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  • 遠藤周作「海と毒薬」より

    ★小説には時代を超えて読み継がれる作品がある。遠藤周作の「海と毒薬」もその1つであろう。★遠藤周作さんの「海と毒薬」(角川文庫)から第1章を読んだ。時代は戦時中。街では空襲で人が死に、病院では肺を病んで死を待つ人が大勢いた。命が軽視されていた時代。★物語は戦後、郊外に越してきた男性が、ある無口な医師と出会うことから始まる。この医師、腕は確かなのだが不愛想。そして男性は偶然、医師の過去を知る。★そのあと医師の物語が始まる。医師は九州の大学病院で外科に所属していた。彼はそこで人体実験に加担してしまい、戦後裁かれる。★戦場で敵を殺せば英雄と呼ばれる時代。捕虜を人体実験に利用することに医者の倫理観は対抗できなかったのか。★手術の生々しさは泉鏡花の「外科室」。外科部長の選挙をめぐる派閥争いは山崎豊子さんの「白い巨塔...遠藤周作「海と毒薬」より

  • 絲山秋子「ニート」から

    ★中学校の卒業式。晴天に恵まれて良かった。小学校は短縮授業とかで、午後早くから小学生たちがやってくる。彼らは元気だね。日本の未来は明るい。★さて今日は、絲山秋子さんの「ニート」(角川文庫)から「愛なんかいらねー」を読んだ。スカトロ満載で、食事時には読めない。★登場人物が自ら「変態」と言っているから、ノーマルではないのだろう。しかし、何でもオッケーのご時世だ。ある意味先祖返りということか。★フロイトさんも想像できないような時代になってきた。★金曜日と言えば「不適切にもほどがある」。今日はミュージカル抑え目だったような。最後はキョンキョン登場で驚いた。さてこのドラマ、どのようなエンディングを迎えるのやら。絲山秋子「ニート」から

  • 吉田修一「犯罪小説集」から

    ★受験が終わって急に暇になったせいか、ちょっぴり燃え尽き症候群だ。25日からは春期講座が始まる。それまでにまた英気を養わねば。★吉田修一さんの「犯罪小説集」(角川文庫)から「青田Y字路」を読んだ。この小説集、実際の事件がモチーフになっているようで、「青田Y字路」は2005年の栃木小1女児の事件が土台になっているのか。★犯行現場や犯人像で実際の事件が脚色されている。☆外は良い天気。何もする気が起こらないが、部屋のかたずけでもしましょうか。吉田修一「犯罪小説集」から

  • 堂場瞬一「メビウス」

    ★7日に入試が終わり、18日に合格発表。この10日間は何ともいやな期間だ。結果発表を前に、中学校では15日に卒業式が行われる。★さて今日は、堂場瞬一さんの「メビウス」(河出文庫)を読み終えた。学園紛争末期。先鋭化した一部のグループは企業をターゲットに爆弾テロを実行していた。★1974年、テロ集団のシンパとして彼らをサポートしていた学生グループのメンバーが主人公。爆破事件の現場に居合わせた彼は、仲間を裏切り逃亡。それから40余年、警察からも逃れ、不動産事業で成功していた。★かつてのグループメンバーからの依頼を受け、彼は久々に東京を訪れる。もはや彼らも60代。すでに事件は時効になっているのだが、一部のメンバーは彼の裏切りを未だ許してはいない様子。意図されたものか、結末は後味が悪い。★独善的、自己批判を強要する...堂場瞬一「メビウス」

  • 馳星周「少年と犬」から

    ★確定申告提出。締め切り間近ということで、列に並んでの受付。天気は良かったが、少々底冷えがした。次回から控えの受付印がなくなるという。デジタル化に進みそうだ。★帰り道、近隣の中学校で弔旗が掲げられていた。そう今日は、東日本大震災から13年目。★馳星周さんの「少年と犬」(文藝春秋)から「男と犬」を読んだ。震災で生活基盤を失った男性。裏の仕事で食いつないでいる。実家では姉が一人、認知症の母を介護している。危ない仕事でも稼がないわけにはいかない。★そんな彼がふと立ち寄ったコンビニで1匹の痩せた犬と出会う。見捨てておくわけにもいかず飼うことに。首輪から犬の名は多聞というらしいが、飼い主はどこにいるのやら。★男は犬を守り神としてかわいがるのだが・・・。★確定申告書を書いていると復興税の項目があった。私などわずかな金...馳星周「少年と犬」から

  • 篠田節子「永久保存」

    ★確定申告の書類が完成した!明日提出すれば一仕事終わりだ。★役所仕事はとにかく書類が煩雑。それに書き方の解説も役所用語が多いから、素人にはチンプンカンプン。前例を踏襲するのがやっとこさだ。★個人の税務だけでも書類の整理に困るのだから、その他のことも含めれば役所仕事は大変だろうなぁと思う。この分野、一番デジタル化が遅れているような気がする。★役所ということで、今日は篠田節子さんの「コミュニティ」(集英社文庫)から「永久保存」を読んだ。★役所で出世コースを歩んでいた男性。助役の贈収賄事件に巻き込まれ出先に左遷。彼から見れば本庁とはかけ離れた生ぬるい職場。このまま定年まで過ごすわけにはいかない。議会での捲土重来にかけるのだが、思わぬ結果に。★役所に蓄積する書類は、化石になるまで、どこかで眠り続けているのか。☆最...篠田節子「永久保存」

  • 篠田節子「聖域」

    ★明治の「チェルシー」が終売するという。シモンズが歌うCMソングが懐かしい。★マンガ家の鳥山明さんが亡くなったという。「ドラゴンボール」「Dr.スランプ」は良かったなぁ。★さて今日は、篠田節子さんの「聖域」(講談社文庫)を読み終えた。文芸誌の編集者、実藤(さねとう)は、前任者の荷物を整理す途中、失踪した作家、水名川泉の「聖域」という未完の作品を偶然見つける。★作品に入り込んだ実藤は、作品を完成してもらうべく、水名川泉を探す。そして遂に、彼女を発見するのだが。★構成自体は難しくないが、作品で語られる内容は幻想的、哲学的で、実藤同様、泥沼にはまりそうになる。小説とは何か。そもそも人が生きるとはどういうことなのか。深く考えれば、底なし沼だ。★作品の完成を依頼する実藤の言動は途中から編集者の域を逸脱している。脅迫...篠田節子「聖域」

  • 村田沙耶香「余命」

    ★京都府公立高校の中期入試がいよいよ明日に迫った。この1年間、いや中学生活3年間の総決算だ。最近は受験前に学校を休む生徒が増え、とはいえ不安なのか入れ替わり塾で最後の仕上げを行っている。いまさらジタバタしてもなのだが、彼らにとっては一つの通過儀礼だ。★「通過儀礼」といえば、少し前、篠田節子さんの「仮想儀礼」がドラマ化されていた。原作は読んだが、ドラマはまだ観ていない。篠田節子さんといえば、今「聖域」(講談社文庫)を読んでいる。★偶然「聖域」と題する未完成作品を目にした文芸誌の編集者が、失踪した作家を探すというもの。「仮想儀礼」同様、宗教が絡んでいて面白い。★時代物では垣根亮介さんの「室町無頼」(新潮文庫)を読み始めた。こちらも面白い。天秤棒1つで乱世を生きた男の話。★万城目学さんの「鹿男あをによし」(幻冬...村田沙耶香「余命」

  • 川﨑秋子「ともぐい」

    ★半年にわたる土日特訓が終了。ほっと一息。あとは塾生の健闘を祈るのみ。★さて今日は、川﨑秋子さんの「ともぐい」(新潮社)を読み終えた。直木賞受賞作。「さすが」と思える読み応えだった。★北海道の山奥で猟を生業としている熊爪という男が主人公。自分がどのような生い立ちなのかは知らず、気がついた時には養父に従って猟の腕を磨いていた。熊爪の成長を見届けると養父は彼のもとを去り、その後、熊爪は孤独に鹿や熊を撃って生きていた。★見どころは、自らに瀕死のけがを負わせた赤毛の熊との死闘シーンだ。★動物と人間との死闘は「大造じいさんとガン」(椋鳩十)や「海の命」(立松和平)を思い起こさせる。★死闘シーンまでが第1部、その後が第2部という感じか。「あしたのジョー」流に言うと、燃え尽きて真っ白になってしまった熊爪。町から子を孕ん...川﨑秋子「ともぐい」

  • 中島京子「夢見る帝国図書館」

    ★今年度最後の土日特訓。京都府公立高校中期入試まであと4日。近年、公立高校の競争率は1倍を切り、どこでもよければ、誰もが公立高校に進学できる時代になった。この背景には、少子化あり、私学に進学する生徒への授業料の助成あり、そして私学志向の高まりありと言ったところか。★私の塾のある山城通学圏は、宇治市に3校、城陽市に2校、京田辺市に1校、久御山町に1校、木津川市に1校、八幡市に1校(分校も1校)の高校がある。このうち、木津川市の高校と八幡市の高校は何年にも渡り定員割れで、市場原理で言えば統廃合やむなしだが、存続し続けるのは、政治力学の故か。それならそれで、生徒が集まる工夫をすれば良いのだが。★さて、中島京子さんの「夢見る帝国図書館」(文春文庫)を読み終えた。作家を志す女性が上野公園である婦人から声をかけられる...中島京子「夢見る帝国図書館」

  • 司馬遼太郎「戦国の忍び」より

    ★中学校の学年末テスト2日目終了。あと1日を残すのみ。公立高校中期テストまでは、あと6日だ。いよいよ大詰め。★NETFLIXドラマ「忍びの家」を観た。世界でも人気らしいが、確かに面白かった。服部vs風間。アクション、殺陣。そして家族愛のドラマだった。続編もありそうな感じで終わった。★忍者(忍者とは言わず「忍び」と言うらしい)と言えば、サスケ、カムイ、ナルトを思い浮かべるが、その特殊能力を生かし、乱世に貢献するも結局は使い捨てられていく。★忍者にちなんで、司馬遼太郎さんの「戦国の忍び」(PHP文芸文庫)から「下請忍者」を読んだ。忍者にもいろいろな家柄、グループがあるが、今でいうプロダクションのようなものか。元締めが武家から仕事を請け負い、それに応じて下忍を派遣する。そこに介在するのはカネだけで、忍者に敵も味...司馬遼太郎「戦国の忍び」より

  • 小池真理子「一炊の夢」

    ★社会の学年末テストに時事問題が出題される。期間は1月1日から2月22日までとのこと。予想問題をつくるため、この2か月を振り返ってみた。★まず、1月1日の能登半島の地震は外せない。能登半島が何県なのか、あるいは地図中で半島の場所を書かす問題が出るかも。★日本の無人月面探査機も出そうだ。「スリム」という名前を覚えること。GDPがドイツに抜かれて世界で4位になったことも押さえておきたい。新たに「指定野菜」となったブロッコリーはどうだろうか。★人物では、ゴールデングローブ賞を受賞した「君はどう生きるか」の宮崎駿監督。先ごろ亡くなった世界的な指揮者、小澤征爾さんあたりかな。★日経株価がバブル後最高値を更新したことも出るかも。バブルと言っても、今の中学生には実感がないだろうけれど。宇治市立の学校ということでNHK大...小池真理子「一炊の夢」

  • 知念実希人「天久鷹央の推理カルテ」より

    ★とにかく忙しい。体を動かく仕事ではないので肉体的には楽だが、次から次と塾生が来るので、ずっと拘束された感じ。試験が終わればこんな日が懐かしくなるのだが。★こんな日は軽い作品。知念実希人さんの「天久鷹央の推理カルテ」(新潮文庫)から「泡」を読んだ。★27歳の診断医。見かけは女子高生のようだが、謎を解く能力は天才的。そんな彼女が、病気の原因と共に事件も解決していく。★「泡」は、小学生の奇怪な体験がきっかけ。少年は暗い沼でカッパを見たというのだ。少年には夜盲症の症状はあるものの、それだけではカッパの正体はわからない。早速、部下の小鳥遊(タカナシと読む)医師と沼に向かう。そこで目撃したのは・・・。★「ドクター・ハウス」というドラマがあったが、病気の治療は、まずは診断から。病気も事件も、データを積み重ね推理してい...知念実希人「天久鷹央の推理カルテ」より

