前回の投稿から暫く離れてしまいました最近ではボーイズラブのドラマも人気の様で、アイドルの様な美麗な男性が主役をされていますね人気俳優への登龍門的な要素もあるのでしょうか (仮面ライダーに継ぐ?)ドラマはコミックが原作のものが多く、私も読ませて頂いていますのでドラマもたまに観ますコンプライアンスがあるので公共電波では表現が狭められてしまいますよね個人的にはもっと攻め込んでほしいものですが・・・・中...
R18有。切ないけど楽しい物語。同級生、リーマン、日常系のお話です。
オリジナル小説・イラスト・漫画など 何でも思うまま創作中
前回の投稿から暫く離れてしまいました最近ではボーイズラブのドラマも人気の様で、アイドルの様な美麗な男性が主役をされていますね人気俳優への登龍門的な要素もあるのでしょうか (仮面ライダーに継ぐ?)ドラマはコミックが原作のものが多く、私も読ませて頂いていますのでドラマもたまに観ますコンプライアンスがあるので公共電波では表現が狭められてしまいますよね個人的にはもっと攻め込んでほしいものですが・・・・中...
「聡くん、東京に行っちゃうのねぇ、寂しくなるわね」 店の準備のために部屋を出るところで母のアケミがポツリと云う。 リビングのテーブルで昼食を食べていた黒田は、そんな言葉に振り向くと「岸だけじゃないよ、俺の仲良かった奴らは殆ど地元から離れて行く」と、箸を持ったまま呟いた。分かっている事でも、こうやって口に出してみると、心の中にぽっかりと穴が空く様だった。 「康介が此処に居てくれて、母さんは嬉しいけど...
卒業式当日。まだ少し肌寒い朝、着慣れた制服に袖を通すと、少しだけ感慨深い。この制服を着るのも今日で終わりだ。 卒業式を行う体育館に集まると、クラス別に椅子に座って前を向く。壇上では校長が卒業生に向けての言葉を手向けているが、黒田はそれを聞きながら特進科に居る岸の姿を探した。朝はクラスの連中と話していて、岸とは挨拶を交わしただけ。 ふたつ離れた列の少し前に居た岸の後ろ姿に、遠くから視線を送ると、ふ...
-----------------3月 予定通り、岸と西岡の合格発表があり、4人は互いの合格を祝い、そして明日の卒業式を迎える前にパーティーをしようと集まった。 場所は良く通ったカラオケボックス。それぞれに飲み物や料理を注文すると、沢口がひとりマイクを持って立ち上がった。「えーっと、ひとまずみんなお疲れ様!みんな進学出来て良かった!!って事で、カンパイしようぜ」 沢口に促されて、それぞれが椅子から...
怒涛の年末年始が過ぎると、すぐに岸や黒田たちは受験を迎えた。 結局、あの日以来黒田と岸が二人きりになる事はなく、互いを気に掛けつつも高校の3年間を終える日は迫っていた。既に進学が決まった者や就職の決まった生徒は、残った時間を楽しもうと旅行の計画を立てる者もいる。 黒田も専門学校への入学が決まり、バイトは少し日数を減らす様にしていた。「みんなバラバラになっちゃうの寂しいなぁ」 授業が終わりいつも...
3人掛けのソファーの上、いつしか黒田が岸の上に乗る形で抱き合うとキスを交わす。張りのある岸のすべすべの頬を愛しそうに撫でる黒田。こんな風に岸の肌に触れるのは初めての様な気がする。多分。いや、プールでふざけ合って触れてしまった事はあったか。 そんな事を考えながらも、黒田の手は頬を撫でたり首筋を這ったり。唇はゆっくりと感触を確かめるように重ね合わせた。 向きを変えようと、黒田が身体を捻った時に太腿が...
静かな空間で対峙するふたり。岸は少し泣きそうに眉根を下げている。「............なんでそういう事云うんだよ。オレの家が裕福だから自由だって云いたいのか?」「少なくとも、俺よりは。俺はバイトが無きゃ進学も出来ないし、遊びに付き合うのも金のかかる遊びは出来ない。今までは母さんが不自由のない様にと無理してくれてただけだ」 そう云うと、黒田は下を向いた。こんな話をするのは多分初めてだ。岸たちと遊ぶのは、バ...
突然の岸の言葉に、黒田は首を傾げる。「報告って?」「オレさ、東京に行くって決めて住む所とか検索してんだけど、なんか、そしたら急に黒田のいない生活が怖くなっちゃってさ」 そう云った岸の表情が、今まで見た事のない不安そうなもので。黒田は一瞬相槌をためらった。「なあ、黒田も東京の専門学校を受けない?受かったら一緒に住もうよ」 唐突な話に黒田の思考は停止する。「..............は?何云ってんだ?」「オレに...
久しぶりに岸と西岡、沢口が黒田のバイト先にやって来た。世間はクリスマスイベントに浮かれ、大学受験を控えた者たちは浮かれている場合ではない。が、息抜きの為か、沢口が岸と西岡を誘ったらしい。「学校で顔合わせてたのに、なんかすっごく久々に顔見た感じ」 沢口はテーブル席に腰を下ろし、黒田に向かうと云った。続いて西岡が、「黒田は岸とは会ってたんじゃないの?」と訊ねたが、岸も黒田も互いに首を振ると「休みに入...
* * * 木枯らしが吹き荒ぶ季節。冬休みに入ると、いよいよ岸も受験を間近に控えて遊んではいられなくなった。 黒田は年末年始に向けてバイトも忙しくなり、前ほど岸たちとつるむ時間はない。ひたすら自分の時間はバイトに費やしていた。「黒田くん、大晦日もバイトに入れるかな?出来たらお願いしたいんだけど...」 申し訳なさそうに、店長がスタッフルームに入って来た黒田の顔を見る。「予定はないので、別に構わないで...
翌日、黒田と岸が登校すると、3年生の昇降口に正美の姿が見えて、一瞬岸の足が止まった。「......藤城?」と、黒田が岸に聞こえる声で云ったが、また歩き出した岸は真っすぐに正美の正面に進んで行った。「おはようございます」と、岸の顔を見て云った正美。何処か強張った表情ではあったが、眼差しは真剣だった。「おはよう」と答える岸に、正美が頭を深く下げると「昨日は殴ってすみませんでした」と謝る。素直に謝罪の言葉を...
翌朝、黒田は早めに起きると、岸の為に朝食を用意してやった。まだ鼻の辺りが痛そうで、あまり咀嚼しなくても良いものをと考えて、コーンスープとスクランブルエッグに小さめのパンケーキを焼く。 作りながら、昨夜の言葉を思い出していた。おもわず岸の事を好きだと言ってしまったが、その感情が普通なのかどうか、自分ではよく分からない。ただ、岸と離ればなれになるのが怖い様な気がした。異父兄弟で親友で、誰よりも岸を理...
ベッドの中で、岸は眠れずに携帯画面を眺めていた。色々な動画を目にすると、時間は知らず知らずのうちに流れていく。「痛むのか?」と、背中合わせになった黒田に訊かれ「少しだけ」と答える。 痛みは随分と引いた様に思うが、表情を変えると鈍い痛みが走る。ずっと冷やしていたから腫れは大分よくなったが、鏡を見るのがちょっと怖い岸だった。「どうして、わざわざ藤城に弟との事話したんだ?別に黙ってればよかったんじゃな...
鼻を押さえる岸は、バスの中で目立っていた。高校生が多く乗り込むバスの中で、チラチラと岸の方を見る視線が痛いのか、吊革につかまっている岸が黒田の背中に顔を隠す。 暫くして停留所に着くと、急いでバスを降りた。漸くホッとしたのか、岸は押さえていたタオルを離すと「タクシーで帰ればよかった」とふて腐れた様に呟く。 黒田の部屋に辿り着くと、早速着ていた制服とジャージを脱ぎ捨てて、前に自分が寝泊まりする時の為...
鼻を押さえながら、保健室に向かう岸と黒田。 正美は教師に連れられて職員室の方に向かって歩く。その姿を振り向きながら見る黒田は、隣の岸に「お前、藤城に話したのか?弟の事」と小声で訊ねた。「........うん、千晶くんの事ごめんねって云った。そんで、やっぱり女の子とは違うから、最後まではしてないよって云おうとしたんだけど、途端に殴られた」「...........そりゃあ、殴られるわ。.........藤城の顔見ただろ?鬼の形...
なんとなく浮かない顔のまま、翌日黒田は岸のクラスを訊ねた。特進科の生徒はいかにも勉強熱心な顔をした者ばかり。その中で、見た目派手な岸の姿は浮いていた。だからなのか、教室を覗けばすぐに岸の姿は見つけられる。「岸、帰ろうか」 黒田が教室に入って行けば、周りの生徒がチラチラと黒田に視線を向ける。岸とのバランスが悪いのは昔から。対照的な風貌のふたりが親友同士だとは思われないだろう。それでも、この3年目に...
