※お食事中の方はご遠慮ください。また周囲に気を付けてご覧ください。猛暑日のある日、、、つくしはキョロキョロと周囲を見渡した後、目の前のビルを見上げた。その姿はサングラスをかけ口元はマスクで隠し、つばの大きい帽子を被っている。日除け対策ともとれるが、明らかに挙動不審だ。何故なら炎天下の中、周辺をずっとウロウロと歩き回っている。当然、汗が滴り落ちている。(つ:どうしよう。 やっぱり止めようかな? でも...
あきらはアングリと口を開けていた。「桜子? なんでお前がここに?」「失礼ですね。 仕事に決まっているじゃないですか。」「仕事? お前、ブラウンカンパニーに入社したのか?」「はい。 内定をもらった9月から仕事を手伝わせてもらっていまして、4月に正式に入社となります。 こちら日本支社担当のマイケルさんです。」『マイケル。 こちら美作商事ジュニアの美作あきらさんです。』『初めまして。』あきらは急いで仕事...
つくしが花沢物産フランス支社を訪れて二週間が経った頃、類はフランス支社を訪れた。仕事の関係上、一か月単位でイタリアとフランスを行ったり来たりしている。その類の元に50周年記念担当のポールが報告に来た。『専務。 記念品の一つであるスパークリングワインですが、早急にデザイン画を提示しないといけないのですが、こちらでよろしいでしょうか?』『どれ。』類は図案を見る。メインはあくまで中身のスパークリングワイ...
イギリスの訪問を終え、フランスへ渡ったオリバーとつくし。その足で直ぐに花沢へと向かった。そこは古き良き街並みに溶け込んだ建物だ。つくしは思わずキョロキョロしてしまう。『つくし。 フランスは初めて?』『うん。』『イギリスでもキョロキョロしてたよな。』『国によってこんなに街並みが違うんだと思って。 ボストンとも違うし。』『確かにそうだな。 海外に居るという感じがするな。 でもまずは仕事! 今日は花沢で...
つくしがアメリカへ来て一年が経った。今日はブラウンカンパニー直営店舗の入り口でスイーツコーナーがオープンするという事で、オリバーとつくしは足を運んだ。スイーツと言ってもプリン、ババロア、ゼリーのみ。Futabaのガラス製の器に入ったもので、もちろん食べた後は器として使える。ガラスは透明で中身が見え、プリンは普通だがババロアは二層になっており小鉢サイズの器に、ゼリーは中のフルーツが見える仕組みでコップに入...
類はすぐに総二郎に電話をかけた。『類? 久しぶりだなぁ。』「牧野どこ。」『はあ? 突然電話してそれかよ。 こっちはまだ朝の4時なんだよ!』「牧野と連絡が取れない。 あいつ今どこで仕事してる?」『という事は、司と別れたことには気づいたんだな。』「ん。 今さっきね。 総二郎は何時知った?」『去年の9月頭だったか? メープルの内定を蹴ったって言ってさ。 その時知った。 だったら類かあきらに相談しろと言っ...
類はつくしとずっと連絡が取れないことに心配し始めた。既に通信障害や機器の不具合では無い事は分かる。完全に俺のアドレスを削除しているのは間違いない。ただそれを指示したのは誰だ?司が嫉妬しての事?それとも牧野自身?たびたび連絡を入れていた訳じゃない。気が向いた時にたまに連絡を入れていただけだ。それも親友に送るような文面で、司が嫉妬するような物ではない。それに牧野からは何も言われていない。最後の文面も至...
類はトスカーナの帰り道にひまわり畑の写真を撮っていた。ブドウ畑を気に入っていた牧野の事だ。きっとこのひまわり畑も感動するに違いない。そう思う物の、すぐに連絡を入れるのを躊躇った。仕事をしているし、度々連絡をしていたら牧野が司に叱られる可能性がある。それは申し訳ないという思いでいたが、あれから二日経った今そろそろ送っても良いだろうと思い始めた。と言うのも、ひまわりは今が見頃。これ以上遅れると、イタリ...
つくしとロバートは飛騨高山に着いた。と言ってももうすでに夕方で、その日は旅館にチェックインするのみにとどまった。だがロバートにしてみれば念願の旅館。かなり興奮している。『つくし。 露天風呂に行きたい。』『私も行きたい! でも男女別だから中まで案内出来ないよ?』『分かってる。』『じゃあ注意点を教えるね。』つくしは大浴場に入る注意点を説明する。それをフムフムと聞くオリバー。そして大浴場へ向かった。つく...
