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CNBLUEのBL小説ブログです。ジョンシン×ヨンファ、ジョンヒョン×ヨンファの話を書いています。

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2016/03/09

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  • その男、不遜につき 32

    瞬く間にジョンシンの広い胸に抱き込まれ、身体が軋むかと思うほどの手加減なしの抱擁にヨンファは慌てふためいた。「ちょっ……痛いって。力、弱めろよ」「嫌だ」あっさり即答されてしまい、困惑したヨンファが身を捩じって拘束から逃れようとすると、腕の力は緩むどころかかえって躍起になって離れまいとする。負けじと肩を押して引き剥がそうと試みたが、ヨンファの首筋に顔を埋めた男はびくともしやしない。まるで聞き分けのない...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 105

    珍しく弾んだ響きとともに数メートル先から悠然とした足取りで近づいてくる兄貴分に、ジョンヒョンは向き直って慣例的に頭を下げた。世の中を知り尽くしたような強者の風格と威厳を漂わせているグンソクは上等なスーツを颯爽と着こなし、鋭利な眼光さえ除けば、やり手のエリートビジネスマンに見える。統率力と洞察力に優れており、様々な特技や強みを持った個性豊かな組員らを束ねることができる組内きっての切れ者だ。「ドンゴン...

  • その男、不遜につき 31

    ジョンシンの予期せぬ発言は、頑ななヨンファの心を突き動かすには十分すぎたようだ。自分でも驚くほど素直にぽろりと心情を吐露した途端、ジョンシンの動きがぴたりと止まった。女性との出会いに苦労したことがないと自負しているのに、よもや同性に告白する日が来ようとは。こんなイレギュラーな事態を誰が想像しただろうか。つられてしまった感は否めないものの、不思議と後悔はしていない。己の気持ちを初めて言葉にしたことで...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 104

    いよいよ暮れも押し迫ったその日は、朝からずっと雨だった。午後十時半を過ぎた今も尚、静かに降り続けているのが飲食店等のネオンサインの煌めきとともに、下ろされたブラインドの隙間から確認できる。酔客で賑わう繁華街の一角にある青龍組の事務所内は決行を目前に控え、いつになく空気がピンと張り詰めていた。組員たちが慌ただしく出入りする中、ジョンヒョンは装備品一式が整然と保管されている部屋でひとり黙々と身支度を整...

  • その男、不遜につき 30

    なんとなく、ひと呼吸置いた方がいいような気がして、ヨンファはさりげなく提案してみた。寒かったのもあるし、ジョンシンと真摯に向き合いたいとごく自然に思えたからだ。決して、うやむやにするつもりではない。「お前の淹れたコーヒーって、冗談抜きで美味いんだよな」リップサービスでも何でもなく、日頃から思っていることを素直に言うと、腰に巻きついていた腕からすっと力が抜けるのがわかった。ほぼ同時に、上から重ねてい...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 103

    どこか心地よい温もりと重みを感じて、微睡みの中を彷徨っていたヨンファは唐突にふっと眠りから覚めた。うっすらと瞼を開くと、焦点が定まらない目に見慣れないフローリングの床が映る。間接照明がかすかに灯る中、枕に顔を埋め、横向きで寝ていたヨンファはぼんやりした頭で何度か瞬いた。「……………」暗めに調節されたベッドサイドのライト、部屋を包み込む静謐な空気、さらりとしたシルクサテンの感触。ひとつひとつをおぼろげに...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 102

    情欲の滲んだ眼差しを向けられるだけで、まるで魔法をかけられたみたいに全身が火照ってくる。どうしようもない衝動に駆られたヨンファは、上になった愛しい男を迎えるように刺青が彫られた広い背中に腕を回した。熱を帯びた硬い筋肉だけでなく、のしかかってくる重みまでもがたまらなく心地よく感じ、静かに目を閉じる。明確な意図を持った手のひらに腰から太腿のラインをやんわりと撫でられて、ヨンファはびくんと首を仰け反らせ...

  • その男、不遜につき 29

    かなり強引ともいえる態度で連行されたヨンファは、自動的にライトが点った玄関に押し込まれた。パタンとドアが閉まったのとほぼ同時に施錠する音が聞こえ、これはすぐには帰れないだろうなと結論づける。できるだけ波風を立てずに、どのようにしてジョンシンを宥めればいいか――。知らぬ間に配慮している自分に対し、なんでこっちが折れなきゃいけないんだと思わないでもないが、大人げない気がしてぐっと言葉を吞み込んだ。そうだ...

  • 決まりました Part2

    ついこの間、年が明けたばかりだったのに、もう二月末ですね。今年はいつもより月日が早く経つような気がします。さて、私事で恐縮ですが、次女の受験がすべて終わりまして、行き先が決まりました。昨春、新型コロナで学校と塾が数ヶ月休校になった時はどうなることかと思いましたが、東京二校、関西二校にご縁をいただき、長女と同じ東京に送り出すことになりました。嬉しいのと同時に気が抜けてしまい、何だか憑き物が落ちたよう...

