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  • 百物語 五十七回目「一つ目坊」

    学生時代の話である。おれは、嘘をつくのが好きな彼と話ていた。「おまえ、眠たそうやな」彼の言葉に、おれは答える。「夢見が悪かったんだよ」「夢なんか見るのか。 どんな夢なんや」「いや、それが」多少、ここに書くには憚れる内容の夢なのであるが、詳細をはぶくとようするにおれは男性器を切断して自殺する夢を見たのである。その話を聞いたとたん、彼はにこにこと楽しそうにしはじめた。「なんだよ」「いやあ、とうとうきたんやなと思って」「どういう意味だよ」「まあ、いつかはくると思っとったよ、おれは」「何がいいたいんだよ」「おまえはさあ。そういう運命なんや」「たかが夢だろう」「いやいや。 その夢は間違いなくおまえの真実…

  • 百物語 五十六回目「ドラゴン」

    高校生のころの話である。大阪市立美術館は、天王寺公園の中にある。今では有料化され、普通の公園になったが。30年前にはかなりカオスな場所であった。昼間から、酒をくらい、歌をうたって、踊り続ける。そんなひとたちが、たむろしている場所であり、素性や得体のしれないひとたちが行き交う場所であった。その中に、大阪市立美術館は君臨していたのであるが。そこで、高校生を対象とした美術展が開かれており。おれはそれに出展したのだが。たまたま、そのからみで絵の師匠と美術館のそばで待ち合わせをした。なぜか師匠は一時間ほどはやくついており。おれがようやく辿り着いたときには、とても不機嫌であった。師匠が言うには。「なんだか…

  • 百物語 五十五回目「えびす」

    15年ほど前のことである。一時おれは職を離れ。日々を無為に過ごしていた。一日の大半を誰とも会わず、誰とも口をきかず。どこかに居つくこともなく。ただただ、漂泊の毎日であった。そのときは時間をつぶすため、あちこちを訪れた。主に図書館。それ以外にも。美術館や博物館。そして。水道博物館には。淡水魚を飼育している水槽が無数に並んでいる部屋があった。おれは。時折、日長一日魚を見て過ごす。そこは、いつも薄暗くひんやりとした部屋で。その薄闇の中。幾つもの水槽が、光を閉じ込めた硝子の箱のように。仄かな輝きを浮き上がらせており。そしてその水槽の中で銀色の流線型をした魚たちが。ひらり、ひらりと。泳いでいるのを見た。…

  • 百物語 五十四回目「付喪神」

    高校生のころの話である。絵の師匠のアトリエには色々なものがあったが。中には、名状の付けがたいものがあった。例えば。螺旋を描く棒状のもので、虹のように様々な色彩が彩色されているもの。アクリル絵の具でおそらくクリスタルバーニッシュかなにかでつや出しされており、ある種両生類の身体めいたつやがあった。何かの役にたつものであるとは、とても考えられないのであるが。装飾品というにはあまりに不気味で意味がなさすぎる。それは何をできるでもない名もないただの「もの」であったが。それがなんであるのかは、あるとき師匠から聞いた。「これはな、足無しイモリや」師匠はそう言った。果たして。その足無しイモリと言う生き物が実在…

  • 百物語 五十三回目「真白き花と星の河」

    夜は黒いビロードのように、世界を覆っていた。その優しく滑らかな夜空の黒い幕に、無数に開けられた穴のような白い星々が輝いている。僕は、黒に黒を塗りつぶしたような夜を歩いていた。気がつくと、白い花が咲き乱れているような。あるいは、真白き骨の破片を撒き散らしたかのような。白い河が目の前を流れていた。あたかも、夜空に瞬く星々が地上に墜ちてきたように、光の囁きのような煌めきを放ちながら河は流れてゆく。僕は、その星たちの呟きを地上に埋め込んだ河の側を歩いていった。そして、僕は唐突に何かを思い出したように、その小屋を見つける。夜の闇に置き去りにされた、灰色の箱のような小屋に向かって僕は歩いていった。本当にそ…

