※お食事中の方はご遠慮ください。また周囲に気を付けてご覧ください。猛暑日のある日、、、つくしはキョロキョロと周囲を見渡した後、目の前のビルを見上げた。その姿はサングラスをかけ口元はマスクで隠し、つばの大きい帽子を被っている。日除け対策ともとれるが、明らかに挙動不審だ。何故なら炎天下の中、周辺をずっとウロウロと歩き回っている。当然、汗が滴り落ちている。(つ:どうしよう。 やっぱり止めようかな? でも...
クリスマスイブ。つくしは遅れて集合場所へ向かった。久しぶりに皆に会えると思うと自然に頬は緩む。厳しい稽古の中で、やはり一番の励ましは皆からのSNSだ。今回のクリスマスイブの食事会も桜子が教えてくれ、指折り数える程楽しみにしていた。特に類に会うのは夏休み明けのNY土産を貰って以来だ。もちろんSNSはそれなりに来るが、以前と違い直接顔を合わせなくなったことはかなり寂しかった。「遅れてごめん。」店内に入ると真っ...
滋は嫉妬心を隠し、あくまで司の助言を好意的に受け止める表情を見せる。少なくとも自分がついた嘘の相談に真剣にのってくれているから。「なるほど。 英語で伝えれば良いのかな? もっと大胆にすれば、、。」「いや。 お前はそのままでいいと思うぜ。 と言うか簡単に変われねぇだろ? だからな、彼氏を作るなら日本人の方があってんじゃね?」司も日本人じゃん!という事は司とはバッチリという事じゃない?もちろん司は自分...
司は仕事に奔走していた。そして重責が更にのしかかるようにもなった。以前は学生という事も有り、ある程度会議の出席は見送られていたが今ではほとんどの会議に出席させられる。そこでの意見、決済も迫られる。しかも多岐にわたる分野。頭の切り替えが難しい。当然疲労は溜まる一方。その解消方法はアレしか思いつかない。だが類の言葉も有り暫くは自分で諫めていた。だが既にその快楽を知ってしまっている為、以前のように自分で...
夏休みが終わり大学が始まった。三年の後期となるつくしは取得する単位も残りわずかだ。全く講義が無い日も二日ある。もちろんその日は道明寺邸での稽古に当てられている。そんな中、つくしの元へ類が来た。「ま~きの。」「類? 珍しいね大学に来るの。」「週に一時間だけ講義があるからね。 と言ってもリモートで済ませる事も出来るんだけど、今日は牧野に会いたいと思って。 横、座っても良い?」「どうぞ。」類はつくしの横...
重い空気が流れ、誰も摘まみに手を付ける者はいない。冷たかったビールも今はぬるくなっている。「でも滋に対し恋愛感情が無いんなら牧野がNYへ行くまでの関係と割り切ればなんとかなるんじゃね?」「たぶん司もそう思ってる。 でも、、牧野に対しての恋愛感情も薄くなってる。」「SNSを利用しているからか? それはやましい事をしているからだろ?」あきらは、司の気持ちを思いやる。仕事と学業の両立は心身ともに堪える。鬱憤...
日本へ帰った類は、あきらに連絡を入れ急遽場所を設定してもらった。皆で情報を共有する為だ。もうあまり大学へ行く事のない類はつくしの様子を窺う事が出来ない。その点、総二郎はたまにお茶の稽古があるし、桜子は大学で会う可能性が十分ある。「珍しいな。 類が号令かけるなんてさ。」「しかも私まで呼んでくださるなんて。 先輩は遅れるんですか?」既に総二郎と桜子がいた。そして類の珍しい行動に疑問を呈する。「牧野は来...
類はカマをかけてみる。「ここだけの話なんだけど、去年大河原が日本に来たとき皆で食事したじゃない?」「あぁ。 そう言ってたな。」「その時、、、見たんだよね。」「何を?」「キスマーク。」司は瞬時に目が泳ぐ。そのあからさまな動揺を類は見逃さない。ビンゴか。司と大河原は体の関係があるんだろう。少なくとも去年の今頃には既にそうなっていた。だから焦った。自分が付けたキスマークだと思ったから。もちろんそんな物、...
類は冷蔵庫からビールを取り出しそれを飲みながら司の到着を待った。司が到着したのは21時を回ってからだ。「悪りぃ、類。 待たせたな。」「いや。 こっちも突然だったし。」「それにしてもお前もいよいよ仕事を始めるのか。」「まあね。 と言っても去年から少しずつ始めてるんだけどさ。」「だろうなぁ。」そこにルームサービスが届けられた。それをテーブルに並べアルコールと共に摘まむ。「この部屋も日本のメープルとあまり...
