★寒気の影響か肌寒い。それに晴れたかと思えば、雷に驚かされ、ザーとひと雨降ればまた晴れる。落ち着きのない天気だ。★与党か野党か知らないが、選挙目当てかどうかも知らないが、ぶち上げた給付金が予想以上に不評で、次いで、消費税減税をめぐっては、自民党も立憲民主党も党が割れんばかりの混乱だ。★「大山鳴動して鼠一匹」ともいう。結局は所得制限付きの給付金あるいは、マイナポイントでお茶を濁すのか。バラマキがポピュリズムなら、票目当ての党利党略もポピュリズム。気になるのは某国大統領のコロコロ変わる顔色か。★さて今日は、伊藤たかみさんの「八月の路上に捨てる」(文春文庫)から「貝からみる風景」を読んだ。物書きらしい男性が主人公。鮎子という女性と暮らしている。男性は時間的にはゆとりがあるらしく、彼女が仕事から帰るのに合わせて、...伊藤たかみ「貝からみる風景」
★gooブログが閉鎖されるらしい。私のブログは開設しておよそ20年。古参に含まれるのかな。残念だが、時代の趨勢には勝てない。★ホームページからブログへ、ブログからツイッター(現X)、フェイスブック、インスタへと駆け足で時代が過ぎていく。★さて今日は、有栖川有栖さんの「ロシア紅茶の謎」(講談社文庫)から「動物園の暗号」を読んだ。★大阪の動物園のサル山で、飼育員の遺体が発見された。何ものかに鈍器で殴られ、転落死したようだ。警察の依頼を受け、犯罪社会学者・火村英生とその相棒で作家の有栖川有栖が、捜査に協力する。★犯行が行われたのが深夜の動物園ということで、容疑者は限られたが、決定的な物証に欠けた。残されたのは被害者の手に握られていた紙片だけ。それには、動物の名前が羅列してあった。★火村と有栖川はこの暗号の解明に...有栖川有栖「動物園の暗号」
★のんびりとした週末。天気は下り坂で、明日は雨が降るらしい。今年の桜も見納めか。★今日は、彩瀬まるさんの「骨を彩る」(幻冬舎文庫)から「ばらばら」を読んだ。主人公は二児の母親。彼女は今、仙台に向かう長距離バスに乗っている。折しも雪が降りだした。★彼女は4回、姓を変えた。最初は実父の姓。7歳の頃、両親が離婚し、母の旧姓を名乗るようになった。12歳の時、母親が再婚し新しい父親の姓を名乗る。そして、結婚して今の姓になった。★こう見てくると、女性にとって姓とは何なのかと考える。古い「家」制度の名残なのだろうか。★女性は今、7歳の息子との接し方に悩んでいる。意識はしていなかったが、表情が険しくなっていたらしい。「おかあさんがこわい」という息子の言葉はショックだった。彼女は夫と話し合い、夫は彼女に、数日旅することを勧...彩瀬まる「ばらばら」
★行きつけのパン屋さんのご主人と、昨今話題の消費税減税について雑談をした。ご主人曰く、いっそのこと消費税を0にして、それで当然のこと歳出ができなくなるから、そこで国民の判断に委ねればとのこと。★随分と大胆な提案ではあるが、政治家の政争よりかは実感が伴う。中途半端に税率をいじるとレジ一つの修正も大変だ。それも時限付きとなるとどうするのか。政治家が無責任な発言をするほど現実は甘くない。★給付か減税か、給付と減税のセットか、それとも何もせずか。この決断が政権を左右しそうだ。★それはそうと、関税をめぐる米中の対立は、熱い戦争の前哨戦とも思える。困った時代になってきた。★さて今日は、阿刀田高さんの「消えた男」(角川文庫)から「姉弟」、安部公房さんの「R62号の発明鉛の卵」(新潮文庫)から「鍵」を読んだ。★「姉弟」は...安部公房「鍵」
★世界経済は大混乱。原因はトランプ大統領。世の中がおかしくなりつつある気がする。★日本では政府・与党の一部が給付金に前向きとのこと。選挙を目前に、消費税減税の代替案ということか。そもそもが国民の税金。「給付します」と政治家が自慢げに語るのも何か筋違いな気がする。★減税はありがたいが、その前に国民健康保険料を下げて欲しいものだ。★さて今日は、青山文平さんの「つまをめとらば」(文春文庫)から「つゆかせぎ」を読んだ。★江戸時代。旗本の家に勤める下級武士が主人公。彼の父親は、藩と農民の板挟みになって、仕えていたお家を出奔し、何とか今のお家に仕事を得た。目立たず真面目に。父親の生き方を間近に見て、彼もまたそのように生きていた。★そんな彼が、どうしたわけか美貌の誉れ高い女性に見初められ結婚。周囲の羨望の的となったが、...青山文平「つゆかせぎ」
★晴天。近隣の中学校は入学式。制服を着て一段と大人びた子どもたち。一歩一歩人生の階段を昇っていく。★昨夜は、映画「侍タイムスリップ」を観た。最近、タイムスリップモノがよく目につく。「またか」と期待せず観始めたが、想像をはるかに超えて良かった。劇中劇の監督が「命を懸けてるんだ」というセリフを吐く場面があるが、低予算ながらこの作品に懸ける監督を始めスタッフ、キャストの意気込みが感じられた。★看板俳優と宣伝だけの空疎な映画が多い中、低予算ながら骨のある作品だった。監督が宇治市の隣、城陽市の出身だというのにも親しみを感じた。★さて今日は、青山七恵さんの「ひとり日和」(河出文庫)から「出発」を読んだ。地方から上京し、新宿の企業で働いている男性が主人公。28歳になり、何かを変えたくて、会社を辞めようとしている。とはい...青山七恵「出発」
★昨日と一転して株価は高騰。乱高下のマネーゲームの様相だ。今、今年の漢字を選ぶとすれば「米」だろうね。★小中高ともに新学期が始まり、入塾の問い合わせが増えてきた。次の課題は、ゴールデンウィーク対策と中間テスト対策だ。英検の受付も始まる。★今日は、湊かなえさんの「ポイズンドーター・ホーリーマザー」(光文社文庫)から「ポイズンドーター」を読んだ。★今は女優として活躍する主人公。彼女の母親は娘に言わせると「毒親」。友人関係や将来の職業など、娘の生活をすべて支配しようとする。★父親は彼女が3歳の時、交通事故で亡くなり、母親は一人で娘を育てた。その自負と見栄が、そうさせているのかも知れない。★よく言えば娘想いの母親だが、当の娘にとってありがた迷惑。とはいえ、自分で稼げるまでは母親に従わざるを得なかった。進学のため上...湊かなえ「ポーズンドーター」
★週明けの東京株式は大暴落。金融市場が落ち着くまで、企業の設備投資は鈍るかな。このまま景気は冷え込むのか。スタグフレーションの始まりか。★昨夜は映画「殺人の追憶」を観た。1980年代後半、韓国の田舎で起こった連続女性殺人事件をベースにしたもの。拷問など当時の警察の取り調べは残酷だが、それでも犯人は捕まらない。結局、犯人は「普通の人」ということで、刑事(ソン・ガンホさん)のアップで終わる。すっきりしない終わり方だが、それが狙いか。★さて今日は、渡辺淳一さんの「光と影」(文春文庫)から「猿の抵抗」を読んだ。最初、表題から実験動物のことかと思ったが、そうではなかった。★主人公の男性は梅毒で神経が侵されている。生活保護を受けるほど困窮していたが、「学用患者」ということで無料で大学病院に入院している。「学用患者」と...渡辺淳一「猿の抵抗」
★佐久間亜紀さんの「教員不足」(岩波新書)を読んでいる。近い業界だけにかえって敬遠しがちなのだが、昨今の教員不足は深刻で、その原因を探るべく読み始めた。★読み始めて10ページ。深刻な現場のため息を聞いて、あらためてびっくりした。ある小学校は、臨時免許の非正規教員が小学6年生の担任をもたされたという。荒れのあるクラスで正規の教員が担任を敬遠した結果だという。大変な担任業務の上に自らの教採(教員採用試験)対策と涙ぐましい努力が描かれていた。無事に全員卒業にこぎつけたというから、まずは良かった。★またある教員は研究主任を担当していた。本来なら担任を免除されるが、たまたま同僚教員が産休に入ったため担任を兼務することに。さらには心を病んで休職した教務主任の仕事も担う羽目に。「今日がまだ木曜日であることに絶望していま...連城三紀彦「指飾り」
★トランプ関税を受けて、世界中で株安。ニューヨークのダウ平均株価も史上3番目の下げ幅だという。週明け、「ブラックマンデー」の再来となるのか。★日本でも選挙戦を前に、消費税減税の声が高まっている。減税はありがたいが、結局は借金の先送りにならないか。ある専門家が数年後に日本経済が行き詰まると言っていたが、現実になるのか。小惑星が地球に衝突する確率も再び2%台になったとか。まだ今世紀に入って25年というのに、世紀末の様相だ。★国破れて山河在り。世相がどうあれ、春が来れば桜は咲く。楽観的に生きよう。今この時を楽しんで。★さて今日は、横山秀夫さんの「動機」(文春文庫)から「逆転の夏」を読んだ。★あるエリート営業マン。魔が差したのか、思い上がっていたのか、妻が出産のために帰省中、女子高校生と1回きりの肉体関係をもった...横山秀夫「逆転の夏」
★春期講座が終わった。春は新塾生を中心に9日間。それぞれ新学年に向けて復習・予習に頑張った。いよいよ来週から新学期が始まる。子どもたちが学校に行っている間が、塾にとっては一休み。★アメリカ、トランプ大統領の政策で世界経済が大混乱。日本経済新聞の東証の株価を見ているととてもスリリングだ。結局、終値は昨日より1000円弱のマイナスだったが、一時は1500円まで下がった。為替も波乱気味だ。★先の世界大戦も背景には1929年からの世界恐慌がある。大きな世界史的なうねりの中で、一個人に何ができるのか。どのように生き延びればよいのか、考えさせられる。★隣国、韓国も分断が深刻だ。★そんな世相はさておき、今日はほっこりした小説。向田邦子さんの「思い出のトランプ」(新潮文庫)から「男眉」を読んだ。1人の女性を中心に家族模様...向田邦子「男眉」
★大学の入学式だったそうで、塾生のお母さまがラインを送ってくださった。その学校は、私の母校(大学院)でもある。丘のふもとに咲く桜が美しかったが、今日は満開だっただろうか。★2021年に亡くなられた師匠、堀内孜先生の著作集が送られてきた。全4巻。第1巻は公教育論・学校論、第2巻は教育行政論、第3巻は学校経営論、第4巻は教師教育論。生前の先生の著作が網羅されている。刊行委員会の方々のご尽力に感謝申し上げたい。★かつて20代だった私たち教え子も、もはや還暦、古希の歳となる。月日は駆け足で過ぎていく。★さて今日は、宮下奈都さんの「遠くの声に耳を澄ませて」(新潮文庫)から「どこにでも猫がいる」を読んだ。マンションに帰った女性。机の上の葉書には「どこにでも猫がいます」と書かれていた。★女性は20歳の頃、恋人とイタリア...宮下奈都「どこにでも猫がいる」
★春期講座は順調に進み、残りあと2日となった。新年度の授業も少しずつ動きだした。道路わきの桜も一気に花を開いている。★今日は、朱川湊人さんの「花まんま」(文春文庫)から「摩訶不思議」を読んだ。舞台は大阪の下町。通天閣の近く。話し手は小学生の男の子。彼の面倒をよく見てくれた叔父が突然亡くなった。酔っぱらって歩道橋から落ち、打ちどころが悪かったようだ。★葬儀が終わり、火葬場を目前に霊柩車が動かなくなった。その上、男たちが力づくで動かそうとしてもビクともしない。★実は、叔父には3人の彼女がいた。10年ぐらい同棲しているガラモン(ウルトラQ参照)のようなカツ子さん。叔父が行きつけのスナックの、ちあきなおみに似た感じのカオルさん。そして、ダンゴ屋に勤める、まだ20歳そこそこながらグラマーなヤヨイちゃん。★霊柩車が動...朱川湊人「摩訶不思議」
★年度末。何となくバタバタしながら月日が過ぎていく。ふとテレビを見るとコメの話題。「消えた23万トン」だという。投機目的で誰かが抱えているのか。そもそもが農水省が把握している生産量が違っているのか。謎だらけだ。★12年に一度の東京都議選、参院選が行われる年。政府は「強力な物価対策」を行うそうだが、はたしてどれほどものか。トランプ大統領の自動車関税の影響か、東京の株価は大きく値を下げている。トランプ恐慌になってしまうのか。★そんなことを考えながら、東野圭吾さんの「白鳥とコウモリ下巻」(幻冬舎文庫)を読み終えた。この作品も面白かった。特に下巻の中盤からは一気読みの勢いだった。★東京である弁護士が刺殺された。容疑者はすぐに浮かび上がり、自供を得て早々に事件は解決かと思われた。ところが、容疑者の息子と被害者の娘が...東野圭吾「白鳥とコウモリ下」
★春の甲子園が終わった。以前は4月上旬までやっていた気がする。好天にも恵まれたか。いよいよ桜前線が急上昇。新学期、入学式の春が来る。★塾の方は、新年度に備えて時間割の組み換え、教室割、テキストの手配など忙しい。1年が終わるとまた1年。2025年度も頑張らねば。★さて今日は、乃南アサさんの「禁漁区」(新潮文庫)から「免疫力」を読んだ。組対の警察官が懇意にしている組事務所を訪れた。昔気質の組長から姪っ子が白血病で、可愛そうでという話を聞き、ある薬を紹介してやる。★警察官の息子も悪性の病気で、一時期は覚悟を決めたが、ある薬を試したところ回復したと話したからだ。★最初は親切心からだった。組長の姪っ子も徐々に回復に向かっているようで、それはそれで良かったのだが、組長はその薬を他にも紹介してやりたいと言い出した。人助...乃南アサ「免疫力」
★好天の後の寒気。急激な温度差に体が悲鳴を上げそうだ。春期講座4日目。前半戦が終了といったところ。退塾する子、新たに入塾する子。この時期は人の行き交いが多く慌ただしい。★さて今日は、伊坂幸太郎さんの「死神の精度」(文春文庫)から「吹雪に死神」を読んだ。吹雪に埋もれるかのような山荘に集まった人々。ほぼ密室状態で、連続殺人が起こる。★よくあるシチュエーション。名作「オリエント急行殺人事件」へのオマージュともとれる。本作の面白さは、このオーソドックスな物語に死神の視点を入れているところだ。★物語を読んでいくと、死神の方が善人に思えるから不思議だ。本当に恐ろしいのは人の方かも知れない。☆今期のテレビドラマ。「相棒」は別格として、「ホットスポット」と「アイシー」が面白かった。☆「ホットスポット」は、宇宙人、未来人、...伊坂幸太郎「吹雪に死神」
★春期講座2日目。今年は朝9時から12時までの午前中だけ。それでも、夜型の生活から朝型への切り替えは辛い。数日もすれば慣れてしまうだろうが。★ここ数日の陽気は心地よくもあるが、身体が馴染まない。今年は花粉症の症状が厳しい。年のせいだろうか。★さて、なかなか米の価格は下がらず、米に限らず、物価高に閉口する日々だが、終戦直後のことを思えば(実際に経験したわけではないが)、極楽のようなものだろう。★浅田次郎さんの「帰郷」(集英社文庫)から表題作を読んだ。終戦直後、体を売ってその日の暮らしを支えている女性。復員兵らしき男性が彼女に声をかけた。★カネはあるが、邪な気持ちはない。ただ話を聞いて欲しいと男は言う。女性は奇妙な男だと思ったが悪い人ではなさそうだ。宿で男の話を聞いてやることにした。★男は生い立ちから、召集さ...浅田次郎「帰郷」