道明寺ホールディングスの受付に滋がきた。もちろんアポなど取っていない。取れないと言った方が正しい。『道明寺司さんをお願いします。 大河原滋と申します。』『アポは取られていますか?』『いえ。 でも名前を言って頂ければ。』『アポの無い方はお繋ぎできませんが?』『ですから、アポを取ろうと思っても電話もメールも無視され続けてるんです。』必死に訴える滋に対し、受付嬢は無理の言葉を繰り返すのみ。それでも今日は...
類はトスカーナに来ていた。あれから一年。今年もブドウが実っているのが見える。問題はここからだ。去年、ブドウを収穫後から肥料を変えた。それが功を奏しているかどうかは、今年から少しずつ出始めるはず。山梨のブドウ畑でいろいろ聞いてみた結果、肥料と摘果作業から始めてみる事にした。ブドウが出来すぎるとそれぞれのブドウに栄養が分散され味の良いブドウにならないらしい。その為、小さな実のうちにある程度摘果をするら...
三人でホテルに戻る。『つくしが言っていたように日本は暑い。 何でこんなに暑いんだ?』『湿度が高いのよ。 じめじめした暑さなの。』『なるほど。 太陽も痛いぐらいだし、日本人は大変だな。』『毎年大変なのよ。 あっ、桜子、写真撮るんだよね?』『はい。 もしよろしければ夕食もご一緒しても良いですか?』『私は良いけど、、、オリバーは?』『俺も別に良いけど、今夜は何食べる? 桜子は何が良い?』『日本料理で外国...
翌日、、、百貨店で桜子と待ち合わせた。と言うのも、百貨店に置いているFutabaの食器を見てみたかったからだ。待ち合わせ時間よりも早く入店し食器売り場へ行くとオリバーと共にマジマジと並んでいる食器を見る。『ブース的には小さいな。』『うん。 あのね、元々日本ではブラウン社の食器を取り扱っている店舗は少なかったの。 私がブラン社に雇ってもらう事が決まってすぐに探したんだけど、この店舗のみ置いてた。 それぐら...
つくしとオリバーは成田空港に降り立った。時間も遅いため、すぐにホテルへと向かう。もちろんメープルだ。するとエントランスでばったり総二郎に出会う。総二郎は袴を着ているし、お付きの人もいる事から仕事だったと分かるが、思わずつくしは目を逸らし知らないふりをした。だが、、、総二郎がつくしの姿を見逃すはずがない。「えっ? 牧野? お前、なんでここに?」ギクッとしながらも振り返り、さも今気づいたふりをする。「...
会議室で担当者と打ち合わせを行ったオリバーとつくし。今後も綿密な打ち合わせを継続することで、互いの連絡先を交換し道明寺ホールディングスを後にした。そしてメープルに戻ると、すぐに夕食を取るためにレストランへ向かった。『何が食べたい?』『イタリアンが良いかな?』『了解。』二人はイタリアンレストランへ入った。そこでパスタコースを食べながら先ほどの楓との交渉について盛り上がる。『もうダメだと思ったんだ。 ...
約束の時間より30分も早く到着したオリバーとつくし。あまりの早さに苦笑いだ。『交通渋滞に巻き込まれる可能性も考えてメープルを出ただろ? そういう時に限って道が空いているんだよな。』『あるあるだよね。 とりあえず受付に行こうか? 入り口で待っていても仕方ないし。』『だな。 受付に声をかけてソファーに座って待っていよう。』という事で二人は道明寺ホールディングスへ入る。そして受付で名前を名乗りアポは16時...
4月5日。つくしとオリバーは飛行機でNYへ向かった。飛行機の中でも会話はFutabaの事ばかりだ。もちろん商品も持参している。『それにしても、つくしは楓社長と知り合いだった?』『うん。』つくしは誤魔化すつもりはない。楓からの返事があった時点で、オリバーに話すつもりでいた。どう考えても普通の女性が楓と知り合いになれるはずがないし、メープルで研修をしていた事からも推測できる事を今日までオリバーは黙認してくれてい...
食器のOKが出たところで、広報や営業を中心に販売路線の会議が行われた。それにもオリバーとつくしが参加する。『あらかじめ想定していた店舗以外に、キャンプ系の店舗にも声をかけてみたらどうだろう?割れにくいしメラミン製よりも食器っぽいし。』『OKすぐにピックアップする。』『一般の店舗にも分かりやすいポップが必要。 普通の食器との違いをアピールして沢山の人の足を止めたいから。』『了解。 店舗に置くときのポップ...