  • 江戸川乱歩「指」

    ★3連休の第1日目。とはいえ、相変わらず高校受験対策と学年末テスト対策で1日が終わる。あと12日で、この生活から解放される。★さて今日は読了本がなかった。今読書中なのは、司馬遼太郎「梟の城」(新潮文庫)なかなか重厚な物語。人物の描写はさすが司馬さんだ。中島京子「夢見る帝国図書館」(文春文庫)帝国図書館をめぐる物語村上龍「半島を出よ」(幻冬舎文庫)近未来、経済危機に陥った日本に北の特殊部隊がやってくる。川上未映子「黄色い家」(中央公論新社)15歳の少女が、母親と同年代の女性と暮らし始める。川﨑秋子「ともぐい」(新潮社)一人、猟をして生きている熊爪。放浪する熊に襲われ腰を痛める。篠田節子「聖域」(講談社文庫)出版社に勤める男が「聖域」という作品を書いた謎の作家を探す。永瀬隼介「閃光」(角川文庫)ある死体。それ...江戸川乱歩「指」

  • 葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」

    ★公立高校の前期入試の合格発表があった。全日制普通科定員のうち、およそ30%が決まる。今や高校進学率がほぼ100%で、公立高校の競争率もほぼ1.0倍の時代。前期で受からなくても、ほとんどの生徒が中期で合格する。★ではなぜ前期をするのかというと、世の中の私学志向に対抗するため。将来、国公立等の難関大学に合格しうる生徒を私学に奪われないようにするための公立の防衛策だ。理念というよりは方便。★私の時代、京都府は高校三原則(小学区制、男女共学、総合制だったかな)で、それでも高レベルを維持していたが、いつの間にか私学に抜かれ、府政が革新から保守に変わる中で諸々の改革は行われてきたが、すっかり理念が失われ、後期中等教育の改革は難しそうだ。★中島京子さんの「夢見る帝国図書館」(文春文庫)、川﨑秋子さんの「ともぐい」が熊...葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」

  • 越谷オサム「陽だまりの彼女」

    ★どんよりした朝。陽光を浴びないのでセロトニンが分泌しない。お天気同様、気持ちは晴れないが、午前中は月に1度の健康診断。血圧等の薬をもらってくる。★仕事柄か、午後から少しずつ意欲が高まってきた。高校入試に中学1・2年生の学年末テスト対策。今まで「ぼーっ」としていた塾生たちも、今回は意欲が湧いてきた様子。★さて今日は、越谷オサムさんの「陽だまりの彼女」(新潮文庫)を読んだ。★広告代理店に勤める奥田くんはクライアント先で、10数年ぶりに初恋の彼女と再会する。彼女の名前は渡会真緒。中学生の時に転校してきて、勉強が苦手なせいか、クラスのやんちゃな女子たちからいじめられていた。それを見かねて彼女を助けた奥田くん。二人は付き合うことに。★ところが、卒業を待たず奥田くんは転校。二人の関係はいったんそれで終わっていた。★...越谷オサム「陽だまりの彼女」

  • 堂場瞬一「蒼の悔恨」

    ★しとしとと雨降り。少しずつ季節が移り変わっていく。★今日は、堂場瞬一さんの「蒼の悔恨」(PHP文庫)を読み終えた。神奈川県警捜査一課のはみだし刑事、真崎薫。連続殺意犯を追い詰めるが不覚にも負傷し取り逃がしてしまう。★傷は徐々に癒されていくが、本部からは休職のお達し。マスコミの手前、体よく追い払われたのか。★真崎は、同じく負傷した赤澤奈津と犯人を追い詰めていく。★オーソドックスな展開だが、ちょっぴり裏の事情があったり、恋バナがあったり、おいしいそうな料理が出てきたり。終盤の格闘シーンは迫力があった。★最近少なくなったが、ワイド劇場を観るような感じだった。堂場瞬一「蒼の悔恨」

  • 高橋弘希「送り火」

    ★ドラマ「不適切にもほどがある」は面白いが、だんだん人間関係が複雑になってきた。それにしてもコンプライアンス(とりわけジェンダーについて)ばかり言っていると、昭和の演歌や歌謡曲はほとんどが不適切になってしまうかも知れないなぁ。★さて今日は、高橋弘希さんの「送り火」(文藝春秋)を読んだ。★都会から地方に転校した中学生が主人公。風習の違いを実感しながらも、友達ができて、それはそれで楽しい生活を過ごしていた。★前半は児童文学のような、長閑ささえ感じる。★ところが100ページを超えたあたり、第4章から空気がガラッと変わる。前半からは想像もつかないような暴力が次から次と描かれる。人間の内奥にある毒々しさが爆発する。★倫理的、道徳的には多くの問題をはらんでいるが、物語としてはこの第4章が迫力があって、一番面白かった。...高橋弘希「送り火」

  • 内田英治「ミッドナイトスワン」

    ★中学3年生の土日特訓もあと3回。今日は公立高校中期試験の過去問をやった。全員合格点に達している。この調子であと19日頑張ってほしい。★さて今日は、内田英治さんの「ミッドナイトスワン」(文春文庫)を読んだ。★凪沙はニューハーフ。男の体ながら心は女。今は歌舞伎町の店で、白鳥のコスチュームを身に着け踊っている。LGBTの時代ながら、まだ「おかま」と物珍しくみられることもたびたび。とはいえ、そんなことを気にしていても仕方がない。手術をして女性の体を得るために必死でお金を稼いでいる。★そんなある日、親戚筋から一人の女の子、一果を預けられる。中学1年生だという女の子は母親の虐待で心を閉ざし、それを見かねた親戚たちが話し合って、凪沙に預けることになったのだ。(親戚の人々は凪沙がニューハーフであることを知らない)★短気...内田英治「ミッドナイトスワン」

  • 芥川龍之介「魔術」

    ★京都府の公立高校、前期入試が終わった。次は3月7日の中期試験。これで今期の受験対策が終わる。★話題のSFベストセラー「三体」が実写化され、来月ネットフリックスで公開されるという。物理学、哲学、それにミステリーが絡んで面白そうだ。★さて今日は、中島京子さんの「夢見る帝国図書館」(文春文庫)で紹介されている芥川龍之介の「魔術」(青空文庫)を読んだ。★主人公「私」はある友人(谷崎潤一郎だという)から紹介されたインド人、マティラム・ミトラ氏の家を訪れる。彼は、バラモンの秘法を学び、その魔術を「私」に見せてくれるという。★この魔術、一種の催眠術だというが、「私」は不思議な体験をする。この魔術は誰にでも使えるとミトラ氏は言う。但し条件は欲を捨てること。そこで「私」は教えてもらうことにしたのだが、最後は思わぬどんでん...芥川龍之介「魔術」

  • 大沢在昌「無間人形」

    ★京都の私立高校の発表。塾生たちは今のところ順調に合格を積み重ねてくれている。ありがたい。この調子で、15日、16日の公立前期入試も健闘して欲しい。★さて今日は、大沢在昌さんの「無間人形」(光文社文庫)を読み終えた。新宿鮫シリーズの4で直木賞(1994年)受賞作。650ページを超える力作だった。これぞエンタメ小説という感じ。★新宿鮫こと鮫島警部が今回追う事件は、最近若者たちの間で蔓延している「キャンディ」という名の覚せい剤。★売りさばいているのはあるヤクザ組織のようだが、卸元がわからない。キーとなる人物を探っていると、同じく組織を追う麻薬Gメンと衝突することに。★紆余曲折を経ながらも、鮫島たちは政財界で幅を利かすある一族に至る。★筋はシンプルだが、とてもドラマチックに描かれている。納得の650ページだった...大沢在昌「無間人形」

  • 坂東眞砂子「火鳥」

    ★私立高校入試が終わる。今日の夜辺りからその結果が届くだろう。次は公立高校の前期入試。★さて今日は、坂東眞砂子さんの「神祭」(角川文庫)から「火鳥」を読んだ。「火鳥」というと手塚治虫さんの「火の鳥」を思い浮かべるが、それとはまったく関係がない。★時代は物語の中で「肉弾三勇士」の話が出てくるから、昭和10年前後かな。方言から四国のとある村のようだ。★その村には「ミズヨロロ」の伝説があった。全身真っ赤な鳥で、この鳥の霊に祟られると火事になるという。村のある一家が火事に見舞われ、生き残った若い女性が住む粗末な土蔵にその霊が宿っているという。★物語の主人公は竹雄という12歳の男の子。夕暮れ、川の淵で先の若い女性・みきが水浴びしている場面に出くわす。母親と同じくらいの年齢ながら、その裸体に魅せられた竹雄は性に目覚め...坂東眞砂子「火鳥」

  • 宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」

    ★今年の「本屋大賞」候補作、川上未映子さんの「黄色い家」にしても宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」にしても、コロナの影がちらつく。コロナの影響は、後年、この時代の特徴としてされるかも。★今日は、宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)を読み終えた。川﨑秋子さんの「ともぐい」(新潮社)と交互に読んでいくとその文体の落差が楽しい。★「成瀬は天下を取りにいく」はとても読みやすい青春小説だ。連作短篇のようでもあるが、成瀬あかりというちょっと変わった主人公と閉館される西武大津店が物語をつなぐ。★第1話「ありがとう西武大津店」はいわばプロローグ。慣れ親しんだデパートの閉館を前に、連日、ライオンズのユニフォームを着てローカル番組に映りこむ女子中学生。それが成瀬だ。成瀬は将来、びわ湖にデパートを建てるとい...宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」

  • 戌井昭人「ぴんぞろ」

    ★京阪神の私立高校入試第1日目。塾生が受験に行っているので、塾は開店休業。★今日は戌井昭人さんの「ぴんぞろ」(講談社文庫)を読んだ。彗星のごとく現れ、あれよあれよと新人賞、芥川賞までとってしまう作家もいれば、芥川賞候補としてノミネートはされながら、なかなか受賞に至らない作家もいる。★戌井さんは2009年、11年、12年、13年、14年と5回ノミネートされたが受賞には至っていない。「ぴんぞろ」は第145回(2011年)の候補作。★最近の芥川賞は時代性や話題性が重視されているように思う。戌井作品は概して評価は高いものの、強く推す選者に恵まれなかったというところか。★受賞の有無にかかわらず、「ぴんぞろ」はそれなりに面白く楽しめた。確かに前半は「麻雀放浪記」を思い浮かべたり、全体的に川端康成の作品を思い起こしたり...戌井昭人「ぴんぞろ」

  • 絲山秋子「ニート」

    ★京阪神の私立高校入試が明日10日から12日にかけて行われる。あっという間だった。塾生たちの健闘を祈りたい。★ということで、読書をする時間がなかったので、今日は短い作品。絲山秋子さんの「ニート」(角川文庫)から表題作を読んだ。★作家として自立できるようになった主人公が、かつて親しかった男性の窮乏を見かねて、お金を貸す話。★男性は目下、働く意欲を失い自室に引きこもっている。体は健康とあって公的な援助を受けられないことは本人も自覚し、また実家からの援助を受けることも潔しとしない。結果として当然、食事にも事無く生活に陥っている。★かつての縁(男女関係もあるが)で、見捨ててはおけない主人公。とはいえ、資金援助をするというのは気が引ける。相手から求めらえていないのに、カネを貸すというのも成功者の驕りと捉えられないか...絲山秋子「ニート」

