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2018/02/15

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  • 手を伸ばせば⋯⋯ 50

    なんて言った⋯⋯?何を言い出したんだ、牧野は。唐突に吐かれた突拍子もない台詞に一瞬頭が空白になり、咄嗟に出せる言葉がない。「私が言ったこと、そんなに可笑しい? 今までだって好きでもない男と寝たし、時間潰しみたいなもんだった。それは、道明寺だからって変わらない。それを確かめたかっただけよ。でも無理ならいいわ。沢山の美女たちを相手にしてきた道明寺だものね、私が相手じゃ無理かもしれないしね」「違ぇよ! そ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 49

    「どこに向かってるの?」「着けば分かるよ。もう少しで着くから」牧野はそれ以上は何も言わなかった。それから暫くして、目的地に車が止まる。俺は初めから、牧野と話すならこの場所しかないと決めていた。「牧野、着いたよ。降りて」「ここは⋯⋯」窓から望む景色でここがどこか分かったようだ。待っても降りようとしない牧野の細い手首を掴んで車から降ろし、降りてからも足に力を入れているのか、抵抗を感じる牧野を引っ張って歩...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 48

    道明寺の社員である女に司が刺された件は、世間に知られれば醜聞にしかならず、事は秘密裏に処理された。そこには、牧野への配慮も多分に含まれている。悪夢と同じ状況から、なるべく牧野を遠ざけたい思いがあったために。司法に委ねれば、刺された司だけでなく、本来狙われていた牧野も状況を確認され、証言も必要になってくる。病を患っている牧野には、精神的負担が大きすぎる。そう判断したからだ。その牧野は一日入院したが、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 47

    悲鳴混じりの叫びを響かせながら、類たちと共に司たちの元へ駆け寄れば、「牧野! どこも怪我ないか?」抱きしめている牧野の身を案じる司が、傷はないかと隈無く牧野に目を走らせている。どうやら牧野に怪我はないようだが、牧野の心配ばかりしている状況じゃない。牧野を庇った司が切り付けられ、司の大腿部からは少なくはない量の血が流れ出ている。「司、直ぐに病院だ!」俺が車の手配をさせていると、顔面蒼白になった牧野が...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 46

    相変わらず仕事漬けの毎日が続いている。でも、この仕事に私が携わるのもあと僅か。最初の予定通り年が明ければプロジェクトから離れることになる。やり残しがないよう最後の大詰めで忙しいのも当然だった。それに加えてこの時期は、やたらとパーティーや飲み会が入ってくるものだから、忙しさは加速度を増す。そして今。そんな忙しい最中にも拘わらず、滋さんの一声で決まったプロジェクトチーム全体の忘年会に強制参加させられて...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 45

    どうしてだろう。道明寺で過ごした三日間。私は何故、道明寺の傍であんなにも穏やかに過ごせていられたのだろうか。憎むべき男なのに⋯⋯。最後の晩のキスだって、逃げようと思えばできた。止めてと言えば、あの時の道明寺ならきっと止めてくれたはず。なのに、私はそうしなかった。道明寺の顔があまりに切なくて、儚くて。世間に見せている自信に満ちあふれた姿は影も形もなく、親に見捨てられた小さな子供のような錯覚を覚え、私は...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 44

    「え⋯⋯、なに?」開けたばかりの牧野の目が大きく見開く。起きたら隣には俺が横たわってんだから、驚くのも無理ねぇ。「おはよ。目ぇ覚めたか。⋯⋯なぁ、牧野。おまえいつもそうなのか?」「いきなり何の話よ」「おまえ、昨夜も魘されてた」「⋯⋯⋯⋯」言葉を詰まらせた牧野が目を伏せる。「悪りぃ。見てらんなくておまえを抱きしめて寝た」「⋯⋯⋯⋯」「で、どうなんだ? 牧野、黙るなよ」「⋯⋯⋯⋯魘されるなんて、そんなのいつもじゃない...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 43

    しまった!差し込む光に誘われ目を開ければ、自分が犯した失態に気づき慌てる。横向きに寝ていた腕の中、そっと見下ろす先にいるのは、俺の胸に顔を埋めて眠る牧野で────。どうやら俺は、あのまま寝ちまったらしい。昨夜あれから、腕の中で眠る牧野の頭をずっと撫で続けていた俺は、流石にいつまでもこうしているわけにはいかねぇと、眠る牧野をベッドに運んだ。だが、静かに牧野を下ろし離れようとした刹那。牧野が俺の服を掴み、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 42