  • その男、不遜につき 28

    誤解を招くようなチャニョルの物言いに、瞠目したままヨンファを見つめていたジョンシンの顔色が一変した。信じられないことを聞いたように漆黒の双眸をきつく眇めたかと思うと、瞬時に剣呑な気配を漂わせる。露骨なまでにわかりやすく渋面を作った男がつかつかと脇目も振らず真っすぐに詰め寄ってくるのがわかり、まるで時間が止まったように立ち竦んでいたヨンファはぎくりと不自然に固まった。「こいつと飲むとは一言も聞いてな...

  • お久しぶりです

    冬真っ只中ですが、お変わりありませんか?前回からかなり間が空いてしまいました。まったく更新していなかったにもかかわらずご訪問下さり、ポチポチと拍手ボタンを押して下さってありがとうございました。とても有難く嬉しく思いました。お待たせしてごめんなさい。次女の受験が終われば、多少はまったりのんびり過ごせるはずなのですが、もうじき本番なので、まだ当分気を揉む日々が続きそうです。極力平常心でありたいなと、フ...

  • その男、不遜につき 27

    ビジネスシーンでは、取引先をもてなすという意味合いから、接待をする時とされる時がある。そのため、縦社会に従って同席するのは業務の一環と割り切るしかない。上司の計らいもあって、珍しく定時で仕事を切り上げたヨンファは先輩ディーラーとともに、指定されたW証券との会食場所へと向かった。重要な取引先であれば、日頃の感謝の意を形にして表す絶好の機会なのだろう。リラックスした雰囲気の中で親睦を深めることができ、...

  • その男、不遜につき 26

    金曜日に差しかかると、仕事の疲労がピークに達しているのが常だ。しかし、その日はいつにもまして寝覚めがよく、頭と気分がすっきりしていた。まだ明けきらぬ暁闇の空の下、出勤途中に立ち寄ったコンビニエンスストアの駐車場でエンジンをかけたまま待つこと三分。煌々と明るい店内から、その要因であるヨンファが出てきた。整った容貌によく似合う細身のデザインスーツを身に纏い、手にレジ袋を提げている。なまじ見場がいいだけ...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 101

    突如、ジョンヒョンが心の内を明かすように語り出し、広々とした開放的なリビングスペースはこれまでとは違う雰囲気になっていた。眦の切れ上がった双眸は過去を振り返るようにわずかに細められ、固まったまま動けずにいるヨンファをどう思ったのか、こちらを真っすぐに見据えながら低く抑えたような口調で続ける。「ヨンファは俺に純粋な好意を寄せてくれていたんだろうが、俺が抱いていたのはそんな綺麗なもんじゃない。後ろ暗く...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 100

    ジョンヒョンがジョン家の屋敷に連れられてきたのは、ヨンファが小学三年生の七月のことだった。見上げた空は雲ひとつなく青く澄んでいて、手入れの行き届いた広大な庭園に美しく咲き誇るムグンファにも強い日差しが照りつけていたのを、ヨンファは今もなお鮮明に覚えている。よく晴れたその日はちょうど日曜日だったため、朝から妙にそわそわしてしまい、ジョンヒョンと顔を合わせるまでずっと落ち着かない気分で過ごしたものだ。...

  • その男、不遜につき 25

    「ジョン君、ちょっといいかね?」新年を迎えて、初めての週明けの月曜日。会議室で定例の朝ミーティングを終え、書類を手にしたヨンファがディーリングルーム内の自席に向かおうとした時、ふいに背後から名指しで呼び止められた。振り返った先には直属の上司である資金証券課長のアンの姿があり、為替チームのメンバーたちと立ったまま話し込んでいたらしく、輪から離れてこちらに近づいてくる。あと三十分で株式市場の前場が開く...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 99

    「好きなように寛いだらいい」とジョンヒョンに勧められるままに、ボートネックニットにジーンズというラフな服装のヨンファは、光が反射して鏡のようになった窓辺に立っていた。大きな窓ガラスに顔を寄せ、眼下の美しい夜景を眺めているだけで不思議と無心になれる。どのくらいそうしていただろうか。「ヨンファ、ちょうど飲み頃だと思うぞ」ふいに背後からかかった声で我に返り、「ああ」と反射的に答えながら振り返ると、着替え...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 98

    ジョンヒョンが裏口のドアを開けて建物から出るなり、外の冷気がすうっと入ってきて、あとに続いていたヨンファの頬を撫でた。咄嗟にコートの襟に巻きつけたマフラーに顔を埋めたものの、温まっていた身体がぶるっと震える。午前零時を回ったマンション周辺はしんとした静寂に包まれており、聞こえるのはふたりの足音だけだった。幹線道路から外れた場所に位置しているため、昼夜を問わず車の通りが少ないのだ。美しい星々が瞬いて...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 97