3月。類は忙しく仕事を熟していた。もうすぐイタリアへ行く予定で、それまでに片付ける仕事が沢山ある。継続するプロジェクトは社長が引き継ぐため、各責任者に申し送りの最終確認を行っていた。そういえばそろそろ英徳の卒業式。去年はそれぞれの顔を模したクッキーを貰ったが、今年はお礼に何かを送ろうか?でも、司が嫌な顔をするだろうし忙しく仕事をしているみたいだし。類はこの前届いたメールを開く。そこには、、<日本と...
つくしはオリバーと共に食器工場の工場長と白熱のディスカッションを行っていた。『ですから。 エコに特化した食器を作りたいんです。 丁度研究チームがバイオマスを使った食器づくりの研究をしていて、試作品では成功しているんです。 ただ実際大量生産となるとどうなのかと言う疑問がありますが、他社と違う特色を出したいんです。』『言うのは簡単だが作るのは大変なんだ。 分かってないだろ? 大量生産となるとほんのわず...
翌日。 つくしは7センチほどのヒールのあるパンプスでオリバーと会社へ向かった。そして社長と対面する。以前、スカイプで顔は拝見しているが、間近で見ると威圧感があり全然違う。つくしは緊張しながらも挨拶をする。『牧野つくしです。 いろいろご無理を言って申し訳ありません。 これから一生懸命仕事に邁進します。 よろしくお願いします。』『つくし。 待ってたよ。 オリバーの家はどうかな?』『快適です。 それにい...
翌日、オリバーと一緒に朝食を取る。パンとサラダとスクランブルエッグと言う簡単な物だが、調理器具の使い方も教わった。『マシューたちが来るまで家から出ない事。 インターホンが鳴ったら確認して出る事。』『分かった。 それまで必要な物を書き記しておくから大丈夫。 オリバーも必要な物無い? 一緒に買っとくよ?』『特にないかな。 じゃ、明日から仕事だから今日は一日ゆっくり楽しんで。』『うん。 いろいろありがと...
ごそごそと紙袋を開けバーガーを取り出す。その大きさにつくしは驚く。『これ一人前? 特大じゃなく?』『これが普通サイズ。 そんなに驚く事?』『うん。 こんなに大きいバーガーは日本にはない。 これの半分ぐらいだよ。』『へぇ。 俺なんて二つ買ったんだけど?』確かに目の前にまだ未開封のバーガーがある。そのバーガーとオリバーを繰り返し見るつくし。『そりゃぁ、その体系を維持するにはこれぐらい食べるよね。』『ま...
マサチューセッツ州ボストンにあるローガン空港約13時間のフライト後、入国審査などを終えゲートを出るとそこにオリバーが待っていた。『つくし!』『オリバー! 久しぶり!』二人は自然にハグをしあう。つくしがブラウンカンパニーに就職が決まり、毎日のようにスカイプで話をしていた。もちろん仕事に関することばかりだ。歳が一つしか離れていない事もあり、もうすっかり打ち解け相棒のような強い絆が生まれている。『待ってた...
1月5日。つくしは小さなスーツケースを片手に成田空港に着いた。その駐車場で、桜子に礼を告げる。「桜子。 ホントにいろいろありがとう。 凄く助かった。」「いえ。 たいしたことはしておりません。 それより必ず私には連絡くださいね。」「分かった。 桜子も後一年、大学頑張ってね。」「はい。 寂しくなりますが頑張ります。」「おばあさまにもよろしく伝えてね。」「はい。 それでは私はここで。 お気をつけて。」「...
翌朝、二人は目覚めると真っ先にカーテンを開け外を見る。まだ屋根にうっすらと雪が残っているが、太陽が照らしその雪を溶かしている。「これなら帰れそうだな。」「うん。 じゃまずは朝食を食べようか?」「ん。」こうして二人はバイキング形式の朝食を取る。その後、チェックアウトをしゆっくり東京へと戻った。もちろん途中のサービスエリアにより、桜子のお土産を買う。「山梨と言ったら信玄餅だよね?」「まあそうかな? あ...
類の後につくしがバスルームへ向かった。類は水の入ったペットボトルを手に窓辺へ行きカーテンの隙間から外を見る。今も雪は降り続いている。まっさらな雪も俺が手ですくえば必ず触った後は残る。それと同じでもし牧野に手を出したら必ず司にバレる。司の事だ。自分の事は棚に上げ牧野を責めるだろう。せっかく5年の交際を実らせてNYへ行くというのに、俺がその火種を作って良いのか?良いわけがない。そんな事をしたいがために牧...