  • 芥川龍之介「お富の貞操」

    ★中島京子さんの「夢見る帝国図書館」(文春文庫)を読んでいる。その中で、芥川龍之介の「お富の貞操」が紹介されていたので、読んでみた。さすがは芥川龍之介。とても余韻の残る作品だった。★舞台は明治元年5月14日。上野に立てこもる彰義隊と官軍との最終決戦が始まろうとしていた。戦を前に、上野界隈の町家には避難する旨お達しがあり、無人の町は静まり返っていた。★その時、ある町家に一人の乞食が入ってきた。彼はそこで懐の短銃を整備し始めた。彼は傍らに置いてきぼりにされた猫を見つける。猫相手に一人語りをしていると、外から一人の若い女性が入ってきた。★この町家に奉公しているお富という娘だ。置き去りにした猫を取りに帰ってきたという。それを聞いた男は、猫に短銃を向け、猫を助けたければ言いなりになれという。そして娘のとった行動は・...芥川龍之介「お富の貞操」

  • 石田衣良「美丘」

    ★連日良い作品に出会える。今日は石田衣良さんの「美丘」(角川文庫)を読み終えた。★以前、テレビのドラマで断片的に観た覚えがある。美丘役は吉高由里子さんだった。★前半は普通の大学生たちの様子。仲良しグループで集まっては恋バナに花を咲かし、誰かしらのバカ話で盛り上がっていた。★そんなとき、グループの一人、太一がちょっと風変わりな女性と出会う。それが美丘。太一は急速に美丘に魅かれていく。太一は自分にないものを美丘の中に見ていたのかも知れない。急速に接近した二人は同棲を始める。★そこまでなら単なる恋愛小説。実は美丘は幼い頃負ったケガが原因でクロイツフェルト・ヤコブ病(いわゆる狂牛病)に感染していた。発症すれば現代の医学では手の施しようがなく、運動機能や記憶を失い、数か月から数年で死んでしまうという。★そして、遂に...石田衣良「美丘」

  • 東野圭吾「流星の絆」

    ★東野圭吾さんの「流星の絆」(講談社文庫)を読み終えた。600ページを超える作品だったが、面白かった。★洋食屋「アリアケ」には2人の息子と1人の娘がいた。彼らが親の目を盗んで流星を見に行っている間に、何者かに両親が殺された。★弟の泰輔が犯人の顔をちらっと見たものの、それ以外に物証が乏しく、間もなく時効が成立しようとしていた。★施設で育った兄弟たちは成人し、詐欺に手を染めながら生き延びてきた。これで最後と決めた仕事。新規にオープンする洋食屋で、妹の静奈が口にしたハヤシライスは、かつて「アリアケ」で味わったものと瓜二つだった。そして、14年間、埋もれていた事件が動き出す。★特に後半、500ページを超えたあたりからが圧巻。あらためて東野さんのすごさを感じた。東野圭吾「流星の絆」

  • 佐藤賢一「日蓮」

    ★内村鑑三は「代表的日本人」(岩波文庫)として5人の人物を上げている。その一人が日蓮である。★「代表的日本人」は1894年に書かれ、1908年に再版されている。急速な近代化が進む中で、日本人とは何かを外国人にも示すために英語で書かれた。★内村は日本の仏教史を簡潔にまとめたあと、真の信仰を目指し、不惜身命で行動した人物として日蓮を上げている。彼は、法華経を唯一最高の法とし、他宗に法論を挑み、国家諌暁を行い、その行いによってさまざまな迫害を受け、迫害を受ければ受けるほど自らの使命を自覚した。★生誕800年という時期的な動機があったかどうか、2021年に発行された佐藤賢一さんの「日蓮」を読んだ。その生涯の概略は、萬屋錦之助さんが主役を演じた映画「日蓮」(1979年)などで知っていたが、それを思い出しながら読んだ...佐藤賢一「日蓮」

  • 川村元気「億男」

    ★京都の私立高校入試は2月10日から12日の間なので、今週は私学対策の最後の土日特訓だった。ほとんどの塾生は合格ラインに達しているが、油断は禁物。当日の体調を整え、実力を発揮し、ミスをせずに勝利を勝ち取って欲しい。★さて今日は、川村元気さんの「億男」(文春文庫)を読んだ。3000万円の借金を残して失踪した弟、主人公はこの返済のため、昼夜2つの仕事をかけ持っている。彼には妻と一人娘がいるが、それも行き詰まり別居を始める。★そんな時、ふと宝くじが当たり、彼は3億円を手に入れる。これで元の生活、家族一緒の生活に戻れると思ったのだが、巨万の資産を持つ親友がそのカネと共に姿を消してしまう。★彼は必死で友人を探し、次々と億男、億女と会う。その過程で「お金と幸せの関係」を考えていく。★「金は神に似ている」。「どちらも実...川村元気「億男」

  • 新井満「尋ね人の時間」

    ★ドラマ「不適切にもほどがある」が面白い。昭和(1986年)に生きる教師が令和(2024年)にタイムスリップするコミカルなドラマ。40年前は当たり前だったことが、今ではありえない。コンプライアンス違反、セクハラ、パワハラなど、皮肉を込めて面白く対比している。★それで思い出した。彼なりの受け狙いだったのだろうか、軽口をたたいただけなのか。外務大臣の容姿をからかった有力政治家が非難を浴び、発言を取り消す騒ぎとなった。★この政治家も昭和の時代ならこれほどまでに騒がれなかったかも知れない。時代は急速に変化している。時代についていけず「老害」(これも差別用語か)などと揶揄されないように心がけたいものだ。★さて読書。真藤順丈さんの「地図男」(MF文庫)は途中で挫折。地図男と出会うまでは良かったのだが、あとはついていけ...新井満「尋ね人の時間」

  • 町屋良平「しき」

    ★アニメ「薬屋のひとりごと」がなかなか面白い。コミック版を読もうと思うが、2種類出ているのでどちらを購入するか迷う。★ユーチューブでは斉藤紳士さんの「斉藤紳士の笑いと文学」がとても参考になる。★本屋大賞、候補作が発表された。どれも読んでいない。川上未映子さんの「黄色い家」と宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」が面白そうなので、早速アマゾンで注文した。★さて今日は、町屋良平さんの「しき」(河出文庫)を読み終えた。高校生が主人公。高校生には高校生なりの悩みがある。★スクールカーストあり、恋愛あり、家庭問題あり、友人関係あり。主人公が河原でダンスを楽しんでいるのが変わったところか。★途中に春夏秋冬の3行詩があるので、「しき」は四季のことか。同世代ならもっと感情移入できるかも。私にとっては少々冗長だった。ひら...町屋良平「しき」

  • 田中慎弥「切れた鎖」

    ★近隣の小中学校でインフルエンザが大流行。学級閉鎖が相次いでいる。過敏なほどのコロナ禍が去って、マスクなし生活の結果か。インフルエンザにせよ、コロナにせよ、数年前のヒステリックな大騒ぎが嘘のようだ。★学級閉鎖とはいえ、感染していない子は家にじっとしているはずもなく、共働きで両親が家にいない子どもたちは、家ですることもなく何人か近所の子がつるんで塾に来る。うちの塾は昔の駄菓子屋のような賑わいだ。★さて、子どもたちの喧騒の合間を縫って、今日は田中慎弥さんの「切れた鎖」(新潮文庫)から表題作を読んだ。★本州の西端。セメントで財を成したある一族。形ばかりの役職に就き、生活に不自由はないもの、没落の道を歩んでいる。今は祖母、娘、孫娘の3人で暮らしている。★日常を描いているのに、時代が後先行き来し、3人の人物像がつか...田中慎弥「切れた鎖」

  • 羽田圭介「走ル」

    ★羽田圭介さんの「走ル」(河出文庫)を読んだ。主人公の高校生が、物置から発掘した競技用自転車に乗って、自宅のある東京から青森まで旅をする話。★野宿を重ねながらの1000㎞。自身の体験があるからか、リアルに描かれていた。★昨日読んだ、諏訪哲史さんの「アサッテの人」が第137回(2007年)芥川賞の受賞作。今日読んだ羽田圭介さんの「走ル」は第139回(2008年)芥川賞の候補作。★この時代、他にどんな候補作品があったのか調べてみた。★第137回受賞作は諏訪哲史さん。候補作は、円城塔さんの「オブ・ザ・ベースボール」、川上未映子さんの「わたくし率イン歯一、または世界」、柴崎友香さんの「主題歌」、前田司郎さんの「グレート生活アドベンチャー」、松井雪子さんの「アウラアウラ」★第138回受賞作は川上未映子さんの「乳と卵...羽田圭介「走ル」

  • 諏訪哲史「アサッテの人」

    ★29日、月曜日の朝日新聞「文化欄」で川﨑秋子さんの「直木賞受賞エッセー」を読んだ。同居している猫の話を中心に、「受賞に伴う事務作業に戸惑う飼い主の事情など考慮せずに猫じゃらしを求めている」猫の姿が印象的だった。★今読書中の、川村元気さんの「億男」(文春文庫)でも、3億円の宝くじが当たって動揺する主人公を横目にいつもと変わらぬ様子で眠っている飼い猫(名前をマーク・ザッカーバーグという)が印象的だった。★さて今日は、諏訪哲史さんの「アサッテの人」(講談社文庫)を読み終えた。斬新な作品だった。★主人公は、失踪した叔父が残した日記を編集して小説家するのだが、まずこの叔父がちょっと風変わりな人で、意味不明の言葉(例えば「ポンパー」)を脈略なく発する。普通の会話をしていて突然大声でこの言葉が出るから、周りの人はびっ...諏訪哲史「アサッテの人」

  • 佐伯一麦「ア・ルース・ボーイ」

    ★青春時代はその最中にいるときは毎日必死で生きている。年をとって振り返ると後悔の山だが、それはそれでかけがえのない季節である。★佐伯一麦さんの「ア・ルース・ボーイ」(新潮文庫)を読んだ。17歳の主人公が18歳になるまでの日々を描いた作品。★主人公・鮮(あきら)は母親とうまくいかず、また年上の男性から幼い頃に受けた性的虐待をトラウマとして抱えている。県内有数の進学校に入学するが、その校風に馴染めず、教師から「ア・ルース・ボーイ(だらしのないやつ)」とレッテルをはられる。遂にキレた彼は高校を中退し、自活の生活を始める。★そんな時、かつて憧れていた女性が他の男の子を身ごもり、出産する。鮮は、その子の父親になることを決意して、仕事にも精を出すのだが。★不満を言いつつも、レールに乗って生きていけば楽ができるのに、そ...佐伯一麦「ア・ルース・ボーイ」

  • 金原ひとみ「蛇にピアス」

    ★今日も中学3年生の日曜特訓。昨日は公立高校前期の過去問をやったので、今日は公立高校中期の過去問。できる子、できない子の差が歴然としてきた。勝利の女神が微笑んでくれることを祈るばかりだ。★さて今日は、金原ひとみさんの「蛇にピアス」(集英社文庫)を読んだ。なかなか刺激的な作品だった。村上龍さんの「限りなく透明に近いブルー」も衝撃的だったが、同様に「性」が赤裸々に描かれている。★主人公の女性がどういう容姿なのか捉えにくい。映画を見ているから吉高由里子さんをイメージしながら読んでしまうが、ちょっと違和感がある。★主人公の女性・ルイは、アマという男性と同棲している。彼は赤髪でピアスをあけ、刺青を施し、何よりも特徴的な「舌」をもっている。その舌に感動したルイは、自らも肉体改造を始める。ルイはアマに連れられてシバとい...金原ひとみ「蛇にピアス」