    「へえ、丸々ひとつか……。これはまた、タイムリーな差し入れだな」経緯を説明しながらヨンファが冷蔵庫からホールケーキを取り出すと、脱いだ上着をダイニングチェアの背凭れにかけていたジョンヒョンは意外そうに目を瞠った。「そうなんだ。こっちは当たり前のことをしているだけなのに、その気持ちがとても有難いなって思うよ。ひとりでは到底食べきれない量だから、ヒョニが来てくれてよかった」仕立てのいいロングコートを身に...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 96

    「ヨンファ先生、患者さんは以上で終了です」自分の父親くらいの年配の患者が頭を下げて診察室から出ていくのを見送ったところで、受付カウンターにいたシニョンから声がかかった。デスクの上に次の患者のカルテが置かれていないことを確認し、「わかりました」と答えたヨンファは手許のカルテに診察結果等の所見を詳細に書き込む。「すみません、これをお願いします」数分後に記入し終えたカルテをシニョンに手渡すと、途端に白衣...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 95

    夏休みが短い分、一ヶ月以上ある長い冬休みは、小学生にとってたまらなく嬉しいものだ。しかしながら、日数に比例して学校の宿題の量が半端なく多い上に、学習塾の冬期講習会に通っていたヨンファはほぼ勉強漬けの毎日を送っていた。その日も午後四時前にすべての授業が終わり、屋敷に帰ってきたのは五時近くだった。組員たちの出迎えを受けたヨンファは、テキストやノート類でずっしりと重いリュックをまず一階の自室に置きに行き...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 94

    まるで悪い夢でも見ているようだった。どうやら、よかれと思ってしたことが逆に仇となってしまったらしい。ドラマのようなあり得ない展開に、どうしていつもこうなるんだ……、とヨンファは頭を抱えたくなった。自分のいないところでジョンシンが組員たちとそんな会話に興じ、しかも、その場にいたジョンヒョンも一部始終を見聞きしていたとは――。思いもよらない事実を知って絶句したヨンファは、これまた面倒なことになったものだと...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 93

    躊躇いがちにスマートフォンの画面を見せられた途端、予想もしない人物の写真に虚を衝かれ、一気に胸糞が悪くなった。そして、ヨンファが言いにくそうにしていた理由はこれかと、ジョンヒョンは瞬時に理解する。仕事を早く済ませた分、いつもよりふたりきりの濃密な時間を堪能できると楽しみにしていたにもかかわらず、あの男のせいでそんな雰囲気ではなくなってしまった。再就職先がキム医師の診療所だとヨンファから告げられた時...

  • その男、不遜につき 24

    翌日の土曜日、自宅のローテーブルで仕事をしていると、ふいに玄関のドアが開閉する音がした。マウスに手を乗せたままノートパソコンの画面を注視していたヨンファは、反射的にぱっと顔を上げる。インターホンを鳴らさずに入ってくる人間はヨンファの知る限り、この世にひとりしかいない。続く足音に誘われるように目を向ければ、お馴染みの長身が勝手知ったるとばかりに部屋に上がり込んできた。「そろそろメシにするか? いつで...

  • その男、不遜につき 23

    金曜日の午後七時過ぎ、仕事を終えたヨンファは帰る道すがら、幹線道路沿いのショッピングモールへ立ち寄った。明日はクリスマスイブということもあって、さすがにどこのフロアもクリスマス商戦真っ只中で人通りが絶えない。セミオーダースーツの上にステンカラーコートを纏ったヨンファは、上りのエスカレーターを降りると、脇目も振らずに大型書店へと向かった。ずらりと並べられた書籍をいくらか立ち読みしたあとで目当ての新刊...

  • その男、不遜につき 22

    一度でも触れてしまえば、もう歯止めなんか利くはずがなかった。ましてや、こんな絶好のシチュエーションにありながら、ただ指を咥えて見ているだけで終わるようなヘタレ野郎でもない。そんなもったいないことができるかと、頭の中がすっかり不埒な感情に支配されているジョンシンは腕の中にヨンファを囲い込んだまま、無防備な耳許から首筋にかけてキスを降らした。「――、っ……ん」その途端、わずかに肩を竦めて、喘ぐような吐息が...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 92

    「いや、別に何も隠していない」「――………」冷静な指摘を気まずく思いながら表向きは平然と返したものの、ジョンヒョンは無言のまま胡乱そうにこちらを眺めている。納得していないことは明白だ。どうして感づかれたのかと、内心動揺しているヨンファを近すぎる距離からただじっと見据えられて、まるで蛇に睨まれた蛙のような気分だった。「子供の頃から何年一緒に暮らしていたと思っているんだ。他の奴は騙せても、俺には通用しない...