もうすぐ夏休みという頃、類は卒論を仕上げ教授に提出する為大学へ向かった。するとベンチに座っているつくしを見つける。連絡を取った訳でもないのに偶然つくしがいる事に苦笑いをしながら声をかけた。「ま~きの。」「あっ、類。」「横座っても良い?」「どうぞ。」勝手に座っても良いのだろうが、一人になりたいときもあるかもしれないと思うとどうしても一声をかけてしまう。もちろん今まで拒否されたことは無い。「テストの空...
類、総二郎、つくし、桜子は類の運転する車でドライブをしている。目的地はあの時と同じ公園だ。「風が気持ちいいですね。」「うん。」「類、運転上手くなったなぁ。」「そりゃぁ初心者じゃないし。」助手席には総二郎、後部座席につくしと桜子が座っている。あの後、類が総二郎に電話をしていると桜子がやって来た。今からドライブに行くと言うと一緒に行くという。そして総二郎と合流した後、一度皆で花沢邸へ向かい、そこから類...
4月になった。つくしはシラバスを見ながら今年度の授業を考えていた。必修科目はもちろん受講だが、専門科目は残り単位を考え受講する必要がある。やみくもに取れば試験が大変になるし、単位の足りない分野の科目を取る必要がある。もちろん曜日と時間が決まっている為、重なればどちらかを選択しなければならない。今年も普通に道明寺家でお稽古は行われる。その為4限以降になる物は出来るだけ避け、且つ道明寺家で習わない分野...
「牧野。 悪りぃが空港に戻っても良いか?」既に再会して1時間半が過ぎている。予定していた時間は3時間だし、急な案件も出ている。戻る時間も必要だし嫌だと言えるわけがない。「うん。」「出発まではまだ時間があっからお茶でも飲もうぜ。」「うん。」つくしは出来るだけ明るい声を出す。本当はもっと一緒に居たい。たった3時間なんて短すぎる。でもそれを口には出せない。元々無理して会ってもらっているんだから。つくしは袋...
3月に入った頃、夜中に突然つくしの携帯が鳴り始めた。眠気眼で表示を見ると司からだ。ここ最近SNSばかりで電話は全くなかった。何事?と思いつつも久しぶりに声が聞けると思うと嬉しくてつくしは飛び起き通話ボタンを押した。「はい。」『牧野か?』「うん。」変わらない司の声。一瞬で疲労が吹き飛ぶ感じだ。だが突然の電話。何かあったのかと心配になる。『あのな。 来週シンガポールに行くんだが、途中燃料チャージで日本に寄...
試験も無事終わり、春休みへと突入した。と言ってもまだ2月。寒い日が続いている。そんな中、つくしは今年のクリスマスプレゼントとして司から貰ったストールと手袋を身につけ道明寺邸への稽古へ。と言っても時間的には余裕が出来た。稽古は9時から17時までだからだ。いつもは稽古を終えると道明寺家の車で自宅まで送ってもらうのだが、今日は近くの駅まで送ってもらい電車で類の家へと急いだ。私用のため申し訳ないという気持...
11月になった。つくしが大学構内のベンチに座っていると、類に声をかけられた。「ま~きの。」「類。 久しぶりだね。」「ん。 ちょっとフランスに行ってた。 横、座っても良い?」「どうぞ。」類はつくしの横に座るとポケットから小さな包みを取り出す。「はい。 お土産。」「何?」「チョコレート。 疲れた時には甘い物が良いんだろ?」「ありがとう。」つくしは嬉々として包みを開ける。中からは一粒大のチョコレートが数...
滋はNYへ帰るとすぐに司にSNSを送る。<ただいま~。 今、こっちに戻ったよ。 その辺も含めて報告したいんだけど明日会えないかな? 大学が始まるまでに一度会いたいんだけど。>司は仕事の合間に滋からのSNSに気づき、サッと開く。滋が日本へ行くという事は前もって聞いていた。その時、あいつらに会う事ももちろん知っている。ただどんな話をしたのか、牧野に悟られていないか気になった。初めてのあの感覚が忘れられず、スト...
夏休みに入り、滋が父親と共に日本に来た。それに合わせ皆で食事をすることになりレストランで集合した。つくしは稽古が終わって駆け付ける事になっており、先に始める事にした。「滋さんがNYへ行かれて約二年半が経ちますが、あちらでの生活はどうですか? もう慣れました?」「まあね。 と言っても大学と会社と家の往復よ。 だから未だ友達が出来ない。大学では同じ講義を受けている人と多少会話はするけど、休日にどこかに出...