  • 百物語 五十二回目「ぬらりひょん」

    10年ほど前の話である。都心近くに住んでいたが、その近くに大きな商店街があった。休みの日、時間があると夕暮れ時にその商店街を歩いたりする。いわゆる、逢魔ヶ刻。西のそらは紅く染め上げられ。地上は黒い水が澱むように、闇が沈んでくる。そんな時間に。徐々に、紅や青、黄色い灯がともりはじめ、薄っすらと闇を押しやって。色とりどりの食材や、雑貨、布地をほんのりと浮かび上がらせる。慌しく、少し浮ついた気配のただよう、その時間をただ目的もなくぼんやりと商店街を歩いてゆく。ひとびとは、夜の河の流れのように影となって通り過ぎてゆき。夕闇は。ひとびとから顔を奪い、影のように変えていった。それは不思議な。魔術的な時間の…

  • 百物語 五十一回目「人狼」

    15年ほど前のこと。おれの仕事場は地下にあった。そこは、当然窓はなく人工の照明のみで、温度調節も空調のみなので。外の気配は知るよしもなかった。そんな場所なので、ただひたすら仕事をする以外にどうしようもなかったのだが。昼も夜も。季節も感じることもなく。ただ仕事を終えて夜の闇へと溶けて行くだけの生活だったので。いつしか、おれのこころは麻痺していった。いわゆるひととしての感性がもともと薄かったせいか。おれは、その人工の異世界の中へと馴染んでいく。それは、ひとでありながらひとではなく。生きていながら生きてはおらず。かといってむろん死者でもないような。そんな感じであったのだが。そのころつきあったおんなた…

  • 百物語 五十回目「進化」

    高校生のころの話である。おれは、絵の師匠の元へ通っていたが。時折、食事をご馳走になることもあった。ある日の夕食後、居間でこのような話をした。「生物の進化というものは不思議ですね。適者生存といいますが、より環境に適応したものが生き残っていくというだけでは、海から地上に生物が出て行くことを説明しきれないように思います」師匠は。面白がって聞いていたように思う。「海という環境に比べると、地上はあまりに苛酷すぎます。例えてみれば、地球から月面へと行くようなもの。それは単に環境に適応しようというよりも、さらに超越的な力の介在を感じるのです」師匠は、笑いながら言った。「まあ、そうかもしれへんな」そういうと、…

  • 百物語 四十九回目「村正」

    大体3年ほど前のことになるだろうか。その街は、多少古い町並みを保存しているらしかったが。まあ、古い商店街や昔ながらのお寺があったりする、ありふれた街ではあったのだけれど。街全体を、博物館ということにしているらしくて。ただの和菓子屋とか新聞屋とか生地屋を博物館と呼んでいるのだけれど。それらは単に変哲のない普通の店があるだけだった。休日の昼下がりにその街をふらふら散歩していたのだが。今時珍しい刃物研ぎの店があって。古物商も営んでいるらしく。古い刀剣を展示していた。ふらりとその店に入ってみたのだが。工芸品のことについて何か知識があるわけではないので。ただ漫然と日本刀を眺めていたのだけれど。とても美し…

  • 百物語 四十八回目「くだん」

    5年ほど前の話である。赤坂のあたりで仕事をしていた。おれは、5人ほどのチームのリーダーであり、例によってデスマーチの真っ只中であった。「今呼ばれて、スコップを渡されました」「何だよ、それ」「それで、足元に穴を掘れって言われました。その後穴に入ったら上から土をかけてやるって言われました」「いや、訳が判らんし」まあ、こんな感じで。毎晩午前零時を過ぎたころに仕事を終えて帰っていた。当時は出張で東京に来ていたのだが、常宿にしていたホテルは神田であった。いつも赤坂から神田へとタクシーで帰っていたのだが、不思議なことに。なぜか牛をいつも見かけることになる。もちろん作り物の牛なのだが。一ヶ所ではなく、何ヵ所…