  • 高野和明「ジェノサイド(下)」

    ★中学3年生の学年末テストが終わり、京都の私立高校入試まであと2週間。ラストスパートに入った。★高野和明さんの「ジェノサイド」(角川文庫)下巻を読み終えた。壮大な舞台、緻密な考証。スケールの大きな作品だった。★アメリカ大統領はある極秘作戦を命じていた。アフリカで発生した感染症を封じ込めるという表の目的の裏で新たに生まれた新人類を滅ぼすという計画だった。この新人類はやがてホモ・サピエンスの脅威になるかも知れない。かつてホモ・サピエンスが他のホモ属を駆逐したように。★アフリカでは軍事会社に所属する部隊が実行に当たる。軍事もアウトソーシングの時代か。たとえ作戦が失敗しても国家の首脳が責任を回避するためか。★一方、日本ではある大学生が父親から託された新薬開発に挑む。アフリカと日本、遠く離れた彼らが不思議な縁でつな...高野和明「ジェノサイド(下)」

  • 絲山秋子「勤労感謝の日」

    ★猛烈な寒波。京都南部でも粉雪が舞う。中学3年生の学年末テストは2日目。寒い中、みんな頑張っている。★さて今日は、絲山秋子さんの「沖で待つ」(文春文庫)から「勤労感謝の日」を読んだ。予想以上に面白かった。★主人公は36歳の独身女性。大手企業に総合職で採用されるが、そこはまだまだ女性が軽視される世界。上司のセクハラに及んで大暴れし、退職を余儀なくされる。目下失業中。失業保険もまもなく切れる。★そんな折、ご近所さんから紹介のあった見合い話。結婚願望はないが、義理堅いのと、万が一イケメンだったらと期待しながら受けたものの、全くの期待外れで途中退席。憂さ晴らしに後輩を誘って飲み歩くという話。★何しろ文章が面白い。アウシュビッツや松岡洋右の国連脱退など高尚な話題が出るかと思えば、犬の糞を踏んだ話、生理の話など。ヤサ...絲山秋子「勤労感謝の日」

  • 牧田真有子「桟橋」から

    ★共通テストの自己採点が終わり、2次試験の申し込みが始まった。★今年の国語、小説は牧田真有子さんの「桟橋」から出題。2017年発表の作品だから非常に新しい。例年は昭和初期頃の私小説がよく出るように感じるので、意表をつかれた。★牧田さんは京都府出身の方のようだが、よく知らなかった。出題された「桟橋」も初めて聞く題名だった。★出題部分は、主人公のイチナの家に8歳年上の「おば」が居候するところ。イチナが幼い頃(おばが中学生だった頃で、彼女は奇想天外な発想と芸達者ゆえ、児童公園で子どもたちの人気を集めていた)の思い出を語り、劇団に籍を置きながら居候を転々とするおばの不思議な存在を考えるというもの。★結構地味な作品だが、前後を読んでみたくなった。残念ながら単行本化されていないし、掲載誌(「文藝2017年秋季号」及び...牧田真有子「桟橋」から

  • 立松和平「金魚買い」

    ★自民党・宏池会(岸田派)は解散するようだ。一方で麻生派は存続するとか。解散する派閥は「旧岸田派」などと呼ばれるようになるだろうが、リクルート後の30年前の繰り返しで、世論の当面の批判をかわすための煙幕か。時がたてばまた再結成されるのは目に見えている。内向きのゴタゴタより、他にすることがあろうに。★さて今日は、立松和平さんの「卵洗い」(講談社文芸文庫)から「卵買い」と「金魚買い」を読んだ。★戦後まだ日が浅い、昭和20年代のある家族の風景のようだ。主人公はまだ幼く、彼の目を通した父母や近隣の人が描かれている。★コンビニなど全くなかった時代。少年の家は小さな食料品店を営んでいた。父親は生産者から卵を仕入れて来てはきれいに藁くずの上に置き店で売っていた。接客など店を切り盛りするのは母親の仕事。食パンの切り売りや...立松和平「金魚買い」

  • 高山羽根子「居た場所」

    ★朝から月に1度の診察。といっても血圧と血糖値を測り、ひと月分の薬をもらうだけ。ドクターが80歳を超えた高齢の方なので、自分の方が元気だなぁと思った。★新規入塾の問い合わせが2件。1月だけで4件目だ。何も宣伝をしていないのに口コミで広がってくれる。ありがたいことだ。★さて今日は、高山羽根子さんの「居た場所」(河出書房新社)を読んだ。比較的短い作品なので読みやすかった。ただ内容はわかったような、わからないような、読者のイマジネーションに委ねられる作品だった。★中国南部かベトナム辺りから介護研修で日本に来た女性。縁あってか日本人の男性と結婚する。入籍の挨拶を兼ね二人は故郷の離島に赴き、それから彼女が初めて一人暮らしをしたという町を訪れる。しかし、町の姿はすっかり変わっていた。★冒頭から出てくるタッタと言われる...高山羽根子「居た場所」

  • 山田詠美「風葬の教室」

    ★塾生を見ていて、小学5年生の女子の人間関係の複雑さを思う。年齢的に不安定な時期なのだろうが、仲良しグループかと思いきや翌日には絶交していたり、絶交したのかと思ったらまた仲良くなっていたり。★よく言えば人付き合いの距離感を学んでいるということだろうが、異性(同学年の男の子はまだ幼い)や教師(好き嫌いの差が激しい)との関係も絡んで揺れ動いている。親同士の人間関係が絡んでいる時もある。★今日は山田詠美さんの「蝶々の纏足風葬の教室」(新潮文庫)から「風葬の教室」を読んだ。★主人公は小学5年生の女子。彼女が転校した日から物語が始まる。初日から値踏みが始まり、いわばお局たちに気に入られなければ、排斥、集団いじめへと発展する。きっかけはごく些細なことでも。★教師は彼女たちを子ども扱いしているが、現実は意外と深刻だ。★...山田詠美「風葬の教室」

  • 円城塔「オブ・ザ・ベースボール」

    ★冷たい雨が降る。どこにも行けず、中学3年生の「土曜特訓」。来週は学年末テストだ。★疲れた頭には酷だが、円城塔さんの「オブ・ザ・ベースボール」(文春文庫)にチャレンジした。★ある町。退屈この上ない町だが、年に一度(平均的、正規分布的にそうなのらしいが)、空から人が落ちてくる。なぜ落ちてくるのかはわからないが、落ちてくるからには救助しなければならない。ということで、結成された9人の救助隊。★ユニフォームとバットを身に着け、それぞれのポジションに散らばり、落ちてくる人に遭遇したら、バットで空に打ち返すらしい。目下のところ救助できた確率はゼロ。結局は肉の塊となったそれを片付けるのが仕事になっている。★物理法則や確率論が散りばめられ、滔々と語られているが、結局未消化で読書を終える。★小説の世界の奥は深い。こうした...円城塔「オブ・ザ・ベースボール」

  • 山田詠美「生鮮てるてる坊主」

    ★山田詠美さんの「珠玉の短編」(講談社文庫)から「生鮮てるてる坊主」を読んだ。なんか背筋が寒くなる話だった。★登場人物は3人。男一人と女二人。仮に女をA、Bとすると、男と女Aは夫婦で、女Bはこの夫婦の友達づきあいをしている。特に、男とは結婚前からのつきあい。とはいえ、二人に恋愛感情はなく、もちろん性的な関係もなかった。★男の妻である女Aがちょっと変わったタイプで、人間関係で何かトラブルを起こすたび、男と女Bがフォローするといった関係だった。★女Aもこんな男女の「友情」を認めているはずだったのだが・・・。★モノは取りようで、悪意の目で見れば何でも不都合に見えてしまう。理屈の通じない人と付き合うのは大変だ。このしがらみから逃れる唯一の方法は、付き合わない、かかわらないことなのだが。☆ふと気が付くと今年も20日...山田詠美「生鮮てるてる坊主」

  • 中島敦「悟浄歎異」

    ★第170回芥川賞・直木賞の発表から一夜が明けた。芥川賞は前評判通り九段理江さんの「東京都同情塔」だったが、混戦の直木賞は大方の予想がはずれて、万城目学さんの「八月の御所グラウンド」だった。ノミネート6回目の受賞ということで、実力は認められながら「ようやく」といったところか。★京都(あるいは近畿圏)を舞台とした異界モノは「万城目派」と「森見派」に分かれるらしい。森見さんも遠からず直木賞を受賞されるかも知れない。★何はともあれ、権威ある賞は斜陽の出版界には朗報だ。「八月の御所グラウンド」を購入しようと思ったら在庫切れ状態だった。文庫化まで待つか。★手元にあった万城目学さんの「悟浄出立」(新潮文庫)から「序」を読んだ。「序」では作家となった万城目さんが本作を書くに至った動機を書いている。万城目さんが「西遊記」...中島敦「悟浄歎異」

  • 九段理江「東京同情塔」

    ★九段理江さんの単行本「東京同情塔」(新潮社)が届いたので読んだ。あふれんばかりの言葉に圧倒された。★東京都の中心部に建てられた「東京都同情塔」。別名「シンパシータワートーキョー」というが、要は刑務所だ。その設計をした人物が主人公。★巷にあふれるカタカナ語への皮肉。差別語など不適切な言葉をカタカナにすることで何となく納得している現実。今はまだホモ・サピエンスがAIを扱っているが、遠からずAIに屈するような予感。★難解な文脈の狭間に見える「理解できる世界」。私の頭脳で「理解できない世界」と「理解できる世界」を行ったり来たりする奇妙な感覚。★最終盤に至ってそもそも「塔」あるいは人間の手による「造形物」とは何か。それを生み出す人間とは何かと思い至らしめる。★渋谷の「忠犬ハチ公像」や京阪三条駅の「高山彦九郎像」は...九段理江「東京同情塔」

  • 吉村昭「光る藻」

    ★株価が高騰している。バブリーなはずなのにまったく実感がない。1980年代とは明らかに違うなぁ。★冬期講座、模試、英検、共通テストと一連の行事が終わり、次は中学3年生の学年末テスト。そして受験にまっしぐらだ。塾業界にとっては正念場。★今日は吉村昭さんの「遠い幻影」(文春文庫)から「アルバム」と「光る藻」を読んだ。どちらも、人生のある点の一風景という感じ。★「アルバム」は主人公が家を新築するため、古家を解体するシーンから始まる。希望と郷愁が入り乱れた感情。そこで主人公はある男と出会う。彼は廃材をトラックに積んでいた。その風貌から格闘技をしていたようだ。主人公はボクシングが好きだったので男に話しかけると、男はかつて自分が活躍した姿をスクラップしたアルバムを主人公に渡した、という話。★「光る藻」は食べるものがな...吉村昭「光る藻」

  • 小池真理子「千年烈日」

    ★正月、久々にドラマ「恋人よ」(1995年)を観た。男と女のドロドロとした愛憎劇だったが、最終回はセリーヌ・ディオンさんの「ToLoveYouMore」が素晴らしく、とても感動した。★男女関係ということで、小池真理子さんの「玉虫と十一の掌編小説」(新潮文庫)から「千年烈日」を読んだ。★妻と二人の男の子の父親である男、夫と一人の娘の母親である女。この男女がいわゆるダブル不倫に至る。★家族には秘密で付き合う二人。1年間秘密を通せた。男は亡き父母の墓参りに女を誘う。墓に花を供えながら女はある既視感に陥る。★輪廻転生なのだろうか。生と死、生と性。人間の心の深いところをくすぐる作品だった。★二人の行く末が心配ではあるが、それは読者が思い悩んでも仕方のないことだ(笑)。小池真理子「千年烈日」

  • 映画「駅 STATION」

    ★今朝の朝日新聞「天声人語」。先ごろ亡くなった八代亜紀さんへの追悼文のようだった。筆者の気持ちが伝わってきた。★そこで紹介されていたので、映画「駅STATION」(1981年)を観た。以前観たことがあるけれど、あらためて観ると大人の恋が身に染みる。★孤独な男を高倉健さんが、孤独な女を倍賞千恵子さんが演じていた。高倉さんは渋く、倍賞さんは美しく。紅白のテレビを観ながら、日本酒を酌み交わすシーン。そこで流れる八代亜紀さんの「舟歌」。もはや無駄なセリフはいらない。★「間」が心に響く映画を久しぶりに観た。★脚本、監督、俳優、そして歌が揃った素晴らしい作品だと思う。日本酒が飲みたくなった。映画「駅STATION」