つくしの元に、オレンジ色の夏物のワンピースとオフホワイトのレースのボレロが届いたのはそれから一週間後だった。袖口がふんわりとしておりかなり派手なオレンジ色だが夏らしい爽やかさもある。何よりストンと着ることができ、腰に麻のベルトで括るようになっている。レースのボレロは長そでだが丈が短く涼しげでワンピースにとても良くあう。「姉ちゃん。 凄く良く似合ってる。」「派手な色合いだけど夏らしくて良いんじゃない...
つくしは大学二年になった。特待生になり今年度の授業料が免除になった。その事にホッと安堵していると司から連絡が入った。<お前すっげぇなぁ。 英徳の特待生はほんのごく僅かだぜ。 でもあまり無理するなよ。>SNSで届いた文面を、つくしは何度も見直す。褒められて嬉しいし、気遣ってくれている。きっとあいつも頑張っているんだろうと思う。すると、類がやってきた。「牧野。 隣に座っても良い?」「どうぞ。」別に誰も座...
もうすぐクリスマスという頃。つくしの家に司から荷物が届いた。中を開けると手触りの良いコートとメッセージカードが入っている。「良い色合いのコートね。 これなら普段から着ていけるんじゃない?」「だね。」明るいグレーのコートはどんな服装にも合いそうだ。メッセージカードには<Merry Christmas 無理するなよ>走り書きのようなメッセージカード。忙しくてもクリスマスを忘れずにいた事とほんのちょっとの文字がつくし...
つくしは大学のベンチに座り、背もたれに体を預けていた。疲れた、、。大学入学と同時に始まったお稽古事。道明寺から大学代を払ったから英徳へ行けと半強制的に言われた翌日、今度は魔女から電話があった。『英徳大学へ通いながら英会話その他の勉強を始めなさい。その為の講師は既に依頼してあります。場所は道明寺邸。 大学が終わり次第向かいなさい。バイトの方はもちろん辞めていただきます。代わりにお稽古の習熟度に合わせ...
俺は体を動かす事すら出来ねぇ。すぐ隣には真っ裸の滋がいる。今も腕にわずかに温もりを感じている。滋と再会して一年は経過している。その間、親友として大学でたまに会話するぐらいだったじゃねぇか。それがどうしてこうなった?滋も俺と同じ立場で、パーティーがあれば出席させれられていた。俺は同伴者が必要な時は西田が宛がった女性を同伴した。滋はほとんど父親を伴っていたようだ。だが昨日のパーティーは映画の受賞パーテ...
こちらのお話は、2022年に類誕リレーでキリ番を踏んでくださいましたるいか様からのリクエストに応えた作品です。アナウンスは一切していなかったんですが、作家様たちと誰かキリ番に気づいてくれるかな?と話していました。そうしたら偶然にも連絡があり、【55555のキリ番を踏んだんだけどリクエストしても良いの?】と冗談交じりに連絡がありました。ご存知の方もいるかもしれませんが、るいか様は総つく作家様です。(現在は更...
クリスマスが終わり、つくしが仕事へ行くと既に田村が居た。「おはようございます。」「あっ、おはようございます。 クリスマスは楽しかったですか?」「はい! とっても!」つくしの笑顔に語らずとも察する田村。そして胸元にきらりと光るネックレスが目に止まる。(田:類様のプレゼントですね。 華美ではなくワンポイントで落ち着いたネックレスです。)そこに類が入ってきた。「「おはようございます。」」「おはよ。」類と...
朝、つくしが先に目覚めた。横を見ると端正な顔立ちの類がいる。そして片方の手は緩く握られている。何より素肌に直にシーツが触れ、昨夜の情事を思い出し真っ赤になる。(つ:昨日、、、類とやっちゃった。元々隠れ蓑だと思っていたのにまさかの本命だと分かり、そこからハグ、キス、、、、そして最後まで。メープルで美味しいフルコースを食べたのに、恋のフルコースまで頂いちゃった。アレヨアレヨと怒涛の一日。 気持ちがなか...
明日はどの店へ行くかと話していると、つくしが少し大きな声を上げた。「あっ! 今日イベントやってるんじゃ?」「あぁ、ゲームのクリスマスイベント?」「そう!」つくしは脱兎のごとく布団から抜け出すと、自分と類のスマホを持ってくる。(類:この甘いムードの中、ゲームが気になるとは、、、。もしかして牧野にとっての順位は、一番にゲーム、二番に俺じゃないよな?)「はい! 少しだけやろう?」「あい。」二人はベッドに...