  • その男、不遜につき 21

    カーテンを開け放った窓から差し込む日差しで、唐突にふっと覚醒する。「――………」うっすらと瞼を開いたジョンシンは、自分がどこにいるのか一瞬わからなかった。眩しい陽光に思わず目を眇めて、片手で顔を覆ったところでようやく思考がクリアになる。ぼんやりと視線を巡らせながら寝返りを打ち、すぐ隣で眠っていたはずのヨンファがいないことに気づいた途端、がばっとベッドから身を起こした。「―――っ!」夜中に一度目が覚めた時、...

  • その男、不遜につき 20

    ダウンライトに照らされた外廊下に潮が引いたように静寂が訪れ、自分が何を言ったのか今さらのように認識した。そして、縋るようにジョンシンのコートを掴んでいたことにも。無意識に凭れかかっていた大柄な体躯から離れ、そろりと振り返ると、ジョンシンが驚いた顔でヨンファを見下ろしていた。急に黙り込んだ男に、迷惑だっただろうかと居たたまれなくなる。心が搔き乱されている状態でアルコールまで加わったからか、まともに思...

  • その男、不遜につき 19

    あらかじめ飲むことを想定して、ヨンファは仕事が終わってから愛車を自宅アパートの駐車場に一旦置きに戻り、その足で地下鉄の最寄り駅から二駅先の繁華街にある焼肉店に向かった。昼休みにジョンシンと連絡を取り、直接店内で落ち合うことにしていたのだ。派手なネオンサインに彩られた街並みはクリスマスシーズンに突入しているからか、煌びやかなイルミネーションによってライトアップされた街路樹や沿道の建物の外観が幻想的な...

  • 明けましておめでとうございます

    長かった正月休みも、今日を入れて残り二日となりました。大掃除をし、久々に家族四人でショッピングと外食を楽しみ、義実家と実家へ行き、ザルの実姉に付き合って酒を飲んだせいで二日酔いになり、そして、帰省していた長女は明日東京へ戻ります。いつものごとくあっという間の連休ですが、いろいろとリフレッシュできているお陰で心が軽くなったような気がします。年末年始にチャンミンとヒチョルの熱愛報道が出て、「これがジョ...

  • ご挨拶

    8月28日から四ヶ月が経ちました。あの日を境に、心の中にぽっかりと空いてしまった穴は、いまだに塞がれることなくそのままです。過去の画像や動画を見て何とかテンションを上げてみても、それは一時的にしかすぎず、また元に戻ってしまいます。ジョンヒョンを好きだという想いを一体どこに持っていけばいいのか。妄想にぶつけようにも、どうしても現実に引きずられてしまい、自分が思っていた以上に力が出ない中、話の続きを書...

  • その男、不遜につき 18

    為替ディーラーの朝は早い。十二月上旬の金曜日、いつものように午前六時十五分を回ったのを腕時計で確認したジョンシンは、スーツの上に厚手のロングコートを着込んで自宅を出た。日の出の時刻よりも一時間以上早いだけあって、共有スペースの通路からちらりと視界に入った空は完全に真っ暗だ。たとえこちらが深夜でも、時差の関係で海外マーケットは常に動き続けている。したがって、七時に出社したら、まずマーケットや経済情勢...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 91

    テーブルに並べた料理をすべて平らげ、ソファでゆったりと寛いでいるジョンヒョンに食後のコーヒーをソーサーごと手渡したタイミングで、「それはそうと、話というのは?」と待ち構えていたように尋ねられた。ラフなルームウェア姿のヨンファは男の傍らに腰を下ろして、二杯目のマグカップの中身に口をつける。最近はインスタントではなくドリッパーで抽出するようにしているのだが、淹れたてのコーヒーは香りも含めてリラックス効...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 90

    「実は、まだ晩メシを食っていないんだが……」連絡があった通り、午後十時を少し回った頃に冷たい外気を纏ってやってきたジョンヒョンは、出迎えたヨンファの顔を見るなり開口一番にそう言った。「え……、食べていなかったのか?」「ちょっと立て込んでいたから、摂る時間がなかった。何か腹に入れるようなもんはあるか?」ダークスーツの上に高級感のあるチャコールのカシミアコートを一分の隙もなく着こなした男を奥へと通して、「...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 89

    今度一緒に飲みに行こうという話が診療所で出た数日後、アドレスを交換したばかりのキムから連絡があった。『土曜日の午後六時はどうだろう?』との提案に対してヨンファも即了承し、楽しみにしていたその前々日の夜のことだ。不意に着信音が鳴り、液晶画面に表示されたキムの名前を見たのと同時にタップしてスマートフォンを耳に当てると、聞き覚えのある女性の声がした。『あの……ジョンさんでしょうか?』「はい、そうです。ええ...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 88

    こちらの心情を読み取ったかのように飄々とした声でさらりと言われ、思わず長身を見上げた。発熱で常ほど鋭くない漆黒の双眸としばし見つめ合ってしまい、ジョンシンは「なっ?」とヨンファに視線を据えたまま唇の端を上げる。「でも、いいのか? 何時になるか分からないぞ」「いいって。俺、仕事の合間とか、ちょこちょこ寄らせてもらってるからさ。もう顔パスですもんね、先生」訳知り顔とともに最後の同意を求めるような台詞は...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 87