★近隣の小中学校は今日が終業式。「あゆみ(成績表)」はどうだっただろうか。明日からの春休み、事故なく過ごしてほしいものだ。塾では春期講座が始まる。★さて今日は、柳広司さんの「ジョーカー・ゲーム」(角川文庫)から「幽霊」を読んだ。★日中戦争が泥沼化する昭和15年頃。陸軍参謀本部は、皇紀2600年の記念祝典で爆弾テロが起こるとの情報を得た。どの集団がこの計画を立て、実行しようとしているのか。背後にイギリス総領事の影がちらつき、その真偽を探るため、スパイ組織「D機関」が動き出す。★D機関のエージェントはテーラーに勤める蒲生次郎という人物になりすまし、総領事の公邸に入り込む。総領事は白か黒か。この判断を間違えば、日英間の外交問題、更には戦争にも発展しかねない。★物証を得るため、ある夜、蒲生次郎は領事館に忍び込む。...柳広司「幽霊」
★今日も好天、洗濯日和。朝は早めに起きたのに、ボーっとしている内にもう夕方が迫っている。★今日できたこと。洗濯、風呂のカビ掃除、春期講座の予約表作成、昼食の買い物。これだけかぁ。★これからすべきこと。明日の授業の準備。春期講座の準備。新年度に向けた問題集の入れ替え。今年は中学校の教科書が改訂になったから、すべて入れ替えだ。少しずつ衣替えもしなければ。★今日は、宮本輝さんの「真夏の犬」(文春文庫)から表題作を読んだ。昭和37年の大阪が舞台。主人公は少年。彼の父親は事業を興しては失敗し、借金まみれの日々が続いている。それがどういう風の吹き回しか、父親が大金を持って帰ってきた。★知り合いがカネを出し合い広い敷地を借り、そこに解体のために廃車をプールする仕事を見つけたという。久々に輝く夫に、主人公の母親も幸せそう...宮本輝「真夏の犬」
★雲ひとつない青空。桜の蕾はまだ堅そうだが、春が来た。今日は来訪者もなく、のんびりとした1日。★百田尚樹さんの「幸福な生活」(祥伝社文庫)から表題作を読んだ。★娘が結婚を前提につきあっている男性を家に連れてくるという。その到着を待つ夫婦。結婚して26年。それぞれの日々を振り返っている。★妻は結婚と交通事故を節目に専業主婦となり、夫は信用金庫で大過なく30年過ごしてきた。2人の子どもにも恵まれた。ささやかながら幸福な日々を送っている。★夫には一つだけ妻に言えない秘密があるが、それも彼の人生の彩のようだ。★ここまでは、昭和のホームドラマを見るようなのどかさだ。ところが、最後のどんでん返しにハッとする。★「クレヨンしんちゃん」のしんちゃんはすでに死んでいるとか、「ドラえもん」は植物状態ののび太の夢だという都市伝...百田尚樹「幸福な生活」
★受験が終わり、時間的にはかなりゆとりがあるのに、こまごまとした仕事が相次ぎ、腰を据えての読書ができない。★今日は、川上弘美さんの「神様」(中公文庫)から「河童玉」を読んだ。ファンタジーな物語。★主人公と友人のウテナが寺で精進料理を食べた。ビールに酔ったのか、寺の柱にもたれてうつらうつら。眼前には、庭の池が広がっている。★その池から、声が聞こえた。やがて姿を現した。河童であった。その河童はウテナに恋の悩みの相談に乗って欲しいという。★主人公とウテナの二人は、河童に導かれ池の中へ。河童の家に着いた。河童が言うのに、長年連れ添っている女河童との夜の営みが最近うまくいかないらしい。★河童の世界で万病に効くという河童玉の座ってみても効果がなく、途方に暮れているという。★ウテナはこの河童にご託宣を述べるのだが・・・...川上弘美「河童玉」
★天気の移り変わりが速くなった。温暖の差も大きい。寒さ暑さも彼岸までというが、さてどうやら。そもそもがこの「彼岸」は旧暦かな。★高校の合格発表が終わり、大学、高校ともに全員、進学先が決まった。昨日は小学校の卒業式。年々派手になるのが気がかりだが、女の子たちの袴姿が美しい。入学から6年。あの小さかった子どもたちが成長した姿に、親御さんたちの感激も一入だったらしい。★さて今日は短い作品。村上春樹さんの「カンガルー日和」(講談社文庫)から「彼女の町、彼女の緬羊」を読んだ。★かつて中学、高校と神戸で共に過ごした同級生。今は東京、北海道と別れ、職業も作家、旅行代理店と違っている。物語は作家の主人公がその友人を北海道に訪ねた話。★旅先のホテルで観たテレビ番組。それはローカル局のローカル番組。町の広報のような番組だ。減...村上春樹「彼女の町と、彼女の緬羊」
★決まった予定がなく、久々にのんびりとした週末。★今日は、中村文則さんの「世界の果て」(文春文庫)から「ゴミ屋敷」を読んだ。★妻が不慮の事故で亡くなった30代の男性。あまりのショックでか意識を失い、動けなくなった。回復の兆候を見せない患者に病院は困り、各科をたらい回しした後、たった一人の身よりである、彼の弟に引き取ってもらうことにした。弟も兄の世話に困り、親の遺産を使ってヘルパーの女性を雇うことにした。★そんな男性がある日目覚める。訳の分からない言葉を発し、鉄くずを集めては何かオブジェのようなものを作り始めた。困惑する近隣住民たち。★そのオブジェもやがては崩れ・・・という話。★ある日突然、予期もしない状況に陥るといったカフカの「変身」のような始まり。その後は、安倍公房作品のような不条理感が漂う。★男は何を...中村文則「ゴミ屋敷」
★近隣の中学校は今日が卒業式。好天に恵まれて良かった。感動的な式典だったらしい。★さて今日は、夏樹静子さんの「いえない時間」(光文社文庫)から「熱い骸」と「二つの炎」を読んだ。どちらも10ページ程度の掌編小説。★「熱い骸」は、51歳の夫が寝室で亡くなっているのを妻が発見する。司法解剖の結果、致死量の睡眠薬が検出された。果たして、間違って大量に服薬したことによる事故死なのか、それとも・・・、という話。★「二つの炎」は、同じベッドの上で、夫は妻が亡くなっているのを発見する。喘息の発作が起こったらしい。夫には他に愛人がおり、多額の借金もしていた。そこで夫はあるトリックを使う。★年間の婚姻件数は約49万件。そして離婚件数は、約19万件だという。籍を残したままの別居や家庭内別居を含めれば、この数はさらに増えるだろう...夏樹静子「二つの炎」ほか
★南木佳士さんの「ダイヤモンドダスト」(文春文庫)から「長い影」を読んだ。★タイ国境地帯、クメール人の難民キャンプから帰国した医療スタッフの忘年会の様子。★たぶん、どこの難民キャンプもそうであるように、劣悪な環境に人々は置かれている。外国から医療スタッフが送られてはいるものの、ヒトもモノも不足している。野戦病院に近い。それに、熱帯の気候は温暖化地方からのスタッフには厳しすぎる環境だ。★何はともあれ、彼らは無事に任期を終え帰国した。★主人公の医師もその一人。一次会が終わった後、スナックで飲んでいると、医療スタッフだった一人の女性が隣に座り、絡みだした。彼女は現地での医療について不満を述べる。酒も回りだしもはや泥酔。何とか寝室まで送り届け、自らは大浴場につかっていたのだが、そのとき・・・という話。★短篇だけれ...南木佳士「長い影」
★確定申告書を提出。今年もe-Taxは挫折した。税務署は意外と空いていた。これもe-Taxの恩恵か。★定額減税の記入欄を見過ごしていたので指摘され、書き直した。ともかく減税はありがたい。(いつか増税になるだろうが。いや物価が上がった分、消費税として支払っているということか)★さて今日は、永井龍男さんの「青梅雨」(新潮文庫)から「名刺」を読んだ。短い作品。★印刷所を経営する男。資金繰りに窮している。そんな折、かつて商業学校の同級生が金融機関を紹介してくれるという。★あまりにうまい話。金融機関の支店長にも会い、融資はしてもらえそうだが、どうやら不正融資のからくりがあるようだ。★気は進まないが、支払いが苦しい。主人公が思い悩んでいる時、警察署から知らせがあり、仲介してくれている同級生が死んだと知らされる。★どう...永井龍男「名刺」
★確定申告の資料が全部そろった。あとは申告用紙に記入するだけ。★さて今日は、重松清さんの「ナイフ」(新潮文庫)から「キャッチボール日和」を読んだ。★元甲子園をめざした2人。地方大会ベスト4まで進んだ。高校卒業後はそれぞれの道に進んだ。それが団地に住むようになって再会。家族ぐるみの交流が始まった。★二人には、同い年の子どもが生まれた。1人は男の子で、一人は女の子。不慮の事故で女の子の父親は亡くなり、男の子の父親が父親代わりを努める。父親は息子にも野球を勧めるが、息子は運動が苦手。性格も内気なためか、学校でもいじめられる存在に。★あまりのいじめに、心を病み、学校へも行けなくなった。父親は「キアイとコンジョウ」だと諭すが、それだけではどうにもならない。いつしか父と息子の関係は冷えるばかり。★物語は女の子の語りで...重松清「キャッチボール日和」
★大学入試は全員合格。高校入試は試験が終わって結果待ち。半年続いた「土日特訓」も終わり、一応のんびとした週末になった。(心の隅で「確定申告」が気になっているが)★今日は、月村了衛さんの「虚の伽藍」(新潮社)を読み終えた。直木賞候補にもなった大作だ。★時代はバブル期前後。舞台は京都。京都駅周辺の再開発をめぐり、さまざまな利権が牙をむいている。★主人公は、日本を代表する仏教宗派に属する若い僧侶。裏社会と手を組んだ教団の体質を変えるため、自ら教団内の権力を握ろうとする。位が上がるにつれて、自らも裏社会とのつながりを深くする。そして遂に頂点に達するのだが、その時初めて自らの過ちに気づく。★政官財の癒着。それに群がる裏社会の面々。この辺りはいつもながらのことだが、これに宗教界が組しているというのが京都らしい。架空の...月村了衛「虚の伽藍」
★京都府公立高校中期入試がいよいよ明日に迫った。今年も1年が終わる。いろいろあったけれど、あっという間の1年だった。うちの塾生、今年は15人が高校入試に挑んでいる。すでに11人が決まっているので、残る4人が明日受験する。みんな、頑張れ!★さて今日は、中上健次さんの「十八歳、海へ」(集英社文庫)から「隆男と美津子」を読んだ。隆男と美津子と話者である男性(ミックネームはボス)は、みんな18歳。ボスは予備校生。隆男と美津子は何をしているのかわからない。ただ薬に溺れているようだ。★そんな隆男と美津子が考えた新しい仕事。それは「心中未遂業」というものだ。形の変わった美人局というところか。二人は過去の成功例を上げ、とらぬ狸の皮算用。★ある日、ボスのところに病院から連絡が入る。病院に行くと、隆男と美津子が致死量の薬を飲...中上健次「隆男と美津子」
★京都府公立高校中期入試の志願状況がやっと発表された。一見して公立離れの深刻さを感じる。特に、偏差値で中の上レベルの高校と底辺層の高校が不人気だ。中位層はそのレベル(オール3レベル)に属する生徒が多いから、何とか競争率1倍を保っている。★中の上位層の公立高校は私立との競争に苦戦し、下位層はそのイメージ(不良が多いとか、教員の面倒見が悪いとか)で、どうせなら私立高校へと行く生徒が目につく。★高校無償化が実現され、私学志向は更に強まりそうだ。公立高校はどこに生き残りの道を見つけるのか。★さて今日は、山田宗樹さんの「黒い春」(幻冬舎文庫)を読み終えた。単行本が刊行されたのが2000年。当時だったらフィクションに過ぎなかったが、コロナ禍を経験しているだけに、リアルに読めた。★ある日、何の予兆もなく、大量の黒い胞子...山田宗樹「黒い春」
★私は若い頃、ジャーナリストにあこがれていた。私は書くことが好きだった。中学生の頃、何本かのSF小説を書いた。成長するにつれてフィクションよりもノンフィクション(ルポルタージュ)に興味を持った。そんな折、沢木耕太郎さんの「テロルの決算」を読んだ。★沢木さんは、当時、「ニュージャーナリズムの旗手」と呼ばれていたような。★そんな時代に読んだのが。「紙のライオン」(文春文庫)。1987年に一度読んでいる。★「ジャーナリズム」「書くこと」について述べている。前半では、「さまざまな『金閣』」が面白かった。水上勉の「金閣炎上」「五番町夕霧楼」、三島由紀夫の「金閣寺」を読み比べている。主人公である金閣に火を放った僧の捉え方から、虚構と非虚構が考察されていた。★後半では、「匂いと挿話」が面白かった。レッドパージで諸先輩が...沢木耕太郎「紙のライオン」
★京都府公立高校中期試験の出願状況は遅くとも3月3日までに公表される。今のところ発表がない。週末が挟んだからか、それとも単にホームページへのアップが遅れているのか。競争率の高低が合否に大きく影響する。気になるところだ。★さて今日は、東野圭吾さんの「白鳥とコウモリ」(幻冬舎文庫)から上巻を読み終えた。★ある弁護士が殺された。容疑者はすぐに逮捕されたが、その動機は既に時効となった殺人事件が関与しているという。この事件ではある男性が逮捕され、獄中で首をくくった。今回の容疑者はこの男性の遺族が営む小料理屋をしばしば訪れ、何かと援助をしていたという。★被害者の家族と加害者の家族。そして、容疑者の自白は本当なのか。それぞれの遺族が腑に落ちない。そして物語は下巻へと続く。★東野作品は読みやすい。そして情景がわかりやすい...東野圭吾「白鳥とコウモリ上」
★ドラマ「ホットスポット」が人気だという。富士山麓のビジネスホテルに勤める女性、清美。ある夜、彼女は車にはねられたが無傷に済んだ。ホテルの先輩スタッフ、高橋が救ってくれたようだ。でも、どうやって。高橋は内緒にすることを条件に、清美に自分が宇宙人(正確には宇宙人の父親と地球人の母親とのハーフ)であると告白する。とはいえ、清美は幼なじみにこのことを話してしまう。★大きな事件は起こらないが、じわじわと笑いがこみあげてくる。脚本はバカリズムさん。自然なせりふ回しと演技が良い。★さて、富士山ということで、今日は田口ランディさんの「富士山」(文春文庫)から「樹海」を読んだ。★小中一貫校の同級生3人が、卒業旅行として、富士山の樹海に入る。高校はみんな離れ離れになる。この場限りのこととして、それぞれが秘密の話を暴露する。...田口ランディ「樹海」
★3月になった途端、一気に春になったような温かい1日だった。明日からは天気が崩れそう。季節がまた一歩動き始める。★「確定申告をしなければ」と焦りながら、やる気が起こらない。今年も締め切り間際までもつれ込むのか。中学3年生の土日特訓は明日で終わり。今年度もあとわずかだ。とはいえ、すぐに次年度の募集が始まる。昨日今日と、新聞販売店にチラシを持ち込んだ。来週には折り込まれる。新聞購読者が激減し、チラシの効果も激減したが、口コミ以外では折込しか手段がない。★さて今日は、吉田修一さんの「熱帯魚」(文春文庫)から「突風」を読んだ。★金融商品を扱う会社に勤める主人公。久々に長期の休暇をもらって、千葉の九十九里浜の民宿でアルバイトを始める。そこで出会った、不思議な奥さんとの日々が描かれていた。★30そこそこの主人公。奥さ...吉田修一「突風」
★中学校の学年末テストが終わった。3月7日の公立高校中期試験が終われば、塾の1年が終わる。今年もいろいろあったが、なんとか乗り切れそうだ。★昨日の「永遠の0」に続き、今日は城山三郎さんの「逃亡者」(新潮文庫)から「えらい人」を読んだ。★時代は戦時中、主人公は旧制中学校の生徒である。各校には将校が配属され、軍事教練の外、気にいらないことがあると生徒に鉄拳制裁を繰り返している。将校の肩書は中尉。当時は校長でさえ、軍には逆らえない。★主人公はこの中尉から何度か制裁を受けた。この将校を憎みながらも、カッコよさも感じていた。軍国主義は彼らにも浸透していたのか。★主人公は不祥事を起こし、姉が中尉のもとに謝罪しにいく。そこで何かがあったようだ。主人公の処分(退学)はうやむやになったが・・・。★やがて、この中尉は戦場で亡...城山三郎「えらい人」
