「遅かったね」司が類のフラットを訪れたのは日付が変わってからだった。「これでもいつもより早く終わらせてきたんだよ」そう言ってズカズカと家の中に入ると司はソファにどかりと座り込む。「で、話って何だよ」「司、念のためスマホの電源切ってくれない?念には念をおきたいからさ」類の意図を察した司は、スーツの内ポケットにあるスマホの電源を落とすとテーブルに置く。すると類は「家系図書いて」と徐ろに紙とペンを差し出...
「よお司」授業を終え、迎えの車に乗ろうと歩いていると突然日本語で呼び止められる。「お前、何してんだよ」目の前には類が立っていた。「司にわざわざ会いに来てやったんだよ。ってかさ、留学するんなら俺たちに一言あってもいいんじゃない?」「うっせーな。急いでんだよ。これから会社いかなきゃなんねーし」司は迎えの車が止まっている車寄せに向かって歩き出す。「会社終わったら、うちに来てよ。話あるから。場所は前と一緒...
「総二郎、どういうこと?」類が尋ねる。「いや、つくしちゃんと司とねーちゃんの血が繋がってるって言っても、兄弟とは限んねーだろ。」「っていうと?」「つくしちゃんに道明寺の血が入ってる。でもおじさんが父親である可能性が低いってことはさ、別の道明寺家の誰かの子供なんじゃねーか?」3人は総二郎の言葉がようやく理解できた。「財閥とかだとあんまないのかもしれねーけど、うちみたいな伝統芸能だとそんな話ししょっち...
授業の後、課題のために図書館に行くのが日課になっていた。たがこの日は運悪くメンテナンス中とのことで休館になっている。すぐに自室に戻ってもよかったか、雨が多い季節にもかかわらずこの日は天気がよかったため、ふと寄り道をしてみようも思いつく。一人では絶対に入らなかったであろう店に行くと、重厚なドアをそっと開けた。「Hello」中に入ると笑顔で挨拶を投げかけてくれたのは、先日会ったばかりの女性。「あの、こんに...
「まあ、実母を探すのは手段の一つであって目的ではないんだけど。どうにも引っかかるんだよな。そうだ、ねえちゃん。つくしちゃんがガキのころイギリスにいたって話聞いたことあるか?」あきらが尋ねると、椿は驚いた顔をする。「イギリス?つくしちゃんが?」椿はしばらく考え込んだ後、「聞いたことないわ」と述べる。「ねえちゃんも知らなかったのか、、、うちの社員が入管の記録にTsukushi Domyojiの名前を見つけたんだよ。パ...
F4専用のラウンジで、総二郎、あきら、類は思い思いに時間を潰していた。類はソファに沈み込み起きているのかどうかも怪しい。総二郎はタブレットで雑誌を読み、あきらは携帯でメッセージを返信している。いつも通りの光景遠くからいくつもの靴音が近づいてくる。革靴の音にピンヒールの音が混じる。3人とも異変を感じ顔をあげる。なぜなら、ヒールの足音のペースが異常に早い。ピンヒールを履いて全速力で走る人間の心当たりは少...
短い夏が終わり、あっという間に冬の気配が近づいてきた。大学から寄宿しているサマセット邸まで徒歩で30分程度。当初は車で送迎されていたが、慣れたからと丁重にお断りし、歩いて通っている。英徳時代も学校の行き帰りは当たり前のように車だった。普通の学生のように、歩いたり自転車だったり自分で登校し、友人と寄り道するのが憧れだった。懐かしい空気を吸いながら紅葉が進む木々の中を歩く。幼い頃、どの辺りに住んでいた...
「は?どういうことだ?」あの晩から1ヶ月、司は類に呼び出され久しぶりに顔を合わせた。「だから、お前の親父さんの周辺を調べたけど、子供を産んだらしき人は見つからなかったんだよ」同じく類に呼び出されたあきらが説明する。「この1ヶ月美作は何しての?」思っていたのとは違う情報がもたらされ、類は不機嫌だ。「いや、俺もびっくりなんだって。普通子供まで産んでたら全部情報隠すなんて無理なんだよ。隠そうとしてもどっか...
『つくしおはよう。昨晩はしっかり眠れたかな?』『おはようございます、サマセット公。お陰様でゆっくり休めました。今日はいい天気ですね』朝日が差し込むダイニングは、イギリスで最もおいしいと言われる朝食のために設計されたかのように清々しい朝を演出している。『ええ、とてもいい天気ね。気持ちまで明るくなるわ。まるでつくしが最高の季節を運んできてくれたみたいだわ』つくしのホストファミリーであるサマセット夫妻は...
どうやって帰ってきたのか。気がつけば、大学に入って使っていた道明寺が保有するマンションではなく、久しぶりに邸に戻っていた。父も母も、姉もいない、そしてつくしがいなくなった邸へ。司が戻ってくることを想定していなかったからか、出迎える人間も、働いてる人間も少なかった。そして恐ろしいくらい静かだった。俺が邸に寄り付かなくなってから、つくしは一人でこの静寂に耐えていたのか。誰も味方のいない邸で、暗闇に溶け...
類には、つくしの気持ちが分かっているのだろうか。そういえば高等部のとき、つくしが類のことを「ソウルメイト」と言ったことがある。類が何を感じているのか不思議とわかるのだと。類にもつくしの気持ちがわかるのかもしれない。司が知りたくて、だが怖くて、目を逸らしているものが。「つくしは知ってんのか、お前がやろうとしてること」類は首を横に振る。「まだ言ってない。今話しても混乱するだけだろうしね」すでに炭酸の抜...
