相手の険しい眉が穏やかになった。「ということなら、掛けてください。で、どういうことです?」と彼は尋ねた。「実はですね、十月十六日、夜の九時頃、ウルム通りに住むある御婦人がスフロ通りの辻馬車詰所まで使いを出して、一台の馬車を雇ってこさせたんです。そして荷物を積みこませて出発したんですが、行き先が分からない。この御婦人というのがボスの親戚の方でしてね、出先で落ち合いたいので、その馬車の番号が分かれば通常の料金に百フラン上乗せする、と言ってるんです……。ボスはどうしてもその番号が知りたいと言いますんで、その、もしもなんですが、あなたが調べてくださるのならば……。どうでしょう……。そんなこと、無理ですよね……?」借金を棒引きにすると言って貰うよりも、シュパンのためらい口調が相手を活気づけた。「いやなに、これほど簡...16章5