★世界がきな臭い。アメリカは保護主義に走り、ロシアや中国と組んで、世界分割競争を繰り広げるのではないかとさえ思える。★世界のパワーバランスが揺らぎ、ヨーロッパ諸国での右翼台頭も気がかりだ。第3次世界大戦が近づいているのではないか心配だ。日本は幸運にもこの80年間、大きな戦争に巻き込まれることはなかったが、この時代がやがて歴史家から「戦間期」と呼ばれることがないように祈りたい。★今日は百田尚樹さんの「永遠の0」(講談社文庫)を読み終えた。想像以上に感動した。★主人公の男性は、ジャーナリストを目指す姉のアシスタントとして、特攻隊員として亡くなった祖父のことを調べ始める。祖父母の間には一人娘がいた。それが主人公の弟姉の母親である。祖父が戦死した後、祖母は他の男性と再婚した。二人は義理の祖父のことを気にしながら、...百田尚樹「永遠の0」
★かつて、高度経済成長を実現させ、経済大国にのし上がった日本の強さは、終身雇用、年功序列といった日本型経営にあると言われた。★確かに先進国に追いつくためにはそれは効果的だったようだ。海外の斬新な技術をうまく応用し商品化する。日本人は器用だった。「24時間働けますか」といったモーレツ社員の奮闘もあった。★かつての企業戦士ももはや80代に迫り、うなぎのぼりの経済成長などもはや望めない。技術革新の目まぐるしの中、一世を風靡した企業も10年後、20年後生き残っているかは疑わしい。スーパー業界の凋落や家電メーカの盛衰を見ると、もはや終身雇用など遺物になりつつある。日本の経済を支える自動車産業でさえ、この先は不透明だ。★業態改革、経営の集約化。力強い言葉の背景には大規模なリストラが伴う。★今日は、垣根涼介さんの「君た...垣根涼介「君たちに明日はない」
★3連休最終日。とはいえ、塾は平常通り営業中。昼頃まであちこちと積もっていた雪はすっきり解け、日が差してきた。明日は国公立大学の前期2次試験。滋賀まで受験に行く生徒がいる。交通機関は大丈夫だろうか。★さて今日は、志賀直哉の「清兵衛と瓢簞」(新潮文庫)から「網走まで」を読んだ。明治43年発表の作品。さすがに言葉づかいは古いが、内容は今でも新鮮だった。★主人公は所用で汽車に乗っている。そこに幼児と乳児、2人の子を連れた女性が乗ってくる。まだ言う事を聞かない幼子。眠りから覚めるとむずかる乳児。二人をあやす母親は大変だ。★そんな合間に母親は葉書を書いている。3人は網走に向かっているという。汽車が開通しているとはいえ、およそ1週間近くの長旅だ。★なぜ母子はそんな旅の途中にあるのか。物語は何も語らない。途中駅で主人公...志賀直哉「網走まで」
★3連休。とはいえ、学年末テストが近づいているので連日テスト対策。★今日は、倉橋由美子さんの「パルタイ」(新潮文庫)から「貝のなか」を読んだ。昭和35年発表の作品。この時代の作品は、理屈と感情が入り乱れていて、なかなか面白い。★主人公の女性は大学に通うために上京した。学生寮に住むが、6畳一間に4人の女子学生が住むといった過酷な環境だった。「貝」とは直接的にはこの寮(この部屋)のことを言っているようだ。★主人公には「革命党」を信奉する(まだ入党を認められていない)彼がいる。彼は時流ながらにマルクス=レーニン主義に酔っている感じだ。彼女は彼の話を聞き流しながら、あまり関心はないようだが「国家と革命」などを読んだりしている。★彼女は同居人を、イクラ、タラコ、スジコと呼ぶ。女臭さ(あるいは動物臭)漂う部屋の描写が...倉橋由美子「貝のなか」
★沢木耕太郎さんの「紙のライオン」(文春文庫)に収められている「完成と破壊」で、吉村昭さんの「羆」が紹介されていた。★吉村昭さんの「羆」(新潮文庫)から表題作を読んだ。銀九郎は熊撃ちの名人だった。彼が山に入ることを知ると、他の猟師はその山に入るのをあきらめたという。★ある日、銀九郎は子熊連れの母熊を仕留め、子熊も里に持ち帰る。最初は子熊を売るつもりであったが、孤独な身の上を自らの境遇と重ね合わせ、彼は子熊に権作という名をつけ飼うことにした。★無口で孤独を好んだ銀九郎だが、親戚の勧めで嫁をもらう。女性の肌を知った銀九郎は熊撃ちをやめ、土産物屋を始める。人当たりの良い女房、ペットの「権作」が人気となり店は繁盛する。★そんな日々が数年続いたが、月日は子熊を成長させ、何があったのか「権作」は銀九郎の女房を殺して逃...吉村昭「羆」
★今日は国木田独歩「牛肉と馬鈴薯・酒中日記」(新潮文庫)から「巡査」を読んだ。★国木田独歩の作品は随分久しぶりだ。高校の国語の教科書で「武蔵野」を学んだ記憶がある。「美文」だと説明されたが、あまり面白い作品だとは思わなかった。★国木田独歩は明治期の作家で、30代で夭折している。「巡査」は、1902年に発表されたというから、独歩30歳頃の作品か。★独歩らしき話者が、ある巡査と親しくなり。巡査の下宿を訪れた時の様子を描いている。★漢字の訓読が面白い。例えば、「懇意になった(ちかづきになった)」「年齢(とし)」「沈黙(むっつり)」「比喩(たとえ)」「憎悪(にくしみ)」「饒舌りましょう(しゃべりましょう)」「手真似(てつき)」など。わずか1ページの中でも多くの読み替えがある。★漢文から和文へ、過渡期だったのかも知...国木田独歩「巡査」
★家族には傲慢、権威主義で、外では上司にヘコヘコ頭を下げているような父親像は、向田邦子さんの「父の詫び状」が印象に残っている。★角田光代さんの「父のボール」(「ロック母」講談社文庫所収)にも、家族としては許しがたい父親が出てくる。★作品は、娘の視点で書かれている。娘や彼女の兄である息子の目から見ると、なんともできの悪い父親だ。身勝手で、自分の想い通りにならなければすぐに切れる。モノに当たり散らしたときなど、後片付けが大変だ。母親も不満を抱えているが、それを言った後の後始末が大変なので、従順を装っている。★その母親も、ポックリ先に逝ってしまった。子どもたちは早々と実家を去り、一人暮らしになった父親。その父親が癌に冒され、死の床に臥せている。もはや意識も混濁し、臨終が身近に迫っている。★他に身寄りもないから、...角田光代「父のボール」
★京都府公立高校の前期試験が終わった。難易度は例年並みということだが、塾生たちは力を出し切れたであろうか。合格発表は25日、火曜日。そして、3月7日の中期入試で今年の戦いは終わる。★この時期何が忙しいかといえば、高校入試、中学1・2年生の学年末テスト、確定申告がドッと押し寄せることだ。これに新年度生募集のチラシづくり。どれも手が抜けない。★この中で一番生産性がないのが確定申告だ。面倒だが仕方がない。1年間の所得税、市府民税、個人事業税、健康保険料がこれで決まる。高校無償化、給食無償化など耳障りの良い政策が目白押し。その一方で、税・社会保険料の負担感はずっしりと重い。★昨夜は映画「茲山魚譜チャサンオボ」(2021年)を観た。何気なく観始めたが、なかなか良かった。19世紀初頭の韓国が舞台。身分ある家柄で、学識...恩田陸「ノスタルジア」
★昨夜は韓国映画「ハント」を観た。全斗煥軍事政権下、韓国各地では民主化を求める運動が活発化し、それに対する安企部の取り締まりも厳しくなっていた。★そんな折、どうやら安企部に二重スパイがいるらしいとの情報が流れる。その解明に国内班の次長と海外班の次長があたることに。この二人が大統領暗殺計画に巻き込まれていく。「ソウルの春」とも関連しているようだが、この二重スパイというのがややこしい。更に、国内班次長と海外班次長が似ているのでやや混乱する。★それはそうとして、アクションシーンは迫力があった。★さて読書は、大沢在昌さんの短篇集「鏡の顔」(講談社文庫)から「ダックのルール」を読んだ。★失踪人捜し専門の探偵、佐久間公が依頼されたのはある女性を捜し出すこと。依頼したのは、日本国籍の黒人男性。傭兵として共に戦った戦友と...大沢在昌「ダックのルール」
★今日はバレンタインデーということで、塾生たちからちょこっとチョコレートをもらった。カカオが高騰しているので、チョコレート製品も高騰している。みんな、ありがとう。★さて今日は、江國香織さんの「ぬるい眠り」(新潮文庫)から「放物線」を読んだ。★大学を卒業して5年。かんちゃんは保険会社に勤め、バイトを転々としていた光一朗はペットショップに就職したという。そして主人公の私は、物書きの仕事をしているようだ。★この3人、数か月か半年単位で会っている。それぞれに仕事を持ち、それなりに恋愛をしているようだが、3人が出会うと学生時代に戻って楽しい時間を過ごせる。★3人の「規則」は、思い出話をしないこと。常に前へと進んでいくこと。★家庭を持ち、子どもができたらこのままの関係が続くとは思えない。でも、こうした仲間が集まって、...江國香織「放物線」
★私立高校に合格したという知らせが、2つ、3つとあった。明日は報告がどっと押し寄せるだろう。★今年は花粉がきついようで、鼻をぐずぐず言わせていると、どうも風邪気も出てきた。風邪の薬は睡眠に勝るものなし。今日は早めに床に入ろうと思う。★鼻かぜ用の薬を飲んで、少々うつらうつらしながら、井伏鱒二さんの「山椒魚」(新潮文庫)から「夜ふけと梅の花」を読んだ。★ある夜ふけ、主人公が歩いていると妙な男に出くわした。その男は顔が血だらけになっていないかと問う。妙な男に関わりたくないと足を速めたが、男はマントの裾を離さない。仕方なく薄暗い街灯に照らして男の顔を見れば、確かにいくつかの傷がある。★男が言うには、消防の男たちに殴られたらしい。男もたいそう酔っているから、何か原因があったのだろうが、それを知ったところでどうにもな...井伏鱒二「夜ふけと梅の花」
★ウィークデイに祝日が入り込むと、感覚が狂う。今日は水曜日なんだと改めて思う。今週は私立高校の合格発表だ。朗報が次々押し寄せることを期待したい。★さて今日は、伊集院静さんの「三年坂」(講談社文庫)から「春のうららの」を読んだ。★娘が嫁ぐ数週間前。バッサリと髪を切って母親を驚かせる。娘に数年前亡くなった夫の面影を認めつつ、現代っ子の気風がわからない。★母親は若かったころ、亡き夫との出会いに思いを馳せる。二人とも戦後の混乱期の中、孤児として出発した。東京の料亭で住み込みで働き、そこで二人は出会った。★ある日、店の主人に2日間の休みをもらって、温泉などを楽しもうとしたもの、いろいろとアクシデントが重なって、日帰りで東京に戻ってきた話へとつなぐ。★まるで小津監督の映画を観ているように感じた。★どこにでもあるような...伊集院静「春のうららの」
★少し前、近くの高校の国際コースを受験されるという母娘が突然、塾に来られた。中国の方で日本語はほとんどできない様子。英語での会話となったが、私も久しぶりの英会話でドキドキしながら応対した。★それから数回来塾された。「ここぞ」とポケット型の翻訳機を購入し、それでのやりとり。AIの進化は著しい。さすがに固有名詞は難しそうだが、普通の会話はごく自然な文で表現してくれる。それも英語だけではなく、中国語、韓国語はじめ世界の多くの言語に翻訳できるというから優れモノだ。★昨日は試験が終わったと報告に来て下さった。合格されることを願うばかりだ。★さて今日は、石田衣良さんの「スローグッドバイ」(集英社文庫)から表題作を読んだ。2年間同棲した20代の男女がちょっとした行き違いから別れることになったという話。★二人はこの日「さ...石田衣良「スローグッドバイ」
★いよいよ京都の私立高校入試が明日に迫った。さすがに緊張が高まっているせいか、今日も朝から塾生が最後の調整に頑張っている。「あきらめたら、そこで試合終了」(「スラムダンク」安西先生)。最後まで粘ってもらいたい。★彼らを見守りながら、今日は赤川次郎さんの「幽霊列車」(文春文庫)から「凍りついた太陽」を読んだ。★真夏の海で、久々の休暇を楽しむ警視庁の宇野警部と女子大生の永井夕子。二人のいるところに事件あり。(まるでコナンくんのように)。年の差が20歳もあるこのコンビが、事件を解明する。★今回の事件。宇野警部と夕子が出会ったある婦人と3人の子どもたち。平和そうな家族だが、この婦人、柄の悪い男にどうやらゆすられているようだ。そして、この男が殺される。その死因が、真夏だというのに凍死だという。そこで二人の謎解きが始...赤川次郎「凍りついた太陽」
★2032年、1.3%の確率で小惑星が地球に衝突するという。1.3%といえばおよそ77分の1。だだっ広い宇宙空間にあってはかなりの確率だろう。★そんなこんなで、今日は伊坂幸太郎さんの「終末のフール」(集英社文庫)から「籠城のビール」を読んだ。★8年後に小惑星が地球に衝突するとわかって、すでに5年が過ぎた。当初起こったパニックは一段落した。ある者はわずかな希望を求めて逃げて去り、ある者は決められた運命に耐え切れず自ら命を絶ち、ある者は略奪や殺人など反社会的な行動で警察に捕まったり射殺されたりした。★もはや警察も人権を守った流暢な対応をしない。むしろ犯罪者をいたぶることにせめてもの終末の喜びを感じているようだ。★そんなある日、元ニュースキャスターの家に二人の男が押し入った。二人は兄弟で、不幸な事件で妹と母を失...伊坂幸太郎「籠城のビール」
★かつて小学校4年生の教科書(東京書籍)に清水達也さんの「ウミガメのはまを守る」という作品が採用されていた。静岡県御前崎の砂浜に産卵するアカウミガメの様子が描かれていた。★その情景をイメージしながら、今日は伊与原新さんの「藍を継ぐ海」(新潮社)から表題作を読んだ。★本作の舞台は徳島県の小さな漁村。堤防が築かれたためか、かつて産卵に多くのウミガメがやってきたが、今では年に数匹。産卵となれば数年に1度になった。★この年、ウミガメはやって来て、産卵した。大人たちはそれぞれの思惑(例えば町おこしのため)で、産卵場を保護している。ある夜、近くに住む中学生が卵を掘り返し持ち帰った。自らの手でふ化させようとしているようだ。★物語は、この少女を中心に、ウミガメ監視員をしている70代の女性、カナダからAETとして日本を訪れ...伊与原新「藍を継ぐ海」
★猛烈な寒波。とはいえ、気温自体は私が小学生だった頃の方がもっと低かったように思う。温暖化に慣れてしまって(あるいは暖房に効いた環境に慣れてしまって)、寒さがこたえるのかも知れない。★この寒い中、一人の塾生は受験のため東北へと出発した。野球の推薦入試だという。最近は、全国規模で野球選手が移動している。目指すは甲子園。高校の数が多い都市部の学校より、トーナメントで勝ち上がりやすい地方の高校を志望する中学生が目につくようになった。★今入っているクラブチームでまとまって受験に向かうそうだが、無事たどり着けただろうか。★野球ということで、今日はあさのあつこさんの「晩夏のプレイボール」(角川文庫)から「街の風景」を読んだ。★主人公の男性は野球強豪校のエース。2年生の時は地方大会で惜敗したが、3年生の夏、遂に甲子園で...あさのあつこ「街の風景」