つくしがシャワーに行っている間に類ももう一つのシャワールームへ向かった。そしてルームウエアを着て出ると冷蔵庫から水を取り出し喉を潤す。するとつくしもルームウエアを着て出てきた。「水飲む? ジュースもあるけど。」「えっと/// 覗いても良い?」「ん。 どうぞ。」類は場所を移動し代わってつくしが冷蔵庫の中を見る。外国語で書かれたお酒らしきものもあるが、つくしはwaterと書かれた瓶を取り出した。「ペットボトル...
ハグをして3分が経過した。(類:そろそろ次へ進まない? もちろんハグも嬉しいんだけど鳩尾に二つの柔らかなふくらみが当たって否応なく反応してくるんだけど。)(つ:細く見えてしっかりとした体形。 はぁ~、ハグしてるよぉ。 背中に腕を回してるよぉ。大胆な行動に出たけど引いてないよね? だってイブだよ? 多少は大目に見てくれるよね?)つくしはゆっくり腕を解き類を見上げる。「イブだからつい大胆になっちゃった...
食事は残すところデザートのみとなった。それはクリスマスケーキ。「凄くゴージャスなクリスマスケーキ。 金粉がかかってる。」「俺のも食べる?」「ダメ! 初めてのイブはこんなの食べたねって数年後話したいから。」(類:数年後、、、良い響き。)「初めてのイブは牧野が盛大な誤解をしていたとか?」「二人の出会いはオンラインゲームだったとか?」「導くように秘書にしたとか?」「今こうしてここに居るのが今も信じられな...
二人は食事をしながら一つ一つ誤解を解く。「だってあたしがトイレから戻ってきたら二人の真剣な声が聞こえてね。『好きだ』『俺も好きだ』って。それを聞いた時、専務の好きな人は西門さんだったんだってかなりの衝撃を受けてね。だって相手が男性だし、しかも完璧な男性なんだから。今の時代性別に対して偏見を持つべきじゃないし堂々と好きと言えるんだからと必死に自分に言い聞かせてね。花さんの恋を応援すると決めたんだから...
二人がフロントへ向かうと、奥から支配人が出てきた。「ご予約ありがとうございます。 司様よりこちらのお部屋に変更するよう仰せつかっております。」支配人はカウンターの上にルームキーを置く。それはスイートルームのキーだ。(類:やっぱり司にバレてた。 でもありがたい。)(つ:今、部屋って言った? あれルームキーだよね? という事は今夜泊まるという事?まあ、、、恋人同士だし何の問題も無いんだけど、、、、複雑...
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※お食事中の方はご遠慮ください。また周囲に気を付けてご覧ください。猛暑日のある日、、、つくしはキョロキョロと周囲を見渡した後、目の前のビルを見上げた。その姿はサングラスをかけ口元はマスクで隠し、つばの大きい帽子を被っている。日除け対策ともとれるが、明らかに挙動不審だ。何故なら炎天下の中、周辺をずっとウロウロと歩き回っている。当然、汗が滴り落ちている。(つ:どうしよう。 やっぱり止めようかな? でも...
※こちらの作品はおちゃめママ様へ献上した作品となります。つくしは苺を洗うとヘタを取り一口大に切る。そして数個の苺は更に小さく切りお子様スプーンも添え皆の待つリビングへ向かった。そこには今か今かと苺の到着を待っている娘の愛がいる。愛は類とつくしの長女で3歳になる。「お待たせ。」「ママ!あたちが恭にあげる。」「分かった。」「ちょっと待って。恭を座らせるから。」恭とは類とつくしの長男で1歳だ。最近すっかり...
我が家のブログにお越しいただきありがとうございました。類君とつくしちゃんを幸せにするお話を、、、と思い、書き始めて約12年になります。まさかこれほど続くとは思いませんでした。皆様の温かなコメントに支えながら何とかやってきたのですが、今は全く妄想が浮かびません。沢山の作品が生まれネタが尽きました。もちろん12年という月日は老いていく事にも繋がり、ここ数年は浮かんだ妄想がなかなか文字として書けなくて(...
一年後の夏。陽向も心陽も、しっかりと歩くようになっていた。最近は10か月ごろから歩く子供もいるというが、未熟児で生まれ3か月も保育器に入っていた為、そこを0か月として発育状況を見るらしく成長に問題はなさそうだ。「順調だね。」「ん。 首も秋ごろには座ったし、そこからすぐに寝がえりを始め、気づいたらズリズリと動き出し、ハイハイを初めてつかまり立ち?」「誕生日を迎えた頃にはしっかりつかまり立ちが出来てた...