夏休みも終わり、いよいよ大学受験を控えている岸や西岡たちは、勉強のために塾へ通う頻度が増えてきた。 黒田の部屋に集まってバカ騒ぎしたり、ナンパしてきた女の子と遊ぶ事も減って平和な毎日を過ごしていた黒田だったが、相変わらずバイトは続けていた。岸たちと遊ぶ時間が減れば、自ずと散財もしなくなる訳で、正直このままいけば学費の足しにはなると思っていた。 この日、黒田はいつもの様にバイトを終えて家に向かう途...
岸が「千晶くん」と呼んだので、西岡たちも千晶の方に顔を向けた。 千晶に駈け寄って行った岸が、何やら話しているが、黒田から見るとあまり気乗りしていない様子で、岸が無理強いしているのでは、と思う。案の定、岸は千晶の肩に手を置くと、黒田たちに向かって「オレ、千晶くんと一緒に行くからー」と嬉しそうに声をあげた。 野次を飛ばす沢口や西岡たちを無視するように、千晶と連れだって神社に向かって歩く岸を黒田は少し...
ある日、沢口からメールを受け取った黒田。 暫く顔を見せていなかったので、てっきり彼女と上手くやっているのかと思えば、早々に別れたらしい。「なあ、黒田の家の近くに神社があるだろ?あそこで祭りをやってるらしいんだけどさ、遊びに行かないか?岸と西岡も誘ってさ」 メールの後に電話を貰うと、沢口は云った。いつもの様に軽い物言いで、またナンパ目的なのだろうとは思う。「俺のバイトが終わってからならいいけど」「...
なんとなく、ぎこちないままゲームを続けていると、西岡がリビングのドアを少しだけ開けて顔を出した。 ドアが開いたのでそちらに視線をやった黒田に、「悪ぃけど、ゴムある?」と小声で訊く西岡。岸もおもわず視線をやったが、黒田は平然とした顔で「ベッド横の引き出しの一番下」と云う。「悪ぃな。サンキュー、あと30分ガンバル」 西岡はニッコリと笑って扉を閉めた。 岸はゲームの手を止めると「黒田もゴムなんか用意して...
「そういや腹は減ってないのか?」 黒田がテレビ画面をじっと観る岸に訊ねると、視線を寄越した岸が「塾の始まる前に食ったから、減ってないかな。あ、アイスなら食べたいけど」と白い歯を見せて云う。「じゃあ待ってて、持ってくるから」「うん、悪いな」 リビングを出るとキッチンに向かう黒田。 ふと自分の部屋のドアに目をやれば、中から音楽が聞こえるが、それと同時に喘ぐ声も漏れ聞こえる。冷凍庫からカップアイスを取り...
シャクシャクと、持って来たリンゴを頬張りながら、岸は椅子の上で胡坐をかく。 親に対して失礼な態度を取っているのは重々承知だが、あの空気の中に居るのは居たたまれない。妻の顔色を窺う父親と、自分の事以外には関心のない母親。岸に対しても、成績で他の人より勝っている事が大事で、人から後ろ指を指される事などもってのほか。自分の家族は特別だと、多分疑いもなく育ってきたのだろうと思う母に、父親の事や黒田の事を...
岸が自宅に戻ると、父親の車が車庫に入っているのが見えて、急いで玄関の扉を開けた。 丁度、家政婦の女性が玄関で父の靴をしまっている所で、岸の顔を見ると「お帰りなさい、今お父様が帰って来られたところですよ」と云う。岸は「そう」とだけ云って、自分も靴を脱いであがって行った。 キッチンでは料理が準備されていて、食卓に運ぶだけになっている。それを覗き見ながら岸は自分の部屋に行こうと階段を上がりかけた。「聡...
暫く岸と千晶と黒田の三人で話しをしていたが、あまりにも岸が千晶の兄の正美を話題にするので、部屋の空気は気まずくなってしまい千晶は帰ると言い出した。 時計を見ればもう夕方だし、そんな時間かと岸も黒田も見送る事にする。 岸が千晶に好意を寄せている事は分かるし、黒田もせめて気持ちだけは通じればいいと、帰り際に「岸と付き合ってやってよ」と、気軽に云ってしまった。まさかその言葉が引き金になるとは思わずに、...
腹が空いたという岸の為に、黒田はキッチンに行くと棚からホットケーキミックスの袋を取り出す。 普段なら焼きそばとか、ラーメンとかを作るところだが、千晶がいるので甘いものでも、と思ったのだ。ちょっとカッコつけたかったのかもしれない。千晶の見た目からして、スイーツは似合いそうだった。 リビングに居る岸と千晶の声が少しだけ聞こえてくると、黒田は自然に聞き耳をたてる。あの二人が何を話しているのか気になるし...
この日、バイトが休みで家に居た黒田は、久々に母の店の開店準備を手伝っていた。 中学の時に自分の父親の存在を知って、それが岸の父だった事で酷く落ち込んだ時期もあった。知らなければ岸とも普通に友人として付き合えただろうに、変に血の繋がりがあると分かってからは、何かにつけて岸を甘やかしてしまう気がする。たとえ半年でも自分の方が兄になると、庇護欲の様なものが湧いてしまう。それに、岸は一緒にいて楽なのだ...
翌日、昼からバイトをこなした黒田だったが、終わるや否や岸が塾の時間まで一緒にゲームセンターに行こうと誘ってきて、仕方なく連れだって行く事にした。本当は家でゆっくり寝たかった。岸を泊めて、なんとなく考え事をしていたせいか少し寝不足の様だ。「お前さ、今日は塾終わったら家に帰れよな」 黒田がそう云うと、岸は「なーんでよ、冷たいじゃん」とくちびるを尖らせる。「俺の服着てるし、せめてパンツぐらいは自分の持...
翌朝、少し早く起きた黒田は、隣で眠る岸の顔をそっと覗き込んだ。 昨夜は酷い事を云ってしまったかもしれないと、心の中で、すまない、と謝る。岸が千晶を好きだという気持ちに嘘は無く、自分は応援した方が友達としてはいいのかもしれない。だが、どうしても素直に応援できないでいる。 女と適当に遊ぶのとは違い、よりにもよって同性の中学生の男子に恋をするなんて、黒田からしたら青天の霹靂だ。本当は岸に諦める様に云っ...
エアコンを25℃に設定して布団を被ると、黒田は横を向いて寝る。 ベッドはダブルなので、二人で寝ても余裕はある。今まで西岡や沢口も泊ったりした事があり、寝相が悪くない限りは朝までぐっすり眠る事が出来た。 岸は風呂から出ると、黒田に借りた服を着て髪の毛を乾かすと部屋にやって来た。 既に壁の方を向いて寝ている黒田を気遣ってそうっと布団に入って来ると、背中を向けて横たわる。 まだ眠いわけではないが、電気を...
キッチンの方からいい匂いが漂ってくると、リビングに居る岸はニヤリと口角を上げる。 この匂いはラーメンだ、と想像しながら待っていると、黒田が盆の上に器と水の入ったボトルを乗せて部屋に戻って来た。「美味そうな匂い」 岸は、待ちきれない様に覗き込むと、テーブルに置かれた器を両手で持って舌鼓を打つ。もやしとキャベツが乗ったしょう油ベースのラーメンに、半熟のタマゴがおとしてあり、チャーシューの代わりにハム...
* * * その夜は蒸し暑さがピークで、黒田は夜にバイトが終わると、急いで帰宅し速攻でシャワーを浴びた。 先日、店に岸たちがやって来たが、3人はカラオケに行くと云ってそのまま帰って行き、黒田は自宅で静かな夜を過ごし、この日もひとり静かに映画でも観ようと思っていた。 髪を乾かしながら、冷蔵庫から水を取り出してリビングのテーブルに置く。ペットボトルの蓋を開けると一気に半分ほどを飲んでしまい、ふぅーっと...
夏休みに入ると黒田はバイトに精をだし、岸は親の勧めで塾に通う事になる。 自分がいなくても勝手に家に入っていいと云ったが、岸は流石にひとりで居るのがつまらなくて、夏休みに入ってからは来る事が減った。それに塾の時間が夕方なので、黒田と時間が合う時にだけ来る様になった。 この日は、黒田が昼のシフトに入っていたので、岸は沢口と西岡を誘って黒田のバイト先であるファミレスにやって来た。 人の事は言えないが、...
夏の陽射しが強くなり、通学途中は汗を拭うのも面倒で、早く夏休みにならないかと思う毎日。 黒田と岸はいつもの様に二人で校舎を後にすると通学路を進んで行く。今日は近くの喫茶店に寄って涼んで行こうと思った。「沢口はデートで待ち合わせって云ってたから、あそこの店にいるんじゃねぇの?」 岸が黒田に云うと、「じゃあ店変える?」と訊く。沢口がいると他の女子を呼びそうで面倒だった。「あッ」 岸が黒田の顔を見るで...
藤城正美がバスケ部に入ったと聞いて、黒田は少し気になった。 自分がバスケ部を辞めなかったら今頃は一緒にバスケをしていたのだろう。ちょっと生意気そうな奴かと思ったが、主将の横川に訊けば、いたって真面目な奴だという。素質はあるので、もう少し身体つきが大きくなればメンバーにも入れるだろうと言った。帰りに体育館の横を通ると、バスケをしている姿が目に入る。黒田は、好きなスポーツを辞めてしまった事を少しだけ...