    再びふたりきりになった第三診察室で、事態の急速な展開に呆気に取られていたヨンファは、困惑しながらも気を取り直してジョンシンに問いかけてみる。「――ということになってしまったが……、俺が診察するのでも構わないか?」「超大歓迎」大きく目を見開いていた本人はすでにそのつもりなのか、短く即答した。その言い方が妙に可笑しくて、肩の力が少し抜けたヨンファは脱いだダウンジャケットをベッド横の脱衣カゴに置き、白熱灯の...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 86

    音楽やラジオをかけていない車中はエンジン音とロードノイズが聞こえるのみで、気まずいくらいに静かだった。バックミラー越しに確認すると、後部座席に沈み込んでいるジョンシンは瞼を閉じて、一言も発さずに時折息苦しそうに溜息をついている。『俺もアンタのこと……同じように思えるのはいつなんだろうな……』先ほどのジョンシンの力ない呟きは、しこりとしてヨンファの心の中に残っていた。丸ごと受け止められないのに、半端な気...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 85

    ほどなくして合流した幹線道路は、混雑する時間帯にはまだ間があるせいか、比較的空いていた。途中、目についたドラッグストアに立ち寄り、ヨンファはサージカルマスク、冷却シート、スポーツドリンクを購入する。ワクチンはすでに打っているので、仮にジョンシンがインフルエンザだったとしても、自分が感染する確率は低いだろう。二十分ほど車を走らせると、目を凝らすまでもなく、じきにフロントガラスの向こうにジョンシンが暮...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 84

    午前中はどの診療科も外来患者で込み合う受付カウンターや待合ロビーが、夕刻近くになると人影がまばらになる。その日、ヨンファは午後から差し入れを持って、元勤務先だったS大学附属病院を訪れていた。退職の意思表示をしたのが突然だったため、かつて受け持っていた患者やその他諸々の件で内科医局へ赴き、できる限りフォローしているのだ。すべての用事を済ませ、帰途につこうと病院の正面玄関から外に出た途端、ヨンファは小...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 83

    かすかな物音が聞こえたような気がして、唐突にふっと目が覚めた。周囲をほのかに照らしているベッドサイドライトのやさしい光が視界に入り、ミニョクは自分がベッドに横たわっていることに気づく。どうやら本を読んでいるうちにいつの間にか寝入ってしまったせいで、消し損ねたらしい。息を殺してじっと耳を澄ませると、少し距離があるものの、間違いなく玄関の方から音がした。――ヒョニヒョンが帰ってきたんだ……。ようやく帰宅し...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 82

    腰から下が妙に重怠くて、力が入らない――。そう自覚していたのに、ベッドから立ち上がろうとした途端、案の定、膝ががくんと崩れてフローリングの上にへなへなと座り込む。動けないヨンファに驚いて、すかさず駆け寄ってきたジョンヒョンに抱き上げられてバスルームに連れていかれたのは二十分ほど前だった。ふらつかないように力強い腕にしっかりと支えられたまま、泡立てたスポンジで全身を素早く擦り、金色に染められた髪の毛を...

  • 今後について

    昨日、ジョンヒョンの脱退が正式に発表されました。あまりにも突然すぎて、言葉が出ないです…。こんな終わり方ってあるでしょうか。私の中では何も変わっていません。何も。好きなものは好き。ただ、ジョンヒョンがいないのに、これまで同様、彼を書き続けていいものか。これを機に、書くこと自体をすっぱりやめるべきか。昨日からずっと自問自答を繰り返していました。そんな中、今日、ある方から心温まるコメントをいただきまし...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 81

    「あっ――……」先端を埋め込んだ途端、うつ伏せのヨンファが艶めいた喘ぎを漏らす。反射的に強張る痩身にできるだけ負担がかからないようにと、ジョンヒョンは無理のない力で狭い箇所をじりじりと押し広げながら腰を進めた。最愛の人の中に己自身を沈めていく瞬間は、何度経験してもたまらない。ジョンヒョンの形に合わせて開かれたまま、待ち焦がれていたのかと思うほどの貪欲さで、熱く湿った粘膜に迎えられるように奥へ奥へと呑み...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 80

    すぐに抵抗するかと思ったものの、吐精の余韻がいまだ覚めやらぬヨンファはどこかぼんやりとしているようだった。ベッドをほのかに浮き上がらせている間接照明のオレンジ色の光が、まだよく状況が呑み込めないまま、ジョンヒョンに誘導される形で四つん這いになった裸身をひどく艶めかしく照らしている。惜しげもなく晒された背中から腰のしなやかなライン、小ぶりな臀部、すらりとした脚があまりにも扇情的すぎて、ジョンヒョンは...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 79

    別に他意があるわけではなく、反射的な行動なのだろう。こちらの勢いに怯んだヨンファは咄嗟に腕を突っぱねてきたが、覆いかぶさるジョンヒョンを押し退けるほどの力は入らなかったようだ。本気で抗っていないと判断し、体重をかけながら華奢な両手首を掴んでシーツの上に縫い留めた。音もなく乱れた金髪が、ひどく目に眩しい。「ヒョ、ニ――……ん、ぅっ……」なまめかしい裸身を完全に組み敷いて逃げ道を奪った上で、何か言いかけた唇...