「食事行こうか?」「うん。」「和食で良い?」「良いけど、珍しいね。 てっきり洋食を選ぶと思ってた。 ワインを飲みたいだろうから。」「確かにこのホテルのワインは何を置いているのか興味はあるけど、牧野は暫く和食が食べられないだろ? まあ司の家には和食の料理長もいるだろうけど食材も違ってくるだろうしね。」「ふふっ。 最後の晩餐って感じかな?」「そうかな。」確かに牧野と二人で食事をする機会はこれが最後かも...
ブドウ畑を後にし、再び東京へ戻ろうとしたのだが雪がかなり降り始めた。「やばいな。 これ、、、高速が凍ってないかな?」「チェーン規制してるかもね。」「持ってない。」二人の間に沈黙が流れる。高速の乗り口はすぐそこだが、万が一のことがあっては大変だ。「ちょっとこの辺にチェーンが売ってないか探してみようか?」「だね。 ガソリンスタンドとかオート●ックスとかに置いてるんじゃないかな?」こうしてまずはチェーン...
12月30日。類は三条邸につくしを迎えに行った。そこでつくしと一緒に出てきた桜子に類は身構える。「おはようございます。 あっ、大丈夫です。 私はここでお見送りをするだけですから。」桜子の言葉にあからさまにホッとする類。その表情に桜子は呆れる。「ホント花沢さんって普段は何を考えているか分かりませんのに、先輩の事となると分かりやすい表情をされますよね。 しかも今、明らかに私は邪魔と言う表情でしたよね。...
「お前ら、仕事はどうだ? しんどいか?」「まあなぁ。 俺は来年からアジアを中心に出張の日々が待ってるわ。 時には数か月滞在することもあるかなぁ。」あきらもアジアへ行く事を知り、総二郎は寂しく感じる。「そっかぁ。 類は?」「俺は4月からイタリア赴任。 トスカーナのブドウ畑を残すと決めたんだけど、そこのブドウの品質向上に向けいろいろ試してみることになって、それの指揮を任された。」「類もイタリアかぁ。」...
クリスマスが近づいたある日、つくし、類、総二郎、あきら、桜子は美作系列のレストランで集合した。と言っても、あきらと類は仕事でまだ来ていない。「牧野。 就職先は決まったのか?」「うん。 なんとかね。」「どこだ?」「インテリア用品の会社。」「へぇ。」つくしは会社名を言わない。総二郎も単に知られたくないだけとしか思っていない。かなり遅い時期からの就活で大手は既に締め切っていた。残った会社の中からなら小さ...
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※お食事中の方はご遠慮ください。また周囲に気を付けてご覧ください。猛暑日のある日、、、つくしはキョロキョロと周囲を見渡した後、目の前のビルを見上げた。その姿はサングラスをかけ口元はマスクで隠し、つばの大きい帽子を被っている。日除け対策ともとれるが、明らかに挙動不審だ。何故なら炎天下の中、周辺をずっとウロウロと歩き回っている。当然、汗が滴り落ちている。(つ:どうしよう。 やっぱり止めようかな? でも...
※こちらの作品はおちゃめママ様へ献上した作品となります。つくしは苺を洗うとヘタを取り一口大に切る。そして数個の苺は更に小さく切りお子様スプーンも添え皆の待つリビングへ向かった。そこには今か今かと苺の到着を待っている娘の愛がいる。愛は類とつくしの長女で3歳になる。「お待たせ。」「ママ!あたちが恭にあげる。」「分かった。」「ちょっと待って。恭を座らせるから。」恭とは類とつくしの長男で1歳だ。最近すっかり...
我が家のブログにお越しいただきありがとうございました。類君とつくしちゃんを幸せにするお話を、、、と思い、書き始めて約12年になります。まさかこれほど続くとは思いませんでした。皆様の温かなコメントに支えながら何とかやってきたのですが、今は全く妄想が浮かびません。沢山の作品が生まれネタが尽きました。もちろん12年という月日は老いていく事にも繋がり、ここ数年は浮かんだ妄想がなかなか文字として書けなくて(...
一年後の夏。陽向も心陽も、しっかりと歩くようになっていた。最近は10か月ごろから歩く子供もいるというが、未熟児で生まれ3か月も保育器に入っていた為、そこを0か月として発育状況を見るらしく成長に問題はなさそうだ。「順調だね。」「ん。 首も秋ごろには座ったし、そこからすぐに寝がえりを始め、気づいたらズリズリと動き出し、ハイハイを初めてつかまり立ち?」「誕生日を迎えた頃にはしっかりつかまり立ちが出来てた...