在り来たりな日々を過ごしながら、岸も黒田も高校3年生へと進級していた。 春の日の事、校舎裏の桜は入学式前に吹いた春一番で枝葉ばかりとなった。卒業式には清々しいほどの花を咲かせていたのに、今年の新入生はちょっと可哀想だと思いながら、体育館に集まった新入生を眺める。「あ」と溜め息の様な声をあげた黒田。視線の先に居た新入生の中に見覚えのある顔をみつけた。 普段、あまり人には興味を持たないが、カレだけは...
* * *「最近、聡は友達の家に入り浸りねぇ。明日から学校なのに勉強は大丈夫なの?」 夕飯時、いつもは自室で食事をする母親の美幸が、今夜は食卓テーブルに着いていて訊ねる。 お手伝いさんの作ったポークソテーを切りながら、ふと母親の方に顔を向けた岸。たまに親らしい事を云うと思えば、勉強の事だと、内心呆れた岸だったが、平静を装えば「勉強はちゃんとしてるから。友達も勉強熱心な奴だし」とうそぶいた。黒田が...
一瞬だけ千晶と云う少年と目が合ったが、すぐに逸らされて、岸と話す様子を窺っていたが、気になったのは千晶の横に居る背の高い少年。こちらも整った顔立ちをしている。何故か冷ややかな目をして岸を見ているのが気になると、どうやら千晶の兄らしいという事だった。不思議と違和感を覚える。どこにも血の繋がる要素が見受けられなかった。 自分と岸は異母兄弟になるが、黒田からしてみれば何処かに父親の遺伝子的な要素はある...
ゲームセンターの一件以来、岸は毎日の様に”チアキ”という中ボーの事を黒田に話してくる。「もう聞き飽きた」と素っ気なく返す黒田に、「歩いても帰れるって云ってたからさ、そんなに遠くには住んでないと思うんだよな。中学校でその辺りの距離にあるとこって何処だろ」と、質問をしてきた。「沢山あり過ぎて分かんないよ。それに、補導されたんなら暫くは外出禁止になるだろ?もう会えないかもな」 面倒になってそう云う黒田は...
千晶の事が気になりつつも、岸は西岡たちの居るカラオケボックスまでやって来た。 店内に入り案内されると、西岡たちに混じって黒田の顔が見える。バイトが終わって呼び出されたのかと、賑やかな音量の中黒田の横に座れば、目配せをされ部屋の外に出た。「黒田バイトは?」と訊ねる岸に、通路の壁に身体を預けた黒田は「終わってから来たよ。沢口が煩くてな。岸は何してたんだよ、遅かったじゃないか」と云った。既に来ている事...
千晶の取りたい景品は中々難しくて。岸は何度か挑戦するが、既に2000円を投入している。「あの、.....もう諦めますから、申し訳ないし、......お金払います」 岸が、あーーーっ、と残念そうに声をあげる中、千晶は申し訳なさそうに岸のジャケットの袖を引く。 振り向いた岸は、ニッコリと笑みを浮かべると「ごめーん、もう一回だけやらせて。これはオレの挑戦だから、お金の心配はしなくていいからさ。待ってて」と云う。 仕...
黒田がファミレスでバイトを始め、自分が居なくても来ていいと、鍵を渡された岸だったが、勝手には行き辛くて。 かといって、自宅に戻れば病弱でほとんどを自室で過ごす母の美幸の顔を見る事になる。そこは声掛けをして、自分も部屋に籠ればいいだけなのだが、問題はお手伝いの女性。何かと気を使ってくれて、おやつ、とか、夕飯のメニューなどの好みを聞きたがり、ウンザリするのだ。最近では、学校の事や友人の事も聞いてく...
ナポリタンを食べ終えて、ふたりで食器を洗い、片づけをしながら他愛ない会話をする。遠慮も何もない関係になるまでには、二年前の出来事は大き過ぎて、少しギクシャクした時期もあった。 あの日以来、岸は黒田の家に来る事が増え、それは父親の訪問を邪魔しているとしか思えないが、黒田も薄々感じ取っていた。岸の父親が自分の実父であると知らされても、今更愛情も何も感じない。逆に嫌悪感しかなかった。だから、岸が歯止め...
自分の部屋に行き、事の残骸を眺めながら、黒田は腹の中で「ちっ!」と舌打ちをした。 岸が云う様に、ラブホ代わりに使われた部屋の窓を全開にすると、ムッとした湿気を含んだ風が入って来る。 ベッドのシーツと枕カバーを引き剥がして、くしゃくしゃっと丸めれば、それを脇に抱えて洗面所に向かった。リビングからは岸たちの賑やかな声が聞こえてきて、それを無視しながら洗濯機にシーツを放り込めば、洗剤を投入してスイッチ...
* * * 二階へと続く階段を軽快な足取りで上がって行くと、岸聡は黒田康介の自宅の玄関ドアを開けた。 夏休みが始まってすぐの午後だった。急いでシューズを脱ぎ捨てると、着ているTシャツの裾をたくし挙げて、顔の汗を拭きながらリビングに向かう。まるで自分の家に戻って来たかの様な自然な動きのままドアを開けると「オッス」と声を掛けた。 その声に、関心を示さない様な声色で「おぅ」と返す黒田は、ソフ...
勢いよく階段を駆け下りて行ったが、道路に出るとゆっくり歩き出した黒田は、後ろから岸が追いかけて来ているのを感じて振り向いた。なんともバツの悪そうな表情で、黒田を上目遣いに見上げる姿に、おもわず深いため息を漏らす。「付いてくるなよ。........」 前に向き直り岸に云ったが、聞こえなかったのか、隣に来ると黒田の背中をパンッと叩いた。「イってぇなー。叩くなよ」 岸に向かって睨みつけると、「ごめんごめん、で...
うな垂れたまま、膝に乗せた手をギュッと握りしめる父親を睨む岸。 目に掛かりそうな前髪をかきあげると、「爺さんに知られたからって何?!さっさと離婚すりゃよかっただろ!」と声を荒げた。 その言葉に、良治は顔を上げると岸の顔を見つめる。何か云いたそうな表情に、今度は岸が目を逸らした。「離婚出来なかったんだ、..........お前がお腹にいる事が分かって」「..........」 岸は言葉に詰まった。 自分の父親ながら、...
短い人生の中で、一番の衝撃を受けたこの日、黒田康介(クロダコウスケ)と岸聡(キシサトル)はいつもの様にゲームを楽しむため黒田の家にやって来ていた。「なにしてるの?」 最初に口に出した言葉は岸からのものだった。 いつもの様にリビングのドアを開け、レースのカーテン越しに灯りが差し込んだ部屋は、8帖ほどの広さでテーブルとソファーとテレビが置いてあるだけ。薄いグリーンの布製のソファーに身体を預けて座る自...
窓から入る光がレースのカーテン越しに優しく差し込んでくると、主を失くした部屋は伽藍洞の様に白い壁紙だけを浮き上がらせていた。その中で寄り添うように立ったまま抱き合う二人。背中に感じる千晶の熱を握り締めた手の中に受け止める正美は、振り向いて顔を見たかったが、ギュッと力を込めた千晶に阻止される。 千晶がどんな表情をしているのかは想像するに容易だった。だから、そのままの体制でじっとしていた。 言葉が無...
千晶と正美が二階の自室に戻ると、拓真と京子はリビングで話し合いを始めた。流石に子供の前では離婚についての話し合いは出来ないだろう。互いに相手の事は認めつつも、夫婦としての生活を続けるには精神的な鍛錬が必要だった。家庭的な事よりも仕事重視のふたりにとって、家に帰る度に自己嫌悪に陥り、心の中では家族に申し訳ないと思いながら暮らしていく事は負担でしかなかった。 さて、離婚する事は決めたが、時期は決めか...
夕飯は気まずい雰囲気の中で摂ったが、京子は正美を追求する事もなく静かに過ぎていった。 寝る前に、それとなく千晶に訊いてきたが、千晶は「正美が殴るなんて、よほどの事があったんだろ。俺は正美を信じるよ」と云うと、京子も、そうね、と云って自分の部屋に戻って行った。 翌日からは、また日常の生活に戻り、千晶も塾に通うと勉強にも力を入れる様になる。岸の事は、なんとなく自分の中に仕舞い込んで、もし出会う事に...
リビングの空気は重いまま、黙っている正美に業を煮やしたのか、京子は立ち上がると部屋を出て行った。入口に立ったままの千晶は、ゆっくりソファーに近付くとテーブルの前に膝をついて正美を見る。視線はくれないが、ピクリと動く唇は千晶の言葉を警戒している様だった。「殴ったって、誰を?」「...................」 くちびるを結んだまま答えないのは、その相手が岸だと告げているも同然。どうしてそんな事になったのか分...
翌日、千晶は重い腰を庇う様にして学校に向かった。 母も、正美も、今朝はいつもと変わらずで、昨夜の事が母の耳には入っていない様で安心する。千晶もいつも通りの授業を受け、学校が終わると今日は家に戻る事にした。塾に行くのは気が進まなくて、岸に出会ったらどんな顔をすればいいのか分からなかった。 とぼとぼと家に辿り着いた時だ。珍しく車庫にある母の車を見て、今日はもう仕事を終えて帰って来たのかと、玄関のドア...
