こんな夜は大樹の肌が尚一層白く澄んで見える高校生の時、それまで同性を性の対象として見た事はなかった。でも、大樹と同じクラスになって入学式の時に感じた感情がもっと深いものだと知ると、オレの中にずっと仕舞い込んでいた欲は溢れだすいま、こうしてコイツを腕の中に抱ける幸せそれを絶対に無くしたくない。この先何が起こったとしても、オレの腕の中には大樹の温もりがあればいい朝になると、大樹が香織と連絡をとったらし...
R18有。切ないけど楽しい物語。同級生、リーマン、日常系のお話です。
オリジナル小説・イラスト・漫画など 何でも思うまま創作中
1件〜100件
* * * 翌日、直は言葉通り午後から時間を作ると銀行へと足を運んだ。 不動産会社から聞いていた銀行は、自分の口座もあるところで、住宅ローンの相談に行くと快く案内してくれた。年齢的にも経済的にも、充分ローンは組めるという事。中古物件という事で、新築に比べたら格安の値段だが、それでも生活費を考えると返済額はばかにならない。定年を迎えるまでに完済するとなると、生活も切り詰めないといけない。 相談した...
直と光輝は、仕事の帰りに不動産会社に立ち寄ると、大下から申し込み用紙を渡された。「いやー、青山さまに気に入って頂きホッとしました。物件としては優良ですからね。難を云えば小学校や中学校には遠いという所。あと、やはり車がないと不便かもしれませんね」 大下は、直が記入している間にそう云って話すと、隣の光輝をチラリと見た。「お二人とも、今のところは独身ですか?この先ご結婚の予定があるとか?」 そう訊か...
直と光輝の楽しい休日はあっという間に終わってしまい、月曜日が来れば怒涛の日々が始まる。 いつもと違っているのは、不動産屋の大下に連絡をする内容が嬉しいものだからだ。あの平屋建ての一軒家を購入したいと思い、取り敢えずは押さえてもらえるかどうか訊く事。もし出来るのなら、次は銀行へ行ってローンが組めるか確かめる。そして、最大の難関は、直が自分の両親と兄に光輝の事を話すという事。 直にとっては、周りがど...
直の指が、少し湿った光輝の襟足に伸びる。少し伸びた髪を大事そうに指先に絡めて、優しくくちづけを交わせば互いの欲が現れて。啄ばむキスは、やがて熱を帯びて息が漏れるとカラダ中の神経を研ぎ澄ました。触れた箇所が甘く溶かされていくように、光輝は瞼を閉じると天を仰ぐ。 直のくちびるが首筋から下に降りて行くと、次を期待して粟立つ光輝の肌はしっとりと艶を放つ。「シャワー、浴びてない」という光輝の声に、口を覆う...
大下と別れて、車に乗り込んだ直と光輝は、シートに背中を預けると「ふーっ」と息を吐いた。外観も気に入ったが、中はもっと素敵な内装で、老夫婦の穏やかな日常が感じられた家だった。ここに住めたらどんなにいいだろうか、と思う程。「...........取り敢えずは帰りますか」と、エンジンを掛けた直が云った。「うん」と、光輝も頷くと、車は道を戻って行った。 寮に着く迄の車の中で、それぞれ、ぼんやりと家の事を考えてみる...
内装は、全体的にアイボリーでまとめられていて、廊下も広く壁の仕切りも少ない。厚い扉が壁の役割をしているのか、開けてしまえばワンフロアの様に広い空間になる。「ここは注文住宅で、前の持ち主さんはご自分で設計をされたんですよ。なので開放的な空間も、他にはない感じです。建売だと、どうしてもパターンが決まってしまいますからね」 大下は、そう云いながらぐるりと身体を回して広さをアピールした。「築年数が8年...
流石に敷地内に入るのは憚られて、二人は道路脇で立ち尽くすと自然に手を繋いでいた。人気の無い場所で良かったと思う。なんとなく、ここで暮らす事を想像したら、自然に手が触れ合って繋いでしまったのだ。「中も見てみたいな。不動産屋に電話してみるか」「..........うん、そうだね」 直と光輝は、しゃんと背中を伸ばすと、向きを変えて車に戻って行った。 途中、レストランに寄った二人は、そこで軽い食事をとった。食べ終...
シャワーを済ませると、コーヒーをセットしてトースターにパンを一枚入れた。髪をタオルで拭きながら、テーブルに着くとコーヒーを飲む。ひとりの、いつもの朝食が今朝は淋しい気がする。きっと直といるのが当たり前の様になっているからだと、光輝は思った。 はやる気持ちを抑えつつ、午前中に家事を済ませてしまうと、直の部屋に向かう。この二階には自分と直しか住んでいないので、前よりも気兼ねなく廊下を歩ける。誰かに出...
翌朝、光輝が目を覚ませた頃には、隣で眠っていた直の姿はソコに無かった。ゆっくり起き上がって部屋を出ると、シャワーを浴びている音がして、漸くホッとする。寮の浴室は、洗面所とトイレも一緒になっているので、機能的ではあるが落ち着く場所ではなかった。 昨夜見た家の間取りが思い出されると、やはり広い浴室は希望条件の一位だと思う。そんな事を考えていたら、直がシャワーを終えて出て来て、光輝の顔を見るなり「おは...
意識の奥で、雨の音がしている気がして、そっと瞼を開いた光輝は隣で眠る直に気付くとハッとした。いつの間にか眠ってしまったんだ。確か住宅の広告を見ていたはずなのに............ そっと上体を起こすと、直に気付かれない様にベッドの足元から降りて行く。キッチンへ行くと、冷蔵庫から水を取り出してごくごくと飲んだ。酒はすっかり冷めてしまい、眠ったおかげで頭も冴えた気がする。雨音が気になって、テレビのある部屋の...
中々言葉の出てこない光輝だったが、直の真剣な眼差しに笑って誤魔化す事も出来ず、自分の心の奥深くで受け止めようとした。これは、男女の仲で云うところのプロポーズだろうか?............でも、両親や兄弟に伝えるという事は、会社の連中にカミングアウトするのと同じくらい勇気のいる事で...........。「ぁ、のっ、..............つまりそれは、.....................俺と直が揃って直の両親の前で報告するって事で、.........
洗濯物を畳み終わりベッドを整えた光輝は、着替えを済ませると直のスマホにメールを入れた。時計は夕方の5時35分を示していて、夕食を作るならこのぐらいの時間だろうと思って。 直から返事が来ると、今作っている最中だというので慌てて直の部屋に向かう事にした。 折角、料理するのを手伝おうと思ったのに、と、少しだけ落ち込んでしまったが、一応ビールは多めに用意して行った。 ドアを開けて部屋に入ると、既にいい香...
食器を片付けると、直が「このまま泊まっていく?」と光輝に訊ねる。 明日は休みだし、そうしたいところだが..........光輝は一瞬考えて、「いや、今夜は帰るよ。展示会で直も疲れているだろうし、俺もシャワー浴びたらそのまま爆睡しちゃいそう」と云った。体力が有り余っていた20代前半とは違って、今や身体を気遣う歳になりつつある。「オッケー、今夜はゆっくり寝るとするか。明日、晩飯一緒にどうかな?ちょっと見てもら...
ラウンジに流れるゆったりした音楽を遮る様に、直と光輝の前に座る沢木の声は大きく響いた。まわりには、同じようにスーツ姿のサラリーマンが仕事関係の人と酒を飲んで交流を測っている姿もあるが、男女のカップルもいて、折角のいい雰囲気が台無しになりそうだ。直も光輝も少しだけ申し訳なくて、心の中で謝っていた。「あの、次の打ち合わせは弊社にいらしてください。出来たらお昼でもご一緒したいので」 そう云って沢木と鈴...