司は、類の質問の真意を探ろうとする。「母親って、、、」「お前んとこのおばさんじゃなくて、つくしの生みの親」「いや、、、」つくしが楓から生まれてない以上、実母がいるはずだ。だが、今までつくしからも楓からも一度も実母については何も語られていないことに司は初めて気がついた。「俺は何も聞いことがない」「そうか、、、つくしから小さい時どこに住んでたとか、誰と住んでたとかは?」司は幼い時の記憶を振り返る。つく...
大音量の音楽の中、踊る人間をかき分けて進むとカウンターに目当ての人間が座っていた。「お客様、何になさいます?」スツールに腰を下ろすとともにバーテンが尋ねる。こんなバカ騒ぎを許している一方、スタッフの教育は行き届いているようだ。さすが、極限られた人間しか入ることが許されていない会員制のクラブと言うべきか。「コーラ」「飲まねえなら帰れよ」類が注文すると同時に隣から突っ込みが入る。「俺、飲みにきたわけじ...
「わざわざ見送りなんていらないのに」「そんなわけ行かないでしょ。それに俺がパリに行く時もつくし見送りに来てくれたしね」「あのときは類の見送りじゃなくて静さんの見送りだったんだけどね。急に一緒にいっちゃったからびっくりしたよ」笑いながら話す類とつくしを、あきらと総二郎は驚いた目でみる。「静の話しって類にとって地雷じゃなかったのかよ」静と破局し傷心のまま類が帰国したと思っています二人は、普通に静のこと...
「なあ、情報多すぎんだけど、類とつくしちゃんは付き合ってんのか?」あきらは1番大きな疑問を口にする。「お前、あれが付き合ってるように見えんのか?」聞いておきながら、あきらは首を横に振る。二人の空気は恋人特有の甘さがない。どちらかというと仲の良い兄妹だ。「付き合ってるとしたら色気なさすぎだろ」「だな」「っていうか、つくしちゃんいつ留学行くなんて決めたんだよ」総二郎は桜子に尋ねる。「先輩は結構前から考...
「そういえばつくしちゃん、司は最近何してんだ?学校にも顔出さねーけど」総二郎の質問に桜子はハッと現実に引き戻される。「さあ、寝てんじゃないの」困った顔のつくしの横にいる類が代わりに答える。「お前に聞いたんじゃねーよ」「常に寝てるのはお前だろーが」あきらと総二郎は口々に突っ込みを入れる。「そうだ先輩。例の件でお話ししたくて」類の意図を汲み取った桜子はつくしの方へ歩いていくとあえて話を逸らした。資料を...
『つくしーーー!』一人歩くつくしに猛烈な勢いで突進してきた人物を見て二人の顔は歪む。「おい、あれ大河原滋だろ?」「ああ、司の婚約者のな」「あいつ学校違うだろ。なんでしょっちゅううちにいるんだ?」「将を射んと欲すれば先ずなんとやら、ですわ」突然ラウンジに現れた桜子の声にあきらと総二郎は振り返る。「お前、なんでここに入ってくるんだよ」過去に桜子と色々あった総二郎とあきらはどうしても桜子に対して疑いの目...
「ったくあいつはフランスにいるのか日本にいるのか分かんなーな」あきらが携帯を手にぼやく。「類か?」総二郎の問いかけにあきらはため息で答える。「いきなりフランスに留学に行ったと思ったら突然英徳に復学するなんて、無茶苦茶というかあいつらしいというか」「お前のとこにも類から事前に連絡なかったのか?」「あるわけねーだろ。いきなりラウンジ来たらあいつが寝てんだぞ。一時帰国かって行ったらフランスには戻らないっ...
気がつくと車は総二郎の家に着いていた。いつまでも車から出てこない司を不審に思って総二郎が車の窓を叩く。「おい、死にそうな顔してどうしたんだよ!」窓を開けて出てきた司の顔色に総二郎は驚きの声を上げる。「、、、なんでもねーよ」司はドアを開くと総二郎に乗るように促す。「おい、司、お前邸に帰った方がいいんじゃねーか?」心配する総二郎の言葉を無視した司は思いもよらぬことを口にする。「いつもお前が遊んでるとこ...
2人は無言のまま道明寺の車に乗り邸につくと、いつも出迎えに出てくる人間ではなく、母親の秘書である西田が待ち構えていた。「司様、社長が社でお待ちです。」「そんなん知らねーよ。用があるならテメーが来いって言っとけ」そういうと二人のやり取りを心配そうに見ているつくしの肩に手をあて邸の中に入ろうとする。「司様の婚約の件でお話があるそうです」その言葉に司は足を止め西田を振り返る。「俺は婚約なんてしねーからな...
司はいつものように授業の終わったつくしを教室まで迎えに行く。「教室には入ってこないで。この年でお迎えとか恥ずかしすぎる!」とつくしに強く念押しされている司は教室の外に立つと、教室から出てきた男子生徒は司を恐れて視線を逸らしながら早足で歩き、女子生徒は「きゃー!道明寺様!!!」と黄色い声をだす。いつもの変わらない光景だ。だが、待てど暮らせどつくしはこない。忍耐力など皆無に等しい司は痺れを切らして教室...
大きな瞳が悲しみを映さないようにと司は子供ながらに、一つしか歳の変わらない妹のために心を砕いた。それが、実の親にさえ年に数回しか会えない司の生き甲斐となった。だが、広い邸の中、無数の使用人に囲まれながらも幼い兄妹ただ二人が身を寄せ合って暮らしていく中で、だんだんと距離感が分からなくなってくる。つくしを誰よりも大切に思うこと。つくしのことを幸せにしたいと思うこと。つくしを傷つけるものから守りたいと思...
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