自分が声を上げて泣いていたのが分かったのは、浴室のドアがバタンと開いて正美の姿が目に入ったからだった。 正美は、シャワーを浴びながら座り込んで泣いている千晶を見ると、コックを捻ってお湯を止め千晶の横に屈んだ。「どうしたんだよ、千晶。何があった?」 濡れた頭に手を置いて、顔を覗き込んだ正美が訊ねるが、千晶は膝を抱えたまま首を振る。言葉には出来なかったし、自分でもどうして泣いてしまったのか分からなか...
怖がる千晶を余所に、白濁の滑りを伴った岸の指は狭い孔を押し広げて入っていった。千晶が途中で断念していた行為なのに、岸の指はヌルヌルと入っていき、やがて異物感はムズムズとした快感の様なものに変わっていった。「あ、.......変、......やぁぁ...............」と、身体をくねらせながら声をあげる千晶。自分でも分からないが、勝手に下腹部がジンジンとして来て、神経がそこに集中していくようだった。「気持ちぃでしょ...
岸の親指が千晶のくちびるを緩やかに撫でた時、千晶の中にはもう怖さや嫌悪感もなく、ただ癒されたいという気持ちだけだった。「キス、しちゃうよ」 小さく囁く岸の声に、千晶はうなずく。もう、正美に対する信頼とか愛情の様なものさえ曖昧に感じていた。 岸は、まるで花びらにでも触れる様な感じでキスをしてくる。触れた唇の熱が伝わらないので、千晶にとっては物足りなさも感じた。でも、一瞬気が抜けたその時、急に岸が千...
岸が戻って来ると、テーブルにジュースの入ったコップを置いてくれた。「オレはコンビニで買ったおにぎり食べるけど、千晶くんはお腹空いてない?」 テーブルの前に腰を下ろして訊いてくれる。「食事は済ませたので大丈夫です。......黒田さんは何時ごろ帰って来るんですか?」「大体9時頃かな?ファミレスのキッチンに入ってるって云ってた。アイツ料理作るの好きだからさ、結構楽しんでるんじゃない?」 黒田の事を話す岸は...
「サボっちゃいますか?」 ふいに千晶の口から出た言葉に、岸の身体が固まる。開けかけたコンビニの袋をそのままに、千晶の方に目をやったが、ふざけている訳でもなさそうで、じっと岸を見る視線は返事を待っている様だった。「......いいの?」「ええ、今日は勉強する気分じゃなくて、多分何も頭に入って来ないと思うし。......でも、岸さんは大切な時間ですもんね」「......いやいや、千晶くんがそう云うんならオレも。たまには...
学校に着いて、千晶の額に気付いたのは、幼馴染の松下だった。「おはよう」「おはよう、.....なんかあった?」と、松下はさりげなく千晶の横に来ると訊いて来た。多分、幼稚園の頃から千晶の癖は見抜いていたのだろう。困った事があると、よく額を掻いていたので、松下も傷を作る千晶を心配していた。それが未だに続いている事に、少し複雑な心境。「別に、.....また今度話すよ」 それだけ云った千晶は、自分の教室に入って行っ...
千晶が支度をしていると、ドアがノックされて「ちあき、入っていい?」と正美の声。「いいよ」と答えると、ドアがそっと開いて正美が入って来る。「おはよ」「おはよう」 千晶が背を向けたまま云うと、正美は近づいて来て顔を覗き込む。「あ、、、」と声が出ると、千晶の額に掛る前髪をそっと描き上げてため息をついた。「またやったな。.....傷になると痕が残っちゃうぞ」 そう云って髪を降ろすと千晶の頭をクシャッと撫でた...
翌朝、千晶はベッドの中でぼんやり目を開けて、窓のカーテン越しから入る陽射しを眺めていた。昨夜は結局夕飯も食べないまま、母も正美も自分の部屋から出ては来なかった様で、千晶もベッドに潜り込んで息を殺す様にしていた。 一旦状態を起こしてから、再びうつ伏せになった千晶は、額に痛みを感じて指の腹でそっと撫でてみる。と、掻きむしったところが傷になっていて、ヒリヒリと痛みを感じた。「こりゃあ酷いな.....」 枕...
誰の目からも、京子の表情は困惑で歪んでいるのが見て取れる。口は何かを言いたげに開いたままで、でも言葉にはならなくて。眼差しだけが強く正美を捉えているのが分かった。「オレが悪いんです、お母さん。千晶は何もわからなくて......オレが千晶を......」 そこまで云った正美だったが、「やめて!!」と怒鳴った京子に突き飛ばされてしまい、身体は後ろの壁に当たってドンと音をたてた。驚く千晶は二人の方に向くと、「母さ...
学校の中では、いつも通り過ごせていたと思う千晶だったが、授業が終わり家に帰宅して塾の支度をしていると、ふいに身体の力が抜けてくる。気を張っていたのだろうか、一旦腰を降ろしたら立ち上がるのが億劫になってしまった。 頭の中で色々な事がぐるぐると駆け巡るが、一向にまとまりはなくて、考えなくてもいい事まで浮かんでは消えた。 リビングのソファーに身体を預けて横たわれば、そのまま起き上がれなくなってしまう。...
眠れぬ夜を過ごし、それでも学校に行くためにベッドから起き上がった千晶は、重い足取りで部屋を出ると下の階に降りて行った。 キッチンでは、京子が珍しく朝食の用意を済ませていて、テーブルに並んだスクランブルエッグやベーコン、サラダなどが皿に盛られていた。コーヒーを淹れている母に、千晶が「おはよう」と声を掛ける。「あ、おはよう。......昨夜はごめんね、突然で驚いたよね。いまパンを用意するから座ってなさい」...
千晶の肩が震え、正美はそっと背中から覆いかぶさるように抱きしめる。「......ま、さみ......、俺、どうすれば......」 たどたどしく声を出せば、更に抱きしめる力は強くなった。その腕を掴んで握り締めると、千晶の眼から涙の粒が零れ落ちる。「ごめん、千晶、......父さんが......悪いんだ」 正美の声が震えて聞こえる。「ちが、.........」 違うと言いたかったが、言葉にならなかった。今はどちらが悪いとか、そんな事は...
ドアを開けると、飛び込む様に部屋に入って、着ていた制服を乱暴に脱ぎ捨てた。この気持ちをどう表せばいいのか、どこかでこんな日が来る予感もあった。でも、今じゃないと思った。 スウェット上下に着替えると、江本から借りた漫画をベッドの枕の下に隠す。それから布団に潜り込んで身体を丸めた。 悲しいのか辛いのか分からない。涙は出なかったが、腹の底から込み上がる物を吐き出したくて、枕を掴むと思い切り声をあげる。...
夕飯を食べ終わると、玄関の方で音がした。「あ、多分母親が帰って来たと思う」 そう云うと、江本は立ち上がってドアの所から廊下の方に顔を出す。パタパタとスリッパの音が近づいて、江本が「おかえり」と声を掛けると、「ただいま、誰か来てる?」と声がした。「うん、同じクラスの藤城くん」 その言葉が終わらないうちに、ドアと江本の隙間から覗く顔が見える。「あ、お邪魔してます。カレーもご馳走になって、すみません」...
「その漫画貸してあげるけど」 ふいに背後から声を掛けられて焦る千晶。片手にコップ、もう片手にコンビニで買ったものを袋ごと下げて立っている江本が入って来た。 千晶は焦って本を置くが、江本は机の上にコップを置いてジュースを注ぐと差し出す。「まだ買ってるんだ?」 コップを受け取って訊いた千晶に、江本はうっすらと笑みを浮かべて「もちろんだよ。だってさぁ、結構勉強になるじゃん」と云う。「勉強って、......祭り...
夏のむせる様な暑さが少し引き始めた頃、正美は部活で毎晩のように遅くなっていた。国体に向けてメンバーも決まり、岡部に続いて控えのメンバーに入る事が出来たので、練習に集中していたのもあった。身長はあっても体格で負けてしまう事が多く、その為食事量を増やしたりと試行錯誤していたが、漸くこの2ヶ月間でリバウンドの際に当たり負けしなくなって喜んでいた。 千晶は相変わらず学校と塾の両方で勉強三昧。この頃には夕...
千晶の受験勉強は、京子が思う様に進んでいなかった。それが分かったのは、塾から保護者に宛てた試験結果。桐島高校に合格するには、塾で行なう試験があって、一定の成績をとらないと難しい。昨夜、その封筒に入った結果を見た京子は肩を落とした。「千晶はちゃんと勉強していると思ってた。夏休み中も休まず塾に通ってたし.....」 二階から、水を飲みに降りて来た千晶に封筒を見せながら京子は云った。表情は至って普通。悲し...