4月になり、つくしは入院することにした。というのもこれから何があるか分からないため、万が一の時はすぐ対応できるようにだ。それに28週を過ぎた為、運動は極力避けた方が良いと言われた事も有り、家でジッとしているなら入院した方が安心という事になった。もちろん日中は麗が、仕事終わりに類が毎日来る。「どう? 変わりはない?」「うん。 元気すぎてお腹の中で暴れ回ってる。 二人がそれぞれ動くからお腹が張り裂けそ...
シリウスの元にデイジー村のギルド長から手紙が届いた。 定期的にリチャードに関する報告を貰っている。再びリチャードを王位に据えようとする貴族が接触していないか、本人にその意志がみられないか、リチャードが困っていることは無いかといった物だ。だがシリウスの思惑に反し兄はリカルドとして不便な生活を受け入れ、平民として働いている。せめて少しでも生活がしやすいようにと、魔道具の普及も急いだ。半年ほど前には村娘...
三日後、メアリーから電話があった。予想通り、あの世界へ戻るという返事だった。その為、週末に類と共にアレッタの店へ向かった。「お忙しい中、すみません。」「いいえ。」「いろいろ考えたのですが、アレッタさんにメアリーの姿を見せたくて戻る事を決断しました。」「ご主人はもうこの世界に戻れなくなりますが、それで良いんですね?」「はい。 私はメアリーと共にあの世界に骨を埋めます。 それとお言葉に甘えてこの店と自...
週末、類とつくしは子供服売り場へ向かった。小さな服はとても可愛いが、今はまだどちらが生まれるか分からない。その為、産着のみを数着買った。「男の子二人とか女の子二人なら、お揃いの服も良いな。」「形は同じで色違いとかも良いね。」「男女の双子でも一歳ぐらいまではそれで良いんじゃない?」「うん。 でも可愛いね。」「だな。」それから少し早いがアレッタの店へ向かった。小さな店で看板には漢字とカタカナで『異国料...
翌、月曜日。類の元にあきらがやってきた。「あのよぉ。 牧野さんなんだが美作が経営しているレストランのアルバイトに24歳の牧野さんがいるんだ。 だが髪の毛は茶髪なんだが、髪の色ぐらい変わる物だし会ってみるか?」あの後も裾野を広げて調べてくれていた親友に、嬉しさと申し訳なさが同時に込み上げてくる。そして再会後、バタバタしすぎて親友に報告していなかったことに気づいた。「ごめん。 見つかったんだ。」「えっ...
土曜日、類とつくしは長崎へ向かった。つくしは結婚したい相手を連れて行くと電話で連絡していた。「初めまして。 花沢類と申します。 つくしさんとの結婚をお許しください。」類はつくしの両親を前にすぐに頭を下げる。両親は俳優のような容姿の類に驚きつつも、娘のつくしに自然に目が向かう。どう見ても出産間近だ。「えっと。 つくし? あなた妊娠してるの?」「うん。 順番が逆でごめん。」結婚したい人がいるから会って...
二人っきりになり、類は改めてつくしに向き合うとポケットから小袋を取り出す。異世界で肌身離さず身に着けてた小袋だ。その中身を取り出しながら話す。「無事こうして戻ってきたんだけど、服装はあの時のままだった。 ただ傷は一切なかった。 もちろん服には大きな穴が開いていたし血も付着していた。 そして小袋には魔法陣の消えた紙切れとドラゴンの鱗、シリウスから貰った銀のプレートが入ってた。 枕の下に敷いていた紙も...
佳代は類の声に急いで玄関へ向かう。しかも珍しく「ただいま」という声まで聞こえた。どういう心境の変化だろうか?という気持ちが湧く。すると玄関に類が女性と手を繋いでいる姿が目に飛び込む。類がこうして女性と手を繋いでいる姿を見るのが初めてで動揺が走るが、努めて冷静を装い出迎えた。「お帰りなさいませ。」「佳代。 こちら俺の妻。」「妻!!?」動揺を隠していたが『妻』という言葉に、冷静さを失い驚きの声が出てい...
レストランを出ると類はすぐに花沢の車を呼んだ。「ちょっと待ってて。 20分程で車が来るから。」「うん。 あっ、だったら私の職場に来てくれない?」「あんたどこで働いていたの?」「フリーペーパーの編集部。 と言っても来月号で廃刊で会社は倒産。 あたしは今日付で倒産に伴う解雇になったんだけどね。」(類:フリーペーパー編集部? 確かに俺達のどこにも関連がない会社だよな。 だから見つからなかったんだ。)「社長...