  • 今村夏子「チズさん」

    ★年末から続いた冬期講座最終日。わずか10日間だったが、出席した生徒はそれぞれに力をつけてくれたと思う。近隣の小中学校は明日から新学期。朝、ちょっとゆっくり寝れそうだ。★今村夏子さんの「こちらあみ子」(ちくま文庫)から「チズさん」を読んだ。とても短い作品。★「私」の近くに「チズさん」というおばあさんが住んでいたという。このおばあさん、年をとったせいか、身体が曲がりまっすぐに立てない。言葉も「みきお」としか発しない。「みきお」はおばあさんの子どもで離れたところに住んでいるという。★小学生を見れば「みきお」と呼び、おばあさんは認知症が進んでいるのかも知れない。★最初は介護モノかと思いきや、本当の家族がやってきてから雲行きが怪しくなる。★「私」っていったい何者なのか。そもそも現実世界の存在なのだろうか。答えを示...今村夏子「チズさん」

  • 松岡圭祐「高校事変」

    ★今朝は模試だったので7時起き。しばしば眠気に襲われながら、松岡圭祐さんの「高校事変」(角川文庫)を読み終えた。★人気取りもかねて総理大臣が訪れた高校をテロ集団が襲撃する。多くの教員や生徒が犠牲になり、高校が占拠される。★危うく難を逃れた総理大臣。生き残った人々もいくつかの教室に分かれて息をひそめる。そんな彼らにもテロ集団が迫る。★彼らの目的は総理大臣の拉致か。そんな時、ありきたりの武器を手作りし、一人の女学生が立ち上がる。★彼女はかつて大規模な無差別テロを起こした「半グレ集団」の指導者の娘。世間からの偏見にさらされながら、今は普通の女子高校生として日々を送っていた。そんな彼女の幼いころから鍛えられた技術が生かされる。★「ダイハード」のような戦いが始まる。「事変」には黒幕がいた。☆女子高生の生い立ちは大規...松岡圭祐「高校事変」

  • 小川糸「季節はずれのきりたんぽ」

    ★冬期講座はあと1日、8日の成人の日を残すのみ。明日は今年度最後の五ツ木・京都模試だ。今年度ももうすぐ終わる。1年が早い。悔いを残さず、日々を過ごしたいものだ。★小川糸さんの「あつあつを召し上がれ」(新潮文庫)から「季節はずれのきりたんぽ」を読んだ。★この物語に登場する主人公(40代の女性)の父親も体調の不良を訴え、受診すれば即入院。あれよあれよと言う間に亡くなっってしまう。あまりの急展開に主人公自身も母親も現実を受け入れられない様子。★父親は世渡りが下手で、存在感を示せるのは家庭だけ。向田邦子さん描く「父親像」のようで、なかなか気難しそうだ。しかし、そんな気難しさも亡くしてみれば懐かしい。★主人公と母親は、父親を偲んで、梅雨時だというのにきりたんぽ鍋をつくる。しかし、どうも味が変だ。実は・・・という話。...小川糸「季節はずれのきりたんぽ」

  • 笙野頼子「二百回忌」

    ★正月三が日も自習室を開けていたので、受験生たちが連日利用していた。明日からは平常通り。★年明け早々、大地震、航空事故と波乱続きだ。「やばい」という言葉を何度聞いたことだろう。被害に遭われた方々は本当にお気の毒だ。天災、人災、内憂外患と、この1年は荒れるのだろうか。★とはいえ、不安におののいても仕方がない。前向きに進んでいこう。★今日は笙野頼子さんの「笙野頼子三冠小説集」(河出文庫)から「二百回忌」を読んだ。「三冠」とは、野間文芸新人賞受賞作の「なにもしていない」、芥川賞受賞作「タイムスリップ・コンビナート」、そして三島由紀夫賞受賞の本作だ。★難解だということは覚悟していたが、作品の世界観に入るのはなかなか困難だった。★とある村。そこは本家、分家の格式がやかましく、旧来の封建的な雰囲気が漂っている。その村...笙野頼子「二百回忌」

  • 大江健三郎「奇妙な仕事」

    ★今日は大江健三郎さんの「自選短篇」(岩波文庫)から「奇妙な仕事」を読んだ。1380円+税と高価だが、800ページを超える圧巻の短篇集だ。★「奇妙な仕事」は1957年の作品で、後の大江作品に比べて実に読みやすい。★ある学生がアルバイトをすることになった。その仕事というのは、病院で不要となった犬(病院には飼育する予算もないという)を殺処分すること。3日で150匹を殺すという。★この仕事に年配の男と3人の学生(1人は大学院生で、1人は女子学生、そして主人公である)が当たる。年配の男が撲殺し、学生たちはその前準備や後処理を手伝う。★今まで実験動物として飼いならされ、不要となれば処分される。犬たちは死を前に沈んだ瞳で主人公を見つめる。☆作品を読むうちに飼いならされ不条理に殺される犬は、翻って私たち人間のことではな...大江健三郎「奇妙な仕事」

  • 萩原葉子「天上の花」

    新年明けましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願いいたします。★大晦日は4時半で塾を閉め、ゆっくりとテレビを観る。NETFLIXで「ボディガードー守るべきものー」「ハート・オブ・ストーン」。★NETFLIXのコンテンツが益々良くなっている気がする。スパイ組織に所属するエージェントを扱った「ハート・オブ・ストーン」など「007」や「ミッション・インポッシブル」を思わせる。★読書は、萩原葉子さんの「天上の花」(小学館)を読み終えた。「日本近代詩の父」と言われる萩原朔太郎の娘が、父を師と仰ぐ三好達治を描いた作品。★前半は、幼少期の主人公から見た三好。三好は朔太郎の妹・慶子に恋焦がれていた。本来なら叶わぬ恋心であったが、モノのない戦時中ということもあり、慶子は三好の申し出を受け入れ、冬の厳しい日本海の街...萩原葉子「天上の花」

  • 山本文緒「偏屈」

    ★冬期講座は6日を終え、今日から3日間は開店休業。受験生が自習にやってくるだけ。★頼んでいたおせちを受け取りに行き、近所のスーパーが3日まで開かないのでちょっと買い物をして、教室に掃除機をかける。1年が無事に終わる。★ふと本棚にある山本文緒さんの「ファースト・プライオリティ」(角川文庫)が目についた。31歳の主人公が描かれた掌篇小説集だ。最初の作品「偏屈」を読んだ。★流れのままに大学に進学し、流れのままに就職が決まり、仕事にも慣れた31歳の女性。仕事や勉強は楽しいが、人と調子を合わせたり、群れるのが大の苦手。★付き合いが悪いので、最早誘いの声もかからないが、会社で生きていくには最低限のつきあいは必要になってくる。彼女にとってそれは苦痛以外の何物でもない。★彼女は社会からの隔絶を望んでいるのか。孤高を求めて...山本文緒「偏屈」

  • 冬期講座4日目

    ★年の瀬も迫ってきたが、この時期忙しいのが塾業界。あっという間にクリスマスが去り、あっという間に正月も過ぎていく。今年も31日まで授業があり、元旦から受験生がやって来る。塾経営、創業から46年目に突入します。すっかりライフワークになりました。★合間を縫っての読書。遅々として進まないが、今読んでいる本は、司馬遼太郎「梟の城」(新潮文庫)秀吉の命を狙う伊賀忍者の話。佐藤賢一「日蓮」(新潮文庫)日蓮の生涯はいろいろと描かれているが、佐藤版はどのように描くか。東野圭吾「流星の絆」(講談社文庫)何者かに両親を殺害された兄弟妹の話。面白いが、長い。松岡佳祐「高校事変」(角川文庫)総理大臣が訪れた高校をテロ集団が襲う。面白い。高野和明「ジェノサイド下」(角川文庫)世界規模のハラハラ感。石田衣良「美丘」(角川文庫)ちょっ...冬期講座4日目

  • 映画「大停電の夜に」

    ★高校2年生の塾生に彼女ができたという。メリークリスマス。私はといえば今年も仕事三昧のクリスマス。働けるだけありがたい。★映画「大停電の夜に」(2005年)を観た。あるクリスマスイブの夜、東京が大停電になり、そこで起こる奇跡の数々。★主演は豊川悦司さん。かつてはレコードも出すベーシスト。恋に破れて今は裏通りでバーを営んでいる。彼にあこがれるロウソク屋さんの女性を田畑智子さんが演じている。★見ず知らずの人々が、大停電の夜につながっていく。ロウソクの揺らめく光が心に残る作品だった。★部屋を暗くして観ると良い感じだ。映画「大停電の夜に」

  • 角田光代訳「桐壺」

    ★クリスマスを前にして大寒波が襲来している。小中学生は今日が終業式で、大きな荷物を持って歩く子も。心なしか楽しげだ。★来年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。紫式部と藤原道長が恋仲だったというストーリーのようだ。真偽はともかく、この機会に源氏物語を読むことにした。★世界最古の恋愛小説ともいわれる大作。とはいえこの時代では、古文が難解なのと当時の(とりわけ宮中)しきたりがわからないので、原文で全部を読むのは難しい。★高校の古文の授業で「桐壺」や「葵」の一部は学習し、マンガ「あさきゆめにし」やもうちょっと大人向けのエロチックなマンガを垣間見たが、とにかく人物が多彩でこんがらがってくる。★今までも与謝野晶子、谷崎潤一郎、瀬戸内寂聴、田辺聖子などの訳がでているが、角田光代さんの訳が読みやすそうなので、角田版で読むこと...角田光代訳「桐壺」

  • 吉村昭「ジングルベル」

    ★あと10日間で今年も終わる。学校が短縮授業になったので、小学生が昼過ぎから入れ替わりやって来る。子どもたちにとっては楽しいクリスマスにお正月だ。★さて今日は、吉村昭さんの「遠い幻影」(文春文庫)から「ジングルベル」を読んだ。★極北の刑務所に勤める刑務官の話。その日は、軽微な罪で服役中の人々を指揮して、河川敷で砂利を回収していた。★そのとき、ある服役囚がスコップを交換したいといった。確かに壊れかけていたので、近くの工務店の倉庫まで行くことを許可した。★しかしそれから20分、男は帰ってこない。「まさか逃走」と慌てた刑務官たちは男の捜索に向かう。★しばらくして、男は見つかった。彼が逃走を試みた理由とは・・・。★最近はスーパーを歩いていても一時ほどの「ジングルベル」は聞こえない。★「ジングルベル」をBGMに、ツ...吉村昭「ジングルベル」

  • 映画「グレムリン」

    ★物置のそうじをしてたら20年以上前のファービー人形が出てきた。★街がまだ活気にあふれ、確かサティというスーパーがあった時代。開店前から並んで買ったものだ。★珍しかったので、言葉を覚えさせたりしたが、すぐに飽きて、物置にしまったものだ。★電池を゙入れるとしゃべりだしたか、眠いと言ってすぐに寝てしまった。★ふと思い立って、映画「グレムリン」を゙観た。最後は「ET」同様ジンと来る。映画「グレムリン」

  • 山田詠美「サヴァラン夫人」

    ★来年の大河ドラマは紫式部が主人公。「宇治十帖」など縁の深い宇治市民としては、少なくとも最終章ぐらいは読んでおかなくては、と「あさきゆめみし」を探すが、いつか塾生に貸したらしく見つからない。ネットで原文と対訳を読む。★主人公の「薫」とライバル「匂宮」というネーミングが面白い。薫はクールな美男子の上にいい香り(体臭)がしたという。平安時代の人は風呂に入っていたのだろうか。ボディシャンプーなどはなかろうし。ぬか袋では良い香りは程遠い。★体臭は食べたものが影響するともいう。肉食主体の欧米人は結構体臭がきつい。年をとると酸っぱい感じの加齢臭が気になるが。★山田詠美さんの「珠玉の短編」(講談社文庫)から「サヴァラン夫人」を読んだ。主人公のマリが憧れる夏子さんという女性は、精神科医を辞めて占い師になったという。★この...山田詠美「サヴァラン夫人」