千晶の異変に気付いたのは、夏休みが終わり二学期が始まってすぐの事。正美の部屋にも時々来る事はあり、正美はあの夜の事がトラウマの様になっていて、千晶に触れる時は細心の注意を払っていた。でないと、容易に壊してしまいそうで怖かった。 その晩も、千晶は正美のベッドに潜り込んでくると、性急に身体を求めて来た。そして、いつもの様に優しく触れる正美に対して、急に上体を起こすと「正美は俺の事負担に思ってるんだ...
夏休みも終わりに近づくと、課題を仕上げる為に午前中は自室に籠っている千晶。父の言葉を聞いた次の日に、それとなく謝る様なメッセージをもらい、かえって煩わせてしまったと思う千晶だった。あれから夕飯は自分と正美の分しか作らなくなった。母の京子に至っては、父とのやり取りを知る術もなく、相変わらず仕事に没頭する毎日で、子供としては両親の仲が心配になる。「ねえ、最近お父さんと母さん、ちゃんと会話してるのかな...
どうしても、父拓真の云った言葉が気に入らない正美は、部屋のドアをノックすると「入るよ」と云ってドアを開けた。「どうかしたか?」と、風呂の準備をしていた拓真が、着替えを手にして正美を見たが、その表情はあからさまに不機嫌そうで、すぐに今しがた自分が云った言葉のせいだと分かる。「父さんさぁ、千晶がせっかく料理を頑張ってるのに、あんな言い方は酷いよ。二人が遅くなるのは承知で、ちゃんと保存できるようにして...
ご飯を食べな がらの会話はいつもと変わらない。千晶は勉強で難しいところを正美に訊くし、正美はバスケで練習試合をした事やポジションが変わった事を話す。変わり映えしない話でも、食べながらのものはそれだけで楽しいと思えるし、食も進んだ。「洗い物はオレがするから、千晶はリビングでゆっくりしな」 立ち上がると、正美がそういうので、ありがとう、と云って千晶は自分の皿を渡すとキッチンから出た。 本当は正美の方...
今夜の夕飯は、簡単に冷やし中華を作って食べる事にする。キュウリやトマト、ハムに玉子を刻んで用意しておくと、後は麺を茹でるだけ。冷蔵庫にしまって、正美が帰ってきたら準備すればいい。 取り敢えず、先にシャワーを浴びる為に浴室に向かう。身体を洗いながら、最近正美に触れられていないせいで、性欲が溜まりつつあるが、それを自分で処理する気にもなれなかった。 簡単に済ませると、浴室から出て髪も乾かさないままキ...
あの夜から一週間、正美が千晶に触れる事はなかった。部活が始まると、疲れを理由にひとりで眠りたいといい、正美は千晶を遠ざけた。二人の間には、なんとなく共通して戸惑いがある。一線を越えて、繋がりたいという気持ちと同じくらい、どうなってしまうんだろうかと、不安もあった。それを払拭できないまま、取り敢えず夜は離れて眠る事にした訳だ。 千晶は、塾の帰りにバス停で岸に出会うのではないかと、気まずさも抱えなが...
ベッドの淵に腰を掛けて、見下ろした先に千晶の揺れる頭部が見える。そして時折見え隠れする自分の硬芯が、千晶のくちびるに飲み込まれると、腰のあたりが疼いてしまい力が入った。「ぁあっっ、..........」と、低く呻いてしまえば、チラッと正美を見上げる千晶の眼差しが、胸を射貫くように熱い。正美が感じているのかを確かめるように、何度も見上げられて、遂に正美の手は千晶の頭を押さえつけた。 吸い付かれて、その度に力...
必死に抱きついてくる千晶が可愛くて。 正美は、指先を丁寧に蠢かせ、出来るだけ痛くない様に孔を刺激する。本当は、自分の滾ったものをそこに捻じ込みたくて、でも、傷付けてしまうのが怖くて、勢いに任せてし始めた事を少し後悔した。前を扱きながら孔に入った指を少しづつ奥に進めると、急に千晶の身体がビクンと跳ねた。同時に、ひぁぁっ、と変な声が耳元で聞こえて、驚いた。「ど、どうした?」と、千晶の顔を覗き込むと、...
正美にキスをされて、そのまま後ろを弄られて、前に自分で慣らそうとした時には、指一本の先っぽがせいぜい。それも異物感がハンパなくて、諦めてしまった。なのに、今はキスをされているせいか、興奮状態だからなのか、あまり不快感は感じなかった。むしろ、ちょっと気持ち良かったりして、頭の奥がぼんやりしてくる。「ぁ、.......まさみ、ぃ...............」 息継ぎをした時に、思わず声が漏れてしまい、それが正美を奮い立...
ベッドに横たわりながら、正美は帰りに出会った岸の姿を思い出していた。あの表情を思い出すと、胸のあたりが苦しくなり、益々千晶を閉じ込めておかなくては、と思ってしまった。閉じ込めるなんて出来る訳がないのに.....。 千晶に、岸と会うなと云うのは、底意地が悪いと思われてしまうかも。でも、云わなければ千晶は簡単に岸の手にかかってしまいそうで。それだけは回避したかった。 沸々と思いを巡らせていると、ドアが開...
その夜、両親の帰りはいつも通り遅くて、千晶は正美の後にシャワーを浴びようと、リビングで待っていた。 テレビの音声を聞きながら、視線は携帯の画面に向けられている。祭りで久々に出会った吉村からメールが来ていて、それに返信をするが、内容は今日紹介された年上のカレシの惚気に対してのもの。ボーイズラブの漫画を借りてから、何度か行き来はあった。その頃は、まだカレと出会っていなくて、何なら千晶に好意を寄せてい...
人通りの少なくなった道で、腕を掴まれたままじっと黙っていると、そのうち家の方に向かって歩き出す正美に引っ張られる千晶。 肘の上あたりをグッと掴まれて、段々痛くなってきた。なのに、一向に掴んだ手を離さないので、千晶はとうとう声をあげると、離してよ、と云った。 フッと千晶に振り返り、漸く正美が手を離す。「痛いんだよ、力任せに掴んでさぁ。折れるかと思った」 そう云うと、腕を擦って見せる。「.....ごめん...
正美と岸の間に不穏な空気が漂い、千晶はおろおろとするばかり。 自分たちが血の繋がった兄弟でない事を岸が知っている。その事で、正美は千晶の顔を見ると、「お前が話したの?」と訊いた。「あ、......ごめ、......でも、別に隠す事じゃないし」 千晶は、正美に鋭い視線を向けられて、うわずった声で云った。別に、小学生の時からの友達や同級生には知られている事だ。頑なに隠す必要はないと思っていた。 岸は、尚も正美に...
正美の言葉に傷ついた千晶は、頬を膨らませたままどんどん先を歩いて行く。「ちょっと、千晶、、、、」と云いながら困り顔の正美。千晶の後を付いて行くが、その内諦めてゆっくり歩き出した。 千晶を弟と云ってしまった事で気を悪くしたのは分かっている。だが、事実だし、自分としては弟の千晶を好きになってしまったので、それは分かって欲しいと思う。 千晶の背中がどんどん遠ざかって、振り返りもせずに歩き続ける姿を見る...
雑踏へ戻って、飲み物の屋台を探す。プラスチックの容器に入った色とりどりのジュースが、南国を思わせるイラストの台の上に並んでいて、千晶はじっと物色しながら歩いた。可愛い形をしたストローが刺さっているのは、値段も高くてちょっと買うのをためらう。 少し歩いて他の屋台を探すが、ほとんど似たようなものばかり。かといって、自販機も近くには無い。仕方なく、戻りながら最初の店のジュースを買おうと、店の前に並んだ...
夏休み中、千晶たちの両親は何故か仕事に追い立てられている様で、相変わらず子供たちだけでの時間を過ごす事となった。 正美は、父と母が言い合いをしているのを聞いてしまって、それを千晶に云えないままいる事で、気持ちはとても複雑だった。「まあ、毎年こんな感じだよな」と、諦めた様な言い方の千晶に、正美も「そうだな」と同意するしかない。「おばあちゃんの家に行ってみる?」 正美がそう云ったが、千晶は祖母から旅...
塾の帰りに岸と出会う事が多かったせいで、千晶はバス停に着くと辺りを見回した。前回来た方向には見当たらなくて、少しだけ安堵する。 岸の事は別段嫌いではないし、センパイとして優しく接してくれるので、そこは有難いと思う。が、付き合うという事とは別だ。岸が、同性との付き合いを良しとする人種なのが分かって親近感を覚えたが、自分に矛先が向けられると曖昧な返事は出来ないと思う。それに、自分は正美以外の男を大事...
朝も早いというのに、セミの鳴く声で目覚めた千晶は、隣でうつ伏せのまま眠る正美の肩を揺する。「正美、起きなよ、部活行くんだろ?」 声だけ掛けると、自分は正美の身体を跨いでベッドから降りた。脱いで床に落ちたままのTシャツを被ると、ハーフパンツを穿いてもう一度正美の顔を見る。「おい、俺下に行くから、ちゃんと起きなよね」「.......う~ん、分かったぁ」 寝惚け眼を擦りながら、そう云って枕に突っ伏した正美。 ...