    「あの⋯⋯、ここは?」止まった車の窓から外を見た牧野が、不審げな声を出す。牧野の住むマンションとは全く別の所へ連れて来られたのだから、当然の反応だ。「俺のマンション」俺は、牧野がうちの屋敷を訪れた翌日から、一人でこのマンションに移り住んでいた。「支社長の?⋯⋯こちらに住んでらっしゃるんですか?」「あぁ」短く答えて外に出る。直ぐに牧野の手を掴み車から下ろすと、引っ張るようにしてマンションの中へと入ってい...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 41

    何で今日くらい休まねぇんだ!夕方からプロジェクトチームに顔を出した俺は、居ないとばかり思っていた牧野を見つけて、途端に心が落ち着かなくなる。医者に安静にしろって言われたんじゃねぇのかよ! 顔色だって良くねぇのに、頭痛だってまだ治まってないんじゃねぇのか?もう直ぐでミーティングも始まるのに、そんなんで保つのかよ。無理を押し通す牧野に、憂慮と不安が俺を包みこむ。帰るよう命令してしまおうか。だが、それに...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 40

    こんな時に⋯⋯。会議の最中、目がチカチカしてきた。偏頭痛の前兆だ。段々と酷くなる視界は砂嵐のようになり、物が見えにくくなる。随分前から偏頭痛には悩まされているが、前兆が起きたタイミングで、常に持ち歩いている処方薬を飲めば大抵は落ちついてくる。けれど今は会議中。薬は、プロジェクトチームの部屋にあるロッカーの中。取りに行ける状況じゃない。暫くして目が見えづらい状況からは脱したが、今度は頭痛に襲われる。脈...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 39

    メープルに呼び出されたあの日から二週間が経つ。あれから滋さんとは会っていない。他の仕事が忙しいと訊いているけど、敢えて顔を合わせないようにしている、そんな気がした。それは私にしても有り難かった。あんな別れ方をしたのだ。会えば互いに気疲れするかもしれない。それでなくても私は、新たな仕事を与えられ、時間にも心にも余裕がなく無理をしている最中だ。今は与えられたことだけに集中しなければ、遣りこなせそうにな...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 38

    【最終章】司が体調を崩した辺りからだろうか。どうも何かがおかしい。司と牧野の二人の様子が、どこか違う。仕事上は何も変わらない。いや、以前にも増して、二人とも仕事にストイックになったか。「なぁ? 最近の司と牧野どう思う? 何か違うように見えるのは俺だけか?」珍しく一緒に食事を摂っている相手、滋に訊いてみる。さっきまで司を合わせた三人で打ち合わせをしていたが、食事へ行くって流れになったところで、別の仕...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 37

    全ての記憶を取り戻したあの日。牧野のマンションを出てきた俺は、車も呼ばずに土砂降りの雨の中を歩いた。どこをどう歩いて来たのかも分からず気づけば邸で。全身ずぶ濡れのまま部屋に入り、ソファーに頽れた。─────なんてことをしたんだ、俺は。仕出かした罪の大きさに震慄し、絶望が俺の全てを支配する。何よりも大切な愛する女を、俺がこの手で傷つけた⋯⋯。両手を開き、見る。雨のせいで濡れた手は、寒さは感じねぇのに、いつ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 36

    高い空はどこまでも青く、陽光が燦々と地上に降り注ぐ。まるで、昨日の激しい雨が嘘のように⋯⋯。週明けの今日からは、重要な会議等が目白押しで怒濤の忙しさが予想されている。一時も気が抜けない。今も道明寺HDの一室で、一時間後から始まる大事な打ち合わせに向け、美作さんと二人、意見の擦り合わせをしているところだった。「失礼致します」そこへ、慌てた様子の西田さんが現れた。「お忙しいところ申し訳ございません。本日で...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 35

    久々にゆっくり過ごす日曜日。雲一つなく晴れ渡る空を窓から眺め見る。これなら洗濯物もあっという間に乾きそうだ。今日は朝から洗濯をし、掃除をして。日頃、仕事に殆どの時間を費やしている私にとっては、家事をするのも休息となる。全ての家事を終わらせてから遅い昼食を一人で取り、後片付けをしているところにスマホが鳴った。画面を見れば、珍しい人からの電話だった。『もしもし、つくし?』「優紀⋯⋯久しぶり」優紀との電話...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 34

    類が帰国してから数日後の今日は、誰一人欠けることなく全員が集まり、類の帰国祝いをしているところだ。久々の全員集合は、酒が入るごとに騒がしくなり、特に司の周りは騒音レベル。何でも、類が帰国したその足で、司のところではなく牧野の元へ直行したとかで、司と類はずっと言い合いをしている。といっても、煩いのは司ただ一人で、類の声はいつも通りだ。だが、類も引かない。寧ろ、司をおちょっくているんじゃないかとさえ思...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 33

