しないような、ニュートラルの力が。おれをひきつかみ、振り回している感じだった。 おれは、避難するように、映画館に入り浸った。そこには闇があり、おれは音響と闇の中へと溶け込むことで。自分を無にすること…

  • 百物語 三十四回目「転移、逆転移」

    学生のころの話。絵を描いていた。描くだけではなく、ときおりグループ展と称し画廊を借りたりしていた。もちろん、美大でもない学生の描く絵など見にくるひとは殆どおらず。画廊にいても、暇なばかりだったので。色々馬鹿な話をしていた。例えば。そのころなぜか流行っていたマーラーの大地の歌をかけながら。同じ楽団で同じ交響曲を違う指揮者が指揮すれば、指揮者の特徴が判るのではということになって。ウィーンフィルをワルターが指揮する盤と、同じくウィーンフィルをバーンスタインが指揮する盤を聞き比べたりしたのだが。あまりに録音された年代が違うので録音の質もかなり違うし、何十年もたっていれば同じウィーンフィルというのに無理…

  • 百物語 三十三回目「ニンゲン、ヒトガタ」

    学生時代の話である。それは、夏が終わり秋がはじまったばかりのころだったように思う。なぜか海辺でバーベキューをしようという話になったのだが。より集まったおれたちは、皆手ぶらだった。当然バーベキューセットもないし、どこへゆくというあてもない。とりあえず、レンタカー屋で車を借りて海へ向かった。海の近くのスーパーでガスコンロと肉を買えばいいだろうということになったのだが。結局どこに行くとも決めないまま、ただひたすら海へと向かった。おれたちは。何をするという気でもなかったのかもしれない。どこへゆくという気でもなかったのかもしれない。ただひたすら、どこでもない場所へ向かって。なんの目的もないまま。走り出し…

  • 百物語 三十二回目「コトリバコ」

    それは、30年くらい前の話。古い家に住んでいた。戦後間もないころに建てられた家。その家にある離れに住んでいた。その離れは。どこか閉ざされた場所であった。通りには面しておらず。片面は雑木林じみている庭と、母屋の裏手に囲まれ。その裏側は、地面より低い位置にあるため、垂直の土手に面しており。どこか四方を封じ込められているといった感じだったのだが。さらにその二階にある物置は。階段梯子をかけて、天井板を外して入るのだが。階段梯子を外してしまうと、出入りできない封印された空間になり。屋根裏の中は、窓も無く裸電球がつるされたきりの、昼でも薄暗い場所で。そこには、とてもとても沢山の。箱があった。その多くは木の…

  • 百物語 三十一回目「くねくね」

    それは、夏の日のことでした。盛夏とでもいうべき、燃え盛る業火のような太陽が地上を蹂躙していた日。まだ学生だったわたしは、なぜかその容赦のない日差しの元で、絵を描いていました。そこは滋賀県の湖西だったと思います。見渡す限り、ずっと田園地帯で。水の上に緑の絨毯を敷き詰めたように、田んぼが景色を埋め尽くしていました。凶悪に黄金色に輝く太陽は、田の水を仮借ない光で照らしつづけ。わたしはその眩暈を伴うような強い日差しの中で。緑の風景を、描いていました。灼熱の夢のような。その景色は、熱が水を焦がすように照射し続けられることにより。透明の陽炎がゆらゆらと立ち昇り。時折、その中に。くねくねとした。光の妖しのよ…

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