父の事が心配なのに、ふたりでベッドに入ってしまえば、火が付いた様に抱き合う千晶と正美。 互いにヌき合うと、大きく深呼吸をして正美は立ち上がった。「喉渇いたから水取って来る」 そう云って、Tシャツを着て、部屋から出て行く正美の背中を見送りながら、千晶は頭の片隅にしまった岸の言葉を思い出す。 階下に降りて行った正美は、リビングから両親の声が聞こえたので、声を掛けようと近寄って行ったが、なんだか声の調...
正美の体温を背中に感じて、いつもなら跳ね除けるところだが、今夜はなんだか安心して身を任せられた。一応は両親の帰って来ない事が大前提だが、回された腕が千晶の身体を弄って、腹や胸の辺りに伸びてくると少しだけ期待してしまう。案の定、正美の指先は千晶の胸の敏感な先っぽを捉えるとキュッと摘む。おもわず変な声が漏れそうになって、慌てて身体をグッと反らせると、後頭部が正美の顎に当たった。「イテッ、、、」と怯ん...
「おまっ、、、そういう事は自分で云うから」 岸は黒田に掴まれた肩をぐるんと回して跳ね除けると云った。そして千晶の顔を見ると「ごめん、時々変な事いうんだ、コイツ」と云って照れくさそうに笑う。「.....ぁ、いえ、.....」と、言葉に詰まるが、千晶は靴を履いてしまうと「あの、ホントに一人で帰れますから」と云って、一礼して玄関のドアを開けて外に出た。岸は付いて来ようとしたが、千晶が階段を駆け下りて行ったので立ち...
岸と黒田の視線が自分に注がれているのを感じて、千晶はなんと言おうかと戸惑った。口にしてはいけない事実。正美の為にも、ふたりの関係は言えない。「正美はいいアニキですよ。ちょっと俺の事を子供扱いするけど、まあ、いいアニキです。弟として俺の事を好きなんだと思います」 ちゃんと自然に言えただろうか。言い終ると千晶はホットケーキを口に運んでゆっくりと嚙みしめた。その間にも心臓はドクンと脈打つが、コーラで喉...
キッチンからいい匂いが立ちこめてくると、暫くして皿を持った黒田が千晶と岸の前にやって来た。「おっ、これはホットケーキじゃん。黒田の作るの美味いんだよなー」 岸は目の前に置かれたホットケーキを見つめると云った。それから千晶の顔を見ると「遠慮しないで食べなよ」と微笑む。「お前が云うな。作ったのはオレだし、藤城の弟にはオレが云う」と、黒田は岸の頭を小突いた。「あ、いただきます」と、黒田に云うと、千晶は...
繁華街からほど近い所にある、スナックの様な店の前で止まった岸は、入口を指さすと「ここに入ろう」と云った。「え?ここって.....」 千晶は店の看板を見上げると、少し戸惑う。どう見ても大人の人が入る店の様な気がして、自分が入ってもいいのだろうかと、岸の顔を見た。「あ、ここって友達の母親がやってる店なんだ。今はまだ開店前だから、大丈夫だよ。それに、この上が住まいになってて、ちょっと飲み物と何か食べさせて...
食事が終わると、ふたりはゲームセンターに向かった。店内は思った通り学生が多くて、自分たちと同じぐらいの中高生が目立つ。中には親と一緒に来ている小学生も居たが、人気のゲームの前には高校生らしい男子がたむろっていた。「結構混んでますね。なんか、順番待ちしなきゃいけないみたい」「そうだね、あの辺はオレと同じ高校生だな。知った顔のヤツも居るから.....」「あ、そうなんですか?.....どうしよう、奥の方に行きま...
* * * 正美が怪我をしてから2週間、千晶は甲斐甲斐しく世話を焼きながら、自分も塾と宿題を片付けるのに忙しい日々を送っていた。ある日の事、携帯に一通のメールが届いた。画面を見て、千晶は「あっ」と声を出すと一瞬悩む。メールは岸からのもので、明日、遊ばないかという内容だった。 明日は塾の無い日で、正美も部活に行くというので一日暇ではあった。が、岸の事をあまり良く思っていない正美には相談出来ない。自...
朝になると、千晶は正美を起こさない様にベッドからそっと降りる。寝返りが打てないせいか、夜中に何度も目が覚める正美は、朝方になると漸く寝つけるみたいで、千晶が起きる頃にはぐっすりと寝息をたてていた。 ちょっと前までは、正美に起こされていたのに、と思うと、自分でも成長したなと思う。料理も少しなら作れるようになったし、少しづつ正美に近付いている様な気もする。 鼻歌交じりに一階に降りて行くと、京子が出掛...
多恵子が帰って行くと、千晶はリビングでテレビを観る正美の横に腰を下ろした。「ばあちゃん、意外と元気そうで安心したな」と云うと、「そうだな」と正美も微笑む。昨年の事もあって、身体の心配はしていたが、自分の時間が作れるようになって、祖母も楽しんでいるのが分かる。「そうだ、.......父さんは結局遅くなるって、さっきメールが来てた。設計の方でゴタゴタしてるらしいよ。オレには分かんないけどさ、お母さんに悪い...
久しぶりに祖母の多恵子を交えての夕食。千晶は嬉しかった。昨年、多恵子が倒れて入院するまでは、正美がこの家に来てからずっと三人で食卓を囲んでいた。両親との繋がりよりも、こうして祖母と正美が居てくれる事が何よりの安心感を与えてくれる。「おばあちゃんの唐揚げ、やっぱり最高に美味しい。前に千晶と作った時は、味がイマイチ薄くて」 正美はフォークで唐揚げを持ち上げながら話す。「唐揚げはね、先に味付けしてから...
バスが最寄りの停留所に着く頃には、黒田に対する緊張感も無くなっていた千晶。ゆっくりと家まで歩いていると、前方からやって来る松下の姿が見えた。「あ、アジー久しぶり。どこ行ってたの?」 松下は口角を上げると、早足で千晶の前にくる。日焼けした顔は満面の笑みで、夏休みに入って初めて顔を合わせたので喜んだ様だ。「オッス、久しぶり。俺は塾の帰り、お前はどっか行くの?」「えへへー、実は彼女と映画観に行くんだ。一...
塾の時間をみながら仕度をした千晶は、リビングのソファーに寝転んでいる正美の所にやって来ると、声を掛けた。「じゃあ、俺は塾に行くから、帰ってきたら夕食の準備をするね」 なんとなく正美を一人にするのは可哀そうだと思うが、塾を休む訳にもいかない。ソファーで寝転んだまま、顔だけをあげて千晶を見る正美は、渋々笑顔を向けてくれる。「いってら。........あんまり無理して早く帰らなくてもいいよ。しっかり勉強頑張っ...
「ブログリーダー」を活用して、itti(イッチ)さんをフォローしませんか?
前回の投稿から暫く離れてしまいました最近ではボーイズラブのドラマも人気の様で、アイドルの様な美麗な男性が主役をされていますね人気俳優への登龍門的な要素もあるのでしょうか (仮面ライダーに継ぐ?)ドラマはコミックが原作のものが多く、私も読ませて頂いていますのでドラマもたまに観ますコンプライアンスがあるので公共電波では表現が狭められてしまいますよね個人的にはもっと攻め込んでほしいものですが・・・・中...
「聡くん、東京に行っちゃうのねぇ、寂しくなるわね」 店の準備のために部屋を出るところで母のアケミがポツリと云う。 リビングのテーブルで昼食を食べていた黒田は、そんな言葉に振り向くと「岸だけじゃないよ、俺の仲良かった奴らは殆ど地元から離れて行く」と、箸を持ったまま呟いた。分かっている事でも、こうやって口に出してみると、心の中にぽっかりと穴が空く様だった。 「康介が此処に居てくれて、母さんは嬉しいけど...
卒業式当日。まだ少し肌寒い朝、着慣れた制服に袖を通すと、少しだけ感慨深い。この制服を着るのも今日で終わりだ。 卒業式を行う体育館に集まると、クラス別に椅子に座って前を向く。壇上では校長が卒業生に向けての言葉を手向けているが、黒田はそれを聞きながら特進科に居る岸の姿を探した。朝はクラスの連中と話していて、岸とは挨拶を交わしただけ。 ふたつ離れた列の少し前に居た岸の後ろ姿に、遠くから視線を送ると、ふ...
-----------------3月 予定通り、岸と西岡の合格発表があり、4人は互いの合格を祝い、そして明日の卒業式を迎える前にパーティーをしようと集まった。 場所は良く通ったカラオケボックス。それぞれに飲み物や料理を注文すると、沢口がひとりマイクを持って立ち上がった。「えーっと、ひとまずみんなお疲れ様!みんな進学出来て良かった!!って事で、カンパイしようぜ」 沢口に促されて、それぞれが椅子から...
怒涛の年末年始が過ぎると、すぐに岸や黒田たちは受験を迎えた。 結局、あの日以来黒田と岸が二人きりになる事はなく、互いを気に掛けつつも高校の3年間を終える日は迫っていた。既に進学が決まった者や就職の決まった生徒は、残った時間を楽しもうと旅行の計画を立てる者もいる。 黒田も専門学校への入学が決まり、バイトは少し日数を減らす様にしていた。「みんなバラバラになっちゃうの寂しいなぁ」 授業が終わりいつも...