★先日、京都文化博物館で開催されている(2月2日まで)「大シルクロード展」に行ってきた。京都文化博物館は元日本銀行京都支店だということで、建物そのものが文化遺産のようだった。★久々の京都市内、それも烏丸御池は行く機会がほとんどなかったので、少々右往左往しながら現地へ。平日の正午頃とはいえ、外国人の観光客の多さが目についた。★「大シルクロード展」は京都府等が主催とあって、なかなかの賑わいだった。チラシの表紙にもなっている「瑪瑙象嵌杯」や仏塔などの埋蔵品。人混みが嫌いなので駆け足での閲覧だったが、仏典の断片などにこれを書写した人に想いを馳せた。★「大シルクロード展」を記念して、映画「敦煌」(1988年)を観た。宋の時代の中国。西方に西夏という国が興り、ウイグルなどの近隣諸国に勢力を伸ばし、宋にも圧迫を加えてい...映画「敦煌」
★少々季節は早いが、浅田次郎さんの「薔薇盗人」(新潮文庫)から「ひなまつり」を読んだ。★主人公は小学6年生の女の子。「お雛様は二月の風に当てなければいけない」という祖母の言葉を信じて、少女雑誌の付録についていた紙製のひな人形をせっせと作っている。★女の子の母親はシングルマザー。夜の仕事に出ているので、彼女は一人アパートで夜を過ごしている。以前は隣に住む12歳年上の男性と懇意にしていたが、少し前に引っ越してしまった。★男性は女の子をまるで娘のようにかわいがってくれた。女の子はこの男性が父親になってくれたらいいなぁと思っていた。ところが男性にとって12歳年上の母親との間に何かがあったようだ。小学生の女の子には大人の事情はわからない。★引っ越したとはいえ、夜を一人で暮らす女の子を心配して、男性は時々訪問してくれ...浅田次郎「ひなまつり」
★寒暖差が体にこたえる。昼の時間が少しずつ長くなっているのに、時の移ろいを感じる。★さて今日は、下村敦史さんの「闇に香る嘘」(講談社文庫)を読み終えた。主人公の男性は満州で生まれた。戦中、戦後の混乱の中で視力を失っている。★中国残留孤児の帰国事業を国が始め、不慮の事故で大陸に残された兄が帰国した。保障のない帰国事業ではあったが、家族の再会に男性の母親は大いに喜んだ。★主人公の男性には孫がいる。腎臓を病み透析を続けている。孫の病を治すには移植しかない。主だった血縁者は誰も適合しなかった。残されたのは帰国した兄。せめて検査だけでもと頼むが、頑なに拒まれる。もしや帰国した男性は本当に兄なのだろうか、と主人公は疑問を持ち始める。★ただでさえ困難な真相解明。目が不自由だと尚更だ。物語は終盤大どんでん返しとなる。☆節...下村敦史「闇に香る嘘」
★中学3年生の学年末テストが終わり、京都の私立高校入試まであと2週間になった。業界の人間にとっては毎年のことだが、生徒たちにとっては最初で最後の高校入試。じわじわと緊張感が高まってきている。★さて今日は、東野圭吾さんの「聖女の救済」(文春文庫)を読んだ。ドラマ「ガリレオ」シリーズで見ていたので、少々駆け足で読み切った。★一見仲のよさそうな夫婦。しかし夫は変わったライフプランをもっていた。妻に子どもができなかったら離婚するというのだ。「子どもが産めない女性には用がないの」かと詰め寄る妻。★そして事件が起こる。妻が旅行中に夫は死んでしまう。毒を盛られたようなのだ。妻も容疑者になったが、旅行中というアリバイがある。このトリックにガリレオこと湯川先生が挑む。★当然ながら、ドラマより原作の方が中身が濃い。中でも草薙...東野圭吾「聖女の救済」
★最低賃金1000円時代、新書の値段も1000円を超えるようになってきた。かつて岩波新書は300円~400円だったから、随分と値上がりしたものだ。そのせいもあってか、ここしばらく新書から遠ざかっていたが、最近面白いテーマを見かけたので買ってみた。★まずは、佐久間亜紀さんの「教員不足」(岩波新書)。最近マスコミをにぎわせる「教員不足」。しかし、それは既に20年以上も前から始まっていた。「はじめに」を読むと、そもそも教員不足とはどういう状況なのか。なぜ教員不足といわれる事態に陥ったのか、小学校定員35人時代に、適正な教員配置について、学校現場の視点から論じているという。★教員の多忙化はいわれて久しいが。ただそればかりが教員不足の原因ではなさそうだ。何もかも押し込められる教育現場。ひっ迫する地方財政の中で控えら...新書3冊
★大学入試共通テスト「国語」で蜂飼耳さんの「繭の遊戯」が出題された。★蜂飼耳さんといってもピンとこなかった。詩や翻訳で活躍されている方らしい。「繭の遊戯」は雑誌掲載だけで単行本になっていない。よくそんなところから探してくるなぁと感心。★数年前まで採用されていた小学校5年生の国語科、光村図書版に「なまえつけてよ」という作品があり、その作者が蜂飼だ。★小学生の春花は、学校からの帰り道、通学路にある牧場のおばさんから、生まれたばかりの子馬のなまえをつけてほしいと頼まれる。なまえをつけるなんて初めて頼まれた春花。いろいろと考えて決めた名前。★次の日、牧場を通ると、おばさんから子馬が売られることを知らされる。がっかりした春花。その春花を転校生の勇太がさりげなく励ます。この勇太の励ましがなかなかおしゃれだ。★異性に関...蜂飼耳「なまえつけてよ」
★いよいよ明日は大学入試共通テスト。そして私立中学の入試だ。結果が出るのは仕方ない。みんな思い存分力を発揮してほしい。★さて、スーパーに行くといつも買っているキャベツの千切り(洗わずにすぐに使えるので便利だ)が減量されていた。値段は変わっていなかったが、実質的な値上げ。とはいえ、品不足といわれると手に入れたくなるのが人情。一袋買ってしまった。★キャベツは1玉500円以上。もはや添え物ではない。ということで、今日は井上荒野さんの「キャベツ痛めに捧ぐ」(角川春樹事務所)から表題作を読んだ。★熟女三人が経営する総菜や「ここ屋」。三人三様に人生の彩がある。今回は江子(こうこ)さんが主人公。かつて暮らしていた夫との結婚初夜。披露宴で疲れた空腹の彼女に、夫が作ってくれたのが「キャベツ炒め」だった。バターでニンニクを炒...井上荒野「キャベツ炒めに捧ぐ」
★昨日は今年度最後の模試。京阪神の私立高校入試まで30日を切った。いよいよ受験本番だ。いろいろあったこの1年もあと少し。月末の英検、来月の漢検。そしてまた新年度の募集が始まる。★授業の合間に荻原浩さんの「月の上の観覧車」(新潮文庫)から「チョコチップミントをダブルで」を読んだ。★一人暮らしの男性がデートのシュミレーションをしている。彼女との初デートかと思いきや、離婚したために離れ離れに暮らし、1年に1度しか会えない娘とのデートだ。★子どもの成長は速い。もうすぐ13歳の誕生日だ。別れた妻は再婚を考えているという。ただでさえ難しい年ごろの娘。元妻が再婚すれば一層疎遠になりそうだ。★男性は苦しい懐具合を気にしながら、ありったけの計画を練ったのだが、娘のリクエストは、昔よく行った小さな遊園地。そこでアイスを食べる...荻原浩「チョコチップミントをダブルで」
★虐待を受けて亡くなる子どもが年間60人に及ぶという。虐待の連鎖も指摘されている。★孤立したシングルマザーがネグレクト(育児放棄)の結果、幼い子どもが亡くなった事件。2010年に大阪で起こった事件を題材にした映画「子宮に沈める」を観た。あどけない子どもたちの姿とその結末に言葉を失う。母親を責めることは容易いが、それだけでは悲劇が繰り返されそうだ。今この瞬間にも孤立に苦しんでいる人がいるかも知れない。★さて、読書は梅崎春生さんの「赤い駱駝」(浅田次郎編「心に残る物語」日本文学秀作選文春文庫)を読んだ。★終戦間近の軍隊の話。主人公が属する部隊に二見という士官がいた。全く士官に不向きな男で、運動はできないし動作も不自然。同僚からは失笑をかっていた。★その日は突然やって来た。終戦。部隊の兵士は、あるも者は悲嘆に暮...梅崎春生「赤い駱駝」
★今朝は雪がちらついたらしい。私が起きた頃には道路にその跡が残っているだけだった。寒い。★小学校は今日から平常授業。帰る時間が遅くなり、塾に来る時間も遅くなる。ちょっと余裕ができた。★今日は、立原正秋さんの「手」(浅田次郎編「心に残る物語日本文学秀作選」文春文庫所収)を読んだ。★あるルポライター、木材加工の現場を取材中、どういうわかか、電動のこぎりで左手の手首を切断してしまう。病院に運ばれ、命には別条なかったが、左手首がつながることはなかった。★周りは気を配っているが、当の本人は意外と平然。まだ現実が受け入れられない様子。★切断された手は保存処理され瓶に入れられている。そして主人公はそれを持ち帰るという。★浅田さんは内面小説を得意とする作家が、新たな手法に挑む姿が印象に残ったという。プロならではの視点なの...立原正秋「手」
★「冬の底冷え」で知られる京都市中。京都新聞によると、かつて最低気温が氷点下は90日以上を数えたが、それが今年はまだ1度もないという。温暖化の影響かと記事は言う。★とはいえ、この週末は今年最大の寒波が襲来するという。週末といえば、大学入試共通テストがある。雪害などの影響がなければよいのだが。★さて読書の方は、荻原浩さんの「月の上の観覧車」(新潮文庫)から「金魚」を読んだ。最愛の妻を亡くした40代の男性が主人公。★二人の出会いは高校生の時。二人は付き合い始める。主人公は大きな夢をもって上京。遠距離で一度は冷めた関係。26歳、主人公が帰省して再会。女性は父親の反対を押し切り結婚する。★主人公は結局、夢破れ、妙なプライドが邪魔をして職を転々。今は新築・リフォームを手掛ける住宅会社の営業職に就いている。結婚してお...荻原浩「金魚」
★昭和39年(1964年)、東京ではアジア初のオリンピックが目前に迫っていた。戦後の復興から20年。オリンピックは老若男女、学生運動をしている左翼学生までが期待する国を挙げての大祭事となっっていた。★そんな中、一人の大学院生がオリンピックを人質にして警察に身代金を要求する。要求が受け入れなければ世界中の多くの聴衆が見ている中で、オリンピックを爆破すると予告して。★警察は彼を確保すべく動くが、公安と刑事の対立、所轄警察官との連携の悪さなどから、2度、3度と逃がしてしまう。そして遂に10月10日。オリンピックの開会式がまさに始まろうとしていた・・・という話。★国家の威信をかけてオリンピックを成功させようとする意気込みが伝わってきた。同時に、実際にオリンピックに伴う東京大改造を行っていたのは、東北などから出稼ぎ...奥田英朗「オリンピックの身代金下」
★まもなく新学期。校長先生が先生の確保に苦慮している姿が目に浮かぶ。教員が足りないという。★マスメディアが「教員の多忙さ」を喧伝した影響もあるが、教員の多忙さは今に始まったことではない。1人当たりの児童・生徒数の推移を見れば、大幅に改善されているし、かつては45人以上の1学級の生徒数も、30人の時代だ。★一定数の教員志望者はいるものの、教員需要が増えているから、定数に対する教採受験者が減っているという側面もある。★確かに、価値観が多様化する中で教員の仕事は難しくなっている。政治や行政はあれもこれもと教育現場に要求し、そのしわ寄せは個々の学校、個々の教員に押し寄せている。英語教育、情報教育、いじめ対応などなど。1人ひとりの児童生徒にきめ細かな対応をしようと思えば、40人はおろか30人学級でも大変だ。それに家...小池真理子「飼育箱」
★YouTubeで野本麻紀さんの「のもと物理愛」を見る。野本さんと物理学者でカリフォルニア大学バークレー校教授の野村泰紀さんが、野村さんの「マルチバース宇宙論入門」について語る4回シリーズが面白かった。★相対性理論や量子力学から導かれる宇宙の話。インフレーション、ビッグバン、マルチバース、泡宇宙など、興味深かった。数式を使わず、グラフや概念図で説明するのは、物理学者にとっては難しかったであろうが、素人にもなんとかわかるように説明されているのがありがたかった。(「ぼやっ」とわかっただけだけれど)★現代物理学は仏教的宇宙観に近づいているように感じた。数式で理論的に解を求める物理学と救いを使命とする宗教では立ち位置が根本的に違っているが、でも全く対立するようには思えなかった。仏教の「空」などまさに「時空」ではな...坂東眞砂子「紙の町」
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。★正月三が日はあっという間に終わり。今年は土日が続くので、多くの企業は仕事始めは6日からか。★郵便料金の値上げが決定打となり、年賀状が激減した。今年で賀状納めという案内も多く頂いた。準備の手間が省けたので楽な気もするが、昭和の風物詩が一つ消える寂しさもある。これもご時勢か。★レコード大賞は、もはやレコードは死語化だし、紅白はほとんど出場者も曲名もわからない。これもご時勢か。★日本テレビの箱根駅伝の放映だけは健在だ。第101回目、伝統のイベントだけあって、人気が衰えない。結局は学生たちが走っている姿を見るだけだが、ついつい見続けてしまう。★この機会にと、三浦しをんさんの「風が強く吹いている」(新潮文庫)を読み始めた。寛政大学という架空の大学。...映画「風が強く吹いている」
★YouTubeで「量子力学」の解説を聞く。素粒子といった微細な(あるいは光やエネルギーといったものの)世界では、私が日常経験しているのとは異なった法則があるという。なかなか理解しがたいが、あらゆるものがあるリズムで振動し、その膨大な集積が(確率的に)私の体や取り巻く環境を形作っているというのは興味深い。★呪文や霊界などといったものは直ちには信じがたいが、物理学がもっと進化すれば、ちゃんとした理屈が付くのかも知れない。私が五感であるいは六感で捉える世界など、大世界のほんの断片なのかも知れない。★オカルトチックな気分になったので、今日は篠田節子さんの「コミュニティ」(集英社文庫)から「恨み祓い師」を読んだ。★老朽化したアパートに二人の老婆が暮らしている。母と娘だというが、もはやいくつなのか周りの者にはわから...篠田節子「恨み祓い師」
★冬期講座4日目。前半戦が終わる。明日、あさっては自習室を開放。家では集中できない受験生に使ってもらう。★今日も短い作品。柚月裕子さんの「チョウセンアサガオの咲く夏」(角川文庫)から「原稿取り」を読んだ。★大御所作家の玉稿を待っている編集者。遅筆の先生に何とか仕事をしてもらって、最終電車で帰り、翌朝出稿しなければいけない。編集長からは「死んでも原稿を貰って来い」と脅迫めいたハッパをかけられている。★今の時代、メール送信やファックスがあるのに、手渡しを頑なに守るのは、大御所の流儀らしい。★時間との戦い。冷や汗もので完成原稿を受け取り、最終電車に飛び乗った編集者だったが・・・という話。★シンプルなストーリーで、軽いオチで終わっている。それはさておき、原稿を巡る物語は松本清張作品を思い起こした。★この週末、奥田...柚月裕子「原稿取り」