  • 宮部みゆき「鬼子母火」

    ★首相の「火の玉」発言。朝日新聞は早速「火だるま」と言い換える。与党税制改革大綱については「減税ずらり増税だんまり」と、政局がらみになると見出しにも気合が入ってくる様子。★さて今日は、先日に続き時代物。宮部みゆきさんの「幻色江戸ごよみ」(新潮文庫)から「鬼子母火」を読んだ。★ある酒屋から小火が出た。神棚のしめ縄が火元のようだ。焼け残ったしめ縄を調べてみると、そこに髪の毛がよりこまれていた。どうやら若い使用人の仕業だ。★彼女に話を聞いてみると、その髪は亡くなった母親のものだという。流行り病で火葬され(彼女の住む所では土葬が行われていた)、貧しさから十分な供養ができなかったから、しめ縄に髪をしのばせ、供養をしてもらおうとしたという。★女中頭の説得で、燃え残った髪の毛は丁重に葬られたが、それから不思議な出来事が...宮部みゆき「鬼子母火」

  • 藤沢周平「約束」

    ★大学の公募制推薦の結果が一段落。塾生9名中、7名の進路が決まった。★さて今日は時代小説。藤沢周平さんの「橋ものがたり」(新潮文庫)から「約束」を読んだ。★幼なじみの少年少女。おぼろげに将来を誓いながら、少年は修業を兼ねて5年間の奉公に、少女も傾いた家業を支えるために料理屋の奉公へ。5年後、小名木川の萬年橋の上で会うと約束を交わして二人は別れる。★それから月日は流れ、いよいよ約束の日。少年は立派な男に成長し、少女は女になった。待ち焦がれた日なのに、二人の心には暗い影が差す。★もはや二人は無垢な少年少女ではない。果たして二人はお互いの過去を乗り越えていけるのだろうか。★江戸の人情噺。藤沢さんの筆が読者を物語に引き込む。藤沢周平「約束」

  • 相場英雄「あたり」

    ★自民党・安倍派の裏金問題、東京地検はどこまで追及できるのか。この問題、安倍派だけに留まるのか。★田中金脈問題の時は三木内閣が、リクルート事件で有力者がこぞって失脚したときは海部内閣が成立した。もはやクリーンなイメージの三木派(河本派、高村派)はないし、どうなりますやら。★さて今日は、相場英雄さんの「ナンバー」(双葉文庫)から「あたり」を読んだ。★贈収賄を扱う警視庁捜査第2課の捜査官が主人公。都庁の幹部が収賄してるとふと耳にした情報から強制捜査に踏み切ろうとした矢先、その人物が自ら命を絶った。捜査チームとしては大失点。★新たなネタを仕入れ、リベンジを図ろうとするのだが。★後輩を釣りに誘い、さりげなくアドバイスを与える退職捜査官が良い感じだ。☆恒例の「今年の漢字」は「税」だという。「増税メガネ」のニックネー...相場英雄「あたり」

  • 伊藤左千夫「守の家」

    ★今年もあと3週間。好天につられて季節を忘れる。冬期講座の準備をしなくては。★現代文ばかり読んでいるので、気分を変えて少し古い作品を読んでみた。伊藤左千夫の「野菊の墓」(新潮文庫)から「守の家」。★「野菊の墓」と言えば、切ない初恋の物語。「守の家」もある意味初恋の物語だった。★とはいえ主人公は数えで5つになろうかという幼児。憧れの相手は自分を守りしてくれる15歳の女性だ。今の時代ならまだ中学生ぐらいだ。★初恋と言うにはあまりに幼いが、この年長の女性へのあこがれは母や年の離れた姉とはまた違った感情のようだ。★「野菊の墓」同様、この女性は縁談に恵まれず、若くして亡くなったとして物語は幕を閉じる。★明治45年の作品だということで、その時代の空気を感じることができた。☆さて、岸田政権はそろそろ末期。まさか指揮権の...伊藤左千夫「守の家」

  • 宮本輝「寝台車」

    ★高校の期末テストは後半戦。それが終われば少しはゆっくりできそうだ。★永田町界隈では最近「差し控える」という言葉が大流行。「控える」はともかく「差し」という言葉は何故付いているのだろうかと気になった。「差し上げる」「差し迫る」「差し出がましい」などと同源なのだろうか。★どうも政変の兆しを感じる。★さて、きな臭い話題はさておき、今日は宮本輝さんの「幻の光」(新潮文庫)から「寝台車」を読んだ。さすがに「うまいなぁ」と感じる。★主人公は大阪にある中小企業のエンジニアだった。会社の都合で配置転換され、経験のない営業畑に回された。それから飛び込み営業でせっせと販路を開拓し、ようやく大きな契約にこぎつけた。そして最終的な打ち合わせのために上京することに。★会社の残務で新幹線の最終に間に合わず、寝台車「銀河」で東京に向...宮本輝「寝台車」

  • 向田邦子「無口な手紙」

    ★12月ももう6日。今年もそろそろ年賀状の準備をしなければいけない。以前は100通ほど送っていたが今では30通程度に減っている。それでも毎年頂いている方へは送らないわけにはいかない。(音信がないと死んだのかと思われる)★最近はラインやメールが主流で、自筆の手紙やはがきなどほとんど書かなくなった。★ハガキと言えば、中学2年生の国語の教科書(東京書籍)に載っている、向田邦子さんの「字のない葉書」が印象的だ。★戦時中、向田さんの妹は疎開した。妹はまだ字が書けなかったので、父親があて名を書いた大量の葉書を渡した。元気ならばマルを書いて投函するようにと。最初書かれれていた大きなマルが、だんだん小さくなり、とうとうバツになり、そして葉書が来なくなった。★母親が迎えに行った時は虱だらけで病床に臥せっていたという。妹が帰...向田邦子「無口な手紙」

  • 原尞「子供を失った男」

    ★今日は朝から高校入試の模擬試験。同時に、高校生が期末試験の勉強でやってきていた。家から1歩も出ることなく1日が終わる。★さて今日は、原尞さんの「天使たちの探偵」(早川書房)から「子供を失った男」を読んだ。疲れた時は込み入ったトリックよりも、ハードボイルドがありがたい。★探偵業・沢崎のもとに今日は韓国籍の男がやってきた。近くの道路で幼い娘を事故で亡くし、今度は見知らぬ男から現金を要求する電話を受けたという。★この男、今では世界的な指揮者だという。ただ彼にも修業時代の苦労があり、その頃彼を支えた女性との別離も経験している。★脅迫者は、この女性がらみのものなのか。そして娘の交通事故と何か関係があるのか。探偵ならではの嗅覚で、沢崎は真相に迫っていく。★ハードボイルドの魅力はセリフのカッコよさかな。☆さて今年もあ...原尞「子供を失った男」

  • 小川糸「ポルクの晩餐」

    ★高校生の期末テスト対策と中学3年生の土曜特訓で1日が終わる。明日は朝から五ツ木の京都模試だ。★忙しかったので昼食は超久しぶりに「ボンカレー」(スーパーで安売りしていたので)を食べる。最近、レトルトのカレーとひきわり納豆を組み合わせたカレーライスにはまっている。夜は「鍋」。3人前作ったので、塾生にもおすそ分け。冬はやっぱり鍋がいい。★料理と言えば、小川糸さんの「あつあつを召し上がれ」(新潮文庫)から「ポルクの晩餐」を読んだ。豚と同棲している男の話。★何があったか心中しようと思い詰め、どうせするなら盛大な晩餐をと花のパリにやってきた。★ずいぶんとぶっ飛んだ話だが、作品の中で次々出てくる料理にうならされる。家庭料理も良いが、やはりここぞというときはプロの料理だ。なじみ深いポトフも、ここでは一味も二味も違う。★...小川糸「ポルクの晩餐」

  • 浅田次郎「ろくでなしのサンタ」

    ★12月に入った。京都の大学では今日、公募制推薦入試の合格発表が多く、うれしい知らせが届いている。少子化の中、広き門がありがたい。★高校入試に向けては、京都府公立高校の希望調査の結果が公表された。中学3年生を対象に毎年11月末に公表されている。最近は私学に押され気味の公立高校。人気の差が歴然としている。ずっと定員割れの高校は市場原理から言えば統廃合だが、そこは政治的な力が働いているようだ。★さて12月ということで、浅田次郎さんの「鉄道員」(集英社文庫)から「ろくでなしのサンタ」を読んだ。★客引きで逮捕された男。警備な罪なので早々に釈放された。その日はクリスマス・イブ。ブタバコで知り合った男の話を聞いて、彼はあることを計画する。★この男、名前を三太といい、どういうわけか、サンタを演じてしてしまった。根はいい...浅田次郎「ろくでなしのサンタ」

  • 浅田次郎「金の鎖」

    ★この時期、東京の青山界隈はイチョウで黄色く色づいているのだろう。★そんな景色を想像しながら、浅田次郎さんの「見知らぬ妻へ」(光文社文庫)から「金の鎖」を読んだ。★今ではトップデザイナーと評価されている女性が主人公。いくつかの恋愛は経験したが、結婚には至らず40を超えたキャリアウーマンだ。★今年も歳末商戦を前に深夜まで仕事に追われいる。休憩で立ち寄ったドーナツショップで、思わぬ人物に出会う。それは20年前、ほんの短い間だけ付き合った男性。そして今も忘れられない男性だった。不思議なのは、彼が年をとらず20代の姿のままだということ。★奇跡のような光景に、彼女は男性に声をかけた。★物語はこのシーンから始まる。20年の歳月。会社は100倍の規模になり、青山にビルを構えるまでになった。彼女もブランドを立ち上げるまで...浅田次郎「金の鎖」

  • 角田光代「八日目の蝉」

    ★雲ひとつない良い天気だった。★角田光代さんの「八日目の蝉」(中公文庫)を読み終えた。以前に映画を観ていたので、そのシーンを思い出しながら読んだ。★フェリー乗り場で逮捕されるシーンが一番印象に残っている。★主人公の女性、単身赴任中の職場の上司と不倫関係に。妻とは別れるとの男の甘い言葉にズルズルと関係を続けている内に妊娠。それを聞いて、男は掌を返したように出産を思いとどまらせようとする。★結局女性は中絶。一方、地方から上京し夫と暮らし始めた妻には子どもが生まれる。★やり場のない気持ちの女性は、留守中の男の家に押し入り、眠っていた赤ん坊を連れ去る。それから3年半。女性は子を育てながら逃亡を続ける。あるときは立ち退きを迫られたアパートに匿われ、あるときは宗教団体の施設で暮らす。やがてそこも抜け出し、名前を変え小...角田光代「八日目の蝉」

  • 伊集院静「のほん」

    ★中学校の期末テストが終わった。今回のテスト対策期間は長かった。苦労もしたがその分手ごたえも感じた。週明けから結果が返ってくる。★中学校の期末テストが終われば、次は高校の期末テスト。そして冬期講座と続いていく。チラシを作り、「年末年始の予定」を渡し、受験生には12月31日から1月2日までの自習室の案内を渡す。足早に1年が過ぎる。★伊集院静さんの訃報を聞き、伊集院さんのエッセイ「ねむりねこ」(講談社文庫)を手に取る。題名通り表紙の熊谷守一作「ねむりねこ」が印象的だ。★「のほん」は「ねむりねこ」のあとがき。不安になったり、悩んだりするとき、「ねむりねこ」の絵をゆっくり見ていると、「何をそんな小事に悩む。生きている、それで充分、あと何がいるというのだ」と画家の声が聞こえると気がするという。★素人とプロの違いの言...伊集院静「のほん」