3人掛けのソファーの上、いつしか黒田が岸の上に乗る形で抱き合うとキスを交わす。張りのある岸のすべすべの頬を愛しそうに撫でる黒田。こんな風に岸の肌に触れるのは初めての様な気がする。多分。いや、プールでふざけ合って触れてしまった事はあったか。 そんな事を考えながらも、黒田の手は頬を撫でたり首筋を這ったり。唇はゆっくりと感触を確かめるように重ね合わせた。 向きを変えようと、黒田が身体を捻った時に太腿が...
静かな空間で対峙するふたり。岸は少し泣きそうに眉根を下げている。「............なんでそういう事云うんだよ。オレの家が裕福だから自由だって云いたいのか?」「少なくとも、俺よりは。俺はバイトが無きゃ進学も出来ないし、遊びに付き合うのも金のかかる遊びは出来ない。今までは母さんが不自由のない様にと無理してくれてただけだ」 そう云うと、黒田は下を向いた。こんな話をするのは多分初めてだ。岸たちと遊ぶのは、バ...
突然の岸の言葉に、黒田は首を傾げる。「報告って?」「オレさ、東京に行くって決めて住む所とか検索してんだけど、なんか、そしたら急に黒田のいない生活が怖くなっちゃってさ」 そう云った岸の表情が、今まで見た事のない不安そうなもので。黒田は一瞬相槌をためらった。「なあ、黒田も東京の専門学校を受けない?受かったら一緒に住もうよ」 唐突な話に黒田の思考は停止する。「..............は?何云ってんだ?」「オレに...
久しぶりに岸と西岡、沢口が黒田のバイト先にやって来た。世間はクリスマスイベントに浮かれ、大学受験を控えた者たちは浮かれている場合ではない。が、息抜きの為か、沢口が岸と西岡を誘ったらしい。「学校で顔合わせてたのに、なんかすっごく久々に顔見た感じ」 沢口はテーブル席に腰を下ろし、黒田に向かうと云った。続いて西岡が、「黒田は岸とは会ってたんじゃないの?」と訊ねたが、岸も黒田も互いに首を振ると「休みに入...
* * * 木枯らしが吹き荒ぶ季節。冬休みに入ると、いよいよ岸も受験を間近に控えて遊んではいられなくなった。 黒田は年末年始に向けてバイトも忙しくなり、前ほど岸たちとつるむ時間はない。ひたすら自分の時間はバイトに費やしていた。「黒田くん、大晦日もバイトに入れるかな?出来たらお願いしたいんだけど...」 申し訳なさそうに、店長がスタッフルームに入って来た黒田の顔を見る。「予定はないので、別に構わないで...
翌日、黒田と岸が登校すると、3年生の昇降口に正美の姿が見えて、一瞬岸の足が止まった。「......藤城?」と、黒田が岸に聞こえる声で云ったが、また歩き出した岸は真っすぐに正美の正面に進んで行った。「おはようございます」と、岸の顔を見て云った正美。何処か強張った表情ではあったが、眼差しは真剣だった。「おはよう」と答える岸に、正美が頭を深く下げると「昨日は殴ってすみませんでした」と謝る。素直に謝罪の言葉を...
翌朝、黒田は早めに起きると、岸の為に朝食を用意してやった。まだ鼻の辺りが痛そうで、あまり咀嚼しなくても良いものをと考えて、コーンスープとスクランブルエッグに小さめのパンケーキを焼く。 作りながら、昨夜の言葉を思い出していた。おもわず岸の事を好きだと言ってしまったが、その感情が普通なのかどうか、自分ではよく分からない。ただ、岸と離ればなれになるのが怖い様な気がした。異父兄弟で親友で、誰よりも岸を理...
ベッドの中で、岸は眠れずに携帯画面を眺めていた。色々な動画を目にすると、時間は知らず知らずのうちに流れていく。「痛むのか?」と、背中合わせになった黒田に訊かれ「少しだけ」と答える。 痛みは随分と引いた様に思うが、表情を変えると鈍い痛みが走る。ずっと冷やしていたから腫れは大分よくなったが、鏡を見るのがちょっと怖い岸だった。「どうして、わざわざ藤城に弟との事話したんだ?別に黙ってればよかったんじゃな...
鼻を押さえる岸は、バスの中で目立っていた。高校生が多く乗り込むバスの中で、チラチラと岸の方を見る視線が痛いのか、吊革につかまっている岸が黒田の背中に顔を隠す。 暫くして停留所に着くと、急いでバスを降りた。漸くホッとしたのか、岸は押さえていたタオルを離すと「タクシーで帰ればよかった」とふて腐れた様に呟く。 黒田の部屋に辿り着くと、早速着ていた制服とジャージを脱ぎ捨てて、前に自分が寝泊まりする時の為...
鼻を押さえながら、保健室に向かう岸と黒田。 正美は教師に連れられて職員室の方に向かって歩く。その姿を振り向きながら見る黒田は、隣の岸に「お前、藤城に話したのか?弟の事」と小声で訊ねた。「........うん、千晶くんの事ごめんねって云った。そんで、やっぱり女の子とは違うから、最後まではしてないよって云おうとしたんだけど、途端に殴られた」「...........そりゃあ、殴られるわ。.........藤城の顔見ただろ?鬼の形...
なんとなく浮かない顔のまま、翌日黒田は岸のクラスを訊ねた。特進科の生徒はいかにも勉強熱心な顔をした者ばかり。その中で、見た目派手な岸の姿は浮いていた。だからなのか、教室を覗けばすぐに岸の姿は見つけられる。「岸、帰ろうか」 黒田が教室に入って行けば、周りの生徒がチラチラと黒田に視線を向ける。岸とのバランスが悪いのは昔から。対照的な風貌のふたりが親友同士だとは思われないだろう。それでも、この3年目に...
夏休みも終わり、いよいよ大学受験を控えている岸や西岡たちは、勉強のために塾へ通う頻度が増えてきた。 黒田の部屋に集まってバカ騒ぎしたり、ナンパしてきた女の子と遊ぶ事も減って平和な毎日を過ごしていた黒田だったが、相変わらずバイトは続けていた。岸たちと遊ぶ時間が減れば、自ずと散財もしなくなる訳で、正直このままいけば学費の足しにはなると思っていた。 この日、黒田はいつもの様にバイトを終えて家に向かう途...
岸が「千晶くん」と呼んだので、西岡たちも千晶の方に顔を向けた。 千晶に駈け寄って行った岸が、何やら話しているが、黒田から見るとあまり気乗りしていない様子で、岸が無理強いしているのでは、と思う。案の定、岸は千晶の肩に手を置くと、黒田たちに向かって「オレ、千晶くんと一緒に行くからー」と嬉しそうに声をあげた。 野次を飛ばす沢口や西岡たちを無視するように、千晶と連れだって神社に向かって歩く岸を黒田は少し...
ある日、沢口からメールを受け取った黒田。 暫く顔を見せていなかったので、てっきり彼女と上手くやっているのかと思えば、早々に別れたらしい。「なあ、黒田の家の近くに神社があるだろ?あそこで祭りをやってるらしいんだけどさ、遊びに行かないか?岸と西岡も誘ってさ」 メールの後に電話を貰うと、沢口は云った。いつもの様に軽い物言いで、またナンパ目的なのだろうとは思う。「俺のバイトが終わってからならいいけど」「...
なんとなく、ぎこちないままゲームを続けていると、西岡がリビングのドアを少しだけ開けて顔を出した。 ドアが開いたのでそちらに視線をやった黒田に、「悪ぃけど、ゴムある?」と小声で訊く西岡。岸もおもわず視線をやったが、黒田は平然とした顔で「ベッド横の引き出しの一番下」と云う。「悪ぃな。サンキュー、あと30分ガンバル」 西岡はニッコリと笑って扉を閉めた。 岸はゲームの手を止めると「黒田もゴムなんか用意して...
多恵子が帰って行くと、千晶はリビングでテレビを観る正美の横に腰を下ろした。「ばあちゃん、意外と元気そうで安心したな」と云うと、「そうだな」と正美も微笑む。昨年の事もあって、身体の心配はしていたが、自分の時間が作れるようになって、祖母も楽しんでいるのが分かる。「そうだ、.......父さんは結局遅くなるって、さっきメールが来てた。設計の方でゴタゴタしてるらしいよ。オレには分かんないけどさ、お母さんに悪い...
久しぶりに祖母の多恵子を交えての夕食。千晶は嬉しかった。昨年、多恵子が倒れて入院するまでは、正美がこの家に来てからずっと三人で食卓を囲んでいた。両親との繋がりよりも、こうして祖母と正美が居てくれる事が何よりの安心感を与えてくれる。「おばあちゃんの唐揚げ、やっぱり最高に美味しい。前に千晶と作った時は、味がイマイチ薄くて」 正美はフォークで唐揚げを持ち上げながら話す。「唐揚げはね、先に味付けしてから...