★冬期講座3日目。あっという間にクリスマスが終わり、街は正月に衣替えする。★今日は荻原浩さんの「月の上の観覧車」(新潮文庫)から「レシピ」を読んだ。★60歳で定年を迎えた夫を待つ妻。30余年間に書き足したレシピ帳を繰りながら、若い頃の男性遍歴や家庭に入ってからの子育て、夫の味覚との戦い、義母の介護と言った日々に思いを馳せている。★明日から家にいるであろう夫を思い、昼食は冷凍してあるご飯で炒飯をつくろうと思いながら、夫と離婚しようと心に決めている。★夫と共に暮らした30年。それなりに苦楽を共にしたが、このまま生涯を終えることに彼女は抵抗を感じている。★妻に三下り半を突き付けられる夫を思えば同情を禁じ得ないが、これも縁なら仕方がない。★人生は長いようで、振り返ってみれば短いなぁと思った。荻原浩「レシピ」
★クリスマスイブ。朝から冬期講座。昼も夜も授業が入っている。ありがたいことだ。★授業の合間に、東野圭吾さんの「禁断の魔術」(文春文庫)を読み終えた。さすがベストセラー作家の作品。とても読みやすい。★この作品はあらすじを書かない方が良いだろ。湯川先生のガリレオシリーズ。果たして「禁断の魔術」とは。★ドラマ版を観ていたので、福山さん演じる湯川先生と北村さん演じる草薙刑事の息詰まる緊迫感を再び味わえた。ドラマは原作に忠実につくられていた。★東野作品、次は何を読もうかな。「白夜行」とか読みたいがあの太さには抵抗がある。ガリレオシリーズにするか加賀恭一郎シリーズにするか。東野圭吾「禁断の魔術」
★近隣の小中学校は今日が2学期の終業式。うちの塾は明日から冬期講座が始まる。今年は暦の関係で7日間だけ。コンパクトになって、受講者も少なそうだ。少しのんびりさせてもらおう。★今日はイヤミスの女王、湊かなえさんの「贖罪」(双葉文庫)から「フランス人形」を読んだ。期待通りのおぞましい作品だった。★空気のきれいなある田舎町で起こった児童殺人事件。現場に居合わせた4人の小学4年生はそれぞれにトラウマを抱えながら成長している。★「フランス人形」の主人公は4人の内の一人、紗英。彼女たちが住む田舎町ではそれぞれの家が持つ「フランス人形」を見て歩く、「フランス人形」ツアーが子どもたちの遊びだった。★祭りのあった日、その「フランス人形」が何者かに盗まれる。時を同じくして、同級生の一人、エミリが中年の男に連れ去られ、凌辱され...湊かなえ「フランス人形」
★韓国ドラマを見ていると、よく悪霊が登場する。悪霊がヒトに憑依し、殺戮を繰り返す。★日本のあちこちで物騒な事件が相次いでいる。北九州の女子中学生は本当にかわいそうだ。マスメディアは「動機の解明が待ち望まれます」と常套句を発するが、カメラに映る容疑者を見る限り、何ら動揺もなく、動機などなく衝動だけがあったのかも知れない。★さて今日は、奥田英朗さんの「オリンピックの身代金上」(角川文庫)を読んだ。1964年(昭和39年)、アジアで初のオリンピック開催に向け、東京は国を挙げての都市改造に挑んでいた。★戦後の復興を世界にアピールするという触れ込みに、政界、財界、官界はこぞって旗を振るが、実際に高速道路や競技場をつくっているのは、多くの出稼ぎ労働者であった。★開幕が迫るのに、遅れる工期。そんな中、連続爆破事件が起こ...奥田英朗「オリンピックの身代金上」
★中学3年生、学校のクラブ活動は夏の大会で引退になるが、外部のクラブチームに所属している子どもたちは、年末まで練習をしている。クラブ活動が学校外に移行されつつある中、この傾向が広まっていくのだろうか。★さて、少し時間ができたので、久々にFOD(フジテレビの動画配信サービス)で、「全領域異常解決室」を観た。ドラマ「ST」に「スペック」を加味したような作品だった。「スペック」ほどの魅力は感じなかった。★同じくFODでドラマ「ギフト」が配信されていたので観た。1997年の作品。これって、中学生がバタフライナイフを使って起こした不幸な事件のために長年お蔵入りしてたんじゃあ・・・。★第1話から若い頃の全裸のキムタクが登場して度肝を抜かれる。室井滋さん、小林聡美さんの「やっぱり猫が好き」の二人。めっちゃ若い篠原涼子さ...ドラマ「ギフト」
★今年もあと半月。やりたいことはいっぱいあったけれど、やり残したことが多い。人生は束の間。健康寿命はあと何年あるやら。来年は悔いが残らないように燃え尽きよう。★さて今日は、歌野晶午さんの「黄桜の季節に君を想うということ」(文春文庫)を読み終えた。主人公は元探偵見習。知人の依頼を受け、「蓬莱倶楽部」という悪徳企業の犯罪を暴こうとする。★物語はいくつかのエピソードが混在する。1つは探偵見習をしていた20歳ころ。あるヤクザ組織の依頼を受けて、敵対する組織に潜入する。この物語だけでも1篇の小説が仕上がりそうだ。★2つ目は、主人公が70歳となった現在。終盤まで年齢はわからず、もっと若い人を想像していたが、どんでん返しを食らう。どんでん返しと言えば、あちこちに嘘が散りばめられていて、読み追って「ああそうだったのか」と...歌野晶午「葉桜の季節に君を想うということ」
★今年も残り20日。中学校は今週末から、小学校は来週から短縮授業になる。学校が早く終わると、時間を持て余した生徒が早くから塾に来る。授業の準備を早めに終わらせなければ。24日からは冬期講座が始まる。年末で塾をやめる生徒、1月から塾に通い始める生徒。入退塾が活発になってきた。★さて今日は、サイモン・シネックさんの「WHYから始めよ!」(栗木さつき訳、日本経済新聞)を読んだ。ビジネス本、啓発本というところか。★カリスマと呼ばれる人や企業には同じような特徴がある。それは「WHAT」からではなく、「WHY」から始めるところであるという。★キング牧師やアップル、ライト兄弟やケネディを例に挙げながら、「WHY」つまり理念が人を感動させ、信奉者を得るということが書かれていた。★「なるほどなぁ」と感心した。自らの経営を反...サイモン・シネック「WHYから始めよ!」
★アマゾンプライムビデオで映画「シビル・ウォーアメリカ最後の日」を観た。分断された合衆国。カリフォルニア州とテキサス州が分離独立。両州の連合軍がワシントンを目指して侵攻。それをジャーナリストが追うという設定だった。★「分断」という今日的な話題。刺激的な予告編で期待していたが、本編はそれほどでもないように感じた。実際にあった話を基にしているだけに「ソウルの春」の方が面白かった。★今日のニュースでは、シリアが政権崩壊とのこと。パワーバランスが壊れているのか、中東の火種が拡散しそうな勢いだ。★そんな世界的な動きを横目に見ながら、今日は乃南アサさんの「不発弾」(講談社文庫)から「幽霊」を読んだ。いわゆる業界モノ。★あるテレビ局のプロデューサーが主人公。かつてはワイドショーを成功させたが、嫉妬からか、妙な噂が社内に...乃南アサ「幽霊」
★韓国、ユン大統領による「非常戒厳」の発令には驚いた。それがわずか数時間で解除されたのにもまた驚いた。ソウル市民が「何が起こったのか」とインタビューに答えていたが、寝耳に水の出来事だった。★戒厳令と聞けば、日本の場合、「二・二六事件」を思い浮かべる。★韓国の「非常戒厳」は戒厳司令部に権力が集中され、政治活動や報道活動の制限されるという。日本の憲法改正論議の中でも「非常事態条項」が検討されているが、改めてその危険性を感じた。★ということで、映画「ソウルの春」(2024年)を観た。パク大統領が側近に暗殺され、軍事政権ではあるが韓国各地で民主化が進められていた。それは「プラハの春」になぞらえて「ソウルの春」と呼ばれた。★そんな中、チョン保安司令官が陸軍内の秘密結社「ハナの会」と共にクーデターを実行し、独裁的に権...映画「ソウルの春」
★韓国大統領の戒厳令発令には驚いた。背後には大統領自身の保身があるようだが、議会で多数を占める野党の反発で数時間で解除されるという不始末。政局が混乱するとかつてのような軍事クーデターによって軍事政権という道を辿るのではと危惧する。★民主化によって映画に音楽にと文化の華が開いているというのに。★さて、注文していた円城塔さんの「コード・ブッダ」が届いたので読み始めている。まだ数ページしか読んでいないが、AIが悟りを開いて、仏陀となった世界を描いているいるようだ。★「世の苦しみはコピーから生まれる」というのは含蓄に富んでいる。「コピー」とは輪廻であるらしい。★AI文明の黎明となるのか。その時、人類の運命は・・・。☆古代メソポタミア、シュメール人の古文書によると、ニビル星のアヌンナキが地球に飛来し、当時の地球人を...円城塔「コード・ブッダ」読み始める
★過去の写真がカラー化され、さらに動画化されている映像を「YouTube」で見かける。AI技術の進歩はすさまじい。単なる記録ならビデオカメラでもできるが、クリエイティブで双方向的になれば、その存在を永久に留めることができる。ある意味、不老不死の実現だが。★書評で評判になっている小池水音さんの「あなたの名」(「新潮」2024年12月号)を読んだ。★不治の病で余命宣告されている女性。もはや延命は望まず、残された5か月を生きようとしている。女性には娘がいる。再婚した夫の連れ子なので血のつながりはない。しかし、血縁以上に寄り添っている。その娘は現在妊娠中。出産予定日まで、女性の寿命はもちそうもない。★娘は孫のために祖母の「記録」をAIで保存しようと提案し、彼女は受け入れる。「記録」はそれを専門とする青年によって、...小池水音「あなたの名」
★ドラマ「遺留捜査」(2021)の第7話には「闇バイト」が登場する。★廃業したキャバレーで男性の刺殺体が発見される。男性はあるヤクザ組織の幹部だが、実は潜入捜査をしている警察官だった。その組織は特殊詐欺に関わっているらしい。★今、一人の若者が「闇バイト」に応募している。どうやら強盗をするようだ。その手口(調査グループが押し込み先を調べ、実行グループが強盗する)が最近流行りの事件と類似している。(ニセ警官が後始末をするところは違っているが)★上川隆也さん演じる糸村刑事は、遺留品の「石」に注目し、真相に迫る(犯人は意外な人物だった)。最後は親子愛にほろっとさせられる。「闇バイト」とは、このドラマに先見の明があったのか。★さて今日は、髙村薫さんの「地を這う虫」(文春文庫)から「父が来た道」を読んだ。副総理まで務...髙村薫「父が来た道」
★アマゾンで注文したコピー用紙、ヤマト運輸で届けられる予定なのだが、予定日を過ぎても届かない。問い合わせてみると、配送ミスでなんとオキナワに行ってしまったとか。優先的に27日には届けるというが、いったい何があったのか。ミステリーだ。★韓国ドラマ「悪霊狩猟団カウンターズ」を観た。世にはびこる悪霊をカウンターと呼ばれる人々が退治し、召喚(除霊)するというもの。ストーリーは少々じれったく感じるが、それなりに面白かった。主人公の高校生ソ・ムン役のチョ・ビョンギュさんは菅田将暉さんに似た感じがした。★読書は、千葉雅也さんの「デッドライン」(新潮文庫)を読み終えた。2019年の野間文学新人賞受賞作。★主人公は哲学を専攻する大学院生。修士論文に追われながら、恋愛遍歴を重ねる。といっても同性との関係だ。★哲学の話は難しい...千葉雅也「デッドライン」
★期末テストが終わった終末。今日は午後6時には生徒がいなくなったので、ちょっぴりのんびりできた。U-NEXTでドラマ「遺留捜査」スペシャルを何本か観た。昔の警視庁編と最近の京都府警編。それぞれに面白かった。★夜、吉田修一さんの「熱帯魚」(文春文庫)から、「グリンピース」を読んだ。就活中の若い男。自分で借りている部屋はあるものの、今は彼女の部屋に入り浸っている。★男には入院中の祖父がいて、祖父の年金で食いつないでいる。他に身寄りがないので時々見舞いに行くが、弱った人を見るのはどうも苦手なようだ。そもそもがわがままな性格なのか、仕事が決まらないいらだちなのか、男は彼女にグリンピースの缶を投げつけた。男はグリンピースが好物なのだ。★あまりの男の身勝手さに彼女は部屋(もともと自分が借りている部屋なのだが)を出てい...吉田修一「グリンピース」
★中学校の期末テストが終わる。次は高校の期末テストと冬期講座の準備。塾業界の年末年始は修羅場と化す(笑)。★さて今日は、村上龍さんの「限りなく透明に近いブルー」(講談社文庫)を読み終えた。この作品も文庫が発行された1979年から80年ごろに1度読んでいるから2度目になる。★第19回群像新人文学賞(1976年)及び第75回芥川賞受賞作。とにかく衝撃的なデビューだった。★全編、特に前半の麻薬、乱交、暴力シーンは凄まじい。文章がうまいだけに映像がリアルに浮かんでくる。★主人公のリュウは米軍基地のある町に住んでいる。若者たちが集まって開かれるパーティー。麻薬の煙、錠剤、注射で酩酊した彼らは男女入り乱れて性交に浸る。★やがて仲間たちはそれぞれの道を進み、リュウは薬のせいで精神を病んでいるようだ。★どうしようもない閉...村上龍「限りなく透明に近いブルー」
★中学校の期末テスト1日目が終わる。あと1日。期末テストが終われば次は冬期講座の準備だ。★さて今日は、本城美智子さんの「十六歳のマリンブルー」を読み終えた。第10回「すばる文学賞」(1986年)受賞作。私は1987年3月26日に一度読み終えたとメモがある。★江ノ島に住む16歳の女子高校生が主人公。大きな悩みがあるわけではなく、夢や希望があるわけでもない。日々を何となく生きている。★ふと会った小学生時代の同級生の男の子。別に心中しようとしたわけではないがオーバードーズに。★会話文と地の文が混在。「」のない文体が特徴的だ。本城美智子「十六歳のマリンブルー」
★昔、「ウルトラQ」のエピソードに「あけてくれ」というのがあった。仕事と生活に疲れたサラリーマン、彼の乗った電車が時空を超えた旅に出るという話だった。★また、人間は死の間際に自分が歩んだ生き様を走馬灯のように見るともあるという。★今日は、重松清さんの「流星ワゴン」(講談社文庫)を読み終えた。一言でいえば父と息子の物語。★主人公の男性は人生に行き詰っていた。息子は中学受験に失敗し、仕方なく通うことになった公立中にはなじめず不登校に。妻はどうやら見知らぬ男を不倫を重ねているようだ。そして男性はリストラされ、失業の身に。★男が、終電が終わった駅前のベンチで、ウイスキー瓶を片手に「もう死んでもいい」とぼんやりしていると彼の前に一台のワゴン車が止まった。助手席から男の子が笑顔で「乗ってよ」と誘う。★ワゴン車に乗って...重松清「流星ワゴン」
★今日は一日中鬱陶しい天気。★平中悠一さんの「She'sRain」(河出書房新社)を読んだ。1984年度「文藝賞」受賞作。★私は1987年3月24日に1度読み終えたとメモしてある。「久々に快い小説だった。テーマはいたって簡潔。文章も飛ぶように流れていく。ただそうした中で、純粋な想いがまぶしいほどに輝いている。17歳だからもてる感覚。17歳だから放てる輝き。それは私のとっては青春への郷愁かも知れない。大上段に構えて恋愛を論じるのでもなく、素直に自分の気持ちに忠実に書いていることが魅力的だ。現代の“私小説”はこういう形になるのであろうか」★なかなか絶賛している。それからおよそ50年。今読むと何かつまらなかった。ある短い期間の出来事をスケッチのように描いているのは、村上春樹さんの「風の歌を聴け」のようだ。カタカ...平中悠一「She'sRain」