  • 保阪正康「危急の時代と指導者の姿勢」

    ★中学校の期末テストが24日まで。「起きて、授業の準備をして、授業をして、寝る」というハードなルーティーンワークが続く。とりあえずあと2日間。★11日14日付「朝日新聞」、「現論」のコーナーに、保阪正康さんが「危急の時代と指導者の姿勢」と題する文章を寄せられていた。★岸田文雄内閣の支持率下落を受け、「支持されない」理由を考えている。面白いのは昭和10年代の9人の首相を分類しているところ。★「状況に流されて眼前の強硬論しか考えない東条英機型」「哲学、思想はあるが優柔不断な近衛文麿型」「迂回しながらも政治目標の完遂を目指す鈴木貫太郎型」★「信念欠如、思想欠如の無気力型」。9人の首相のうち6人がこのタイプに入るという。それぞれの時代背景があるので、この分類には異論もありそうだが、類型化しているのは面白い。★とこ...保阪正康「危急の時代と指導者の姿勢」

  • 安倍公房「事業」

    ★近隣の中学校の期末テスト、今年は勤労感謝の日を挟む22日と24日なので、テスト対策期間が長い。まだ1週間、忙しい日が続きそうだ。★短い作品ということで、安倍公房の「壁」(新潮文庫)から「事業」を読んだ。余談ながら、壁と言う言葉は最近よく使われる。「年収の壁」「80歳の壁」など。少しまでは「バカの壁」なんて本もあった。★「事業」はある事業家の話。彼は事業で成功を収める。彼が手掛けたビジネスは、鼠を品種改良して肥大化したうえで、養殖し、鼠ソーセージを製造するというもの。鼠肉ということを公表していないからか、蛋白源としての価値が評価され、事業は好調を極めた。★そんな彼が次に手掛けたのは・・・。★昆虫を蛋白源としていたのは、映画「スノーピアサー」だったか。「事業」は、チャールトン・ヘストン主演の「ソイレントグリ...安倍公房「事業」

  • 山中伸弥 平尾誠二・惠子「友情」

    ★先日観たドラマが良かったので、山中伸弥平尾誠二・惠子「友情」(講談社文庫)を読んだ。★第一部は、山中伸弥さんが平尾氏との友情を語る。★第二部は、平尾氏の夫人、惠子さんから見た山中、平井両氏の友情を語る。★第三部は、山中、平尾両氏が知り合うきっかけとなった対談を載せている。★闘病する平尾氏、彼を思いやる山中氏の気持ちに感動する。★平尾氏のリーダーシップ論は参考になった。歴戦の将の言葉は重い。★ドラマでは滝藤さんの山中教授も良かったが、平尾氏を演じる本木さんの役作りに感動した。山中伸弥平尾誠二・惠子「友情」

  • 石田祥「猫を処方いたします。」から

    ★とにかく忙しい。やるべきことが次から次へと押し寄せてくる。動けば動くほどに仕事が増えるから不思議だ。★今日は近隣の中学校が授業参観だったので、これ幸いと、石田祥さんの「猫を処方したします。」(PHP文芸文庫)から第1話を読んだ。京都本大賞受賞作だという。(こんな賞があったんだね)★香川秀太は20歳代後半。大手証券会社に勤める営業マンだ。例にもれず、その会社はブラック企業。こころにも異常をきたし、人づてを頼りにある「こころのびょういん」を訪れる。★他の精神科と同じように、ただ話を聞くだけの医師。他の精神科と同じように薬を処方されて終わりかなと秀太があきらめかけた時、なんと処方されたのが猫だった。★動物など飼ったことがない彼は戸惑う。飼っている内に猫が問題を起こすことも。ところが、どういう風の吹き回しか、事...石田祥「猫を処方いたします。」から

  • 三浦哲郎「オーリョ・デ・ボーイ」

    ★期末テストが近づいて、だんだん忙しくなってきた。この時期が多分1年で一番忙しい。まして今年は(うれしいことに)塾生が多い。★ゆっくり本を読む時間もない日々。世の中では、阪神タイガースが38年ぶりに日本シリーズを制した。前回は1985年。私は大阪のある大きな英会話学校に勤めていたので、当時の喧騒を肌で感じた。当時はまだ昭和だったんだね。若かった日々を思い出す。★岸田政権が満を持して打ち出した減税策が、想像以上の不人気で、支持率も最低とか。さらにはフェイクニュースまで登場し、どうやら岸田丸の先行きは険しそうだ。解散を打てないままに、総裁選にも出馬できず総辞職なんてこともあるのかな。★選挙目当てのバラマキは見え見えで、減税後の増税も透けて見える。かつて「米百俵」を謳った首相もいたが、税金が余っているなら教育や...三浦哲郎「オーリョ・デ・ボーイ」

  • 「NOW AND THEN」

    ★ビートルズの最後の新曲と言う「NOWANDTHEN」のオフィシャルビデオを観た。何かジーンときた。★今や老境の域に達したメンバーたち。それに、今は亡きジョン・レノンが加わり、若い日に映像も交えて描かれていた。★AI技術の凄さを感じるとともに、何か人生について考えさせられた。★1日1日をしっかり生きなきゃいかんなぁと改めて感じた。「NOWANDTHEN」

  • 「現代学校研究論集」

    ★大学時代の恩師、堀内孜先生がお亡くなりになっておよそ2年半。コロナ禍で見送られてきた「偲ぶ会」が、ホテルグランヴィア京都で開かれた。★専門の公教育経営学をはじめ、さまざまな分野でご活躍された先生ゆえ、教え子をはじめ90名余りが集った。★かつて20代の青年も、もはや60代。多くが教育の現場で活躍した面々。白髪や禿頭を輝かせながら、集えば一瞬で若かりし頃に帰ることができた。★先生の研究をどう引き継ぐのか、先生との思い出は何かなど、それぞれの思いが「現代学校研究論集特別号」(京都教育大学公教育経営研究会)としてまとまられた。★先生の教えを礎に、各人の人生行路が書かれていて感動した。もはや一期一会になるかもしれないが、再会を期して帰路についた。☆それにしても3連休の初日。京都駅の混みようは凄かった。久々に人混み...「現代学校研究論集」

  • 小池昌代「タタド」

    ★11月と言うのにこの暑さは何だろう。入塾を希望される生徒のお母様との懇談、期末テストの準備に忙しい。★郵便局へ立ち寄ると年賀状を売っていたので、50枚買った。年賀状のやり取りは年々減っているが、それでも、もらったところにはお返しをしなくては。★合間を縫って、小池昌代さんの「タタド」(新潮文庫)から表題作を読んだ。50代の夫婦と彼らと親交のある同じく50代の男女の話。★テレビのプロデューサーのイワモトと妻のスズコは海辺に家を買い、週末はそこで過ごしている。その別荘に、妻の元仕事仲間のオカダという男性とイワモトがプロデュースする番組に出演しているタマヨという俳優がやってくる。★もはや天命を知る年代だが、あっちの方はまだまだ盛んな様子。しかしそれは、若い頃の貪るようなものではなく、波に揺れる海藻のようにゆっく...小池昌代「タタド」

  • 垣根亮介「午前三時のルースター」

    ★垣根亮介さんの「午前三時のルースター」(文春文庫)を読み終えた。★旅行代理店に勤める長瀬という男が、得意先の社長から仕事の依頼を受ける。その仕事とは16歳の社長の孫にして会社の跡取りとともにベトナムを旅するということだった。★なぜベトナムなのか。社長には内密で少年に事情を聞くと、数年前に失踪した父親をあるビデオで見かけたので、捜しに行くとのこと。母親の再婚話とそれに伴う会社の合併話が浮上し、少年の心は揺れているらしい。★気乗りしない依頼ではあったが、長瀬は少年とベトナムに行き、現地での協力者も得て少年の父親捜しを始める。★ところが彼らの行動は誰かに監視され、邪魔をされる。果たして少年は父親を見つけられるのか。★発展途上にあるベトナムを舞台に、ハードボイルドタッチで物語が進む。★父親と少年との関係は、ドラ...垣根亮介「午前三時のルースター」

  • 小泉綾子「無敵の犬の夜」

    ★仕事を終えて心地よい疲労感にひたる。★先日、朝日新聞で渡邊英理さんが紹介されていた文藝賞受賞作、小泉綾子さんの「無敵の犬の夜」(「文藝」2023年冬号所収)を読んだ。★ある事故で手の指の一部を失った中学生が主人公。欠けた指が原罪のように彼に付きまとう。いつしか不良グループと付き合うようになるが、そんな時、工業高校に通う「橘さん」と出会い、彼の舎弟のようになる。★主人公と「橘さん」との九州地方の方言を交えた会話が心地よい。★中盤まではとても面白かった。モノローグで主人公が内面を吐露する終盤は、着地点を模索してさまよっている感じ。欠損した指の記述や「橘さん」とのやり取りが減って残念だった。☆さて、明日も中学3年生の土日特訓に頑張ろう。高校入試まであと110日余り。小泉綾子「無敵の犬の夜」

  • 吉村昭「海馬」

    ★昨日から今日にかけて塾生が2人増えた。高3と中3。受験が迫ってきての駆け込み入塾。うちの塾は最後の頼みということか(笑)。それはそれで、何とか志望校に入れるように頑張りたい。★さて今日は、吉村昭さんの「海馬」(新潮文庫)から表題作を読んだ。「海馬」はトドと読む。★どんな過酷な環境の中でも、人が生きるところに物語が生まれる。この作品は北海道、極北の地で海馬を撃って暮らしている人々の話。★この地では流氷と共に海馬の群れがやってくる。そして漁師が仕掛けた定置網や刺し網を破り、獲物をごっそりと食っていく。この被害を防ぐため、海馬が駆除される。海馬の方も簡単には仕留められない。人と海獣との知恵比べである。★物語はあるハンターの生い立ちや家族や恋愛などを描いていく。★先日の朝日新聞、渡邊英理さんの「いま、文学の場所...吉村昭「海馬」

  • 堀江敏幸「砂売りが通る」

    ★昨日接種したインフルエンザワクチンの跡が痛む。インフルエンザなど何十年も罹ったことはないが、一種のお守りのようなものだ。普段は閑散としている医院もこの時ばかりはと、高齢者が列をなしていた。★さて今日は、堀江敏幸さんの「熊の敷石」(講談社文庫)から「砂売りが通る」を読んだ。水彩画を鑑賞するような美しい作品だった。★男は浜辺を歩いている。傍には姪ほど年の離れた友人の妹と彼女の幼い娘がいる。友人が亡くなり、その3周忌に集まったのだ。★男はその女性を、彼女が幼いころから知っている。6歳の彼女は浜辺で砂遊びに熱中していた。15歳の彼女は「雪まつり」のように「砂まつり」があればなぁと相変わらず砂いじりを楽しんでいた。★男は外国で暮らし、「砂の城」をつくる大会があることを知り、病床の友人に手紙を送った。その手紙を彼の...堀江敏幸「砂売りが通る」

  • 田中慎弥「不意の償い」

    ★土日が忙しくなったので、月曜日、特に塾生たちが学校に通っている時間帯が束の間の休息。今週は近隣の小学校が林間学習に行ってくれるので、少しは楽かな。★さて今日は、田中慎弥さんの「切れた鎖」(新潮文庫)から「不意の償い」を読んだ。田中さんの文体は独特だ。★妻を産婦人科に運ぶ夫。妻は破水し、すぐにも生まれそうだ。その時にして、夫は果たして生まれる子が自分の子なのかと疑っている。★話は過去にさかのぼる。二人は団地で育ち、幼いころから結ばれることが暗黙の了解のようであった。二人の両親は近くのスーパーで働き、彼らが共に仕事に出た日、二人は初めて性交する。しかし同時に、スーパーが火災に遭い、両親が死んでしまう。★親に隠れた性交と親の死には何の因果もないが、男はこの偶然を気に病んでいる。★二人は結婚し、それなりに平穏な...田中慎弥「不意の償い」