4月になり、つくしは入院することにした。というのもこれから何があるか分からないため、万が一の時はすぐ対応できるようにだ。それに28週を過ぎた為、運動は極力避けた方が良いと言われた事も有り、家でジッとしているなら入院した方が安心という事になった。もちろん日中は麗が、仕事終わりに類が毎日来る。「どう? 変わりはない?」「うん。 元気すぎてお腹の中で暴れ回ってる。 二人がそれぞれ動くからお腹が張り裂けそ...
シリウスの元にデイジー村のギルド長から手紙が届いた。 定期的にリチャードに関する報告を貰っている。再びリチャードを王位に据えようとする貴族が接触していないか、本人にその意志がみられないか、リチャードが困っていることは無いかといった物だ。だがシリウスの思惑に反し兄はリカルドとして不便な生活を受け入れ、平民として働いている。せめて少しでも生活がしやすいようにと、魔道具の普及も急いだ。半年ほど前には村娘...
三日後、メアリーから電話があった。予想通り、あの世界へ戻るという返事だった。その為、週末に類と共にアレッタの店へ向かった。「お忙しい中、すみません。」「いいえ。」「いろいろ考えたのですが、アレッタさんにメアリーの姿を見せたくて戻る事を決断しました。」「ご主人はもうこの世界に戻れなくなりますが、それで良いんですね?」「はい。 私はメアリーと共にあの世界に骨を埋めます。 それとお言葉に甘えてこの店と自...
週末、類とつくしは子供服売り場へ向かった。小さな服はとても可愛いが、今はまだどちらが生まれるか分からない。その為、産着のみを数着買った。「男の子二人とか女の子二人なら、お揃いの服も良いな。」「形は同じで色違いとかも良いね。」「男女の双子でも一歳ぐらいまではそれで良いんじゃない?」「うん。 でも可愛いね。」「だな。」それから少し早いがアレッタの店へ向かった。小さな店で看板には漢字とカタカナで『異国料...
翌、月曜日。類の元にあきらがやってきた。「あのよぉ。 牧野さんなんだが美作が経営しているレストランのアルバイトに24歳の牧野さんがいるんだ。 だが髪の毛は茶髪なんだが、髪の色ぐらい変わる物だし会ってみるか?」あの後も裾野を広げて調べてくれていた親友に、嬉しさと申し訳なさが同時に込み上げてくる。そして再会後、バタバタしすぎて親友に報告していなかったことに気づいた。「ごめん。 見つかったんだ。」「えっ...
土曜日、類とつくしは長崎へ向かった。つくしは結婚したい相手を連れて行くと電話で連絡していた。「初めまして。 花沢類と申します。 つくしさんとの結婚をお許しください。」類はつくしの両親を前にすぐに頭を下げる。両親は俳優のような容姿の類に驚きつつも、娘のつくしに自然に目が向かう。どう見ても出産間近だ。「えっと。 つくし? あなた妊娠してるの?」「うん。 順番が逆でごめん。」結婚したい人がいるから会って...
二人っきりになり、類は改めてつくしに向き合うとポケットから小袋を取り出す。異世界で肌身離さず身に着けてた小袋だ。その中身を取り出しながら話す。「無事こうして戻ってきたんだけど、服装はあの時のままだった。 ただ傷は一切なかった。 もちろん服には大きな穴が開いていたし血も付着していた。 そして小袋には魔法陣の消えた紙切れとドラゴンの鱗、シリウスから貰った銀のプレートが入ってた。 枕の下に敷いていた紙も...
佳代は類の声に急いで玄関へ向かう。しかも珍しく「ただいま」という声まで聞こえた。どういう心境の変化だろうか?という気持ちが湧く。すると玄関に類が女性と手を繋いでいる姿が目に飛び込む。類がこうして女性と手を繋いでいる姿を見るのが初めてで動揺が走るが、努めて冷静を装い出迎えた。「お帰りなさいませ。」「佳代。 こちら俺の妻。」「妻!!?」動揺を隠していたが『妻』という言葉に、冷静さを失い驚きの声が出てい...
レストランを出ると類はすぐに花沢の車を呼んだ。「ちょっと待ってて。 20分程で車が来るから。」「うん。 あっ、だったら私の職場に来てくれない?」「あんたどこで働いていたの?」「フリーペーパーの編集部。 と言っても来月号で廃刊で会社は倒産。 あたしは今日付で倒産に伴う解雇になったんだけどね。」(類:フリーペーパー編集部? 確かに俺達のどこにも関連がない会社だよな。 だから見つからなかったんだ。)「社長...