★野沢尚さんの「リミット」(講談社文庫)をやっと読み終えた。500頁を超える長い作品だった。★連続児童誘拐事件。新たに一人の少女が誘拐された。警視庁は直ちに対応に当たる。身代金要求に備えて被害者宅には捜査一課特殊班捜査係が配置された。女性刑事、有働公子はその一人だった。★身代金受け渡し、犯人側は運び役として公子を指定する。この誘拐事件の裏側で、もう一つの誘拐事件が起こっていた。公子の息子が拉致されていたのだ。息子の命を守るため、公子は独断で行動を開始する。警視庁では、刑事が犯人側と内通していたとの疑惑も。★犯人たちが犯罪に至るまでの経緯。誘拐の目的や誘拐した子どもたちのその後。臓器移植の問題と絡めて国際的な犯罪にも言及する。★稀代の脚本家の作品なので、ドラマのようにどんでん返しを繰り返して展開していく。描...野沢尚「リミット」
★中学校の期末テストが迫ってきた。日頃勉強しない子たちも押し寄せてくる。対策問題をつくるのに追われる。★とはいえ、合間を縫って、見延典子さんの「もう頬づえをつかない」(講談社)を読み終えた。1978年発表の作品。文芸誌の新人賞ではなく、大学の卒業論文(?)として書かれたのが異色だ。それでいて俗な新人賞作品よりも面白かった。★主人公は大学生の女性。バイトで家賃を払い、何とか食いつないでいる苦学生だ。彼女には風来坊のような彼氏がいて同棲していたが、ふと出ていった切り1年間も音信がなかった。その間、彼女には新しい男ができていた。★前の風来坊とは違って、清潔好きで小まめな男。彼女のことを大切にしてくれそうなのだが、彼女はあの風来坊を忘れることができない。そんな時、その風来坊が1年ぶりに帰ってきて、三角関係になって...見延典子「もう頬づえはつかない」
★11月も中旬だというのに温かい。洗濯物がよく乾くのでありがたいが。★高校生は公募制推薦の受験が始まる。最近の大学入試は夏休み明けの「AO(総合選抜型)入試」「指定校推薦」、11月から12月の「公募制推薦」、1月の共通テストを経て、2月から3月は一般入試と続く。実に長丁場だ。早く進路を決めたい高校生が増え、「指定校推薦」や「公募制推薦」に人気が集まる。★かつての京都などは(もう50年ほど前だが)高校三原則で、「高校は大学入試の予備校ではない」などと澄ましていたが、そんなことを言っているから「一浪」と書いて「人並」と呼ばす現状に甘んじていた。おかげで学生の街・京都は予備校が大盛況だった。(そんな京都の高校教育もすっかり変わったが)★今や少子化の時代。現役合格は当たり前。善かれ悪しかれ、進路も多様化している。...庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」
★総選挙で躍進した野党党首の不倫問題。身から出た錆だが、まさに天国から地獄。何か裏があるような・・・。何はともあれ、もったいないね。★打って変わって青春小説。今日は、高橋三千綱さんの「九月の空」(河出書房新社)から表題作を読んだ。第79回(1978年)芥川賞受賞作。★政治的との関りも男女の濃厚な性描写もない。剣道に打ち込むちょっとやんちゃな高校生と彼の同級生たちが描かれていた。★剣道の試合の描写が詳しい。私はあまり興味がないのでさっと読んだが、経験のある人が読めば引き込まれるのかも知れない。★第75回芥川賞(1975年)村上龍「限りなく透明に近いブルー」、第77回(1976年)池田満寿夫「エーゲ海に捧ぐ」とセクシャルで個性的な作品が受賞したから、その反動の爽やかさだろうか。★この後、70年代後半から80年...高橋三千綱「九月の空」
★時代が変われば人も変わる。生き方も変わる。今日は、田中康夫さんの「なんとなく、クリスタル」(河出書房新社)を読んだ。1980年度「文藝賞」受賞作で、単行本は1981年に発行されている。初版が1月20日。私が持っているのが2月27日発行の24版だから、よく売れたようだ。★主人公はアッパーミドル階層の女子学生。同じくアッパーミドル階層の男子学生と同棲している。女子学生はモデルとして、男子学生はミュージシャンとして平均的なサラリーマン以上の収入を得ている。★稼いだ金で、ブランドを身に付け、昼に夜にとリッチに遊んでいる。二人はお互いに拘束しない。浮気も認めている。それは、そんなことではお互いに離れらないという自信の証なのか。★カタカナと引用符の多い文体に当時は驚いた。ファッション誌や東京のガイドブックを読むよう...田中康夫「なんとなく、クリスタル」
★期末テスト前の土日特訓。最近は学校のクラブではなくて、外部のクラブチームでサッカーやら野球やらをやっている子が多い。今日は今季最後のサッカーの試合があるとかで、受講者は4人だけ。★働き方改革で学校のクラブ活動は地域に移行という動き。これはこれでご時勢なのだが、外部のクラブチームはどうしても実力主義になってしまう。ただ好きだけでは参加しづらい雰囲気が漂う。また、学校とは別のスケジュールで動いているので、試験前でも休みにくそうだ。★さて今日は、峰原緑子さんの「風のけはい」(文藝春秋)から表題作を読んだ。第52回文學界新人賞(1981年)受賞作。著者が19歳の時の作品。芥川賞の候補作にもなったようだが、高齢のお歴々には受け入れられなかったようだ。★主人公は女子中学生。父母兄と4人ぐらいのようだが、今まさに母親...峰原緑子「風のけはい」
★単調な日が続く。中学校の期末テストまであと2週間。期末テストが終われば冬期講座。そして年が明ければ受験本番だ。1年などほんとに「あっ」という間だ。★今日は村上龍さんの自伝的な小説「69sixtynine」(集英社)を読んだ。1984年から85年にかけて書かれた作品で、初版は1987年になっている。私は1988年2月13日に1度読み終えたと巻末に記している。★主人公は日本の西端、佐世保の進学校に通う高校生。東京など大都市を中心に吹き荒れた学生たちの反乱は、炭鉱不況に苦しむこの地方にも影響を与えていた。★主人公たちは17歳。特に政治に関心があるわけではないが、仲間たちが集まって学校の「バリ封(バリケード封鎖)」を実行する。米軍基地のある佐世保という土地柄はあるものの、彼らの行動は学校というシステム、体罰が横...村上龍「69」
★今日は中沢けいさんの「海を感じる時」(講談社)を読んだ。この作品も学生時代に一度読んでるので再読。当時18歳の大学1年生が書いた作品というので評判になった。「子宮感覚」というフレーズが印象に残っている。★怒涛の学園紛争が終わり、「無気力、無責任。無感動」と呼ばれた時代。主人公の女子高校生は部室で1年上の先輩から「口づけ」したいといわれ、好きでもないのに応じてしまう。★しかしそれが彼女の性を目覚めさせてしまったようだ。体験が深まるにつれ、彼女は男を追うようになる。男は彼女のことを好きだったわけではない。追われれば逃げる。卑怯と言えば卑怯だが、会えば彼女に触れてしまう。性欲だけを求めることで自己嫌悪に陥り、ますます彼女から離れようとする。★物語は、彼女が置かれている家庭環境、特に母親との関係に言及する。湊か...中沢けい「海を感じる時」
★村上春樹さんの「風の歌を聴け」(講談社)を久しぶりに読んだ。1979年7月25日発行の初版。読書などそれほど好きではなかった私がなぜこの本を読み始めたのかは思い出せない。ただ、この本に衝撃を受け、新人賞の類を読むようになった。★「物語は1970年8月8日に始まり、18日後、つまり同じ年の8月26日に終る」★主人公の男性は東京の大学に通っているが、夏休みで山と海に挟まれた町に帰省している。小さい町だが住んでいる人は結構裕福そうだ。彼は友人の「鼠」と馴染みの「ジェイズ・バー」でビールを飲んで時間をつぶしている。★わずか18日の間だが、ある女性と出会い、「鼠」の相談に乗り、それぞれ軽口を言い合いながらなかなか哲学的な対話をしている。★この作品を初めて読んだ時、今までの小説とは違う感じを受けた。テンポの良い会話...村上春樹「風の歌を聴け」
★今日は第47回江戸川乱歩賞受賞作、高野和明さんの「13階段」(講談社文庫)を読み終えた。★夫婦を殺し金品を奪った強盗殺人事件。近くでバイク事故を起こした樹原という青年が実行犯として逮捕された。この事案で争点となったのは、実行犯が事故のせいで記憶があいまいになってしまったこと。そして奪ったとされる通帳や凶器が発見されなかったこと。★とはいえ、状況証拠によって、死刑判決が下され、あとは執行を待つばかりとなった。★そんな折、ある匿名の人物から弁護士が依頼を受ける。その樹原は無罪であり、冤罪であるというのだ。弁護士は依頼を引き受け、刑務官を退職するという男・南郷を雇う。★彼はかつて職務上とはいえ2人の人間の死刑を執行しており、それが心の傷になっている。冤罪ならば正さねばならない。かつて担当した青年・純一(傷害致...高野和明「13階段」
★長閑な秋晴れ。こんな日が続けばよいのだが。★さて今日は、三田誠広さんの「僕って何」(河出書房新社)を読んだ。1977年の作品で、学生時代に一度読んでいる。★大学進学のため田舎から上京したそこそこ旧家の青年。温かい家族に過保護なほどに育てられ、家族から(特に母親から)の独立に期待を寄せていた。しかし、そんな無垢な彼が入学したのは各セクトが入り乱れ内ゲバが絶えない大学だった。★上京から1月余り。友達もできず都会の孤独を味わっていた青年。ふとあるセクトの学生集会を通り過ぎた時、声をかけられた。田舎では受験勉強で精一杯。政治運動やセクトのことなど全く関心も知識もなかった彼だが、孤独に耐えられず、初のデモで感じた高揚感に刺激され、「活動」に参加するようになった。★彼の何に魅かれたのか、「上司」にあたる女性リーダー...三田誠広「僕って何」
★1980年代の恋愛小説が村上春樹さんの「ノルウェイの森」だとすれば、1960年代は柴田翔さんの「されどわれらが日々ー」であろう。★1955年、日本共産党が第六回全国協議会(六全協)で左翼冒険主義を批判し、軍事方針が放棄された時代。党の無謬性を信じ、地下に潜行し山村工作に動いていた人々に衝撃が走る。今まで正しいと信じていた教義に裏切られたような、驚愕と混乱と不安が一気に襲ったような事態だったようだ。★こうした時代背景の中で物語は進む。主人公の男性は東京大学で修士論文を書いている。この男性自体は政治とは深く関わっていない。他県での就職が決まり、これを機会に、知り合いの勧めで幼なじみの女性と婚約する。それからの2年、二人の恋愛とその関係が破綻するまでの日々が描かれている。★全体の多くが手紙の引用という形をとっ...柴田翔「されどわれらが日々ー」
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★寒気の影響か肌寒い。それに晴れたかと思えば、雷に驚かされ、ザーとひと雨降ればまた晴れる。落ち着きのない天気だ。★与党か野党か知らないが、選挙目当てかどうかも知らないが、ぶち上げた給付金が予想以上に不評で、次いで、消費税減税をめぐっては、自民党も立憲民主党も党が割れんばかりの混乱だ。★「大山鳴動して鼠一匹」ともいう。結局は所得制限付きの給付金あるいは、マイナポイントでお茶を濁すのか。バラマキがポピュリズムなら、票目当ての党利党略もポピュリズム。気になるのは某国大統領のコロコロ変わる顔色か。★さて今日は、伊藤たかみさんの「八月の路上に捨てる」(文春文庫)から「貝からみる風景」を読んだ。物書きらしい男性が主人公。鮎子という女性と暮らしている。男性は時間的にはゆとりがあるらしく、彼女が仕事から帰るのに合わせて、...伊藤たかみ「貝からみる風景」
★gooブログが閉鎖されるらしい。私のブログは開設しておよそ20年。古参に含まれるのかな。残念だが、時代の趨勢には勝てない。★ホームページからブログへ、ブログからツイッター(現X)、フェイスブック、インスタへと駆け足で時代が過ぎていく。★さて今日は、有栖川有栖さんの「ロシア紅茶の謎」(講談社文庫)から「動物園の暗号」を読んだ。★大阪の動物園のサル山で、飼育員の遺体が発見された。何ものかに鈍器で殴られ、転落死したようだ。警察の依頼を受け、犯罪社会学者・火村英生とその相棒で作家の有栖川有栖が、捜査に協力する。★犯行が行われたのが深夜の動物園ということで、容疑者は限られたが、決定的な物証に欠けた。残されたのは被害者の手に握られていた紙片だけ。それには、動物の名前が羅列してあった。★火村と有栖川はこの暗号の解明に...有栖川有栖「動物園の暗号」
★のんびりとした週末。天気は下り坂で、明日は雨が降るらしい。今年の桜も見納めか。★今日は、彩瀬まるさんの「骨を彩る」(幻冬舎文庫)から「ばらばら」を読んだ。主人公は二児の母親。彼女は今、仙台に向かう長距離バスに乗っている。折しも雪が降りだした。★彼女は4回、姓を変えた。最初は実父の姓。7歳の頃、両親が離婚し、母の旧姓を名乗るようになった。12歳の時、母親が再婚し新しい父親の姓を名乗る。そして、結婚して今の姓になった。★こう見てくると、女性にとって姓とは何なのかと考える。古い「家」制度の名残なのだろうか。★女性は今、7歳の息子との接し方に悩んでいる。意識はしていなかったが、表情が険しくなっていたらしい。「おかあさんがこわい」という息子の言葉はショックだった。彼女は夫と話し合い、夫は彼女に、数日旅することを勧...彩瀬まる「ばらばら」
★行きつけのパン屋さんのご主人と、昨今話題の消費税減税について雑談をした。ご主人曰く、いっそのこと消費税を0にして、それで当然のこと歳出ができなくなるから、そこで国民の判断に委ねればとのこと。★随分と大胆な提案ではあるが、政治家の政争よりかは実感が伴う。中途半端に税率をいじるとレジ一つの修正も大変だ。それも時限付きとなるとどうするのか。政治家が無責任な発言をするほど現実は甘くない。★給付か減税か、給付と減税のセットか、それとも何もせずか。この決断が政権を左右しそうだ。★それはそうと、関税をめぐる米中の対立は、熱い戦争の前哨戦とも思える。困った時代になってきた。★さて今日は、阿刀田高さんの「消えた男」(角川文庫)から「姉弟」、安部公房さんの「R62号の発明鉛の卵」(新潮文庫)から「鍵」を読んだ。★「姉弟」は...安部公房「鍵」
★世界経済は大混乱。原因はトランプ大統領。世の中がおかしくなりつつある気がする。★日本では政府・与党の一部が給付金に前向きとのこと。選挙を目前に、消費税減税の代替案ということか。そもそもが国民の税金。「給付します」と政治家が自慢げに語るのも何か筋違いな気がする。★減税はありがたいが、その前に国民健康保険料を下げて欲しいものだ。★さて今日は、青山文平さんの「つまをめとらば」(文春文庫)から「つゆかせぎ」を読んだ。★江戸時代。旗本の家に勤める下級武士が主人公。彼の父親は、藩と農民の板挟みになって、仕えていたお家を出奔し、何とか今のお家に仕事を得た。目立たず真面目に。父親の生き方を間近に見て、彼もまたそのように生きていた。★そんな彼が、どうしたわけか美貌の誉れ高い女性に見初められ結婚。周囲の羨望の的となったが、...青山文平「つゆかせぎ」