グラスを持つ手が止まった沢木に、鈴木は「そちらの営業さんはみんなお若いですよね。うちは結構年齢差もあって、沢木課長も年上の部下を持ったりしているので。それなりに大変というか......」と言葉を掛け乍ら顔を見た。「............宮本さんはおいくつですか?」 沢木がふいに、光輝の方を見ると訊いてきた。鈴木の話には特に返事もしないまま。「私は30歳になりました」と答える光輝。「見た感じ、もっと下かと思いまし...
ソファーの上で暫く肩を寄せ合い、気持ちが落ち着いた光輝は直に帰ると告げた。 見送る光輝の背中を見つめながら、直の中には強い意志が確固たるものとなる。握り緊めた拳に力が入ると、そっと扉を閉めた。* * * 照り付ける太陽の元、直たち営業1課の、今日は新たな取引先である大塚物産との会食の日。 新商品の展示会を終えて、大塚物産の営業や広報の社員たちとホテルで会食をする事になっていた。総勢30名ほどで、...
光輝が最後の蕎麦を啜ると、直は自分のコップの水を飲み干した。食べ終わるのを待っていたのか、光輝も慌ててコップに手を伸ばすと水を飲む。「帰ろうか」と、云われ頷く光輝。世間話もしないまま、ただ黙々と蕎麦を食べている二人は、周りからどう見られていただろう。席を立つと、二人は会計をする為にレジに向かう。「別々でお願いします」と告げれば、店員も直ぐに金額を云ってくれて、二人はお金を支払うと店を出た。 車に...
漸くエンジンを掛けると、直が「どこかで食べて帰ろうか」と云った。「........ああ、そうだね。そうしよう」 光輝が返事をすると、ゆっくり車は動き出す。なんとなく話題のないまま、静かな車内でぼんやりと前方に目をやる光輝。直は冗談だと云ったが、自分もこの歳になって思う所はある。結婚しない理由を訊かれたら、自分の場合はバツイチだから、と云える。ただ、直の場合はどうなんだろう。これだけのルックスで仕事も出来...
定時を過ぎても事務所に戻って来ない直たちを待つと、光輝は机の上に肘を乗せてぼんやりとしていた。打ち合わせが長引いているのだろうか。それとも何かトラブルでも......。遅くなる時には、必ず電話を入れて来るのに。なんとなく光輝の胸に不安が過ぎる。 もう帰ってしまおうか、と思って椅子から立ち上がったその時、事務所の外から賑やかな声が聞こえて来て、菅沼の声だと分かるともう一度椅子に腰を降ろした。やっと帰って...
「結婚祝いさ」「え?」「知り合いが結婚するんで、そのお祝いに食器をプレゼントしようと思って。係長にも付き合ってもらった」「............ああ、そうなんですね。なんだか楽しそうだなって思ったから、.........プレゼント選ぶのって男性でも楽しいんですね」「ああ、楽しいよ」 直の言葉を聞いて、松島恵梨香と河本は「じゃあ、失礼します」と会釈してその場から離れて行った。態度には表さずに、心の中でふーっと息をつく...
光輝の顔を間近に見ながら、直は課の連中が前に云っていた言葉を思い出す。光輝が静岡支店に配属されて直ぐの頃だ。 30歳とは思えない美少年の様な顔立ち。涼やかでクールな目元なのに、見つめられると愛着が湧く。手を貸さずにはいられない人柄が、周りの者を魅了するんだ。男でも女でも、昔から光輝にはそういう所があった。だから、自分にだけ向けられる視線に優越感を抱いていたのだ。こうして肩を抱き、身体の隅々まで愛...
料理が出来ると、光輝は早速任された盛り付けに意気揚々とした。今までなんとなく食べていた食事なのに、今日は少し嬉しかった。美味しそうに盛り付けるのって難しいな、と思いながらお皿を直の前に置く。「うん、美味そうに出来た。じゃあ、いただきます」「いただきます」 手を合わせるとご飯を口に運んだ。「良さそうな物件あった?」と直に訊かれて、光輝は箸を休める。「そうだなー、間取りとしては気に入ったのがあった。...
夏服を購入した後で、二人は食器売り場へと向かう。 色とりどりの食器や日用品が置かれていて、光輝は今まで気にした事がなかったが、自炊をするようになるとお皿ひとつにもセンスとかあるのだと気付いた。特に、直の料理を目にするとそう思う。「大皿に色々な物を盛り付けるのもいいよな。洗うのも簡単だしさ」 光輝は白くて大きめの皿を手に取ると云った。少し楕円形の、分厚くない形。「じゃあ、それに合わせてカップも買お...
「ちが、」と光輝が云いかけた所で、直は「あはは、そう見えるか―。嬉しいなー」と云って笑った。まるで否定する気のない様子に、光輝は内心ドキドキして硬直するしかない。「同い年ですもんね、お二人。まあ、上司が仲良いと課の雰囲気もいいんで、おれとしては有難いっす。あ、買い物の邪魔してすいません。じゃあ、行きますんで、失礼しまーす」「おう、仲良くやれよ」 直は菅沼の背中に向かってそう云うと、今度は光輝の方に...
食事を終えると、早速映画館へと向かった。 シートに座ると、始まるまでの間だけソワソワと落ち着かない。でも、照明が落とされて暗くなると、なんだか子供に戻った様な気持ちになって、ワクワク感で胸が熱くなる。直も光輝も、物語にのめり込んで行くと、主人公が危ない場面では手をギュッと握りしめて息を呑んだ。 大画面で観る映像は、それだけでも迫力がある。ましてや車とか列車とか、爆音をたてて走るシーンは自分がそこ...
ソファーに座り、二人で肩を寄せ合う時には暑さなんて気にならないのに、自分の部屋に戻ってしまうと纏わりつく熱気で汗が迸る。シャワーを浴びようと、光輝は浴室に向かいながら衣服を脱いでいく。 独り暮らしの環境に慣れてしまい、真夏は半裸で過ごす事もあったが、もしも直と同居する事になったら流石に半裸はダメだろうな、と思いながら頭からシャワーの湯を浴びた。- - - 二人で暮らす部屋か。どんな所がいいかな 一...
休み明けから暫く忙しい日が続いていたが、漸く休日がやって来ると、直と光輝は一緒に過ごす事が出来た。「この二階も、オレ達しか住人がいないとなると静かだよな。上の階は三人しかいないっていうし。一階にも三人だって云ってたな、寮母さん。」 直は夕飯のパスタ料理を作りながら、テーブルに皿を並べている光輝に云った。海外に転勤になった社員は、部屋を出たそうで、益々人が少なくなったと寮母の澄江がボヤいていたが、...
* * * 日常が戻ると、また仕事に追われる日々を過ごす事になる。 光輝は実家の未央とも連絡を取り合うと、母の様子を細かく訊いた。週末に検査の結果が出たらしく、肺の影は内視鏡検査の結果、癌細胞は見つからないという事だった。今のところは経過観察という事で、退院の日程も決まったらしい。 それを聞いてホッとした。直ぐに手術という事でもなく、退院できるなら嬉しい。 営業で、河本と取引先に向かう光輝。どんど...
この休日は、まるで異世界にでも行っていたかのように思えた。上司の、本田部長の娘の怜美を目の前にしたら、一気に現実味が出てきて、光輝は自分が浮ついていた事を思い知らされる。「お昼食べにいらしたんですか?」と、普通に訊ねられて、直は「ああ、そうなんだ。でも混み合ってるから帰ろうかと」と答える。光輝は何を云えばいいのか分からずに、直の隣で口元を引きつらせていた。「お二人は寮住みだから、休日も一緒になる...