  • まったりな日々

    こんばんは。毎日蒸し暑いですね。カラッとしているならまだしも、湿気がどうも私の身体に合わないようで、この時期はダルダルになっちゃいます。こちらはそろそろ梅雨明けするようなので、いよいよ本格的な夏が始まりますね。長女が東京へ行き、次女も学校と塾でほとんど自宅にいないので、まったりというか、二人が小学生の頃に比べれば、今の生活はまるで天国のようです。自分の時間が持てるのは有難いことだなと、しみじみ感じ...

  • その男、不遜につき 17

    ストレートな誘いにヨンファは瞬きすら忘れて、目の前の男を呆然と見返した。すぐに返答できなかったのは、触れ合った箇所からワイシャツ越しに伝わってくるジョンシンの体温がやけに熱く感じられたからだ。まるでこちらの理性を根こそぎ奪おうと、ダイレクトに訴えかけてきているのが分かる。性欲が常に枯渇しているのかと呆れてしまうほど隙あらば求めてくるジョンシンは、ヨンファを食い入るように見つめたまま答えを待っていた...

  • その男、不遜につき 16

    定時を一時間過ぎた頃、ヨンファは事前に話をしていた通りに、グァンヒからイベリコ豚のスペアリブを受け取った。その時点では仕事をやり残していため、給湯室の冷蔵庫に一時的に入れておき、それから三十分ほどして退社したのだ。愛車を運転して高層アパートに帰り着いたヨンファは自分の部屋を素通りし、ジョンシンの在宅確認も兼ねて隣のインターホンを押してみた。すぐさまドアが開き、「よぉ」と長身の男が奥からのっそりと顔...

  • その男、不遜につき 15

    ここ最近ずっと、自分でも気づかぬままに溜息ばかりついている。自宅マンションでひとりきりの時はもちろんのこと、仕事の合間でさえついこぼれそうになるのを慌てて噛み殺す始末だ。理由については決して納得できるわけではないが、ヨンファはちゃんと理解していた。奇妙だと思っていた感情の正体が自分の中で明確な形として現れたのと同時に、はっきりとした答えが出てしまったのだ。もともとは同じ中高一貫男子校の先輩後輩だっ...

  • その男、不遜につき 14

    即了承したジョンシンは促されるままに、スマートな身のこなしで先に立って歩くグンソクのあとに続いた。ふたりが向かったコミュニケーションスペースはランチタイムやちょっとした休憩時だけでなく、社内外の相手との打ち合わせやミーティングなど、様々な目的で使用している場所だ。広々とした空間に複数のテーブルと椅子が並べられていて、コーナーには自動販売機や背の高い観葉植物が見栄えよく配置されていた。足を踏み入れる...

  • その男、不遜につき 13

    第4四半期の十月は、主にブラックマンデーなど、世界の金融マーケットを大混乱に陥れた出来事が起きたのを見ても分かるように、アメリカ株式市場が統計的に分析してもっとも暴落することの多い月だと言われている。そのため、外国為替市場関係者は皆一様に警戒を強めて、企業の決算発表ニュースなどの動向に注視していた。為替ディーラーの肩書を持つジョンシンも、そのうちのひとりだ。十一時半になり、前場と呼ばれる午前中の取...

  • BLUE MOON 5

    奇妙で不可解な出来事に遭遇して以来、ヨンファは周囲に対して常に注意を払うようになっていた。どこからか誰かに見られているような感覚は相変わらず付き纏い、ひとりきりの時はもちろんのこと、通学途中や大学構内など、友人たちと行動をともにしていてもそうだ。もっとも警戒心が解けないのは自宅アパートだが、ヒョニという男が結界を張ったのが功を奏しているのか、ついビクついてしまうヨンファを嘲笑うかのように、今のとこ...

  • BLUE MOON 4

    なんの前置きもなく、にわかに信じがたい話を聞かされ、ヨンファは激しく混乱していた。結界、輪廻転生、成均館……。日頃、聞き慣れない言葉をどう受け止めればいいのか、まるで分からない。ヨンファにはまったく意味不明なことばかりで、頭の中は疑問符だらけだ。そういうのは本やドラマの中で作り上げられた世界であって、突然、自分の身に降りかかるなんて考えたことすらなかった。「俺が二十歳になるのを待っていたって、どうい...