つくしは駅に隣接しているショッピングモールに入った。バレンタインが近づいているという事で、店内は至る所にバレンタインを意識したものとなっており、一部コーナーはチョコ売り場となっている。(つ:社長に最後にチョコを渡せば良かったなぁ。 妊娠が分かってからの社長は物凄く優しくていろいろな物を差し入れしてくれたし。 まあ私が辞めたら社長一人で紙面づくりをしないといけないからってところもあったんだろうけど、...
クリスマス。この日もつくしは仕事をしていた。社内には社長もいる。身重でありながらこのような日にも仕事をしているし、土曜日も出勤しているのを見て察しているがなかなか事情を聞けないでいる。「牧野。 そろそろ帰ったらどうだ?」「はい。 これが終われば帰ります。」「年末年始はどうするんだ?」「家に居ますよ。 実家は九州なので混み合う時期に移動は避けたいので。」「まあそうだよなぁ。 きちんと親には話している...
12月つくしは土曜日も出勤し紙面づくりを行っている。その代わり平日は18時ごろには帰るようにした。そして社長が何かと気を遣ってくれるようになった。取材帰りに果物やジュースなどを買って帰ってくる。「あまり食欲がないだろ? でも何か口に入れろよ。」「ありがとうございます。」街はいつの間にかクリスマス仕様になっている。(つ:類もどこかでこの雰囲気を味わっていると良いなぁ。)そう思いながら自宅へと急いだ。...
つくしは忙しい仕事の合間にコッソリ産婦人科へ行った。休日は無いし、サービス残業の日々なのだからこれぐらい許されるだろうという気持ちだ。検査薬で陽性反応が出ているため間違いは無いだろうが、出産予定日など今後の事を決めたかった。「おめでとうございます。 双子ですね。 8週目で三か月に入ったところです。 予定日は5月25日ごろですね。」「双子?」まさか双子とは思わなかったつくしは、呆けた顔で確認した。その...
類は、ハッと目を開け飛び起きると腹を押さえる。だが、、、血は出ていない。痛みもない。どういう事?そう思いながら周囲を見渡す。「俺の部屋?」自分のベッドの上だ。しかも一人だ。「牧野? 牧野は?」周囲を見るがつくしの姿はない。「夢?」そう思いながらベッドから起き上がり自分の服を見る。それは乗合馬車に乗った時の服で、切られた箇所には穴が開き血が付着している。靴も履いている。だが、、腹に傷はない。もちろん...
それは一瞬の出来事だった。馬上の騎士達、そして乗合馬車から降りた男も崖を覗き込む。確かに二人が落ちていく姿が確認できたが、突然まばゆい光が現れ目を閉じた為、二人の行方が分からなくなった。「まさか、飛び降りるとは。」「聖女様はどうします? 森へ入りますか?」「いや。 この高さから落ちたら生きてはいないだろう。 万が一、生きていたとしても魔物が住む森ではさすがの聖女様でもどうすることも出来ない。」「あ...
翌朝、宿の人にクルクマへ行く乗合馬車を確認しチェックアウトした。時間まで村を散策する。昨日の商人の店の前に来た時に、たまたま店内に居た商人が二人を見て店から出てきた。「今から行かれるんですか?」「はい。」「この先の山を越えるんですけど、片側は断崖絶壁なんですが景色は凄く良いですよ。 半日はかかりますが、途中トイレ休憩しかないので何か食べる物を持っていかれた方が、、、あっ、是非このピーアを持って行っ...
そうしてあっという間に5月17日になった。「じゃあ行ってくる。」「よろしくお願いします。」「ん。とりあえずきちんとアドバイスしてくるから安心してて。」「はい。」こうしてつくしは類を見送った。後は類さんに一任するしかないが特段心配はしていない。いろいろな知識があるし、丁寧にアドバイスをしてくれる。それに前向きな言葉を投げかけてくれ一切嫌な気持ちにならない。だからきっとあきらさんの悩みもすぐ解決するは...
類は社長室を訪れた。「社長。フランスへの異動の件ですが、私はもうしばらく日本で過ごすことにします。」「という事は、ライバルを蹴散らすという事か?」「そのつもりですがまだ他にもライバルがいるみたいです。それに牧野にとってフランスへ行くことが最善な方法なのか分かりません。言葉も通じないだろうし環境も変わります。私も仕事へ行くのでずっとついていられません。それを考えると負担が大きいような気がします。」類...