もう、何度イったのか分からない程、光輝の身体も頭も溶かされて、思考を巡らせる事も難しくなった。部屋には、二人の熱い吐息と肉の弾ける音だけが響き渡る。窓から差し込む太陽の陽も、今の二人にとってはネオンサインの様に見えていた。 額から汗の粒が滴り落ちると、大きく首をしならせて、ぅうー、という呻きと共に直は光輝の中で果ててしまう。 光輝は、既にぐったりとなった身体で、凭れかかる直を支えた。背中にまわし...
食器を洗いながら、直の云った言葉を思い出す。自分たちの関係を家族に報告する時は来るんだろうか............。確かに、二人のこれからをちゃんと考えたら、理解してもらった方がいいに決まっている。だが.............実際は、臆病な自分には到底無理な気がして。でも、直がいてくれれば大丈夫なのかもしれないとも思う。「どうした、光輝?」 直が光輝の洗った食器を拭きながら横でじっと見てくる。「ぁ、.....何でもない。...
小さな灯りの中で、ベッドに横たわる直の背中を丁寧にマッサージする光輝。程よく盛り上がった筋肉が、光輝の掌を跳ね返す。背骨の両側を解していくと、うつ伏せの直の瞼は自然に閉じた。 すーすー、と気持ちよさげな吐息が聞こえ、直は深い眠りに入ってしまった様だ。 クスッと笑う光輝。直の寝顔を見ながら、自分も大きな欠伸をひとつ。隣でゴロリと寝転んで、布団を掛けると直の頭を撫でながら目を閉じた。幸せなひと時を過...
「ふぅーーーっ、やっと着いたな」 寮の階段を昇り、自分の部屋の前まで来ると、直が安堵のため息をついた。光輝も「お疲れ様でした」といって直の肩に手を置く。「途中で食事してきて良かったよ。今から作る自信がない」 直は鍵を差し込みながら云うと、光輝の手を引いた。 ドアが開いて暗い玄関に明かりをつけると、そのまま光輝の身体をギュッと抱きしめる。光輝はフワッとした気分のまま、直の腕の中でじっとしていた。長い...
やはりゴールデンウィークもあと二日という事で、思った通り高速道路は混んでいた。直の運転するセダンも、のろのろと走っては止まるという事を繰り返し、昼に出て来たのに夕方近くになっても先が見えない状況。「まあ、こんな事だろうとは思ってたけど・・・」 直は、前の車が停止したので、ブレーキを踏むとペットボトルの水を口に含んだ。あまり飲んでしまうと途中でトイレに行きたくなってしまう。この状況では中々いけなさ...
家に戻ると、早速バッグの中に着替えを詰め込む光輝。時間はまだ早いが、直が来たらすぐにでも出られる様にと思った。 荷造りが終わると、光輝は仏壇の前に座り父に別れを告げた。来た時にも線香を焚いてこれまでの事を謝ったが、今日はもう一度同じ言葉を頭の中で繰り返す。孝行息子には結局なれなかった。そんな自分を悔いる事しか出来ないが、未央たちの事は見守っていて欲しいとお願いをした。「お兄ちゃん、スマホが鳴って...
病院の雰囲気は、何度訪れても慣れないものだ。休日という事もあって見舞い客も多いのだろう、駐車場も混んでいたしエレベーターに乗り込む人も多い。 光輝たちが母親の居る部屋に着くと、他の見舞い客もいて少しためらった。「あ、来てくれたの?」と母が気づくと、未央が笑顔で窓際のベッドに近付いた。「おはよう。今日、お兄ちゃんは帰らないといけないから、もう一度顔を見に来たいって」 未央が母に云う。「あら、もう帰...
翌朝、ぐっすり眠れた光輝は、気持ち良く目覚めると布団の中で大きく伸びをして起き上がった。布団を畳んで押し入れに仕舞うと、部屋の隅に置かれたテーブルを戻しておく。その後で、顔を洗おうと立ち上がり洗面所に向かったが、途中台所の前で未央に出くわす。「あ、おはよう。もう起きたの?」「おはよう、ゆっくり寝させてもらったよ。顔、洗ってくる」久々に見る妹の素顔に、懐かしささえ覚えると、やっぱり家に帰って来たん...
「素敵な人だよねー、青山さんって。高校の時も大学の時もカッコよかったけど、なんか今が一番素敵な気がする」 光輝が部屋に戻り、片づけを手伝おうと食器を重ねていたら未央が呟いた。ふと、未央の顔を見てしまう光輝。ニヤケた瞳にハートマークが映っていそうだった。「会社でも一番モテてると思うよ。仕事が出来て顔も良くてスタイルもいい。悪い所を探す方が難しいくらい」 直には逆立ちしたって勝てる自信はない。ただ、そ...
実家の台所に立つのは何年ぶりだろう。 未央が冷蔵庫から食材を取り出してテーブルに並べると、光輝は「何を作る予定?」と訊ねた。妊婦と知って料理を作る手伝いをしようと張り切るが、「お兄ちゃんは青山さんと座ってて。それと、今夜は手巻き寿司にするから。アキラくんは同窓会で食べてくるし、今夜は私たち三人だけ」と云って追いやられる。「俺にも手伝わせてくれたら........」と不服そうに云う光輝だった。 直は居間の...
光輝の母が入院したのはこの辺りでは大きな病院で、直と光輝も高校生の時に来た事があった。改築されたのか、昔よりキレイに整備されたエントランスに入って行くと、新しいエスカレーターで上の階に上がって行く。「キレイになったでしょ、この病院。二年前に改装工事したんだよ。新しい機械も入って検査も細かくしてくれるらしい」 未央は二人の前で振り返りながら話す。「少しの間に変わってくなー」と光輝が云えば、「お兄ち...
久しぶりにハンドルを握った光輝は、隣に居る直を意識してしまうと更に緊張する。 住宅街から少し離れた場所にある工場と並んだ実家は、もう40年以上前に建てられたもので、今は母親と妹夫婦が暮らしていた。工場が見えてくると、「あそこが家だから。工場の手前にあるだろ?」と直に伝える。「ああ、.......結構広いな、光輝の家の工場って」 直は車の窓からじっと見つめると云った。「うん、まあな。.......でも広いだけで...
実家の面々を思い出すと、光輝は何度も寝返りをうって中々寝付けない。それでも、直が一緒に居てくれるという事で安心感を持てると、少しは気持ちが楽になる。いつの間にか眠っていた様で、朝陽が当たる頃には目が覚めてベッドの中で大きく伸びをした。 トーストとコーヒーだけの軽い朝食をとった光輝は、昨夜のうちにバッグに詰めた荷物を再確認する。着替えは一日分だけ持って、明日には戻って来るつもりだった。バッグを玄関...
俺たちの住む家、と云った気がするが..............。 光輝はもう一度直に訊き返す。「住む家って、どういう事?えっ、一緒にって?寮は?」 少々焦りもあってか立て続けに訊いてしまった。「異動の事とか色々考えたんだ。もしも別々に暮らすなんて事になったらどうしようかと。..........で、こっちで家を買って住んでしまえば地元って事になる訳で、転勤の可能性は減るんじゃないかって。」 あっさりと云ってのける直に、光輝...
ニュース番組を見ていると、帰省する家族の映像や行楽に行った人々の姿が微笑ましくて。あんな風に過ごせたのはいつだったろうと、記憶を遡ってみたが思い出せない光輝だった。結婚して新婚旅行に行った先の事も、今となっては曖昧な記憶しか残っていない。確か、なにかで彼女を怒らせてしまった様な気はする。が、それが何だったのかさえ覚えていなかった。 失礼な話だが、自分は彼女に興味を持てないまま結婚生活を送っていた...