  • BLUE MOON 3

    指摘された通りに結界とやらが四方に張り巡らされているのを目視したヨンファは瞬間、黒目がちの澄んだ瞳を大きく瞠った。反射的に数歩あとずさってしまったのは、とてつもない恐怖を感じて竦み上がったせいだ。自分の意思とは関係なく、勝手に未知の世界に迷い込んだ気分だった。「ここから……出られるのか?」「張るのも破るのも、造作ない」「――………」いとも簡単そうに言われたが、完全に理解の範疇を超えていて到底頭が追いつか...

  • BLUE MOON 2

    「………っ」真正面から初めて男の顔を見るなり、ヨンファは驚愕のあまり言葉を失った。自分でもわけの分からない状況がすぐに呑み込めず、その場に立ち尽くしたまま、もろにぶつかった冷ややかな眼差しをただ呆然と見返す。――これは……、一体どういうことなんだ……!?そんな馬鹿な……、と先ほどから信じられない光景の数々を目の当たりにしてきたヨンファは、底知れぬ恐怖を肌で感じていた。目の前で憮然とした表情を浮かべている男は...

  • 気ままなFisherman 後編

    「もうそろそろいいかな」そう言いながら、ダイニングテーブルに置かれた土鍋の蓋をジョンヒョンがそろりと開けると、白い湯気がふわっと立ち上った。味噌とにんにくの何ともたまらない匂いが、一段と食欲をそそる。目の前でメウンタンが美味しそうにぐつぐつと煮立っているのを見るだけで空っぽの胃が刺激され、まるでパブロフの犬みたいにヨンファの腹がぐぅーっと鳴った。途端に、向かい合って座っているジョンヒョンがぶはっと...

  • 気ままなFisherman 前編

    『Big Baby Returns』 続編連日慌ただしく駆けずり回っていたカムバックが終了し、ようやく訪れた貴重なオフ日。ジョン・ヨンファはスイッチが切れたようにリビングの黒い革張りのソファの定位置に寝転がり、大好きな格闘技番組を観るなど、まったりと過ごしていた。日頃の睡眠不足がたたってか、テレビ画面に向けていた目がとろんとしかけた時、不意にカカオトークの着信音が鳴る。「――ん?」肌触りのいいクッションに頬を埋めて...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 78

    柔らかい感触がじかに伝わってきた瞬間、全身の血が沸騰するかと思った。驚くべきことに、両膝の間に顔を伏せたヨンファが手で包み込んだままのジョンヒョンの先端にそっと唇を押し当てたのだ。普段の清廉な姿からは想像できない行動をとられ、あり得ないほどの衝撃が身体中を駆け巡った。「お、い……、ヨンファ……っ」意表を突かれたジョンヒョンが慌てて目の前の細い顎を指先で捉えれば、不満そうにキッと視線を上げて、意地になっ...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 77

    視界に入った光景がまるでスローモーションのように実際よりゆっくりとした動作に見えたのはほんの一瞬で、そのほっそりとした手の行方を目で追う間もなかった。「なんか、見ていて辛そうだったから……」半身を起こしたヨンファは、ベッドの上に胡坐をかく格好で座り込んでいたジョンヒョンの下肢におずおずと触れてくる。途端に、痺れるような感覚が腰から湧き上がってきて、思わず息を呑んだ。「………っ」猛々しく張り詰めているジ...

  • 蒼き運命 -アオキサダメ- 76

    「あっ、待っ……、ベルトが……」普段よりも上擦ったような甘さが混じった声で訴えかけられ、我に返ったジョンヒョンはヨンファから一旦身を離した。恋人の身体を貪ることに夢中になるあまり、指摘されてようやく気づいたのだ。俺としたことが……、と慌てて傍らに両膝をついたジョンヒョンは、荒々しくバックルを外してベルトを抜き取った。続いて、いつにない性急さで邪魔なスラックスとボクサーブリーフをベッド下へ脱ぎ落とす。窮屈...

  • 止まない雨 4 Last

    重厚なエンジン音とともに黒塗りのBMW7シリーズが走り去り、ひとりになった途端、深い闇に溶け込んでいたジョンヒョンは故意に歩調を緩めた。自堕落に両手をスラックスのポケットに突っ込み、頭上から静かに降り注ぐ雨をひたすらその身に浴びる。気休めにしかならないと分かっていても、自分の中の荒れ狂う感情を鎮めずにはいられなかったのだ。躊躇うことなく傘を差さずに雨の中を歩くのは、幼少の頃以来だろうか。当時は、ず...

  • 止まない雨 3

    長年恋焦がれている相手は極道の世界と決別するかのように、実にあっさりと屋敷を去っていった。『もう会うこともないだろうけど……』という言葉通り、ヨンファとはそれきり一度も顔を合わせていない。彼と袂を分かったあの瞬間から心にぽっかりと穴が空き、ジョンヒョンは底知れぬ喪失感に襲われた。それでも、こちらの事情などお構いなしに日常は繰り返される。まるで何事もなかったみたいに、ジョンヒョンを取り巻く環境は待った...