GWも開け、類は仕事へと向かった。それを見送った後、掃除洗濯を終わらせ花壇の野菜の手入れをする。きゅうりも順調に上へと伸びてきている。ただ重さがありネットからずり落ちそうになっている為、固定するようネットと茎部分をひもで結ぶ。トマトも大きく育ってきており支柱に紐で括り、脇芽を摘み取る。ピーマンとなすびも枝が伸びそこにも支柱を立てる。それぞれ順調に花が咲き、キュウリは一本食べごろに実った。それを収穫す...
残りのGWは自宅で過ごす。庭の野菜の成長を見ては笑い、一緒に買い物へでかけて献立を考えて類も手伝ったり。そんなのんびりとした時間が二人にとっては心地良い。そんな中、つくしはあきらの件をそろそろどうにかしようと考えていた。一度食事をしながら悩み事を聞いて欲しいと言われているが、どういう話かも分からないし深刻な悩みの場合良いアドバイスも思い浮かばない。その点、類さんならば良いアドバイスが出来るのではない...
5月2日類とつくしは予定通り埼玉県秩父の羊山公園へ向かった。GW期間中で多少混んでいるが、それでもまだマシなようでスイスイと進むことが出来た。そして目的地に到着した二人は唖然とした。「芝桜が、、、ほとんど散ってる?」「みたいだな。でも少しは残っているんじゃない?」昨日の大雨により花が散ったようだ。「すみません。まさかこんな事になっているとは、、、」「自然が相手だから仕方ないと思う。でもほらっ、入園料...
「牧野は愛されて生まれて来たと俺は思う。少なくとも牧野を生んだ母親は父親の事を愛していた。でなければ母親が牧野を生むはずがないだろ?好きな人の子供だから生みたかったんだよ。片親になろうとも生まれてくる子供に苦労を掛けるけど、それでも愛する人との子供だから生みたかったんだと思う。だから生まれてこなければ良かったと考えるのは止めたほうが良い。」「ありがとうございます。」「もちろん本妻からすれば疎ましい...
食事をとりながら、つくしはキッチンの上に置いていた物をテーブルに持ってくる。「これ、、類さんへお土産です。」「お土産?どこに行ったの?」類は紙袋を覗くと、日本酒の箱が見える。「茶会です。」「茶会に行ってお土産、、、」類はプッと吹き出すがすぐに「ありがと。」とお礼を述べる。「茶会が開催されたホテルの売店で買いました。本当はデパートで何か買おうと思ったんですけど偶然マナー教室の先生に出会って、GWの特別...
翌日、つくしは午前中に祖母の施設へ向かった。するとそこに義母と誠とその婚約者の緒方真理子がいた。「つくし!元気だったか?」「うん。」つくしは入り口で立ち止まり頭を下げる。誠はすぐに婚約者を伴いつくしの元へ向かう。「つくしさん。突然引っ越しさせてごめんなさいね。」「とんでもないです。リフォームはどうなりましたか?」「順調よ。後一か月程で終わると思うわ。それも含めておばあさまに報告しに来たの。」真理子...
20時を少し回ったころ、つくしは帰宅した。駅から自転車を押して自宅まで帰ったのだが、確かに人通りは少なく外灯も少なく暗い。しかもこんなに遅くなるとは思っておらず、自宅の外灯もつけておらず真っ暗だ。その為、スマホの明かりを頼りに自宅の鍵を開けた。自宅に荷物を置くと直ぐに外に出て洗濯物を取り込む。そして急いで雨戸を閉めた。ここに来てこうして夜中に外に出るのは初めてだ。周囲が山に囲まれのどかな場所だが、...
総二郎は上手い言葉が見つからず、とりあえず料理を食べ終えた事から茶を点てる事にする。「じゃあお茶を点てようか。」「はい。ありがとうございます。」総二郎はスタッフに声をかけると、すぐに弟子が茶道具を持ってきた。お湯は電気ポットの物を持ってきている。「流石にお湯は電気ポットの物だけど、是非飲んでほしい。」「ありがとうございます。」総二郎は畳に座ると茶道具を開き準備をする。つくしもその前に正座するとじっ...
ホテル内の和食レストランの前で待っていると、総二郎が弟子を連れてやってきた。その格好は和装だ。時間はまだ16時30分にも満たない。「ごめん。待たせたか?」「いいえ。私もさっき来たところです。」「じゃあ入ろうか?」「はい。」弟子とは入り口で別れ、総二郎がつくしを伴い中に入った。総二郎の姿に店員がすぐに個室へと案内する。広々とした畳の個室で、テーブルの下は掘り炬燵になっている。「本村さん。ちょっと時間...