★晴天。近隣の中学校は入学式。制服を着て一段と大人びた子どもたち。一歩一歩人生の階段を昇っていく。★昨夜は、映画「侍タイムスリップ」を観た。最近、タイムスリップモノがよく目につく。「またか」と期待せず観始めたが、想像をはるかに超えて良かった。劇中劇の監督が「命を懸けてるんだ」というセリフを吐く場面があるが、低予算ながらこの作品に懸ける監督を始めスタッフ、キャストの意気込みが感じられた。★看板俳優と宣伝だけの空疎な映画が多い中、低予算ながら骨のある作品だった。監督が宇治市の隣、城陽市の出身だというのにも親しみを感じた。★さて今日は、青山七恵さんの「ひとり日和」(河出文庫)から「出発」を読んだ。地方から上京し、新宿の企業で働いている男性が主人公。28歳になり、何かを変えたくて、会社を辞めようとしている。とはい...青山七恵「出発」
★昨日と一転して株価は高騰。乱高下のマネーゲームの様相だ。今、今年の漢字を選ぶとすれば「米」だろうね。★小中高ともに新学期が始まり、入塾の問い合わせが増えてきた。次の課題は、ゴールデンウィーク対策と中間テスト対策だ。英検の受付も始まる。★今日は、湊かなえさんの「ポイズンドーター・ホーリーマザー」(光文社文庫)から「ポイズンドーター」を読んだ。★今は女優として活躍する主人公。彼女の母親は娘に言わせると「毒親」。友人関係や将来の職業など、娘の生活をすべて支配しようとする。★父親は彼女が3歳の時、交通事故で亡くなり、母親は一人で娘を育てた。その自負と見栄が、そうさせているのかも知れない。★よく言えば娘想いの母親だが、当の娘にとってありがた迷惑。とはいえ、自分で稼げるまでは母親に従わざるを得なかった。進学のため上...湊かなえ「ポーズンドーター」
★週明けの東京株式は大暴落。金融市場が落ち着くまで、企業の設備投資は鈍るかな。このまま景気は冷え込むのか。スタグフレーションの始まりか。★昨夜は映画「殺人の追憶」を観た。1980年代後半、韓国の田舎で起こった連続女性殺人事件をベースにしたもの。拷問など当時の警察の取り調べは残酷だが、それでも犯人は捕まらない。結局、犯人は「普通の人」ということで、刑事(ソン・ガンホさん)のアップで終わる。すっきりしない終わり方だが、それが狙いか。★さて今日は、渡辺淳一さんの「光と影」(文春文庫)から「猿の抵抗」を読んだ。最初、表題から実験動物のことかと思ったが、そうではなかった。★主人公の男性は梅毒で神経が侵されている。生活保護を受けるほど困窮していたが、「学用患者」ということで無料で大学病院に入院している。「学用患者」と...渡辺淳一「猿の抵抗」
★佐久間亜紀さんの「教員不足」(岩波新書)を読んでいる。近い業界だけにかえって敬遠しがちなのだが、昨今の教員不足は深刻で、その原因を探るべく読み始めた。★読み始めて10ページ。深刻な現場のため息を聞いて、あらためてびっくりした。ある小学校は、臨時免許の非正規教員が小学6年生の担任をもたされたという。荒れのあるクラスで正規の教員が担任を敬遠した結果だという。大変な担任業務の上に自らの教採(教員採用試験)対策と涙ぐましい努力が描かれていた。無事に全員卒業にこぎつけたというから、まずは良かった。★またある教員は研究主任を担当していた。本来なら担任を免除されるが、たまたま同僚教員が産休に入ったため担任を兼務することに。さらには心を病んで休職した教務主任の仕事も担う羽目に。「今日がまだ木曜日であることに絶望していま...連城三紀彦「指飾り」
★トランプ関税を受けて、世界中で株安。ニューヨークのダウ平均株価も史上3番目の下げ幅だという。週明け、「ブラックマンデー」の再来となるのか。★日本でも選挙戦を前に、消費税減税の声が高まっている。減税はありがたいが、結局は借金の先送りにならないか。ある専門家が数年後に日本経済が行き詰まると言っていたが、現実になるのか。小惑星が地球に衝突する確率も再び2%台になったとか。まだ今世紀に入って25年というのに、世紀末の様相だ。★国破れて山河在り。世相がどうあれ、春が来れば桜は咲く。楽観的に生きよう。今この時を楽しんで。★さて今日は、横山秀夫さんの「動機」(文春文庫)から「逆転の夏」を読んだ。★あるエリート営業マン。魔が差したのか、思い上がっていたのか、妻が出産のために帰省中、女子高校生と1回きりの肉体関係をもった...横山秀夫「逆転の夏」
★春期講座が終わった。春は新塾生を中心に9日間。それぞれ新学年に向けて復習・予習に頑張った。いよいよ来週から新学期が始まる。子どもたちが学校に行っている間が、塾にとっては一休み。★アメリカ、トランプ大統領の政策で世界経済が大混乱。日本経済新聞の東証の株価を見ているととてもスリリングだ。結局、終値は昨日より1000円弱のマイナスだったが、一時は1500円まで下がった。為替も波乱気味だ。★先の世界大戦も背景には1929年からの世界恐慌がある。大きな世界史的なうねりの中で、一個人に何ができるのか。どのように生き延びればよいのか、考えさせられる。★隣国、韓国も分断が深刻だ。★そんな世相はさておき、今日はほっこりした小説。向田邦子さんの「思い出のトランプ」(新潮文庫)から「男眉」を読んだ。1人の女性を中心に家族模様...向田邦子「男眉」
★大学の入学式だったそうで、塾生のお母さまがラインを送ってくださった。その学校は、私の母校(大学院)でもある。丘のふもとに咲く桜が美しかったが、今日は満開だっただろうか。★2021年に亡くなられた師匠、堀内孜先生の著作集が送られてきた。全4巻。第1巻は公教育論・学校論、第2巻は教育行政論、第3巻は学校経営論、第4巻は教師教育論。生前の先生の著作が網羅されている。刊行委員会の方々のご尽力に感謝申し上げたい。★かつて20代だった私たち教え子も、もはや還暦、古希の歳となる。月日は駆け足で過ぎていく。★さて今日は、宮下奈都さんの「遠くの声に耳を澄ませて」(新潮文庫)から「どこにでも猫がいる」を読んだ。マンションに帰った女性。机の上の葉書には「どこにでも猫がいます」と書かれていた。★女性は20歳の頃、恋人とイタリア...宮下奈都「どこにでも猫がいる」
★春期講座は順調に進み、残りあと2日となった。新年度の授業も少しずつ動きだした。道路わきの桜も一気に花を開いている。★今日は、朱川湊人さんの「花まんま」(文春文庫)から「摩訶不思議」を読んだ。舞台は大阪の下町。通天閣の近く。話し手は小学生の男の子。彼の面倒をよく見てくれた叔父が突然亡くなった。酔っぱらって歩道橋から落ち、打ちどころが悪かったようだ。★葬儀が終わり、火葬場を目前に霊柩車が動かなくなった。その上、男たちが力づくで動かそうとしてもビクともしない。★実は、叔父には3人の彼女がいた。10年ぐらい同棲しているガラモン(ウルトラQ参照)のようなカツ子さん。叔父が行きつけのスナックの、ちあきなおみに似た感じのカオルさん。そして、ダンゴ屋に勤める、まだ20歳そこそこながらグラマーなヤヨイちゃん。★霊柩車が動...朱川湊人「摩訶不思議」
★年度末。何となくバタバタしながら月日が過ぎていく。ふとテレビを見るとコメの話題。「消えた23万トン」だという。投機目的で誰かが抱えているのか。そもそもが農水省が把握している生産量が違っているのか。謎だらけだ。★12年に一度の東京都議選、参院選が行われる年。政府は「強力な物価対策」を行うそうだが、はたしてどれほどものか。トランプ大統領の自動車関税の影響か、東京の株価は大きく値を下げている。トランプ恐慌になってしまうのか。★そんなことを考えながら、東野圭吾さんの「白鳥とコウモリ下巻」(幻冬舎文庫)を読み終えた。この作品も面白かった。特に下巻の中盤からは一気読みの勢いだった。★東京である弁護士が刺殺された。容疑者はすぐに浮かび上がり、自供を得て早々に事件は解決かと思われた。ところが、容疑者の息子と被害者の娘が...東野圭吾「白鳥とコウモリ下」
★春の甲子園が終わった。以前は4月上旬までやっていた気がする。好天にも恵まれたか。いよいよ桜前線が急上昇。新学期、入学式の春が来る。★塾の方は、新年度に備えて時間割の組み換え、教室割、テキストの手配など忙しい。1年が終わるとまた1年。2025年度も頑張らねば。★さて今日は、乃南アサさんの「禁漁区」(新潮文庫)から「免疫力」を読んだ。組対の警察官が懇意にしている組事務所を訪れた。昔気質の組長から姪っ子が白血病で、可愛そうでという話を聞き、ある薬を紹介してやる。★警察官の息子も悪性の病気で、一時期は覚悟を決めたが、ある薬を試したところ回復したと話したからだ。★最初は親切心からだった。組長の姪っ子も徐々に回復に向かっているようで、それはそれで良かったのだが、組長はその薬を他にも紹介してやりたいと言い出した。人助...乃南アサ「免疫力」
★好天の後の寒気。急激な温度差に体が悲鳴を上げそうだ。春期講座4日目。前半戦が終了といったところ。退塾する子、新たに入塾する子。この時期は人の行き交いが多く慌ただしい。★さて今日は、伊坂幸太郎さんの「死神の精度」(文春文庫)から「吹雪に死神」を読んだ。吹雪に埋もれるかのような山荘に集まった人々。ほぼ密室状態で、連続殺人が起こる。★よくあるシチュエーション。名作「オリエント急行殺人事件」へのオマージュともとれる。本作の面白さは、このオーソドックスな物語に死神の視点を入れているところだ。★物語を読んでいくと、死神の方が善人に思えるから不思議だ。本当に恐ろしいのは人の方かも知れない。☆今期のテレビドラマ。「相棒」は別格として、「ホットスポット」と「アイシー」が面白かった。☆「ホットスポット」は、宇宙人、未来人、...伊坂幸太郎「吹雪に死神」
★春期講座2日目。今年は朝9時から12時までの午前中だけ。それでも、夜型の生活から朝型への切り替えは辛い。数日もすれば慣れてしまうだろうが。★ここ数日の陽気は心地よくもあるが、身体が馴染まない。今年は花粉症の症状が厳しい。年のせいだろうか。★さて、なかなか米の価格は下がらず、米に限らず、物価高に閉口する日々だが、終戦直後のことを思えば(実際に経験したわけではないが)、極楽のようなものだろう。★浅田次郎さんの「帰郷」(集英社文庫)から表題作を読んだ。終戦直後、体を売ってその日の暮らしを支えている女性。復員兵らしき男性が彼女に声をかけた。★カネはあるが、邪な気持ちはない。ただ話を聞いて欲しいと男は言う。女性は奇妙な男だと思ったが悪い人ではなさそうだ。宿で男の話を聞いてやることにした。★男は生い立ちから、召集さ...浅田次郎「帰郷」
★近隣の小中学校は今日が終業式。「あゆみ(成績表)」はどうだっただろうか。明日からの春休み、事故なく過ごしてほしいものだ。塾では春期講座が始まる。★さて今日は、柳広司さんの「ジョーカー・ゲーム」(角川文庫)から「幽霊」を読んだ。★日中戦争が泥沼化する昭和15年頃。陸軍参謀本部は、皇紀2600年の記念祝典で爆弾テロが起こるとの情報を得た。どの集団がこの計画を立て、実行しようとしているのか。背後にイギリス総領事の影がちらつき、その真偽を探るため、スパイ組織「D機関」が動き出す。★D機関のエージェントはテーラーに勤める蒲生次郎という人物になりすまし、総領事の公邸に入り込む。総領事は白か黒か。この判断を間違えば、日英間の外交問題、更には戦争にも発展しかねない。★物証を得るため、ある夜、蒲生次郎は領事館に忍び込む。...柳広司「幽霊」
★今日も好天、洗濯日和。朝は早めに起きたのに、ボーっとしている内にもう夕方が迫っている。★今日できたこと。洗濯、風呂のカビ掃除、春期講座の予約表作成、昼食の買い物。これだけかぁ。★これからすべきこと。明日の授業の準備。春期講座の準備。新年度に向けた問題集の入れ替え。今年は中学校の教科書が改訂になったから、すべて入れ替えだ。少しずつ衣替えもしなければ。★今日は、宮本輝さんの「真夏の犬」(文春文庫)から表題作を読んだ。昭和37年の大阪が舞台。主人公は少年。彼の父親は事業を興しては失敗し、借金まみれの日々が続いている。それがどういう風の吹き回しか、父親が大金を持って帰ってきた。★知り合いがカネを出し合い広い敷地を借り、そこに解体のために廃車をプールする仕事を見つけたという。久々に輝く夫に、主人公の母親も幸せそう...宮本輝「真夏の犬」
★季節の変わり目だからだろうか、本を読むとすぐに眠くなる。それに、今年は花粉症がきつい。老いたかな。★さて今日は、椎名麟三さんの「深夜の酒宴」(集英社「日本文学全集」第78巻所収)。★私小説なので主人公は作者本人が投影されている。主人公は戦時中、共産党で活動し、投獄された経験をもつ。物語は、戦後貧民窟のようなアパートで暮らす底辺層の人々を描いている。★何やかんやと言いながらも、今の時代、栄養失調になったり、餓死する人は稀だ。戦後まもなくは、最低限の食べることにも困っているこうした貧困はごく身近だったのだろう。★死は日常の一部で、明日は我が身の出来事だったようだ。★暗い絶望的な状況だが、もはやここに至ってはかえってあっけらかんとしている気さえする。☆いよいよゴールデンウィーク。とはいえ、塾は平常通りの営業。...椎名麟三「深夜の酒宴」
★アニメ「夏目友人帳」を観ている。孤独で、ちょっと変わり者だった祖母には妖怪が見えた。彼女は妖怪と勝負して勝っては彼らから名前を奪った。その名前は「友人帳」に記され、友人帳の持ち主は彼らを従わせることが出来るという。★物語の主人公は彼女の孫。彼もまた妖怪が見える。家族に恵まれず親戚や知人の家を転々とし、見えないモノを見えるというから奇妙がられていた。彼は高校生となり、妖怪たちにうなされる日々が続いた。彼らは祖母が集めた名前を返してもらおうとやってくるのだ。彼はふと出会った妖怪「にゃんこ先生」(本当は上等な妖怪らしい)と共に妖怪と接していく。★怖いだけでも、面白いだけでもなく、切ないエピソードが魅力的だ。★さて、今朝の朝日新聞「天声人語」で、レイ・ブラッドベリの「霧笛」が取り上げられていたので、本棚からその...レイ・ブラッドベリ「霧笛」
★以前、「新説・三億円事件」(1991年)というドラマを見た。実行犯が警察官の息子で、真相を知った警察官の両親が息子を殺害するというもの。警察官役が小林稔侍さん、息子役が織田裕二さんだった。★永瀬隼介さんの「閃光」(角川文庫)を読んだ。この作品も三億円事件をモチーフにしている。★三億円事件は当時の警察が見立てた単独犯ではなく、複数犯であり、生き残った仲間たちのその後が描かれている。そして、その仲間たちが次々と殺されるという事件が起こる。★犯人たちの仲間割れなのか、それとも組織を守るため過去を隠ぺいしようとする警察組織の仕業なのか。★定年前の老刑事と血の気の多い所轄の若い刑事が真相を追う。そして、思いがけない真犯人が登場する。★3億円事件から56年。グリコ森永事件から40年。下山事件に至っては75年が経過し...永瀬隼介「閃光」