  • 三浦しをん「炎」

    ★土日特訓第2週目。3時間45分の授業に塾生たちも少しずつ慣れてきた様子。慣れすぎてだらけないようにしなければ。来週からは「放課後ゼミ」(中学3年生が放課後に自学自習する)も始まる。★さて今日は、三浦しをんさんの「天国旅行」(新潮文庫)から「炎」を読んだ。最初は学園モノかと思ったが、とんでもなかった。★主人公の高校生、亜利沙は地味な女性で、自らもそれを自認していた。通学で毎朝同じバスに乗り合わせるあこがれの先輩とも声をかけるどころか、目を合わせることさえしない。★先輩には彼女がいて、それは亜利沙の同級生で初音といった。彼女は群れることをしなかったが、その美貌から周りの同級生の頭目と目されていた。★そして先輩が学校で焼身自殺をする。あまりの衝撃に作品に緊張感が走る。★先輩はなぜ死を選んだのか。心無い噂ばかり...三浦しをん「炎」

  • 森村誠一「人間の証明」

    ★連日、新しい塾生が入ってきたり、入塾に向けての相談を受けたりで、うれしい悲鳴。読書の時間がほとんどとれなかった。★今日、ようやく森村誠一さんの「人間の証明」(角川文庫)を読み終えた。★映画を何度か観て、おおよその筋はわかっていた。刑事役の松田優作さん、風に舞う麦わら帽子、そして西條八十の詩が印象的な映画だった。1970年代後半、角川書店が仕掛けたメディアミックスが成功を収めた作品だった。★「読んでから見るか、見てから読むか」がキャッチコピーだったが、映画を見てから数十年してやっと読むことができた。活字で読むと、映画では端折られている作者の時代認識が読み取れて面白かった。★ナイフが刺さったっまで息絶えた黒人青年。彼は「キスミ」と言って、荒廃するニューヨークのスラムから日本へとやってきていた。彼の来日の目的...森村誠一「人間の証明」

  • 小池真理子「玉虫」

    ★谷村新司さんがお亡くなりになったという。中学生の頃、近畿放送(KBS京都)の「丸物ワイワイカーニバル」という番組に、まだ売れる前のアリスが何度かゲスト出演されていた(と記憶している)。★「遠くで汽笛を聞きながら」など繰り返して聞いたなぁ。1970年代が懐かしい。御冥福をお祈り申し上げます。★さて読書の方はミイラ話が続いたので、今日は艶っぽい話。小池真理子さんの「玉虫と十一の掌篇小説」(新潮文庫)から「玉虫」を読んだ。★30代後半の女性が主人公。彼女が「ジジイ」と呼ぶ町長の愛人となった。20代から男でいろいろと苦労を重ねてきたようだ。★町長の愛人となり、そのお手当で生活費に困ることもなく、それなりに安定した生活を送っていた彼女だったが、そんなとき、また新たな男が現れる。★傍から見るとこの先、老いてからが心...小池真理子「玉虫」

  • 角田光代「おみちゆき」

    ★中学3年生の「土・日特訓」がスタートし、いよいよ高校受験に向けた戦いが本格化する。中学3年生16人、高校3年生10人。今年も全員志望校合格を目指して頑張ろう!★さて今日は、角田光代さんの「かなたの子」(文春文庫)から「おみちゆき」を読んだ。「遠野物語」のような土俗的な作品だった。★その集落では極秘裏にあるプロジェクトが進んでいた。寺の住職が即身仏をめざして、土中に埋もれるというのだ。★土に埋もれた住職。地表には竹の空気穴だけが出ている。集落のメンバーが毎夜交代で巡回し、住職が放つ鈴の音が聞こえれば、まだ生きているということ。それが途絶えると入滅ということになる。★100日を経て土は掘り起こされ、ミイラとなった住職が姿を現した。★住職の姿態は何を意味するのか。住職はなぜ即身仏を目指したのか。薄暗い余韻を残...角田光代「おみちゆき」

  • 吉本ばなな「ミイラ」

    ★高校の中間テスト、国語で吉本ばななさんの「バブーシュカ」が範囲ということで、読んでみようと思ったが、収録された本が手元にない。★高校生にあらすじを聞いた。彼氏の母親が亡くなった。母親は一人で彼を育てたから、彼の喪失感は半端ではない。主人公の女性は彼をなぐさめよう、励まそうと声をかけたり振舞ったりするが、どうやらそれは逆効果。ある日、風邪をひいて声が出にくくなり、表情や身振りで彼とのコミュニケーションをとっていると、それが彼の心に響いたという話。(伝聞なので、本当にそうなのかは自信がない)★「バブーシュカ」は後日に譲るとして、今日は吉本ばななさんの「体は全部知っている」(文藝春秋)から「ミイラ」を読んだ。★夜の公園、主人公の女性は若い男性から声をかけられ、彼の住居に向かう。折しも近隣では殺人事件が起こって...吉本ばなな「ミイラ」

  • 映画「1秒先の彼」

    ★高校が中間テスト。学校によって1週間程度日程に差があるので、さみだれ式に塾生がやってくる。★読書の時間が取れないので、映画「1秒先の彼」(2023年)を観た。台湾映画「1秒先の彼女」のリメイク。★京都を舞台に、何でも先走る男性と何でもちょっと遅れる女性のぎこちないけれど、ほのぼのとしたラブロマンス。★男性、皇一(すめらぎはじめ)役を岡田将生さん、女性、長宗我部麗華役を清原果那さんが演じている。レイカが天橋立の出身、ハジメが宇治出身ということで、京都市内のほか、ご当地が随所に盛り込まれている。★ハジメの実家、宇治のシーンではうちの近所の鰻屋さん「ふな栄大久保店」(平和堂大久保100番街店のほぼ隣)が登場する。そういえばハジメの母親役の羽野晶紀さんの実家は大久保駅から2駅京都よりの小倉だったと思う。そこにも...映画「1秒先の彼」

  • 浅田次郎「迷惑な死体」

    ★近隣の中学校は中間テスト1日目。テスト対策はあと1日。今年は塾生が多いのでうれしい悲鳴。(さらに入塾希望の問い合わせが今日だけで2件。いったいどうしたことやら)★忙しい中の清涼剤。今日は、浅田次郎さんの「見知らぬ妻へ」(光文社文庫)から「迷惑な死体」を読んだ。★ヤクザになりたての20代の男。マル暴恒例の家宅捜索で、お決まりの公務執行妨害で逮捕され、48時間拘留されたのち、釈放された。2日ぶりに自宅に戻ると、そこに見ず知らずの死体が横たわっていた。★慌てる男。そこに彼女からの電話がかかるやら、田舎から母親が上京してくるやら、兄貴分が訪問してくるやらと、本人はドギマギしながらも、事態は少々コミカルに進む。★殺伐とした世界を描きながら、どことなく人情味があり、最後は何となくほんのり終わるところが良い。☆明日か...浅田次郎「迷惑な死体」

  • 小川糸「いとしのハートコロリット」

    ★昨日、今日と1日中、中間テスト対策。あと1日。塾泣かせの3連休だ。★疲れた体を癒そうと、小川糸さんの「あつあつを召し上がれ」(新潮文庫)から「いとしのハートコロリット」を読んだ。小川さんの作品にはおいしそうな料理が登場する。★ご年配の女性、今日は「記念日」ということで、少々おめかしをして、腰の曲がった夫と思い出のパーラーに行く。★時代を経て現代風に変わったパーラのテーブルにごちそうが並ぶ。以前の紳士的なホールスタッフの違って、接客態度には不満はあるものの、料理は相変わらずおいしそうだ。★シャンパンで乾杯し、夫にはチキンライスとポタージュスープ。そして自分のためには「ハートコリット」。デザートは、コーヒーと小さな器に盛られた上品なパフェ。★作品のほとんどが女性の一人語りで進み、夫は無口。この辺で何か不吉な...小川糸「いとしのハートコロリット」

  • 村田喜代子「望潮」

    ★英検の資材が届く。明日は英検と中間テスト対策が重なる。この時ばかりと普段は通わない高校生もやって来る。忙しくなりそうだ。★さて今日は、村田喜代子さんの「望潮」(「日本文学100年の名作第9巻」新潮文庫所収)を読んだ。★高校時代の恩師の喜寿祝を兼ねた忘年会。恩師は酒が進むと九州の小島の話を始めた。俳句仲間と訪れたその島で見た風景が忘れられないという。1つは海岸に干されたワカメ、そしてもう一つは箱車を押す背中の曲がった老女たちだという。★その老女は1人や2人ではなく、あちこちに現れ、何をしているかと言えば観光客などの車に当たって(時には死ぬかもしれないが)、保険金を得ているという。★本当かどうか、後日、教え子の二人がその島を訪れた。しかし、そんな年寄りは見かけない。さては恩師の思い違いだったのか。とはいえ、...村田喜代子「望潮」

  • 宮部みゆき「神無月」

    ★中間テスト対策が忙しくなってきた。★さて今日は、宮部みゆきさんの「神無月」(「日本文学100年の名作第8巻」新潮文庫所収)を読んだ。★夜更け、ほの暗い居酒屋で、岡っ引きが店主相手に酒を飲んでいる。岡っ引きの話題は、毎年、神無月にだけ仕事をやる押し込み強盗のこと。★押し込みとはいっても、人を傷つけはしない。奪う金も強盗にしてはわずかだ。襲われた店も後ろめたいことがあるらしく、大きな事件にはしたくなさそうだ。そうなると捜査をする側も気が入らない。★ただ3本目の熱燗を手にしたこの岡っ引きだけは、何か心に引っかかるものを感じている。★男には押し込みをはたらかねばならない理由があった。しかし、それは許されることではない。その上、今までは運よく死者を出さなかったが、これからどうなるかはわからない。岡っ引きは事件を追...宮部みゆき「神無月」

  • 向田邦子「鮒」

    ★いよいよ中間テスト1週間前。この週末は、塾生たちがドッと押し寄せそうだ。★さて今日は、向田邦子さん「男どき女どき」(新潮文庫)から「鮒」を読んだ。さすがは向田さん。とても面白い作品だった。★塩村の家族は、妻と長女、長男の4人家族。笑い溢れる家族の穏やかな日曜日の風景から物語は始まる。そこで、事件が。誰かが台所にバケツに入った15センチ大の鮒を置いていったのだ。★このミステリーに家族はあれやこれやの大論争。ただ一人、夫(父親)だけは身に覚えがあった。★1年ほど前まで夫には愛人がいた。その時の女のアパートで飼っていた「鮒吉」に違いない。もう別れたはずなのに、女はどういう意図で「鮒吉」を置いていったのか。★情事の目撃者である「鮒吉」を見るたびに塩村の心は穏やかではない。★未練なのかどうなのか、ある日、塩村は息...向田邦子「鮒」

  • 増山実「ジュリーの世界」

    ★増山実さんの「ジュリーの世界」(ポプラ文庫)を読んだ。★ジュリーといえば沢田研二さんをすぐに思い浮かべるが、本書の主人公「ジュリー」は「河原町のジュリーさん」。今でいうホームレスだ。★物語は三条京極交番に勤める若い警察官の目を通して、1979年の京都、その街で生きる「ジュリーさん」を描いている。★私も実物の「ジュリーさん」と何度か遭遇した記憶がある。べたついた髪と強い体臭が印象に残っている。とはいえ、それはそれであまり奇異には思わなかった。それは「ジュリーさん」ご自身の風格なのか、あるいは1979年と言う時代性なのかも知れない。★「ジュリーさん」については本当か嘘かいくつかのエピソードを聞いたことがある。ある日、「ジュリーさん」はズルズルになったバナナを食べていたという。通りがかった学生だろうか、「うま...増山実「ジュリーの世界」

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