バスが最寄りの停留所に着く頃には、黒田に対する緊張感も無くなっていた千晶。ゆっくりと家まで歩いていると、前方からやって来る松下の姿が見えた。「あ、アジー久しぶり。どこ行ってたの?」 松下は口角を上げると、早足で千晶の前にくる。日焼けした顔は満面の笑みで、夏休みに入って初めて顔を合わせたので喜んだ様だ。「オッス、久しぶり。俺は塾の帰り、お前はどっか行くの?」「えへへー、実は彼女と映画観に行くんだ。一...
塾の時間をみながら仕度をした千晶は、リビングのソファーに寝転んでいる正美の所にやって来ると、声を掛けた。「じゃあ、俺は塾に行くから、帰ってきたら夕食の準備をするね」 なんとなく正美を一人にするのは可哀そうだと思うが、塾を休む訳にもいかない。ソファーで寝転んだまま、顔だけをあげて千晶を見る正美は、渋々笑顔を向けてくれる。「いってら。........あんまり無理して早く帰らなくてもいいよ。しっかり勉強頑張っ...
少し窮屈な格好で寝たせいか、目覚めた正美はベッドから起き上がると首をゴキゴキと鳴らす。「あ、正美、......よく眠れた?」と、千晶は伸びをすると訊ねた。「ん~、やっぱり寝返りを打つ度に気になって、なんか寝た気がしない」「暫くは仕方ないよ。家に居るんだし、眠くなったらソファーで寝ててもいいからさ、身体を休めなきゃ」 そう云って起き上がる千晶。正美の腕を心配そうに眺めるが、正美は「ボール触れないのも辛い...
ベッドの縁に腰掛けた正美は、乾いた髪を左の指で確かめると、満足そうに目の前の千晶に微笑んだ。「人にやってもらうのって楽だな」「腕が治るまでは毎日俺が乾かしてやるよ。あと、風呂も」 そう云うと、フフフッと含み笑いをした千晶。ドライヤーのコードを巻き付けると、所定の場所に仕舞う。「俺は自分のベッドで寝るから。正美はゆっくりして」 正美の頭に手を置くと、そう云って離れようとしたが、手を掴まれて引き戻さ...
浴室から出てきた京子がリビングに居る千晶と正美に声を掛ける。「お父さんは日付が変わってからじゃないと帰って来ないから、ふたりは早めにお風呂に入って休みなさいね。正美くんの怪我の事はメールで知らせておいたから」 そう云うと、ニコリと微笑んで自室に戻って行った。「相変わらず父さんは仕事ばっかりだな」 正美が呆れた様に話す姿に、千晶は少し寂しさを感じた。こんな時、やはり父親には心配して傍に居て欲しいと...
千晶は時計の針を見ると、仕方なく作りかけの冷やし中華を完成させてテーブルに並べた。母の京子が帰って来るかもしれない。食べずに待っているのも変に気を使わせてしまうと思い、取り敢えず夕飯を食べてしまう事にした。 食べ終えて暫くすると、玄関の扉が勢いよく開いて「ただいまー、正美くん帰って来た?」と京子の大きな声が廊下に響いた。キッチンに顔を覗かせると、千晶の顔を見て「まだなのね?」と眉根を下げる。「コ...
急いで帰宅すると、玄関に正美の靴がない事を確認。カギはどちらにしても閉める事になっているから、ひょっとして先に帰っている場合もあった。だが、靴がないという事はまだ部活から戻っていないという事だ。 ゆっくりと自分の部屋に行き、塾の鞄を机に置いた。汗をかいて気持ち悪いので、先にサッとシャワーを浴びようと、着替えを持つと下の階に降りて行く。夕方だというのに、まだ陽射しは強くて、リビングのエアコンを入...
バス停に着くと、自販機で買った飲料水のキャップを開けてゴクッと喉に流し込む。一気に身体は潤った気がするが、額の汗は拭っても吹き出してきた。あっついな~ と、口からは自然と愚痴がこぼれ、バスの来る方向に目をやったまま再び飲料水を飲み込んだ。汗拭きシートを取り出そうと、鞄を開いた時だった。千晶の後方で「ちあきくん!」と名前を呼ばれてビックリする。 名前で呼ばれる事がほとんどなかったので、近所の人だろ...
塾の入っているビルは、商業施設が並ぶ建物に囲まれている。人通りも多く、平日はサラリーマンや買い物客で賑わっていた。舗道を人にぶつからない様歩いて行くと、ビルに着いてエレベーターに乗り込む。5階が学習塾のあるフロア。下の階は色々な会社が入っていた。エレベーターに乗り込むと、一緒になった生徒が3人居て、顔を見るのも恥ずかしくて俯く千晶だった。少し緊張が走る。 5階に着くと、それぞれ自分の教室に向かっ...
岸の事を考えると、千晶を抱く手に力が入る。「イ、タイ........」と、腰を掴んだ正美の手が千晶によって解かれると、慌てて「ゴメン」と謝った。「部活で疲れてるんじゃないの?........ま、いいけどさ。でも力強すぎ」 千晶はくるりと向きを変えると、正美の顔に近寄って口を尖らせる。見つめ合うと、正美も本当に反省した。岸の言葉が気に障って、在り得ない事だけど千晶を取られるような錯覚を覚えてしまい、つい自分の手の...
千晶がキッチンで夕飯を作っていると、帰って来た正美がやって来て後ろから抱きついた。「どうかした?........熱いんだけど」 家には二人きりなので驚きはしないが、正美がこんな事をして来るのは珍しいと思った。自分の部屋以外では極力離れているし、ふたりの秘密が両親にバレない様に気をつけていたから。「千晶、料理上手くなったよな。オレの作れるものは殆ど千晶も作れるようになったし。帰るの遅くてごめんな、手伝えな...
* * * 正美は部活、千晶は受験勉強を頑張っていると、やがて夏の陽射しが照り付ける季節となった。インターハイ予選のレギュラーはもちろん、控え選手にもなれなかった正美は、相変わらずの厳しい練習に耐え続けている。岡部もまた、控え選手のひとりにはなれたが、一度も試合には出る事がなかった。「結局、インハイの決勝までは行けなかったな。上には上がいるって事だよな」 部室のカギを閉めながら岡部は云った。2回戦ま...
正美が家に着く頃には既に辺りは暗くなっていて、玄関のドアを開けると中からはいい匂いがして、今夜のメニューがビーフシチューだと分かった。急いで靴を脱ぐとキッチンへと向かう。「ただいまー」と声をかけると、キッチンに居る京子が振り返って「お帰りなさい」と笑みを浮かべた。千晶の姿は見えなくて、「着替えてきます」と云うと急いで二階にあがって行く。 トントンと軽やかに駆けあがり部屋に入ると、鞄を置いて着替え...
部室で着替えを済ませると、正美は岡部と共に体育館に向かう。1年生は床のモップ掛けをして、その後ボールを出したりと用意をしてからの準備体操。10人だった1年生が今は7人しか残っていない。準備体操をしていると、2年生や3年生がやって来て一気に緊張が走る。「おーい、1年生集まれー」 主将の富永が入口から入ってくるなり声をかける。すると、一斉にドタドタッという足音が響いて1年生たちは富永の前に整列した。ピンと背...
午前の授業が終わると、食堂に行ってバスケ部の同級生と昼食を食べる正美。平日は弁当を持って来て食べる事もあるが、食堂のメニューも色々あって、土曜日はそこで食べるのも楽しみだった。正美の友人で、バスケ部員の岡部はランチの唐揚げ定食の大盛を前に、眉を下げて浮かない顔。そんな顔を見つつ、正美はナポリタンを口に入れて様子を窺う。「1年生部員、3人は他の部に移るってさ。隣のクラスのヤツじゃなかったっけ?」 ...
心地よい微睡みの中、目を覚ました千晶。隣を見ればそこに正美の姿は無かった。「あ、そうか.......学校........」 正美は、今日は午前中授業で、午後には部活があると云っていた。千晶は休みなので起こさずに行ったのだろう。布団から抜け出ると、一応自分の身なりがどうなっているのか確認した。下着もスウェットの上下もちゃんと着ていて安心する。千晶の中では半分夢のような出来事で、自分のくちびるに指を添えると恥ずか...
二人の言葉が止むと、自然に身体が引き寄せられて、ふたりのくちびるが触れ合う。少し熱を持った湿り気のある感触。正美の舌が千晶の咥内に入ると、歯列をなぞる。「ん、..........ふぅ..............」 徐々に激しくなる口づけに、千晶も興奮を覚えると、身体は自然に正美を求める。昨日の事もあるし、江本の本の内容も頭を過ぎると、どこかで期待している自分が居た。 正美の手が胸に触れると、先端の小さな粒を捏ねてくる...
布団に入り、暫くは互いに天井を見ていたが、ふいに正美の手が隣の千晶の手に触れて握ると、横を向いて軽く頬にキスをした。千晶は一瞬だけピクっとなったが、すぐに正美の方に向き直ると笑みを浮かべる。近くで体温を感じる事だけでも幸せだと思えた。「昨日、ビックリしたよな?ごめんな」と正美に云われて、「え、何が?」と返すが、すぐにアノ事だと思った。正美が千晶の性器を舐めた事しか想像できない。「............そ、...