光輝はスマホを耳に当てて目を閉じた。病院で携帯は使えるのか分からなかったが、未央が電話をしてあげてというから繋がるのだろう。 数十秒掛っただろうか、電話口に「はい」という声が聞こえてホッとした。「もしもし、母さん元気?」 光輝は久しぶりに母の声を聞いてそう訊ねる。「ああ、コウちゃん・・・・久しぶりねぇ、元気よ。どうしたの珍しい」 母の声が昔と変わらずにいる事が光輝にとっては安心材料だった。病室...
*** 佐々木が本社へ行ってから暫くして、ゴールデンウィークで会社は長い休みに入った。直と光輝も仕事から解放されて一日目は部屋の掃除と洗濯に費やされる。休み前に仕事を片付けたおかげで洗濯物は溜まってしまったが、ひとり分の量は3回もまわせば終わってしまう。 光輝はこの長い休日をどう過ごそうかと悩む。東京にいる時は、同僚で仲の良かった柳原が誘ってくれて海や川に遊びに行った。柳原が結婚してからはたまに...
すっかりのぼせてしまった二人。 ベッドに転がって互いの顔を見合うと笑ってしまった。 光輝の頬に優しく振れる直は、愛おしそうな眼差しで「やっぱりこうしている時間が一番だな」と云う。光輝も頷くと「そうだね」と笑みを浮べて答えた。ほんの少しのわだかまりが二人の時間を割いてしまったが、今はこうして並んでいられる事で安心する。 ただ一つ気がかりなのは、直が自分とセックスする事を躊躇しているんじゃないかとい...
ワインとリキュールの瓶をキッチンの棚に置いて、直が光輝の居るリビングに戻って来る。「しかし暑かったなー。汗かいたからシャワー浴びてこようと思うんだけど。」「あ、うん、じゃあ、俺も部屋に戻るよ。」 光輝は立ち上がると部屋から出ようとした。「あ、一緒に浴びる?」と、光輝の手を掴むと直が云う。握られた手が熱くて、トクンと胸が鳴った。「ぇ、一緒にって、、、、狭いし無理だよ」と、光輝は直の手を上から重ねる...
晴れやかな朝の光を浴びて、カーテン越しに外の景色を眺めた光輝。時折夏の様な陽が射すと瞼を細める。---今日は天気がいいなー 独り言を呟いて着替えをすると、光輝は時計を見て玄関へ向かった。 今日は佐々木の引っ越しの日。先日の約束通り直と二人で引っ越しの手伝いをする事になった。スニーカーを履いて外へ出ると佐々木の部屋の扉は全開になっていて、荷物を運び出しやすい様にしてある。 光輝が佐々木の部屋を外か...
事務所で直と顔を合わせると「おはようございます」と互いに挨拶を交わした。昨日の事があって気持ちは吹っ切れた。変に意識をする必要はない。普通に信頼のおける仲間として、会社では接しようと光輝は思った。 直は菅沼が出社してくると、一緒に新規の取引先へと向かう。話してくれたように、これからはどんどん新規の客を開拓するつもりらしい。直と菅沼のコンビは、傍目に見ても面白くて。バリバリと仕事をこなす直に対して...
椅子を引いて立ち上がると、直が光輝の傍に寄ってそっと肩を包む様に自分に引き寄せる。直の心臓の音が光輝の耳に伝わって、共に生きている事を実感するとこのまま包まれていたいと思った。いつまでも、直の傍で健やかな毎日が送れたらどんなに幸せか。「佐々木さんが云ってた話だけど.........」と、直は少し間を置くとゆっくり話し出した。 さっきの話とは異動の件だろうか?噂だと云っていたが、何かあるのかと少しだけ気に...
寮に着くと、佐々木が入口で直と光輝を待っていて、二人は足早に近寄ると一緒に二階へと上がって行った。「今夜は本当にありがとうございました。じゃあ、おやすみなさい」「「おやすみなさい」」 佐々木の部屋の前で別れると、直と光輝は歩き出す。が、すぐに直の部屋の前に着いてしまい立ち止まった。「.........じゃあ、おやすみなさい」と云う光輝に、直は手を取ると205号室迄引いて行った。「ぇ、、、」と云う言葉になら...
時間が経つにつれて店の中も賑やかになってくる。会社帰りのサラリーマンや色々な職種の人が、酒を飲みながらストレスを発散させつつ楽しんでいる様だった。そんな中、光輝は佐々木と直の話を聞きながら胸に宿る不安を消せないでいる。直の異動の話は本当に噂だけだったのか?事務所の人間からはそんな話を聞いていないし、人事の人間しか知らないという事なんだろうか。「しかし残念です。もっと親しくなってれば一緒にどこかへ...
夕方近く、営業で外出していた社員が戻ってくる。その中には直の姿がなくて、光輝は気になったので菅沼に訊ねた。「課長はまだ出先ですか?」「いや、下で広報の人に声掛けられて。直ぐに戻って来るんじゃないですかね。」 それを聞いて少しホッとする。ひとりでまだ回っていたら本当に身体が心配になる。 菅沼の言葉通り直は数分後に事務所へ戻って来た。「おつかれさま」と声を掛けると、光輝の方を見て「ああ」と頷いた。 ...
ほんの数十秒しか経っていないのに、じっと身をかがめる光輝には長い時間の様に思われた。 動く気配のない直をゆっくりと顔を上げて上目遣いに見れば、視線が合って。直の瞳は悲しそうな色をして光輝を見つめる。「.............なお?」 漸く声が出て直の名前を呼んだ。「ごめん、怖がらせた。.............ちょっと頭冷やす。」 そう云うと、光輝の肩に手をやってドアの前に促した。 帰れという事なのだろうか。光輝は直の...
佐々木と向かい合って食事をしていると、スマホが鳴った。佐々木がテーブルに置いていたからだったが、光輝に頭を下げるとスマホをとって立ち上がり席を立った。 皿にとったカルパッチョを口に運んで佐々木が戻るのを待っていると、電話が終わったのか佐々木は戻ってくるが眉根を下げて困った様な表情だった。「どうかしましたか?仕事ですか?」と声を掛ける。席に着くと佐々木は食べかけの料理を急いで口に入れ、「すみません...
昼を過ぎて三時ごろに事務所に戻って来た直と菅沼。菅沼の手には紙袋が握られていて、袋に書かれた文字からはお菓子が入っていると思われる。早速、河本が目ざとく見つけると「ひょっとして差し入れですか?」と直に訊ねた。「まあ、たまにはね。花見にも行けなかったし、みんなで分けて食べよう。」 直の言葉に河本は「ありがとうございまーす。じゃあ、早速」と云って菅沼から袋を受け取ると中身を開け出す。光輝は菓子の中身...
入口をじっと見つめる光輝。胸が締め付けられる様に痛む。言葉を掛けられてもどう返せばいいか困るが、この状態は...............。席に着いてうな垂れていると、出社して来た同僚が「おはようございます」と口々に挨拶して入って来た。一気ににぎやかになった事務所で、光輝はまだ気持ちを切り替えられずにいた。「どうかしました?具合でも悪いですか?」 ふと河本に声を掛けられて顔を向ける。「あ、いや、大丈夫だよ。おは...
冷蔵庫にあるハムやチーズをつまんで夕食の代わりにすると、光輝はベッドに潜り込んでしまった。明日の朝シャワーを浴びればいい。それから早めに家を出て、会社の近くのコンビニでサンドイッチでも買って食べよう。今夜はもう考えずに眠ってしまおうと、しっかり瞼を閉じた。 翌朝、あまり眠れなかったがシャワーを浴びて頭をスッキリさせようと思った。 コーヒーだけを腹に入れて、着替えを済ませると足早に部屋を後にする。...