つくしは駅に隣接しているショッピングモールに入った。バレンタインが近づいているという事で、店内は至る所にバレンタインを意識したものとなっており、一部コーナーはチョコ売り場となっている。(つ:社長に最後にチョコを渡せば良かったなぁ。 妊娠が分かってからの社長は物凄く優しくていろいろな物を差し入れしてくれたし。 まあ私が辞めたら社長一人で紙面づくりをしないといけないからってところもあったんだろうけど、...
クリスマス。この日もつくしは仕事をしていた。社内には社長もいる。身重でありながらこのような日にも仕事をしているし、土曜日も出勤しているのを見て察しているがなかなか事情を聞けないでいる。「牧野。 そろそろ帰ったらどうだ?」「はい。 これが終われば帰ります。」「年末年始はどうするんだ?」「家に居ますよ。 実家は九州なので混み合う時期に移動は避けたいので。」「まあそうだよなぁ。 きちんと親には話している...
12月つくしは土曜日も出勤し紙面づくりを行っている。その代わり平日は18時ごろには帰るようにした。そして社長が何かと気を遣ってくれるようになった。取材帰りに果物やジュースなどを買って帰ってくる。「あまり食欲がないだろ? でも何か口に入れろよ。」「ありがとうございます。」街はいつの間にかクリスマス仕様になっている。(つ:類もどこかでこの雰囲気を味わっていると良いなぁ。)そう思いながら自宅へと急いだ。...
つくしは忙しい仕事の合間にコッソリ産婦人科へ行った。休日は無いし、サービス残業の日々なのだからこれぐらい許されるだろうという気持ちだ。検査薬で陽性反応が出ているため間違いは無いだろうが、出産予定日など今後の事を決めたかった。「おめでとうございます。 双子ですね。 8週目で三か月に入ったところです。 予定日は5月25日ごろですね。」「双子?」まさか双子とは思わなかったつくしは、呆けた顔で確認した。その...
類は、ハッと目を開け飛び起きると腹を押さえる。だが、、、血は出ていない。痛みもない。どういう事?そう思いながら周囲を見渡す。「俺の部屋?」自分のベッドの上だ。しかも一人だ。「牧野? 牧野は?」周囲を見るがつくしの姿はない。「夢?」そう思いながらベッドから起き上がり自分の服を見る。それは乗合馬車に乗った時の服で、切られた箇所には穴が開き血が付着している。靴も履いている。だが、、腹に傷はない。もちろん...
それは一瞬の出来事だった。馬上の騎士達、そして乗合馬車から降りた男も崖を覗き込む。確かに二人が落ちていく姿が確認できたが、突然まばゆい光が現れ目を閉じた為、二人の行方が分からなくなった。「まさか、飛び降りるとは。」「聖女様はどうします? 森へ入りますか?」「いや。 この高さから落ちたら生きてはいないだろう。 万が一、生きていたとしても魔物が住む森ではさすがの聖女様でもどうすることも出来ない。」「あ...
翌朝、宿の人にクルクマへ行く乗合馬車を確認しチェックアウトした。時間まで村を散策する。昨日の商人の店の前に来た時に、たまたま店内に居た商人が二人を見て店から出てきた。「今から行かれるんですか?」「はい。」「この先の山を越えるんですけど、片側は断崖絶壁なんですが景色は凄く良いですよ。 半日はかかりますが、途中トイレ休憩しかないので何か食べる物を持っていかれた方が、、、あっ、是非このピーアを持って行っ...
そうしてあっという間に5月17日になった。「じゃあ行ってくる。」「よろしくお願いします。」「ん。とりあえずきちんとアドバイスしてくるから安心してて。」「はい。」こうしてつくしは類を見送った。後は類さんに一任するしかないが特段心配はしていない。いろいろな知識があるし、丁寧にアドバイスをしてくれる。それに前向きな言葉を投げかけてくれ一切嫌な気持ちにならない。だからきっとあきらさんの悩みもすぐ解決するは...
類は社長室を訪れた。「社長。フランスへの異動の件ですが、私はもうしばらく日本で過ごすことにします。」「という事は、ライバルを蹴散らすという事か?」「そのつもりですがまだ他にもライバルがいるみたいです。それに牧野にとってフランスへ行くことが最善な方法なのか分かりません。言葉も通じないだろうし環境も変わります。私も仕事へ行くのでずっとついていられません。それを考えると負担が大きいような気がします。」類...