先ほどまで総二郎が座っていた席に家元夫人が座り、つくしは背筋を伸ばす。「本村さん。お久しぶりです。おばあさまはお元気?」「はい。今日はお招きいただきありがとうございます。祖母は元気です。」「そう。突然辞められたから驚いたのよ?」「申し訳ありません。引っ越すことになり教室に通えないので辞めさせていただきました。」「そうなんですってね。この後、総二郎と話をされるんですよね?」「はい。何か壁にぶち当たっ...
つくしが茶会の開かれるホテルに到着するとかなりの人がロビーにいた。そのほとんどが着物姿だ。既に13時を回っており受付は長者の列だ。つくしは少し時間を潰すためにトイレへ向かった。そこで身だしなみをチェックしていると茶会に招待されていると思われる女性が入ってきた。つくしはワンピースの為、茶会に出席すると思われていないのか会話は続けられている。「流石西門流のお茶会だけあって凄い人ですね。14時からの部の受...
こうしてつくしと偶然再会した今がチャンスだ!色々聞き出そうと夢子は思う。「つくしちゃんから見てあきら君はどういう人に見えるかしら?」「優しいお兄ちゃんという感じです。いつも微笑みながら話を聞いてくださり、さり気なくアドバイスをしていただいたこともあります。」つくしの答えに夢子はガッカリする。『優しい』はまだしも『お兄ちゃん』という単語は頂けない。出来れば『優しい男性』と言って欲しかった。でも『優し...
4月29日類は早朝から福岡出張へ向かう。つくしも早く起きおにぎりとペットボトルのお茶を持たせる。「車の中ででも食べてください。」「ありがと。」「気をつけて。」「ん。牧野も早朝からご苦労様。この後、もう少し寝ると良い。」「はい。」つくしは類を見送るために玄関先へ出る。そこには花沢の車が既に待機していた。一泊以上の出張の場合、本宅から車を手配している。運転手もつくしの姿を見るとぺこりと頭を下げた。その...
その日、類が帰宅してからつくしは話を切り出した。「花沢さんはGWの予定はどうなっていますか?」「あぁ。ちょうど5月の予定を控えてきたところ。GWから国内出張が始まり時には一泊することもある。」類は胸ポケットから予定表を取り出しテーブルの上に置く。「見ても良いですか?」「どうぞ。その為に持って帰ってきたんだから。」つくしはマジマジと予定表を見る。そこにはびっしりと予定が記入され、遠い所は一泊二日の予定で...
GWを10日後に控え、類は自分のスケジュールを調べた。出張などはあらかじめ決められている。近場なら突然の変更はあり得るが泊りとなると宿の手配なども有り、早々スケジュールの変更はない。もちろん今までたいして気にも留めなかったが、今は同居人がいる。毎日食事を作ってくれているし、泊りがけの出張の場合は出来るだけ早く伝えておきたい。それを見るとGWの前半は一泊二日で福岡出張がある。それ以降も5月は泊まりの出張...
つくしの元へ長男の誠がやってきた。庭で苗の様子を見ていたつくしは、急いで玄関へ向かう。「誠兄ちゃん!」「元気か?」「うん。元気!突然どうしたの?」誠はつくしの様子を窺いながら家や周囲を見渡す。こうしてつくしが暮らしている家を目の当たりにしたのは初めてだ。引っ越しは弟の徹が手伝い、かなり小さな家だと話を聞いていた。まさにその通りで、花沢の御曹司は少し変わっていると思わざるを得ない。「花沢さんとは仲良...
類とつくしはホームセンターへ向かった。その入り口には沢山の花の苗が置いている。それを順に見て回る。「へぇ。沢山の花があるな。」「花の形が似ていても大きさが違うし値段もいろいろですね。」「だな。品種改良して名前が増えたのかも?分からないけど。」「初めてですから失敗しても気兼ねが無い安い物にしましょうか?」それを聞き類は笑いが漏れる。「失敗って。花を植えて水をあげるだけだろ?」「あたしもそう思うんです...
季節は冬から春へと変わっていた。類とつくしは穏やかな日々を過ごしていた。それは類が想像していたよりも穏やかだ。朝は起きると朝食が用意され、帰宅すると夕食が用意されている。3月頃までは22時から23時という遅い時間に帰宅していたが、必ず待ってくれていて一緒に食事をとる。それが今は20時までに帰れるようになりホッとする。食事をしながら今日あった一日の出来事を話すのだが、それは牧野が主になって話す。俺の...