    歓迎会とやらが行われた店から強引に牧野を連れ出し、家まで送る車の中、「何か余計なことでも言った?」正面を見据えたまま牧野が静かな声で訊ねてくる。「言ってねぇよ、本当のことしか。余計だって言うんなら、佐々木の方だろうが」俺の答えで『何かがあった』と気付いただろうが、牧野は何も言わない。何も言わないでくれる方が今はいい。ほんの少しでも刺激を受ければ、今度こそ余計なことを言ってしまいそうだった。佐々木の...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 32

    滋さんと一緒にいる彼を見て瞬時に悟る。「久しぶりだな、牧野」「ええ、お久しぶり。⋯⋯滋さん、もしかして引き抜いたのって⋯⋯」「そうなの~! 彼だよ!」被せ気味に滋さんがはしゃいだ声で答える。思った通りだ。「優秀な人がいるって人伝に訊いて、どうしても欲しくなってさ。でもまさか、すんなりOKもらえると思わなかったから、本当ラッキーだったよ」私にしてみても『まさか』だ。またこうして会って仕事まで一緒にすること...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 31

    帰宅した部屋の明かりも点けずにソファーに身を沈める。⋯⋯疲れた。先ほどまで一緒にいた男のせいで。道明寺に渡したプレゼントは、高級ボールペン。今までも、取引先や仕事で関係ある人たちにプレゼントを贈ることはままあった。だから特別な意味などないと説明したのに、破顔するあの男は聞く耳持たず。送ってくれる間中も機嫌の良い男は何かと騒がしく、このマンションに着くまでそれは続いた。久々に見た少年のような笑顔。道明...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 30

    「着替え終わったか? じゃ、行くか」牧野が姿を現すなり何食わぬ顔して言えば、視線も口調もお揃いの低温度で返してくる。「美作副社長はどちらに?」「あきらなら帰った。代わりに俺が送ってくから心配すんな」「結構です。一人で帰れますからお気遣いなく」ま、予想通りだ。愛想なくそう言った牧野は、軽い足取りで立ち去ろうとし、俺は小さい手を掴んだ。「一人で帰せるわけねぇだろうが。今日は、あれだけ男連中が寄ってきた...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 29

    日頃、よっぽどのことがない限り、顔を合わせようとはしない司が私の部屋を訪れたのは、司が突然に倒れ、病院から退院した日のことだった。ひと目見て気付く、倒れる前とは違う司の眼差し。NYへ来てからというもの、こんな瞳を一度たりとも見たことがない。いつだって司の瞳は澱んで昏く、一人の少女と出会う前、荒れていた当時の延長線上にあるような、世の中への絶望を常に纏っている目だった。それが、記憶を取り戻したのではな...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 28

    エレベーターの扉が閉まりかけたところで、「てめぇら、ふざけんじゃねぇーっ!」強引に扉をこじ開け、何とか牧野たちが乗る箱に滑り込んだ。ったく、俺を置き去りにしやがって。「おまえら、先に行くことねぇじゃねぇかよ!」「司が考え事してたようだから、気を利かせてやったんだよ」あきらの奴め、しれっと言いやがって。その割には顔がニヤついてんだよ!だが、今はそんなことはどうだっていい。問題は牧野だ。昔から俺にとっ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 27

    美作商事で仕事をしている今日は、朝からずっと気が重い。その原因は、今夜の道明寺家主催のパーティーにある。人が多く賑やかな場所は未だ苦手だ。せめて今だけは静かに仕事に没頭したいと思うのに、「牧野さーん! 今日のパーティー、牧野さんも行かれるんですよねー!」私のデスクの前に立った松野くんの声に阻まれる。「えぇ」短く対応するも、正直言って今は鬱陶しい。「実は僕もご一緒させてもらうことになったんですよ! ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 26

    「つくしーーーーっ!」牧野の姿を認めるなり、いの一番に滋が駆け寄り抱きつく。いや、飛びかかった、って表現の方が正しいか。やはり前回の数分だけの逢瀬では、滋も消化不良だったんだろう。だが、飛びかかられた方は堪ったもんじゃない。実際、牧野の表情は変わらずだが、足元はふらつき、支えるのがやっとで体が不安定に揺れている。それを見咎めたのは桜子だ。「もう滋さん、先輩を解放して下さいよ。そんな力入れたら先輩が...

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