GWも開け、類は仕事へと向かった。それを見送った後、掃除洗濯を終わらせ花壇の野菜の手入れをする。きゅうりも順調に上へと伸びてきている。ただ重さがありネットからずり落ちそうになっている為、固定するようネットと茎部分をひもで結ぶ。トマトも大きく育ってきており支柱に紐で括り、脇芽を摘み取る。ピーマンとなすびも枝が伸びそこにも支柱を立てる。それぞれ順調に花が咲き、キュウリは一本食べごろに実った。それを収穫す...
残りのGWは自宅で過ごす。庭の野菜の成長を見ては笑い、一緒に買い物へでかけて献立を考えて類も手伝ったり。そんなのんびりとした時間が二人にとっては心地良い。そんな中、つくしはあきらの件をそろそろどうにかしようと考えていた。一度食事をしながら悩み事を聞いて欲しいと言われているが、どういう話かも分からないし深刻な悩みの場合良いアドバイスも思い浮かばない。その点、類さんならば良いアドバイスが出来るのではない...
5月2日類とつくしは予定通り埼玉県秩父の羊山公園へ向かった。GW期間中で多少混んでいるが、それでもまだマシなようでスイスイと進むことが出来た。そして目的地に到着した二人は唖然とした。「芝桜が、、、ほとんど散ってる?」「みたいだな。でも少しは残っているんじゃない?」昨日の大雨により花が散ったようだ。「すみません。まさかこんな事になっているとは、、、」「自然が相手だから仕方ないと思う。でもほらっ、入園料...
「牧野は愛されて生まれて来たと俺は思う。少なくとも牧野を生んだ母親は父親の事を愛していた。でなければ母親が牧野を生むはずがないだろ?好きな人の子供だから生みたかったんだよ。片親になろうとも生まれてくる子供に苦労を掛けるけど、それでも愛する人との子供だから生みたかったんだと思う。だから生まれてこなければ良かったと考えるのは止めたほうが良い。」「ありがとうございます。」「もちろん本妻からすれば疎ましい...
食事をとりながら、つくしはキッチンの上に置いていた物をテーブルに持ってくる。「これ、、類さんへお土産です。」「お土産?どこに行ったの?」類は紙袋を覗くと、日本酒の箱が見える。「茶会です。」「茶会に行ってお土産、、、」類はプッと吹き出すがすぐに「ありがと。」とお礼を述べる。「茶会が開催されたホテルの売店で買いました。本当はデパートで何か買おうと思ったんですけど偶然マナー教室の先生に出会って、GWの特別...
翌日、つくしは午前中に祖母の施設へ向かった。するとそこに義母と誠とその婚約者の緒方真理子がいた。「つくし!元気だったか?」「うん。」つくしは入り口で立ち止まり頭を下げる。誠はすぐに婚約者を伴いつくしの元へ向かう。「つくしさん。突然引っ越しさせてごめんなさいね。」「とんでもないです。リフォームはどうなりましたか?」「順調よ。後一か月程で終わると思うわ。それも含めておばあさまに報告しに来たの。」真理子...
20時を少し回ったころ、つくしは帰宅した。駅から自転車を押して自宅まで帰ったのだが、確かに人通りは少なく外灯も少なく暗い。しかもこんなに遅くなるとは思っておらず、自宅の外灯もつけておらず真っ暗だ。その為、スマホの明かりを頼りに自宅の鍵を開けた。自宅に荷物を置くと直ぐに外に出て洗濯物を取り込む。そして急いで雨戸を閉めた。ここに来てこうして夜中に外に出るのは初めてだ。周囲が山に囲まれのどかな場所だが、...
総二郎は上手い言葉が見つからず、とりあえず料理を食べ終えた事から茶を点てる事にする。「じゃあお茶を点てようか。」「はい。ありがとうございます。」総二郎はスタッフに声をかけると、すぐに弟子が茶道具を持ってきた。お湯は電気ポットの物を持ってきている。「流石にお湯は電気ポットの物だけど、是非飲んでほしい。」「ありがとうございます。」総二郎は畳に座ると茶道具を開き準備をする。つくしもその前に正座するとじっ...
ホテル内の和食レストランの前で待っていると、総二郎が弟子を連れてやってきた。その格好は和装だ。時間はまだ16時30分にも満たない。「ごめん。待たせたか?」「いいえ。私もさっき来たところです。」「じゃあ入ろうか?」「はい。」弟子とは入り口で別れ、総二郎がつくしを伴い中に入った。総二郎の姿に店員がすぐに個室へと案内する。広々とした畳の個室で、テーブルの下は掘り炬燵になっている。「本村さん。ちょっと時間...