★昨夜の雷雨が嘘のような晴模様。春を通り越して初夏がやってきたようだ。★映画「トゥルーマン・ショー」(1998年)を観た。もっとコミカルな映画だと思っていたが、なかなかシリアスなテーマだった。私が「現実だ」と思っているこの世界。実は作り物だとしたら、という内容。深く考えれば哲学的だ。映画「ダークシティー」とも似た感じだ。★北杜夫さんの「夜と霧の隅で」(新潮文庫)から「岩尾根にて」を読んだ。登場するのは2人の人間と1つの遺体。★主人公はロッククライミングの途中、墜落死した遺体を発見する。同時に、1人の男が今まさに岩を登っている光景を目撃する。やがて、岩の上の平らなところで、主人公とその男が語る。★この男はまるで主人公自身のようだ。そして墜落死した遺体はこの男のようだ。時間軸が前後するような奇妙な作品だ。ここ...北杜夫「岩尾根にて」
★好天が続く。洗濯物がよく乾いてありがたい。★さて今日は、尾崎真理子さんの「現代日本の小説」(ちくまプリマー新書)を読んだ。「ちくまプリマー新書」は比較的若い人をターゲットに、時々のテーマに入門、基礎に立ち返ってわかりやすく解説されている。★尾崎真理子さんは読売新聞の文化部で「文芸批評」を担当されたという。第3章までは記者として折に触れて接した作家のエピソードや当時の新聞に掲載された時評が豊富に取り上げられている。★「文化部、文芸部担当記者の仕事とは」という感じだ。そして、1987年以降、よしもとばななの「キッチン」、村上春樹の「ノルウェイの森」以降の文壇の変遷を論じている。★3章までは何となく遠慮が感じられるが、「第4章パソコンから生まれる新感覚」では著者の思いが強く述べられている。★肉筆からワープロ・...尾崎真理子「現代日本の小説」
★新学期が始まって1週間。今年度スタート時の塾生は70人で確定した。例年、これからパラパラと20人ほど増える。★先日、YouTubeで立川談志さんと石原東京都知事(当時)の対談を見た。70代も半ば(収録時)のお二方。「老い慣れしていない」というフレーズが印象的だった。★ということで、今さらながら石原慎太郎さんの「太陽の季節」(新潮文庫)を読んだ。1955年度の「文学界」新人賞、そして翌年「芥川賞」を受賞。戦後10年を経て、自由奔放な青年の生きざまが新鮮だったのであろう。★とにかく、主人公を始め登場人物たちは裕福だ。多分自ら得た富ではなく、親や先祖から受け継いだものだろう。その豊かさの中で、彼らは刹那的に生きている。彼らとて悩みがないわけではないが、それは極めて個人的な問題だ。★主人公の竜哉たちは、街で英子...石原慎太郎「太陽の季節」
★近隣の小学校では昨日が入学式。そして今日は中学校で入学式だ。★さて今日は、眞邊明人さんの「もしも徳川家康が総理大臣になったら」(サンマーク出版)を読んだ。★かつてヒットした「もしドラ(もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」や、最近言われだしてきた「もしトラ(もしもトランプ前大統領が再びアメリカ合衆国大統領に返り咲いたら)」という言葉があるから、この作品も略称で呼ばれるようになるかも。★室積光さんの「史上最強の内閣」(小学館文庫)では、国家が危機に瀕したとき、現内閣が京都に隠されていた本物の内閣に政権を譲るという話だった。★「もしも徳川家康が総理大臣になったら」は、新型コロナウイルスにより内閣総理大臣を始め主だった政府高官が病死。後継に困った国会は後継選びを天皇に一任し、その...眞邊明人「もしも徳川家康が総理大臣になったら」
★新学期が始まった。クラス替えがあったり、新しい担任の先生に変わったりと、子どもたちにもストレスがたまる時期だ。スクールカーストなどと嫌な言葉がはびこる時代。最初の1週間が子どもたちにとっても勝負の時期ようだ。★さて今日は、干刈あがたさんの「ウホッホ探検隊」(福武文庫)を読んだ。1987年4月4月に読了の記述があるから読むのは2度目だ。★理由はよくわからないが(たぶん夫の不倫が原因なのだろうが)、夫婦が別れることになった。夫婦には小二人の小学生の息子がいる。母親が二人を引き取ることになったが、微妙な年ごろだから、夫婦の問題をどう伝えるか悩む母親。★子どもたちは、父と母の微妙な空気を感じていら立つこともあるが、子どもながらに親を思いやっている様子。★中盤までは母親が長男に「君」と語る文体で進む。二人称の文体...干刈あがた「ウホッホ探検隊」
★春休み最後の日曜日。今日も好天に恵まれ、桜は満開だ。★福永武彦さんの「草の花」(新潮文庫)を読んだ。物語は終戦からそれほど遠くないある冬から始まる。舞台は郊外のサナトリウムで、主人公(語り手)は他の患者と共に結核の療養をしている。彼はそこで汐見茂思という同じ年頃の男性と出会う。★汐見は病状が重く、友人からの自重を勧める声に迷うこともなく、当時まだ危険であった片肺の全摘手術を希望する。手術は始め順調に進んでいたが、やがて血圧が低下し、亡くなってしまう。★主人公は汐見から2冊のノートを託されていた。それを読みながら、彼の死が術中死なのか、それとも彼が自ら望んでの体の良い自殺だったのか思いを巡らす。★2冊のノートには汐見が経験した2つの失恋が描かれていた。★理知的で純粋であるがゆえに苦悩も大きかったようだ。神...福永武彦「草の花」
★今日は授業が2コマ(2人)しかなく、のんびりした日だった。あまりにのんびりしすぎて呆けてしまうのではと心配になる。★今日の収穫は、川西政明さんの「『死霊』から『キッチン』へ」(講談社現代新書)を読んだこと。「日本文学の戦後50年」と副題にあるように、1945年から1995年までの文学界の変遷を具体的な作家、作品を上げながら解説している。著者の川西政明さんは河出書房新社の編集者から後に文芸評論家になられた方。★戦後直後の作品。戦争でまさに死と直面した作家が描いた世界は凄みがある。武田泰淳の「ひかりごけ」や梅崎春生の「幻花」、椎名麟三の「深夜の酒宴」など読んでみたい。★三島由紀夫の「金閣寺」や遠藤周作の「沈黙」、大江健三郎の「飼育」などはすでに読んでいるので、解説を読んで「なるほどなぁ」と思った。★私が安倍...川西政明「『死霊』から『キッチン』へ」
★数年前、近所にできたパン屋のパンが最近とてもおいしくなった。焼きカレーパンやメロンパンがよく売れているそうだが、私は卵とレタス&ハムのサンドイッチが好きだ。おいしいパンは外皮(パンの耳)までおいしい。いや、食パンなどは外皮が一番おいしい。マーガリンや何もつけずに十分に味わえる。★パンがおいしかったので、何かパンがらみの作品はないかと本棚をあさる。群ようこさんの「パンとスープとネコ日和」(角川春樹事務所)、木皿泉さんの「昨夜のカレー、明日のパン」(河出文庫)が目についたが、どちらもすでに読んでいる。★更に探していると、村上春樹さんの「パン屋再襲撃」(文春文庫)を見つけた。直接パンとは何の関係もないが、その中から「ねじまき鳥と火曜日の女たち」を読んだ。★主人公の男性は法律事務所に勤めていたが、何かしっくりこ...村上春樹「ねじまき鳥と火曜日の女たち」
★2011年の大学入試センター試験に加藤幸子さんの「海辺暮らし」が出題されていた。長年干潟で暮らすおばあさん。工場が流す排水で干潟が汚染され、おばあさんは役所から立ち退きを迫られる話だった。★今日は、加藤幸子さんの「自然連禱」(未知谷)から「雪売り屋」を読んだ。★ある女性、二人の娘と夫の4人暮らしのようだ。彼女がお気に入りの風呂吹き大根を煮ていると、聞き慣れる御用聞きがやって来た。話を聞くと「雪売り屋」だという。日本各地はもとより世界各地の雪を取り揃えているとのこと。★あまりにも怪しいので追い返そうとしたが、次女が興味を持ったらしく、やむなく「サッポロ雪瓶」を買うことに。やがて食卓に飾られた雪瓶。雪は規則正しく溶け、溶けた分だけ空間ができる。さながら雪時計だという。★それにしても怪しい商売。騙されたに違い...加藤幸子「雪売り屋」
★元NHKアナウンサー、鈴木健二さんが老衰のため亡くなられたという。★鈴木さんと言えば「クイズ面白ゼミナール」の司会や「紅白歌合戦」で、引退する都はるみさんにアンコールの交渉をした「私に1分間時間をください。歌えますか」というシーンが思い出深い。★「クイズ面白ゼミナール」は、仮説実験授業の要素を取り入れ、当時人気があった。★今日は、鈴木健二さんの「気配りのすすめ」(講談社文庫)を読み返した。400万部を超える大ベストセラー。(とはいえ、その印税の83%は税務署にお届けした。と「文庫本刊行に当たって」で告白されている)★1982年発行(文庫版は1985年、昭和60年初版)の著書なので、令和の視点から見ると、例えば父親らしさや母親らしさなど少々ステレオタイプであるように感じる。時代は急速に多様化が進んでいる。...鈴木健二「気くばりのすすめ」
★春期講座7日目。残るはあと3日。ここ2日間は晴天が続き、どうやら明日は大荒れになるらしい。これを機会に桜の開花のきっかけになるかも。今年はちょうど入学シーズンに満開になりそうだ。★菊池寛の「マスク」(青空文庫)を読んだ。志賀直哉が「流行感冒」を書いた同じ頃の話か。★主人公の男性、外見は健康そうだが内臓は弱い。特に心肺が弱っているらしく、ちょっと運動をするだけで息切れがする。医者に診てもらったところ、差し当たっての治療は脂肪分が多い食品を避け、あっさりした野菜を食べればよいとのこと。食をこよなく愛する彼には実に過酷なアドバイスだ。★時に流感が大流行。人々がマスクを装着し、彼もまたマスク、手洗い、うがいを励行する。★季節が温かくなり流行が下火になるとマスクをする人々が減ってきた。そうした人々を横目に彼はマス...菊池寛「マスク」
★新年度が始まった。コロナ禍が一段落し、学校では何年かぶりに離任式が行われた。大学や企業では入学式や入社式が行われたようだ。★受験が終わり、この週末は嘘のようにのんびりした。のんびりしすぎて、生活リズムが狂い気味。折込チラシを新聞販売所に持ち込み、映画「キングスマンファースト・エージェント」を観て、あとはだらだらと過ごした。★NHKの「笑わない数学」から「カオス理論」の回を観て、三体問題とはこういうことなのかと思ったりした。★暇になると読書も滞り気味になる。忙しい時の方が読み進めるのが不思議だ。小池真理子さんの「玉虫と十一の掌篇小説」(新潮文庫)から「声」と「いのち滴る」を読んだ。★「声」は、男が、容姿は醜いが美しい声を持つ女を監禁する話。籠の中の鳥のように。★「いのち滴る」は、ある女性の業の深さを感じる...小池真理子「玉虫と十一の掌篇小説」から
★春期講座前半戦終了。春期講座はまだ受講者が少ないので負担は小さい。★朝日新聞の「文芸時評」で古川日出夫さんが芥川龍之介の「歯車」を紹介していたので読んでみた。35歳でこの世を去った芥川の遺作だという。★古典にテーマを求めた作品とは違って、私小説、心境小説といったところか。主人公は神経が過敏になり、十分に睡眠がとれず、底なし沼に落ちたようにもがけばもがくほどに苦しみが増幅される。★彼は時々目に歯車を見るという。その後頭痛を発症するというから、今でいう片頭痛か。★私も高校3年生から予備校生時代にかけて、ストレスからか片頭痛を発症した。最初は目の病気かと思い、町医者の眼科医の紹介で日赤で検査をするも原因がわからず、次いで府立医大で問診の結果、片頭痛ということになった。私の片頭痛の特徴は閃光暗点というもので、ま...芥川龍之介「歯車」
★昨日から一転して今日は麗らかな晴天。日照りは気持ち良いが花粉が飛んでいるのか、顔面が腫れぼったい気がする。★huluで「十角館の殺人」を観始めた。NETFLIXで「三体」を観たせいか見劣りがする。キャストの演技もいまいちだ。資本の差だろうか。改めて原作、綾辻行人さんの「十角館の殺人」(講談社文庫)を読み始めた。★三浦しをんさんの「天国旅行」(新潮文庫)から「星くずドライブ」を読んだ。バイト帰りの彼女がやって来た。半分同棲しているから、帰ってきたというべきか。ところがどうも様子がおかしい。食欲もないようだし、以前、バイト先の店長に言い寄られたと言っていたから、何かあったのか。★そんな不信感を抱きながらも数日が経過した。彼女と連れ立って大学に通学したとき、あることが判明する。どうやら横にいる彼女はもはやかつ...三浦しをん「天国旅行」から
★朝からの本降りがやっと上がった。近所のおいしいパン屋さんで卵サンドを買い、おいしいコーヒーと共に頂く。束の間の至福だ。★NETFLIX版「三体」を観終わった。先端科学者たちの連続自殺。科学者たちの目から離れないカウントダウン。それらは何を意味しているのか。物語は文化大革命期の中国に飛び、その秘密基地で行われた異星人とのコンタクト計画が描かれる。地球からのメッセージを受け取った高度に発達した異星人は400年後に地球を襲撃するという。彼らにとっては虫同前の人類。果たして人類は駆逐されてしまうのか。それとも生き残れるのか。★400年の猶予というのが面白い。このまま環境破壊が進めば。異星人の来襲を待たずとも人類は滅んでしまうかも知れない。★宇宙を舞台とした広大な物語があるかと思えば、どうでもよいような(本人たち...青山七恵「欅の部屋」
★指揮者を取り巻く人間模様は、しばしば映画やドラマで取り上げられる。★篠田節子さんの「秋の花火」(文春文庫)から表題作を読んだ。著名な指揮者。彼が指揮棒を振ると演奏家一人一人の個性が光り、それが合わさりあって美しいハーモニーを奏でる。彼は天才的な指揮者であり、音楽の神は彼に微笑んだに違いない。★しかし、そんな彼も指揮台をおりると、酒癖、女癖の悪さが周囲の者を困らせた。指揮台のキリっとした姿とは全く対照的なだらしなさ。そんな彼が病に倒れた。★彼は家族を離れ愛人と暮らしていた。その愛人に先立たれた後は酒浸りの日々。当然のように病が襲ったのだ。★病んだと言って今さら彼の妻子は30年の空白を埋められない。本宅の傍で彼は一人暮らすことになった。そして、彼の教え子たちが母屋の顔色をうかがいながら彼の世話をしていた。し...篠田節子「秋の花火」
★久しぶりに、フランクリン・コヴィー・ジャパン監修「(まんがでわかる)7つの習慣」(宝島社)を読み返した。心に響き、とても感動した。★この作品は、スティーブン・R・コヴィーの「7つの習慣」をわかりやすいようにマンガで解説している。主人公は亡くなった父親のバーを引き継ぐため、バーテンダーの修業を始めた女性。彼女は見習いをしながら、バーテンダーとしての技術、経営の心構え、そして何よりもより良く生きるための指針のようなものを学んでいく。★7つの習慣とは、「主体的であること」「終わりを思い描くこと」「最優先事項を優先すること」「win-winを考えること」「まず理解に徹し、そして理解されること」「シナジーを創り出すこと」そして「刃を研ぐこと」★要するに、困難に出会ったとき環境のせいにするのではなく、見方を変えて、...コヴィー「(まんがでわかる)7つの習慣」