仕事中だというのに、余計な神経を使ってしまう。画面の数字に集中しなければ、と食い入るように見つめながら光輝はマウスをスクロールする。画面の光が瞳を乾かして痛い。なのに目を離す事が出来なかった。「菅沼、.....技術部に行ってコレ渡してきてくれるか?」「あ、はい」 直が菅沼に仕事を頼むと、事務所には光輝と直の二人になる。他の社員はそれぞれ打ち合わせで出掛けてしまった後だった。 菅沼が事務所から出て行く...
胸の奥がモヤモヤして変な気分だ。光輝は着替えを済ますとキッチンに立っていた。 箱根の旅行の時といい写真の時といい、直が一方的に不機嫌になっていてどうしたらいいのか分からない。光輝は料理を作りながら、げんなりとした表情を浮かべたままフライパンを反していた。 食欲も薄れてしまったが、何か食べなければ明日に響く。冷凍したご飯をレンジで温めてチャーハンを作ると、豆腐のみそ汁を添えてテーブルに並べた。----...
決算での忙しさから解放されて以来、直の車で一緒に帰る事もなくなった。直は時間が合えば一緒に帰ろうと誘うが、そこはけじめをつけたい光輝。バスに乗ると寮までの道をのんびりと戻って行く。 佐々木の事を話したいと思い、一旦部屋に戻った光輝は直の携帯にメールを送る。『聞いたんだけど、佐々木さんが本社に異動になったらしい。今度送別会を兼ねて三人で食事をしようと思うんだが。』 そう送ってから着替えを始めると、...
* * * 河本から佐々木の事を聞かされた光輝は、資料室へ向かう途中で広報課の前を通りながら中をチラリと覗いてみた。 扉は解放されたまま中の様子が伺えて、佐々木の姿が見えると声を掛けようか迷う。特に用事は無いので中へは入りずらい。でも、声を掛けるぐらいは別の部署の人でも許される。光輝は一応「失礼します」と云って中に入ると佐々木の机に近付いた。「佐々木さん、お疲れ様です」と声を掛けると、佐々木は光...
怒涛の日々を送り、決算を無事に済ませると社内中が安堵の空気に包まれて、光輝たちの表情も明るくなった。 毎年繰り返される業務ではあるが、何度経験しても慣れないのはその年によって業績が変わるから。時代の流れによって不景気の波も押し寄せる。それに呑み込まれない様にもがくが、気を抜けば足元を簡単に掬われてしまう。営業は毎日が積み重ねだと、先輩たちには云われたな、と直も入社間もない頃の事を思い出していた。...
普段通りの職場。外回りをしている者もいればパソコン画面に向かって頬杖をつきながら思案する者もいる。光輝たちの事務所では、3月末の決算期に向けて大忙しだった。在庫になっている製品はひとつでも多く出荷したい。売上げを伸ばさないと部長のお小言が増えるばかりだ。「菅沼ー、来週K倉庫の在庫確認行くからな。今週中に残高確認しておいてくれ」「はい、了解っす。」 決算前は色々確認作業が増えて、今まで定時に帰れて...
コタツの中に潜り込みたいぐらいだが、男二人じゃそうもいかなくて。仕方なく服を着ると、直は横にいる光輝の肩に布団を掛けた。それからスウェットの上着を渡し「そのままだと風邪ひくぞ」と云った。「うん」と頷いて服を受け取った光輝。服を頭から被ると、下着とスウェットパンツを探す。「こんな風に毎日光輝と暮らせたらいいのにな。.........ま、二軒隣に住んでて云う事じゃないけど。昔さ、大学の時は忙しくて時間がずれ...
光輝はスマホの写真をそっと閉じると、立ち上がってお茶のお代わりを入れに行った。少し考えようと思ったからで、直が嫌がる事はしたくない。でも折角送ってくれた写真を消すのも気が引けて出来ないし....。 お茶を入れてコタツの所に戻ってくると、直が「オレにも写真送ってよ」といってスマホをテーブルに置く。「あ、うん、いいよ」 腰を降ろしてさっきのアルバムを開くと、直のメールにいくつか選んで送信した。「ツーショ...
風呂から出て髪の毛を乾かした後で、早速晩ご飯の支度を始める光輝。冷蔵庫から野菜を取り出すと、この材料で出来る料理を想像する。でも、野菜炒めしか思いつかなくて。せめて肉は入れておこうと、小間切れの豚肉を出してみる。 なんとか肉野菜炒めが完成。スープは鶏がらスープの素で玉子とわかめを入れて作った。それらを皿に乗せてテーブルに置くと、なんとなく食卓らしい感じになる。手早く作るのはこれが限界。 窓に近付...
午前中、なんとなく調子の出なかった光輝たち。だが、午後になればいつもの仕事の流れも掴み、帰る頃には頭の中も切り替わっていた。「あー、またこの調子で今年も頑張りますか。」と直が皆に云うと、それぞれに苦笑しながら「はーい」と返事をする。 定時を過ぎて帰り支度をすると、谷原や河本たちは事務所を後にした。光輝も机の上の資料を仕舞い、帰る準備をすると直の方に視線をやった。まだファイルを眺めていて帰る様子は...
佐々木の言葉使いが関西弁になっていて、どうしても実家に戻るとそうなってしまうのだと思った。直も光輝も、東京の大学に入って以来地元の方言はあまり出ない方だ。意識している訳ではないが、営業という仕事柄かもしれない。それに、実家の家族とも長い間会話をしていない事もあった。 明日から仕事という事もあって、佐々木は早めに部屋へ戻って行く。少し静かになった部屋の中。光輝も片づけを手伝うと、拭き終った食器を棚...
光輝は一旦自分の部屋に戻り、夕方までの間に部屋の片づけをする。それから、直に教えてもらった様に野菜を切って冷凍用の保存袋に入れていく。小さな冷蔵庫は冷凍室も小さくて、思いのほかスペースがなかった。---ま、しょうがないか--- ポツリと呟くと他の材料を冷蔵庫に戻す。 時計を見ながら直の部屋に行こうと思い、身支度をすると部屋から出て行く。まだ少し早いが、直が料理をしてるから何か手伝える事があればと思った...
直の車でスーパーに着くと、二人はカートを押しながらそれぞれのカゴに食料を入れていく。ほんの少しだが料理も出来る様になった光輝は、レトルト食品ばかりでなくちゃんと野菜や肉も購入した。今のところ直に作ってもらう方が多い気もする。でも、今年は絶対自分の料理を食べて美味いと云わせたいと思っている。「冷凍食品とか買うならさぁ、野菜の冷凍もの買った方がいいぞ。まあ、ちょっと高いけど。それか、野菜の冷凍保存を...
しっかり眠ったおかげで、いつもより早く目が覚めた直は、隣で寝息をたてている光輝の顔を見たら愛おしさが増してそのままギュッと抱きしめてしまう。「ぅ、、、、」と呻き声をあげた光輝が重い瞼を開くと、そこに嬉しそうな顔をした直がいて、おもわず笑みが零れる。「おはよ。」「おはよう。」 声を掛けあって互いに向きを変えると、じっと見つめ合った。 至福の時。この布団の中で顔を見つめ合って、言葉はなくてもボサボサ...
キッチンで立ったまま、互いの腰に伸ばした手はせわしなく身体の線をなぞる様に蠢いて。背中に直の手が触れると、光輝の身体は足元からゾクゾクと震える。麻痺したように力が抜けそうで、立っているのがやっと。「ベッドに行く?」と、直に囁かれ、光輝は小さく頷いた。 一旦触れ合ってしまえば、押し殺していた欲がじわじわと顔を出す。旅行で平静を装っていた分、解放された今となっては気持ちのままに身体も反応してしまう。...