  • 百物語 四十八回目「サイコパス」

    学生のころの話である。周りのひとたちから聞いたところによると。おれは常に不機嫌そうな顔をし、口を開けば冷笑を浮かべながら辛辣なことを言うひとで。まあ、簡単に言えば実にいやなやつということなのだが。そのおれが唯一楽しそうにすることがあった。それはどうもひとを殴ることらしい。実はおれ自身はよく覚えていなのだが。おれに殴られたほうはよく覚えていて。おれはこころの底から実に楽しそうにひとを殴っていたらしい。「おい、この店だよ」「なんすか?」「ここでおれはお前に殴られたんだ」「へえ、全然覚えてないっす」「すげえ痛かったんだぞ」「ふうん、災難でしたね」「ふざけんな。おれのだちにおまえをボコボコにするように…

  • 百物語 四十六回目「ジル・ド・レエ」

    学生のころの話である。おれは、はじめて小説をひとつ書き上げた。当時笠井潔の作家の行きつくところは自殺か政治家という言葉を知っていたわけではないが、文学というものにできるだけ関わりたくなかったおれとしては奇妙なことをしたものであるが。自作の朗読会というのをしてみたかったのである。どこかでカフカは審判を書き上げたときに朗読会をして。その時にカフカは読みながら笑いだしてしまい。聴いているひとも笑いころげて結局最後まで読めなかったというのを読んだので。おれも似たようなことをしてみようと思ったのだ。で、参加者を無理矢理集め。彼らには必ず楽器を持ってくるように言い聞かせた。大学の絵画サークルでアトリエとし…

  • 百物語 四十五回目「エリザベート・バートリ」

    学生のころの話である。よく、先輩の下宿にいりびたっていた。そこは、幾人かが常時いる感じでおれたちがたむろする場所と化していた。先輩はいいひとなので。たまに。「カレー作ったけど食うか?」とか言ってカレーをご馳走してくれたり。酒を持っていくとあてを作ってくれたり。気配りのきく器用なひとでもあった。その夜。そいつは、くるなりこう言った。「すげえ怖いめにあったんですよ」おれは苦笑しながら何があったのかを問うた。だいたいこんな感じのできごとであったと思う。住宅街を歩いていたはずなのだが。道に迷って、気がつくと物凄く寂れた田舎の村みたいなところに迷い込んでしまい。ひとが住んでいるような気配がないバラックの…

  • 百物語 四十四回目「ヴラド・ツェペシュ」

    25年ほど前の話。そこは梅田にある小さな居酒屋であった。おれたちは既にかなり杯を重ねていて。酩酊というところまではいってなかったかもしれないが。それなりに酔ってはいた。どうしてそういう話になっていったのかは、よく覚えていないが。彼はこう言った。「おれはサディストだよ」「ふうん」おれは少し冷たく嗤った。「そういうのは、ひとを殺したことがあるやつの言うことだよ」「あるぜ」彼は。酔った顔から、仮面をつけたように表情を消し去り。言葉を重ねる。「おれはあるぜ」「へえ」おれは嗤いを浮かべたまま。応える。「そいつは驚いたね」彼は、仮面をつけたような表情のまま。ことの顛末を語ってみせた。なるほどそれは。そう言…

  • 百物語 四十三回目「妖魔」

    ずっと昔、僕はそのおんなと夜を幾度か過ごした。一緒に暮らしていたわけではないけれど。おんなは僕とともに夜を渡った。僕は殆どしゃべることは無かったので。おんなは僕にいつも話しをねだった。僕は。いつか書こうと思っている物語の断片を女に語った。口付けをした相手を物の怪に変えてしまう王女の話や。ライオンと共に暮らす、真紅の髪の少女の話を。僕はとつとつと思い出すように語った。おんなは満足したのか判らなかったが。黙って聞いて感想をいうことも殆ど無かった。ただ。その妖魔の話のときだけは。一言もらしたのだけれど。それは大体こんな感じの話だったと思う。 「王子は若く美しかった。 ある日王子は森へと迷い込み。 妖…

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