先ほどまで総二郎が座っていた席に家元夫人が座り、つくしは背筋を伸ばす。「本村さん。お久しぶりです。おばあさまはお元気?」「はい。今日はお招きいただきありがとうございます。祖母は元気です。」「そう。突然辞められたから驚いたのよ?」「申し訳ありません。引っ越すことになり教室に通えないので辞めさせていただきました。」「そうなんですってね。この後、総二郎と話をされるんですよね?」「はい。何か壁にぶち当たっ...
つくしが茶会の開かれるホテルに到着するとかなりの人がロビーにいた。そのほとんどが着物姿だ。既に13時を回っており受付は長者の列だ。つくしは少し時間を潰すためにトイレへ向かった。そこで身だしなみをチェックしていると茶会に招待されていると思われる女性が入ってきた。つくしはワンピースの為、茶会に出席すると思われていないのか会話は続けられている。「流石西門流のお茶会だけあって凄い人ですね。14時からの部の受...
こうしてつくしと偶然再会した今がチャンスだ!色々聞き出そうと夢子は思う。「つくしちゃんから見てあきら君はどういう人に見えるかしら?」「優しいお兄ちゃんという感じです。いつも微笑みながら話を聞いてくださり、さり気なくアドバイスをしていただいたこともあります。」つくしの答えに夢子はガッカリする。『優しい』はまだしも『お兄ちゃん』という単語は頂けない。出来れば『優しい男性』と言って欲しかった。でも『優し...
4月29日類は早朝から福岡出張へ向かう。つくしも早く起きおにぎりとペットボトルのお茶を持たせる。「車の中ででも食べてください。」「ありがと。」「気をつけて。」「ん。牧野も早朝からご苦労様。この後、もう少し寝ると良い。」「はい。」つくしは類を見送るために玄関先へ出る。そこには花沢の車が既に待機していた。一泊以上の出張の場合、本宅から車を手配している。運転手もつくしの姿を見るとぺこりと頭を下げた。その...
その日、類が帰宅してからつくしは話を切り出した。「花沢さんはGWの予定はどうなっていますか?」「あぁ。ちょうど5月の予定を控えてきたところ。GWから国内出張が始まり時には一泊することもある。」類は胸ポケットから予定表を取り出しテーブルの上に置く。「見ても良いですか?」「どうぞ。その為に持って帰ってきたんだから。」つくしはマジマジと予定表を見る。そこにはびっしりと予定が記入され、遠い所は一泊二日の予定で...
GWを10日後に控え、類は自分のスケジュールを調べた。出張などはあらかじめ決められている。近場なら突然の変更はあり得るが泊りとなると宿の手配なども有り、早々スケジュールの変更はない。もちろん今までたいして気にも留めなかったが、今は同居人がいる。毎日食事を作ってくれているし、泊りがけの出張の場合は出来るだけ早く伝えておきたい。それを見るとGWの前半は一泊二日で福岡出張がある。それ以降も5月は泊まりの出張...
つくしの元へ長男の誠がやってきた。庭で苗の様子を見ていたつくしは、急いで玄関へ向かう。「誠兄ちゃん!」「元気か?」「うん。元気!突然どうしたの?」誠はつくしの様子を窺いながら家や周囲を見渡す。こうしてつくしが暮らしている家を目の当たりにしたのは初めてだ。引っ越しは弟の徹が手伝い、かなり小さな家だと話を聞いていた。まさにその通りで、花沢の御曹司は少し変わっていると思わざるを得ない。「花沢さんとは仲良...
類とつくしはホームセンターへ向かった。その入り口には沢山の花の苗が置いている。それを順に見て回る。「へぇ。沢山の花があるな。」「花の形が似ていても大きさが違うし値段もいろいろですね。」「だな。品種改良して名前が増えたのかも?分からないけど。」「初めてですから失敗しても気兼ねが無い安い物にしましょうか?」それを聞き類は笑いが漏れる。「失敗って。花を植えて水をあげるだけだろ?」「あたしもそう思うんです...
季節は冬から春へと変わっていた。類とつくしは穏やかな日々を過ごしていた。それは類が想像していたよりも穏やかだ。朝は起きると朝食が用意され、帰宅すると夕食が用意されている。3月頃までは22時から23時という遅い時間に帰宅していたが、必ず待ってくれていて一緒に食事をとる。それが今は20時までに帰れるようになりホッとする。食事をしながら今日あった一日の出来事を話すのだが、それは牧野が主になって話す。俺の...