少しふて腐れながらも食べ終えた直。器を持ってシンクに置くと洗い始める。 光輝は、急いで口に詰め込むと直の隣に行って自分の器を渡した。サッと取り上げた直は、スポンジで擦っていき水で流すと光輝に渡す。食器を拭いてくれという事だろう。かかっていた布巾で食器を拭いて食器棚に戻しておいた。 無言で行なっている作業だが、こうして並んで出来る事は光輝にとっても直にとっても幸せを感じる場面であった。これが毎日続...
寒い廊下を静かに歩き、云われた通りそのまま部屋に入ると「おっ、泊る用意してきたんだ?」と直がバッグを見て云った。その顔がニヤッとしていて、光輝はちょっと恥かしくなる。何かを期待しているのか、直の表情は分かりやすい。「一応持ってきただけ。それよりいい匂いがする。」 光輝はバッグから餅の入った袋を取り出すと直に渡し、そのまま鍋の中を覗いた。既に出汁の中には白菜やニンジン、シイタケなんかが入っていて、...
寮に戻り、部屋に入ると全身の力が抜けた様に疲れが押し寄せる。直は洗濯物をバッグから取り出すと直ぐに洗濯機に放り込んだ。それから部屋着に着替えてゆっくりとソファーに腰を降ろす。疲れたが、それなりに楽しかったとも思う。ただ、社員が一緒でなかったら、もっと光輝と楽しめたのに、とは思った。上司の自分に対して、どうしても言葉使いは敬語になってしまうし、笑顔の奥で緊張しているのは分かる。いつか普通に二人きり...
ボ~っとしながら船内に戻ると、「どうかした?」と直に訊かれる。「ぁ、、、いや、大丈夫。何でもない。」と気を取り直し、下船の準備をした直たちと一緒に歩いて行く光輝。あんな風に女性から近寄られたのは何年ぶりだろう。付き合いで連れて行かれたクラブのホステスが、やたらと近くて焦ったが、さっきのもそんな焦りに似たものだった。嫌悪感はないが、どう云ったらいいか......... 静かにどこかを見つめる光輝に、直は違...
バスを降りて目の前に広がる芦ノ湖に視線を向けると、そこには立派な色鮮やかな船があり、目にしただけで心躍る気分になった。海賊船というものか。それとは別に普通の遊覧船も見られる。「こういうの、映画で観る船ですよねー、カッコイイ―。」と、女子たちは嬉しそう。何人かは既に乗った事もある様で、乗船する間に撮影スポットなんかを教え合っていた。 直たちも乗り込むと、菅沼をはじめ若い連中は風が冷たいのも気にせず...
朝食が済んで一旦部屋に戻る。 光輝は荷物をバッグに仕舞いながら、ふぅっと溜め息をついた。「どうした?」 直が光輝に振り向くと訊ねる。「いや、......本田さんは直の事が好きなんだと思ってた。」「は?」「ほら、部長に気に入られているって聞いたし、営業のみんなもそんな事を話してたから。だけど今朝、直にこのホテルの予約を進めてたから、違うなって、、、むしろ、気があったのは中岡さんの方だったんだね。直はやっ...
微睡みの中で意識が戻ると、なんだか身体の上に重みを感じる。少しづつ瞼を開けてみたら、真正面に直の顔。ハッとした。身体を押さえつけられているのか、それとも乗られているのか?「........重い、、、、」 呻くように声を出すと、「起きたか、」と云って渋々身体を起こす直だった。「シャワー浴びて出て来たら光輝がイビキかいて寝てたから、布団の中に押し込んでやった。あ、服は脱がしたからな。」「は?..........ああ」...
小野寺の提案に喜んだのは直。というか、田坂が酔っぱらったおかげといえばそうなんだが。心なしか表情が緩んでしまった直に、光輝は咳ばらいをする。「小野寺課長、すみませんね。本当にいいんですか?」と、確認する光輝。「え、オレ酔ってませんよ、別に迷惑かけないですから」という田坂だったが、そこは小野寺に諭されて黙った。 直は直ぐにでも部屋を移りたいと思い、小野寺に「オレが荷物を持って来ますよ。小野寺さんは...
ツインベッドの上に腰を下ろして、ビールをグッと飲み干す田坂は、冷蔵庫からもう一本を取り出した。「ひょっとしてビール買ってきた?」と小野寺に訊かれ、「はい、多分寝る前に飲むだろうと思って。」と田坂は黒縁の眼鏡をクイッとあげて笑う。「その分だと朝から飲みそうな勢いだね。でも、酒臭いのは嫌われるよ。女性はそういう所気にするから。」「いいんですよ、オレ、既婚者ですから。.........ぁ、」 田坂が一瞬マズイ...
光輝と小野寺が部屋に戻ると、直から電話が入った。『今からラウンジで飲むんだけど、来ない?』と。 直は光輝が酒に弱いと知っている。なのに、酒を勧める様な誘いに光輝は戸惑った。「えーっと、今夜はもう充分飲みましたから。それに明日もあるので..........。僕はパスさせてください。」『じゃあ、小野寺さんは?ちょっと訊いてみてよ。』 小野寺も同じ返答をすると思った光輝だが、一応訊いてみた。やはり小野寺の答えも...
二人が会場へ行くと、既にみんなは集まっていて。座席は好きなところでいいらしく、空いている席に着いた直たち。並んで座る事は出来なかったが、直は田坂と、光輝は小野寺と隣同士になった。そして光輝を挟んで座ったのは怜美で、光輝が腰掛けると直ぐに「係長は日本酒とビール、どちらがいいですか?」と訊かれる。「あ、僕はビールで。....あんまり酒は強くなくて。」と答える光輝に、隣の小野寺が「あー、オレも一緒です。」...
光輝はホテルの部屋に入ると、先ずどちらのベッドを使うかと小野寺に訊ねる。「オレは手前側でいいかな。」と、小野寺はコートをクローゼットに仕舞いながら云った。光輝はそれを聞いて奥のベッドに行くと、腰を降ろしてジャケットを脱ぐ。話しやすい小野寺と一緒で良かったと思いつつも、元来の人見知りが顔を出しそうで緊張する。「宮本さんの上司、青山課長ってさ、凄く出来る人だよね。人事課でも人気あるよ。」 小野寺は椅...
怜美からキーを手渡されると、各自フロントを横切って奥のエレベーターへと向かった。その際に、夕食はホテルの小宴会場を借りてそこで食べる事になっていると伝えられる。なんとなく新年会の様な感じだが、せっかく部屋まで用意してくれたのだから楽しもうと思う。そして、直は光輝と離れてしまったので、食事が一緒で良かったと思った。「じゃあ、6時30分に集合してくださいね。それ迄は自由時間になります。」 智香が一人...
除夜の鐘を遠くに聴きながら、直と光輝はベッドの中で顔を寄せ合った。互いの瞳に映る自分の顔を確認すると、熱い吐息が更に熱くなるようで、激しくくちづけを交わす。 明けて新年。 旅行の日程は2日の朝から組まれており、先ずは会社に集合がかかった。 駐車場に迎えのバスがやってくる迄に、人事課の社員と直たちの自己紹介がされていた。仕事上、関わりはあっても親しくなるチャンスは少なく、菅沼はじめ若い社員にはコン...
資料室で直とキスを交わし、そっと扉を開けて通路に出た光輝。一応辺りを窺ってみるが、人気が無いのでホッとした。先に事務所へ戻ると自席について仕事の続きをする。内心は少しドキドキしていたが平静を装った。 暫くして直が戻ってくる。直は、菅沼に向かって「菅沼ぁ、人事課の件、オレと宮本係長も参加するから。連絡は入れておいた。」と云った。「え、ホントっすか?やったー、嬉しいっす。」 菅沼はご機嫌の様子。肩を...