  • 止まない雨 2

    六月に入ったばかりのその日は、朝から冷たい雨が降りしきっていた。長い縁側に面した総檜造りの廊下を歩いていたジョンヒョンは、何かに引き寄せられるようにほぼ全面ガラス張りの大きな窓に目を向ける。そして、わずかに眉を寄せた。雨空が灰色の厚い雲に覆われているせいで、周囲はどことなく薄暗い。まさに、今の自分の心情を表わしたような天気だな……、とジョンヒョンは半ば投げやりに、どこか他人事のように思ってしまった。...

  • 止まない雨 1

    六月下旬の金曜日。深い闇に包まれた真夜中、三人の男を乗せた黒いBMW7シリーズは活気のある雑然とした明洞の街並みを抜け、江南区清潭洞にあるタワーマンションへと向かっていた。先ほどまでの煌びやかなネオンに彩られた大通りとは対照的に、高層ビル群に囲まれた幹線道路をひた走っているのが、見なくてもわずかな車体の振動から分かる。「あーあ。また降ってきやがった」静まり返っていた車中に突如、うんざりしたような低...

  • 静観しています

    皆さんと同じように突然のことに動揺し、心穏やかではいられない時間を過ごしております。「蒼き運命」の続きを書いていましたが、内容が内容だけに更新すべきではないと今は書く手も止まり、動向を見守っている状況です。ただ、このような報道がされても、彼に対する気持ちに変わりはありません。今後どうなるのか、近日中に答えが出るのでしょうか。四人が出した結論は粛々と受け止め、場合によっては、このブログの在り方につい...

  • Manito 26 Last

    突き抜けるような快晴の空は、気持ちがいいくらい青く澄み渡っていた。高度一万メートル上空の窓の外に目を向けていると、機内にキャビンアテンダントのアナウンスが流れ、徐々に機体が降下していくのが分かる。複数の仕事を滞りなく終えたヨンファはマネージャーと連れ立って、予定通りに香港国際空港からジャカルタ行きの便に搭乗していたのだ。高度が下がるにつれ、眼下にタンジュンプリオク港やアンチョール海岸、そして、中心...

  • 決まりました

    私事ですが、長女の受験が終わり、結果もすべて出揃いました。こんなに気を揉んだ一ヶ月間は、私にとって初めてかもしれません。発表まで日数がかかり、つい弱気になって上記画像のような心理状態に陥ったりもしましたが、有難いことにいろいろとご縁をいただきまして、その中には東京と関西それぞれの本命も含まれていました。どちらにするか本人もすぐには決めきれず、東京はDの母校、京都は義兄の母校でもあるため二人から話を...

  • Manito 25

    ヨンファと無事に元の鞘に収まった日の三日後、ジョンシンは機上の人となっていた。他のメンバーやスタッフとともにほぼ定刻通りに仁川国際空港を出発し、ライブが開催されるインドネシア共和国の首都ジャカルタへと向かっているところだ。アジアツアーでは三都市目にあたり、約七時間のフライトでスカルノ・ハッタ国際空港に到着する。旅行客らしき軽装の個人やグループが目立つものの、平日だからか、機内は六割程度の搭乗率でま...

  • Manito 24

    遠く霞んでいた意識が何かに引っ張られるように覚醒し、小さく身じろぎをしたヨンファはふっと瞼を開ける。いきなり視界いっぱいに映ったのは、見慣れた白い天井だった。どうやら、いつの間にか寝入ってしまったらしい。――夢……だったのだろうか……。ぼんやりと数度瞬いたのちにゆっくりと首を動かし、隣に短い黒髪の男を見つけて目を瞠った。「……、っ――」そうだ――思い出した。夢でも幻でもないのだ。停止していた思考が巡り出したの...

  • Manito 23

    薄く開いた唇からこぼれたのは、これまで聞いたことがないようなか細い掠れ声だった。恐らく、本心をもっと引き出そうとしたこちらの台詞につられて、無意識に口をついて出てしまったのだろう。まるでこらえていたものが堰を切って溢れ出したかのようで、切々と訴えかけてくる響きに心臓が止まるかと思った。加えて、上目遣いで縋るように見つめてくるヨンファは子どもみたいな無防備な貌をしていて、ジョンシンがよく知るどの彼と...

  • Manito 22

    「どうか気を悪くしないで聞いてほしい……」そう前置きしたヨンファの表情はそれまでとは異なり、わずかに緊張の色を滲ませていた。どことなく落ち着かないようで、視線は所在なく揺れ、ゆったりとしたスウェットパンツに包まれた両脚を一度伸ばしてから片膝だけ立てる。その様子を、肩を並べて座り込んでいるジョンシンはただ静かに眺めていた。「いつかやめないといけないと思ったのは、お前と初めて寝た日だ」「………っ」もぞもぞ...

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