昼間、怜美たちに誘われた件を頭の隅におきながら仕事をこなす光輝だった。直も菅沼も今日は事務作業に専念している。時折、菅沼が直にむかって旅行に行きましょうよ、と誘っているのが聞こえ、光輝はその都度直の顔を見た。 断ってもいいのだが、予定がないと云ってしまってから断るのはどうも申し訳ない様な気がしていた。人事課の連中を嫌っていると思われても困るし.......。 直が資料室へ行くと訊いて、光輝も少し後から...
肩口が寒くて目を覚ますと、部屋の電気も点けたままコタツの中で眠っていたようで。光輝はブルッと身震いすると、コタツのスイッチを切って起き上がり寝室へと向かった。 冷たいシーツが火照った足には気持ち良くて、そのままぐっすりと朝まで眠る。 翌日は生憎仕事で。それでも年末に向けてあと少し頑張れば、長い冬期休暇をとれる。光輝以外の社員たちも、それぞれに仕事を片付けようと頑張った。 昼になり、いつもの様に食...
二人にとってはアッという間の休日だった。月曜になればまた仕事に追われる毎日。それでも、そんな日々を過ごす中で互いに思い合う気持ちは強くなっていった。*** クリスマスを事務所の独身組で楽しく過ごし、レストラン会場を後にして帰ろうとした時。菅沼が直に「年末年始はどうするんですか?田舎に帰ります?」と訊ねてくる。「いや、帰らないよ。静岡にいる方が気が楽だしさ。実家もオレの帰りは待ち望んでないから。」...
光輝が片づけを終えて部屋に戻ってくる。直はすっかりコタツの中に身体を入れてしまい、下手をしたらこのまま寝てしまいそう。「寝たら風邪ひくよ。」といいながら直の身体を避ける様に光輝も足を入れた。「子供の頃はよく居眠りしちゃって母親に叱られたなー。でもさ、冬はこれが一番あったかいんだよな。もう肩までずっぽり入っちゃって、足を曲げてさ。一生コタツから出たくないって思ったもんだ。」 直はそう云うと光輝の腰...
寮に着いてからも、なんとなく元気のない光輝の様子に、直は「荷物、運んだらうちに来いよ。」と声を掛ける。 階段を昇りながら「うん」と返事をするが、半分上の空のような感じ。一々神経を尖らせる光輝の性格に、直は呆れてしまう時もある。でも、昔噂によって酷い目にあった光輝にしてみたら仕方のない事なのかもしれない。直には実際の経験がないから安易に考えているのかもしれない。 部屋に着くと、直は食材を冷蔵庫に詰...
なんとなく揺れ動く空気の中、二人を乗せた車はいつものスーパーの駐車場に着く。言葉もなく入り口に行くと、カートにカゴを乗せる直。光輝は手にカゴを持って直の後に付いて歩く。「光輝は何を買う?」「えっ?......ああ、特に決めてなかったけど......カレーの材料とか朝食用のものかな。直は?」「オレはいつもの常備菜と肉。一週間分ってとこかな。」「じゃあ、俺も直と同じものを買うよ。」「はは、.....まあいいや、足り...
食器を片付け終わると、流石に続けて泊まる訳にもいかず、直は玄関で光輝をギュッと抱きしめてから帰って行った。「卓上コンロは置いていかれたな。」と呟くと、光輝はもう一度コタツに足を入れて暖まった。-----やっぱりコタツ買って良かった~ 光輝は一人で笑みを浮べながら、テーブルを撫でる。* * * 日曜日。 続けて直と過ごしていたせいか、ひとりの部屋はガランとして寂しく感じる。それに、テレビの音がないと...
二人で二階の部屋まで運び込むと、「ふ~っ」と息を吐く。コタツと布団、それに下に敷くラグも買い込んできた。何回か往復して、やっと部屋に戻りコタツを組み立てる。「ちょっと大きいかな、と思ったけど丁度良かったね。これなら4人でも座れる。」「うん、布団をかけてみよう。」 天板を外して布団を掛けると、もう一度天板を戻す。「完璧なコタツだ。布団もいい色で、この部屋に合うよ。」 光輝は布団を撫でる様に触りなが...
昨晩寝たのが遅かったせいもあり、朝というよりは既に昼間近になって目を覚ます二人だった。「あー、寝過ぎたかも。おはよう」と云って隣の直の腕を揺さぶると、光輝は上体を起こした。「ん~.....」 目覚めのいい直が、珍しく眠そうな目を擦りながら布団から出て行く光輝の背中を見る。流石に寝返りが打ち辛くて、身体が固まってしまったように重い。でも、光輝の体温を十分に感じる事が出来て幸せだとも思った。「トーストで...
直がシャワーを終えて部屋に戻ると、ベッドはすっかり新しいシーツに取り換えられていて、枕も用意されていた。「じゃあ、俺もシャワーしてくるから。........狭いけど、寝れるよね。」 そう云って光輝は部屋を出る。 直はちょっとドキドキした。というか、泊る事を許してくれる光輝に感謝だ。まあ、シングルベッドで寝るのは確かに窮屈な気もするが、その分くっついていられる訳で。 いそいそと布団に入ると、壁際に横たわり...
男二人が抱き合うには狭いベッドの上。落ちない様に身体をしっかり抱きしめながら、直のくちびるは光輝の背中を這う。 肩甲骨がびくりと跳ねると、弓なりに反った光輝の背中は快感に震えた。その度に咥え込んだ直の硬芯を締め付けて、おもわず「うっ、」という呻きが直の口から零れる。「ぁ、.............あっ、...............んんっ、....................」 直が突くたびに、光輝の吐息に混じって喘ぐ声が部屋に響いた。口...
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こんな夜は大樹の肌が尚一層白く澄んで見える高校生の時、それまで同性を性の対象として見た事はなかった。でも、大樹と同じクラスになって入学式の時に感じた感情がもっと深いものだと知ると、オレの中にずっと仕舞い込んでいた欲は溢れだすいま、こうしてコイツを腕の中に抱ける幸せそれを絶対に無くしたくない。この先何が起こったとしても、オレの腕の中には大樹の温もりがあればいい朝になると、大樹が香織と連絡をとったらし...
* * * イブの夜は客足も速く、軽く一杯呑んでからそれぞれの夜を楽しみに行くのだろう店は案外混み合う事もなく、オーナーが呼んだ客も年配者が多くてオレはウンザリ気味それでも相槌を打ちながら、機嫌を取っていると腰のスマホが鳴った「こんな時間に?」と呟きながら、カウンターの下に身を隠し手に取ると、香織からの電話「はい、珍しいな。こんな時間に」軽い気持ちで応答すると、電話の向こうの香織は息を殺すように話し...
林を挑発するつもりなんかなかったでも、若いアイツに大樹を奪われそうな気がしたのは事実林が垣根を越えて大樹を抱ける男だと分かったら、冷静なままじゃいられない怒られるのは覚悟で大樹のマンションに向かう帰って来るまでマンションの前で待っていると、街灯に照らされながらアイツのシルエットが浮かんだ「何してるの?」訝し気な眼でオレを見る「待ってた」マフラーで顔を半分隠しながら答えると、大樹は少し呆れた顔をする...
大樹がオレを好きだと云ってくれたその事は喜ばしいが、実際のところ林への気持ちを断ち切ったわけではない気持ちの何処かには多分まだ林への恋心がある筈身体が繋がったとして、アイツはどうする?林は.........大樹を受け入れるつもりなんだろうかオレは暫く大樹と距離を取った大樹も迷っている中で、オレが振り回す訳にもいかない暫らくしたある晩、林がオレの店にやって来た大樹の所へ行った帰りだというオレから見たアイツは...
その日の晩は、二人で買い物に出かけた近くのスーパーで食材を買ったが、大樹はオレと並んで歩くのを嫌がっている様な気がした大樹は自分がゲイである事を隠し通そうとするオレはそんな事は気にならないのに.........でも、大樹が嫌がるならそれを無理強いする気もなくてサッサと買い物を済ませると急いで店を出るオレがせっかちだとむくれる大樹だったが、周りの目が気になるからそこは理解したようだ食事を作り、なんとなく前の...
水商売に入ったのは、家を出た母親が死んで借金を残したから父親はもう関係ないといい、オレが被る必要もないと云ったが、心の何処かでは探してやれなかった自分に負い目を感じていたましてや誰にも看取られず死んでいた母親が不憫でならなかったせめて借金はオレが返したいと思い、安易な考えでホストの道を選んでしまった学生時代、友人に囲まれてそれなりに楽しく過ごしてきて、自然と身についた社交術オンナを楽しませるのには...
日を追うごとに心の内が悲鳴を上げるこれ以上自分を偽る事は出来ないと、大樹に本心を告げたずっと昔から好きだった事再会して本当に嬉しかった事このままセフレとして大樹の傍に居るつもりだった事でも、それが出来なくなったもし、お前に嫌われてもこのまま嘘をつくことは出来ない大樹の態度がよそよそしくなったそりゃあそうだ、オレの気持ちをぶつけたんだから.......廊下でのすれ違いにも神経を使う大樹が風呂に入っている間...
自分の気持ちを正直にいう事も出来ないまま、何日か過ぎたある日それでもオレと大樹の関係は変わらず続くと思っていたそう、あんな事が無ければ.............林が大樹の部屋に泊った翌日だったかもちろんオレも強引に泊まり込むといい、本当は前から大樹の部屋に同居していたんだが、それを林には隠していた大樹オレは林に対して嫉妬の炎がメラメラと燃え上がり、隣の部屋で大樹を犯そうとしたでも、それは出来なかったそして翌日...
大樹の事なら何でも分かると思っていたが、それは上辺だけの事本当のアイツの苦悩をオレは知らない。ゲイという事を隠して生きなければいけない窮屈さまあ、オレみたいな水商売の人間にだって偏見を持つヤツはいる。特に女好きの男からしたら、理解不能だろうオレは性別はどうでもいい。人間的に存在感が好きなのか嫌いなのか。そこだけだ。もし、高校生の時に大樹の事を深く知る事が出来ていたら、オレはもっと積極的に行けたかも...
コタロを初めて見た時の大樹の様子は、未だに思い出すと笑えてくる本当にペットは飼った事がなかったんだな。昆虫でさえ飼った事がないと云っていたペットホテルへ連れて行けとか散々云われたが、オレが一緒に世話をするという約束で置いてくれることに己の必死さが哀れではあるが、まあ、大樹と同棲出来るんだそこは良しとしようかそれに暫く生活したら慣れてきて、大樹が遠くからコタロの様子を伺うのが面白かったなのに、.........
オレがどんなに抱いても、大樹は事が終われば飄々とした顔で帰って行く 腹がたったが、数ヶ月は辛抱できた でも、ある日従姉の香織がオレのアパートに転がり込んで来て オレの中の悪戯心に灯がついた ダメもとで大樹を驚かせてやりたい できれば嫉妬の一つぐらいしてくれたらいい そんな気持ちで香織と大樹を対面させてみたが....... 結局は失敗に終わったようだ 振り出しに戻って、オレはまたセフレという立場にしが...
すみませんちょっと明石と大樹の高校時代の一コマを描きたくて・・・大樹の明石への印象が悪すぎて・・・(ノ_<)ごめん、明石大きく見たい方は画像をポチッとしてくださいお話はまた今夜!にほんブログ村BLランキング...
* 明石達也 side * 高校の入学式の時 少し俯き加減に校門をくぐる生徒に目がいった 多分同じ新入生。でも、肌の色が男にしては白くて髪の毛も薄茶色 派手な印象ではなく静かでどこか上品そう オレが今まで見てきた男の中で異彩を放っていた 同じクラスになって一度だけ話した事がある チャラいオレとは真逆の清楚で物静かな男の声は澄んでいた 時折教室の中で目が合うが、それはオレが見ていたからか 野々宮大樹は人...
『泪は甘い蜜の味』 読んでくださって 本当に有難うございました。 ゲイである事をずっと隠して生きてきた野々宮大樹 バイセクシュアルである事を気にせず好きな様に生きて来た明石達也 性格的には正反対なのかもしれません 二人が出会って、多分明石の方が先に好きになったのでしょう コタロをダシにして大樹と同居に漕ぎ付き、林くんの存在を知っても我慢しておりました でも、なんとかやっと気持ちを告げる事が出来...
声を殺して泣く俺に、明石の力強い手は肩を抱き寄せてくれて、そのまま胸に顔を埋めれば堪えきれずに涙が零れ落ちる。 小学生みたいに泣きじゃくりながら、死別した訳じゃないのにこんなにも別れが苦しいものだなんて、俺は生まれて初めての経験をした。「またすぐに会えるよ。コタロ、元気になってるし、香織の性格じゃその内『預かってー、』とか云って連れて来そうだからさ。」 明石がそう云うと、なんだかそんな気がしてき...
「ベッドで少し横になれよ。オレも一緒に横になるから。.......寝ちゃうかも、だけど。」「うん、......」 まだ時計は7時過ぎ。明石も寝足りないんだろう。俺はコタロを抱えて自分の部屋に行くと、明石と一緒に布団に入った。明石の腕枕で、そっと肩に寄り添えば、少しだけ冷えた身体が暖かくなる。それから心も。 コタロは、やっぱり俺たちの布団の上のくぼみに身体を横たえて眠る様だった。「久しぶりに大樹と寝る気がする。」...
深夜になり、明石の帰って来た気配がする。音をたてないように自分の部屋へ向かう様だが、俺の部屋のドアを少し開けるとベッドに近付いて来た。 瞼を開けようかどうしようか.......考えていたら、明石は俺の頬にくちづけを落として部屋を出て行った。 途端に恥ずかしくなる。知らない間に、毎晩明石はああやって俺に口づけしてから寝に行ってたのか?気付かなかった俺も俺だけど............。すごく嬉しかった。でも、それと...
笑みを浮べた明石の顔をまじまじと眺める。さらっと云ってしまえば、俺たちが同居している事は別に不思議ではなかった。男同士という事にこだわりを持っているのは俺だけ。世間一般ではそういう環境で暮らしている人間は多い。特に経済的な理由で、学生とか社会人になっても給料が安いとか。いくらでもいる。 改めて自分の思い込みがバカらしい事だと気付かされた。「少しは腹の足しになった?」 明石がサングリアのグラスを指...
香織さんの引っ越しから1週間。あれから度々連絡をもらい、コタロを引き取れる日程の確認をしている。 気乗りはしないが、これも仕方のない事だと自分に言い聞かせていた。「野々宮さん、最近なんだか元気がないですね。」 中島さんに云われ、周りからもそう見られているのかと思うとなんだか情けない話だが、虚勢を張って元気に見せる事すらままならない自分が弱い人間に思えて嫌になる。「コタロの帰る日が決まってね。ちょ...
深夜になって帰宅した明石に、香織さんと話した事を告げると、少し困った顔になって俺の肩をポンポンと叩いた。「オレがコタロを勝手に連れて来て以来、大樹は何だかんだと云いながらでも面倒みてたもんなー。離れるのは辛いだろな。オレだって情が湧いて辛いところだけどさ.........。」 リビングで上着を脱いで、それを腕に抱えると自分の部屋に向かいながら明石は云ったが、そう云われると尚更あの頃の事を思い出して辛くな...
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